魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~   作:G-3X

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第45話 たこ焼きのススメ 【前編】

「システムの最終チェックを急いで!」

 

「はい!」

 

パソコンのキーボードを叩く音と共に、一人の少女が指示を飛ばし、その指示に対して白衣を着た男性が素直に従う。

 

複雑な機材が幾つも置かれたこの研究ラボでは、それは当たり前の光景だった。

 

少女は見た目はどう見ても中学生の少女ではあったが、天才的な頭脳の持ち主であり、今行っている作業に関しても、一番偉い立場に就いている。

 

セーラー服の上に白衣を羽織った、独特な格好こそがこの少女、風間恵美の日常的なスタイルであった。

 

「システムの最終チェック終わりました。後は各パーツの調整と、起動実験ですね」

 

恵美に指示された仕事をこなし、男性は嬉しそうに言う。

 

「ありがとうね。そっちも自分の研究が忙しかったでしょうに」

 

「いえいえ。恵美さんには以前に色々と学ばせてもらいましたし、僕にとってもこのシステムは、無関係って訳じゃありませんからね」

 

「ふふ。そう言ってくれると助かるわ」

 

「でも、今回は随分と急ピッチで作業する事になりましたね。何かあったんですか?」

 

「まあね。E2の破損が思った以上に酷くて……上が今まで渋っていた強化案に急遽GOサインが出たのよ」

 

「なるほど……通りで」

 

男性は納得したとばかりに頷く。

 

ここは恵美がESシステムを研究開発した研究ラボである。

 

恵美と話している男性も、元は恵美の部下として働いていた研究スタッフであり、普段は自分の研究をとある開発局で進めている身ではあるが、恵美の緊急招集により馳せ参じた。

 

二人は先日のホルダーとの戦いによって、大規模なメンテナンスが必要となったE2を修理すると同時に、新たな開発も行っていた。

 

それが完成するのは、もう間もなくである……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は今、一言で言うとアルバイトの真っ最中だ。

 

だが誤解の無い様に言っておくと、普段から働いている翠屋でのアルバイトでは無い。

 

「……何で俺はこんな事をしてるんだろうな?」

 

『仕方ないだろうマスター。それに考えようによっては、この状況ならば調査もしやすいというものだろう』

 

「確かにそうかもしれないけどさ……」

 

メカ犬の言っている事は別に間違ってはいないと、頭では理解しているのだ。

 

ただ、俺自身が納得出来ないというだけで、この状況は充分に利用出来ると思う。

 

「すいません。たこ焼きを一パックお願いします」

 

「は~い!」

 

「こっちは二パックで片方はマヨネーズ無しでぇ」

 

「かしこまりました!」

 

次々に来るお客さんの注文を捌き、営業スマイルを浮かべながら、俺は一心不乱に丸い窪みの付いた熱い鉄板に材料を流し込んでたこ焼きを焼き続ける。

 

ここまでの状況を顧みて、殆どの人が理解してくれたとは思うが、念の為に言っておこう。

 

俺は今、花火大会でたこ焼き屋の屋台の、アルバイトをしているのだ。

 

何故、俺がたこ焼き屋の屋台なんてやっているのか。

 

それは毎度毎度の事ではあるが、それなりの理由がある。

 

花火大会が開催される一週間前にまで時間は遡るのだが、普段通り俺が空いた時間に翠屋で働いていると、月刊海鳴という有名な雑誌を手掛けている知り合いの女性記者である、恵理さんが訪ねてきた。

 

はっきり言って、彼女が来たという時点で何かしらの厄介な出来事が舞い込むのは、もはや確定事項と言っても良いだろう。

 

更に最近では恵理さんの妹であると同時に、天才的な科学者でホルダー特務課の主任を務める恵美さんにまで、俺が仮面ライダーシードだという事がばれてしまい、事ある毎に実験台にさせられそうになっているのだ。

 

もうこの姉妹のライフワークは、俺を苦しめる事なんじゃないだろうかと本気で疑いたくなる。

 

だが俺とて、接客業に身を置く一人。

 

そんな懐疑心を窺わせる様な表情は一切浮かべずに、俺はこれでもかという程の営業スマイルを恵理さんに向ける。

 

