魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~   作:G-3X

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映画版 仮面ライダーシード シークレットエピソード プリンセスメモリアル【前編】

「・・・遂に、遂に完成したぞ!」

 

何処かの研究室であろうか。

 

素人が見てもその用途を窺い知れそうに無い、大量の機材の中で、男は歓喜の声を上げる。

 

「これで・・・俺の夢が現実になる!」

 

何かをかみ締める様に呟くと、男は我に帰った様に思考を切り替えた。

 

「そうだ。まずは実験をしなくてはな・・・計画をより確実にする為にはデータが足りなすぎる」

 

棚から世界地図を取り出した男は、それを機材が置いてある台の空いているスペースに広げる。

 

「・・・やはり実験をするならばここが相応しいか」

 

男は世界地図のある一箇所に、ペンでマーキングを施した。

 

男が実験をするのにその場所を選んだのは、簡単な事だった。

 

男が完成させたそれは、その場所で見つけたものが基となっているものだったからだ。

 

其処は島国であり、この物語の中心となる場所・・・日本である。

 

 

 

 

 

 

 

「らめええええええええ!!!!!!」

 

俺はチェイサーさんの上で悲鳴を上げる。

 

タッチノートの警報により、ホルダーが現れた事を知った俺とメカ犬は、現場に向かっていた。

 

急いでいた為に、変身する事を忘れてチェイサーさんに乗ってしまった俺は、ジェットコースター以上の恐怖を絶賛体験中である。

 

『もうすぐ反応のあった場所だぞマスター!』

 

俺を風除けにしているメカ犬が現状報告する。

 

チャッカリと自分だけ安全確保しているメカ犬に、俺は確かな殺意を覚えるが、今はそれよりも優先しなければいけない事がある。

 

何とか体制を立ち直し、俺の視界は前方を視認する事に成功した。

 

目の前に見えるのは、何処までも続く様な青い海だった。

 

今俺達が向かっている場所は海鳴海岸である。

 

今は夏休みであり、海水浴客も多く来ている筈だ。

 

そんな所でホルダーが暴れたりしたら、大変な事になる。

 

「急いでくれよ!チェイサーさん!」

 

『任せてマスター』

 

チェイサーさんは俺の催促に二つ返事で答えると、更にスピードを増す。

 

『見えたぞマスター!』

 

メカ犬の声の言う通り、俺にも前方にホルダーがいる事を確認出来た。

 

出来たのだが・・・

 

「なあなあ、少しお茶するぐらい良いだろ?」

 

全身が赤くて、八本の触手を持つまるでタコの様な姿をしたホルダーが、水着のお姉さんをナンパしていた。

 

水着のお姉さんは本気で嫌がっているのが見て取れる。

 

「一緒にアバンチュールな夏を過ごそうぜ~」

 

うざい!

 

このホルダーマジでうざい!!

 

そして先程メカ犬に感じた以上の、大きな殺意と怒りが俺の心の中で膨れ上がってきた。

 

「・・・やっちゃってください。チェイサーさん」

 

『OK!』

 

俺のお願いを快く聞いてくれたチェイサーさんが全速力でナンパ中のホルダーに突っ込んだ。

 

「ぬべらっ!」

 

奇声と共に吹き飛ぶホルダー。

 

水着のお姉さんはこれを好機と見たのか、一目散に逃げ出していった。

 

他の人達は既に避難していたのであろう。

 

水着のお姉さんが去った後、この海岸にいるのは俺達と、チェイサーさんに突き飛ばされて、目の前でやばげな痙攣をしているホルダーのみである。

 

俺とメカ犬はチェイサーさんから降り、未だに痙攣しているホルダーに近づいていく。

 

「こんなくだらない事の為に、俺はあんな目に遭ったっていうのか・・・」

 

大きな被害が無かった事は、嬉しい限りではあるが、チェイサーさんの上で恐怖体験してまで急いで来た俺の苦労はなんだったのかと、やり場の無い何とも言えない感情が俺の心の中を支配する。

 

「いっつつ・・・何だってんだ一体?」

 

俺が心の中で葛藤しているうちに、やばげな痙攣が治まったのか、ホルダーが立ち上がってきた。

 

「ん、子供?」

 

目の前にいる俺に気付いたホルダーは、俺を見ると何でこんな所にと、疑問を口にした。

 

「・・・一応聞いておくんですけど、何でこんな事をしたんですか?」

 

全力で殴り倒したい衝動を抑えながら、俺は取り敢えず形式上の質問をしてみた。

 

俺の質問を聞いたホルダーは、突然目の前に現れた子供である俺に、疑問を抱いている様子を見せつつも、律儀に答えて見せた。

 

「ああ?そんなもん決まってるだろ!夏だぜ!夏と言えばロマンスだろ!!!そしてナンパだろ!!!!!」

 

答えているうちに、テンションが上がってきたのか、最後の方は殆んど叫んでいる様にしか聞えない。

 

・・・うん。

 

何と言うか。

 

俺の中の何かがぶち切れた気がする。

 

ある意味欲望に忠実ではあるけど、ホルダーになってまでする事では無いだろう?

 

俺はタッチノートを取り出して開く。

 

「・・・行くぞメカ犬」

 

『うむ。それにしてもマスター。今日は何時に無く得体の知れない迫力を纏っているな』

 

俺の隣に陣取っているメカ犬が、俺を見ながら何か言っているが、今は気にしないでおく。

 

今の俺は一秒でも早く、このやり場の無い不条理な怒りという感情を、目の前にいるホルダーに、拳で叩き付けたいのだ。

 

『バックルモード』

 

タッチノートのボタンを押すと音声が流れ、隣にいたメカ犬が銀色のベルトに変形して、俺の腹部に自動的に巻きつく。

 

「変身」

 

定められている音声キーワードを入力し、タッチノートをバックルの中央部の溝へと差し込む。

 

『アップロード』

 

差し込んだ瞬間に音声が流れ、バックルを中心に俺の全身を、白銀の光が包みこんだ。

 

光が飛散したその場所に佇むのは一人の戦士だった。

 

メタルブラックを基調としたボディに銀色のベルト。

 

そのベルトを中心に四肢へと伸びるラインに同色の額に光るV字型の角飾り。

 

顔の赤く大きな昆虫を彷彿とさせる複眼が、その存在をより一層引き立たせている。

 

「か、仮面ライダー!?」

 

俺の変身を見たホルダーが驚愕の声を上げる。

 

今更に思うが、仮面ライダーの認識度も、随分と広まった物である。

 

俺の脳裏に、腹黒な雑誌記者のお姉さんの顔が浮かび上がった。

 

あの人をこのまま野放しにしていたら、いつの間にか世界的に広められてしまいそうな気さえする。

 

あまり深く考えると気分が優れなくなりそうなので、俺は頭を切り替えて、目の前で驚愕しているホルダーを見据える事にした。

 

「・・・前置きは無しだ。覚悟しろ!」

 

俺はそれだけ言い放つと、脱兎の如くホルダーに向けて走り出す。

 

「くっ俺の何がいけないって言うんだ!?俺のナンパは最近噂の正義の味方に妨害されるほどに、迷惑だとでもいうのか!?」

 

迫り来る俺にホルダーが、主張してくる。

 

いや、俺だってナンパしてるだけなら、相手が余程嫌がってない限りは、本人同士の問題だから、干渉したりはしない。

 

だが、あえて言わせてもらうなら・・・

 

「それくらい自力でやれやああああ!!!」

 

俺は思いの丈を叫びながら、ホルダーに拳を叩き込んだ。

 

「ぐへ!」

 

ほぼ無防備に俺の拳を受けたホルダーは、タコの様な黒い液体を吐きながら吹き飛んだ。

 

その光景に俺は少しだけ、スッキリした。

 

しかしあのホルダーが吐いた墨みたいのは何なのだろうか?

 

もしかして墨を吐くのが、あのホルダーの能力なのかも知れない。

 

だとしたら救いようが無いな・・・今回のホルダー。

 

『今だマスター!』

 

メカ犬の声に反応してホルダーを見てみると、ホルダーは俺の怒りの一撃が余程効いた様で、蹲っていた。

 

・・・本当に何だっていうんだ、今回のホルダーは?

