魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
小学校は現在、駆け付けたE2達、警察が封鎖して現場検証が行われている。
校庭の設備や校舎が若干の被害は受けたが、幸いにも避難が迅速に行われた為、負傷者は出なかったらしい。
勿論、そんな状況で午後の授業が行われる筈も無く、取調べ等は、一部の教師が残るだけで、俺達生徒は帰宅する事になった。
そして今、俺は光写真館で、士さん達光写真館の面々の視線に晒されながら、アンティーク調の椅子に座った状態でアリサちゃんと向かい合っていた。
「……それで、どういう事なのか説明してくれるのよね?」
アリサちゃんの問い掛けに対して、俺は心を落ち着ける為に、一度深く深呼吸してから口を開く。
「うん。少し長い話になるけど……」
俺は最初にそう断りを入れてから、メカ犬と出会い仮面ライダーとなった事。
そして今まで仮面ライダーとして戦い続けて来た事を……
「……そうだったんだ」
全ての話を最後まで黙って聞き終えたアリサちゃんは、無表情のまま俺を正面から見据えながら、一言だけ告げた。
俺の予想としては、アリサちゃんは今まで黙っていた俺に対して、もっと感情的に怒るものかと思っていたのだが、実際の反応は全く違っていた。
「……思ったよりも驚かないんだね」
だからだろうか。
俺は思った事を、そのままアリサちゃんに伝えていた。
「何よそれ。純は私の事をそんな目で見てたわけ?」
俺のぶしつけな質問に、アリサちゃんが苦笑いを浮かべながら答える。
正直に、はいと返答する訳にもいかず、俺も苦笑するしかなかった。
「……ところで純とメー君が仮面ライダーになる時に使うって言う、その、タッチノートっていうのがどんなものなのか見てみたいんだけど」
「タッチノートを?」
暫くお互いに苦笑いをした後、アリサちゃんが俺にタッチノートを見せてくれと要求してきた。
少しだけ普段とはアリサちゃんの様子が違うとは理解しつつも、急に俄かには信じられない話をしたという事もあり、その話の証拠を示すものとなる一つである、タッチノートを見たいと思うのも、無理は無いかた考え、俺はタッチノートを、アリサちゃんに手渡す。
「これが……」
俺からタッチノートを受け取ったアリサちゃんは、タッチノートを引っくり返したり、ボタンを幾つか押してみたりと一頻り観察を続けた後、ゆっくりと椅子から立ち上がった。
「アリサちゃん?」
「……ごめんね純」
突然立ち上がったアリサちゃんに俺が訝しげな表情をしながら声を掛けると、どういう訳かアリサちゃんは俺に対して謝罪の言葉を口にする。
本当にどういう訳なのか、理解出来なかった。
それに何より俺に理解する時間は、与えられてはいなかった……
俺が先程の謝罪の意味を問うよりも早く、アリサちゃんはタッチノートを握り締めたまま、走り出して光写真館を出て行ってしまう。
余りにも予想外の事態に、誰もアリサちゃんを止める事は出来なかった。
『アリサ嬢を追いかけるんだマスター!』
そんな中で、逸早く声を上げたのはメカ犬だった。
俺はメカ犬に返事も返さないまま、アリサちゃんを追ってただ全力で走り出した。
「早く私達も探しに行きましょう!」
純がアリサを追って光写真館を出てからすぐに、夏海が声を上げた。
「そ、そうだね!」
夏海の言葉にユウスケも頷く。
「ちょっと待て!」
急いで純達の後を追おうとする二人を制したのは士だった。
「何を言ってるんですか士君!」
「そうだぞ士!」
士の制止に対して納得がいく筈も無く、抗議の声を上げる夏海とユウスケだったが、士はただ深い溜息を吐く。
「あいつ等にはあいつ等の事情があるんだ。部外者の俺達が何を言ったところでどうしようもないだろうが」
「そ、それは確かにそうかも知れませんけど……」
「幾らなんでも、その言い方は冷たすぎるんじゃないか?」
更に抗議する二人に、士はそれ以上言い返す事も無く、視線を二人からメカ犬に向ける。
「おい犬。少し付き合え」
