魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~   作:G-3X

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かなりお久し振りの更新です。
先月は、勢いと思い付きで書いた短編が、意外にも書き易く筆が乗ってしまった為にメインで書いていたら気が付けば連載になってしまっていたり……待ってくれていた読者様方には、大変お待たせしてしまったかと思われます。

それでは久し振りとなりますが、今回も楽しんで頂けたら嬉しいです。


ライダー戦記編 11

コアが生み出したと思われるワームとの戦いが終わった後、この場所に留まるのは危険だと判断した俺達は、不良の人、改め如月 弦太郎さんに案内されて、月へと向かった。

 

……色々と突っこむべき点が多いと俺自身も自覚しているのだが、順を追って説明していこうと思う。

 

まず、仮面ライダーフォーゼこと、不良ルックな、弦太郎さんは、如月さんの親戚のお兄さんだったのだ。

 

そして、現在は如月さんのご両親の都合で、一時的に弦太郎さんの家で、面倒を見ているらしい。

 

次に、これが一番気になっているだろう月に向かっていたという意味だが、言葉通りの意味である。

 

弦太郎さんに案内されたのは、弦太郎さんが通う高校の普段は使われていない、部屋のロッカー。

 

その中をを潜ると、地球を離れて、月面の秘密基地へとワープてしまったのだ。

 

何でも、弦太郎さんが変身したフォーゼが使うアストロスイッチという特殊な力を秘めたスイッチと同種の力によって、この月面に存在する秘密基地へと、時空を繋げているらしいが、弦太郎さんも詳しくは知らないらしい。

 

この秘密基地の名前は、弦太郎さんが言うには、ラビットハッチといって、弦太郎さんの友達のお父さんが作ったものだそうだ。

 

更に言えば、弦太郎さんの持つベルト、フォーゼドライバーもその人が製作したらしい。

 

そして、一人のライダーファンとして驚いたのが、このラビットハッチが、仮面ライダー部という、個人的にかなり魅力的な名前の部活の部室として使われている、という事だった。

 

弦太郎さん達が通う天ノ川学園には、ゾディアーツスイッチという、人間をゾディアーツという怪人にしてしまう、危険な物を、生徒に渡している何者かが存在しているらしく、弦太郎さん達は、仮面ライダー部を立ち上げ、学園の平和を守っているらしい。

 

不謹慎だとは理解しているが、学園物の仮面ライダーとは、かなり珍しいと思うし、テレビで視れなかった事が悔しい。

 

まあ、俺も言ってしまえば現役の学生なので、一応は学生ライダーの分類に入るのかも知れないが……。

 

月のラビットハッチや、仮面ライダー部などと、色々な要素に、終始驚いていた俺ではあったが、何時までも驚いている訳にはいかない。

 

本来ならば、弦太郎さん以外にも、何人かの部員の人達が居るそうなのだが、今は全員が出払っていて、現在このラビットハッチに居るのは、俺と如月さんに弦太郎さんの三人だけ、あとメカ犬を加えてプラス一匹。

 

俺は取り敢えず、この世界に来た経緯と、先程のワームが如月さんを狙っている理由など、俺の知っている情報を、順を追って伝える事にしたのだが……。

 

「はあっ!? さっきから聞いてれば、私が世界を繋いでる何とかの鎖だとか、意味が分かんないんだけど!?」

 

大体の事情を話し終えたところで、今まで黙っていた如月さんが、感情を爆発させて怒鳴り散らしたのである。

 

「それに弦にぃも何なのあのフォーゼとかって……それにあの怪物とか……何で私が狙われなきゃならないのよ!」

 

そして、如月さんの怒りの矛先は、俺に留まる事無く、弦太郎さんへも向けられた。

 

どうやら、如月さんは仮面ライダー部や諸々の事情は知らなかったらしい。

 

ここで、如月さんが乱心したとして、事態が好転する訳では無いのだが、気持ちは分かる。

 

何も知らない人が、いきなりワームという怪物に襲われたと思ったら、親戚のお兄さんや、同級生が変身して戦い始め、一息着く間も無く、ロッカーを通ったら月の秘密基地に飛ばされて、挙句の果てには自分が、世界にとって特別な存在で、命を狙われていると、物語だってもう少しは、小出しで出してくるだろうという設定が、一気に自身の身に降りかかったのだから、取り乱すなという方が無理な話だろう。

 

「ま、まあ、落ち着けよ琴葉」

 