 

不味い、頭痛がしてきた気がする。

 

「ああ、分かってる」

 

俺はメカ犬に短い返事を返しながら、バックルのタッチノートを引き抜く。

 

俺の今の心境は、早く帰りたい、この一言に尽きる。

 

タッチノートを開き全体図を表示させて、右足をタッチし、再びバックルに差し込む。

 

『ポイントチャージ』

 

音声と共に白い光が発生し、ラインを通して光が右足に集約される。

 

「こいつで決めるぜ」

 

俺はその場から上空に舞い上がる。

 

そして輝く右足を、ホルダーに向けて必殺の一撃を繰り出す。

 

「ライダーキック」

 

凄まじい勢いで放たれた必殺の蹴りは、情け容赦など一切無く、ホルダーに見事直撃して爆発を巻き起こした。

 

爆発から出てきたのは海パン姿の若いロン毛なあんちゃんだった。

 

『やったなマスター』

 

「・・・ああ、そうだな」

 

何時に無く虚しく感じる勝利に、俺はメカ犬に適当な返事を返す。

 

「・・・帰るか」

 

『うむ』

 

メカ犬の了承を得た俺はその場を後にした。

 

残されたのは、海パン姿で気絶しながら、エロい寝言を呟くロン毛ただ一人であった。

 

 

 

俺はまだ知らない。

 

この時別の場所で、大きな計画が動き出そうとしている事を・・・

 

そしてその計画に、俺が否応無く巻き込まれていく事など、夢にも思ってなどいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

【映画版 仮面ライダーシード シークレットエピソード プリンセスメモリアル】

 

 

 

 

 

 

 

「は~い。皆久しぶり。夏休みは楽しかったですか?先生は楽しかったですよ」

 

海鳴市にある私立聖祥大附属小学校の一室の教卓で、一人の女性教師が、目の前に居る数十人の小学生にそう挨拶した。

 

彼女の名前は山中真理子〈やまなかまりこ〉。

 

ここ私立聖祥大附属小学校に勤務する教師で年齢は乙女の秘密らしいが、見た目は二十代半ばといった所だろう。

 

髪はショートカットで、いつも寝癖の様な癖っ毛が猫の耳を思わせる形で標準装備されている。

 

正確は穏やか、かつ天然であり生徒にも人気がある。

 

何でこの私立聖祥大附属小学校教師である真理子先生が、教卓で先程の事を言っていたかというと、答えは至ってシンプルだ。

 

真理子先生が言っていた通り、夏休みは昨日を最後に終わりを告げた。

 

今日は9月1日で二学期最初の登校日なのである。

 

そして、既に気付いている人もいるかと思うが真理子先生は何を隠そう、俺やなのはちゃん達の担任なのだ。

 

つまりこの真理子先生こそが、普段から俺の存在を忘れる天然ボケ教師であり、案の定今日も点呼で俺は呼び忘れられたのである。

 

悪意等が無いだけに余計に性質が悪い。

 

二学期早々これなのだから、俺と真理子先生の戦いはこの先も長く続きそうである。

 

「二学期が始まって早速なんですけど、皆に重大なお知らせがありま~す」

 

何故か真理子先生が言うと、重大という言葉がとてもほのぼのとした意味に聞えてくるのは、どういう事なんだろうか。

 

だが、既に一学期でこの人の大体の人柄を把握している、俺を含めたクラスメイト達は、その間延びしたような声にも、はっきりとした反応を示した。

 

教室がにわかにざわめき始める。

 

「真理子先生。重大なお知らせって何なんですか?」

 

クラス全体を代表して、この教室でもリーダー的な位置付けを確立しているアリサちゃんが質問した。

 

真理子先生はアリサちゃんのその質問に対して、いかにも待ってましたと言いたげな表情をして答えを返す。

 

「ふっふっふっ・・・実は今日からこのクラスに新しいお友達がやってきます」

 

とても似合わない含み笑いをした真理子先生が、自身のオシャレメガネを摘んで位置直しながら告げる。

 

新しいお友達って事は、転校生でも来るのだろうか?

 

「さあ!入ってきて!!!」

 

教室のドアに向かって真理子先生が、合図を送る。

 

その合図に教室に居た全員の視線が、教室のドアに集中する。

 

そして幾多の視線に晒されたドアが、真理子先生の合図に呼応するかのように開け放たれる。

 

扉の先から教室に入ってきたのは、途轍もなく長い赤色のカーペットだった。

 

次に教室に入ってきたのは、今すぐ戦争地帯に行っても平気そうな、フル装備を整えた数十人の屈強な男達だった。

 

男達はカーペットを囲む様に的確な動きを見せる。

 

その光景はまるで、テロリストの掃討作戦か、予算を大量に注ぎ込んだアクション映画のワンシーンである。

 

あまりにも突然な出来事に全員が唖然としていると、赤いカーペットを一人の老人が歩いてくる。

 

所謂執事服を身に纏った老人は、何故か片手にバスケットを持ち、その中に入っている薔薇の花弁を撒きながら真理子先生が居る教卓の前まで歩を進めてきた。

 

というか、この状況を呼び込んだ張本人であるはずの、真理子先生まで唖然としているのはどういう事だ?

 

老人は教卓前で立ち止まると、一息だけ、息を吸い込むと、叫び声と言っても過言では無い大声を張り上げた。

 

「姫様のおなあああああああああありいいいいいいいいいいいいい!!!!!!」

 

その瞬間武装していた男達が何処から取り出したのか、ラッパでファンファーレを吹き鳴らす。

 

うるさい事この上ない。

 

一連の意味不明な現象の後に、更なる登場人物がこの教室にやって来た。

 

それは、この学校の制服を着た一人の女の子だった。

 

見た目からして、年齢は俺達と同じ位であろう、その少女は腰まで届きそうな綺麗な銀髪を揺らしながら、カーペットの上を歩いてくる。

 

端正な顔立ちと、強い意志を宿した力有る瞳が、彼女をどこか遠い存在の様に思わせる印象を与えていた。

 

女の子は教卓の前にまでやって来ると、俺達を眺めてから、その見事な銀髪を右手でかき上げると、言葉を発した。

 

「我が名はエミリー・シルバーライト・キャンベル。短い間ではあろうが世話になるぞ」

 

その日俺達のクラスにやって来た転校生は・・・一人のお姫様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「え~それでは改めまして、交換留学生のエミリー・シルバーライト・キャンベルさんです。皆仲良くしてあげてくださいね~」

 

教卓の前で真理子先生が隣の銀髪の女の子を、俺達に紹介している。

 

先程までこの場に居た執事服の老人と、屈強な男達に、カーペットと薔薇は既にこの教室から姿を消していた。

 

意外な事にあのカオスな状況を見事に解決したのは、その原因を担った一人である、我がクラスの愛すべき天然ボケ教師の真理子先生だった。

 

女の子が言葉を発した後に言語機能が復活した真理子先生は、激怒した。

 

見た目としては恐い所か微笑ましい事この上ないのだが、兎に角怒ったのである。

 

切々と常識を語られた真理子先生に、老人が最後まで抵抗していたのだが、結局今回の軍配は常識を説いた真理子先生に上がり、老人と、屈強な男達はこの場を退散して行ったのだ。

 

「エミリーさんはなんと!あのシルバーライト島のお姫様なんですよ~」

 

この日常を勝ち取った今日の勝利者である真理子先生が、女の子の補足説明をしてきた。

 

シルバーライト島。

 

それはこの日本とハワイの丁度中間地点に在る島だ。

 

前世では、そんな島は無かった筈なのだが、此方の世界では、何故かその場所に存在していたのである。

 

以前この世界の事を色々と調べていた俺は、その島の存在を知った時興味を持ったので、触り程度ではあるが調べてもみた。

 

シルバーライト島には、一つの独立した国家が築かれていて、何処の国にも属していない独自の法の基に成り立っている。

 

しかも、今尚一貫された国王政権を貫いているのを知った時は、驚いたものだ。

 

今目の前に居るこの女の子がお姫様だというのも、現シルバーライト島の王様の娘ならば、確かな真実だ。

 

それならば、先程この教室にやって来た男達に対しても護衛だと思えば、取り敢えずの納得はいく。

 

日本はシルバーライト島と近い場所にある事もあり、昔から交易も頻繁に行われてきたので、両者の関係は良好ではあるのだが、それでも疑問に思う事がある。

 

幾ら仲が良い国同士とはいえ、一国のお姫様が如何して留学生なんぞしているかという事だ。

 

こんな事が両国の間で行われた事など、少なくても公式の史実には全く無い。

 

それを裏付ける様に、あの過剰なまでの護衛体制だ。

 

政治的な何らかの策略があるのでは無いかと、勘繰るのは無理も無い話しである。

 

「それじゃあ、エミリーさんの席は何処にしようかしら?」

 

俺がシルバーライト島に関して知っている事を思い出しているうちに話が進んだのか、真理子先生がお姫様の座る席を探し始めた。

 

「我はあの場所が良い。日当たりがとても良さそうじゃ」

 

お姫様が、教室のある一点を指差した。

 

その場所は窓際の一番後ろの席で、確かに晴れた日は、日当たりも良さそうである。

 

人数の関係で、其処には人が居なかったので丁度良いというのもあったのだろう。

 

「それじゃあ残るは、エミリーさんのお世話係ね・・・」

 

席は何の障害も無く決まったのだが、もう一つ決めなくてはいけない厄介な事があった。

 

それは先程真理子先生が呟いたお世話係の事だ。

 

老人は、真理子先生に討論の末に敗北して、この場を後にして行ったのではあるが、最後にかなり無茶な面倒事を頼んで来たのである。

 

それがお姫様の専属お世話係だ。

 

最初は執事服の老人がその役を担うはずだったのだが、真理子先生一蹴の下それは即座に否決されてしまった。

 

ならばせめてクラス内で、誰か一人を校内に居る間だけでも良いから、その任につけてくれと懇願して来たのである。

 

首を縦に振るまで此処から一歩も動かないという意志が老人の全体から漂っていた。

 

これには流石の真理子先生も了承する以外出来なかったわけなのだ。

 

「う~んそれじゃあね~・・・うん!君に決めた!」

 

悩んだ挙句に真理子先生は、永遠の十歳な魔物使いみたいな事を言って一人の生徒を指差した。

 

教師が生徒に指差すなとか、言いたい事は山ほどあるが、今は取り敢えず良い・・・

 

良くは無いが、今はそれ所ではないのだ。

 

それと言うのも・・・

 

「エミリーさんのお世話係は君に一任するから頼むわね。純君」

 

その指を差された生徒が俺だったからだ。

 

普段から人を散々呼び忘れるくせに、如何してこんな時に限り、俺に無茶振りをしてくるのだろうかこの天然教師は!?

