魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~   作:G-3X

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第38話 ラビリンスキーパー【後編】

「戦いの準備が出来たならば、前に出るが良い」

 

番人の言葉に促されるまま、俺は扉の前から跳躍して小さな足場の一つに着地する。

 

『あの番人の背中の翼がただの飾りでないとしたら、ワタシ達にとってはかなり不利な戦いになるな』

 

「ああ。でもやるしかないだろ?」

 

俺はメカ犬の助言になるべく軽口で返す。

 

だが実際のところ、この世界にチェイサーさんを連れてきていない以上、今の俺達に空中戦は無理だ。

 

それと同様に、メカ竜達も連れて来ていないので、この不安定な足場で戦うには、フォルムチェンジに頼る他無い。

 

取り敢えず、この足場で接近戦を仕掛けるのは危険だ。

 

ならば俺がまずやるべき事は……

 

「まずは距離を取って戦う!」

 

俺はベルトの右側をスライドさせて、青いボタンと黄色いボタンを連続で押していく。

 

『サーチフォルム』

 

『サーチバレット』

 

メタルブラックのボディーが、鮮やかなスカイブルーに染まり、俺の右手にはこのサーチフォルム時にのみ使える銃型専用武器のサーチバレットが握られる。

 

「これはどうだ!」

 

サーチバレットの引き金を引くと同時に、銃口から青い光弾が射出されて番人に雨の様に降り注ぐ。

 

「甘い!」

 

だが番人は一喝すると、手に持った黒い槍を振り回して雨の様に降り注ぐサーチバレットの光弾を、全て撃ち落してしまった。

 

『遠距離からの攻撃では駄目か』

 

「それならスピードと手数で勝負するまでだ!」

 

俺は今まで居た足場から跳躍しながら、再びベルトの右側をスライドさせて緑のボタンと黄色のボタンを押す。

 

『スピードフォルム』

 

『スピードロッド』

 

今度はスカイブルーのボディーがライトグリーンとなって、右手には生成されたスピードロッドが握られる。

 

俺は空中でスピードロッドを振り被り、番人の脳天目掛けて強烈な打撃を放つ。

 

しかしその一撃も、番人の黒い槍によって防がれてしまう。

 

「中々の胆力だ。しかし自分には届かん!」

 

番人は黒い槍を力づくで振るった。

 

「ぐっ!?」

 

その威力は絶大で俺の身体ごと吹き飛ばされてしまう。

 

『マスター!』

 

このままだと俺は奈落の底へと落ちてしまう。

 

「こんのっ!」

 

俺は落ちながらも、なんとかスピードロッドを足場に突き刺して、落下を回避する。

 

『大丈夫かマスター!?』

 

「……ああ。だけどあの番人……相当に強いな」

 

特にあの槍は厄介だ。

 

長距離からの射撃も、近距離の打撃もあの槍によって捌かれてしまう。

 

「せめてこの足場だけでもどうにか出来れば……ん?」

 

そこで俺はふと、異変に気付く。

 

先程までスピードロッドにぶら下っていた筈なのに、何時の間にか地に足の着く感覚が生まれていたのである。

 

何かと思い、足下を見てみると、足下には淡い光を帯びた魔方陣の様なものが、足場となっていた。

 

「……これは?」

 

「それは僕が魔力で生み出した足場だよ」

 

俺の質問に答えたのは、扉近くの足場から戦いを見守っていたユーノだった。

 

「魔力……ユーノは魔導師だったのか?」

 

「まあね。でも僕は、純のその力の方がよっぽど気になるよ」

 

「この勝負に勝ったら、後でゆっくり説明するさ」

 

俺は支えとしての意味を無くしたスピードロッドを柱から引き抜き、ユーノが作ってくれた足場から跳躍して、最初に居た地点の足場に着地して、今も微動だにしない門番へと視線を向けた。

 

戦いを再開させる前に、一つ確認しなければならない事があったので、俺は門番に言葉を投げ掛ける。

 

「さっきのユーノ……俺の仲間が作ってくれた魔力の足場は、この戦いのルール上は使っても良いのか?駄目ならこれ以上は使わないと約束するけど」

 

