魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
軽やかにステップを踏みながら、ガンモードのデンガッシャーの引き金を引く電王。
その不規則な動きの度に銃口から放たれる数々の弾丸の軌道を読む事は難しく、牙王達の動きを鈍らせる。
俺達はその隙を突いて、奴らへと肉薄し強烈な一撃をお見舞いしていく。
電王の射撃による支援を得ながら俺はモモさんと共に牙王と対峙し、残ったゴルドラとシルバラをアバレッドとアバレブラックが俺達の元から引き離す。
後方からの心強い支援を獲得した俺達は先程とは逆に、戦いを優位に進めていく。
だがこのまま優勢を保った状態で戦いを進める事が出来る程に、相手は甘く無かった。
「ふふふ。ピンチに駆けつける仲間達ですか……中々に楽しませて頂きましたよ」
此方が戦いにおいて優位に立っているというのにも関わらず、メアが余裕の笑みと共に俺達へと語り掛けて来る。
「はっ!強がり言ってんじゃねえぞ!?」
その言葉をモモさんが吐き捨てる様に否定する。
実際にモモさんの言う通り、俺にも現状を顧みる限りは先程のメアの台詞はただの虚勢としか見えない。
だがメアの放つ、妙な威圧感からなのか……
どうにも嫌な予感がしてならないのである。
そしてその予感は、最悪な形で現実のものとなってしまう。
[「大変よ凌駕さん!」]
ノアが意味深に語った直後、アバレッドのブレスレットから通信が届く。
声が女性だった事から、通信の相手はアバレンジャーでは唯一の女性であるらんるさんで間違い無いだろう。
「どうしたんですか!?」
ブレス越しからでも分かるらんるさんの尋常ではない慌て振りに、アバレッドも動揺の声を上げる。
[「それが……」]
らんるさんが事情を説明しようとしたその時だ。
「大変な事っていうのはこういう事かな?」
この場に居る誰とも違う声が、周辺に響き渡った。
その声は何処か陽気で無邪気な子供を連想させる。
『まさかこの声は!?』
周囲に響く声に、メカ犬が戦慄する。
それは当然の事だろう。
俺にも聞き覚えのあるこの声……
だが本来ならばこの世界には居ない筈の奴の声が、鮮明に俺達には聞えてきたのだから。
「そこか!?」
逸早くその声の主の居場所を察知したのか、アバレブラックがある一点に振り向き様に言い放つ。
その声に反応して、俺もその方角に向けて視線を向けると、予想通りの存在が其処には居た。
「やっぱりお前かオーバー!」
俺はその声の主の名前を叫ぶ。
見間違う筈も無い、藍色の身体を持つ異形の姿、オーバーが其処には居たのである。
『何故貴様がこの世界に居るのだ!?』
ベルト状態のメカ犬が、俺達にとって当然の疑問をオーバーにぶつける。
先程から俺も思っていた事ではあるのだが、今俺達が居るこの世界は、海鳴市ではなくデンライナーによって時間とその世界観さえも超えた世界の筈だ。
ただでさえこんな現象は起こる事が皆無である筈だというにも関わらず、異なる時間と世界に居る筈の奴と、こうして相対しているなんてとても現実に起きた現象とは思えない。
「……何を驚いている?私達は元々お前達の言うところの異世界から来た。今更別の異世界に移動して来たとしても、そう不思議がる事は無い」
俺の背後から再び聞える覚えのある声に対して、俺は直ぐに振り返る。
その抑揚の無い声と、オーバーの存在でその声が誰であるのかは大体の見当はついていたが、己の目で確認せずにはいられなかったのだ。
俺の視界に飛び込んできたのは恰幅の良い体格に全身灰色の異形の姿。
オーバーと同じく、この世界に居る筈の無い存在……メルトが其処には居た。
しかし、俺の視界へと飛び込んできた姿は、メルトだけでは無かったのである。
「舞ちゃん!?」
「アリシアちゃん!?」
アバレッドと俺がほぼ同時に、メルトに抱えられた状態で気絶しているのか、ピクリとも動かない二人の姿を見て驚愕の声を上げてしまう。
[「ごめんなさい。二人組みの見た事の無い奴が現れて、私達が戦っている隙に舞ちゃん達が……」]
驚愕しながらも辛うじてアバレッドのブレスから聞えるらんるさんの声で、大まかではあるが現状を把握する事が出来た。
