魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~   作:G-3X

162 / 233
第39話 兄妹の秘密特訓?【後編】

俺はホルダーに対して、再び渾身の一撃を叩き込む為に、拳を繰り出そうとするが、その拳がホルダーに届くよりも早く……

 

「ちょっと待ってくれ!」

 

他の誰でもない。

 

その一撃を受ける筈だったホルダーが、両腕を突き出して止まれというジェスチャーを交えつつ声を大にした。

 

俺はその予想外な展開に、思わず攻撃を中断して動きを止めてしまう。

 

「別に俺は誰かに迷惑を掛けようとした訳じゃないんだ!」

 

「え?」

 

更に俺の動きが止まったところで、ホルダーが畳み掛けた発言に、俺は思わず疑問の声を上げてしまった。

 

「俺はただ泳ぎたかっただけなんだよ」

 

「お、泳ぎたかっただけ!?」

 

更なる発言に俺が驚く間に、ホルダーの全身が、一瞬だけ光に包まれて、次の瞬間に素体となった人間の姿へと戻る。

 

先程までホルダーの姿をしていたのは、さっきまで話を聞いていた監視員さんと同じ指定の紺の水着を着用した青年だった。

 

彼がホルダーだという事は、先程監視員さんが言い掛けていた怪しい人物とは、十中八九彼だと思って間違いないだろう。

 

「実は昨日、全身黒尽くめな怪しい人にこれを貰ってさ」

 

「緋色の暴走プログラム……」

 

握りこんでいた拳を広げて、彼が見せてきたのは今までも時々だが見覚えのある緋色の丸い球体だった。

 

「俺は泳ぐのが大好きでさ。もっと魚みたいに泳いでみたいって願ったらあんな鮫みたいな格好になったんだ」

 

彼は本当に泳ぐ事が好きなのだろう。

 

まるで子供の様な無邪気な笑顔を浮かべながら、ホルダーになった時の自分がどれだけ水中を自由に泳げるのかを、嬉しそうに語った。

 

「でも、それは危険なものなんだ。君がそれを持ち続ければ、そう遠くない間に君の意思とは関係無く誰かを傷付ける事になる」

 

使用者がどんなに心根の優しい持ち主たったとしても、暴走プログラムはそれを捻じ曲げてしまう。

 

今はまだ暴走プログラムを手にしてから日が浅く、目的も泳ぐという純粋なものの為に、正気を保っていられているが、それも長い間は続かない。

 

「……そんな」

 

俺の言葉に彼は表情を暗くする。

 

彼の使い方は、本来のホルダーのあり方に近いものの一つではあるが、それでも彼をこのままにしておく訳にはいかない。

 

それに彼は、試練の光の影響すら受けている。

 

正気を保っている間に、何とか彼に暴走プログラムを手放させなくてはならない。

 

「ちょっと待ってあげてくれないかしら、仮面ライダー」

 

重い沈黙の中で、恵理さんが待ったの声を上げた。

 

そのいきなりの発言に対して、俺は慌てながら恵理さんに詰め寄って小声で抗議する。

 

「何を考えてるんですか恵理さん!?」

 

『マスターの言う通りだぞ恵理殿!今はまだ正気を保っているから良いが、何時暴走したとしてもおかしくは無いのだぞ!?』

 

俺とメカ犬の抗議の声を聞いても、恵理さんは余裕の笑顔を浮かべるばかりで、全く危機感を感じていない様に見える。

 

「別に君達の邪魔をする気は無いわよ。でもこんな終わり方をしたんじゃ、彼も納得出来ないんじゃないかしら?」

 

「それは……」

 

恵理さんの発言に、俺は答えに詰まる。

 

実は倒したホルダーがその間の記憶を失うのは、強制的に必殺技と同時にワクチンプログラムを注ぎ込む事によって引き起こされる副作用で、ホルダー本人の意思で暴走プログラムを手放して球体の状態のままワクチンプログラムを打ち込んで破壊すれば、直接的な影響を受けずに済むので、素体となった人物の記憶もそのまま残ってしまう。

 

『確かにそうかもしれないが、だとしたら恵理殿は何をしようと言うつもりなのだ?』

 

「それはね……ずばり水泳勝負よ!」

 

「『水泳勝負!?』」

 

俺とメカ犬は小声で話す事も忘れて、同時に声を張り上げてしまった。

 

