魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~   作:G-3X

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仮面ライダーE2 ロストプロジェクト プロローグ

[「復帰一戦目なんだから、気合を入れていくのよ! 長谷川君!」]

 

「はい!」

 

海鳴市の住宅街から幾分か離れた工業地帯でサイレン音が鳴り響く。

 

この街を異形の怪物、ホルダーから守る仮面ライダーの一人。E2が駆るマシンドレッサーが、そのサイレン音の発生源である。

 

E2のメンテナンスが終了し、通常の業務へと復帰した恵美と長谷川に、ホルダーの目撃情報が来たのは僅か二日の間だった。

 

その目撃情報によると、工場で仕事をしていた作業員の一人が突如として怪物に変化して暴れ始めたというもので、既に避難勧告が出され、E2が辿り着く頃には周囲の人達はほぼ避難を完了させていたのだが、現場に居合わせた人達はそう簡単には逃げられない。

 

現場に到着したE2の目の前には、迫り来る異形の姿をした怪物から何とか逃げようと走り続ける数名の民間人の姿。

 

怪物、改めホルダーは機械的な銀の装甲を纏い、右手には大きなナイフに形状の良く似た突起と、更には左手に平たく薄い板状の物を手にしている。

 

そして頭部までもすっぽりと同色の銀の仮面を被った姿は、まるで剣と盾を装備した中世の騎士のようにも見えた。

 

[「長谷川君。まずは民間人の救助を最優先で!」]

 

「了解しました!」

 

恵美の指示に従い、E2はマシンドレッサーのアクセルを回し、更に加速していく。

 

ホルダーから逃げる人達とすれ違い、最大加速でホルダーに体当たりを喰らわせて、その銀の身体を思い切り吹き飛ばす。

 

「今のうちに逃げてください!」

 

僅か数秒の間に起こった出来事に、先程まで逃げていた人達が後ろを振り向くが、E2の言葉に我に返ると、皆一目散に再び走り出した。

 

その姿を確認したE2はマシンドレッサーから降りて、ホルスターから専用武器であるESM01を抜き放ち、銃口を目の前のホルダーへと向ける。

 

ホルダーの狙いは、既にE2へと変わっており、右手の大振りのナイフを掲げて駆け出した。

 

「ふん!」

 

態々見た目からに接近戦に特化していそうな相手と、接近戦をしようとは考えない。

 

E2はホルダーがこれ以上接近するのを許すまいと、ESM01で弾幕を張る。

 

だがその銃弾の嵐をホルダーは盾を前身に構えて、多少のダメージを省みず強行突破を図ってきた。

 

現に盾で守りきれていない腕部の外側や脚部に弾丸を受けて火花を散らすが、それでもホルダーは速度を緩めることなく、玉砕覚悟とも見える突進でE2へと近付いていく。

 

「くっ!?」

 

射程距離に入った大振りのナイフを半身になって避けて、E2はバランスを崩しながらも、突進したことによって隙の出来たホルダーの背中に蹴りをお見舞いして、再び若干の距離を稼ぎ、追い討ちとばかりに、ESM01を連射する。

 

流石に無防備な背中から連射をお見舞いされたことには、さしものホルダーも大きなダメージを負い、その場に倒れ込む。

 

[「長谷川君! 今がチャンスよ!」]

 

通信機から聞こえる恵美の指示に頷き、E2は左腰にセットしておいたマガジンを取り出そうとするのだが、それを阻止するかのように、何かがE2へと飛来する。

 

「なっ!?」

 

突然の出来事にE2は手に持っていたマガジンとESM01を手から落としてしまう。

 

E2の下へと飛来した物の正体は、先程倒れたホルダーが僅かな時間の内に放った盾だった。

 

まるでブーメランのように、盾はホルダーの左手に舞い戻る。

 

落としたESM01とマガジンをE2が拾うよりも速く、ホルダーは駆け出していた。

 

「ぐあっ!?」

 

E2が体勢を整えるよりも速く、懐に飛び込んだホルダーのナイフによる横切りがE2の装甲から大きな火花を散らす。

 

[「長谷川君!?」]

 

通信機からE2の安否を確認しようとする恵美の声が聞こえるが、ホルダーの猛攻は終わらない。何とか反撃をする体勢を整えようとするE2ではあったが、ホルダーの執拗なまでの連続攻撃によって、そのタイミングを見出すことが適わない。

 

だが予想外の事態が、この戦況を一変させる。

 

