魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~   作:G-3X

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仮面ライダーE2 ロストプロジェクト ~悪魔の甘言~

警察から恵美にホルダーが現れたと連絡があったその頃、恵美を探し続けていた長谷川達にも同様の電話が掛かった。

 

そこで恵美を探すのは一時的に切り上げ、長谷川とエドワードはマシンドレッサーを駆り、現地へと向かう。

 

[「二人とも、聞こえる?」]

 

走行中のマシンドレッサーに搭載された通信機から、恵美の声が聞こえる。

 

「え、恵美さん!? 今まで何処に居たんですか!?」

 

二人掛りで探したにも関わらず見つからなかった当人が、自ら何でもなかったかのように連絡してきたことに、長谷川は驚愕した。

 

「そろそろ頭は冷えたかい? エミ」

 

そんな長谷川とは逆に、海外でもそれなりに付き合いの長かったエドワードは、落ち着いた口調で恵美に確認する。

 

[「……まだ納得したわけじゃないけど、その話は保留しておく事にするわ」]

 

恵美としては、まだまだ警察の上層部とエドワード自身に対して言いたい事が山ほどあるのだが、現状は緊急を要すると判断して、自らの感情に一時的ではあるが蓋をしてホルダー特務課の最高責任者としての責務を果たすことに準じた。

 

民間からの通報により、ホルダーが現れたとされる海鳴市の郊外に辿り着いた長谷川とエドワードは、既にマシンドレッサーでE1とE2に変身した状態となり、マシンドレッサーから降りて、周囲を警戒する。

 

[「気をつけてね二人とも。目撃情報によると、蝙蝠みたいな翼を持っていたって話しよ」]

 

「……蝙蝠?」

 

通信機から聞こえる恵美の言葉に、E1が首を傾げる中でE2は、今までの戦いの記憶からここ最近に戦ったある相手を思い出す。

 

シードと共に戦った共闘戦の際に、取り逃がしてしまったホルダーが確か、蝙蝠と良く似た形状をしていた筈だと。

 

「……何かが変だ」

 

周囲を警戒してから若干の間を置き、E1が呟く。

 

そう思うのは無理も無い。

 

何故ならば、今E1達が居る海鳴市の郊外には主だった施設は皆無であり、森の中には最低限に整備された道があるだけで、人の気配など微塵も感じられないという事に気付いたからだ。

 

にも関わらず、どういう訳か警察に届いたホルダーを目撃したという通報。

 

もしかしたら森の中で森林浴を楽しんでいただけの善良な市民であった可能性はゼロではないが、こんな森の中でそんな都合の良い偶然が早々に起こるものだろうか。

 

その考えは隣で同様に周囲を警戒するE2とカメラを通して郊外の様子をリアルタイムで見ていた恵美も、同じ疑問を抱くのにそう長い時間は掛からなかった。

 

「……まさかこれは」

 

一つの可能性をE2が口にしようとしたその時、近くの茂みがざわめき、大きな影が飛び出す。

 

茂みの中から現れた大きな影の正体は、蝙蝠に良く似た異形の姿をしていた。

 

[「どうやらこれは敵の罠だったみたいね」]

 

目の前の異形、ホルダーを前にして通信機から恵美が先程E2が口にしかけていた言葉の続きを紡ぐ。

 

「ふふふ。そう警戒しないでくださいよ。少なくともこの場で戦う意思はありませんから」

 

何を思ったのか、臨戦態勢を取るE1とE2に対して、ホルダーは不敵に笑いながら両手を挙げて敵意が無いという事をアピールする。

 

だが常人を凌駕した力を持つホルダーに戦う意思が無いと言われたとしても、はいそうですかと警戒を解く訳にはいかない。

 

戦う意思は無いと告げたホルダー自身も、言葉だけでは納得しないだろうと最初から分かっていたのか、しかたないですねと言うと、全身が薄い光を帯びて数瞬の間に異形の姿が紫のスーツを着た一人の青年へと変化する。

 

「これは……」

 

ホルダーが自らの意思で姿を変える場面を初めて目撃したE1は驚愕の声を零すが、E2はホルダーの人間体を確認した事により、更に警戒を強めた。

 

何故なら今E1の目の前に居る青年は、戦友とも呼べるとある少年から、出会った場合は注意するようにと言われていた為である。

 