それを切欠に恵理さんが俺から離れて、ホルダーの青年やアリシアちゃんにも聞こえる様に語り始める。

 

「最後に悔いが残らない様に思い切り泳げば良いのよ!だったら誰かと競うのが一番だとは思わない?」

 

そう言って恵理さんは、視線を彼に向ける。

 

恵理さんの提案に対して熟考した彼だが、程無くして答えを出したのか、真っ直ぐな眼差しを俺達に向けた。

 

「もしもこれが最後だって言うなら……俺も悔いが残らない泳ぎをしたいです!お願いです仮面ライダーさん!」

 

そう言いながら、頭を下げる彼の姿に俺はどうするべきか狼狽する。

 

「ねえ、仮面ライダー。私からもお願い。一度だけあの人のやりたい事をさせてあげて」

 

そんな俺に畳み掛ける様にアリシアちゃんまでもが、頭を下げてきた。

 

「なあ、メカ犬。俺からもお願い出来ないかな?」

 

『マスターまで!?』

 

「これ以上あの人を放置するのは危険だって事は承知してる。でも、それでもさ。ホルダーが本当は夢を叶える為に作られたっていうなら……」

 

『う、ううむ……』

 

俺が無理を言っているというのは分かっているし、メカ犬が答えに困っているのも十分過ぎる程に理解出来ている。

 

それを分かった上で、俺はメカ犬に頼む。

 

『……今回……だけだぞ』

 

苦渋の選択をしたと分かる声が、ベルトから確かに響く。

 

「……ありがとうメカ犬」

 

そんなメカ犬に、俺は感謝の言葉を送った。

 

「それじゃあ勝負の相手は頼んだわよ。仮面ライダー!」

 

「え!?」

 

次の瞬間、まるで近所のスーパーに買い物を頼むかの様に、俺の背中を叩きながら告げた恵理さんの言葉に対して、思わず俺は声を上げてしまった。

 

『まあ、ホルダーの相手をするなら常人では無理な話だからな……』

 

メカ犬の呆れ声に、確かにそうだなと俺は納得した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【「えっと……そ、それではこれより、海鳴市民プール主催第一回!仮面ライダーVSホルダーの100メートル自由型による水泳対決を開催します!」】

 

マイクによって増大されたアリシアちゃんの声を聞き、プールサイドから多くの歓声が上がり、その人垣の合間からは恵理さんが何度もカメラのシャッターを切る。

 

「えっと……実況は私、板橋アリシアと、か、解説はこの市民プールで監視員をしている、魚住《うおずみ》 勝男《かつお》さんです」

 

アリシアちゃんに紹介されて隣で軽くお辞儀をしたのは、ホルダーが出たと同時に逃げた監視員のお兄さんだった。

 

プールサイドを囲む皆も、ホルダーが現れたと同時に逃げ出した筈の、お客さん達である。

 

危険かもしれないというのに、凄まじい野次馬根性を発揮する皆さんに対して、呆れを通り越して、もはや尊敬すら覚えてしまいそうだ。

 

そしてそんな彼等の歓声に包まれて、俺とホルダーはプールのスタート台の上に立っていた。

 

このような事態に陥るまで、長い時間は掛からなかった……

 

あれからすぐに、恵理さんがケータイで電話を掛けて、少しすると何処からとも無く人が沢山やって来て、様々なセッティングをすると、次にプール脇の中央辺りに、仮設の司会者席なるものを瞬く間に作り上げて、其処にアリシアちゃんと、先程も紹介されていた監視員のお兄さんの魚住さんが、セッティングしていた内の一人に指示されて席に着き、恐らくさっきの司会でアリシアちゃんが読んだと思われるプリントが渡されていた。

 

そんな光景に目をやっている間にも、着々と準備は滞り無く進んで行き、気が付けば沢山の見物客がプールサイドに押し寄せており、その周囲を売店に居た店員さん達がジュースや軽食をせっせと売り捌き、何時の間にか市民プール全体が動く、一つの大きなイベントと化してしまったのである。

 

勝負を断るつもりは毛頭無いが、もしもこの場で俺かホルダーのどちらかが勝負を辞退すると言えば、暴動が起きるであろう事は確実だ。

 

『そんな緊張しなくても、アタイが居るから大丈夫だわさ~』

 