「いらっしゃいませ恵理さん」

 

「ブレンド一つと、あと純君にちょっとお話があるから」

 

しかしそんな俺の考えなんてお見通しとばかりに、恵理さんは注文のついでに俺に話を振ってきた。

 

ここまでされたら、もう話を聞かないで逃れる術は無いだろう。

 

「かしこまりました。ブレンドをお一つですね」

 

最後の抵抗として、接客を完璧にこなした後、いつものように俺は士朗さんから少しだけ、恵理さんと話をする時間を貰う御伺いをする事にした。

 

「……それで、話って何なんですか?」

 

「あら、私が純君に持って来るお話って言えば大体の想像はつくんじゃないかしら」

 

奥の席で対面した俺に、くすりとからかい混じりに告げる恵理さんに対して、俺は深い溜息を吐く。

 

「取り敢えず、お話を聞かせてください」

 

「もう、相変わらず乗りが悪いわね純君は」

 

「最近は誰かさんの妹さんや、高校時代の同級生に絡まれる機会が増えて疲れ気味なんですよ……」

 

俺はジト目で恵理さんを軽く睨むが、その視線を向けられた当人は、ツボにはまったのか、肩を震わせて必死に笑いを堪えているという酷い有様だ。

 

「ご、ごめんなさい。あんまりにも予想通り過ぎて……お腹が痛く……はあ……はあ……」

 

「別に構いませんから、そろそろ本題に入ってください……」

 

俺の心が折れる前に。

 

「……そうね。それじゃあ率直にお願いする事にするわ。実は純君に、アルバイトをお願いしたいのよ」

 

「アルバイトですか?」

 

何かしらのお願いごとをされるとは予想していたが、少し変わった話の切り出し方に、俺は眉を寄せて聞き返す。

 

「ええ。純君は来週の日曜日に、近くの河川敷で花火大会が開催されるのを知ってるわよね?」

 

「はい。この近くでやる規模では一番大きな花火ですから」

 

周りには一月以上前から、至る場所に告知のポスターが貼られているし、去年も実際に家族で参加したお祭りだ。

 

多分この近隣で住む人間で、知らないと言う人を探す方が難しいだろう。

 

「実は最近こういったお祭りに怪物が出て、屋台が襲われるって噂になっているのよ」

 

「屋台を襲う怪物ですか……」

 

「その噂によると、狙われるのは決まって売れ行きの良い食べ物系の屋台で、いきなり襲い掛からず必ずその屋台で注文するらしいわ」

 

「……また随分と変わった事をする怪物もいたもんですね」

 

祭りにやって来た怪物が、焼きそばを注文して、花火見物しながら食べている姿とか、想像するとかなりシュールな光景である。

 

「話はこれで終わりじゃないの。その怪物が食べて合格と言えばなんとも無いらしいんだけど、不合格と言われたら、その屋台を滅茶苦茶にしていくらしいわ」

 

それはかなり傍迷惑な話だ。

 

ちなみに話の流れからして、その怪物の合否はその屋台の出店で出している食べ物の味で判断しているのだろうか?

 

かなり厄介な人種の人で、祭りの屋台ですら味に妥協を許さないという人ならば、怪物でなくても似たような行動をするかもしれない。

 

まあ、どちらにしても屋台をやっている人からすれば迷惑な事に、変わりない訳だが……。

 

そもそも、ああいった祭りの屋台で味に高いクオリティーを求めるというが、そもそも無理の様に俺は思う。

 

確かに美味しい屋台も探せば見つかると思うが、大抵は限定されたイベントでしか出店はせず、普段から屋台を出しているというわけではない人が多い上に、材料もコストパフォーマンスを抑えていくと味の質はどうしても下がってしまう。

 

更にそういった出店は大抵が屋外で、気温が高ければ使う食材の鮮度も早い速度で落ちていく。

 

クーラーボックスを使うという手段もあるだろうが、屋台のスペースを考えると、どうしても限度がある。

 

祭りを傍から見るだけの素人の俺ですら、こんな風に考えてしまうのだから、実際にこうした花火大会などで屋台を営んでいる方々はきっと更に俺の考えも及ばない数多くの苦労をしているのだろう。

 

それにああいった場所の屋台で買う食べ物というのは、味が良ければなおさら良いが、肝心なのは雰囲気を楽しむ事ではないだろうか?

