魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
「それじゃあ結局のところ、この石がどうして試練の光を吸収するのか分からないってこと?」
「ユーノが一番詳しい専門家だと言っても、あの遺跡そのものが、まだ多くの謎を秘めてる訳だし。その辺はしょうがないわよ」
俺の問いにミルファが肩を竦めながら答える。
鳥羽さん主体によって半ば無理矢理に実行された合コンが終わってから更に翌週。
ミルファが海鳴市に戻って来たのだが、期待していた情報は得られなかった様だ。
「でもね。あれから私も暫くの間、遺跡の発掘調査に協力していたんだけど、その最中に古代文字の書かれた石版を発見したのよ」
「古代文字の書かれた石版?」
有益な情報が得られなかった事に落胆する俺に、ミルファが思い出した様に告げる。
どうにも帰りが遅いとは思っていたが、ミルファはユーノの発掘を手伝っていたからか……いや、それよりも古代文字の書かれた石版って事は何か別の事でも分かったのだろうか?
「まだ文字の前半部分しか解読が終わってないんだけど、私も地球には任務で来てるから、そう長居する訳にもいかなかったからね。取り敢えず私がユーノから教えてもらった前半部分だけでも、純に教えてあげるわ」
俺が頷くのを確認すると、ミルファはゆっくりと口を開く。
「【資格を持つ者 個に非ず 大いなる力 集い 真の資格】だそうよ」
「翻訳して貰っても、何だかその言葉自体が抽象的で良く分からないな……」
ミルファの言葉を聞きながら、俺は首を傾げながら考えるが、先程も言った通り解読された文が何を意味しているのか、理解する事は出来なかった。
「私もそれには同感だわ。でもユーノが言うには文章の初めの部分【資格を持つ者】は純の事を示しているんじゃないかって」
「俺の事を?」
確かにあの遺跡での戦いの後、門番は俺に石を渡した際に、資格を持つ者だと言っていたけど……
「でもそれだと次の【個に非ず】っていうのが変になるんじゃないか。石を持ってるのは今のところは俺だけだと思うんだけど」
確かに石を持っている人物が俺だけだとは限らないが、あの遺跡を訪れて門番と謁見出来る人間がどれだけ居るのだろうか?
可能性として無いとは言い切れないが、それでもやたらめったらと訪れる事が可能な場所とは、到底考えられない。
「まあ、純の言う事も分からないでも無いわよ。ただでさえ発掘に長けたスクライア一族が調査しながらも長い間、発見されなかった門番の場所まで続く道を、他の人達がそう簡単に見つけられるとは思わない。でもその石が門番が持っていた物以外にもあったらって可能性もあるんじゃない?」
ミルファが指摘した通り、この石の入手方法が一つとは限らないのだが、それでも何かが引っかかる。
根本的な何かを、俺達は見落としている様な気がするのだ。
その何かがぼんやりとではあるが、俺の頭に浮かんで来そうになったその時。
『着いたぞマスター』
今まで黙って、俺が愛用しているオレンジのショルダーバックの中に収納されていたメカ犬が、頭だけ突き出した状態で、俺に話し掛けてきた。
どうやら話し込んでいたので気付かなかったらしい。
メカ犬の言葉によって、意識が切り替わった俺の耳に、到着を知らせるアナウンスの声が響く。
今現在、俺とミルファは中型のマイクロバスの一番後ろの後部座席に陣取っていた。
その前方では、先程までバスに備え付けられていたカラオケセットに興じていたなのはちゃんを始めとした今やアリシアちゃんを新たに加入してクラスの美少女五人組となったメンバーにプラスはやてちゃん。
それに恵理さんとサバスチャン。
更にこのバスを運転しているのは、アリサちゃんの家のお抱え執事で俺の執事師匠でもある鮫島さんだ。
今はその面々が手荷物を纏めて、バスの外へと出て行く。
バスの窓から見える景色は、夏を実感させる緑豊かな山々が広がっていた。
どうして俺が、こんな状況になっているのか。
それは合コンで、俺が椎名さんに怒られていた事に起因している。