 

「それじゃあ、席も決まった事なんで移動しましょうね~」

 

その真理子先生の言葉を合図に、クラスメイト達が俺の席を一つずつ詰めながら移動を開始する。

 

今の一言で真理子先生が言わんとする事を瞬時に理解した生徒達が、俺の席がお姫様の隣に配置される様に動き出したのだ。

 

小学一年生にして、この順応速度の速さは異常な事とすら感じる今日この頃である。

 

移動は直ぐに完了して、お姫様が俺の隣の席に着く。

 

「そなたが我の世話係か。良きにはからえ」

 

お姫様は何処かおかしな日本語を喋りながら、俺に話しかけてきた。

 

「えっと・・・こちらこそよろしくお願いします。お姫様」

 

どう接して良いのか分からないが、何とか挨拶を試みてみる。

 

「そんなに硬くならなくても良いぞ。そなたには特別に、我をファーストネームで呼ぶ事を許可してしんぜよう」

 

以外にもフランクな姫様は、とても硬い感じの挨拶をしてきた俺に対して、優しげな言葉をかけてきた。

 

やっぱり何処か変な日本語ではあるけれど・・・

 

「それじゃあ・・・宜しく。・・・エミリーちゃん」

 

「様を付けぬか!この馬鹿者が!!!」

 

俺の頭頂部にお姫様のチョップが炸裂した。

 

どうやらお姫様の中では、俺は今同級生であると同時に雇われた使用人的な位置付けにある様だ。

 

だから、呼ぶ時は敬意を込めて様付けしなければいけないらしい。

 

お姫様改め、エミリー様専属のお世話係になった俺は、痛む頭頂部を擦りながら、取り敢えずこんな事を思った。

 

この仕事は報酬出るんだろうかと・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「計画の首尾はどうなっている?」

 

薄暗い会議室と思われる部屋の一室で、男は質問する。

 

「はい。計画は順調に進んでいます。例の物も無事に散布し終えましたので、予定通り実験の開始は今から五時間後に」

 

質問されたもう一人の男がその質問に対して答えを返す。

 

「そうか・・・もうすぐだな。この実験が成功すれば、君にも約束していた物を用意する。確りと頼むぞ」

 

男の答えに満足した様に頷いた男は、報酬をちらつかせながら、念入りに答えを返した男に言い聞かせる。

 

「はい。・・・しかし宜しいのですか?あの者を野放しにしておいて。もしかしたら私たちの障害になるのでは?」

 

男は言葉に不安という感情を乗せながら進言する。

 

「ふふ・・・別に構わんさ。どうしても邪魔になるようならば消してしまえば済む事だ。それにあれにはまだ利用価値も残っているしな」

 

「利用価値ですか?」

 

「君が気にする事でも無いだろう。それよりもまずは例の実験を成功させる事が今は重要だ」

 

男は笑う。

 

深い闇の様な笑みは、まるでこの部屋と男の内面を表しているかの様だった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

私立聖祥大附属小学校は初日から授業がある。

 

一般の小学校なら初日は、校長の演説聴いたら即終了な所が多いかもしれないが、生憎とこの学校はそんな日本の伝統は通用しないみたいである。

 

さて、そんな訳でお姫様であるエミリー様の専属お世話係に、見事抜擢された俺も、この学校に通う一学生である為、当然の事ながら授業を受けていたりする。

 

エミリー様の留学期間は、真理子先生の話しでは二週間だけなのだそうで、実は俺のやる事はそんなに多くなかったりする。

 

ようは二週間の間はなるべくエミリー様を一人にしない様に心掛ければそれで良いんだそうだ。

 

それに意外な事にエミリー様は、少しおかしな日本を使う以外は、何処にでも居る女の子とさほど変わり無かった。

 

まあ、礼節やらそういった事はさて置き、エミリー様本来のお世話係であるサバスチャンという人が俗世の事も教えてくれるんだとか。

 

サバスチャンとは、朝一番に教卓前で真理子先生とガチンコトークバトルを繰り広げていた執事服を身に纏っていた老人の事である。

 

エミリー様の少し変な日本語もそのサバスチャンが教えた物らしい。

 

ちなみにどんな教え方をされたのか聞いてみた所、エミリー様が一冊の本を鞄から取り出して、俺に見せてくれた。

 

その本を参考にしてエミリー様は日本語を勉強したそうだ。

 

本の表紙には、やけに可愛らしいく、見覚えのある女の子のイラストが描かれていた。

 

その本のタイトルは、

 

【萌え萌え!マジカルナノネの日本語講座♪】

 

とても返答に困る物を持ち出された俺は困惑した。

 

取り敢えず今の俺に出来る事は、エミリー様にサバスチャンと二人きりの時は、絶対に油断しない様に注意を促す事だけであった。

 

他には特に変わった事も起こらず、無事に放課後を迎えた。

 

放課後といっても、今日は午前中だけの授業しかなかったので、まだお昼前ではあるけれど。

 

流石にこの学校も二学期の登校初日に午後までたっぷりと授業をする気は無いようである。

 

「エミリー様はお帰りになる際は如何するんですか?」

 

この数時間ですっかりと様付けが慣れた俺は、帰り支度をしながらエミリー様に話しかける。

 

脳内でも既に様付けが固定されているあたり、後戻り出来ない領域に既に足を踏み入れているんじゃないかと、多少の不安を抱く。

 

「帰りは我の護衛の者達とサバスチャンが来る予定じゃ。案ずる事はないぞ」

 

俺の質問にエミリー様が笑顔で答える。

 

それを聞いた俺は安心する。

 

最近の海鳴はホルダーが出たりと物騒な事が多いから、これで徒歩で帰られて事件にでも巻き込まれたりしたら、国際問題に発展する危険すらある。

 

サバスチャンには別の意味で危機感を感じるが、あの屈強な男達がエミリー様を護衛するなら、特に心配する事も無さそうだ。

 

「それじゃあ、校門までお見送りしますね」

 

「うむ。頼むぞ板橋」

 

俺はエミリー様と連れ立って教室を後にして、校門へと向かった。

 

「所でエミリー様は、シルバーライト島では、現地の学校に通われていたんですか?」

 

廊下を無言で歩くのも何なので、俺は軽い世間話等をしてみる事にした。

 

今日一日ではあるが、俺はエミリー様と一緒に居る時間と、会話をする機会も多かったので、多少の日常会話をするほどの仲にはなっていた。

 

他のクラスメイト達なのだが、朝の姫様チョップが原因なのか、相手がお姫様という事で気後れしているのか、軽い挨拶程度はするものの、あまり話しかけて来る事はしなかった。

 

なのはちゃん達ですら話しかけて来ないのだから、よっぽどだろう。

 

でもその最大の要因は、エミリー様自身にある様に思えた。

 

お世話係に任命された俺に対して以外は、何処かクラスメイト達を遠ざける様な態度を示してくるのである。

 

それが他国のお姫様としては、当然なのか俺には分からないが、俺への態度と比べると、どうもそういう事では無さそうだ。

 

「いや、島にも幾つかの学校はあるのじゃが我は立場もあるのでな。勉学は全て家庭教師じゃ。こういった場所で勉強をするのは始めての経験じゃな」

 

エミリー様は何処か困惑した様な表情と、恥かしそうな表情を合わせた様な顔をして答えた。

 

「それじゃあ、エミリー様は今日が学校初体験って事だったんですね。でも何で此処に交換留学生としてやってきたんですか?今までシルバーライトの王族の人が日本の学校に通った何て話は初めて聞きましたけど?」

 

少し立ち入った事を聞いてしまったと思うが、気になっていたのだから仕方が無い。

 

そもそも、あんなにも厳重な護衛体制を敷くならば、余程の事態でも起こらない限り、こんな事等しないだろう。

 

聞けなくても当たり前な精神で俺はエミリー様に質問した。

 

エミリー様は俺の質問に、一瞬だけ瞳を大きく見開き動揺するが、すぐにその表情は形を潜めた。

 

「・・・悪いが言えぬのじゃ。すまぬな。隠し事等をする主で・・・じゃが」

 

「ひ~め~さ~まあああああああああああああああああ!!!!!!!」

 

エミリー様が俺に何かを言いかけたその時、外から校舎の全ての窓をぶち抜けそうな程の大声が轟いた。

 

「・・・どうやら迎えが来たようじゃな。急ぐぞ板橋」

 

先程の話はこれで終わりと言わんばかりに、エミリー様は校舎の玄関に向けて早足で歩き始める。

 

エミリー様が俺に何を秘密にしているのか、さっきは何を言おうとしていたのか、とても気になるが、この様子では聞いても答えてくれそうには無い。

 

「待ってくださいよエミリー様」

 

俺も少々不躾な質問をしてしまった事に反省しながらも、エミリー様を追いかけて、揃って校門へと向かった。

 

「ご無事でしたか姫様!?サバスチャンは姫様と引き離されたこの数時間、生きた心地が致しませんでしたぞ!!!!!!!!」

 

校門前にやって来たエミリー様を目撃した、老執事こと、サバスチャンは咽び泣きながらエミリー様に抱きつこうとするが、慣れた手付きの屈強な護衛達により取り押さえられた。

 

護衛達のやれやれまたかといった表情から、このサバスチャンの奇行が一度や二度で無いことは、この光景を始めて目撃した俺でも容易に想像出来る。

 

「全く心配性じゃな、サバスチャンは・・・」

 

エミリー様が苦笑いを浮かべながら言ってはいるが、止める相手が居なくて本当に抱きつこうものならば、この老人は笑い事では済ませられない事になりそうな勢いがある気がするのは、俺の思い過ごしだろうか。

