魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~   作:G-3X

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仮面ライダーシード&仮面ライダーディケイド 世界を繋ぐ旅人【第二章】

「それにしても、士君が教師だなんて驚きですね」

 

「確かに士が教師……しかも小学校の先生なんて、正直に言って全然イメージ出来ないな」

 

本来はこの海鳴市で喫茶翠屋が存在するべき場所。

 

現在は光写真館となっている店の店内に設置されているアンティーク調の椅子に腰掛けながら、二人の男女が今はこの場に所用によって居ない、人物を話題に雑談に興じていた。

 

最初に話題を振った若い女性の名前は、光《ひかり》 夏海《なつみ》。

 

この光写真館を経営する光《ひかり》 栄次郎《えいじろう》の孫娘である。

 

長い黒髪が特徴的で、若干幼さを残す容姿をしているが、こう見えて既に成人している、立派な大人の女性だ。

 

次に夏海の話に相槌を打ちながら苦笑いを浮かべている男性の名前は、小野寺《おのでら》ユウスケ。

 

話題に上がっている士と同様、現在はとある理由から光写真館でお世話になっている青年である。

 

「士君が教師だっていうのも驚きましたけど、私はこの世界のライダーにも驚きました」

 

「まあね。以前にもワタル達みたいな子供のライダーにも会った事はあるけど、まさか小学二年生の男の子がライダーだってのは俺も驚いたよ」

 

二人の話題は、この場に居ない同居人に続いて、一人の少年へとシフトしていく。

 

「それにしても……」

 

「本当に……」

 

その少年、純と士が邂逅した場面を思い出した夏海とユウスケはお互いに顔を見合わせてから、思わず噴出してしまった。

 

それというのも、純が士に対して開口一番に口にした言葉に起因する。

 

何せ純は士との出会い頭に、何処に持っていたのか、サイン色紙を突き出して、直立姿勢のままサインを下さいと要求してきたのだ。

 

「今まで色んなライダーに会ってきましたけど、まさか士君にサインを求めてくるライダーが居るなんて思ってもいませんでした」

 

「その時の天狗になった士の顔といったら……」

 

ユウスケが途中まで言った事で、明確にその時の士の顔を思い出してしまった二人はまたしてもふきだしてしまう。

 

そんな二人の雑談が終わる時は、唐突に訪れる。

 

「あれ?ここって喫茶店じゃあ……」

 

ゆっくりと開かれる入り口の扉の音に続いて、控えめに聞こえる一人の男性の声。

 

「何を言ってるのよ長谷川君。翠屋は向かいでここは写真屋さんでしょう」

 

男性の声を嗜める様に、今度は若い女性の声が響く。

 

店内を覗き込んだ男性は、きっちりとスーツを着た若者で、それに対して男性、長谷川に声を掛けたのは、セーラー服の上に白衣を羽織った、どう見ても中学生にしか見えない少女、恵美だった。

 

この海鳴で知っている人物には見慣れた光景ではあるが、初見の人達が見ればこの二人がどういった関係性なのかはきっと謎に思う事だろう。

 

それは夏海とユウスケも例外ではない。

 

しかも学校のある筈の平日の御昼時となれば、最早想像する事も困難というものだ。

 

「おや、お客さんですか?」

 

更に店内の奥から、一人の白髪の老人が、エプロン姿で、大きな鍋を両手に持ちながら現れた。

 

この老人こそが、夏海の祖父であり光写真館を経営する、光 栄次郎その人である。

 

「いえ、ちょっと連れが向かいの喫茶店と間違えて入ってしまっただけなんです」

 

恵美は栄次郎にそう言いながら、長谷川のスーツの裾を引っ張りながら、店を出ようとする。

 

「おや、これからお昼でしたら、御一緒にどうですか?」

 

しかし其処で栄次郎が店を出ようとした二人を呼び止めて、昼食のお誘いをした。

 

「そんな、お邪魔したら悪いですし……」

 

だが初対面の上に、切欠は間違えて入ってしまった為という事で、当然ながら長谷川はお断りの返事を返そうとする。

 

「そんな事を言わず、一緒にどうですか?」

 

「夏海の言う通りですよ。何より食事は大勢で食べた方が美味しいですからね」

 

しかし長谷川の言葉に割り込む様に、夏海と栄次郎が畳み掛ける。

 

そのコンビネーションは、長年一緒に暮してきた家族ならではと言えた。

 

「……そうね。折角だから御一緒しましょうか。長谷川君」

 

熱烈な二人の誘いに、恵美が承諾する意思を示したその時。

 

恵美の白衣のポケットから、無機質に連続で鳴り響く電子音声。

 

電子音の正体は、恵美の携帯電話だった。

 