「お初にお目に掛かる方も居るようなので、改めてご挨拶しましょう。私は加山と言います。以前はしがない地上げ屋などをしていましたが、現在はとある人材を扱うアドバイザーをしていると言えば分かり易いでしょうかね?」

 

まるで営業で取り引き先を訪れた会社員の様な風体で話す加山だったが、その言葉の端々からは常人にも伝わる程の狂気を感じ取る事が出来る。

 

「……何がアドバイザーですか! 貴方のせいで多くの人が苦しんでいるんですよ!」

 

加山の言う所のアドバイザーが意味する本当の訳を理解するE2は、加山の飄々とした態度にこの海鳴市を守る一人の刑事、いや一人の人間として激しい怒りを覚えた。

 

「そう興奮しないで下さいよ。最初に言ったでしょう? 戦う意思はないと……今回は彼と一度お話をする場を設けたいと思いまして」

 

今にも飛び掛らんとするE2を言葉で宥めながら、加山は視線をその隣へと向ける。

 

貼り付けた様な笑顔なのに、何処か冷めた加山の瞳に映るE1の姿。

 

「ワタシにですか?」

 

「確かエドワードさんでしたよね。お噂はお聞きしておりますよ」

 

「日本の記者に取材された事はあったけど、まさか君みたいな人にまで知られているとは思わなかった」

 

加山の問答に冗談めいた調子で返答するE1だったが、いつでも動ける体勢だけは崩さない。

 

「ふふ……もう少し世間話をしてから本題をお話しをと思ったのですが、あまり長々とするのはご迷惑のようですね」

 

[「別にあんたの世間話なんて聞きたくもないわ! 態々こんな面倒な事までして呼び出したんだから、さっさと話しなさいよ!」]

 

唯一この場に居ない筈の恵美が、通信機越しから最も強気に加山に対して要求を突きつける。

 

「強気なお嬢さんの言う通りですね。それでは単刀直入に言わせて頂きましょう。エドワードさん。私の雇い主からの伝言です。私と共に来れば主が貴方の望む物をくれるそうですよ」

 

「……!」

 

まるで悪魔の甘言かと思える優しげでありながらも、異様な何かを感じさせる加山の口調に、E1は一瞬だが息を呑む。

 

しかし加山が言う話し合いも、其処までだった。

 

[「長谷川君!」]

 

「分かってます!」

 

通信機越しから聞こえる恵美の合図に答え、E2がホルスターからESM01を抜き放ち、銃口を加山へと向ける。

 

事前にこうなる事を予測していたのか、加山は先程の光景を逆再生するかの様に、光が全身を包み込み瞬時にホルダー化を果たす。

 

加山が人間体のままであれば威嚇射撃までに留めておこうと考えていたE2も、加山が目の前でホルダーとなった事により、容赦なく引き金を引く。

 

だがESM01から放たれた弾丸はいとも簡単にホルダーとなった加山に避けられるが、その回避した先には、既に拳を振りかぶったE1の姿。

 

繰り出されるE1の豪腕に対して、加山は自ら後ろに飛び、衝撃を緩和させる。

 

更に追撃とばかりに横からE2がESM01で狙い撃つが、それすらも予測の範疇だったのか加山は自身の蝙蝠を模した翼を広げて近くの木の上へと飛び上がり難を逃れた。

 

「怖いですね。まだ話し合いの途中でしたのに」

 

[「良く言うわよ! 私の友達に変な事を吹き込もうとしておいて!」]

 

相変わらずの飄々とした態度に、恵美は遠慮する事無く怒りをぶつける。

 

E2の攻撃を警戒しながらも、E1へと視線を送った加山は数秒間だけであろうか、動きを止めたが何を思ったのか、再び翼を広げて空へと飛び上がった。

 

「どうやら、この場では良いお返事をもらえそうにありませんので、そろそろ失礼しますかね」

 

[「ちょっと待ちなさいよ!」]

 

そのまま空を飛んでこの場を去ろうとする加山に対して、恵美が叫ぶが当然ながらそれで飛ぶのを止めて地上に降りてくる筈もなく、やがて雲の中へと加山の姿は消えていく。

 

そのせいなのか……加山に意識が向いていた恵美は当然として、直ぐ傍に居たE2も気付かなかったのだ。

 

誰の視線にも晒されず、E1が加山を殴った己の拳を静かに見つめていた事に……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海鳴市の郊外で戦闘があったその日の夜。

 