「それ位の補助であれば別に構わんさ。直接この戦いに参加する事は認める訳にはいかないが、戦いのサポートをする仲間が居るという事も、お前が持つ資質。存分に使うが良い」

 

もしかしたら使うことは許されないのではないかと思っていたのだが、門番は意外にもユーノが作った魔力の足場の使用をあっさりと承諾してくれた。

 

本人の許可が出たのだ。

 

ならばこれを利用しない手は無い。

 

「ユーノ!」

 

「どうしたの?」

 

「この魔力の足場って一度に二つ以上作れるか?それも出来るだけ短時間で正確に」

 

「任せておいて。攻撃系統は駄目だけど、こういった補助系の魔法は得意だから」

 

ユーノが自信満々に答える。

 

あまり自信過剰になる気質には見えないユーノがここまで自信を持って答えるということは、かなり腕に覚えがあるのだろう。

 

ならば、俺はユーノを信じて新たな一手を試すのみ。

 

「メカ犬。一方向から攻めても、あの槍の防御は突破出来そうに無い」

 

『うむ。ならば狙うは多方面からの連続攻撃だな』

 

「ああ!」

 

俺はメカ犬と作戦の打ち合わせをしつつ、ベルトの右側をスライドさせて黒いボタンを押す。

 

『ベーシックフォルム』

 

基本フォルムであるベーシックフォルムに戻った俺は続け様に黄色いボタンを押した。

 

『ベーシックファントム』

 

大量の光がベルトから生成されて、俺の隣に同じメタルブラックのボディーを持つ分身体が生み出される。

 

「俺は右から行く!メカ犬は左から頼むぞ!」

 

『了解した』

 

分身体を操るメカ犬の返事を合図に俺達は左右に分かれて、其々の足場へと跳躍する。

 

「ほう……今回の挑戦者は中々に面白い技を使うな」

 

俺達の行動を門番が興味深く観察してくるが、その余裕……すぐに終わらせてやる。

 

「ユーノ!」

 

「任せて!」

 

俺の声に応えて、ユーノが門番の立つ足場の量端に、魔力製の足場を形成してくれる。

 

まず最初に門番へと突っ込んだのは分身体を操るメカ犬だった。

 

飛び込み様に拳を繰り出すが、その分身体の拳は半ば予想した通り、門番が槍の平たい部分で受け止める事で無効化されてしまう。

 

だがこうなる事は作戦の一部だ。

 

続いて俺が無防備となっている反対側から蹴りを繰り出す。

 

門番はすぐさま迎撃を開始しようとする。

 

「なに!?」

 

だが次の瞬間、それが不可能だという事実に気付き、驚愕の声を上げた。

 

それもその筈だ。

 

何せ分身体が、がっちりと門番の持つ槍を掴んで踏ん張っているのだから。

 

これはユーノが魔力で十分な広さの足場を用意してくれたからこそ出来た事だ。

 

門番が居る足場は正直に言って狭い。

 

だから俺達が直接攻撃をしようとした場合、どうしても飛び込む様な体勢にならなければいけなくなる。

 

そういった技は、体重と勢いを乗せている分、基本的な威力は高まる場合が多いのだが、攻撃自体が単調になりやすくなる上に、正面から弾き返されたら空でも飛べない限りは、吹き飛ばされるしかない。

 

だからこそ、ここでユーノが作ってくれた足場が活躍する。

 

門番の槍を振る力が本来であれば、分身体を吹き飛ばすところを、足で踏ん張る事で耐え抜き、その槍を掴む事で動きを抑制する事に成功したのだ。

 

「ぐはっ!?」

 

これには流石に対応が追いつかなかった門番は、俺の繰り出した蹴りをまともに顔面で受け止めて吹き飛ぶ。

 

だが門番がそのまま奈落の底に落ちるという事にはならなかった。

 

背中から生える翼を大きくはためかせて、空中で静止した為だ。

 

「先程の攻撃は中々に効いたぞ……これは自分も本気を出さなくてはな」

 

そう言うと門番は思い切り息を吸い込み始める。

 

『何をする気か分からないが、気を抜くなよマスター』

 

「分かってるさ」

 

俺はメカ犬の忠告に頷きながら、門番の行動に意識を集中させた。

 

息を吸い込むのを止めたと思った次の瞬間、門番が新たな動きを見せる。

 

吸い込んだ息をどうするか?