あれから一頻り怒られた後、椎名さんは何を思ったのか、俺に夏休みに入ってからすぐに、合宿をする様にと言って来たのだ。
何でも椎名さんの実家は古武術の道場をやっているとかで、其処で俺の性根を鍛え直すのだそうな……
そんな勝手なと思うだろうが、あまりにも真剣にそう言ってくる椎名さんを前に、俺は断る事が出来なかった。
今思えば、それだけならばこんな大所帯になる事は無かったのだろう。
だが、合宿という事は日帰りではなく、少なくても数日は泊まるという事になる。
合コンが終わった日の夜、夕飯を食べつつ俺は家族にその事を伝えた。
それが間違いだったのかもしれない……
俺が夏休みに入ってからすぐに合宿に行くという情報は、その話を聞いていたアリシアちゃんによって、瞬く間に周囲に伝わる事となってしまった。
誰が最初に言ったのか、私も行きたいと一人が言い出すと、他の面々も挙って行きたいと主張を始め、俺の与り知らぬ間に、いつの間にかアリサちゃんがバスを用意して、其処に恵理さんが引率も必要でしょと良いながら加わり、最後は小さな旅行会社が企画したツアー旅行みたいな感じになったのである。
何故そんな経緯を辿った先に、ミルファが俺の隣に居るのかと言うと、偶然こっちに戻って来て俺を訪ねた際、丁度俺達が出発する直前だったという事もあり、そのまま着いて来てしまったのだ。
幸いにも、戻ってからそのまま来たので、ミルファが外泊準備の出来たバックを持ったままだったというのも大きいだろう。
ちなみに先程の、到着と同時に聞こえたアナウンスは、カラオケのマイクを握っていたはやてちゃんが、ふざけて観光バスのバスガイドさんを真似したものである。
「ほら、二人とも!早く来ないと置いて行っちゃうわよ!」
窓の外から聞こえる恵理さんの声に、俺とミルファは急いでバスを飛び出して皆の後に続いた。
海鳴市は山と海に囲まれた、独特の地形をしており、行楽スポットも何気に多い。
俺達が歩いている山道も、その一つに当たる。
行き交う家族連れや、これから山登りに向う登山家。
そんな人達と、軽い挨拶を交わしながら暫く歩いていると、長い石造りの階段が見えてきた。
どれだけ長いのかと言うと、上を見上げても終わりが見えないと言えば想像し易いだろうか。
それだけ長く続く上に、中々の急斜面を誇る階段だという事だ。
「この階段を上れば、目的地の道場よ」
恵理さんの言葉を合図に、俺達は階段を上り始める。
流石に車椅子のはやてちゃんは、自力で登る事が不可能なので、車椅子は折り畳み式の物を事前に用意して来て、それをサバスチャンが背負い、はやてちゃん自身を鮫島さんが背負って運んだ。
登りきる前に、中盤付近で力尽きたなのはちゃんを俺が背負い、続いてお城でのお姫様生活が長かったエミリーちゃんを後半からすずかちゃんが背負うという事態に陥ったものの、他には特に問題らしい問題も無く、俺達一行は無事に階段を登りきって、目的地へと到着する事が出来た。
階段の上は石畳が続き、その先には木製の巨大な門。
更にその門を潜ると、少なくても樹齢数百年は経つと思われる巨木が青々とした葉を遥か上空の枝につけている。
そして更に奥へと続く石畳を歩いていくと、やっと建物が見えてきた。
その建物も、屋敷と呼んでも過言ではない程に大きな木造建築だ。
俺となのはちゃんに、アリシアちゃんと、はやてちゃんの四人は此処までに見て気た大きなスケールに圧倒されるが、他のメンバーは特に気にした様子も見せず、恵理さんに続き屋敷の玄関へと向っていく。
まあ、この中で椎名さんと元から知り合いである恵理さんはこの場所に訪れるのは初めてでは無いだろうし、納得出来る。
それに今更ではあるが、アリサちゃんとすずかちゃんは生粋のお嬢様だし、エミリーちゃんにしては一国のお姫様……
スケールの大きさという観点から言えば、元から庶民感覚の俺達とは何かが根本的に違うのかもしれない。
その従者である鮫島さんとサバスチャンは、内心ではどう考えているのか分からないが、少なくてもこの光景に驚いた様子は見せていないので良く分からないのだが……
「へえ……中々良さそうな場所ね」
何でミルファまでもが、平然な顔をしているんだ!?
