魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
今回も楽しんでいただけたら嬉しい限りです。
「ふんっ!」
俺はダークカブトの連続攻撃を掻い潜り、反撃を試みるが、その攻撃も相手に届く前に防がれてしまう。
通常とは違う、時間の流れの中で繰り広げられる戦いは、全くの互角であり、容易に決着はつきそうにない。
『もう残り時間が少ないジャン!?』
「分かってる!」
メカ虎に言われるまでもなく、そんな事は分かりきっている。
確かにこのままでは、勝負が着きそうにない。
だけどこっちの切り札である、クロックアップに対抗出来るスピードタイムの使用には、制限がある。
連続して使えないという事はないが、クロックアップの様な、元から備えられたシステムでは無く、必殺技に使うエネルギーを無理に高速戦闘の為に使っているので、身体への負担が大き過ぎ、このまま長期戦となったら、間違いなくこっちが先に限界を迎えるだろう。
……それならば、俺がするべき事は何なのか。
「俺がするべき事は……これだ!」
ダークカブトの繰り出す拳の反動を利用して後ろへと下がり、俺はアタッチメントのレバーを引く。
『マックスチャージ』
音声と同時に、右足に眩い光が集約される。
だが、それは俺だけの特権ではなかった。
『1・2・3』
その間にダークカブトが、ゼクターのボタンを押していた。
『ライダーキック』
更にダークカブトは、ゼクターのカブトムシ型のホーンを引き、もう一度反転させ、音声が鳴り響き、足に光を集約させる。
俺とダークカブトは互いに一定の距離を保ちながら、円を描く様に摺り足で間合いを計り、動くべき時を待つ。
一瞬の油断も許されない極限の緊張感に、肌が粟立つ様な感覚を覚えるが、それも長くは続かない。
相手が動いた。
そう感じた瞬間に、俺とダークカブトは互いの距離を瞬時に詰めて、強烈な蹴りを繰り出す。
俺とダークカブトの強烈な蹴りがぶつかり合い、激しい閃光が周囲を照らし、同時に凄まじい衝撃が俺を襲う。
「はああああああああああああああああああああっ!」
身体を襲う激しい痛みに、俺の心が何度も折れそうになるが、ここで俺が膝を折る訳にいかない。
何故ならば俺の後ろには、この世界で出会った守るべき友達が居る。
だから俺は叫び、自身の心を鼓舞して、目の前の敵に立ち向かう。
そしてこの拮抗は、すぐに終わりを迎える事となった。
『マスター! これ以上の拮抗を続けると、飽和したエネルギーが暴発を起こすぞ!』
メカ犬の注意を促す声が聞こえたが、既に時遅く俺とダークカブトは、メカ犬が言った双方のキックによって生み出され膨大となったエネルギーの暴発で吹き飛ばされる。
「がはっ!?」
飛ばされた衝撃によって、メカ虎が変形したアタッチメントパーツが、ベルトから外れてライガーモードは解除されてしまう。
だが、この攻撃によって被害を受けたのは俺だけでは無かった。
どうやら今の攻撃を最後に、クロックアップの時間も終わりを告げたらしく、周囲の時間の流れが通常の速さに戻ったにも関わらず、ダークカブトが衝撃で地面に転がる姿が確かに見えた。
この勝機を逃す訳にはいかない。
まだ身体は先程の衝撃で、上手く動かす事が出来ないが、それでも俺は声を張る。
「今の内に決めろおおおおおおおおおおおおお!」
形振り構わず叫ぶ俺の声に、頼もしい仲間達は、すぐに気付いてくれると信じている。
「任せろ!」
「純の作ったチャンスだ。僕達が決めるよ翔太郎!」
最初に応えてくれたのは、風都の街を守る二人で一人の仮面ライダーだった。
『ファングマキシマムドライブ』
Wがドライバーの上部パーツを三度叩き、強烈な一撃を叩き込む準備を整える。
「俺も行くで!」