 

答えは簡単だ。

 

生物は息を吸い込めば、呼吸というサイクルの下、当然ながら吸い込んだ息を吐き出す。

 

門番が生物なのかどうかは不明だが、やっている事はそれと何も変わらなかった。

 

だが決定的に、違う点が一つ。

 

門番が吐き出した息は、黒い霧状な上に、その霧が光線の様に俺達へと向かってきたのである。

 

当然ながらそんな得体の知れないものを直撃するなんて御免被る。

 

俺とメカ犬は咄嗟にその場から飛び退き、門番が吐き出した黒い霧は、先程まで俺達が居た地点に命中する。

 

「嘘でしょ……」

 

ミルファの驚きを露にした声を耳にして、俺も先程まで居たユーノが作った魔力の足場に視線を向けると、ミルファが言った通り、嘘だと思いたい光景が広がっていた。

 

なんと魔力で出来ている筈の足場が、どういった原理でそうなったのか、黒い霧に触れた場所から侵食するかの様に石へと変わってしまっていたのである。

 

『高い戦闘能力と飛行能力に加えて、石化とはな……どこまでも厄介な相手だ』

 

「泣き言を言ってても始まらないだろ?」

 

歯噛みするメカ犬に軽いノリで返してはみたものの、状況は思った以上に悪い。

 

あの霧に触れたら、恐らく問答無用で俺達も石化してしまうだろう。

 

そうすると離れて戦う訳にはいかない。

 

現状の俺達は危険を覚悟してでも、あの門番に接近戦を挑むしかない訳だが、その方法が全く思いつかないのだ。

 

サーチバレットでの攻撃が効かない以上、空を飛ぶ門番に対して有効な攻撃手段が無い。

 

玉砕覚悟でガトリングブーストを撃つ事も考えるが、退けられたら確実にあの霧で石化されてしまうだろう。

 

「せめて俺達も飛べれば……」

 

『飛ぶ……もしもあの時の反応がワタシの勘違いでないならば……』

 

「メカ犬?何か良い方法でも思いついたのか?」

 

何かブツブツと言い出したメカ犬に、俺は門番が連続で放つ黒い霧を避けながら、声を掛ける。

 

『……いや、確証が無い以上はそれに賭ける訳にはいかない。それよりもワタシ達があの門番に近づく方法なら一つあるぞ』

 

「本当か!?」

 

『うむ。それにはユーノの協力が必要だがな』

 

「僕の協力が?」

 

俺とメカ犬の会話を聞いたユーノが驚きの声を上げた。

 

『ユーノは門番に向かって空に魔力の足場を作ってくれ。マスターはその足場を使って門番の前まで行くんだ』

 

「でもそれじゃあ、あの黒い霧の格好の的だろ?」

 

確かにその方法ならば門番の前に辿り着く事も可能だろう。

 

だがさっきも指摘した通り、魔力の足場を先に作れば、あの門番に今からここを通りますよと宣言しているようなものだ。

 

それをあの門番が見逃してくれるとは到底思えない。

 

『それについてはワタシが活路を拓く!』

 

「何か考えがあるんだな?」

 

『うむ。それに少し確認したいこともある』

 

「……分かった。任せるぞ」

 

メカ犬に何の考えがあるのかは分からないが、俺の相棒は何時だって何の考えも無しに無茶な事を言った事は無かった。

 

なら今回も、俺は相棒を信じる。

 

「行くよ!」

 

ユーノの合図で、俺の目の前に光の階段の如く、空を舞う門番に続く足場が形成されていく。

 

俺はその足場を思い切り踏みつけて、一気に駆け上がる。

 

「笑止!」

 

だが門番がそれを見逃してくれる訳が無い。

 

俺に狙いを定めて、あの黒い霧を吐き出した。

 

このまま進めば確実にあの霧に直撃することになる。

 

だけど俺は止まるどころか、逆に走る速度を上げて、突貫していく。

 

『マスター!ワタシを踏み台にして飛び上がれ!』

 

真後ろからメカ犬の声が聞こえる。

 

次の瞬間、分身体が俺の前に出た。

 