俺が周囲の雰囲気に呑まれていると、既にアタッチメントパーツに変形して、ベルトの左側に装填されている状態のメカ海が、緊張を解そうと、声を掛けてきた。

 

今回は水泳勝負という事もあり、勝負が始まる前に既にメカ海を呼び出しておいたので、今の俺は水中戦を一番得意とするベーシック・ダイバーとなっている。

 

地上では装甲が堅い以外にはあまり使い勝手が良いモードとは言えないが、こと水中に関して言えば最も高い機動力を有するのは間違いない。

 

【「さ、さあ、仮面ライダーとホルダーの準備が整った様です!」】

 

【「どんな勝負になるのか楽しみですね」】

 

スタート台に乗る俺の耳に、途中から何かが吹っ切れたのか声を張り上げて実況するアリシアちゃんと、そのテンションとは対照的に爽やかな笑顔で語りながら輝かしいばかりの白い歯を覗かせる魚住さん。

 

「それでは位置について下さい」

 

俺とホルダーがスタート台に立つと、魚住さんとは別の監視員さんが指示を出す。

 

その指示に従うと監視員さんが、右手に持っていた陸上競技などのスタート時に使うピストルを真上に掲げる。

 

監視員さんのよーいと言う声に合わせて、俺とホルダーはプールに何時でも飛び込める姿勢を取った。

 

その直後、監視員さんが協議用のピストルの引き金を引くと同時に、勝負の開始を告げる、乾いた発砲音がプール全体に響き、俺とホルダーはプールの中へと飛び込む。

 

水の中に入った俺は、脚部のスクリューを回転させてその力を推進力にして前へと突き進んでいく。

 

【「おおっと!?これは仮面ライダーが勝負開始直後から、凄まじいスタートダッシュでトップに躍り出ましたあああああああああ!!!」】

 

【「これは凄いですね。スクリューの生み出す回転が大きな水飛沫を生み出して後方から追いかけるホルダーの姿が全く見えません」】

 

もう本当にアリシアちゃんなのかと疑いたくなるハイテンションな実況と、魚住さんの爽やかな解説が周囲に受けているのか、泳いでいる俺の耳にも野次馬達の歓声が聞こえて来る。

 

まあ、それは置いておくとして、アリシアちゃんの実況で、どうやら今のところは、俺が一歩リードしているのだという事が分かった。

 

出来る事ならば、このまま逃げ切りたいところだ。

 

【「レースも残り25メートルを切りましたが、依然としてトップは仮面ライダーが独走しております!勝負はこのまま決まってしまうのでしょうか……あれは!?」】

 

【「……これは面白くなってきましたね」】

 

勝負も後半に差し掛かったその時。

 

アリシアちゃんが驚愕するのとほぼ同時に、凄まじいプレッシャーが後ろから迫り来る。

 

その重圧は瞬く間に距離を詰め、遂には俺の横に並ぶ。

 

並んだ瞬間、視線を横に向けて俺は驚愕した。

 

追い着いて来たプレッシャーの正体がホルダーだという事は、初めから分かっていたのだが、ホルダーの背中には見慣れぬ大きなロケットが背負われており、爆音を轟かせていたのである。

 

どうやらこれが、ホルダーが追い着いて来た理由の様だ。

 

【「な、なんとホルダーが背中に巨大なロケットで、一気にラストスパートおおおおおおおおおおおお!?」】

 

【「あれはロケットと言うよりも、魚雷と呼ぶ方が正しいかもしれませんね」】

 

テンション&ボルテージを限界まで引き上げて絶叫するアリシアちゃんと、それとは対照的に冷静に解説する魚住さんの声がプールに響く中、遂にホルダーが俺を追い抜く。

 

この勝負の勝ち負けで、結果が変わるという訳では無いが、それでも本気で勝負するならば最後まで諦めたくない。

 

それこそがきっと勝負の相手でもある、ホルダーに対しての正しい向き合い方だと思うから。

 

「絶対に追い着いてみせる!」

 

俺は自分自身を鼓舞する為に、声を張り上げながらベルトの右側をスライドさせて、緑色のボタンを押した。

 

『スピード・ダイバー』

 

音声が鳴り響き、メタルブラックのボディー部分が、鮮やかなライトグリーンに染まる。

 

