魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~   作:G-3X

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第47話 バスジャックに御用心! 【前編】

「ねぇ! ねぇ! 聞いてよ! なんとなんと……あたしがドラマの主役に選ばれたんだよ! これって凄くない!? 夢じゃないんだよね!?」

 

嬉しそうに話す、一人の幼い女の子の姿が其処にはあった。

 

だが、その話を聞く人間は何処にも居ない。

 

女の子が居る場所は、一般的な二階建ての日本式建築な一軒家。

 

その二階の一室が女の子の自室となっており、室内は主にファンシーなぬいぐるみでコーディネートされているごく普通の部屋なのだが、その部屋の壁の一面に飾られたポスターが、その調和を乱している。

 

女の子らしい部屋の中において、そのポスターにはメタルブラックのボディーを持ち赤い二つの複眼と額に輝くV字型の銀色に輝く角飾りが特徴的な、一人の戦士の姿が描かれていた。

 

そして更にこの部屋を異質としているのは、女の子が先程から話し掛けている光る球体だ。

 

部屋の中でふわふわと浮かぶ光る球体は女の子の話を聞いて一喜一憂しているかの様に、クルクルと回ったり上下左右に動いたりしている。

 

「まあね~最初はあたしに出来るのかなって心配だったんだけど、やっぱりこれってチャンスだと思うんだ!」

 

光る球体は言葉を喋る訳ではないが、女の子との間での会話が成立しているらしい。

 

「あ! そろそろ時間だわ!」

 

話に熱中していた女の子だったが、ふと壁に立て掛けられた時計に視線を送り我に返る。

 

「うん。今日はドラマの撮影メンバーの顔合わせがあるんだよ。だからそろそろ行かなくちゃ!」

 

女の子は光る球体にそう言うと、荷物を持って部屋の扉を開けた。

 

その後を追う様に、光る球体は女の子を追い掛け背中に当たったかと思うと、まるで地面に染み込んでいく水の様に、女の子の体の中へと吸い込まれて行った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もうすぐ秋も終わりを迎える筈だというのに、まだまだ強い陽射しが照らす昼過ぎの休日。

 

俺はバス停で一人に加えて、フルメタルな手乗り犬こと、メカ犬と共に目的地に行くバスが来るのを今か遅しと待っていた。

 

『それにしても、早くヒロインに選ばれた少女に直接会ってみたいものだな』

 

「ああ、そうだな」

 

バスを待ちながら、俺はメカ犬とそんな他愛もない会話を交わす。

 

今から俺達が向かうのは、恵理さんが勤める会社の本社である。

 

そこで一度、メインキャストが集まり顔合わせを行う予定となっているのだ。

 

先程もメカ犬が言っていたが、今日の顔合わせでオーディションで選ばれた女の子と会う事になっている。

 

それまでは恵理さんいわく秘密だそうで、どんな子なのか今の俺達には想像する事しか出来ない。

 

『お! バスが来たみたいだぞマスター』

 

メカ犬の言葉に反応して道路の奥に視線を向けると、確かにバスがやって来るのが俺にも見えた。

 

「それじゃあ行くか……ん?」

 

バスに乗ろうとしたその時だ。

 

視界の隅に誰かが此方へと走ってくる姿が見えた。

 

「待ってー! そのバスあたしも乗るわー!」

 

ポニーテールを犬の尻尾の様に揺らしながら、俺と同じ位の歳に見える女の子がハンドバッグを片手に叫んでいる。

 

「すいません! あともう一人だけ乗るんで少しだけ待ってください!」

 

どうやらあの女の子もこのバスに乗る様なので、俺はバスの運転手さんに待ってもらう為に声を掛けた。

 

運転手のおじさんもそれを分かってくれたのか、軽く頷くとバスの乗車口を開けたままにしてくれる。

 

やがてバスの中に女の子が飛び込むと、アナウンスが流れてバスが発車した。

 

「早く席に着かないと危ないよ」

 

限界まで気力を振り絞って走ったのだろう。

 

飛び込むと同時に、ぜぇぜぇと息を切らせているところを悪いとは思うのだが、このままでは危ないと考えて俺は目の前の女の子に声を掛けた。

 

「そ……そうね」

 

あまり余裕が無いのか、フラフラとした足取りで女の子は空いている席に座ったのだが……何故かそれは俺の座った席の隣だった。

 

他にも空席は幾つかあるというのに、どうしてここに座ったのだろうか。

 

まあ、単純に考えればきっと全力疾走した疲れで思考能力が落ちて、近い席に座っただけだと思われるが。

 

大分息が整ってきたのか、女の子の呼吸は息切れ状態から復帰してきたらしい。

 

隣に座ってきたという事もあり、少し女の子を観察してみると、何だか俺はこの女の子を知っているかもしれないという、自分でも理解出来ない感想を持った。

 

確実に初対面だというのは、俺自身でも理解しているのだが、目の前の女の子が持つ雰囲気はやはり何処かで会った事がある気がしてならない。

 

「……あのさ」

 

俺達って何処かで会った事は無いかな?

