魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
「今度の時結びの鎖は人間だよ」
デンライナーで次の目的地を目指している最中に、フィリップ君は地球の本棚から検索して得た結果を俺達に教えてくれた。
『場所に物と来て、次は人か……今までも大変ではあったが、今回は更に大変そうだな』
フィリップ君から得た情報を、冷静に分析するメカ犬。
メカ犬の言いたい事は、良く分かる。
今までは場所に物、つまり守られる側に意思が無かったので、特に戦い以外の中で想定外な事態が起こるという事は、殆ど有り得なかった。
しかし、人が今回の時結びの鎖だとすると、今までとかなり勝手が違って来る。
言わば、俺達が護衛をするという立場になる訳なのだが、仮に一般の人が、この世の者とは到底思えない怪物に襲われたら、どう思うだろうか。
普通に考えれば、パニックを起こすだろう。
俺や良太郎君なんかも、変身する様になる前は、元は気弱な方の一般人ではあるが、戦う内にかなりの耐性を持ってしまった。
なら他の人だって、慣れれば大丈夫かもと、安易に思えてしまうが、下手をすれば慣れる前にトラウマになってしまいそうである。
「フィリップ君。その人ってどんな人なの?」
頭で色々と考えてみても、答えは出ないし、護衛するのは変わらないとしても、その対象となる人物が何処の誰かによっても、俺達がするべき対応は変わって来る筈だ。
なので、その部分を知る為という意味も込めて、俺はフィリップ君に質問をしてみる。
「うん。相手は子供だね。名前は如月《きさらぎ》琴葉《ことは》。天ノ川学園初等部に通う、二年生の女の子だ。そう言えば、純君と同い年みたいだね」
『マスターと同い年の女の子か……ならば、マスターの得意分野だな。海鳴市のハーレム王と名を馳せたマスターの力を今こそ見せる時だ!』
「……おいメカ犬。それ以上は流石に怒るからな」
フィリップ君の回答に、メカ犬が力強く答えるが、それは俺にとって消してしまいたい過去の過ち。
これ以上は言わせないと睨みを利かせる事で、この話はここで一旦終了となった。
その後、ある程度の説明を受けた訳だが、最後にフィリップ君が何気なく言っていた言葉が、俺の耳に残る。
「そう言えば、この子の名字。後輩君と同じだね……後でもう一度検索をしてみようか」
俺がフィリップ君のこの言葉の真の意味を知る事になるのは、そう遠い未来の話では無い。
俺は今、天ノ川学園初等部の制服を身に纏い、多くの視線に晒されながら、教壇の上に立っていた。
「……えっと、転校生の板橋純です。短い間かと思いますが、宜しくお願いします」
視線の正体は、転校生である俺を物珍しそうに見詰める、クラスメイトの皆。
俺はなるべく、愛想の良い笑顔を浮かべながら、転校生らしい挨拶を試みる。
「はい。そういう訳で、仲良くする様にね」
人の好さそうなお婆ちゃん先生が、最後に纏めて、クラスメイトの皆が元気に返事をして、俺の転校生としての挨拶は無事に終わりを迎えた。
どうして俺が、こんな世界が破壊されるかどうかの瀬戸際に、転校生スクールライフをしているのか。
それには、深い事情が存在する。
今回のディアスが送り込んだコアが狙う対象が、人間であるという事から、護衛を行うならば、その人物の普段の行動範囲に、自然に溶け込むのが一番だというデンライナーのオーナーからアドバイスを貰い、最大限に支援してもらった結果が……これだ。
以前にも、デンライナー課を警察内部に設立した時にも思った事だが、オーナーは何者なのだろうか。
コネと一言で言われたところで、素直に納得出来ないのが、正直な俺の気持ちではあるのだが、やっぱり、真相を聞くには恐ろしすぎて、聞くにきけない……。
ちなみにメカ犬は、緊急事態に備えて、ランドセルの中で待機中である。
そして良太郎君は、事前にこっちに来ていたキンさんと共に、用務員さんとして学園内に潜入してもらっているが、やっぱり近くでの護衛は近付き易い立場に居る、俺がメインとなるだろう。
俺は周囲に気付かれない様に溜息を吐きつつ、気付かれない様に隣の席に視線を向ける。
視線の先には、一人のクラスメイトの女の子。
癖っ毛の肩に掛かるかどうかの、少し女の子としてはショートの黒髪に、勝気な瞳が印象的なこの子こそ、この世界の時結びの鎖、如月琴葉その人である。
既に一度、いや前世の頃も合わせれば、既に二回は受けている内容の授業内容をBGMにして、俺はどうやって近付くべきか、考えを巡らす。
メカ犬が言うには、何もしなくても、彼女の方から俺に近付いてくるだろうなんて、何の根拠も無い事を自信満々に提案してくるが、そんな戯言を真に受ける訳にはいかないだろう。
最近は俺も少しだけ、一般人から逸脱しているかも知れないかなと、自覚はしてきた部分もあるのだが、それだって単純な戦闘方面に関してだけで、こんなスパイみたいな能力は俺には無い。