スピード・ダイバーは地上では全モードの中でも最も低い機動力で、碌に動く事すら叶わない。

 

だがそれは水中では最速へと変わる。

 

脚部だけでは足りない。

 

腕部のスクリューも後手にして、更に推進力を増す。

 

その甲斐あってか、再びホルダーとの距離はみるみる内に縮まっていく。

 

そして遂に、俺はホルダーの横に再び並ぶ。

 

ここまで来たら、後は気合だ。

 

お互いの勝ちたいという意志の強さが、勝負を決める。

 

そして壁に手を着く。

 

同時に勝負の終了を告げる、大きな歓声がプール全体に響く。

 

そして肝心の勝負の結果は……

 

【「同着です!ゴールは全くの同時との事です!」】

 

【「いやあ、中々に類を見ない接戦でしたね。普段の水泳競技では、まず見る事の出来ない大迫力……堪能させていただきました。この素晴らしい勝負を見せてくれた二人に、感謝の言葉と拍手送ります」】

 

アリシアちゃんの声で、結果は引き分けだったという事が分かった。

 

結果は引き分けだったが、持てる力を尽くしたからなのか、今の気分はとても清々しい。

 

それはホルダーの方も同じだったのか、ホルダーの姿から人間体に戻ると、爽やかな笑顔と共に、俺に握手を求めてきた。

 

「本当に良い勝負だった!こんなに楽しく泳いだのは初めてかもしれないよ」

 

「……こっちこそ、こんなに本気で泳いだのは初めてだった」

 

俺は彼と本気で勝負出来た事への感謝の気持ちを示そうと、差し出した手を取ろうとしたその時……

 

「ぐうっ!?」

 

唐突として苦しみだす彼を前に、俺が声を掛けるよりも先にメカ犬が叫ぶ。

 

『皆ここから離れろ!!!』

 

メカ犬の叫びが、未だ歓声が鳴り止まないプールの中で、一際大きく響くと動じに、彼の全身が光に包まれて、再びホルダーへと変わる。

 

「うをおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

ホルダーの咆哮が、他の全ての音を掻き消す。

 

その大地全体を揺るがす様な咆哮には、一切の理性すらも感じる事は出来なかった。

 

更に事態は、待つ事無く変化していく。

 

ホルダーが咆哮を上げながら両手を天に掲げるとそれに呼応するかの様に、プールの各所から水柱が上がり、周囲の観客達を飲み込んでいき、先程までの歓声が一瞬で悲鳴に変わってしまう。

 

「まさかこれって……」

 

『うむ。どうやら彼の中の暴走プログラムが臨界点を越えてしまったのだろうな』

 

「だけどこんなの、いきなり過ぎじゃないか!?」

 

『先程の勝負で使った能力が原因だろう。恐らく急激な刺激を受けて暴走プログラムと試練の光が相互的に活性化を引き起こしたのかもしれん』

 

メカ犬の説明を聞く間にも、プールから立ち昇る水柱が次々と周囲の観客達に襲い掛かる。

 

「兎に角このまま放っておく訳にはいかないだろ!」

 

俺は一刻も早く止める為に、様々な軌道で水上から襲い掛かる水柱を回避しつつ、ホルダーへの接近を試みるが……

 

『これでは迂闊に近付けないな』

 

メカ犬が苦々しく声を絞り出す。

 

水柱を避けながらホルダーに近付く事、それ自体は別段、不可能では無い。

 

ただしそれは、ただの水柱だったらという前提で考えた場合の話だ。

 

水柱の中には、先程飲み込まれた観客の人達が、そのままの状態で捕らわれていたのである。

 

もし万が一に、俺が強行を仕掛けて、水柱と衝突でも起こせば、水柱の中の人達はただでは済まないだろう。

 

確かに、これではメカ犬が言う通り、迂闊に近付く事は出来ない。

 

だが何時までもこのままで良い筈も無い。

 

このままでは水柱の中に捕らわれた観客達の息が持たず、最悪の場合では窒息するかもしれないのだ。

 

『マスターこういう時はアタイよりも、もっと適任なのが居るんだわさ~』

 

どうするべきか思考を巡らしていたその時、以外にもアタッチメント状態となっているメカ海が答えた。

 

「もっと適任な奴……そうか!」

 

メカ海の言葉によって、俺の中に一つの奇策が浮かぶ。

 