『うむ』
士の誘いに二つ返事で了承すると、メカ犬は士の肩の上に飛び乗った。
「ちょっと士君!」
そのままメカ犬を引き連れて光写真館を出て行く士を、夏海が呼び止めるが士は振り向く事無く手のひらを返しながら、出て行ってしまう。
「まあ、落ち着きなさい夏海」
急いで士を追いかけようとする夏海を、今まで黙って事の顛末を見ていた栄次郎が、呼び止める。
「お爺ちゃん?」
「士君なりに、あの子達を心配しているんですよ」
「……本当にそうでしょうか」
疑惑の眼差しを向ける夏海を前に、栄次郎は笑顔を浮かべる事をその返答とした。
「おい犬。お前ならあの金髪女子の居場所が分かるんじゃないか?」
『うむ。アリサ嬢が今もタッチノートを持っているならば、大体の居場所は分かるが……』
「何か言いたそうだな?」
海鳴市の市街地を無愛想な青年と、肩に乗ったフルメタルな犬が会話を交わしながら歩く。
幸いにも人通りは少ないので、注目を浴びる事は無いが、中々にシュールな光景ではある。
『いや、口ではあんな事を言いながら、アリサ嬢を探そうとしているのは、素直じゃないと思ってな。別に先程の事を蒸し返す訳ではないが、これはワタシ達の問題で、別に士殿達が気に病む必要は無いのだぞ』
「別に素直じゃなくて結構だ」
『ふふ』
「何がおかしい?」
『いや、マスターが言っていた通りの人物だと思ってな……』
「おい!一人で納得してるんじゃない」
『悪かった。それとアリサ嬢の現在位置だが、ここから五百メートル程先の公園にタッチノートの反応がある。まだアリサ嬢がタッチノートを手元に置いているならば、其処にいる筈だ。アリサ嬢を頼む』
最後にそう言ってメカ犬は士の肩から飛び降りた。
どういった経緯であれ、純を戦いの渦へと引き込んだのは、紛れも無く自分だと自覚するメカ犬には、アリサに何かを言う事は出来なかった。
だからメカ犬は、その役目を別の世界から来た仮面ライダーである士に託す。
メカ犬の言葉に、士は正面に視線を向けると、一本道の為、確かに公園の入り口がこの距離からでも見る事が出来た。
言われた通りに、公園に辿り着いた士が園内を見渡すと、程なくして遊具の一つであるブランコに見覚えのある金髪の後ろ姿。
「探したぞ金髪娘」
「……金髪娘じゃなくてアリサよ」
声を掛けた士に対して、アリサはブランコを揺らしながら答える。
「まあ、それはどうでも良いんだけどな」
「……人の名前がどうでも良い訳が無いじゃない。士先生は教師じゃないんですか?」
「ああ。こんなんでも、一応はお前らの副担任だからな。だからこうして生徒の悩みを聞きに来たんだよ」
「副担任って言っても、赴任初日な上に、半日しか授業もしてないじゃないの……私の名前も覚えてないみたいだし」
「それでも、お前の副担任に変わり無いだろ?」
これ以上の問答は時間の無駄だと感じたアリサは漕いでいたブランコを止めて、小さな溜息を吐く。
「……士先生も仮面ライダーなんですよね?」
「ああ」
「士先生はどうして仮面ライダーになったんですか?」
「さあな」
「さあなって!?」
「悪いが記憶喪失なんでな。答えてやりたくても、俺にも分からないんだよ」
士の言葉に今まで目を合わせようともしなかったアリサが、初めて士の方を見た。
「えっと……ごめんなさい」
「別に気にしてないさ。それより、さっきの質問で大体分かったがアリサは純が仮面ライダーをやっている事に反対なのか?」
思わず謝ったアリサに、気にしていないと言いながら、士は逆に質問をアリサにぶつけてみる。
わざわざ変身に必要なツールであるタッチノートを持ち出したのだから、士でなくてもそう考えるのも不思議ではないかもしれない。
だが士は、その真意をアリサ本人から、直接聞きたかった。
「……どうなのかな。さっきの士先生と同じって訳じゃないけど、自分でも良く分からないの」
士はアリサの話を黙って聞き続ける。
「今まで純が何かを隠してるって事には気付いてたのよ。でもまさか純が仮面ライダーだとは思ってなかったわ」
