魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~   作:G-3X

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ライダー戦記編 6

『マスター、あまり無理をするのは良く無いぞ』

 

「……ああ」

 

俺はメカ犬の指摘に対して、素直に頷く。

 

何せ俺の身体は、小学生低学年の平均的な体格でしかないのだから。

 

ホールサイズのケーキを、一人で食べ切れる訳が無い。

 

「あんまり無理しなくても大丈夫だよ。食べ切れなかったら、あの里中さんっていうお姉さんが、残りを食べてくれるからさ」

 

俺とメカ犬のやり取りを聞き、火野さんがこのケーキを持ってきたお姉さんに、任せれば良いと進言してくれる。

 

そもそも何故、俺がこんな限界までケーキを食べるという、状況になっているのか。

 

最初に断っておくが、別にケーキを腹一杯になるまで食べたい、という欲求に駆られた訳では無い。

 

自分に向けて送られたプレゼント、それが食べ物な上に、作った張本人が目の前に居たとすれば、無碍にも出来ないというものだろう。

 

現在の俺とメカ犬、そして火野さんが居る場所は、ディアスの生み出した大量の屑ヤミーと戦った、鴻上ファウンデーション社の中庭では無く、件のケーキを俺の目の前に持ってきたお姉さん、里中さんに連れて来られた会長室。

 

其処には当然ながら、この部屋の主が居る訳で、里中さんが持ってきたケーキと一緒に持ってきた画面に映っていた人が、嬉々として、ケーキを切り分けて、俺に差し出して来るのだ。

 

その張本人である、この会長室の主こそ、この鴻上ファウンデーションの中で、実質的に一番の権力を有する鴻上《こうがみ》 光生《こうせい》会長。

 

どうやら先程の戦いを見て、俺の事を気に入ったらしく、急いでケーキを作ったらしい。

 

この会長室には、普通に考えて不釣合いな最新のキッチン設備が設置されている事から、本当の事だと分かる。

 

「いや、さっきの戦いを見ていたが……実に素晴らしい!」

 

鴻上会長は、独特の口調とテンションで、俺に向かって声を掛ける。

 

火野さんと里中さんを見る限り、どうやらこの人は普段からこんな調子らしい。

 

俺も自慢じゃ無いが、かなり個性的な知り合いは多かったりするけれど、そんな中でもこの会長さんの妙に高いテンションは、正直に言って絡み辛いと思ってしまう。

 

そのせいなのか、この会長さんの司書だという、里中さんは間逆と言って良い程に、クールだ。

 

いや、クールというか、果てしなくビジネスライクなお人なのである。

 

何せ、俺がケーキを一カット分食べ終わる頃には、会長さんに命じられるままに、隣で黙々と三倍以上の量のケーキを、何の苦も無く平らげているのだ。

 

まあ、個性的な事は良く分かったんだけど……それよりも、いい加減に本題に入った方が良いだろう。

 

今現在、この会長室に居るのは、俺とメカ犬、それと火野さんに会長さんと里中さんだ。

 

ちなみに良太郎君とウラさんは、戦いの後に周囲を探索すると、伝言だけ受け取り、今は別行動中である。

 

そして肝心の本題とは、この世界の時結びの鎖でもある、保管庫に在った金のコアメダルの事だ。

 

俺は火野さん達に、一通りの挨拶を交わした後、簡単にここに来た目的を話した。

 

「俄かには信じられない話だけど、純君が嘘を言ってるとは思えないんだよね」

 

大体の説明を終えた後にそう言ったのは、火野さんだった。

 

普通に考えれば、俺の話はまるで小説の中に出てくる様な、荒唐無稽な話にしか聞こえはしないだろう。

 

時間を越える電車に、時の狭間を守護する守人の存在。

 

更には、その守人が自身の役目に反旗を翻し、世界を破壊させようとしているなど、もしも俺がメカ犬と出会わずに、穏やかな日常を過ごしていたとしたら、到底信じる事等出来なかっただろう。

 

それを思うと、俺の話を素直に信じてくれた火野さんも、色々な事があったに違い無い。

 

前世の時は、俺はオーズの一話目までしか視聴する事しか出来なかったのだが、この時間においてのオーズは既に最終回を終えた後の時間軸だと思われる。

 

それと言うのも、既に火野さんは全ての種類のコアメダルを所有しており、今はメダルを巡る大きな一つの戦いを終えて、ついこの前まで、ずっと海外に行っていたという事実から、そう予想した訳なのだが、あながち間違いでは無いだろう。

 

「信じてくれてありがとうございます。それで……このメダルなんですけど」

 

俺は火野さんの言葉に、感謝の礼を言いつつ、ずっと持ちっぱなしだったメダルをこの場に居る皆に見せて意見を聞く。

 

「う~ん。そのメダルは、まだ研究段階の試作品メダルだからね。研究施設から持ち出す訳にはいかないんだよ」

 

俺が意見を求めると、逸早く会長さんが答えてくれる。

 

「でも、それだとまたこの場所が襲われるって事になりますよね?」

 

会長さんの言葉に対して、里中さんがケーキをフォークで突き刺しながら淡々と言い放つ。

 

里中さんの言い方は、かなりストレートで遠慮の無いものではあったが、言っている事は間違っていない。

 