 

前世の頃に、騒がしくも楽しく心躍る喧騒の中で友人達と、夜空に咲く花火を見ながら食べたお好み焼きのソース味は、今でも忘れられない大切な思い出だ。

 

「恵理さんは、その怪物の正体がホルダーなんじゃないかって疑っている訳なんですね?」

 

「そうよ。折角今度の記事でお祭り特集をする事になったのに、こんな噂が広まってたら台無しになっちゃうから、私個人としてもどうにかしたいの」

 

「噂の元凶がホルダーなら、俺に話すのも分かりますけど、アルバイトの誘いはどういう意味なんですか?」

 

ホルダーを倒してくれと頼むのは理解できるのだが、何故そこで俺にアルバイトをしないかと聞いてきたのかが分からない。

 

率直にその理由を聞いてみると、恵理さんは悪戯を思い付いた子供の様な笑顔を俺に向ける。

 

「実は今度の特集に向けて、より良い記事を書く為に屋台を実際にやってみる事が決定してね。その人員を探しているところなのよ」

 

「……来週が花火大会なのに、良くそんな事が決定しましたね」

 

「ふふん。かなり急な話だったんだけど我が社には優秀な人材が揃っているから、これくらいどうって事ないわよ!」

 

「それで実際は?」

 

「まあ、一言で言えばコネよ。社員の中に花火大会を主催する上層部の人の息子さんが居るから、無理を言って捻じ込んでもらったの」

 

どうせそういう事だと思いましたよ……。

 

考えてみれば、コネでもない限り、そんな急な話が舞い込んでくる事なんて無いだろう。

 

「つまり……急に決まった話で、会社から屋台を回す人材を出す余裕が無いから、俺をアルバイトとして使いたいという訳ですか?」

 

「会社のピンチを救いつつしかも、囮作戦が実行出来るなんて、これぞまさに一石二鳥よね!」

 

どう考えても屋台を子供に任せるなんて、正気の沙汰とは思えないのだが、恵理さんはそこら辺の感覚が麻痺しているんじゃないだろうか?

 

まあ、実の妹がまだ十代前半なのに、世界に認められる科学者で、警察の一課で主任やってたり、喫茶店で俺みたいな子供が働いてたりすれば、そこら辺の感覚が麻痺してくるものなのかも知れない。

 

というか、全体的にこの世界は俺が知る前世の世界と違って、幼い子の思考能力が全体的に高い様に思える。

 

もしかしたら俺がただ単に前世の頃の感覚を引っ張っているだけで、恵理さんの考えはまともな部類なのかも……いや流石にその思考は飛び過ぎだ。

 

やっぱりどう考えても、風間姉妹を一般的なカテゴリーに入れるのは間違っているだろう。

 

風間姉妹への対応を再認識しつつ、俺は思考を再び恵理さんとの会話に傾ける。

 

「それで、どんな屋台をやる気なんですか?」

 

「お? ついに純君も乗り気になったみたいね」

 

「別にそういう訳じゃないですけど、恵理さんが言う怪物が本当にホルダーなら放置しておく訳にもいかないですし、囮作戦は悪い作戦じゃないと思いますから」

 

「まあ、そう言う事にしておきますか。それでどんな屋台をするかなんだけど……純君は何か希望はある?」

 

「もしかして、まだ何の屋台をやるのか決めてすらいないんですか!?」

 

俺の問いに恵理さんは、えへへと年齢に見合わない可愛いポーズで誤魔化す。

 

まずは其処から決めないといけないのかと、最大級の溜息を吐いたその時だ。

 

「それならたこ焼きなんてどうかしら!」

 

「寧ろそれ以外は考え付かないのじゃ!」

 

悩む俺と恵理さんの耳に、聞き慣れた二つの声が響く。

 

声のした方向に視線を向けると、予想通りの金髪と銀髪の二人の少女が居た。

 

「アリサちゃんにエミリーちゃん……もしかしてさっきの話を聞いてたの?」

 