 

暫くは興奮状態で話にもなら無そうだったからか、護衛の一人がサバスチャンの代わりにこちらに近づいて来た。

 

「お迎えに参りました姫様」

 

いかにも歴戦の戦場を渡り歩いてきたソルジャーだと言わんばかりの、顔のそこらじゅうに古傷を持った大男がエミリー様に話しかけてきた。

 

「うむ。ご苦労じゃったな黒澤」

 

エミリー様に労いの言葉を貰った大男は一礼した後、エミリー様の隣に居た俺に視線を向けた。

 

その厳つい顔で見られた事により俺は、一瞬だけ命の覚悟をしてしまいそうになった。

 

正直に言おう。

 

この人めっちゃ顔恐い・・・

 

「姫様。この少年は?」

 

何とか表面上は平静を装う俺というか恐怖で微動だに出来ない俺を見ながら、黒澤と呼ばれた大男が、エミリー様に質問する。

 

「その者は我が学校に通う間、の世話係になった板橋じゃ、短い間ではあるが、黒澤達同様に我に仕える同僚じゃ。良きにはからえ」

 

「はっ!」

 

黒澤と呼ばれた大男がエミリー様に向かい敬礼すると、今度は確実に俺の所にやって来た。

 

「私の名前は黒澤一夜〈くろさわいちや〉だ。この護衛隊の隊長を務めている。校内には基本私達は立ち入る事が出来ないので、姫様の事を宜しく頼むぞ。板橋君」

 

改めて俺に自ら自己紹介をした黒澤さんは、俺に右手を差し出し握手を求めてきた。

 

「えっと、エミリー様のクラスメイト兼お世話係になった板橋純です。こちらこそよろしくお願いします」

 

俺はおっかなびっくりしながらも差し出された右手を掴み、大男と少年の傍から見れば奇妙にすら見えそうなシェイクハンドを成功させた。

 

「さて、それではホテルに戻りますよ姫様」

 

長くとも短くとも思える握手時間が終了すると、黒澤さんがエミリーさんにそう進言した。

 

「そうじゃな。それでは今日は、ご苦労であったな板橋。明日もこの調子で頼むぞ」

 

エミリー様は黒澤さんの進言を聞き入れると、今度は俺に労いの言葉をかけた。

 

「それでは外に車を用意させているので、お乗りください姫様。T!姫様を送迎の車にお連れしろ!」

 

黒澤さんがそう言うと、護衛隊の一人が返事をして俺達の前に走ってくる。

 

「はい!了解しました隊長!」

 

走ってきたTと呼ばれた人物は、他の屈強な男達と違い高校生ぐらいと思われる好青年だった。

 

見方によれば、現役高校生の恭也君よりも若く見えるかも知れない。

 

Tと呼ばれた隊員は俺を見ると、笑顔で話しかけてきた。

 

「宜しく。板橋君。暫く俺は護衛隊では専任で姫様のお付きで、君と会う機会も多いと思うから、挨拶しておくよ。隊長が呼んでいた通り俺はTだ。改めて宜しく」

 

先程の黒澤さんと同じく、Tさんも俺に握手を求めてきた。

 

「板橋です。こちらこそ宜しくお願いします。ところでTって珍しい名前ですね?」

 

俺は求められた手を取り握手をしながら、素直に思った事を口にした。

 

「へ?ははは。違うよ板橋君。俺の本名は他にちゃんとあるさ。これは仕事上のコードネームさ。隊長のように特別な役割を担っている人意外は効率的な作業が出来るように便宜上の名称が使用されているだけだよ」

 

説明を終えたTさんは俺の質問が余程つぼに入ってしまったのか、いまだに笑っている。

 

「T!私語はそれ位にして仕事をしろ!」

 

Tさんの笑いに腹を立てたのか黒澤さんが一喝する。

 

「まあ、良いではないか。サバスチャンの暴走に比べれば、この様な私語なぞ可愛いものじゃ」

 

エミリー様が怒った黒澤さんをたしなめる。

 

一応は認識してるんだな、エミリー様もあの老執事の変態性を・・・

 

「・・・確かにそうですね」

 

そしてそれで納得しちゃうんだ黒澤さん!?

 

サバスチャンはこの人達にとってどういう位置付けなのだろうか?

 

今も尚、隊員さん達に押さえつけられながらも、エミリー様に抱きつく事を諦めずにもがくサバスチャンを見ながら俺は、密かにエミリー様の将来を心配してしまった。

 

「それでは参りましょうか。姫様」

 

「うむ」

 

Tさんの言葉に頷くエミリー様。

 

俺は校門の外へと歩いていくその姿、を手を振りながら見送った。

 

やがて姿も見えなくなり、無事に役目を果たした俺は大きく伸びをした。

 

「さてと俺も帰るか『キンキュウケイホウキンキュウケイホウ・・・』ホルダー反応!?」

 

ポケットに忍ばせていたタッチノートが警報を鳴らすと同時に、俺にある人物が声をかけてきた。

 

『マスター。街で十体以上のホルダーが暴れているぞ!』

 

俺の事をマスターと呼ぶのは一人しかいない。

 

声に振り向けば予想通りその姿が俺に向かって走ってくる。

 

だがそれよりも気がかりな事は、話していた内容にあった。

 

「どういう事だよメカ犬!?今までホルダーがそんなに同時に同じ活動するなんて無かっただろ!?」

 

俺はすぐ傍まで走ってきたメカ犬に対してどういう事なのか問質す。

 

『同じ時期に同じ欲望でホルダー化したのであれば可能性はゼロでは無いが、その可能性は限りなく低い筈だ。しかし現実にホルダーは同時に複数・・・いやもしかしてこれは!?』

 

「何か分かったのか?」

 

『・・・いや、確証も無いのに下手な事は言えないな。すまないマスター。だが実際に多数のホルダーが街で暴れているのは確かだ』

 

メカ犬の言うとおり、原因はさて置き、一刻も早くホルダーを止めないとこの海鳴市が大変な事になる。

 

「行くぞメカ犬!」

 

『うむ!』

 

俺はメカ犬と共に学校を出て、現場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「確かに、ホルダーだらけだな・・・」

 

『うむ』

 

チェイサーさんを呼んで、急いで駆けつけたのだが、現場にはメカ犬が校舎前で言っていた様に、少なくても十体以上のホルダーが文字通り暴れていた。

 

しかもホルダー達の姿は全員同じ姿をしていた。

 

黒いボディスーツに頭部が骸骨を模した形をしている。

 

「取り敢えず、こいつ等を如何にかしないとな」

 

『・・・』

 

「如何したメカ犬?」

 

既に仮面ライダーに変身しているので、メカ犬はベルトの状態で俺の腹部に巻かれているのだが、返事を返さない事を疑問に思い、如何したのかと改めて聞いてみた。

 

『・・・いや、どうにもこのホルダー達に違和感を感じるのだ』

 

考え事をしていただけだったのか、メカ犬はすぐに返事を返した。

 

しかし同時に気になる事も言ってくる。

 

「違和感?」

 

『うむ。このホルダー達は、今まで戦ってきたホルダーと何処か根本・・・いや、別の何かが混ざっている様な違和感がある』

 

「何かが混ざっている?」

 

メカ犬の言おうとする事が段々と難解になってきた。

 

『マスターはフェアリーベルの事を覚えているか?』

 

「・・・ああ」

 

確かに覚えている。

 

あの子の事を忘れるなんて俺にはそれこそ無理な話だ・・・

 

『そのフェアリーベルや街で戦った能力で作られた四体のホルダーと全く同じでは無いが、近い感じがあのホルダー達から感知出来るのだ』

 

「それって、あいつ等も何かの能力で作られた人工のホルダーって事か?」

 

『今の段階では、情報が少なすぎて何とも言え無いが、今の所その可能性が最も高い』

 

まあ、奴らの正体はさて置き、今俺達がやらなきゃならない事は・・・

 

「兎に角戦うぞメカ犬!どっちにしろ放っておく訳にも行かないだろ!?」

 

『うむ。だが気をつけろマスター』

 

「分かってるさ!!!」

 

俺はメカ犬に返事を返すと、最も近い場所に居たホルダーに接近して、殴りかかる。

 

それを合図に周りに居た他のホルダー達も、目的を街の破壊活動から、突如現れた邪魔者の排除、つまり俺と戦う事に目的を変えたらしく、一斉に襲い掛かってくる。

 

『来るぞマスター右だ!』

 

メカ犬からの状況報告が俺の耳に届く。

 

「ふん!」

 

俺は上体を斜めにして右方向から来るホルダーの攻撃を避けて、反対に拳を叩き込んで吹き飛ばす。

 

更に正面から、二体のホルダーが迫る。

 

一体は飛び込み様に蹴りを入れて下がらせてから、その隙にもう一体の相手をする。

 

しかしその瞬間背中に衝撃が走り、俺は後方に吹き飛ばされる。

 

「ぐは!?」

 

俺はホルダー達の囲みから少し離れた場所に転がる。

 

『大丈夫かマスター!?』

 

痛みはあるが動くのに支障は無いので、俺はすぐさま立ち上がり、メカ犬に答えを返す。

 

「ああ、でもこうも数が多いとやりにくいな」

 

『戦い方を変えるぞマスター。相手が数で来るならば、こちらはスピードで勝負だ』

 

「分かった!」

 

俺はベルトの右側をスライドさせて、緑色のボタンを押す。

 

『スピードフォルム』

 

音声が流れると同時に俺の全身を光が包みこむ。

 

