魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~   作:G-3X

206 / 233
またしても、早めに書けたので続きの投稿です。

今回も楽しんでいただけたら嬉しいです。

ではでは。


ライダー戦記偏15

「……魔法石ですか?」

 

「はい。フィリップ君が調べた結果ですと、次の行き先の時結びの鎖は、魔法石と呼ばれる特別な石だそうですよ」

 

何とかワームの包囲網を抜け出して、デンライナーに辿り着く事が出来た俺は、オーナーから次の目的地で守るべき時結びの鎖についての説明を聞いていた。

 

何処のファンタジーの世界の話だと聞きたくはあるが、魔法使いという存在は、遥か昔から存在しているらしい。

 

そして今回の時結びの鎖とされる、魔法石とは、その名の通り魔法の力が込められた石であり、オーナーが言う魔法使いとは、この魔法石を加工する事で、俺が想像する様な魔法を行使する触媒とするのだそうだ。

 

ただ、ここで一つ大きな問題が浮上する。

 

これまで楔が場所であったり、メダルだったり、或いは人だったりと様々なものであったが、今回は魔法石などと、ファンタジーな物質だったり、かなりバラエティーに富んでいる訳だが、今まではすぐに所在を特定する事が出来ていた。

 

場所はその場所の他に同じ場所は存在しないし、メダルの時も、世界に一つしか存在しない特別な物であった。

 

人物だった時も、如月さんという個人であり、特定は難しくなかったのだが、今回の魔法石という物質。

 

確かに希少な物質である事には変わり無いのだが、幾つも世界中に存在している。

 

その中から一つだけ、楔となっている魔法石を探すのは、かなり難しい上に、下手をしたら誰かの手によって魔法を使う為の触媒に加工されていたりするかも知れない。

 

もしそうなっていたら、探し出すのはかなりの困難となるだろう。

 

それこそ、砂漠の中から一粒の砂を見つけ出す程の難易度である。

 

しかし、それもフィリップは想定していたのであろう。

 

オーナーは、フィリップ君から聞いていた目的となる魔法石を探す上で、最大のヒントとなる言葉を紡ぐ。

 

「日本の都内で営業している、目立つ移動販売のドーナツ屋を探すと良いそうですよ」

 

……やけに具体的なヒントだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

着慣れないスーツのネクタイを解きながら、この世界で与えられた自分の役割について考える一人の青年、門矢《かどや》 士《つかさ》。

 

落ち着いた茶系のきっちりとした、自分の着ているスーツから、サラリーマンだろうかと予測をするが、もう一つだけ考察する材料が目の前に存在していた。

 

それは黒いアタッシュケース。

 

もしかしたら、この中にその答えのヒントがあるのかもしれない。

 

そう考えた士の行動に、迷いは無かった。

 

何の躊躇いも無く、アタッシュケースを開ける士。

 

「……何だこれ?」

 

謎のアタッシュケースの中身を見た士は、思わず声を零す。

 

それも仕方が無いだろう。

 

アタッシュケースの中に入っていたのは、光が中で乱反射しているのか妖しい輝きを放つ紫色をした半透明の石だったのだから。

 

大きさにしてみれば、大人の男の拳二つ分といったところだろうか。

 

どうしてこんな物を自分が持ってるのかは、当人である士にも知る由も無かったが、今までの経験からこれにもきっと何か意味があるのだろうと推測出来た。

 

「取り敢えず、今のうちに何か食べておくか」

 

遠くない未来に、また面倒な事態に発展するであろう事は、容易に想像出来る。

 

ならば、その前に腹ごしらえをしておくべきだろうと士は考え、特に当ても無く人通りの多い街道を選びながら進んで行く。

 

人の多いところを選んで歩いていれば、その内に適当な飯屋でも見つかるだろうという算段だったのだが、まだ小腹が空いたという程度で、そこまでガッツリと食べたいという気持ちでは無かった。

 

