魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
「君! 怪我は無い?」
「……は、はい」
屑ヤミーを吹き飛ばした人に話し掛けられた俺は、何とか返事を返す。
唐突な出会いに、中々ちゃんとした受け答えをする事が出来なかったと、自分でも思うが、俺に怪我が無いと分かったのか、安堵の笑顔を浮かべる。
「良かった」
笑顔でそれだけ言うと、俺に背を向けて、見覚えのある三つの丸い窪みが存在する物体を取り出して、自身の腹部へと宛がう。
もうこれは、確定だ。
エスニック調な服装と、常に持ち歩かれているパンツ。
そして取り出した物体は、間違い無く、オーズドライバー。
つまりこの人は、仮面ライダーオーズの主人公、火野《ひの》 映司《えいじ》さんという事だ。
俺がそんな事を考えている間にも、火野さんはオーズドライバーの窪みの中に赤、黄色、緑のメダルをセットしていく。
更にオースキャナーと呼ばれる、丸い形のスキャナーを使い、オーズドライバーに填め込まれた三つのメダルへとスライドさせながら、そのまま両腕を斜めにクロスさせる。
「変身!」
『タカ! トラ! バッタ!』
ベルトから、響く音声と共に、空中にメダルのタペストリーが浮かび上がり、タトバ! タトバ! と不思議な歌と音楽が流れ、火野さんの姿を、一人の戦士の姿へと変えていく。
鷹を彷彿とさせる頭部に、緑の複眼。
腕には黄色い虎を模した三本の鋭い爪が椀部に収納されており、足は飛蝗を模った緑色の模様が入った脚部。
その姿は見紛う筈も無い、仮面ライダーオーズの基本フォームである、タトバコンボだ。
「せいやっ!」
オーズは変身してからすぐに、俺を守る様に立ち回りながら周囲の屑ヤミーを蹴散らして、この包囲網を突破する為に動き出す。
「着いて来て!」
「は、はい!」
オーズに手を引かれて、俺はこの包囲網を抜けるべく、一緒に走り出す。
『逃げるのは良いが、やはりこのままではどうにもならないぞマスター』
暫く逃げ続けて、中庭まできたは良いけれど、屑ヤミーの軍団は途切れる事を知らない。
確かにメカ犬の言う通り、幾ら電王が別の場所で奮闘して、今もこうしてオーズが協力してくれていたとしても、一向に事態は好転しそうにないのだ。
ならば、俺がするべき事は……。
「ちょっと待ってください!」
「ん? どうしたの?」
俺が強引に手を振り払いながら、オーズに話し掛けた事によって、オーズも俺の話に耳を傾けてくれた。
「このまま逃げても、多分逃げ切れないと思います。だからここで迎え撃ちましょう」
「でも君は……」
「大丈夫です。俺だって足手纏いになる気はありませんから」
オーズが俺の身を案じてくれているというのは、良く分かるのだが、それは俺が見た目通りの子供だった場合の話だ。
自慢では無いが、俺は既に普通の子供というには、少しだけ違うと最近になって実感してきている。
「行くぞメカ犬!」
『うむ!』
俺はメカ犬に声を掛けつつ、タッチノートを操作した。
『バックルモード』
音声が響くと共に、メカ犬はベルトに変形して、俺の腹部へと巻き付く。
「え? え? え?」
この光景を前に、オーズが戸惑いの声をあげるけれど、俺は構わず続ける。
「変身」
『アップロード』
力ある言葉を紡ぎ、タッチノートをベルトに差し込む事によって、音声が響き俺の身体h一人の戦士へとその姿を変えていく。
メタルブラックのボディーと、四肢に走る銀色のライン。
そして額に輝く同じ銀色のV字型の角飾りと、顔の半分近くを覆う赤い複眼。
「こんな悪夢はここで終わらせる!」
「ええええええええええええええええ!?」
仮面ライダーシードへと変身を果たした俺は、驚くオーズを尻目に屑ヤミーへと突貫する。
「ちょ、ちょっと待って! 君、仮面ライダーだったの!?」
「はい! でも今はそれよりも、このヤミー達です。詳しい話は後で!」
「そういう事なら!」
流石に俺の変身には驚いていたオーズだったけれども、思った以上に意識の切り替えは早く、既に次へと続く戦いへの布石を投入する。
オーズが持ち出したのは、緑色の二枚のメダル。
「なるほど。ならこっちも!」
これから何をしようとしているのか察した俺は、オーズの攻撃に合わせる様に、タッチノートを引き抜き、操作を開始する。
『フェザー・コール』
タッチノートから響く音声と共に、上空から雲を裂き、メタルホワイトの翼をはためかせて、メカ鳥が飛来する。
『お呼びでゴザルかマスター!』
「力を借りるぞメカ鳥」
『だからセッシャはアレキサンドル・メタルブレイカー・J・バードイーグルデリシャスグレート・リーサルグラビティー・スタンドアローン・エンドオブブレード『スタンディングモード』あっ!? まだ途中でゴザルのに!?』
最後まで聞く時間も無いので、俺はタッチノートのボタンを押して、メカ鳥をアタッチメントパーツへと変形させつつ、俺はベルトの左側をスライドさせて、アタッチメントパーツと化したメカ鳥を差し込む。
その間にオーズも、さっきまでベルトに差込まれていた赤と黄色のメダルを抜き出して、変わりに手持ちの緑色のメダルを、二枚セットして、変身した時と同様にオースキャナーで再セットした三枚のメダルをスキャンする。
『ベーシック・フェザー』
『クワガタ・カマキリ・バッタ』
其々のベルトから音声が流れ、俺の方には、展開したメタルホワイトの追加パーツが次々と装着され、オーズの方も、脚部の形状は変わらないが、不思議な音楽に合わせて、クワガタを模した頭と、カマキリの腕の鎌の様な、形状の突起を持つ腕へと変化を遂げる。
俺がメカ鳥の力を借りて変身したベーシック・フェザーと、緑のメダルを揃えて変身した、オーズのガタキリバコンボ。
この二人で出来る事。
いや、今からするのは、この二人だからこそ出来る戦い方だ。
『行くでゴザルよマスター!』
メカ犬の呼び掛けに応える様に、俺はアタッチメントパーツのボタンを押す。
『ベーシックファントム』
「うをおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
アタッチメントパーツの音声と、オーズの叫びを合図にして、俺達に大きな変化が訪れる。
二倍、三倍、四倍。
それ以上に、俺達は分身を作り出していく。
「行くぞ!」
「せいやっ!」
多くの分身達を引き連れて、俺とオーズは屑やミーの軍勢を蹴散らしていく。
数には数で!