光が飛散すると、先程までメタルブラックだったボディーカラーがライトグリーンに変化する。

 

更に俺は緑のボタンの近くに配置されている黄色のボタンを続け様に押す。

 

『スピードロッド』

 

バックルから俺の目の前に光の粒子が集まりだす。

 

それを俺が掴んだ瞬間に更なる変化が起きて一つの形を成した。

 

その名称はスピードロッド。

 

棒状の武器で、このスピードフォルムの専用装備である。

 

俺はスピードロッドを構えて、目の前のホルダー達を見据える。

 

「飛ばすぞメカ犬!」

 

『うむ!』

 

このフォルムは全フォルム中最も早さと跳躍能力に特化している。

 

代わりに肉弾戦の能力が若干下がる為に、それを補う武器も用意されているのだ。

 

俺はその素早さを活かして一気にホルダー達との距離を詰める。

 

「は!」

 

スピードロッドを縦横無尽に振り回して、困惑するホルダー達に連撃を叩き込む。

 

やっと自分達の置かれた現状に気付いたのか、反撃を開始するが、それを黙って容認する訳には行かない。

 

ロッドの先端をホルダーの一体に引っ掛けて壁にしつつ、最後に吹き飛ばす。

 

残りのホルダー達は、持ち手を端に持ち替えたロッドを、円形に振り回して牽制する。

 

『囲まれたぞマスター!』

 

メカ犬から声が飛ぶ。

 

「好都合だ!」

 

俺はその声に短い返事を返しながら、バックルからタッチノートを引き抜き、スピードロッドの溝にスライドさせる。

 

『ロード』

 

音声を確認してから、再びタッチノートをバックルに差し込む。

 

『アタックチャージ』

 

ベルトから発生した光が右腕のラインを通って、スピードロッドの先端に集約される。

 

「こいつで決めるぜ」

 

俺はスピードロッドを光りが集約された先端を前方に向けて構える。

 

「スピードロッド」

 

そのまま自分を支点として振り回す。

 

「ウインドテイスティング」

 

真空の刃が波紋を描きながら円状に広がり、俺を囲んでいた全てのホルダー達に見事命中して、爆発を引き起こした。

 

「・・・ふう」

 

全てのホルダーを倒した事を確認した俺は、安堵の溜息を零す。

 

『やったなマスター』

 

「ああ」

 

メカ犬の労いの言葉を聞きながら俺は、爆発の起こった地点を観察する。

 

其処には、倒したホルダーと同じ人数の気絶した人たちが居た。

 

子供から大人まで、年齢も性別も血縁関係も無さそうな彼らが、何故同じ姿のホルダーになっていたのか、疑問に思う。

 

「ん、これは?」

 

俺は見慣れない物が落ちていたので、近づいて拾い上げてみる。

 

形としてはビー球程の大きさの球体でひび割れている。

 

それは黒色だったが、これはまるで・・・

 

「もしかして、これも暴走プログラムなのか!?」

 

俺はベルト状態のメカ犬に確認を求める。

 

『いや、この世界に送られてきたシステムは、全て同一の筈だ。新たに送られてきた物ならば、こちらから反応が確認できるだろう』

 

帰ってきた返答は否定の言葉だった。

 

『だが、それは確かに暴走プログラムに類する物で間違いない』

 

否定したと思えば今度は肯定の言葉を言ってくるメカ犬。

 

どうにも要領を得ない。

 

「結局これは何なんだよメカ犬?」

 

『・・・あり得ないと思うのだが・・・いや現に実物があり、使用者が実際にホルダー化したのだ。これは純然たる事実として受け止めなければならないな』

 

メカ犬は暫く自問自答を繰り返したが、やがて自分の中に一つの答えを導き出したのか、俺に説明し始めた。

 

『マスター。事態はワタシ達が思っている以上に、深刻になっているかも知れない』

 

「どういう事だよ?」

 

『恐らくマスターが今手に持っているそれは、暴走プログラムの模造品だ』

 

「模造品?」

 

『うむ。予測ではあるがそれは、この世界の誰かが、本来の暴走プログラムを基に作成したこの世界の暴走プログラムだ』

 

メカ犬の発した言葉に俺は、一瞬思考が停止した。

 

だがすぐに考えを再開してメカ犬に疑問をぶつける。

 

「この世界の技術で、そんな事可能なのか!?」

 

『難しいだろうな。いや、今の技術力で完全に再現するのは無理と断言できる。だが現実として実物は目の前に存在している』

 

誰がこんな物をどうやって作ったのか、この先俺達が何をすべきか思案しようとしたその時に、背後に人の気配を感じた。

 

振り返ると、其処には一人の少女が居た。

 

腰まで届く綺麗な銀髪が風に流れる。

 

端整な顔立ちに、強い意志を秘めた瞳が俺をみつめている。

 

俺はその少女を知っている。

 

知っている所か、少し前まで一緒に居たのだ。

 

見間違える筈も無い。

 

今俺の目の前に居る少女の名は、エミリー・シルバーライト・キャンベル。

 

正真正銘シルバーライト島のお姫様である。

 

如何して護衛の人達と帰った筈のエミリー様がこんな場所に居るのだろうか?

 

さっきから訳の分からない事の連続で頭が如何にかなりそうである。

 

「おぬしが仮面ライダーじゃな?」

 

エミリー様が俺に、仮面ライダーに話しかけてきた。

 

取り敢えず俺はその問いに無言で頷いた。

 

「・・・そうか」

 

俺が頷いたのを見て、安心したのか少しだけ微笑むが、すぐに真剣な表情をしたエミリー様が俺に近づいてくる。

 

「率直に用件を言おう。我の頼みを聞いて欲しい」

 

そう言ったエミリー様は一枚の紙を取り出して俺に突き出してきた。

 

「この場で全てを話したいのじゃが、今の我には其処までの時間は残されていないのじゃ。すまぬが、おぬしに我の話を聞く意思があるのなら、明日この紙に書かれた時間と場所に来てはくれぬか?そこで全てを話す」

 

俺は突き出された紙を受け取った。

 

するとエミリー様は再び笑顔を浮かべてから、後ろを向き、頼むぞと呟くと、その場を去って行った。

 

俺はその後ろ姿を無言で見送りながら、一体何が起ころうとしているのか、考えを巡らせる事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

暗い会議室の様な部屋で椅子に座った男が、目の前で直立する男に話しかける。

 

「実験は上手くいったか?」

 

「はい。起動に問題も無く、使用者に対してのマインドコントロールも完璧です。ただ・・・実験体は全てロストしました」

 

「仮面ライダーか」

 

「はい」

 

「構わんさ。寧ろ後の処理をせずに済んだ事を感謝したい程だ」

 

「しかし、奴が計画に気付けば面倒な事になるのでは?」

 

男の質問に椅子の背もたれに身を寄せながら座っていた男は笑みを浮かべる。

 

「奴の預かり知らぬ場所で計画を実行すれば良いだけの話だ。流石の仮面ライダーも知らなければ、海を越えてまでやってくることはあるまい」

 

そこで直立していた男が、新たな情報を提示する。

 

「それに関してご報告があります」

 

「何だ?」

 

「その仮面ライダーなのですが、戦闘後に例の人物と接触した様です」

 

その言葉を聞いた男からは先程までの余裕の笑みが消えて、怒りの表情を露にする。

 

「あの小娘が・・・突然日本の学校に通うと言い出した時は、丁度良い口実が出来たと思っていたが、これが狙いだったのか!」

 

「その様ですね。私も油断していました」

 

「それで、計画は仮面ライダーにばれたのか!?」

 

椅子に座った男が声を荒げる。

 

「いえ、接触はしましたが、今の所はそれだけの様です。しかしこのまま放置すれば、確実に計画は知られるでしょう」

 

「ふん、下手に手を出せば、其処から計画が明るみになるかも知れないと思い放置していたが、実験が成功した今ならばその必要も無いだろう」

 

「それでは、処理なさるのですか?」

 

男の質問に対し、幾分か溜飲を下げたのか椅子に座った男は冷静な口調で新たな指示をだす。

 

「・・・いや、あれにもまだ利用価値はある。生け捕りにしろ」

 

「はい。決行は何時にしますか?」

 

「明日で構わん。方法はお前に一任する。なるべく穏便に頼むぞ」

 

「それでは明日の夕方という事で宜しいですか?」

 

「仮面ライダーに話される前に確保できればそれで良い。ああ、それと・・・」

 

椅子に座っていた男は大人の手の平に入り込む程度の大きさの箱を取り出して、直立した男に手渡した。

 

「君への報酬だ。君の分と別に、予備としてもう一つ用意してあるから、君が自分で使うなり、誰かに使わせるなり、好きに使いたまえ」

 

「・・・ありがとうございます」

 

箱を受け取った男は一礼すると部屋を後にした。

 

椅子に座った男は窓の外に目を向ける。

 

「もうすぐだ・・・もうすぐ計画は現実の物になる!」

 

窓の外に広がる海鳴市の光景と違い部屋の中は、漆黒の闇に彩られていた。

 

 

 

 

 

 

 

「起きろなのはちゃん!早く起きないと遅刻するよ!」

 

朝の高町宅の末っ子の部屋。

 

俺の幼馴染であるなのはちゃんは、相変わらず朝に弱いらしく、布団に包まり微動だにしない。

 

「・・・あと五分」

 

テンプレートで使い古された言葉を使うなのはちゃんに、俺は飽きれたと言わんばかりの溜息を吐く。

 

「仕方ないか・・・」

 

