魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
漆黒に染まるコアから溢れ出る、夥しい量の黒い霧。
それは一つ一つが形を成していき、俺達の敵である新たなドーパントを、次々と生み出していく。
「どうやら、さっきの衝撃でコアの力が暴走を始めたみたいだね」
この現象を前にして、Wから冷静な分析結果を述べるフィリップ君の声が聞こえる。
『何か止める手立ては無いのか?』
この場に居る全員が、考えていた事をメカ犬が代表して口にする。
「どうなんだ? フィリップ」
「少し待っていてくれたまえ。検索してみよう」
更に翔太朗さんからも質問の答えを催促された、フィリップ君は地球の本棚へと意識をダイブさせた。
その間にも、次々と生み出されたドーパント達が、公園で見境無く暴れ始めた為、俺達は強敵であるエターナルを倒した余韻に浸る暇も無く、急いで攻撃を再開させる。
「ちっ! 幾ら倒しても切りがねえぞ!」
「それでも、僕達がやらなきゃ!」
周囲のドーパント達を、ソード状態のデンガッシャーを振り回して薙ぎ払う電王だったが、その数の多さにモモさんが愚痴をを零し、良太郎君が鼓舞する。
「このっ!」
モモさんと同じ感想ではあるが、良太郎君が言う通り、弱音を吐く訳にはいかない。
俺も力一杯パワーブレードを振るい、同じくドーパント達を屠っていく。
「待たせたね。翔太郎」
あれからどれだけの時間が経過したのか、定かではないが、恐らくそれ程の時間は掛かっていなかったと思う。
Wから待ちに待った、フィリップ君の声が聞こえて来た。
「待ちくたびれたぜフィリップ」
「これでも急いだんだけどね。それよりも急いで伝えたい事があるんだ。皆も聴いて欲しい」
二人の軽口も程々に、フィリップ君は俺達に向けても語り掛けて来たので、俺達は戦いながらもフィリップ君の声に耳を傾ける。
「あのコアは既にディアスの制御から外れている、ただのエネルギーの残骸だよ。だけどその残りのエネルギーもかなりの量だ。例えコア自体を破壊しても残りのエネルギーから百体はドーパントを生み出すのは間違い無い」
フィリップ君の説明を聞き、頭が痛くなる。
だけど、フィリップ君の説明は、これで終わりでは無かった。
寧ろ頭が痛くなる様な内容は、ここからが本番だったのである。
「問題はここからなんだ。ディアスはこのコアの制御を手放して、新たなコアを違う時間に送り込んだ。このドーパント達は僕らの足止めという事だね」
「おい! それって不味いんじゃねえのか!?」
俺も思った事を、モモさんが代弁してくれた。
ディアスは、この時間の時結びの鎖を早々に諦めて、他の楔に狙いを定めたらしい。
「このままじゃウラタロス達が危ない!」
良太郎君が言う通り、このままじゃ他の時間に飛んで、楔を守っているイマジンの皆が危ない。
一つのコアだけでも、かなりの力量だったのだ。
出来るならば、今すぐにでも救援に向かうべきだろう。
でもだからと言って、このまま目の前あるコアの残骸から生み出されるドーパント達を放置しておく訳には行かない。
……そう。
ここは俺が守るべき時間だ。
ならばここは俺が残り、翔太郎さん達には急いでデンライナーに向かってもらうのが得策である。
「ここは俺が……」
残りますと言い掛けたその時。
何を思ったのか、Wが突然展開されたダブルドライバーの展開されたメモリスロットを閉じて、変身を解いてしまう。
「ここは俺に任せて、純達はデンライナーに急げ!」
翔太郎さんはそう言うと、ダブルドライバーの代わりにスロットルが片方だけ存在する、ロストドライバーを取り出して腹部に装着し直す。
「翔太郎さん!?」
「ドーパント相手なら、俺が一番慣れてるからな。ここは任せてお前達はフィリップを連れて早く行け!」
驚く俺を尻目に、翔太郎さんは矢継ぎ早にそう告げて、ジョーカーメモリを掲げた。
「いくぜ……変身!」
『ジョーカー』
ロストドライバーにメモリをセットして、展開させる事で音声が鳴り響き、再び翔太郎さんはその姿を戦う一人の戦士へと変える。
基本的な造形は通常のWと大差ない。
だけど、通常ならば、縦で中央から半々で分かれている配色がほぼ黒一色のカラーで染まっている事だろうか。
あの姿こそ、翔太郎さんがフィリップ君の力を借りずに、一人で変身する仮面ライダーの姿。
その名も……。
「仮面ライダージョーカー……いくぜ!」
軽く手首をスナップさせて、切り札の力を司る仮面ライダージョーカーは、ドーパントに向かって、再び駆け出した。
「一人だけ格好着けやがって、俺も混ぜやがれ!」
ジョーカーが攻撃に参加した直後、モモさんが電王の中から抜け出して、ジョーカーと共に暴れ始める。
「モモタロス!?」
「俺も残るぜ良太郎! お前らは急いで亀達の所に行ってやれ!」
モモさんが抜けた事によって、プラットフォームとなってしまった電王は驚くが、モモさんと翔太郎さんの心意気を、ここで無駄にする訳にはいかない。
それはきっと、良太郎君も同じ筈だ。