単純ではあるけれど、俺達だからこそ、この戦法は有効だ。
そして俺達は、一気に勝負を仕掛ける。
俺は分身体と共に、ガタキリバコンボのオーズ達を、次々に上空へと担ぎ上げていく。
『スキャニングチャージ』
そして、上空へと担ぎ上げられたオーズは、次々とオースキャナーで、ベルトの三枚のメダルをスキャンして必殺の一撃の準備を整える。
俺もそれに倣い、オーズを地上へと放ちながら、アタッチメントパーツのレバーを引く。
『マックスチャージ』
オーズに続き、必殺の一撃への布石を打ち、俺とオーズのキックが雨の様に、地上の屑やミー軍団へと降り注ぐ。
「はああああああああっ!」
「せいやあああああああああああっ!」
分身体達のキックによって、屑ヤミーは次々と爆散していき、この戦いは取り敢えずではあるが、決着をみた。
だが、コアが破壊された訳では無い。
つまり、敵の襲来が、これで終わったという事にはならないのである。
何処と知れない、暗い森の中。
一人の男が、大樹に手を置き、瞳を閉じている。
その瞳の先に映るのは、闇ではなく一つ映像だった。
本来ならば交わる事の無い筈の時間と世界に居る、戦士達が集う姿。
男の目的である、時結びの鎖を守ろうとするその姿は、男にとって……いや、時を守る番人ディアスにとって、滑稽な姿に見えていた。
「……何も知らないとは、愚かな事だな」
瞳を閉じたまま、ディアスは誰に言う訳でも無く、瞳の裏に映る戦士達に同情の念を覚える。
「守る為に戦う事が、全ての終わりへと繋がる……今はまだ、何も知らずに信じ続ければ良い……」
屑ヤミー軍団達との戦いに勝利した俺は、変身を解く。
その隣では同じ様に、オーズも変身を解き、火野さんの姿へと戻る。
「……」
「……」
何と言えば良いのだろうか。
お互いに成り行きで、共闘したは良いけれど、俺達の間に、個人的な面識は勿論無い。
だからこそ、互いに距離を取りつつも、何から話すべきなのかと、考え込んでしまう訳だが、何時までもこうしている訳には行かないだろう。
「「あ、あの!?」」
どうやら考えていた事は同じだったらしく、気づけば同時に声を出していた。
「あの、そっちからどうぞ」
「あ、いや、君から先で」
「えと、俺から話すと色々と長くなるんでそっちからどうぞ」
同時に声を掛けてしまった次は、どちらが先に質問するかの、譲り合いへと発展したが、どう考えても俺の方の事情を一から説明すると、長くなる事は分かり切っているので、俺は火野さんに先を譲る。
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
火野さんも無理にそれ以上、譲る様な事をせずに、俺の意図を汲んでくれたらしく、一度だけ咳き込んでから、改めて質問をぶつけてきた。
「君も……仮面ライダー何だよね?」
予想通りの質問に、俺は少し苦笑いを浮かべながら頷き、肯定の意思を示す。
「俺は……」
火野さんに説明しようとしたその時。
俺と火野さんの前に、長髪を靡かせながら、颯爽と一人の美女が無言で、高いヒールの底の音だけを響かせて歩いてくる。
そして、その美女は何故かカートを引いており、カートの上には大きな白い箱と、何も映っていないディスプレイ。
「何か、この感じも、久し振りかも」
ここまでの流れで、火野さんは、何処か遠い目をしながら呟く。
過去に何か、似た様な事でもあったのだろうか?
「どうぞ」
そんな事を考えていた俺に対して、美女は白い箱を突き出して俺に箱を開ける様に指示する。
「こ、これを開けるんですか?」
「はい。早く開けてください」
淡々と俺の質問に答える美女に、促されるままに、俺は箱に手を掛けて持ち上げる。
箱の中身は、外側の白い箱にも劣らぬ白さを際立たせた、ホールサイズのケーキ。
「これって……」
俺がその先を言うよりも早く、ケーキの入った箱の隣に置いてあったディスプレイに明かりが灯る。
【「ハッピーバースディ!」】
ディスプレイに付属されたスピーカーからは、やけにテンションの高い男性の声が聞こえて来た……。