工場周辺に響くサイレン音。

 

その音と共に現れたのは、E2が駆るマシンドレッサーと同型の赤いカラーリングのバイク。

 

更にそのマシンに乗っているのは、E2とほぼ同じ姿をしていた。大きな違いと言えば、先に述べた赤いマシンドレッサーと同様にそのカラーリングだ。

 

メタルイエローを基準とするE2に対してオレンジのカラーリングが、薄暗い工場の中でも確かな輝きを放つ。

 

「あれは!?」

 

[「……まさかあれって!?」]

 

予想外の乱入者を前に、E2と恵美がそれぞれ驚愕の声を上げる。

 

乱入者に驚いたのは、ホルダーも同様だった。

 

その隙を突かれ、赤いカラーリングのマシンドレッサーによる突進が、ホルダーを吹き飛ばす。

 

ホルダーを吹き飛ばした後、停止したオレンジ色のE2と酷似したライダーと一瞬だけ視線が重なるが、E2はまだ戦いが終わっていないことに気付き、急いでESM01とマガジンを拾い上げて、ESM01のグリップ底の部分へとマガジンを差し込む。

 

『ブレイクチャージ』

 

銃口へと光が収束し、E2はホルダーに向けて引き金を引く。

 

撃ち出された光は、ネット状に広がりホルダーに覆い被さりその動きを阻害する。

 

その後、直ぐにESM01をホルスターへ収めると、E2の右足に光が集約されていく。

 

「はあああああああああああああ!」

 

光り輝く右足を伴いながら駆け出したE2は左足を軸にして右回し蹴りをホルダーへと放つ。

 

必殺の一撃を受けて、大きな爆発を引き起こすホルダー。

 

爆煙によって塞がれていた視界が晴れると、其処には気絶した工場の作業服を着た男性の姿があった。

 

戦いが終わったことを確認したE2は、視線をある一点へと向ける。

 

再びお互いの視線を交わす二人のライダー。

 

この出会いが仮面ライダーE2、長谷川啓太の新たな戦いとなることを、この時点ではまだ誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海鳴市の日々の平和な日常を守る海鳴署に在籍する一つの課。

 

ホルダー特務課の一室は重々しい空気に包まれていた。

 

「……」

 

セーラー服の上に白衣を着た一人の少女。警察関係者とは思えない見た目ではあるが、このホルダー特務課において、彼女こそが一番高い地位を持つ存在でもある。

 

そんな少女、風間恵美は眉間に皺を寄せて、見るからに不機嫌な表情をしていた。

 

原因は目の前に立つ男性だ。

 

190を超える長身と綺羅やかな金に輝く短髪。整った顔立ちに青い二つの瞳が、恵美の姿を映している。

 

無言で向かい合う二人を、交互に見ながらもう一人のホルダー特務課に所属し、仮面ライダーE2の装着員でもある長谷川は、困り果てていた。

 

かれこれ三分はこの調子なのである。

 

「あの……そろそろ僕にも分かるように事情を説明して欲しいんですけど」

 

これ以上は耐えられないとばかりに、長谷川がこの無言と妙なプレッシャーが支配する室内において、新たな一石を投じた。

 

長谷川の切なる願いが天に届いたのか、恵美が溜息を一つ吐き、若干ではあるがこの場の空気が弛緩する。

 

「そうね。私も詳しく聞きたいわ。説明してくれるわよね? エド」

 

「相変わらずだねエミは」

 

恵美の詰問に、エドと呼ばれた男性は苦笑いを浮かべる。

 

「あの、二人は知り合いなんですか?」

 

二人のやり取りを前にして、長谷川が声を掛けると恵美とエドと呼ばれた男性は頷いて見せた。

 

「初めまして。ワタシはエドワード・ブルックス。以前はエミと同じ研究所に所属していた者だ」

 

「え? それじゃもしかして……」

 

丁寧な挨拶をするエドワードを前にして、恵美は再び大きな溜息を吐き出す。

 

「彼、エドは私が海外でESシステムの研究をしていた時の協力者よ。そして長谷川君。貴方の先輩と言える存在なの」

 

「改めて宜しく。エミが言った通り、ワタシがE1の装着者で君の先輩ってことさ。まあ気軽にエドと呼んでくれ」

 

「やっぱりそうだったんですね。さっきは助けて頂いてありがとうございます」

 