「勿論じゃ。こんな楽しそうな話を我に黙っておるとは、けしからんのじゃ」

 

俺の問いに、エミリーちゃんが胸を張りながら答える。

 

「それよりもこういう時の定番は、やっぱりたこ焼きでしょ!どうせやるなら天下一を目指すわよ!」

 

更にアリサちゃんに至っては、たこ焼きに何か特別な執着でもあるのか、その瞳にやる気の炎を燃やしている。

 

こうしてこの日から俺は、短期間ではあるがたこ焼きを焼く事への修行へと明け暮れる事となったのだった……。

 

そして一週間の時は流れ、俺はこうして行列の出来るたこ焼き屋でアルバイトをしている訳である。

 

『それにしても、まだまだ客が途絶える気配は微塵も無いな』

 

「まあな……」

 

メカ犬の素直な感想に短く返事をしつつ、俺は黙々とたこ焼きの製作に没頭していく。

 

何故この屋台に行列が出来るのか、それには幾つかの理由がある。

 

まず第一に、素材のランクが違うのだ。

 

考えても見て欲しい。

 

今やこの屋台のバックには一雑誌を扱う会社だけでなく、日本でも有名なバニングスの名を関する大会社のお嬢様と、一国のお姫様がいるのだ。

 

それにより、かなりの経済的な支援に恵まれて、売り上げを度外視した良い材料が手に入っている上に、それを他の屋台と変わらない値段で提供出来るのである。

 

素人に毛が生えた程度の実力しかない俺が作ったとしても、かなりの出来のたこ焼きは作れてしまうものなのだ。

 

更に原因の一旦は俺自身も含まれると思われる。

 

やはりどう考えても、俺の様な子供が、祭りでたこ焼きを焼いているのは珍しく映る様で、かなりの通行人が興味深げに俺に視線を向けたり、同年代の子供とかが、頻繁に話し掛けてきたりという事態が多々として起こるのだ。

 

しかも駄目押しとばかりに、浴衣姿のアリサちゃんとエミリーちゃんが、少し離れた場所で客寄せをしているのだから、お客さんがこっちに来ない訳が無い。

 

金髪と銀髪の美少女が浴衣姿で、たこ焼きを進めてきたら、ついつい行ってみたくなるのが人情だ。

 

そのおかげで、かなりの苦労を強いられているのが現状なのだが、このレベルまでに達すると、たこ焼きを買ってくれて美味しいと言ってくれるお客さん達を前にして、もはや喜びすら覚える。

 

当初の目的も忘れ、たこ焼き作りに勤しむ俺だったが、そんな時間は意外な程にあっさりと終わりを迎える事となった。

 

『キンキュウケイホウキンキュウケイホウキンキュウケイホウ……』

 

タッチノートから警報音が鳴り響き、その直後に怪物が出たという叫び声が何処からか聞こえて来る。

 

それを合図に、今まで目の前にあった行列が荒波に流される様に消えていく。

 

やがて屋台の周辺に誰も居なくなったその時、皆が逃げて行った反対方向から、異形の姿をした存在が姿を現した。

 

その異形を一言で表すのであれば、日本古来の鎧を着た豚である。

 

ピンクの肌に完全に頭部の作りは豚。

 

その豚が、良く時代劇などや、日本史の教科書で出てくるイラストの様な日本式の鎧を身に纏っているのだ。

 

さっきのタッチノートの反応からしても、奴がホルダーで間違いないだろう。

 

「……お前がこのたこ焼き屋の店主か?」

 

俺の目の前までやって来たホルダーは、俺にそう問い質す。

 

返事をする代わりに、俺はメカ犬に視線を送りながら、タッチノートを開く。

 

「悪いけど、あんたに売るたこ焼きは無いぞ!」

 

俺はそう言いつつメカ犬と共に屋台から飛び出して、タッチノートのボタンを押す。

 

『バックルモード』

 

「変身」

 

タッチノートから音声が鳴り響き、一緒に飛び出したメカ犬がベルトに変形して俺の腹部に巻きつき、素早く音声キーワードを発して、俺は更にタッチノートをベルト中央の窪みへと差し込む。

 

『アップロード』

 

全身を光が包み込み、俺の姿は一人の戦士へと変わる。

 