同じミッド出身のアリシアちゃんが、俺達庶民派と同様に驚いている事から、ミッドチルダでも、こういった風景や大きな個人宅はそう易々と存在しないのだろう。
……もしかしてミルファも、相当なお嬢様だったりするのだろうか?
気にはなるのだが、そんな不躾な質問をするのも躊躇われた俺には、結局真実を知る事は出来なかった。
そうやって俺が人知れず、心の中で葛藤していると、玄関前に辿り着いた恵理さんが、チャイムのボタンを押した。
甲高く伸びるチャイムの音がしてから数秒後と言ったところだろうか。
玄関の奥の方から、は~いという間延びした声に続いて、バタバタと足音が響き玄関の扉が横にスライドする。
出て来たのは予想通り、椎名さんだった。
事前に来るメンバーが増大した事は、事前に恵理さんが連絡してくれていたので、驚かれる事は無かったのだが、こんな大人数で訪ねて来て迷惑ではなかったのだろうかと思いもしたのだが……
「こんなに可愛い子がいっぱい来てくれて本当に嬉しいわぁ」
などという事を言いながら、満面の笑みを浮かべてなのはちゃん達を愛でているのを見て、その心配は杞憂だった事を理解した。
そういえば合コンの時に子供好きだと言いながら、俺を撫で回していた程だものな。
「それじゃあ、板橋君はこれに着替えて私と一緒に道場の方に行きましょうね」
客間に案内されてから、暫くなのはちゃん達を愛でていた椎名さんは充分に堪能したのか、そう言って俺に胴着を手渡した。
何だか小旅行みたいな雰囲気になっていて、忘れそうになっていたが、本来俺がここに来る事になったのは、椎名さんに説教された上に根性を叩き直すという名目上の体験合宿だったのである。
だが今にして思うと、俺はただこの合宿とは名ばかりの旅行のダシに使われたのではないのかと、先程の椎名さんの愛でっぷりを見て感じたのだが……
「分かりました」
折角来たのだし、個人的に古武術がどういったものなのかというのも興味がある。
俺は差し出された胴着を素直に受け取り、手早く着替えて椎名さんの後へと続く。
「あ!私達も見学して良いですか?」
そのまま客間を出ようとしたところで、なのはちゃんが椎名さんを呼び止める。
「ええ。勿論、大歓迎よ」
椎名さんの承諾を得て、なのはちゃん達子供組が着いて来る事になった。
ちなみに恵理さん達、大人組は暫く客間で休むそうなので着いて来る事は無かったし、ミルファに至っては長旅の疲れからか、窓際のソファーを陣取り、昼寝をしてしまったので、そっとしておく事にした。
椎名さんの話によると、道場は屋敷の中央部分に別宅としてあるそうなので、客間を抜けて長い廊下を歩くと、一度中庭に出て外を歩く。
中庭には大きな池があり、池の中には赤と白の模様を持つ錦鯉が優雅に泳いでいるのが見えた。
後で餌やりをするそうなので、皆で参加しようという雑談も交えながら歩いていくと、程無くして目的地に辿り着く。
「さあ、着いたわよ。皆入って」
「はい」
椎名さんに促されるまま、俺は椎名さんの後に続き、なのはちゃん達もその後に続き、道場の中へと入る。
敷地が広いというのもあるのか、高町宅で個人的に利用されている道場と比べると、かなり広い作りとなっていて、道場は天井こそあまり高くは無いがバスケットが出来そうな程の、体育館並の広さを誇っていた。
そんな広い空間の中に、今の俺と同様に、胴着を来た二人の人物が組み手稽古に励んでいる姿が俺の視界に飛び込む。
片方は見た目は七十代と思われる、白髪の小柄なお爺さんで髪と同じ色の長い髭を蓄えている。
そしてもう一人は、中性的な顔立ちをしたショートカットの黒髪をした、俺達と同じくらいの背丈の子供だ。
顔が中性的な上に、男女兼用の胴着を着ているから、男の子なのか、女の子なのか判断に迷うが、少しキツメな目をしているし、稽古相手のお爺さんに対して、果敢に向っていく姿から察するに、男の子だろうか?