 

そう聞こうと思ったその時、バスが停車した。

 

どうやら目の前の女の子が息を整えている間に、次のバスの停留所に到着した様だ。

 

乗車口が開き、バス停の前で待っていた乗客の人達が乗り込んで来るのだが……。

 

『おいマスター。何か変じゃないか?』

 

何か違和感を感じたのか、メカ犬が俺に話し掛ける。

 

「変って何が変なんだよ?」

 

それまで乗車口に視線をチラッとしかやっていなかった俺は、メカ犬に言われて改めて乗車口を見た。

 

其処には黒い目だし帽を被った怪しげな集団。

 

明らかに、普通のお客さんには見えない。

 

寧ろメカ犬が言った何かという言い回しは、生易しいと言うべきだろう。

 

はっきり言って、嫌な予感しかしない。

 

俺のその直感は、直ぐに現実のものとなる。

 

「このバスは今から俺達、ブラックオクトパスの物となる!」

 

黒光りする拳銃をちらつかせて、先頭に立った男が宣言した。

 

つまりこのバスは……バスジャックされたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海鳴警察署の廊下を、警察官達が慌しく走っていく。

 

「何か事件でもあったんですかね?」

 

走り去る同僚達を横目に、長谷川は隣を歩く直属の上司である恵美に話し掛ける。

 

「そう言えば長谷川君は、さっき来たばかりだからまだ知らなかったのね」

 

恵美は長谷川とは違い、昨日から泊り込みで署内に居たので、この慌しさの原因を知っている。

 

「昨日の晩にブラックオクトパスを名乗るテロ集団が、騒ぎを起こしたらしくてね。今も逃げ回っているらしいわ」

 

「え!? そんな大変な事になってるのに僕達は何もしなくて良いんですか!?」

 

長谷川の疑問に、恵美は深い溜息を吐く。

 

「本当なら私達が行ければ直ぐに、そんななんちゃってテロ集団なんて捕まえられるんだけどね。一般の事件にE2を介入させるのは上の指示で禁止事項にされているのよ」

 

E2の力は確かに強大だ。

 

だがそれ故に、運用には大きな制限が設けられている。

 

あくまでもE2は対ホルダー戦を目的とされており、一部の例外を除き特務課メンバーも、一般の事件への介入は原則として認められていない。

 

「そんな決まりがあったんですか」

 

「あのね。長谷川君……。特務課に配属されてから、もう結構経つ筈なのに、何でそんな事も知らないのよ?」

 

呆れ顔で恵美は長谷川を叱り付けるが、それは致し方無いだろう。

 

なにせ長谷川は自分の意思とは無関係に、刑事としてまだ新人であるのに、強制的に配属先を特務課に回された上に、今までホルダー関連の事件に関わる毎日で、余裕があったとはお世辞にも言えないのだから。

 

更に上司が、この俺様至上主義の見た目セーラー服に白衣を羽織った天才美少女中学生なのだから、凡人たる彼の精神的な疲労は相当なものだろう。

 

「それじゃあ、例えばこのテロメンバーの中にホルダーが居た場合は、僕達も事件解決に協力出来るって事なんですか?」

 

「……う~ん。まあ、そんな都合の良い話は無いとは思うけど、そういう事なら長谷川君の言う通り、私達にも出動要請が来るでしょうね」

 

「ホルダーが出ればなんて不謹慎だなとは自分でも思いますけど、出来るだけ早く解決した方が誰にとっても良い事だと僕は思います」

 

「ふふ……確かにね。あ、そう言えば、長谷川君はこれからお姉ちゃんの会社にも行くんだったわよね。一般の人にも良い意味でE2を知ってもらう絶好の機会なんだから、撮影頑張りなさいよ」

 

「いえ、今日は撮影スタッフの顔合わせだけなんですけど」

 

豪快に長谷川のお尻に張り手をお見舞いして、激励する恵美はそんな細かい事は聞いてもいない。

 

こんな風にもしかしたらという話をする二人は、まだそのもしもが現実になるまで、間も無くだという事を知る由も無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良いか……変な気を起こすんじゃないぞ? そうすれば俺達だって手荒い真似をしなくて済むんだからな」

