魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~   作:G-3X

191 / 233
ライダー戦記編 プロローグ

過去、現在、未来。

 

そのどれにも当て嵌まらない、時間の狭間。

 

時間は砂の様に溶け、まるで砂漠が続くかの様なこの世界の更に果て。

 

時を外れた者達ですら近寄らない、そんな場所で一人の男が虚空を見詰めていた。

 

「……君の時間を奪った世界に何の価値があるというのだ」

 

男は時の砂をその手に掬い上げながら呟く。

 

だが男の言葉に返す言葉は無く、手の中の砂は指の隙間から地へと帰っていく。

 

その光景を見て、男はその現象が今の自分の心情であると、皮肉にも思った。

 

最初に感じたのは、失った喪失感。

 

そして喪失した事を実感した事によって訪れた悲しみ。

 

男は時の砂が全て地に帰った後もなお、その手を強く握り締めた。

 

今の男に残っているのは、喪失感でもなければ、悲しみでもなく、純然たる怒り。

 

大切な者を無残にも理不尽に奪われた、男の怒りは一つの決意を生み出す。

 

「これは復讐だ。君を俺の前から奪い去った全ての世界を許さない……」

 

時の狭間の果てで復讐を誓う一人の男によって、過去、現在、未来は破滅への道を歩み始める。

 

しかし今はまだ、その事実を誰も知る由は無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『今日はご機嫌だなマスター』

 

「分かるか? メカ犬」

 

よほど顔に出ていたのだろう。

 

足元を歩くフルメタル犬なメカ犬に指摘されながらも、俺は自分でも顔がにやけている事を自覚する。

 

思えば最近は、ホルダー事件に始まり、恵理さんの提案によって巻き込まれたドラマ撮影等と忙しい日々が続き、休む時間も無かったのだ。

 

だが今日は翠屋でのアルバイトも無ければ、ドラマの収録も無い。

 

特に予定もない完全オフな日なのである。

 

しかもそんな日に、海鳴デパートで、世界のジグソーパズル展というイベントが開催されているというのを朝刊の折込チラシで知ってしまったのだ。

 

これは行くしか無いだろう。

 

『以前からも思っていたが、マスターは本当にパズルが好きなのだな』

 

呆れ交じりにメカ犬が俺に言うが、こればっかりは前世の頃から続く、仮面ライダー等の特撮に続く趣味なのである。

 

唯でさえ、この世界には仮面ライダーの番組が無いのだから、これだけは止められない。

 

「だけどこんな日に限って何か起こるんだよな」

 

『ハハハ。確かにそうだな』

 

そんな訳で、今日は久し振りに趣味に没頭出来る日であった為に、軽い冗談を飛ばしメカ犬もそれに同意するという軽いやり取りまでしてしまったのだが、きっと前世の頃の友人が聞いたらこう言っていただろう。

 

それ何てフラグだよ! と……。

 

俺の平和な休日は、そんな軽口を交わした次の瞬間に終了した。

 

海鳴デパートに続く道の途中。

 

その近辺から、日常生活では有り得ない音量の爆音が、周囲に響き渡ったのである。

 

「な、何だよ!? 今の音は!?」

 

爆発の直後に、大きく地面が揺れ、空には灰色の煙が立ち昇るのが視界に映った。

 

『近いぞマスター!』

 

俺の返答に答えるよりも早く、メカ犬は既に走り出している。

 

向かう先には、先程見えた灰色の煙が立ち込めていた。

 

「あ! 待てよメカ犬!?」

 

俺も急いで態勢を立て直して、メカ犬の後を追う。

 

メカ犬が言った通り、爆心地は思った以上に近く、数分も走った先には目的地だった。

 

「何だよこれ……」

 

俺は目の前の光景を前にして、茫然としながら呟く。

 

正直に言えば、最初は何処かで老朽化したガス管にでも引火したのかと思ったのだが、辿り着いた先には予想外の光景が広がっていた。

 

逃げ惑う街の人々と、街を蹂躙する怪人達の姿。

 

それが俺の視界に映る全てだった。

 

『こんな処にホルダーだと!?』

 

「いや、こいつ等はホルダーじゃない」

 