それにしても、この二人……格闘技に関しては素人の俺からでも、見た目と違ってかなり強いと分かる。
特にお爺さんの方は、異常と言っても差し支えないだろう。
子供の方は、相手のお爺さんが大人とは言えども、頭二つ分には身長差があるのだが、上手く懐に入り込む事で、自身の攻撃を常に射程距離に持って来る上に、フェイントを織り交ぜた素早い攻撃を繰り返している。
その熟練度は、子供とは思えない完成度だ。
にも関わらず、お爺さんは子供の仕掛けるフェイントを全て見極め、本命と思われる攻撃だけを必要最低限の動きと速度でかわし続けている。
パッと見では大人と子供がただじゃれあっている様にしか見えないが、これは二人の間でかなり高度な心理戦が繰り広げられているのではないだろうか。
俺がそんなバトル漫画の解説役的な考えをしていると、戦っていた二人も俺達が道場に入って来た事に気付いたらしく、お爺さんが手で子供を制すと、稽古を中断してこっちに近付いて来る。
「遅かったじゃないか岬。それで……この男の子が今日から合宿に参加する例の男の子かい?」
「ええ。板橋純君よ」
最初に話し掛けてきたのは、お爺さんの方だった。
お爺さんは何処か飄々とした態度で、先程まで老人らしからぬ戦いを披露していた人物と同一人物とは思えない。
椎名さんもお爺さんの問いに軽く返事をしつつ、簡単に俺を紹介したので、俺もお辞儀をしながら宜しくお願いしますと挨拶を交わす。
「皆に紹介するわね。この人は私のお爺ちゃん。この道場の十代目師範なの」
「岬の祖父の椎名玄大《しいな げんだい》とはわしの事じゃ。まあ、宜しく頼むわい」
お爺さん改め玄大さんが蓄えた自身の長い髭を撫でつつ、椎名さんの紹介を受けて自ら自己紹介した。
続いて椎名さんが、玄大さんと組み手をしていた子供に視線を向ける。
「それでこっちの子が椎名《しいな》 真昼《まひる》。私の……」
「岬ネエが言ってた今日から合宿に参加するって言ってたのはこいつなの?」
椎名さんの自己紹介を途中で遮り、前に出た子供が前に出る。
更にどうした事か、真昼……君?からは明らかな敵意の視線が、俺に対して向けられている……
「えっと、き、今日からお世話になります」
どうして敵意を向けられているのかは分からないが、俺は取り敢えず真昼君に出来るだけ友好的な笑顔を浮かべながら挨拶してみる事にした。
「ヘラヘラするな!」
だが俺の行動が癪に障ったのか、真昼君は怒鳴りつけると共に、更にキツイ視線を俺に浴びせ掛ける。
「ちょっと真昼!?」
「だいたいこんな、女の子達を大勢引き連れてくる様な軟弱な奴と合宿なんて僕は反対だ!」
椎名さんが諌めようとするが、真昼君の怒りは収まらない。
「まあ、そう言うな真昼よ」
そんな真昼君を諌めたのは玄大さんの一言だった。
温和な言い方ではあったが、何処か言い様の無い迫力を持った玄大さんの言葉に、椎名さんと真昼君の動きがピタリと止まる。
「で、でも玄爺!」
玄大さんの言葉で、一時的に俺への敵対心を薄める真昼君だったが、それでも不安気に抗議の声を上げる。
「真昼はこの少年が弱そうだから、一緒に修行するのが嫌だと言うのだろう?」
「そ、そうだけど……」
「だったら直接手合わせしてみれば良い」
そう言った玄大さんの表情は、何処か新しいオモチャを与えられた子供の様な、無邪気な笑顔をしていた。
「俺は格闘技の経験が無いんですけど、勝負のルールはどうすれば良いんですか?」
「ふむ。一応何でもありの総合格闘技と思ってもらえれば良いわい。金的と目潰し等の急所攻撃以外は打撃、間接、投げ技、寝技攻撃、まさに何でもあり。勝敗の判定はわしが判断するのじゃ」
道場の中央で俺の質問に、玄大さんが簡単に説明する。
「ルールの確認はそれくらいで良いだろ?」
俺に向かい合う様に立つ、真昼君はいつでも準備は出来ているといった感じだ。
俺の意思とは無関係に、戦う事になってしまった訳だが、今更辞退しますとは場の雰囲気から察するに、とても言い辛い。