 

「そんなの信用出来る訳がないじゃない!」

 

バスに乗っていた俺を含む全ての乗客は後部座席に移されて、身動きが出来ない様にロープで縛られている。

 

リーダーと思わしき黒い目だし帽を被った男の脅し文句に、皆が震える中で俺の隣に座っていた女の子が、男に抗議の声を上げた。

 

「おうおう、中々威勢の良いお嬢さんじゃねえかよ」

 

どうやら運の良い事に、男は女の子の態度に関して、怒りはしなかった様だ。

 

だが、何時この女の子の言動がこのブラックなんたらというバスジャック集団の怒りの琴線に触れるか分からない。

 

「ちょっと、今はこの人達を刺激しない方が良いよ」

 

俺は隣で縛られている女の子に、小声で話し掛ける。

 

「ふん!こんな奴らの言いなりになるだなんて、あたしは絶対に嫌よ!」

 

しかし女の子もバスジャックに直面したショックからか、それとも元々の気質なのか興奮状態にある様で、俺の話に耳を貸そうとはしてくれない。

 

正直に言えば、俺だってこんなバスジャックなんてする奴らに従うなんて御免だ。

 

でもこのバスには俺以外にも少なくない乗客が人質として捕らわれている。

 

下手な抵抗を試みれば、その瞬間に乗客全員を危険に晒してしまう。

 

だから今は、チャンスを待つしか無い。

 

「だけど、ここで君が何を言っても事態が良くなる訳じゃないよ。だから今は……」

 

「何を言ってるのよ! 間違ってる事をしてるのはどう考えてもあっちの方でしょ!?」

 

諦めずに女の子を試みるのだが、どうやら逆にこの女の子の逆鱗に触れてしまったらしく、叫び声とも取れる様な反論の言葉を返す。

 

「おい! そこの坊主共! いい加減にうるせぇぞ!」

 

流石にこの騒ぎに男達も容認出来なくなってきたのか、銃を突き付けて怒鳴り付ける男の一人。

 

「誰のせいで、うぷっ!?」

 

更に反抗を試みようとする女の子だったが、これ以上は不味いと判断したメカ犬が女の子の顔に張り付いて途中で言葉を強制的に遮った。

 

そして、その行動がチャンスを作り出す。

 

「急ブレーキだ! 運転手さん!」

 

俺は女の子に張り付いたメカ犬にバスジャックをした男達が、視線を集中させたその瞬間に、力の限り叫ぶ。

 

運転手さんは俺の考えを悟ってか、勢い良くブレーキを踏む。

 

するとどうなるだろうか。

 

縛られて後ろに固まっている俺達乗客はまだ良いが、その乗客を警戒して前方の座席で立った状態の男達は踏ん張りが効かず、車内で勢い良く倒れ込む。

 

「今の内にドアを開けて下さい! メカ犬頼むぞ!」

 

『うむ! 任せろマスター』

 

男達が身動きを封じられている今しかチャンスは無い。

 

運転手さんに頼み扉を全て解放して貰い、更にメカ犬が女の子の顔から飛び退き、前足の鋭い爪を使い、乗客達を縛るロープ次々と切り裂いて解放していく。

 

「え? え? えええ!?」

 

「今の内に逃げて下さい!」

 

俺は今まで視界全体をメカ犬に奪われていたせいで、この展開に着いて行けていない女の子の手を手を取り、後部座席から最も近い乗車口へと進み、他の乗客の人達を先導する。

 

「この糞ガキがああああ!?」

 

だがそこに、逸早く立ち上がった男の一人が、目出し帽をしていても分かる程の怒りの形相で、俺に突っ込んで来る。

 

不幸中の幸いなのか、バスの急ブレーキのお蔭で銃を取り零した様だが、代わりに懐から太い握りのナイフを取り出しているので、危険という意味ではそう大差は無いかもしれない。

 

本来ならば大人と子供という体格差だけでも、既に勝負は見えている。

 

だが、目の前の男にとっての不幸は、俺が見た目通りの子供ではなかったという事だ。

 

確かに凡人な俺ではあるが、今まで決して少なくない命を賭けた修羅場を潜り抜けて来たと自負している。

 

時には生身の状態で、人間を超越した力を持つホルダーと短時間ではあるが渡り合ったのだ。

 

それを思えば、ナイフを持った人間と相対する事に恐怖で震える事は無い程に、俺の感覚は麻痺してしまっていると言っても良い。

 

このまま男が突っ込んで来る事を容認すれば、大惨事となる。

 

それを阻止する為に、俺はタイミングを計り、ナイフを持つ男の手首に蹴りを叩き込む。

 