何とか宥めようとする弦太郎さんだったが、如月さんの怒りと混乱は落ち着く事無く、威嚇する猫の様に肩を吊り上げている。

 

気持ちは分かるとは言ったが、このまま傍観している訳にもいかない。

 

何よりも、ここが月だとしても、如月さんがこの世界の時結びの鎖である以上は、ディアスに場所を嗅ぎ付けられるのは時間問題だ。

 

解決するには、この世界に送り込まれたコアを破壊して、無力化しなくてはならないのだ。

 

まだこの世界に送り込まれたコアが、どんな存在なのかは分からないが、今まで経験から言って一筋縄ではいかないだろう。

 

「取り敢えず、この件の親玉が如月さんの居場所を探れる存在らしいから、ここも何時までも安全って訳じゃないと思うんだ。それに如月さんを守る為にも、俺と一緒にこの世界に来てる仲間と合流したい。だから……」

 

「嫌よ! もう私何て放っておいて!」

 

一応でも、今後の方針だけでも固めようとした俺の言葉を遮り、如月さんは立ち上がると、脱兎の如くラビットハッチの出入り口に向かって走り出す。

 

「待てって琴葉!」

 

「如月さん!」

 

咄嗟に止めようとする俺と弦太郎さんだったが、如月さんは俺達の手をすり抜けて、地球へと一人で帰還してしまう。

 

……背中にメカ犬を張り付けた状態で。

 

「なあ、純! 急いで琴葉の奴を追い掛けた方が良いんじゃねえか? あいつ、そのワームとかいうのに狙われてるんだろう!?」

 

「ええ。でもメカ犬が着いてるんで、俺が持ってるタッチノートで連絡し合えますから。直ぐに場所を特定出来ます」

 

「だったら急いで……」

 

其処まで聞いて、一気に走り出そうとする弦太郎さんだったが、このまま追い掛けたとしても、また如月さんが俺達の隙を突いて、一人で何処かに行ってしまうのは、想像にし易い。

 

「ちょっと待ってください。弦太郎さんも少し落ち着かないと、追い着いてもさっきの繰り返しです」

 

だから俺は、弦太郎さんを呼び止めて、少し落ち着く様に窘める。

 

「ん……そうだな。琴葉が混乱してるのに、俺まで混乱してちゃ、駄目だよな。ありがとうよ純」

 

一度、深呼吸した弦太郎さんは、俺に笑顔を見せる。

 

見た目通りに目の前の物事に、突っ走りがちになりそうな弦太郎さん。

 

実を言えば、俺にも似た様な所があると自覚しているだけに、ここで俺まで慌てる訳にはいかない。

 

そう思って、出来るだけ冷静であろうと努めた。

 

まあ、それも如月さんの背中に、メカ犬が張り付いてるのを見たからこそ、多少だが弦太郎さんよりも余裕が出来たのだと言えるのだが。

 

「如月さんの様子が、何処かおかしい理由……弦太郎さんなら分かるんじゃないんですか?」

 

先程のワームに襲われた時のショックによって、気が動転しているだけだと言われれば、それまでかも知れないが、今日一日の、彼女の様子を見る限り、敢えて人を近付けない様に振る舞っているとしか思えない言動を、していたように見えた。

 

幾ら気が動転していたとしても、ここで物怖じせずに、あれだけ喋れるのだから、如月さんの元来の性格が内気だとは考え辛い。

 

だとしたら、何かしらの理由がある筈だ。

 

「……えっとな、さっきも簡単に説明したが、琴葉は事情があって、俺の家で預かってるんだよ。だけど本当は、もうとっくに琴葉の両親が迎えに来てる筈なんだわ」

 

「そうだったんですか?」

 

「出張先の仕事が長引いてるらしくてな。何時帰って来れるか、分からねえんだよ。きっと琴葉はそれが寂しいんだろうな……」

 

弦太郎さんは其処まで言うと、行き場の無い感情を紛らわすかの様に、頭の後ろを乱雑に指で掻く。

 

確かに誰が悪いという訳では無いだろう。

 

でも、一時的とは言え、両親から離れて暮らし、本来ならば戻って来る筈の日に、再開が叶わず何時まで続くか分からない待つだけの日々を過ごすというのは、幼い一人の女の子にとっては、耐え難い苦痛だ。

 

何処となく、しんみりとした空気が漂い始めたラビットハッチだったが、それを掻き消すかの如く、ポケットに仕舞われていたタッチノートから、聞き慣れた声が零れる。

 