この手段だけは使いたくなかったのだが、起きないならばこちらにも考えという物がある。

 

俺は布団の端を掴むと、力の限り引っ張った。

 

「どっせい!!!」

 

「にゃああ!!?」

 

布団に包まる様に入っていたなのはちゃんは、引っ張られたことにより、中で回転して最後はずり落ちて、俺にそのパジャマ姿を曝け出した。

 

「おはよう。なのはちゃん」

 

俺は今最高の笑顔で挨拶している事だろう。

 

「・・・おはよう御座います」

 

今日一番の戦いは俺の勝利で幕を下ろした。

 

なのはちゃんの身支度が完了するのを待ちつつ、俺は紅茶を優雅に頂く。

 

準備が整ったなのはちゃんを連れて、学校のスクールバスを待つのは俺のライフワークである。

 

今日はなのはちゃんを起こすのに少し手間取ったので、ギリギリの時間になってしまったが、何とか無事にバスに乗ることが出来た。

 

「おはよう。なのは、純」

 

「おはよう。何だか今日はドタバタしてるね」

 

バスに飛び乗った俺となのはちゃんに、アリサちゃんとすずかちゃんが挨拶をしてきた。

 

なのはちゃんはいまだに大量の酸素を必要としているのか、後ろで今もゼーゼー言っているので、俺がなのはちゃんの分まで挨拶を返す。

 

「おはよう。二人とも」

 

「今日は何だか何時もより遅かったけど如何したの?」

 

すずかちゃんが俺に話題を振ってくる。

 

「・・・いや~今日はなのはちゃんが中々に手強くってね」

 

俺は今も後ろで息切れしているなのはちゃんを見ながら、苦笑いしながら答える。

 

二人もなのはちゃんを見ながら、ああまたなの・・・という表情をする。

 

俺達三人の視線に、何か言いたそうな顔をするなのはちゃんではあるが、まだ喋るまでは回復していないようで荒い呼吸を繰り返すばかりであった。

 

その後席に座って、なのはちゃんの息が整うのを待ってから、再び雑談が再開された。

 

「・・・って言う訳でさ。今の所エミリー様が俺以外と昨日はあんまり話そうとしないんで、皆にもっと積極的に話しかけて欲しいんだよ」

 

俺は話題の一つとしてと同時に昨日の気になった事をなのはちゃん達に話した。

 

「話すのは構わないんだけどね・・・」

 

「う~ん・・・」

 

「難しいかもね・・・」

 

快く了承してくれると思っていたのだが、三人の反応はイマイチだった。

 

「如何したの皆?」

 

三人の話をまとめると、なのはちゃん達以外にも女子はほぼ全員一度は話しかけたらしいのだが、如何にも壁を挟んで会話をしている様に感じてしまって、話が続かないそうなのだ。

 

「・・・まあ良いわ。今日は午後の授業まであるから、一緒に昼食を食べましょう。頼んだわよ純」

 

「私ももっとエミリーちゃんとお話したいしね」

 

「そうだね」

 

話にくい印象はあるそうだが、三人ともエミリー様ともっと話したいという意思はあるようで、最後は賛成してくれた。

 

話が一段落ついた所で、スクールバスが学校前のバス停で停止する。

 

運転手のおじさんに御礼を言ってから、バスを降りて校門に向かう。

 

「姫様!!!!!サバスチャンは姫様と離れる事が悲しゅうううううう御座いまあああああああす!!!!!!」

 

校門前には、昨日から知り合ったシルバーライト島のお姫様であるエミリー様と、その変態老執事サバスチャンと護衛隊の人達が居た。

 

サバスチャンは相変わらず、護衛隊の人達に取り押さえられている。

 

どれだけハッスルお爺ちゃんなんだろうかこの人は・・・

 

サバスチャンを苦笑いしながら眺めていたエミリー様だったが、ふと俺の居る方向に視線を向けると、爽やかな笑顔に変わり、手を振ってきた。

 

多分俺にこっちに来いと言いたいのだろう。

 

俺はエミリー様の傍に歩き始める。

 

「おはよう。エミリー様」

 

近くに来てから、俺はエミリー様に挨拶する。

 

「うむ。おはようじゃ。今日も我の世話役を頼むぞ板橋」

 

昨日街で会った時とは違い、放課後に別れた時のエミリー様がそこに居た。

 

結局昨日のあれは何だったのか、俺の中に未だ答えは出ないでいる。

 

「如何したのじゃ板橋?」

 

考え込んでいる俺を見て、エミリー様が心配そうに声を掛けてくる。

 

「・・・いえ、考え事をしていただけ何で、何でも無いですよ」

 

俺は何でもないと言って、笑って誤魔化した。

 

「えっと・・・おはようエミリーちゃん」

 

俺の後ろからやって来たなのはちゃんが、今の雰囲気ならいけるかも知れないと思ったのか、エミリー様に挨拶を試みた。

 

その後に続き、アリサちゃんとすずかちゃんもエミリー様に挨拶をする。

 

すると、エミリー様は何処か、固い表情になりながら、三人に挨拶を返した。

 

「お、おはよう・・・」

 

何だか借りてきた猫の様になってしまった。

 

俺とは普通に話していたのに、何でなのはちゃん達には、素っ気無い対応になってしまったのだろうか?

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

確かにこれじゃあ、会話も続かないというのにも納得である。

 

「そ、それじゃあ私達先に行くね純君」

 

何とか体裁を保ってすずかちゃんが言うと他の二人もそれに頷く。

 

「お昼の件。頼んだわよ。純」

 

去り際にアリサちゃんが、力一杯俺の背中を叩きながらそう言うと、三人とも逃げるように校舎に向かっていった。

 

「・・・」

 

エミリー様の様子を伺うと、未だに沈黙を保っている。

 

「エミリー様。俺達も早く行かないと、遅刻扱いにされちゃいますよ?」

 

俺の声に反応したのか、エミリー様の身体が一瞬跳ね上がる。

 

「そ、そうじゃの。早く行くぞ板橋」

 

まだ若干ギクシャクとした動作ではあるが、なのはちゃん達に話しかけられる直前の状態に戻ったエミリー様は校舎に向けて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

その後、午前中の授業は何の問題も無く、滞り無く進み、お昼休みが訪れた。

 

俺はエミリー様に昼食は屋上で食べようと進め何とか了承を得た。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

気まずい。

 

俺は今非常に気まずい空気の中で、如何にかこの状況を打破出来ないかと、思考を巡らせ続ける。

 

エミリー様を屋上に呼ぶという所までは計画していたのだが、その先は全くのノープランだった。

 

それはなのはちゃん達も同じだったのだろう。

 

エミリー様は朝の時と同じ借りてきた猫状態だし、他の三人も会話をする切欠を掴めずにいる。

 

・・・ここは俺が如何にかするしか無いって事か!?

 

考えるんだ!

 

板橋純!

 

俺は前世で大人だったんだぞ!

 

女性を喜ばせる話題の一つや二つ位・・・

 

思い浮かばなかった・・・

 

そういえば俺って、前世からも含めて、彼女が居た事すら一度も無かったんだっけ・・・

 

「と、取り敢えず食べよっか皆・・・」

 

今の俺に出来る事は、これが精一杯だ。

 

皆ごめん。

 

不甲斐無い俺を如何か許してくれ・・・

 

「そ、そうね」

 

辛うじてアリサちゃんが頷いた事により、それを合図にして其々がお弁当を準備し始める・・・一人を除いて。

 

他の全員が準備を始める中で、エミリー様だけが、何もせずにジッとしているのだ。

 

「お弁当準備しないんですか?」

 

俺はエミリー様に何か有ったのかと思い、話しかける。

 

「・・・のじゃ」

 

エミリー様が、小さな声で呟く。

 

俺には残念な事に、その声を聞き取る事が出来なかった。

 

「え?」

 

思わずそんな声が零れる。

 

「・・・いのじゃ」

 

もう一度呟いたかと思うと、今度は大声でエミリー様が叫んだ。

 

「我はお弁当なぞ持ってきておらんのじゃ!!!」

 

突然の叫びに、なのはちゃん達の動きも止まり、此方に注目する。

 

「わ、忘れたって事ですか?」

 

「・・・最初はサバスチャンが、我に持たせようとしたのじゃが断ってきたのじゃ」

 

エミリー様が少し涙目になりながら俺を見る。

 

「な、何で断ってきたんですか?」

 

「楽しみにしてたのじゃ・・・」

 

「楽しみ?」

 

「うむ。学校には給食という特別な食事があるのじゃろ?我はそれを楽しみにしていたのじゃ」

 

何となくだが、エミリー様の言いたい事が俺にも理解出来た。

 

エミリー様は学校に来るのは初めてだと昨日言っていた、人間ってのは興味が有っても、普段は出来ない事なんかには、異常なまでの期待を抱く事が多々あったりするものだったりする。

 

確かに、普段学校に行けない人にとって、給食っていうのはある種の憧れみたいなものが有るのかもしれない。

 

エミリー様にとって、残念な事だが、この学校に給食制度は無いのである。

 

付属の中学校からならば学食があるのだが、小学校には購買部しかない。

 

「楽しみにしていたのじゃぞ。本当に・・・」

 

エミリー様が半端なく落ち込んでいる。

 

楽しみにしていたのは良く分かったのだが、無いものは無いので、何時までもこのままにして置く訳にはいかない。

 

取り敢えず購買で何か買ってくるかと、立ち上がろうとした時、俺とエミリー様以外の声が聞えてきた。

 

それは笑い声だ。

 