そこまで言ってアリサは、再びブランコを漕ぎ始める。
「私に隠し事をしてたっていうのも許せない……でもそれ以上に心配になっちゃったのよ」
「心配?」
「……だって誰も純に戦いを止めてって言わないのよ。純のお父さんもお母さんも、純が仮面ライダーだって知ってる人は皆……普段から何処か抜けてて、ドジで……いつも優しくて……そんな純が戦いだなんて……」
徐々にブランコを漕ぐ速度を緩めながら、話すアリサの目に薄っすらと涙が浮かぶ。
「だから私は……純に戦って欲しくないんだと思う」
やがて漕いでいたブランコは完全に止まり、アリサの瞳からは大粒の涙が零れ落ちる。
それを前に、士はアリサの頭にそっと手を置く。
「俺は確かに記憶が無い。だけど戦う理由はある。きっと純にも戦う理由って奴があるんじゃないか?」
「……戦う理由?」
「アリサは純を心配してこんな事をしたんだろう。敢えて話さない優しさってのもあるかもしれない。だけど、話してみないと伝わら事もあるだろ。実際、純が今までアリサに自分が仮面ライダーだって事を話さなかったからこんな事になってる訳だしな」
「……私は、どうしたら良いのよ……」
「取り敢えず、お前の思ってる事を全部、純にぶつけてみろ。少なくともそうしなけりゃ何も始まらないだろ?」
士はそういうと、少し乱暴にアリサの頭をクシャクシャと撫でた。
髪型が崩れる事を不快に思いながらも、アリサはその手の温もりから伝わる優しさに、一人の少年の優しさを重ね合わせる。
「そう……よね。私……自分の気持ちをちゃんと純に話してみる!」
もう其処に涙を流す少女の姿は無く、代わりに一つの決意を心に決めた少女の笑顔があった。
士はアリサの頭から手を退けて、数歩後ろに下がると、首から提げていたトイカメラを手に取り、一人の少女の笑顔をファインダーに収め、シャッターを切る。
きっと今撮った写真も、思った通りに撮れているとは士自身も思ってはいない。
だがそれでも、撮らずにはいられなかった。
それまでに士の目には、今のアリサの笑顔が輝いて見えていたのである。
最初に出遅れた事がいけなかったのだろう。
光写真館を出た時、既にアリサちゃんの姿は何処にも無く、俺は勘を頼りに探し続けたが、アリサちゃんの姿を見付ける事は出来なかった。
「何処に行ったんだよ……アリサちゃん」
俺は今も周囲に目を配りながら、思わず呟いていた。
今から思い返せば俺の話を聞いた後の、アリサちゃんの態度は俺に向けての何らかのシグナルだったのかも知れない。
走り出す直前、最後に俺にごめんねと言った時のアリサちゃんの顔は、今にも泣きそうだった。
他の誰でもない。
俺がアリサちゃんに、そんな顔をさせてしまったのである。
だから会って、ちゃんと話し合わなきゃいけないと俺は思う。
大切な友達にあんな顔をして欲しくはない。
だから俺は走り続ける。
「……一旦戻ってみるかな」
アリサちゃんがずっと走り続けていたとしても、こうまで走り続けても追いつけないのはおかしいと感じた俺は、もしかしたらこっちには来ていないのではと考え、一度来た道を戻って別の道を探そうと踵を返す。
「随分と急いでるみたいだけど、一体何処に行くつもりだい?」
探している相手には会えないのに、こういった時に限って、今一番会いたくない人物に会うというのは、長い人生の内で、何度もある事かもしれないが、よりによってそれが今だという事実に対して、自分の不運を呪いたい。
「ちょっと急ぐんで!」
試しに軽く挨拶しながら、脇を通り抜けようとしてみるが、当然の如く相手が道を開けてくれる事は無かった。
「急いでるところを悪いけど、僕にも用事があるんでね」
不敵な笑みを浮かべる相手に対して、俺は身構えながらその挙動の一つ一つに注意を配る。
「そんな事を言わないで、道を開けてくれませんか……海東さん」
「そんな連れないを言わないで、少しくらい僕に付き合ってくれたまえよ」
そう言いながら、無造作に向けられたディエンドライバーの銃口を前に、俺は考えるよりも早く走り出していた。