「ん? この匂いは……」

 

そんなところに、士の鼻腔に、甘い香りが漂ってくる。

 

匂いの先へと視線を向けるとピンクを基調としたパステル調の小型バスが停車しており、周りには簡素な作りのテーブルと椅子が幾つか設置してある。

 

そのバスの脇には大きな文字でドーナツと書かれた幟旗。

 

どうやら移動販売のドーナツ屋らしいと、士が判断するには充分な情報だ。

 

それに、小腹が空いた程度の今の自分には、これ位が丁度良いだろうという考えと、先程から鼻を擽る甘い香りの誘惑によって、士の足は自然とバスでドーナツを販売している店員へと向かう。

 

「「「ドーナツを一つ」」」

 

店員にドーナツを注文する為に発した声が、士を含め三つ程重なった。

 

それ自体は、そんなに不思議な事では無いだろう。

 

この移動販売のドーナツ屋は、それなりに繁盛しているらしく、今も設置されたベンチで談笑しながらドーナツをを食べている客らも多く視界に映っている。

 

それに自ら人通りの多い場所を選んで来たのだから、同じくあの甘い香りの誘惑に負ける者が何人も居たとしても、なんらおかしくは無い。

 

だが、それでも士は疑問に思ってしまった。

 

何故ならば、自分と重なった声のどちらもが、聞き覚えのある声だった為である。

 

まさかと思いつつも、士は視線を声のした隣へと向けた先には、士と同じく驚愕の表情を浮かべつつ此方を見ている、一人の青年と子供が居た。

 

士は思う。

 

世界は今まで広く、特に自分にとっては、永久に広がり続けるものだと考えていたのだが、こうして世界を超えた上で知人達と探すまでも出会ってしまう辺り、案外と世界は狭いのかも知れないと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうしてこうなったのだろうかと、俺は苦笑いを浮かべながら考える。

 

デンライナーで、今回守る時結びの鎖である魔法石がある世界に到着した俺は、この世界に先に来ている筈のリュウ君を探して合流するという良太郎君と二手に分かれて、メカ犬と共に、フィリップ君が残してくれたヒントである移動式のドーナツ屋を探す事にした。

 

幸いにも、この街でそのドーナツ屋は中々に有名だったらしく、道行く通行人の人達を何度か呼び止めて聞いていくと、すぐに今日は近くの広場でお店を開いているという情報を得る事が出来たので、俺とメカ犬は特に苦労する事も無く、目的地であるドーナツ屋に辿り着く事が出来たのだが……。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

『何だろうな。この状況は?』

 

買ったドーナツをテーブルの中心に供えて無言で囲む俺達、三人を見てメカ犬が率直な感想を口にする。

 

空気を読まない……いや、この場合は場の微妙な空気を変えようとして考え、発せられたのかも知れないメカ犬の台詞に、俺達はまたしても互いに視線を合わせて、苦笑いを浮かべた。

 

「えっと……お久し振りです。士さん」

 

「ああ、久し振りだな。純」

 

このまま黙っていても仕方が無いと考えて俺が挨拶をすると、士さんが返してくれた。

 

どうやら今、目の前に居る士さんは、俺とは既に出会った事がある時間軸に居る士さんの様だ。

 

「この前は、世話になった。お陰で助かったよ」

 

俺と士さんの挨拶に続いて、初めて見るイケメンな茶髪のお兄さんが、士さんに感謝の言葉を口にする。

 

「別に気にする事は無い」

 

その感謝の言葉に、士さんは何でも無いかの様に答える。

 

どうやら、このやりとりを見る限り、二人は知り合いらしい。

 

ディケイドである士さんと知り合いで、先程の言動から以前に世話になったという事は、もしかしたらこの人も……。

 

「お、そう言えば、君とは初対面だったか。俺は操真《そうま》晴人《はると》だ。晴人で良い。宜しくな」

 