怪人達を前に驚愕するメカ犬に対して、俺が否定の言葉を返す。

 

あの怪人達はホルダーじゃない。

 

その証拠に、普段からズボンのポケットに忍ばせているタッチノートは今も無反応だ。

 

だけど理由はそれだけじゃない。

 

俺は奴等を知っているのだ。

 

当然ながら知り合いという訳ではないが、それでも俺は前世の頃に、テレビ越しに憧れのヒーローと幾重にも渡る戦いを繰り広げて来た奴らを見ている。

 

シックな黒のスーツの上に骸骨を模した様なマスクを付けた様な風貌の者達。

 

それは仮面ライダーWに複数登場したマスカレードドーパント。

 

『どういう事だマスター?』

 

「俺にも分からない。でも今はこいつ等をどうにかするのが先だ!」

 

俺はメカ犬の質問への答えを先送りにしながら、タッチノートを取り出す。

 

メカ犬の気持ちも分かるが、俺だって何でこんな事態になっているのか知りたいくらいだ。

 

だけどこれ以上、あのドーパント達を好きにさせておく訳にはいかない。

 

『バックルモード』

 

タッチノートを操作する事によって音声が流れると同時に、足下に居たメカ犬がベルトに変形して俺の腹部へと巻き付く。

 

「変身」

 

音声キーワードを発しながら、俺はタッチノートを腹部のベルトへと差し込む。

 

『アップロード』

 

ベルトにタッチノートを差し込んだ瞬間に、俺の全身は光に包まれその姿を何処にでも居そうな少年から、一人の戦士の姿へと変えていく。

 

メタルブラックのボディーと四肢へと伸びる銀のライン。

 

同色のV字型の角飾りに、顔の半分近くを覆う赤い複眼。

 

仮面ライダーシードへと変身を果たした俺は、強化された脚力を発揮して、今も街を破壊し続けるドーパント達に向かって飛び掛かる。

 

近くに居た一体を、蹴り飛ばした事により、脅威とみなされたのか、周囲に居たドーパント達も一斉に襲い掛かって来た。

 

これ以上街に被害を出さない為に、俺はドーパント達を誘導しながら、比較的に広い通りに誘い込む。

 

「誘い出したは良いけど、ちょっと多すぎないか!?」

 

上手く誘い出したところまでは良かったのだが、思った以上に数が多い。

 

少なくても20体以上は居るとみて、間違い無いだろう。

 

『泣き言を言っている暇は無いぞマスター!』

 

「そりゃ分ってるけどさ」

 

メカ犬の言う事はもっともだ。

 

俺も正面から殴り掛かって来たドーパントの攻撃を掻い潜りながら、続いて横からも来るドーパントに対して身構える。

 

『後ろから来るぞマスター!』

 

更にメカ犬の助言を耳に、俺は背後にも注意を払うが、結果としてドーパントの攻撃が届く事は無かった。

 

それはある人物によって背後のドーパントが殴り飛ばされた為である。

 

「あ、あなたは……」

 

『まさか!?』

 

目の前でドーパントを殴り飛ばした人物を目にして、俺は咄嗟に言葉が出ず、メカ犬も驚愕の声を上げる。

 

漆黒のボディーと明るい緑が半々に別れた独特なボディーカラーに、風で揺らめく銀のマフラー。

 

その姿を忘れる筈が無い。

 

テレビ越しに憧れた二人で一人のヒーロー。

 

そして共に戦った友。

 

俺の目の前に現れたのは、他の誰でもない。

 

仮面ライダーWだったのだ。

 

「よう、元気そうだな」

 

「久し振りだね、純君達」

 

気さくに話し掛けてくる翔太朗さんとフィリップ君。

 

だけど、俺とメカ犬にはその挨拶に答える余裕等無く、思考はどうしてという感情が延々とループしている。

 

でも、あまりにも意外な再開はこれだけじゃ無かった。

 

更に少し離れた場所からドーパントが次々と火花をあげながら斬り倒されていく。

 

「行くぜ! 行くぜ! 行くぜえええええええええええええ!」

 

黒と白の基本カラーリングの上に、桃を模した赤いアーマーを纏うその姿は、あの人を置いて他に居ない。

 