「うをおおおおおおおおおおおお!」

 

俺は迷う事無く、分身体の肩を足場に跳躍する。

 

その直後、黒い霧が分身体を包み込み、凄まじい勢いで石へと変えていく。

 

分身体はそのままバランスを崩して奈落の底へと落ちてしまったが、この瞬間、確かに門番は完全に無防備になった。

 

メカ犬が作ってくれたこのチャンスを、逃す訳にはいかない。

 

俺は跳躍しながらタッチノートをベルトから引き抜き、全体図を表示させて、右腕をタッチして再びベルトへ差し込む。

 

『ポイントチャージ』

 

ベルトから発生した光が銀のラインを伝い、右腕に集約される。

 

「ライダーパンチ」

 

上空から俺は必殺の一撃を門番へと放つ。

 

「ふん!」

 

だが門番の反応は予想以上に早く、槍で俺の拳の防御に入る。

 

咄嗟に防御されはしたが、このままならば押し切れると実感したその時だ。

 

門番の背中の翼が、大きく翻った。

 

なんと門番は背中の翼で、自ら後ろへ飛んで俺の拳の衝撃を散らせてしまったのである。

 

「……そんな!?」

 

「今の一撃は効いたぞ。だが貴殿の頑張りもここまでのようだな」

 

門番は遥か上空から俺を見下ろす。

 

「純!?あんたの左足が!?」

 

唐突にミルファの叫びが響き渡る。

 

俺は自分の左足に、視線を向けて、ミルファが叫んだ意味を理解する。

 

「さっきの一撃を避け切れていなかったってことか……」

 

俺は自分の左足の惨状を前にして呟く。

 

左足の爪先から腿にかけてまで、完全に石化して俺自身の意思では動かす事が出来なくなってしまっていたのだ。

 

恐らく分身体を足場に跳躍した時に、左足の部分だけが黒い霧に触れてしまっていたのだろう。

 

取り敢えず今の所は、これ以上石化が進んでいるという事は無いが、それでも身体を自由に動かす事が出来なくなった事には変わりない……

 

「どうやら勝負有りのようだな。ここで降参するならば、命までは取らない。貴殿の意思を尊重しよう」

 

「くそっ!」

 

門番の最後通告の言葉を耳にしながら、俺は何とか身体を動かそうとするが、やはり石化した左足だけはどうしても動いてくれない。

 

『大丈夫かマスター』

 

「メカ犬!?」

 

俺が必死にもがいていたその時、ベルトからメカ犬の声が聞こえてきた。

 

どうやら石化した分身体のコントロールを手放したらしい。

 

「悪いな。折角作ってくれたチャンスだったのに……」

 

『いや、マスターは悪くないさ。それに勝負を諦めるにはまだ早い』

 

「まだ早いって、これ以上どうやって戦うんだよ……まさか!?」

 

俺はメカ犬の反応を見て、確信は無いが経験からもしかしたらという考えに思い至った。

 

思えばこの遺跡の階段を下っていた時に見せたメカ犬の態度は、あの時に良く似ていたと今更ながら思う。

 

「……まさか居るのか?この下に?」

 

俺は有り得ないと考えながらも、メカ犬に問い質していた。

 

だってそうだろう。

 

そんなご都合主義な展開もさることながら、あれだけ探しても見つからなかったのに、まさかこんな場所でそれが見つかるなんて。

 

『この目で確かめたワタシも俄かには信じられない。だが今はこの偶然に全てを賭けるしか道は無いぞ』

 

「……そうだな。例え偶然だったとしても、今はやるしかない!」

 

俺はベルトからタッチノートを引き抜いた。

 

その次の瞬間、奈落の底から赤細い光がタッチノートに照射されて、新たなシステムが起動する。

 

「今の光は何だ!?」

 

門番の疑問の声に俺が答える間も無く、赤い光の軌跡を辿る様に奈落の底から高速の物体が翼を広げて現れた。

 

全身がメタルホワイトに染まった機械の身体を持つ鳥。

 

この存在こそが、メカ犬が確かめたかったこと。

 

思い返してみれば、あの階段でのメカ犬の反応は、シルバーライト島でメカ海と出会った時に良く似ていた。

 