それに続き、アックスフォームの電王が、アックスモードに組み替えたデンガッシャーを上空へと放り投げて、ライダーパスをベルトにセタッチした。
『フルチャージ』
この間にWが飛び上がり、足を突き出して高速回転を開始すると共に、立ち上がろうとするダークカブトに特攻していく。
「「ファングストライザー!」」
Wが放つ強烈な一撃が、ダークカブトに決まり、その身を宙へと投げ出される。
しかし、これで終わりでは無かった。
完全に無防備な状態となったダークカブトに対して、両足を大きく開きながら高く飛び上がった電王が自ら空中へと投げ放ったデンガッシャーを握り締めて、黄色い閃光を放ちながら更なる追撃を見舞う。
「ダイナミックチョップ」
ダークカブトに一撃を見舞い、着地した直後に電王が下げていた顔を上げながら言い放つ。
この連続攻撃で、ダークカブトはかなりのダメージを負った。
それと同時に、俺も何とか動けるまでに回復する。
「行きますよ! 弦太郎さん!」
「応よ!」
俺の合図に、フォーゼがワームを蹴散らして俺の横へと並び立つ。
ベルトの右側をスライドさせて、黒いボタンを押して、俺がベーシックフォルムへと変わる間に、フォーゼがドライバーに差し込んだスイッチを差し替えて新たに起動させる。
『マジックハンドオン』
フォーゼドライバーから音声が鳴り響くと、フォーゼの腕に、幾重にも間接が付いた細長いアームが形成され、あろう事か俺の足をアームが掴み持ち上げてしまう。
同時攻撃をしようという算段ではあったけれど、流石にこれは予想外だった。
だけど、こうなった以上、もうやけくそで、このまま行ってしまっても良いさ。
寧ろ、後の憂いを残さぬ様に、派手にやってもらおう。
「もう……ひとおもいにやっちゃってください!」
「任せろ純! 俺達の熱い友情パワーをみせてやろうぜ!」
フォーゼは勢い良く啖呵を切り、俺を掴んだ状態でマジックハンドを振り回す。
「友情のライダージャイアントスイングキッーーーーーーーーークッ!」
凄まじい回転した状態のまま、マジックハンドのアームが、俺の足を離し、俺はとんでもない勢いでダークカブトへと突っ込む。
もうこうなれば、勢いのまま行くしかない。
「だあああああああああああああああああああっ!」
俺は何とか姿勢を整えて、強烈なキックをダークカブトへと叩き込んだ。
強烈な連続攻撃を受けた上に、最後に出鱈目な一撃を受けたダークカブトは、流石に許容出来る範囲のダメージを超えたらしく、その身体はヒビ割れていき、そのヒビから黒い霧を噴出する。
「これって……」
その光景を見て、俺は呟く。
同じ様な光景を目の前にするのは、これで三回目。
一度目は俺の元居た世界で、エターナルを倒した直後。
そして二回目は、オーズと共にアークを撃破した時だ。
そのどちらも、碌な結果となった例が無い。
フィリップ君が言うには、ディアスが送り込んだコアの制御を手放した事によって、流失したエネルギーが、暴走を引き起こして、そのエネルギーが尽きるまで、無尽蔵に怪人を作り出すというのだ。
実際に俺が見て来た光景もその通りであり、これから起こるであろう事態も……。
予想通りダークカブトの身体のヒビから噴出される黒い霧がワームの姿を形作っていく。
この場に居た殆どのワームを倒した直後だというのに、黒い霧によって次々とワームが風都タワーを埋め尽くしていった。
それも大きな問題ではあるが、コアが暴走を始めたという事は、ディアスが別の時間軸へと新たなコアを送り込んだ証拠である。
「これは拙いね……純。それに良太郎。ここは僕達に任せて、君達は次のコアが送り込まれた時間に行ってくれ」
ワームが次々と生み出されていく光景を前にして、Wのまま増え続けるワームに攻撃を続けるフィリップ君が、俺達に提案する。