『マスター!ここは赤き者達に任せて行くべきだ!』
「……分かった! 行こう良太郎君!」
「うん。頼んだよ二人とも!」
メカ犬の先導を受け、俺は良太郎君を促し、良太郎もまたここに残る二人を激励して、この戦闘区域を脱出する為に走り出す。
だが周囲にはかなりの数のドーパント達が、今も犇いている。
この包囲網を抜けるだけでも、かなりの時間が掛かるのは間違い無い。
「俺が道を作るぜ!」
しかし、ここでジョーカーが動く、メモリスロットルからジョーカーメモリを抜き出して、ベルト横のスロットルに差し込んで、叩く様にメモリのボタンを押す。
『ジョーカーマキシマムドライブ』
メモリから音声が響き、ジョーカーの右拳に激しい光が集約されていく。
「ライダーパンチ」
輝く拳を構え、強烈な一撃をドーパントに叩き込み、吹き飛ばされたドーパントは後方に吹き飛び、数体の他のドーパントをも巻き込んで爆散する。
「もういっちょだ!」
だけど、ジョーカーの行動はこれだけで終わらなかった。
必殺の一撃を放ったジョーカーは、その直後にもう一度スロットルに収まった状態のメモリのボタンを押す。
『ジョーカーマキシマムドライブ』
再びメモリから音声が響き、今度は右足に激しい光が集約される。
「ライダーキック!」
軽く手をスナップさせた後、飛び上がり輝く右足を突き出し、繰り出された必殺の攻撃は、複数のドーパントを一度に無へと返す。
ジョーカーの必殺技の連続によって、僅かだがこの場を抜け出す道が生まれた。
更に僅かに残った道を塞ごうとするドーパントを、モモさんが蹴散らしてくれている。
抜け出すならば、今が最大のチャンスだ。
俺は急いでベルトからタッチノートを抜き出して操作する。
『チェイサー』
タッチノートから音声が聞こえてから数瞬後。
ドーパント達の包囲網を掻い潜り、黒い一台のバイクが爆音と共に、こちらへとやって来る。
『お待たせマスター』
相変わらずの新宿二丁目的な口調の、乙女口調なおっさんボイスのチェイサーさん。
「ここから抜け出すのに手を貸してください。チェイサーさん」
『OKよん』
「ありがとうございます」
チェイサーさんの合意を得て、俺は急いで座席シートへと飛び乗る。
「良太郎君も早く乗って!」
「うん!」
俺の呼び掛けに応じて、電王もチェイサーさんの後部座席へと乗り込む。
『飛ばすわよ~』
電王が乗り込み、俺がしっかりとハンドルを握った事を確認すると、チェイサーさんが勢い良くアクセルを吹かし、一気に駆け出す。
「頼んだぜ!」
俺達はジョーカーの声を背に受けて、無事にこの場を切り抜ける事に成功した。
翔太郎さんとモモさんの協力によって、何とか無事にあの場を切り抜けた俺達は、急ぎデンライナーで他のコアが送り込まれた時間へと向かっていた。
「そう言えば、俺達の時間にあった時結びの鎖って一体何だったんだろうな?」
デンライナーで移動している最中。
良太郎君が、デンライナーを操縦している間、食堂車両で待機していた俺は、ふと脳裏を過ぎた疑問を、口から零す。
『うむ。ワタシもそれは聴いていなかったな』
この疑問に対して、目の前のテーブルに置物よろしく鎮座していたメカ犬も、俺と一緒にその答えを知っているであろう人物へと共に視線を向ける。
「……ん。そう言えば、まだ言っていなかったかも知れないね」
俺とメカ犬に、視線を向けられた人物、フィリップ君は普段から持ち歩いている白紙の開いた図鑑を閉じて、俺達の質問に答えを返してくれる。
「あの時間の楔は皆が居た公園……正確に言えば公園を含む空間その物だね。だからコアから出て来たドーパントは、公園内で暴れる事で、保たれていた空間その物を破壊しようとしたんだ」
「そうだったんだ。あれ、それじゃ次の時間にある楔も、何処かの場所って事?」
「いや、今向かっている時間にある楔は空間そのものじゃなく、ての中に納まるくらいに小さな物だね」
またしても、ふと思いついた疑問を質問にしてみたが、どうやらフィリップ君の話だと違うらしい。
『手の中に収まる程の大きさか。一体どんな物なのだ?』
俺に続きメカ犬も、フィリップ君に質問する。
「今度の楔はメダルだね。しかもただのメダルじゃない。それ自体が特別な力を秘めたメダルさ」
「メダル……」
フィリップ君のメダルという単語に、俺は思わず呟く。
しかも特別な力を持つという事から、ある連想が出来るが、俺はまさかと自分の脳裏に過ぎった有り得るかどうかも分からない想像を、一蹴にふす。
俺がそんな事を考えていたら、先程まで走り続けていたデンライナーが、徐々に速度を落としていく。
最終的に停止すると、食堂車両の扉が開き、良太郎君が入って来る。
「皆、目的地に着いたよ」
良太郎君に促されて、デンライナーから降りた俺の目の前には、大きな高層ビルが聳え建っていた。
でも、そのビルには何処か見覚えがあって……。
俺はまさかという思いから、ビルの脇の看板に視線を向ける。
其処にはある意味、俺の予想通りの文字が書かれていた。
そう。
立派な看板にはこう書かれていたのである。
鴻上ファウンデーションと。