そもそも何故こんな場所にとは今でも思うが、その議論を交わすのは後回しにしておこう。

 

『ピンチに駆けつけてこそ真のヒーローでゴザル!さあ!マスターよ!見事、セッシャを使いこなしてみるでゴザルよ!!!』

 

俺に向かって叫ぶ鳥。

 

というか、一人称がセッシャで語尾がゴザルとは、こいつもまた、今までのメカシリーズ達に劣らぬ、強烈な個性を持っていそうだ。

 

「えっと、何て呼べば良いのかな?」

 

取り敢えず鳥の口調への突っ込みはスルーしながら、俺は鳥に話し掛けた。

 

まだ名前が無い様ならば、メカ鳥とでも呼ぼうかと既に頭では考えているが。

 

『ふむ。マスターよ!セッシャの名はアレキサンドル・メタルブレイカー・J・バードイーグルデリシャスグレート・リーサルグラビティー・スタンドアローン・エンドオブブレードでゴザル』

 

「お前は今日からメカ鳥な」

 

俺は問答無用でこいつの名前をメカ鳥に決定した。

 

『何故でゴザル!?ここで寝ている合間に考えたセッシャの珠玉の真名の何処がお気に召さぬでゴザル!?』

 

理由はただ一つ。

 

そんな長い名前を一々と呼んでいられるか!

 

「じゃあ、そのアレキ何とかが名前でも良いから、略してメカ鳥で」

 

『何か冷たい!?こんなピンチに颯爽と駆けつけた初対面のセッシャにマスターが凄く冷たいでゴザル!?』

 

メカ鳥の奴が何か騒いでいるが、俺はそれを無視してタッチノートの操作を開始する。

 

駆けつけてくれた事には素直に感謝しているのだが、この切迫した状況下で長々と話しに付き合っている余裕は無いのだ。

 

俺はタッチノートに新たに追加されたシステム、フェザーモードと記されたパネルにタッチした。

 

『スタンディングモード』

 

音声が流れると、先程まで俺に抗議を申し立てていたメカ鳥が、他のメカシリーズと同様に、アタッチメントパーツに変形して、俺の手の中に落ちた。

 

「話は後でたっぷりと聞くから、今はお前の力を貸してくれ!」

 

『……心得たでゴザル!』

 

俺はメカ鳥の承諾を得て、アタッチメントパーツをベルトの左側に差し込む。

 

『ベーシック・フェザー』

 

ガイアモード等と同様に俺の周囲に生成、展開される追加パーツ。

 

その色はメカ鳥と同じメタルホワイトだ。

 

胸に、肩に、腕に、足に、頭部に展開された追加パーツが装着されていく。

 

そして最後にメタルホワイトの二対の翼が、俺の背中に装着される。

 

メカ鳥の姿は鷹をモデルとしたものだ。

 

それに習って俺の今の姿も鷹を彷彿とさせる姿となっている。

 

「これは……」

 

俺はベーシック・フェザーになってから感じていた、不思議な感覚に戸惑いを覚えながら呟いていた。

 

一番近い感覚を挙げるのならば、サーチフォルム時の五感が強化された状態に近い気もするが、どうもそれだけでは表しきれない、言葉にし難い感覚が俺の全身を支配する。

 

『セッシャが特化させるのは、感覚強化でゴザル。今のマスターは五感の全ての感覚が、限界以上まで強化された所謂、超感覚とでも言うべき状態なのでゴザルよ』

 

「……超感覚?」

 

『全神経を背中の翼に集中させ、大空を舞う姿をイメージするでゴザル。今のマスターであれば、セッシャの力を最大限に使いこなせる筈でゴザル』

 

背中に意識を集中させて、空を飛ぶイメージ……

 

俺はメカ鳥に言われた通り、意識を背中に集中させていく。

 

すると背中の両翼が広がり、俺の身体が浮遊感に包まれる。

 

俺は今、自身の身体一つだけで空を飛んだのだ。

 

「これなら、左足が動かなくても自由に戦える!」

 

「面白い。空こそが自分の戦場!貴殿がどこまで空を制する事が出来るか見定めさせてもらおう!」

 