相手は何だかやる気満々だし、同行してきたなのはちゃん達も、椎名さんの引率の下に、俺と真昼君の勝負が最も見え易そうな位置に陣取り、観戦を決め込んでいる。
誰も俺の心配をしてくれないどころか、現状を一つのアトラクションとでも捉えていると思われるその態度に、不満を覚えるが、今更それを口にしたところで、この勝負が無くなる訳ではない。
「……仕方無いか」
俺は一人呟きながら、玄大さんの号令の下、向かい合った真昼君と互いに一礼して身構える。
別に鳥羽さんみたいなバトルジャンキーになった覚えは無いが、先程の二人の手合わせは個人的にも気になっていた。
怒涛の如く攻める真昼君と、対照的にまるで風に揺れる柳の様に、その攻撃の全てを受け流して見せた玄大さん。
此処まで実践的な攻守を合わせ持つ、古武術の実体がどんなものなのか興味がある。
「一撃で終わらせる!」
先に動いたのは真昼君だった。
俺が構えると同時に、組み手で先程も見せた素早い踏み込みで俺の正面まで来て、既に右拳を放つ体勢に入っている。
玄大さんとは違い俺にはフェイントは不要と判断したのか、それともこの一撃を避ける力量があるか試しているのか、真昼君の意図は定かではないが、大人しくこの攻撃を受ける訳にもいかない。
今まで数多くのホルダーと戦ってきた中で、今の真昼君よりも素早い奴は何体もいた。
それに動き自体は確かに早いのだが、隠そうともしない俺への強烈な敵対心が、その攻撃の軌道を教えてくれる。
真昼君の放った拳が伸び切るよりも先に、俺は一歩前に自ら踏み込んで真昼君の腕を内側から外側に力が逃げる様に手を添えて無効化し、もう片方の手を素早く前に突き出す。
相手の攻撃を掻い潜り、カウンターを放つ。
基本的であり、原始的な方法だとは思うのだが、大抵の相手は攻撃をした瞬間というのが、最も大きな隙を生じさせるのだ。
それを俺は幾多の実践の中で学び、実行に移す術を磨いた。
だがそれが綺麗に通用するのは、相手と此方に絶対的な地力の差が存在する時である。
真昼君は俺の動きに一瞬だけ驚いたという表情を見せるが、それは本当に一瞬だけで、俺の突き出した拳が九尾に当たる寸前で、足をクロスさせ瞬時に横から背後へと回転しながら移動してしまったのだ。
流石に此処まで出来るとは驚いた。
「貰った!」
俺のカウンターを見事に避けて背後を取った事で勝利を確信したのか、真昼君の気合の篭った声が、俺の背中からダイレクトに聞こえて来る。
だけど……
「そう簡単にはさせない!」
俺は最初から真昼君が、このカウンターを避けるであろうと、最初から考えていた。
だからこそ予め、罠を仕掛けていた。
真昼君が俺の背中に回ろうとしていたその時、既に俺は真昼君の回転とは逆に回し蹴りを放つ姿勢を取っていたのである。
「ぐっ!?」
「むぅっ!?」
真昼君が放とうとしていたのも、背後に回りこむ回転を軸に放った回し蹴りだった。
俺と真昼君。
両者の蹴りが偶然にもぶつかり、その反動で俺達は丁度お互いが立っていた逆位置となって再び正面でお互いの視線がぶつかる。
玄大さんとの組み手では、怒涛に攻める印象が強かったけど、真昼君は防御の腕も中々のものだ。
正直に言って、俺の攻撃が当たる気が全くしない。
避ける自信は今までの経験から、それなりにあるが俺の攻撃面はさっきのカウンターを含め、ほぼ我流な上に、変身時は能力便りな部分が多いので、生身の状態での確実な攻撃手段はかなり限定されてくる。
ただ一つ真昼君に対して、一撃を入れるとするならば、完全に相手の虚を突く以外は無いだろう。
なら正攻法に攻めると見せかけて……
再び踏み込む真昼君に対して、俺は正面から受けて立つ構えを見せつつも、真昼君が次に繰り出す初手を待つ。
「それまで!」
だが俺と真昼君がもう一度、拳を交えるよりも先に玄大さんの声が、道場に響きこの組み手は勝敗が着かないまま終わりを迎えた。