着信は海鳴署。

 

それに気付いた恵美は素早く、携帯電話の着信ボタンを押した。

 

「……え?聖祥大附属小学校に……ホルダーが?ええ……分かりました。すぐに向かいます!」

 

通話を切った恵美は、視線を長谷川に向ける。

 

その視線の意味する部分を先程の通話から、理解した長谷川は頷くと同時に光写真館の面々に、会釈をしつつ急ぎ足で店から出て行った。

 

恵美も長谷川に続き、お昼はまたの機会に御一緒しましょうと言いながら慌しく写真館を後にする。

 

「……聖祥大附属小学校ってもしかして」

 

「ええ、確か士君が今行っている小学校だったと思います……」

 

怒涛の勢いで二人が出て行ってから暫くして、ユウスケが呟いた言葉に夏海が返事を返す。

 

その直後、今度は夏海とユウスケが、慌てて光写真館を出て行ったのは言うまでも無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ~君が噂の……会えて嬉しいよ」

 

向かい側に立つ士さんに対して、オーバーが興味深げに話し掛ける。

 

既に殆どの避難が完了している為か、この場には士さんと俺とアリサちゃんを除けば、この現状の起因となっているオーバーとメルト、それにホルダーモドキの大群だけだ。

 

ホルダーモドキ達は無口な為、校庭は思ったよりも静かで、俺とアリサちゃんからは、士さん達から少し距離が離れてはいるが、十分に会話の内容が聞こえて来る。

 

「どうやら俺も、随分と有名になったみたいだな。サインの次は握手会でも開催するのか?」

 

士さんは、オーバーに皮肉気に言葉を返しながら、周囲を見渡す。

 

「貴様が世界の破壊者か……まずはどの程度のものか見せて貰おう」

 

オーバーと士さんの会話を意に介する事無く、メルトが言い放つとそれを号令にして士さんの周囲に居たホルダーモドキ達が、一斉に襲い掛かる。

 

だが士さんは猛然と襲い掛かるホルダーモドキ達を軽くいなして、距離を取った。

 

その手には、何時の間にか見覚えのある丸みを帯びた白いバックルと、同色の四角い収納ケース。

 

士さんがまずそのバックル、ディケイドライバーを腹部に宛がうと、ベルト状に展開されて固定される。

 

更にベルトの側面に付けた収納ケース、ライドブッカーから、士さんは一枚のカードを取り出して、ディケイドライバーの中央部分を展開させた。

 

「え!?あれって……」

 

その光景を俺と一緒に見ていたアリサちゃんが、両目を見開きながら士さんと俺を交互に見やる。

 

俺は出来るだけ表情に出さないようにしながらも、内心での動揺は隠し切れず、大量の冷や汗をかく。

 

そんな俺の内心の動揺など知る由も無く、士さんはマゼンタの戦士の姿が描かれた一枚のカードを眼前へと掲げる。

 

「変身!」

 

士さんは叫ぶと同時に、カードをディケイドライバーの中心の展開された部分に押し込み、両手を交差させながら展開された状態のディケイドライバーを元に戻す。

 

『カメンライド……ディケイド!』

 

ディケイドライバーから音声が響き、士さんの全身をモザイク調の影が包み込む。

 

更に頭上に六枚のプレートが展開されて、そのプレートは次々と士さんの頭部に装着されていく。

 

全てのプレートが装着されると、士さんの全身を包んでいたモザイク調の影が晴れ、マゼンタと白に黒を基調としたボディー、頭部に装着された六枚のプレートの奥から緑の複眼が覗く一人の戦士が誕生する。

 

その戦士の名前は……

 

「……仮面ライダーディケイド」

 

変身を見届けたメルトが呟く様に、その名を呼んだ。

 

「どうやら、自己紹介は必要無いみたいだな」

 

自らの名を呼ばれた事を、特に気にする様子も無く、ディケイドはそう言うと、再び襲い掛かろうする周囲のホルダーモドキに拳を繰り出し、その直後に背後から飛び掛ろうとする別のホルダーモドキを、回し蹴りで吹き飛ばす。

 

「……ねぇ、純」

 

暫くディケイドの戦いを無言で見詰めていたアリサちゃんが、不意に話し掛けてきた。

 

アリサちゃんが何を言おうとしているのかは、大体の想像が付く。

 

だが、今から問われるであろう内容に対して、適切な応答が出来るかと言われれば、答えは否である。

 

きっとアリサちゃんに対して、俺は無言を貫くか、咄嗟に誤魔化す言訳を言う事しか出来ないだろう。

 

しかしアリサちゃんが、その言葉を発するよりも早く、俺は気付いた。

 