宙に舞う俺の姿を見て、門番は嬉しそうに告げると、槍を突き出して突貫を開始した。

 

『来るぞマスター!』

 

「ああ!」

 

俺はメカ犬の声に応えながら、門番を迎え撃つ。

 

連続で突く槍の連撃を、俺は自分の感じる感覚のままに翼を巧みに操って回避する。

 

全てが初めての経験の筈なのに、身体が自然に動く。

 

きっとこれが、メカ鳥の言っていた五感の限界を超えた、超感覚というものなのだろう。

 

「今度はこっちから行くぞ!」

 

身体の動きを確かめる様に、先程まで回避に専念していた俺は、今度は一転して攻撃へと転じる。

 

俺はアタッチメントパーツのボタンを押した。

 

『フェザーファントム』

 

ボタンを押すと同時に、俺の周囲に大量の光が生成されて、次々と分身体が生み出されていく。

 

本体の俺を含めて、総勢10体となった俺は、一斉に門番へと特攻を仕掛ける。

 

この分身体達はベーシックファントムでメカ犬が制御をしているのとは違い、全て俺の意思で制御を行っている。

 

他の状態ではこんな無茶な事は到底出来ないが、今の超感覚を持つ俺ならば分身体達を自在に操る事が可能だ。

 

門番は槍で分身体達の攻撃を次々と捌いていくが、流石にこの数の連続攻撃は何時までも防ぎ切れるものではない。

 

分身体の攻撃を槍を使わずに、身を翻すと門番は翼を羽ばたかせて距離を取った。

 

恐らく次に門番がやろうとしている事はきっと……

 

「これならばどうだ!」

 

門番は俺の予想した通り、黒い霧を吐き出した。

 

恐らく門番が距離を取ったのは、分身体も含めた全体を同時に石化させる為だろう。

 

だがその戦法は既に予想済みだ。

 

俺と分身体達は、一際翼を大きく広げて、身体を勢い良く回転させる。

 

その回転は凄まじい突風を生み出し、門番が吐き出した黒い霧が俺達に届く前に飛散させた。

 

「なんだと!?」

 

「もうその技は効かないぞ!」

 

驚く門番を前に、俺は高らかに宣言する。

 

『マスター!決めるなら今でゴザル!』

 

「OK!」

 

俺はメカ鳥に短く返事をしながら、左腰のアタッチメントパーツのレバーを引く。

 

『マックスチャージ』

 

レバーを引いた瞬間に、ベルトから稲妻の様な光が発生して俺の右足へと集約される。

 

更に分身体の数が10体から、20、30、40と爆発的に増えて門番を全方位から取り囲む。

 

「こいつで決めるぜ」

 

俺の言葉を合図に、数十体の分身体が右足を突き出して、門番に雨の様に降り注ぐ。

 

「フェザーオールレンジスマッシュ」

 

絶え間無く降り注ぐ蹴りの豪雨によって、門番が埋め尽くされたのを最後に確認して、俺は狭い足場の一つに着地した。

 

門番の姿は先程の技によって、巻き上げられた砂塵によって見えないが、あれだけの攻撃を喰らって無事で居られるとは到底思えない。

 

やがて砂塵が晴れて視界を遮るものが無くなった。

 

だがその視界の晴れた先にあったものは、俺の予想とは反する光景だった。

 

あれだけの攻撃をまともに受けたにも関わらず、門番は無傷の状態で、ゆっくりと俺が着地した足場と、丁度正面から向き合える位置に着地したのである。

 

俺は門番からの攻撃に対して、再び戦闘体勢を取るが、門番が次に行った行動は、更に予想外のものだった。

 

「ふ……ふふ……ふははははははははははははははははは!」

 

なんと門番は盛大に笑い始めたのである。

 

あまりにも予想外の行動に、暫く声を掛ける事も忘れて、俺達は黙ってその光景を見続けていると、やがてその視線に気付いた門番が笑うのを止めて、俺に言葉を投げ掛けてきた。

 

「合格だ。貴殿を資格を持つ者と認めよう」

 

この門番の一言で、この戦いは終焉を告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは貴殿との約束通り、自分が話せる限りの質問に応じよう」

 

この部屋に入ってきた時に居た場所に再び陣取った門番は、俺達の質問に答える事を明言した。

 