舞ちゃんとアリシアちゃんを連れ去った二人組みは十中八九、オーバーとメルトで間違い無い。
だがその先で俺を待ち受けて居たのは、何故?どうして?という疑問の嵐に他ならなかった。
「メアの余興は楽しんでくれた?仮面ライダーと、確かアバレンジャーだったかな?」
困惑する俺の意思など無視する様に、オーバーが俺達に遊園地の体験型アトラクションの係員にも似た調子で話し掛けてくる。
「……まさか、最初からあの子達を狙って僕達を分断したって事?」
ガンフォームの電王の姿から良太郎君の仮説の声が聞えてきた。
恐らくメアのこの余興は、己の得た能力の実験と同時に、時間を稼ぐ事……
その考えは俺も同意だ。
でもそれだけに、半ば奴らを知っている俺には、何故という疑問が止め処無く溢れかえってくる。
この場に居る全員がその度合いは違うとしても、同じ気持ちを抱いているに違いない。
「最初に言った筈ですよ。僕の目的はデズモゾーリャを復活させる事……そしてその目的には、この女の子の記憶と、アリシアの特異点という存在が不可欠だったのです」
まるで種明かしをするマジシャンの様に、優雅な立ち振る舞いでメアがそう説明すると、一足飛びにメルトの要る地点へと跳躍した。
更にそれに続く様に、オーバーや牙王達もその横へと素早く集まっていく。
「……デスモゾーリャの復活に二人が必要?」
「そうだ。そして今、全ての準備が整った」
メアの言葉を反芻すると共に、俺の口から自然に声が漏れる。
自然と出た言葉ではあったがその声にメルトが答える様に、抑揚の無い声ではあるがはっきりと言い放つと、何を考えてなのかオーバーへと首の動きだけで、何かしらのゼスチャーを贈った。
「OK!」
それを合図としてか、オーバーが指を弾き、乾いた音を発生させると、突如として足元を揺るがす程に大きな地震が発生した。
「な、何で地震が!?」
「持って、あれ見てよ!!!」
突如として起きた地震にアバレブラックが動揺するが、それに電王が持ったの声を掛けて、ここから少し離れた地点を指で示す。
その指の示す方角に視線を向けると、周辺の空を覆う程の砂埃が上空に舞い上がっていた。
だがその現象はただの始まりにしか過ぎず、その大量の砂埃を貫く様に、地面から巨大な長細く黒い棒の様な塔がせり上がっていく。
恐らくこの地震の原因は、あの正体不明の黒い塔で間違い無い筈だ。
『マスター!あの黒い塔からとてつもないエネルギー反応が感知出来たぞ!』
突如として出現した塔の存在に驚く俺に、ベルトから発せられたメカ犬の声が鼓膜を刺激する。
「あの塔の頂上で更に僕の力を増大して、彼女の記憶の中から、デズモゾーリャを現世に復活させ、特異点という存在によって、この世界に完全に定着させる……君達にこの計画を止める事が出来ますかね?」
メアのその言葉を置き土産に、オーバー達があの黒い塔を目指して飛び去っていく。
当然ながら、このまま見逃すつもりは無い俺達は直ぐに後を追おうとするのだが、それはその直後に不可能となってしまった。
俺達の前に大量の砂が降り注ぐ。
それは塔の出現の際に巻き起こった砂埃とは明らかにタイプの違うものだった。
「そう簡単に先には行かせてくれる訳無いか!?」
大量の砂の正体に気付いた俺は、何時でも動ける様に、パワーブレードを片手に身構える。
その間にも大量に降り注いだ砂は、各々が集まり人に似た造形を生み出し異形の存在、イマジンを大量に生み出していく。
その数は数えるだけ無駄と思える程に多い。
「こんな奴らの相手してたら日が暮れちまうぞ!?」
モモさんのウンザリとした発言の通り、今の俺達にこの数のイマジンを相手にしている猶予は無いが、目の前の大量のイマジン達が、大人しく道を譲ってくれる等という展開は、期待するだけ無駄もいいところだろう。
「こうなったら正面突破するしかないですね!!!」
目の前で舞ちゃんを連れ去られた為に酷く動揺しているのか、アバレッドが早々に決断を下すと、俺を含めた誰かが止める暇も無く突貫しようとするが、その行動はある現象によって強制的に止められる形となった。
この近くには駅など存在しない筈にも関わらず、周辺に轟く汽笛の様なメロディー。