「うをっ!?」

 

俺の反撃は予想外だったのか、男はナイフを弾き飛ばされると同時に、驚きの声を上げる。

 

しかし俺の攻撃はまだ終わらない。

 

乗客の人達を無事にこのバスから逃がす為には、少なくてもこの男を完全に無力化する必要があるのだ。

 

「たあああああああああああああ!」

 

裂帛の気合いを込めた掛け声と共に、俺は身長差を利用して容易に男の懐へと飛び込み、顎を目掛けて拳を真下から飛び上がる形で叩き込む。

 

顎は人体の急所の一つだ。

 

余程の鍛錬をしていなければ、例え子供の放った一撃であったとしても耐え切る事は難しいだろう。

 

顎への一撃は直接的に人の脳へとショックを与える事が出来る。

 

不意打ち気味に決まったという事もあってか、俺の拳の一撃は見事に男の意識を刈り取った。

 

「た、倒しちゃった……」

 

俺と男の一瞬とも言える攻防を見た女の子が、何か呟いているが今はそれに返事をする時間も惜しい。

 

「早く!」

 

同じく呆けていた乗客の人達に叫ぶと、皆我に返ったのか、続々とバスから脱出していく。

 

『取り敢えず警察には連絡しておいたぞマスター』

 

「分かった。それじゃあ、俺達もさっさとここから退散するか」

 

メカ犬が俺が戦っている間に、手早く仕事をしてくれたという事もあり、乗客の人達を逃がした俺達もこの場から撤収しようとするのだが……。

 

「ちょっと待ってよ。 君ってばそんなに強いならこのままあの悪い奴らを倒しちゃえば良いじゃない」

 

この場を後にしようとしたその時に、先程他の乗客の人達と一緒に避難させた筈の女の子が、目の前に居た。

 

「な、何で逃げてないの!?」

 

「こんな大変な事になってるのに、あたしだけ逃げてる訳にいかないでしょ!」

 

余程この女の子は正義感が強いのだろう。

 

無鉄砲で危ないとは思うのだが、その心意気には素直に好感が持てる。

 

だけど、それとこれとは別問題だ。

 

「幾らなんでも犯罪者の集団を相手にするのは、俺だって無理だよ。後の事は警察に任せた方が良い」

 

『マスター。どうやらそうも言ってはいられない様だぞ』

 

女の子を何とか逃げる様に諭そうとする俺に、メカ犬が不意に話し掛けて来る。

 

メカ犬がそんな事を言う時は、決まってあれが関わってくると言っても良いだろう。

 

「まさか……」

 

俺は嫌な予感を拭えないまま、バスの方へと振り返る。

 

するとバスの中から出て来る、テロ集団のリーダーと思わしき男だ。

 

そしてその手に握られているのは、見覚えのある緋色の球体。

 

「よくも散々やってくれたな!」

 

怒りのままに叫び、リーダーの男の身体が緋色の光に包まれてその姿を異形の者へと変質させていく。

 

鈍い光を放つ鋼の装甲を持ち、スコープを彷彿させる一つ目の頭部に、右腕には巨大なライフルが直接的に付いている。

 

その姿は間違い無くホルダーだ。

 

「か、怪物!?」

 

突然のホルダー化に驚愕する女の子。

 

俺とメカ犬は女の子を守る形で、ホルダーの前に歩み出た。

 

「ちょっと! あんな怪物に君が強いからって敵う筈が無いでしょ!? 一緒に逃げるわよ!」

 

それを見た女の子が、慌てて俺を連れて逃げようとするが、俺は首を横に振りその誘いを拒否する。

 

「悪いけど事情が変わったんだ。俺はここから逃げる訳に行かないんだ……行くぞメカ犬!」

 

『うむ!』

 

俺はメカ犬の返事を合図に、タッチノートを取り出して操作する。

 

『バックルモード』

 

音声と共に、メカ犬がベルトに変形して俺の腹部へと巻き付く。

 

「変身」

 

俺はお決まりの音声キーワードを口にして、タッチノートをベルトの中央の窪みへと差し込んだ。

 

『アップロード』

 

全身が光によって包まれて、俺の姿は目の前のホルダーから平和を守る、一人の戦士へとその姿を変える。

 

「嘘……君が……仮面ライダー?」

 

変身した俺を見て、女の子が呟く。

 

「ここは危ないから、下がってて」

 

ここは今から戦いの場になる。

 

その戦いに巻き込まれない様に、俺は今も信じられないという形相で俺を見る女の子を後ろに下がらせて、ホルダーと対峙した。


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