[『緊急事態だマスター! 急いで来てくれ!』]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

訳が分からない話を聞いた私は、もう考えるのも嫌になって、勢いのままに、弦にぃが言うラビットハッチっていう所から逃げ出してしまった。

 

あの転校生が言ってたのが本当だとしたら、一人で居るのは危ないのかも知れないけど、話が映画の内容でも聞いてるみたいで、本当の事だなんて思えない。

 

それに、今は誰とも一緒に居たく何て無かったんだ。

 

だから、こうして逃げて一人になれたのは、良かったと思う。

 

「あ~あ……早くパパもママも迎えに来てよ。もう私こんなところに居たくない」

 

『うむ。琴葉嬢は、両親の帰りを心待ちにしているのだな』

 

「え? だ、誰!?」

 

自然と出てしまった独り言に、予想外の返答が来た事に驚いた私は、慌てて回りを見回すけれど、話し掛けて来たという感じの人は誰も居ない。

 

何これ、もしかしてSFの次はホラーなの?

 

私ってば何時から、物語の世界に迷い込んじゃったのよ!?

 

『驚かせてすまないな。ワタシはここだ』

 

「へ?」

 

またしても聞こえて来た不思議な声は、良く聞いてみると私の背中……後ろから聞こえているというよりは、本当に背中から直接響くみたいに聞こえて来たの。

 

『少し待っていてくれ』

 

驚いている私に、そう声を掛けると、ガチャンという音が足下に聞こえて来たのと同時に、心なしか少しだけ、背中が軽くなったみたいに感じた。

 

もしかしてと思いながら、そっと足下に視線を向けると、あの転校生が連れていたメタリックな手乗りサイズの犬が居たわ……。

 

「もしかして、さっきから私と話してたのって、君なの?」

 

まさかという気持ちを抱きながらも、私は一見すると玩具にも見えるこの犬に話し掛けてみた。

 

『うむ。ワタシはメカ犬という。さっきは自己紹介をし忘れていたからな。改めて宜しく頼む』

 

「ご、ご丁寧にどうも……」

 

当然の様に返答を貰ってしまい、私もつい丁寧に頭を下げてしまったわ。

 

でも、これでホラー要素が新たに追加されたかもという、不安は解消された。

 

……代わりにさっきにも増して、SF要素が強化された気がするけれど。

 

というか、今更だけどメカ犬って名前が安直を通り越して、見た目の感想言ってるだけみたいになってるじゃない。

 

誰よ? こんな名前を付けたのは。

 

名付けるセンスが無いにしても、限度ってものがあるわよ。

 

『早速で悪いのだが、出来るならば、ラビットハッチに戻る事をワタシは進める。悪戯に琴葉嬢を不安にさせたくはないが、今の琴葉嬢は常に狙われている身なのだ。ワタシとマスターは君を守る為に違う世界からやって来たのだ』

 

「また、その話なのね。悪いけどそんなSF設定を言われても、信用出来る訳が無いじゃない」

 

『だが、琴葉嬢も見ただろう。実際に怪物が襲って来るのを、マスターが変身して戦う姿を……もしも君に今、何かあれば過去も現在も、そして未来もかつて無い危機に晒されるのは、事実だという事を覚えておいて欲しい』

 

自分をメカ犬と名乗った、SF要素の塊はそう言うと、私に頭を下げて、信用はしなくても、理解はして欲しいと付け加えてきた。

 

今も信じる気は無いわ。

 

だって、こんな突拍子も無い話を、無条件に信じろと言われても、やっぱり納得出来ないもの。

 

……だけど。

 

「信じられないけど、でもあんたや、転校生が本気で心配してくれてるっていうのは分かったから、納得してあげるわ」

 

『そうか。感謝する』

 

「ただし、一つだけ私の言う事を聞いてくれたらね」

 

こんな現実とは程遠い、SFワールドに引っ張り込まれてしまったのだから、少し位の我がままを言ったって良いよね?

 

「行きたいところがあるから、其処まで連れて行って欲しいの」

 

本当はパパとママが帰ってきたら、一緒に行く約束をしていた場所へ。

 

毎日が寂しくて、もしかして自分は捨てられたんじゃないかって、寝る時に考えてしまうと、怖くてたまらなかった。

 

だけど……。

 

「私を風都タワーに連れて行ってよ」 

 

私はこの寂しさを忘れる為に、一つのお願いをした。


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