まあ、色々と考えてはみたけれど、一番手っ取り早いのは、普通に友達になる事だろう。
そんな脳内作戦会議を行っている内に、授業の終了を告げるチャイムが鳴り、休み時間へと突入する。
少しの間とは言え、自由な時間を手に入れたので、本当ならば俺の方からアプローチをするべきだとは思うのだが、それは転校生という今の肩書では許されない。
休み時間に突入すると同時に、クラスメイトの皆が俺の周囲に一気に群がり、質問攻めが始まる。
「板橋君は前に何処に住んでたの?」
「短い間ってどういう事?」
「何かクラブとか、習い事はしてる?」
等々と、スタンダードな質問の嵐。
「あ、あの、君ってどんなパンツを履いてるの!?」
……まあ、中には何を意図してなのか、良く分からない質問もされるけれど。
まさか、低学年の女の子に、どんな下着を着用しているのかを質問されるとは、予想していなかったけれどさ……いや、本当にどういう意味で聞いたんだろうか。
気にはなるけれど、真実を知る勇気が無い。
でも、肝心の如月さんは、放課後まで待ってみても、俺に話し掛けてくる事は無かった。
そして、授業と質問タイムと時々、給食タイムを過ごしつつ、放課後を迎えてしまった訳だが、如月さんとの関係には、一つも変化なし。
何とか手に入れた情報と言えば、質問タイムの合間に知り得たのだが、如月さんは普段から一人で過ごしているのだそうだ。
最初からそうだった訳ではなく、最初の頃は何人かのクラスメイト達が話し掛けたりしていたらしいが、あの強めの目と、憮然とした態度から恐れられて、何時の間にか今の様な状態に落ち着いてしまったらしい。
他のクラスメイト達に、一緒に帰らないかと誘われたけれど、如月さんから目を離す訳にはいかない。
如月さんが教室を出て行くのを見て、俺は誘ってくれたクラスメイト達に断りを入れて、急いで如月さんを追い駆ける。
学園を出て、如月さんを探し始めてから、数分と言ったところだろうか。
「あっ!」
目的である如月さんの後ろ姿を見つけた俺は、思わず声を上げてしまう。
追い付いたは良いけれど、どうやって声を掛けるべきだろうか。
クラスメイトから聞いた話を参考にするならば、そのまま友達になろうと話し掛けたとしても、良い結果になるとは、到底思えない。
何か良いキッカケでもあれば別かもしれない……。
でも、気が付けば、そんな悠長な事を言ってはいられない状況となってしまった。
なんと如月さんが、まるで絵に描いた様な、昭和の不良ルックな人に絡まれたのである。
頭はバリバリのリーゼント。
基本的には学ランと呼べる代物ではあるものの、上着は下のシャツが半分近く見えてしまう程の、超が付く短ラン。
何だか更生する前の、ヤスの亜種みたいだなと思ってしまった。
少し距離が離れていたので、如月さんと不良が何を話しているのかまでは分からなかったが、明らかに揉めている様だ。
「何をやってるんですか!」
俺はそう言いつつ、急いで二人の傍へと駆け寄り、如月さんを後ろに庇う様に不良の間に割って入る。
「お、おう、突然出て来て何だ?」
突如として間に割って入って来た俺に対して、不良が驚きの声を漏らす。
何だか気合の入った格好の割には、柔らかい雰囲気の不良だと思えたけれど、ここで油断する訳にはいかない。
「俺は、如月さんの……友達です! 彼女が何か気に障る事をしてしまったんでしょうか!」
素直にただのクラスメイトだと言おうかと考えもしたが、そうするとそれなら関係無いだろうと反論されるかもしれないと思い至り、俺は咄嗟に如月さんの友達だと言い張った。
如月さんが俺の事を友達だと認識している訳が無いのは、重々承知してはいるけれど、これで少なくても目の前の古風な不良からは、俺が如月さんとは無縁の他人だと思われる事は無くなっただろう。
それに上手く行けば、不良の注意をこっちに向かせる事だって可能だ。
場合によっては、暴力に訴えてくる可能性だってあるが、不本意ながら俺は荒事には、嫌という程に慣れている。
だけど、俺の言葉を聞いたリーゼントな不良は予想外な反応を示す。
「……そ、そっか。琴葉にも遂に友達が出来たのか!」
何だか目をを潤ませて、感動している様に見えるのだけれど、気のせいだろうか。
いや、この不良の人、今確かに如月さんの名前を言った気がする。
という事は、如月さんが不良に絡まれていた様に見えていたのは、ただの俺の気せいで、この二人は元から知り合いではないのだろうかと、思えてきた。
「あの……」
「ちょっと、こっち来て!」
真相を確かめようと、俺が声を出そうとしたその時、如月さんが突然、俺の手を取って走り出した。
「あ、おい!」
後ろから不良の人が声を掛けてくるが、如月さんは止まらず、俺を引っ張り続けて路地を曲がったところで、やっと止まってくれた。
やっと止まってくれたと、安堵するのも束の間。
「……あんた! どういうつもりなのさ!」
如月さんが怒りの形相で、俺を睨み付けたのである。