必死に堪え様としているのに、止められないといった感じの笑い声が俺の耳に入ってくる。

 

笑い声の発生源は目の前のなのはちゃん達だった。

 

「なんじゃ、おぬし達。我の不幸を笑うなぞ酷いでは無いか・・・」

 

流石にエミリー様もこれには怒りを覚えたのか、涙の溜まった瞳でなのはちゃん達を睨みながら、抗議の声を上げる。

 

「ご、ごめんなさい・・・でもおかしくって・・・」

 

三人の中で比較的、笑いの浅いすずかちゃんが謝罪の言葉を口にする。

 

なのはちゃんとアリサちゃんは、喋る余裕も無いのか、両手でお腹を押さえて蹲り、プルプルと震えている。

 

暫くして笑いの収まった三人は、エミリー様に平謝りした。

 

「「「本当にごめんなさい」」」

 

「・・・分かれば良いのじゃ」

 

「それで・・・お詫びって訳じゃないんだけど、お弁当が無いなら私たちのお弁当を分けてあげるね、エミリーちゃん」

 

頭を上げたなのはちゃんが、提案を出してくる。

 

その両脇で一緒に謝っていた二人も、なのはちゃんの提案を支持した。

 

「そ、そうか・・・それはすまんの・・・」

 

「ちがうよエミリーちゃん」

 

エミリー様の言葉をなのはちゃんが遮る。

 

「こういう時は、ありがとうって言うんだよ」

 

なのはちゃんの言葉に、エミリー様は顔を赤く染めて、遠慮がちではあるが、感謝の言葉を口にする。

 

「あ、ありがとう・・・なのじゃ」

 

「どういたしまして」

 

俺の目の前で、とても微笑ましい光景が繰り広げられる。

 

「何だ。普通に話せるじゃないの」

 

なのはちゃんとエミリー様のやり取りを見たアリサちゃんが、思った事をそのまま口にした。

 

「あの、エミリーちゃんは如何して純君とは普通に話せるのに、私達と話す時は別人みたいに無口になるの?」

 

続いてすずかちゃんが、この場の誰もが気になっていた事への核心をつく質問をする。

 

「そ、それはのう・・・」

 

恥かしそうに語り始めるエミリー様の姿に、俺達四人の視線が集中する。

 

「初めてなのじゃ」

 

「「「「え?」」」」

 

エミリー様の言葉に俺達四人は思わず同じ言葉を発してしまった。

 

「板橋には話したと思うのじゃが、我は学校に通うのは昨日が始めてだったのじゃ」

 

俺達の様子を見ながら、エミリー様の話は続く。

 

「我は今まで城から一人で出る事など無くてのう、家臣の者以外と接するなどこれが始めての事なのじゃ・・・」

 

それって事はつまり・・・

 

「俺と普通に話せてたのはもしかして・・・」

 

「家臣として接していたから、板橋とは何とか話が出来たのじゃが、やはりそれ以外の者とは、何を話せば良いのか分からなくてのう・・・」

 

エミリー様はそれだけ言うと、恥かしそうに俺達から視線を逸らせてしまう。

 

するとなのはちゃん達三人はその場で立ち上がり、突然自己紹介をし始める。

 

「私は高町なのは」

 

「私はアリサ・バニングスよ」

 

「私は月村すずかです」

 

三人の自己紹介に、驚きを隠せない表情をするエミリー様。

 

「と、突然如何したのじゃ?おぬしら・・・」

 

「なのはだよ」

 

なのはちゃんが再びエミリー様の言葉を遮る。

 

「まずは私達を名前で呼んで。お友達になるのはそこからだもん」

 

なのはちゃんは笑顔でエミリー様に言った。

 

「我が・・・友達?」

 

エミリー様の言葉になのはちゃん達が頷く。

 

その様子を見たエミリー様は、意を決した様に立ち上がると、目の前のなのはちゃん達を見据えた。

 

「我の名はエミリー・シルバーライト・キャンベルじゃ」

 

屋上にエミリー様の声が響き渡る。

 

「これで我も友達なのじゃろ・・・なのは?」

 

エミリー様は恥かしそうに、はにかみながら、なのはちゃんの名前を呼んだ。

 

「うん!」

 

なのはちゃんはその問いに元気良く答える。

 

この瞬間エミリー様となのはちゃん達はかけがえの無い友達になったのだ。

 

これで俺が気がかりな事の一つは解決した。

 

後は・・・

 

「さっきから何を黙っとるのじゃ?」

 

考え事をしていた俺の目の前に、突然エミリー様の顔を近づく。

 

内心驚いたが、何とか態度には出なかったようなので、俺は平静を装う。

 

「ちょっと考え事をしてただけですよ。それより如何したんです?」

 

「ぬ~何か堅いのう」

 

「は?」

 

「板橋はなのは達と話す時と、我が話す時の喋り方が違い過ぎるのじゃ。我に対しても同じ様に話さぬか!」

 

何やらエミリー様は、俺の喋り方が、なのはちゃん達と接する時と違う事が気に入らないらしく、お怒りになっている。

 

そうは言われても、下手すれば国際問題に発展しかねないんだからしょうがないと俺は思うのだが・・・

 

「そうじゃ!」

 

エミリー様は、良い事を思いついたという顔をして、俺に提案してくる。

 

「いまから我も板橋の事を名前で呼ぶ!じゃから板橋も我にもっと親しげに話しかけぬか?」

 

捲し立てる様に説明したエミリー様は、早速始めようと俺の目の前に座ると、俺の目を見ながら話しかけてくる。

 

「良いな?純」

 

期待を込めた瞳で俺を見るエミリー様。

 

そんな顔をされて、頼まれたら俺には断る事なんて出来そうに無い。

 

「はい。わかり・・・じゃなくて、分かったよエミリーちゃん」

 

躓きながらも、何とか敬語を止めて話す事に成功した。

 

それを見たエミリー様は、

 

「様を付けぬか馬鹿者が!」

 

昨日に続き、エミリー様は俺に対し、お姫様の脳天チョップを繰り出した。

 

チョップは見事に俺の脳天に直撃を果たし、頭には衝撃が走る。

 

どうやら、エミリー様の中では、敬語を止めても良いらしいが、俺は様付けをしなくてはならない立場らしい。

 

なのはちゃん達はそんな俺達の様子を見ながら、失礼にも楽しそうに笑っている。

 

・・・こうやって見ていると、エミリー様も一国のお姫様という肩書きさえ無ければ普通の女の子なのだ。

 

だからこそ分からなくなる。

 

何で昨日の戦いの場にエミリー様が現れたのか。

 

仮面ライダーの俺に何を頼みたいというのか・・・

 

あの紙には夕方の時間帯に、海鳴公園に来るようにとしか、書かれていなかった。

 

確実に何かが起ころうとしている予感がするのだが、それが何なのかは皆目見当もつかない。

 

俺は言い知れぬ不安を胸の内に秘めながらも、この穏やかな時を見守る事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあまた明日ね。エミリーちゃん」

 

「うむ。また明日じゃ。なのは」

 

なのはちゃん達三人は俺とエミリー様に別れの挨拶を告げると、教室を出て行った。

 

昼休みに少し騒動はあったものの、それ以降は何事も無く、無事に放課後を迎えた。

 

あれからエミリー様は、すっかりなのはちゃん達とも打ち解けた。

 

明日も一緒にお昼を食べる事を約束したのは勿論の事で、次の休日には、ある事情から学校を休学している、もう一人の友達のはやてちゃんを紹介する約束までしているのだ。

 

本当はなのはちゃん達とも一緒に帰りたかったのだが、今日は三人ともピアノの稽古があるから、次の機会にしようという事になり、今日は断念した。

 

「それじゃあ今日も、校門前までで良いかな?エミリー様」

 

俺はエミリー様に確認する。

 

しかし、様付けしながら砕けた口調っていうのは何気に喋ってる側としては違和感が凄い気がするな。

 

「それなんじゃが、今日は純に案内して欲しい場所があるのじゃ」

 

「俺は全然構わないけど、サバスチャン達は?」

 

俺は突然のエミリー様の質問に対して当然の質問を返す。

 

「うむ。今日の迎えはその場所に来る様に頼んでおいたから大丈夫じゃ。お願い出来るかの?」

 

エミリー様は軽い感じで聞いてくる様にも見えるが、その瞳の奥には何かの決意をした意思がある事を俺は感じ取った。

 

「・・・良いよ」

 

俺はその頼みを聞き入れる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エミリー様が案内を頼んだ場所は、仮面ライダーの俺と会う約束をしている海鳴公園だった。

 

現在俺達は海鳴公園を目指して、街を歩いている。

 

「でも、今日は護衛の人も居ない何て何かあるの?」

 

そう、俺達は今二人で公園に向かっているのだ。

 

あれだけの人数がいるのだから、何かしらの事情が有ったとしても、数人くらいはエミリー様の護衛にあてがいそうなものである。

 

「黒澤達は、本来我の警備隊という訳ではないのじゃ」

 

エミリー様は、俺の隣を歩きながら、質問に答えていく。

 

「黒澤達は外交を勤める大臣の護衛が専門なのじゃ。今回は我が日本の学校に通いたいといった時に、最初は反対されたんじゃが、大臣の一人が自分も日本に交渉をしに行くから、その間に護衛の何割かを我にあてれば良いと進言したのじゃ」

 

「その大臣って人は良い人なんだね」

 

「違う!!!」

 

俺の返答にエミリー様が過剰に反応した。

 

「えっと・・・」

 