どちらにしろ、ディアスの狙いがこのメダルである以上、この時代に送り込まれたコアを破壊しない限り、襲われ続けるのは確定事項だ。

 

「こっちから動くとしても、コアの場所が分からないと、根本的な解決にはなりませんからね」

 

「だったら、ここで待ち受けるっていうのも一つの手かも」

 

俺に続き火野さんも、下手に探すよりも、確実にメダルを守るべきだと考えたのだろう。

 

それに、相手が屑ヤミーならば、どんなに数が居ても、ここにはそれなりに戦える戦闘要員の人も多く、いざとなれば俺達が居るので、簡単にメダルを奪われる事は無い。

 

更に、これでは奪えないと相手が考えれば、おそらく強力な敵を送り込んで来るだろう。

 

そして俺の居た世界で戦ったエターナルの事から想像するに、其処までの強敵が現れれば、必ず本体であるコアを内部に宿している筈だ。

 

ならば、無理に人数を割いてコアを探して、メダルの警備を手薄にするよりも、ずっと効率が良い。

 

「うん。やはり狙われているとは言え、やっぱりメダルの保管場所を移す訳にはいかないからね……そこでだ!君達には改めてメダルの護衛を頼みたい!」

 

俺や火野さんの意見を聞いた上で決定したのか、会長さんは俺達を見ながら、相変わらずの絡み辛いテンションで、俺と火野さんにメダルの警護を依頼してきた。

 

まあ、元から頼まれなくても守る予定ではあったのだけど、改めて持ち主から依頼されたとなれば、守り易くなる事に変わり無いだろう。

 

「俺は最初からあのメダルを守る為に来ましたから」

 

「あのメダルの研究は、俺にとっても必要ですからね、勿論、協力させてもらいますよ」

 

俺と火野さんは、其々に会長さんの依頼に、肯定の意思を示す。

 

その後は、何処で待ち受けるか等、細かい事を話し合った後、一度解散する流れとなったのだが……。

 

「少しだけ待ちたまえ!」

 

他の人が既に会長室を後にして、最後に俺が出ようとしたところで、会長さんが俺を引き留めたのである。

 

「はい?」

 

「実は念の為に、一応これを渡しておこうと思ってね」

 

扉を前に振り向く俺に対して、会長さんはそう言うと、ある物を取り出した。

 

「……これは」

 

取り出された物を見て、俺は思わず呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、結局コアは見つからなかったんですね」

 

「うん。僕とウラタロスで探してみたけれど、駄目だったよ」

 

もしかしたら、持久戦になるかもしれないので、一度デンライナーに戻って準備を整えようとしていた矢先、戻って来た良太郎君達から調査結果を聞いたのだが、色好い返事が返ってくる事は無かった。

 

「他に手掛かりも無いみたいだし、仕方無いよね。でも先輩の所はまだしも、キンちゃんやリュウタが心配だよね」

 

「確かにね」

 

更には良太郎君と一緒に戻っていたウラさんも、他の世界に散って時結びの鎖を守ってくれているイマジン達を心配し、それにデンライナーで常時滞在して、地球の本棚でずっと検索し続けているフィリップ君が、少し休憩を挟んでいたのか、ウラさんに同意する。

 

『うむ。出来れば少しでも早くこの世界のコアを叩き、救援に迎えに行きたいところだがな』

 

メカ犬の言う通りではあるのだが、コアの所在の情報が無い上に、狙われている物がはっきりとしている以上、下手に人数を割いて探索を行う訳にもいかない。

 

歯痒いかも知れないが、待ちの姿勢で行くしか無いのは確定だろう。

 

「さてと、準備も出来たし、そろそろ行こうかな」

 

大急ぎで家から持ち出して来たショルダーバックに、同じく適当にタンスの中から持って来ておいた着替え等を詰め込んで、最低限の準備が整え終わり、俺はそれなりに重くなったバックを持って、席を立つ。

 

「メダルは頼むよ純君。僕とウラタロスは、引き続きコアの所在を探ってみるからさ」

 

「はい。そっちは良太郎君に任せるよ。行くぞメカ犬」

 

『うむ』

 

こちらからのコアの探索は、このまま良太郎君に任せて、俺はメカ犬を連れてデンライナーを降り、鴻上ファウンデーションへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果から言えば、長期戦になる事は無かった。

 

会長さんから依頼された、その翌日の昼過ぎ。

 

既に鴻上ファウンデーション社は、屑ヤミーの大群に完全に包囲されていたのである。

 

いや、それだけじゃない。

 

明らかに屑ヤミーとは異なる個体が、一体だけ存在しており、まだそんなに近くには居ないにも関わらず、かなりのプレッシャーを感じる。

 

まるで伝説上の悪魔を思わせる造形に、普通の成人男性を二回り以上は大きな肉体。

 

前世からのライダーファンである俺が見間違える筈が無い。

 

奴の名は仮面ライダーアーク。

 

仮面ライダーキバの劇場版に登場した、仮面ライダーであり、キバやイクサと死闘を繰り広げたかなりの強敵である。

 

おそらく、コアはアークの中にあると見て、間違い無いだろう。

 

「行くよ。純君」

 

「ええ」

 

俺は火野さんの声に短く返事をして、メカ犬と共に、中庭に出て タッチノートを開いた。

 


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