ちなみにあの戦いの後、俺の左足の石化は、嘘の様に一瞬で元通りとなってしまっていたのだが、どうやらこの部屋は特別な作りとなっていて、外での実際の現象と異なった摂理になっているらしい。

 

この部屋での門番の存在は絶対であり不変で、だからこそ長い年月を経ても変わる事無く存在し続けていられる上に、俺が最後に放った攻撃に対しても無傷でいられた訳だ。

 

どういった仕組みでそんな空間を作り上げられたのかは、作られた存在である門番も知らないらしい。

 

だがその話を聞いたユーノの探究心に火が着いたらしく、部屋の中で何か忙しなく動きながら作業に没頭している。

 

尻尾を振りながら仕事をしているユーノの姿は、思わず後ろから抱きしめたくなる程に、愛らしいのだが、流石に真面目に仕事をしている相手にそんな事は出来ないし、俺も門番に質問をしなければならない。

 

後で絶対に撫でて良いかユーノに確認しようと心に決めながら、俺は意識を今するべき事に集中させる。

 

「それじゃあ教えてくれ。俺達はこの遺跡に封印されていた宝、ロストロギアを試練の光と呼んでいるが、それは一体何なんだ?」

 

ミルファの話によると、試練の光は数あるロストロギアの中でも異質な部分が多く、その上に分かっていない事が多いらしい。

 

常に強者を求める性質とそれを実行する自我を持ち試練を与え、現在では何故かミルファが持つ魔力だけがその力を抑える事が出来るという以外は何も分かっていないのだ。

 

「試練の光か……なるほど。確かにあれを表すには、中々に適切な名前ではあるな」

 

門番はその牛の顔に、僅かに笑みを浮かべながら、話を続けていく。

 

「だが貴殿達は少し勘違いをしているな」

 

「勘違いですって?」

 

ミルファが門番の言葉に首を傾げる。

 

「ふむ。この上に安置されていたものは正確に言えば宝そのものではなく、宝の所有者を選定する為の装置だ」

 

『それでは本当の宝とは何処にあるのだ?』

 

「今の宝に形も意味も無い。貴殿の主が真に資格者であれば、いずれ時が満ちた時、宝の力と名は生まれ、貴殿達が知る事となるだろう」

 

メカ犬の質問にも律儀に答える門番だが、その内容はどうも要領を得ない。

 

「これを持っていくがいい」

 

門番は俺が問い質すよりも早く、何かを投げ渡してくる。

 

それは俺の掌の中に納まる程の小さな菱形の透明な石だった。

 

「肌身離さずにそれを持っておけ」

 

「これは何なんだ?」

 

「宝の所有者となるべき資格を持つ者の証だ。その石を持ちながら、これからも戦い勝ち続ければ、遠くない未来に貴殿達の知りたい事は全て明らかになる」

 

門番は俺にそう言うと翼を広げて、奈落の底にゆっくりと降下していく。

 

「ちょっと待ちなさいよ!まだ聞きたい事が一杯あるんだけど!?」

 

この場から去ろうとする門番に対して、ミルファが慌てて声を荒げる。

 

「今の貴殿達に伝えるべき事は確かに伝えた。個人の意見としては自分は貴殿に期待しているぞ」

 

しかし門番はミルファの声に耳を傾ける事も無く、最後に俺に対してそう言うと、今度こそ奈落の底に広がる闇の中へとその姿を消してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はあ」

 

俺は異世界から地球に帰還してから、何度目になるのか忘れる程の回数の溜息を吐きながらトボトボと街道を歩いていた。

 

『あまり落ち込むなマスター。ユーノも気にしていないと言っていたではないか』

 

隣を歩くメカ犬が俺を元気付けようとしてはくれるが、気にしない訳にはいかない。

 

俺はもう一度、大きな溜息を吐き出しながら、少し前の自分がやらかしてしまった事を思い出す。

 

門番が奈落の底へ消えて、ユーノの調査が一段落した後、俺達は一旦あの遺跡を出る事にした。

 

その際に俺は、ユーノに対して勇気を出して、少しだけ撫でさせてもらっても良いか聞いてみたのだ。

 