特徴的な声からも良く分かる。

 

仮面ライダー電王のソードフォーム。

 

特異点である良太郎君に契約イマジンであるモモタロスこと、モモさんが憑依して変身した姿こそがあの勇姿である。

 

『マスター。ワタシの見間違いでなければ、あれは赤い者ではないのか?』

 

「いや、心配するな。俺にも見えてるから」

 

俺がメカ犬のフォローに回っていると、電王が俺達の存在に気付いたらしく、周囲のドーパント達を蹴散らしながら、此方に向かって突っ込んで来た。

 

「よう! 純達じゃねえか!」

 

「久し振りだね」

 

十分な距離まで近づいた電王はソードモードのデンガッシャーを一旦小脇に抱えると、空いた右手を挙げて、モモさんと良太郎君の声が連続して聞こえてくる。

 

「再開の挨拶は後にしようぜ」

 

「そうだね。いっぱい話す事はあるけど、まずは翔太朗の言う通り、このドーパント達を倒そうか」

 

再開の挨拶もそこそこに、Wが提案してきたので、俺と電王は頷きながら互いに背を任せて、戦いを再開する。

 

俺が拳を振るうすぐ傍では、Wがキレの冴え渡る蹴りを繰り出し、更にその近くではソードフォームの電王がソード状態のデンガッシャーで縦横無尽に暴れまくる。

 

流石にこの二人の協力があったのが大きかった。

 

既に残りのドーパント達は、数える程に減っている。

 

ただ分からないのは、倒したドーパント達は黒い霧となって消えていっているのだ。

 

つまりこのドーパント達は、ガイアメモリを使っていないという事である。

 

本当に何が起こっているのか、分からない事だらけだ。

 

だからこそ、この騒動に終止符を打ち、詳しい話を彼等から聞かなければならないと、改めて思う。

 

俺はタッチノートを開き、全体図の右足をタッチして再びベルトに差し込む。

 

それとほぼ同じタイミングで、Wもベルトのスロットルからジョーカーのガイアメモリを抜き出して腰のスロットルへと装填する。

 

更に電王が、ライダーパスをベルトの中央へとセタッチした。

 

『ポイントチャージ』

 

『ジョーカー! マキシマムドライブ!』

 

『フルチャージ』

 

其々のベルトから音声が鳴り響く。

 

「こいつで決めるぜ」

 

「これで決まりだ!」

 

俺とWは同時に飛び上る。

 

その間に電王がデンガッシャーの刃の先端を、空中へと飛ばす。

 

「俺の必殺技! 久々のパート2!」

 

デンガッシャーの刃先は手元に残った電王の手の動きに合わせて、半円状の軌跡を描きドーパント達を屠っていく。

 

「ライダーキック」

 

「「ジョーカーエクストリーム!」」

 

そして上空から俺とWは、背中合わせに必殺の一撃を放ち、落下地点に居るドーパント達を爆散させた。

 

「へへ、決まったぜ」

 

周囲のドーパント達を全て倒した事を確認した電王は、軽く鼻先を指で擦る。

 

取り敢えず、この場での戦いが終わり、俺達は変身を解く。

 

そして少し離れた場所で身体を置いていたフィリップ君が合流するのを待ってから、俺は話を切り出した。

 

「……で、一体なにがどうなってこんな事態になってるんです?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まるで砂漠の様な時間の狭間の先は、薄暗い森の中。

 

黒いローブを身に纏った男が、静かに歩を進める。

 

向かう先には、周囲の木々とは明らかに大きさの大樹。

 

樹齢で言えば、少なくとも300年は超えていると思われる大木だ。

 

しかし、その大木の上には若々しい緑の葉が生い茂り、まだこの大樹が成長途中である事を示している。

 

「ここが、次の楔を打つべき場所か」

 

男は誰に言う訳でもなくそう言うと、大樹にそっと手を差し伸べた。

 

薄暗い森の中ではあるが、木漏れ日が所々に降り注ぎ、その光の一つが男の顔を照らす。

 

男は陽の光とは対照的に、歪んだ笑顔を浮かべていた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。