「か、仮面ライダー!?」

 

俺の変身を間近で見たホルダーが、驚きの声を上げるが、その隙を突いて俺は先制攻撃を仕掛ける。

 

鎧の部分は流石に防御力が硬そうだったので、俺は剥き出しとなっているホルダーの頭部に、遠慮無く拳を叩き込んでいく。

 

「ぶふっ!?」

 

突然の事態に対応が追いつかなかったのか、何の抵抗も無く、俺の拳を喰らってよろめくホルダーに、俺は更に追撃となるハイキックをぶち込んで吹き飛ばす。

 

『一気に勝負に出るぞマスター!』

 

「ああ」

 

俺はメカ犬に答えながら、ベルトからタッチノートを引き抜き、全体図を表示させて右足をタッチして再びタッチノートをベルトに差し込む。

 

『ポイントチャージ』

 

ベルトから発生する稲妻の様な激しい光が、右足のラインを伝い、脚部に集約される。

 

「こいつで決めるぜ」

 

俺は飛び上がり、輝く右足を突き出して必殺の一撃を放つ。

 

「ライダーキ……」

 

だがまさにその瞬間、予想外の事態が発生する。

 

「「ストーーーーーーーーーーーーーーーーーーーップ!!!」」

 

大きな制止の声が木霊し、俺は咄嗟に上体を捻って、放ったライダーキックをホルダーの立ち位置から無理矢理ずらして、何も無い地面に緊急不時着陸した。

 

「い、一体何が起こったんだ!?」

 

俺は先程の不時着陸によって巻き起こした砂煙を払いながら、静止の声を上げた張本人に視線を向ける。

 

先程の制止の声は、他の誰でもない、エミリーちゃんとアリサちゃんだった。

 

これが知らない声だったとしたならば、俺はあのままホルダーにライダーキックをお見舞いしていたのは確実だろう。

 

だからこそ、何故あのタイミングでこの二人が止めたのか、その理由を聞いておきたい。

 

『さっきは何故止めたのだ? エミリー嬢にアリサ嬢」

 

気になるのはメカ犬も同じだったらしく、俺が質問しようとしていた内容を既に二人に問い質していた。

 

「そ、それは……」

 

「純達の邪魔をしているのは分かっておるのじゃが……」

 

メカ犬の質問に二人は言い難いのか視線を泳がせる。

 

「何か言い難い事情でもあるの?」

 

今度は俺が聞いてみると、二人は意を決したのか、視線を泳がせながらも話し始めた。

 

「実はさっき客寄せをしているときに、そのホルダーと口論になったのよ」

 

「はい?」

 

アリサちゃんからの予想外の台詞に、俺は思わず声を上げた。

 

「我らが作ったたこ焼きを食べもせずに馬鹿にしてきたものじゃから、つい売り言葉に買い言葉で、文句を言う前に食べてみろと言ってしまったのじゃ……」

 

続いてエミリーちゃんが、苦笑いを浮かべつつ補足を述べる。

 

ここまで聞いて、何となくだが、どうして二人がホルダーを倒すのを止めたのかが分かってきた。

 

「もしかして二人は……」

 

俺がその理由を言い終えるよりも早く、二人は上流階級に住むとは思えない程の低姿勢で頭を下げる。

 

「そういう訳で純にお願いしたいのよ!」

 

「どうかあのホルダーにたこ焼きを食わせてやってほしいのじゃ!」

 

ある意味で、予想通りな答えを聞き、俺はやっぱりかと内心で納得してしまっていた。

 

「まあ、そういう訳でたこ焼きを一パックもらおうか?」

 

話は済んだかとばかりに、ホルダーが俺に注文をしてくる。

 

今のところは、戦う意思も無さそうなので、どうやらこのホルダーはただ単に、二人と言い争いをした結果、ここにたこ焼きを買いに来たらしい。

 

『どうするマスター?』

 

これからどうするべきか、今もベルト状態のメカ犬が聞いてくるが、どうするもこうするも無いだろう。

 

「……こうなったら、売るしかないだろう」

 

こうして何の因果か、仮面ライダーが屋台でたこ焼きを焼き、それをホルダーが食べるという謎の図式が完成した……。


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