やはり人に触れられるのは、そんなに好きじゃないのか、最初はユーノも渋っていたのだが、必死に頼み込むと、少しだけならと了承を得る事に成功した。

 

俺は早速、ユーノの全身を可能な限り、優しく丁寧に撫で始めた。

 

はっきり言って、その撫で心地は最高の部類と言っても過言では無かった。

 

見たところ短毛種であろう筈なのに、きめ細かい極上の絹に触れているかのような流れる毛並みと、ユーノの暖かな体温は、俺に触れ合う事への幸福を教えてくれる。

 

ユーノも撫で始めてから暫くして、慣れてきたのか気持ち良さそうに、甘い声を上げた。

 

その次の瞬間である。

 

先程までフェレットチックな愛らしい生き物が、俺の手の中に居た筈なのに、気付けば俺と同じくらいの歳と思われる、一見すると美少女にも見える金髪の男の子が、頬を薄く染め、つぶらな瞳を潤ませながら俺に撫でられていた……

 

何を隠そう、この金髪の少年こそがユーノ本人だったのだ。

 

詳しい話を聞いたところ、フェレット的な姿をしていたのは、変身魔法に属する魔法で、ユーノはその魔法を最近になってから覚えたらしい。

 

ミッドチルダでの魔法は、組んだ術式をミルファが持つプリズムの様なデバイスに記録して使うのであまりしないらしいのだが、ユーノはデバイスを使わずに術式を組んだらしいので、練習と実験を兼ねて、ずっとあの姿でいたそうなのだ。

 

何故その魔法が解けてしまったのかというと、恐らく術式に何かしら不備があったのではないかというのが、魔導師であるミルファとユーノの意見だったが、そんな補足よりも俺はユーノに何度も土下座しながら謝り続けた。

 

ユーノ本人は、恥ずかしそうに俺から視線を晒しながら、気にしていないと言ってくれたが、それでも俺がした罪が消える訳ではない。

 

幾らフェレットっぽい小動物な姿だったとはいえ、俺はこの手でユーノの全身を余す事無く撫で回してしまった上に、あまつさえあんな声を……

 

俺は其処まで考えたところで、首を左右に振りながら思考を放棄する。

 

一瞬、人間バージョンのユーノを俺が撫で回す映像が脳内で再生されそうになるが、それは色んな意味でやってはいけない事だ。

 

一体だけどういった理由でか別の世界に転送されていた新たな仲間のメカ鳥に、門番が言っていた言葉と、透明な菱形の石など、考えなければいけない事は多い筈なのに、今の俺の頭の大半を占めるのは、ユーノへの謝罪の念ばかりである。

 

だが本人が気にしないと言っていたのに、俺が何時までも気に病んでいては、それこそ失礼に当たるだろう。

 

だから今日は、思いっきり美味しいものでも食べて、明日からまた頑張ろうと決意して、俺はメカ犬と共に毎度お馴染みの翠屋へと足を運ぶ。

 

今こそアルバイトで貯めたタダ券を有効利用する時だ。

 

俺はそう意気込んで、翠屋と扉を開けて……そして閉めた。

 

目を擦りながら、もう一度ここが翠屋である事を確認してから、もう一度扉を開けてみるが、やっぱり結果は変わらない。

 

確かにここは翠屋で間違い無い。

 

……間違い無い筈なのだが、店内は喫茶店である筈の翠屋とは全く別物だったのだ。

 

店内を覗き込んで最初に俺の視界に入ったのは、壁等に貼られた沢山の写真。

 

しかも不思議な事に、俺はこの光景を初めて見た筈なのに、何処か懐かしさすら感じた。

 

まさかと思いながら、俺は扉を潜り、店内へと足を進めていき、自分のまさかという気持ちが現実であった事を自覚する。

 

俺の視界に飛び込んできたのは、一人の青年だった。

 

パリッとした紺のスーツを着た青年はその服装にはあまり似合っていないマゼンタ色の細長いトイカメラを無造作に操作して、俺を写真に写す。

 

異世界での冒険を終えて帰ってきた海鳴は、平和とは掛け離れた騒動に巻き込まれるのではないのかと、俺は目の前に居る青年を見ながら、ただ心の中で静かに呟いた。


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