人気の無い森の中を、一人の男性が終始なにかを探す様に視線を移しながら歩いていく。

 

「お待ちしていましたよ」

 

すると程なくして、闇夜に紛れ一人の男の声が森の中に木霊した。

 

「……本当に、本当にワタシの望む物が君とくれば手に入るのか?」

 

「ええ。私は前の商売柄か、多少強引な事はしますが、嘘は言いませんし、一度した約束は違えませんよ」

 

夜の闇に一陣の風が吹くと共に、今まで雲に隠れていた月が空に顔を出し、その月が放つ淡い光が、暗い夜の森をぼんやりと照らす。

 

其処に居たのは、ほんの数時間前に一度はお互いに異なる姿で拳を交わした二人の男の姿。

 

「その言葉を信じる気は無い」

 

「ですが貴方はこうして私の目の前に来ました」

 

「……」

 

「私にとってはそれだけで、大切なお客様という事に変わりありません」

 

男の甘言に惑わされてはならないと分かっていながらも、その僅かながら確かに存在する、小さな希望に彼は縋る他無かった。

 

己の欠落してしまったそれを、男は取り戻せると言う。

 

それが嘘か真実かは、判断に今でも迷っている。

 

相手が少しでも妙な動きをするのであれば、一切の容赦をする気は無い。

 

覚悟した上で、彼はこの場へと赴いた。

 

自らの行為が、友への裏切りだと分かっていても、それでも望む物が本当に手に入るのであれば、裏切る事となる友の心の傷を癒す事へと繋がるのだから。

 

そう自身に言い聞かせ、迷いながらも彼は目の前の悪魔の様な男の誘いに乗る事を良しとしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佐藤署長に妙な頼み事をされてから一週間が過ぎた。

 

俺はこの日、本来であれば翠屋でアルバイトをする予定だったのだが、どうしてもやらなければいけない事が出来た為、ヤスに代役を頼み住宅街の裏にある空き地へと足を向けていたのだが……。

 

『何か浮かない顔をしているなマスター。悩みがあるのならば相談に乗るぞ』

 

「……いや、別に悩みがあるって訳じゃないんだけどな」

 

隣を歩いているメカ犬にそう告げながらも、俺は頭の中で考えを巡らせる。

 

『ならば良いのだが……今はこの海鳴市で暴れているホルダーの正体を突き止める事に集中するべきだ』

 

メカ犬にも言った通り、俺が今考えている事よりもホルダーの正体を暴き、これ以上の被害を出さない事が今は先決だ。

 

それは分かっているつもりなのだが、どうしても引っ掛かる何かがあるという事を俺は否定出来そうに無い。

 

事の発端は今から一週間前にまで遡る。

 

この海鳴市には、様々な都市伝説があったりするのだが、一週間前から新たな都市伝説が誕生した。

 

何でも夜道を一人で歩いていると、異形の怪物に勝負を挑まれるそうなのだ。

 

勝負と一口に言っても、その方法は多岐に渡る。

 

腕っ節が強い人ならば喧嘩で、走るのが得意と言う人ならば徒競走だったり、身体を使う以外にも頭を使うのが得意だと言うのであればクイズ対決だったりと、相手の得意分野で怪物は勝負を挑んでくるのだそうな。

 

そして勝負に負けた者は例外無く、酷く衰弱しきった状態で病院の前に捨て置かれるらしい。

 

実際に今も負けた人達は、昏睡状態なのである。

 

確証は無いが、もしもこれが全て事実なのであれば、ホルダーが関係している可能性が極めて高い。

 

今日は次に襲われそうなポイントを出来るだけ正確に把握する為に、情報屋のジャックに話を聞きに行く道中な訳なのだが……。

 

「……なあ、メカ犬。どうしてホルダーはこんな腕試しみたいな事をしてるんだろうな」

 

『それはどういう意味だ?』

 

「だってそうだろ」

 

メカ犬の話では被害に遇い衰弱した人達は、ホルダーに生命エネルギーを吸収された為にああなってしまったそうだ。

 

ならば一々そんな勝負をするという面倒な手順を踏まなくても、直接襲えば良いだけの話だと思う。

 

『何かしら法則性があるかもしれないという事か?』

 

「もしくは、その勝負するって事が、能力に直接関係してるんじゃないかな」

 

そうやってメカ犬と意見を交わしている間に、俺達は目的地の空き地へと辿り着いた。


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