そうとなれば全は急げだ。

 

俺はホルダーとは逆方向のアリシアちゃん達が居る実況席がある、プールサイドまで全速力移動して、スクリューの勢いを利用して、そのままプールから飛び出て、左腰に装填していたアタッチメントパーツを取り外す。

 

その際にダイバーモードが解かれるが、今はそれで構わない。

 

すぐさまベルトからタッチノートを引き抜き、急いで操作する。

 

『フェザー・コール』

 

タッチノートから音声が響いてから、殆ど間を置く事無く、プール内に聞き覚えのある翼の羽ばたきが聞こえて来る。

 

『呼ばれて参上でゴザル!』

 

「頼むぞメカ鳥!」

 

『だからセッシャの真名は『スタンディングモード』わぷっ!?』

 

やって来たメカ鳥が無駄な戯言を吐く前に、俺はタッチノートを操作してメカ鳥をアタッチメントパーツへと変形させて掴み取り、ベルトの左側に装填する。

 

『スピード・フェザー』

 

差し込んだ瞬間に、ダイバーモードの重厚なメタルブルーの装甲とは違い、軽装とでも言うべきメタルホワイトの装甲が、次々と俺の全身に装着されて、最後に二対の白い翼が俺の背中に装着された。

 

「時間が無いから、一気に行くぞ!」

 

『スピードロッド』

 

『フェザーファントム』

 

スピード・フェザーとなった俺は、続け様にベルトの右側をスライドさせて黄色のボタンを押し、それとほぼ同時進行で、ベルトの左側に先程装填したばかりのアタッチメントパーツのレバー下にあるボタンを押した。

 

専用武器であるスピードロッドが生成されて俺が右手に握ると、それに呼応する様に、30十体以上もの分身体が本体である俺と同様にスピードロッドを握った状態で、プールサイドに一列に並ぶ。

 

「こんな悪夢はここで終わらせる!」

 

俺はアタッチメントパーツのレバーを引いてから、スピードロッドを槍投げの要領で構えて狙いを定める。

 

『マックスチャージ』

 

音声が流れると、ベルトから稲妻の様な光が、身体の銀のラインを伝い、分身体も含めた構えているスピードロッドへと集約されていく。

 

狙うのは、まるで怒りに任せて暴れ回る大蛇の様な水柱。

 

「スローイングスピア」

 

力強く足を踏み込み、全身を使って勢い良くスピードロッドを投擲する俺と30体以上の分身体。

 

投げ放たれたスピードロッドは、水柱の至る箇所を貫いていく。

 

「今だ!」

 

かなりの質量を奪われて、動きの止まった水柱を前に、俺は叫びながら分身体の全てを水柱に向けて突撃させる。

 

だがそれは攻撃の合図ではない。

 

動きの止まった水柱から分身体達が、取り込まれた観客達を次々と救出して、プールの外へと避難させていく。

 

そして全ての観客の避難が完了したのを見計らい、俺もこの事態の発端となったホルダーを倒すべく動き出す。

 

「もう一回行くぞ!」

 

『OKなんだわさ~』

 

俺がベルトからアタッチメントパーツを外して、プールに飛び込むと傍らで見守っていたメカ海も一緒に飛び込む。

 

何か飛び込む間際に、メカ鳥のもしかして出番はこれだけでござるか!?という声が聞こえた様な気もするが、今は気にしている余裕は無い。

 

『スタンディングモード』

 

再びタッチノートを操作して、メカ海をアタッチメントパーツに変形させて、俺はベルトの左側へと差し込む。

 

『スピード・ダイバー』

 

俺の周囲に展開したメタルブルーの追加装甲が、瞬く間にライトグリーンのボディーに装着されていき、再びダイバーモードへと変わる。

 

『スピードアンカー』

 

更にアタッチメントパーツのボタンを押すと、俺の両腕の甲にフック状になった突起が先端に付いており、その先には長いチェーンが繋がっている一風変わったスピードダイバー専用武器であるスピードアンカーが生成される。

 

「はあ!」

 

俺は再び動き出した水柱の猛威を避けつつ、右腕のチェーンを伸ばして、ホルダーへと投擲した。

 

先端部分のアンカーがホルダーを囲む様に、外側から弧を描きながら回り込み、チェーンの部分が、見事にホルダーの動きを封じ込める。

 