長谷川とエドが握手を交わすのを横目に、恵美はまだ不機嫌な表情のまま、睨みを利かせる。

 

「エドとE1が日本に来るって話は事前に聞いてはいたけど、一体どういうつもりなの?」

 

「どうって、ワタシは日本の警察からの依頼で、配属されて来ただけさ」

 

「E1はESシステムの情報収集をする為のテスト機でしかないし、役目を終えて海外支部は永久凍結させた筈なのよ。なのにどうしてまだE1が稼動しているか、きちんと説明してくれるかしら?」

 

「エミは相変わらず頑固だね。E1は世界に必要とされているから今でも其処にある。それだけエミは偉大な発明をしたってことさ」

 

「説明になってないわね。私はE1を凍結する時に言った筈よ。E1は人類が使い続けるにはまだ不安定過ぎる代物だって、使い方を間違えれば装着者を……」

 

更に捲くし立てようとした恵美だったが、その先をエドが手を前に出して制する。

 

「エミは自分の生み出したE1を過小評価しているようだけど。上はそうは思っていないんだ。それが証拠にワタシは今でもE1の装着者をしているんだ」

 

「……勝手にしなさい! 行くわよ長谷川君!」

 

「あっ!? ちょっと恵美さん?」

 

これ以上は話しても無駄と判断した恵美は、長谷川を連れ立って退室してしまう。

 

エドはそんな二人の後姿を無言で見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつものように翠屋でアルバイトをしていた俺だが、ある来客が放つ殺気にも近い雰囲気のせいで、店内は殺伐とした惨状となってしまった。

 

常連客の皆さんも、その不穏な空気を感じ取ってか微動だにせず、常連客の一人でもある田中さんはその繊細さ故に、冬でもないのに手に持ったティーカップが小刻みに震えている始末である。

 

「……あの、何かあったんですか?」

 

聞きたくはないが、このままで良い筈もない。そう判断した俺は注文されたアイスコーヒーをテーブルに置きながら、この現状の原因を作り出した張本人である恵美さんに話し掛けた。

 

「ちょっと気に入らないことがあっただけよ!」

 

それだけ言うと恵美さんはアイスコーヒーをブラックのままストローで勢い良く吸い上げて、案の定、盛大に咽た。

 

これは当分の間、会話にならないなと思い、俺は隣に座る長谷川さんに話題を振ることにする。

 

「何だかかなりご機嫌斜めみたいですけど、何があったんです?」

 

「う~ん。僕も良くは分からないんだけど、どうもエドと関係があるみたいなんだよね」

 

「エド?」

 

聞きなれない外人風な名前に首を捻る俺に、長谷川さんが順を追って説明してくれた。

 

「……ということがあってね」

 

「もしかしてそのE1ってこれのことですかね?」

 

一通りの説明を聞いた俺は、少し前に月刊海鳴で見たE2に良く似た姿のライダーが写っていたのを思い出して、翠屋のマガジンラックに入れっぱなしにしていたのを取り出し、長谷川さんに見せる。

 

「……うん。確かにこれがE1で間違いないよ」

 

「やっぱりそうだったんですか」

 

E2の前に製作されたらしい。プロトタイプの仮面ライダーE1。

 

俺も一度、本人と会ってみたいものだ。

 

今は日本に来ているらしいので、ホルダーが出たら、現場で会う機会もあるのだろうか。

 

そんなことを暢気に考えていると、横から伸ばされた手に、長谷川さんと眺めていた雑誌が奪われてしまう。

 

雑誌を強奪した犯人は、ブラックなアイスコーヒーと苦味から解放された恵美さんだった。

 

「海外で数々の活躍……なるほどね。凍結した後に……そういうことな訳か……」

 

雑誌に目を通しながら、何やらブツブツと呟き続ける恵美さんが異常に怖い。

 

どれくらい怖いかと言うと、カウンター席で震えている田中さんのティーカップの中から紅茶が零れまくる位の恐ろしさだ。

 

「「あの……恵美さん?」」

 

恐る恐る俺と長谷川さんが、恵美さんに話し掛けると、恵美さんは怒りの形相を浮かべたまま両手を叩き付けて立ち上がった。

 

「……行くわよ二人とも」

 

「え? あの、またですか!?」

 

「ちょっと! 俺はまだバイト中なんですけど!?」

 

恐怖しか感じない恵美さんの笑顔に逆らうことも出来ず、俺は長谷川さん共々、翠屋から強制的に連れ出された。


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