俺が突然の反応に困惑していると、エミリー様は正気に戻った様で、

 

「す、すまぬな・・・しかし奴は決して良い人間ではない。我は奴を信用できんのじゃ・・・」

 

如何にもエミリー様の雰囲気が暗くなった事で、如何しようと俺は考え始めるが、その時俺達の周りに妙な違和感を感じた。

 

街の真ん中を歩いているというのに、俺達の周りに人の気配が全く無いのである。

 

今は夕方であり、本来なら何時人とすれ違ったとしてもおかしくない筈なのに、全くと言って良い程に、気配が無いのだ。

 

しかし、それはすぐに終わりを向かえ、複数の気配を感じる。

 

いや、これは・・・

 

俺はこれに近い気配を感じた事が多々ある。

 

それはシスコンモード全開で俺を追い回す時の恭也君の殺気だ。

 

でも似ているだけであって、同じではない。

 

あの状態の恭也君の気配は命の危険を本気で感じるが、今感じている気配には、それ程の意思は感じない。

 

強いて言えばそれは悪意。

 

その悪意が明らかに俺達に向けられている。

 

狙いは俺か、それとも・・・

 

どちらにしても、早くこの場所から離れた方が良さそうである。

 

「エミリー様。はや・・・」

 

俺が言葉を言い終わる前に、気配の正体が俺達の目の前に現れる。

 

それは昨日戦ったのと同タイプのホルダーが三体だった。

 

俺の隣に居たエミリー様は突然の出来事に唖然としている。

 

何でこんな状況に陥っているのかは、全く分からないが、奴らの狙いが、姿を現した事からも確実に俺達のいずれか、もしくは両方に有る事が分かった。

 

「こっちだ!エミリー様!」

 

俺は放心状態のエミリー様の手を取って、建物が密集している住宅街に向けて走り出す。

 

「あ、あれは何なのじゃ!?」

 

住宅街の路地を走り抜けながら、俺に手を引かれて走るエミリー様が質問してくる。

 

「あれはホルダーっていう人の力を超えた怪物だ。正確には・・・くっ!?」

 

俺が言葉を言い終わる前に、回りこんでいたのか、ホルダーの一体が俺達の正面からやってくる。

 

俺は慌てて踵を返すと、今度は横の路地を曲がって逃げる。

 

何度かそれを繰り返すが、やがて逃げ道は無くなって行き、最後には行き止まりに追い詰められた。

 

「くそ・・・」

 

俺は、エミリー様を背後に隠しながら、何か打つ手は無いかと、思考を巡らしながら三体のホルダーを睨みつける。

 

更に三体のホルダーが俺達に接近しようとして来て、ここまでかと思った瞬間・・・

 

最高のタイミングで、この場で最も頼りになる俺の相棒が現れた。

 

『どうやらピンチの様だなマスター』

 

頭上から声が聞える。

 

上に視線を向けると、屋根の上からメカ犬が此方を見ていた。

 

「遅いんだよ。お前は!」

 

俺はメカ犬に八つ当たりする勢いで叫ぶ。

 

『そう言うなマスター。ワタシも別に遊んでいた訳では無いのだ』

 

メカ犬はそう言うと、屋根から飛び降りて俺の隣に着地する。

 

「それにしても良くこの場所が分かったな?」

 

幾らなんでもタイミングが良すぎである。

 

『うむ。人払いをしていた様だが、それは人間に限っての事だろう。ここはジャックの庭のようなものだ。異変があればすぐに分かる』

 

「・・・なるほど」

 

俺の頭の中でビーフジャーキーを齧るチワワの姿が浮かんだ。

 

「でもこっちにメカ犬が来てるって事は例の方も良いのか?」

 

『うむ。取り敢えず頼んでは置いたぞ。結果までは分からないがな』

 

「ち、ちょっと待つのじゃ!!!」

 

「『うん?』」

 

俺とメカ犬は同時に後ろを振り向く。

 

そこには話題に取り残されて、現状を理解出来ないでいる一人のお姫様の姿があった。

 

「さっきから何なのじゃ純!?それにそのロボットみたいのは何じゃ!?」

 

突如現れたホルダーに追い詰められたと思ったら、今度はメカ犬の登場で、しかも俺がその謎のメタリックワンワンと仲良く御喋りしていたものだから、エミリー様の許容範囲を超えてしまったのだろう。

 

まあ、突然の超展開が連続して起こったからパニックになっても仕方ない。

 

そんなエミリー様に何を思ったのかメカ犬が近づいていく。

 

『君がエミリー嬢か。この姿で会うのは初めてだったな。ワタシはオモチャ会社の・・・』

 

メカ犬が毎度お馴染みのナチュラルトークを試みる。

 

「後にしろメカ犬!今はこの状況を如何にかするのが先だ!」

 

メカ犬の登場で場が和みまくっているが、依然として状況は変わらないのだ。

 

もう少しその場の空気を読んだ行動をして欲しい。

 

『うむ。そうだったな』

 

そう言うとメカ犬は俺の隣に戻ってくる。

 

それを確認した俺は、メカ犬と共にホルダーの居る前方に一歩を踏み出す。

 

「ま、待つのじゃ純。おぬしは一体・・・」

 

静止の言葉をかけようとするエミリー様に俺は振り向きながら答える。

 

「エミリー様。今から起こる事は、他の人には秘密にしておいてくれよ?」

 

俺は人差し指を口に当てながらそう言って、再び前を向いた。

 

「それじゃあ・・・行くぞメカ犬!」

 

「OKだマスター!」

 

俺はポケットからタッチノートを取り出してボタンを押す。

 

『バックルモード』

 

音声が流れると同時に、メカ犬が銀色のベルトに変形して、俺の腹部に自動的に巻きつく。

 

「変身」

 

音声キーワードを入力してタッチノートをバックルの窪みに差し込む。

 

『アップロード』

 

差し込んだ瞬間に、白銀の光が俺の全身を包みこみ、その姿を一人の戦士へと変える。

 

「じゅ、純が仮面ライダー!?」

 

俺の変身を見たエミリー様が驚愕の声を上げる。

 

『マスター。この近辺に他にも複数の反応が出ている。増援が到着する前に仕留めるぞ』

 

メカ犬の声がベルトから聞える。

 

「それなら力任せで行くか」

 

俺はベルトの右側をスライドさせて赤いボタンを押した。

 

『パワーフォルム』

 

ベルトから発生する光が再び俺を包み込み、飛散すると先程までメタルブラックだったボディーカラーがクリムゾンレッドへと変わる。

 

そして続け様に俺は同じくベルトの右側に付いている黄色のボタンを押す。

 

『パワーブレード』

 

三度ベルトから光が発生しそれを俺が掴む事で、光は新たな姿へと変化を遂げる。

 

それは赤い刀身を持つ両手剣だ。

 

これこそが、このフォルムの専用武器になるパワーブレードである。

 

ホルダー達は、痺れを切らしたのか、三体同時に襲い掛かってくる。

 

俺は防御を完全に捨ててその内の一体に切りかかる。

 

その攻撃を受けたホルダーは火花を散らして吹き飛んでいく。

 

俺は同じ要領で、二体目、三体目と切り伏せていく。

 

『決めるぞマスター!』

 

三体のホルダーが目の前でよろけているのをチャンスと読んだのか、メカ犬の激が飛ぶ。

 

「ああ!」

 

俺はバックルからタッチノートを引き抜き、パワーブレードの柄に設けられた溝部分にスライドさせる。

 

『ロード』

 

音声が聞えると同時に、俺は再びタッチノートをバックルに差し込む。

 

『アタックチャージ』

 

ベルトから発生する光が右腕のラインを通りパワーブレードの刀身に集約される。

 

「こいつで決めるぜ」

 

俺はパワーブレードを空に掲げる。

 

「パワーブレード」

 

そしてその輝く刃を三体のホルダーに向けて振り下ろす。

 

「ブレイクインパクト」

 

振り下ろすと同時に凄まじい衝撃波が三体のホルダーを飲み込み爆発を引き起こした。

 

爆発後に居たのは、俺にも見覚えのある人達だった。

 

「この人達は・・・」

 

それは昨日俺達の教室に突入してきたフル装備の屈強な男達・・・

 

「何でこの人達がホルダーなんかに?」

 

そう、この人達はエミリー様の護衛隊の隊員達だ。

 

「やはり・・・」

 

この光景を見たエミリー様は、何か思う所があるのか呟いている。

 

「何か心当たりが『話は後だマスター。先程の爆発を聞きつけたのか、此方に多数の反応が向かってきている。早くこの場所を離れるぞ』・・・分かった」

 

俺は一旦エミリー様に話しかけるのを中断して、バックルからタッチノートを取り出すとボタンを押した。

 

『チェイサー』

 

音声がすると同時に、遠くからエンジン音が響く。

 

『お待たせマスター』

 

やって来たのは乙女口調なオッサンボイスで、ライダーバイクのチェイサーさんである。

 

「これは?」

 

チェイサーさんを見たエミリー様が、不思議そうな顔をする。

 

俺はチェイサーさんに乗ると、エミリー様にも乗るように促す。

 

「エミリー様も早くこっちに!」

 

俺の言葉に少しだけ戸惑うが、エミリー様は意を決したように頷くと、此方に駆け足でやって来た。

 

「・・・頼むぞ」

 

エミリー様はそう言うと、チェイサーさんの上によじ登る。

 

『それじゃあいっくわよ~』

 

よじ登ったエイミー様を鉄のワッカが固定すると、チェイサーさんは走り出し、この場を後にした。


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