「それは助かるけれど、フィリップ君が居ないと、次のコアの場所が分からないんじゃ?」
「大丈夫。次のコアが送り込まれた場所は、ここに来る前に地球《ホシ》の本棚で検索しておいたよ。デンライナーのオーナーが、次の行き先へ案内してくれる」
どうやら、ここに来るまでにフィリップ君は、既にこれから先への対応策まで準備してくれた様だ。
ならばこの場は、フィリップ君の申し出を受けて、急いで行動に移るべきだろう。
既に電王からもキンさんが抜け出して、イマジンの状態でワームと戦い始めていた。
だけど、まだ一つだけ俺はここでやらなければならない事がある。
「如月さん!」
次々と生み出されるワームに囲まれる前に、俺は如月さんの前に急ぐ。
「て、転校生。 こ、これってどうなってるの?」
「詳しい話をしてる時間は無いんだ。だから、最後に言っておきたい事があるんだ」
「それって……」
「俺は純。転校生の板橋 純だ……宜しく」
俺は戦いの前にした約束を果たす。
そして同時に握手を求めた。
この意味を察したのだろう如月さんは、今はシードに変身した状態で、手の大きさに差があるこの手をとってくれる。
俺達が交わすのは、弦太郎さんが教えてくれた、友情の証。
互いに繋いだ手を逆にして、上下に叩き、俺達は今度こそ本当の友達となったのである。
「私と友達になったんだから、しっかりと世界を救って来なさいよね……純!」
如月さんは、笑顔で俺を送り出した。
そう言えば、俺ってば初めてちゃんと如月さんに名前で呼んでもらえたんだな。
何だかその事実が、少しむず痒くも嬉しい。
「うん!」
『マスターにはワタシが付いているから大丈夫だ』
俺は頷き如月さんに背を向けて走り出す。
「頑張れよ! 純!」
その途中で、俺を呼ぶフォーゼの声が耳に届き、やっぱりこの二人は、本当の兄妹と思える程に似ているなと、改めて思ってしまった。
とある世界の時空に銀色のオーロラが浮かび、そのオーロラの歪みの中から一人の青年が姿を現した。
青年の格好は、シックな濃い茶系のスーツ姿だが、これは青年が好んで着ているという訳ではない。
数々の世界を旅してきた青年は、その世界で必ず一つの役割を担う事となる。
それは、警察官であったり、手紙の配達員であったり、時には小学校の副担任であったりと、多岐に渡るのだが、何時の頃からか、この役割を割り当てられる事自体には、青年はあまり抵抗を感じなくなっていた。
青年はそれ程までに、数多くの世界を旅して来たのである。
数々の世界を旅して来た青年ではあったが、その全ての世界で変わらず、青年と共にあり続けた物も存在していた。
それは青年が、首からぶらさげて、常に持ち歩いているマゼンタ色が特徴的な縦に細長い形状をしたトイカメラ。
青年は、自らの目で見て来た様々な世界を写真に写してきた。
しかしどうした事か、フレーム越しに撮る際は、何の問題も無くとも実際に現像されると、普通に写るものは一つも無かったのである。
その写真を見る度に、青年は思う。
ここは自分の居るべき世界ではないと。
青年は、自分が撮る写真を通して、今居る世界を見つめていた。
だが、そのどれもが自分の目指すべきものの様には思えない。
世話になっている青年の撮る写真を現像してくれる人物が言うには、これはこれでアジがある写真だという評価を貰ってはいるが、それでも本人が納得出来ないのであれば、その賛辞の声も、何処か空しい気休めにしかならないだろう。
だから、青年はこの世界でも、写真を撮る。
カメラのファインダー越しに、この世界を見ながら、青年は呟く。
「……ここが、ウィザードの世界か」
青年はまだ知らない。
再び出会う事になるであろう指輪の魔法使いとの邂逅に加え、過去に旅の途中で出会った少年とも、また再び出会う事になる運命を……。