『水柱の動きが止まったぞマスター!』

 

メカ犬の言う通り、ホルダー自身の動きを封じた事によってなのか、あれだけ暴れ回っていた水柱が崩れ去り、再びプールの水に戻っていく。

 

『今がチャンスなんだわさ~』

 

「ああ!」

 

俺はメカ海に応えながら、アタッチメントパーツのレバーを引く。

 

『マックスチャージ』

 

音声が鳴り響くと同時にベルトから発生した光が、銀のラインを伝い、ホルダーを捕縛している方の反対側である、左側のスピードアンカーへと集約される。

 

「こいつで決めるぜ」

 

俺は右腕を勢い良く引いて、プールの中からホルダーを強引に引っ張り出して、身動きの出来ないでいるホルダーに対して、光り輝くアンカーを全力で投げ放つ。

 

「ダイバーウィップショット」

 

投げ放たれたスピードアンカーが、見事にホルダーに命中して大きな爆発を引き起こした。

 

暴走プログラムの呪縛から解き放たれて、プールへと落下する監視員さん。

 

このままでは溺れてしまう事は確実なので、俺は急いで駆け付けて、プールの中から引き上げた。

 

「ふう~」

 

一仕事を終えて、変身を解いて俺がプールサイドに座り込む。

 

だけど何だろうか?

 

今回の件はこれで解決した筈なのに、何か大事な事を忘れている様な気がしてならない。

 

「お疲れ様。純お兄ちゃん」

 

「いやあ~おかげで今回は、中々良い特集記事が書けそうよ」

 

俺が悩んでいると、背後からアリシアちゃんと恵理さんが、労いの言葉を掛けてくる。

 

その声に応え様と後ろを向こうとした時、俺の視界の先に、淡い光が飛び込んでくる。

 

淡い光はプールの中から、少しずつその輝きを増して、遂に水上へとその姿を現す。

 

「あ!?」

 

俺はその時、忘れていた重大な事が何だったのかを思い出して、思わず声を上げてしまった。

 

今更なのだが、今回のホルダーは試練の光の影響を受けていたのだ。

 

結局最後は戦ってしまったのだが、元々今回だけに限って言えば、水泳勝負をすれば暴走プログラムを回収できる予定だったので、ミルファを呼んでいない。

 

ミルファが居なくては、試練の光を無効化する事が出来ないのだ。

 

「い、急いであの光を捕まえて!」

 

ふわふわと浮かぶ試練の光を指さしながら、俺は叫ぶ。

 

それから俺達は、バケツだったり網だったりを手にして試練の光を捕獲する為に追い掛け回す。

 

だが試練の光は、俺達を嘲笑うかの様に、のらりくらりと避け続けて、遂にはプールサイドから抜け出して、何故か男子ロッカーへと向かっていく。

 

流石に男子ロッカーにまでは、アリシアちゃんと恵理さん、ついでにメカ海も乙女の恥じらいが邪魔するので入って来れないらしく、俺はメカ犬とメカ鳥を連れて、袋のネズミとなった試練の光を捕獲するべく、男子ロッカーへと突入するのだが……

 

『これはどういう事だ?』

 

『最近の市民プールはこんな感じなのでゴザルか?』

 

「……いや、そんな訳は無い……だろ?」

 

男子ロッカーに入り、目にした光景に俺達は唖然としながら、会話を続ける。

 

俺達がそうなってしまうのも、仕方ないだろうと思う。

 

何故ならば、神々しく輝いていたのだ……男子ロッカーが。

 

別に全てのロッカーが輝いていたという訳ではない。

 

どういう事なのか、俺が今日使っているロッカーの内側の隙間から光が放たれており、部屋自体が薄暗いせいもあって、余計に目立っているのである。

 

「あ、開けてみるぞ?」

 

普通に考えれば十中八九、試練の光はこのロッカー中にあるとみて間違い無いだろう。

 

俺はメカ犬とメカ鳥が頷くのを確認しつつ、慎重にロッカーを開けた。

 

その中には予想に反して、試練の光は何処にも無く、変わりにロッカーの中に入れて置いた、以前に異世界で門番から貰った石が、眩い光を放っていた……

 

 

 

本日の海鳴は夏を間近に控えつつ、市民プールの男子ロッカーで一つの謎が浮き彫りとなった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。