そのメロディーの音源は空中から響き、何も無い空間にレールを出現させながら黒と黄色に緑の三色を主にした一両の列車が俺達の目の前へと舞い降りる。
その列車はデンライナーと同じく、時を駆ける列車……その名もゼロライナー。
ゼロライナーは俺達とイマジン達の間に壁を作る様に停車すると、その扉が開かれて、中から黒い修道服を着た様な出で立ちをしながら、明らかに人間とは違う異形の存在が飛び出してきた。
「大丈夫か野上!?」
その異形の存在はゼロライナーを降りると叫びながら電王の傍まで近付いていき、過保護とも思えるレベルで心配そうに声を掛ける。
「う、うん。大丈夫だよ」
そのテンションに若干戸惑いながらも、良太郎君が返事を返すと、安心したのか彼は今度の標的を俺達へと定めた。
「ああ!これはどうも失礼しました。確か純とメカ犬は久し振りだったかな?それと其処の赤い人と黒い人は始めまして。それとこれはお近付きの印!!!」
彼は近所の話し好きなおばちゃん並の早口で捲くし立てると、この状況に付いて行けないでいるアバレッドとアバレブラックの其々の手に、小さくラッピングされた例のキャンディーを手渡す。
「「ど、どうもありがとう御座います」」
そのキャンディーを受け取りながら、戸惑いつつもお礼を返す二人に、何か直感を感じたのか、ここですかさず彼は更なる言葉を紡ぐ。
「あと俺ともう一人!桜井侑斗を宜しくお願いします!良く誤解をされるけれどそれはただの照れ隠しで本当はとっても良い奴ですから!」
二人が初めて聞くであろう名前を出してから、更に畳み掛けようとしたその時、再びゼロライナーの扉が開き、一人の青年が怒りの形相で飛び出して此方へと駆け寄ってくる。
「デネブーーーーーーーーーーーー!!!」
彼の名前、自身の契約イマジンであるデネブさんの名前を叫びながら、ゼロライナーから飛び出してきた青年、侑斗さんは強烈なエルボーを背後からデネブさんに喰らわせて、地面へと叩きつける。
だが侑斗さんによるデネブさんへの制裁はこれで終わりでは無かった。
「何を勝手な事を……」
うつ伏せに倒れた状態のデネブさんに馬乗りになった侑斗さんは、そのまま両手をデネブさんの顎へと引っ掛け……
「してるんだあああああああああああああああああああああああああ!!!」
怒りの咆哮と共に、思い切り引っ張り上げたのである。
立ち入る出来ない二人のやり取りが繰り広げられる中、更にゼロライナーから一人の青年が降りて来た。
その後ろには従者の様に付き従う、濃い青色をした一体のイマジンの姿。
「幸太郎!」
「お待たせ爺ちゃん!」
良太郎君の呼び掛けに、然程年齢が離れている様には見えない青年が、ナチュラルに良太郎君を御爺ちゃん扱いするが、それには当然ながら理由がある。
彼の名前は野上幸太郎。
その苗字から分かる通り、良太郎君とは血縁関係にあるのだが、ただの親戚か兄弟という訳では無い。
彼は遠い未来からやって来た、本物の良太郎君の孫なのである。
「行方不明と聞いた時は心配していたが、無事な様で本当に良かった」
その傍らでは、幸太郎さんの契約イマジン、テディさんがモモさんに声を掛けていた。
「おう!心配してくれてサンキューな!天丼!!!」
「だから私は天丼では無いと何度も言っているのだが……」
モモさんもナチュラルに返事を返すが、テディさんは自身の呼ばれ方に不満を抱き、抗議の声を上げるのだが、当然としてモモさんがその抗議の言葉を素直に聞く筈も無い。
何度も展開されているであろうこれこそ、とある業界では有名な専門用語となっている本当の天丼なのだろうか。
「幸太郎と侑斗は先にこっちに来てるってオーナーから聞いていたけど、今まで何処に居たの?」
しばしの再会の感動も程々に、良太郎君が本題となる質問を幸太郎君に投げ掛ける。
先程のゼロライナーの登場からして、まるで今さっきこの時代に来た様に思えるからこそ、余計に気になるのだろう。
「ああ。それは……」
質問を投げ掛けられた幸太郎さんが、視線をゼロライナーへと向けると、ゼロライナーのハッチが開き、其処から二台のバイクが飛び出した。
「助っ人を連れて来たんだ」
幸太郎さんは、飛び出して来た二台のバイクを見ながら、不敵な笑みを浮かべた。