「えと……俺は板橋 純って言います。それでこいつは俺の相棒で、メカ犬って言います。宜しくお願いします」

 

『マスターの相棒をしているメカ犬だ。マスター共々、宜しく頼む』

 

俺の視線に気付いたらしい、茶髪のイケメンのお兄さん改めて、晴人さんの紹介を受けて、俺もメカ犬と一緒に自己紹介を返しておく。

 

「あ、ああ。ご丁寧にどうも……変わった見た目の友達が居るんだな。純は」

 

流石に流暢に挨拶をしてきたメカ犬に対して、若干だが動揺したのか、笑顔を引き攣らせる晴人さん。

 

そんな俺達のギクシャクとした互いの紹介を前にして、士さんは一人マイペースにテーブルに鎮座するドーナツを食べ始めていた。

 

相変わらずの、順応力と言えるだろう。

 

伊達に普段から、世界を超えて旅を続けている訳ではないと言える。

 

「ところで、晴人に見て貰いたい物があるんだが」

 

士さんはドーナツを齧りながらそう言うと、黒いアタッシュケースをテーブルの上に置く。

 

何事かと思いながら、アタッシュケースを開けてみると、紫の半透明な石が入っていた。

 

「何ですかこれ?」

 

「さあな。この世界に着いて、気付いたら持ってたんだよ」

 

どうやら持ち主である士さん自身にも、これが何なのか分からない様だ。

 

考えてみれば、士さんは違う世界を訪れると同時に、その世界での役割を与えられる。

 

きっとこの石を持って何かをする事が、この世界で士さんがするべき事なのだろう。

 

でも、このタイミングで士さんが俺達の目の前に出して来た謎の石。

 

それはもしかしたら……。

 

「これって、魔法石だな」

 

この紫の石を見て、何でも無い様に答えた晴人さんの言葉に、俺の疑惑はほぼ確信へと変わる。

 

でも、それと同時に新たな疑問が一つ浮上した。

 

「あの、何で晴人さんは、この石が魔法石だって分かるんですか?」

 

「ん? ああ。そう言えばまだ純には言っていなかったな。俺は魔法使い何だよ」

 

俺の疑問に対して、何でも無い事の様に発言する晴人さんの台詞を聞き、今更ではあるが、ちょっと頭が痛くなりながらも、改めて理解する。

 

やっぱり今回の俺は、リアルでファンタジーな世界へと来てしまったのだという事に。

 

これで本物のドラゴンとか出て来たら、本当にファンタジーな世界だな、何て適当に思い付いた考えすらも新たなフラグでしか無い事を、今の俺には知る由も無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深く暗い、更に奥の森の中。

 

大きな大樹の前に、黒いローブを羽織った一人の男、ディアスは薄っすらと笑みを浮かべ、間も無く自身の悲願が果たされる時が間近に迫っている事を確信していた。

 

本来ならば、滅多な事では人が来ない筈の森に、乱入者が現れ予定外の事態が発生したのだが、計画に支障は無い。

 

「あと一つだ。あと一つの楔が覚醒すれば、世界を……全ての時間を無に帰す事が出来る」

 

この森に訪れた無礼な乱入者の犯した愚考によって、若干の不安要素はあるものの、それも修正可能な範囲であると考えるディアスにとって、その不安は杞憂でしか無いと言えるだろう。

 

その為に、最後の楔を覚醒させる為のトリガーを引く為に、事前に楔が存在する世界へと送り込んでおいた自らの分身であるコアを起動させる。

 

「哀れな世界の守人……仮面ライダーよ。貴様達の力を糧に、世界は終わり、同時に全ての悲しみも……怒りも意味無きものとなるだろう」

 

ディアスは願う。

 

憎むべき世界の終わりを。

 

そして望み、行動へと移す。

 

自身の怒りと悲しみを癒す為に……。

 

終わる事無き、戦いに身を投じる戦士達は、間も無く気付く事となるだろう。

 

世界の危機であるという、本当の意味に。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。