俺達の背後から迫る脅威に。

 

「危ない!」

 

咄嗟に俺は隣に居たアリサちゃんを抱き込みながら、横に転がる。

 

その直後、先程まで俺達二人が居た空間を、凶悪な威力を有した腕が乱暴に振り抜かれた。

 

「え!?ちょっと?純!?」

 

「兎に角、立って走るんだ!」

 

今だ何が起こっているのか、把握し切れず、混乱しているアリサちゃんを無理矢理立たせた俺は、アリサちゃんの手を握り、そのまま引っ張りながら全力で走り出す。

 

その後ろからは、俺とアリサちゃんに狙いを定めた異形、ホルダーモドキが追って来る。

 

ディケイドの戦いとアリサちゃんの存在で、ギリギリまでホルダーモドキが接近している事に気付かなかった。

 

何とか間一髪のところで、気付く事が出来たから良かったものの、もしも後少しだけ反応が遅れていたら、悲惨な事になっていただろう。

 

一難去ってまた一難という言葉があるが、今の状況は、まさにそれである。

 

「こっちからもか!?」

 

前方を見て、俺は思わず叫んだ。

 

後ろから追って来るホルダーモドキだけでも十分な脅威だというのに、俺とアリサちゃんの行く手を阻む様に、数体のホルダーモドキが完全に道を塞いでしまっている。

 

気付けば既に、俺達はホルダーモドキ達の包囲されていた。

 

「……じゅ、純」

 

震える声と共に、俺の手を握るアリサちゃんの手が、強張るのを感じた。

 

これ以上、アリサちゃんに怖い思いをさせる訳には行かない。

 

そう感じた俺は、空いているもう片方の手でタッチノートを取り出してボタンを押す。

 

『チェイサー』

 

流れる音声と共に、遠くから聞こえるバイクのエンジン音。

 

その音は、ホルダーモドキ達を蹴散らしながら徐々に此方へと近づいて来る。

 

『お待たせマスター!』

 

そして遂に、ホルダーモドキの包囲網をぶち抜き、一台の黒いバイク、チェイサーさんが俺達の前に姿を現す。

 

『無事だったかマスター?』

 

更にチェイサーさんの上にはメカ犬が鎮座しており、俺達の前に到着するや否や、すぐさま地面に降り立ち、俺の横へと駆け寄って来た。

 

「ああ、それとチェイサーさんもありがとうございます」

 

俺はメカ犬に軽く相槌をしつつ、駆け付けてくれたチェイサーさんの感謝の言葉を述べる。

 

そして俺は突然に次々と巻き起こる状況に付いて行けず、完全に硬直しているアリサちゃんの手を、そっと放す。

 

「……あ」

 

手を放した瞬間に、アリサちゃんが声を零す。

 

そのお陰で硬直が解けたアリサちゃんは俺に対して、色んな事を聞きたいと書かかれた眼差しを向けて来るが、今はそれを説明していられる状況じゃない。

 

「アリサちゃんが、何を聞きたいのかは、何となく分かるよ。でもそれはもう少し後にしよう」

 

俺はアリサちゃんが質問する前に、制止させつつ、タッチノートを開く。

 

『良いのかマスター?』

 

メカ犬が俺とアリサちゃんを交互に見比べながら、問い掛ける。

 

俺はその問いに対して、浅く頷く事で、返事を返した。

 

出来る事ならば、せめて全ての戦いが終わるまで知らずにいて欲しかった、というのが本音だ。

 

余計な心配を掛けさせたく無いというのも、嘘じゃない。

 

でもきっと、俺はそれ以上に……

 

雑念を払う様に大きく深呼吸してから、俺はタッチノートのボタンを押した。

 

『バックルモード』

 

音声が流れると同時に、隣に居たメカ犬がベルトに変形して、俺の腹部に巻き付く。

 

「変身」

 

音声キーワードとなる言葉を紡ぎながら、俺はベルト中央の窪みに、タッチノートを差し込んだ。

 

『アップロード』

 

大量の光が俺の全身を包み込み、その姿を一人の戦う戦士へと変えていく。

 

メタルブラックのボディーとベルトを中心に四肢へと伸びる銀色のライン。

 

顔の半分近くにも相当する二つの大きく赤い複眼の上に、額のV字型の角飾りが燦然と輝く。

 

俺の姿を見たアリサちゃんは、驚愕しながらも、震える声で今の俺の姿の名を口にする。

 

「……純が、仮面ライダーシード……」

 

アリサちゃんの口からその言葉を聞き、俺は改めて自分の気持ちを再確認した。

 

きっと俺は、恐れていたのだろう。

 

知ってしまう事で、崩れるかもしれない日常がある事に……


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