魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
「うぎゃああああああああああああああああああああ!?」
昼下がりの恐竜やで喫茶店にはなんとも似つかわしくない断末魔が、店内に轟々と木霊した。
店内に居る全員が俺を含めてその光景を苦笑いを浮かべつつ、暖かく見守っている。
何せその断末魔を上げた張本人は他の誰でもない、少し前に合流を果たしたモモさんその人であったからだ。
「少し黙ってろ。治療に集中出来ないだろうが」
そんなモモさんの断末魔とも聞き取れる叫びを、一人の青年が一喝する。
恐竜の刺繍が施された青いジャケットをクールに着こなすその青年の名は、三条《さんじょう》 幸人《ゆきと》。
何を隠そう爆竜戦隊アバレンジャーの一人、アバレブルーであり、世界に名が轟くカリスマ整体師でもある。
今まさに三条さんは、先程の戦いで強く腰を打ったモモさんの治療に専念している最中なのだ。
「凄いわ……見た事も無い材質。ね、ねぇ。後でちゃんと元通りにするからちょっと私に分解させてくれない?」
『ワタシにその質問をしたのは君で三人目だ。そして答えは断固として却下とさせてもらう』
その傍らでは、三条さん似たデザインで恐竜の刺繍を施したジャケットを着た女性が、興奮気味にメカ犬に詰め寄っていた。
正直に言って美人なだけに、その姿が余計に残念に見えてならないと思うのは、きっと俺だけでは無いだろう。
このメカ犬から頑なまでの拒絶を受けた女性の名前は樹 らんる《いつき らんる》。
三条さんと同じくアバレンジャーの紅一点、アバレイエローである。
メカ犬にこうやって迫るのは、彼女が俗に言うメカフェチという奴だからだ。
それは本編では当初、アイドル歌手をやっていたにも関わらず趣味のメカいじりが出来なくなるという理由で自ら引退を決めたという事実からも推測出来る通り、かなりの筋金入りである。
そんな人の前に、メカ犬の様な現代科学ではちょっと説明に困る存在が現れれば、こういった事態に発展するのは最早当然の結果と言えるだろう。
「いや~何だかこの感じも久しぶりですけど、やっぱり良いですね!」
この様子を見て二人と同じく赤いジャケットを着た一人の青年が、俺の隣で嬉しそうに頬を緩ませる。
もうここまで来れば、説明する必要性も無いかも知れないが、一応説明しておいた方が良いだろう。
俺の隣で笑っているこの人こそ、伯亜《はくあ》 凌駕《りょうが》。
彼こそアバレンジャーのリーダー的存在であり、先程の戦いでモモさんが憑依していた状態で参戦してきたアバレッドその人である。
凌駕さんがこの場に居るのは当然として、何故その場に居なかった筈の三条さんとらんるさんが、この恐竜やに居るのか。
その答えは、あまりにも簡単でありシンプルなものだった。
何と言う事は無い。
ただ俺達が戻ってきた時には二人が既に恐竜やに居て、戻ってきた俺達を見た二人がモモさんとメカ犬に視線を映した瞬間、現状のカオスな事態へとなってしまったのだ。
「ダイノガッツって凄いんだよ!」
「ダイノガッツって何なの?」
そのカオスな状況とは別に、二人の女の子が同じ室内の隅っこでお喋りに華を咲かせている。
片方の女の子というのは勿論アリシアちゃんの事だ。
そしてもう一人の女の子は、俺の隣に居る凌駕さんの娘さんである舞《まい》ちゃんである。
アバレンジャーを見ていたからこそ知っている事なのだが、凌駕さんと舞ちゃんは実の親子では無く、叔父と姪の間柄だ。
本当の両親である筈の両親は事故で他界……
その後は母親の弟だったという立場にだった凌駕さんが親代わりとなって、過ごしてきた訳だが舞ちゃんの天真爛漫なその姿からは、そんな人生を揺るがす大きな事件があったとは微塵も感じられない。
本当の親と離れ離れにならなければならないというのは、その経緯に大きな違いはあるが、アリシアちゃんと通じる部分もある。
それでも真っ直ぐに、前を見て明日に希望を抱き笑顔でいられる幼い彼女達を、俺は本当に凄いと思う。
だからこそ俺は、俺達はこの笑顔を曇らせる様な事を、許してはいけないんだとその心に刻む。
「あの!!!」
だからこそ俺は今の現状を伝える為に、声を大にして叫ぶ。
その声が予想以上に店内に響いていた為なのか、先程まで其々に好き勝手な行動をしていた一同が一斉に此方へと振り返った。
「大切な話があるんです。どうか聞いてくれませんか?」
訪れる静寂の中で、まるで世界中で俺の声以外の全ての音が消え去ってしまったのではないかという錯覚を覚えながら、俺はアバレンジャーの皆さんへと懇願する。
ほんの数秒程の静寂の後……
「勿論だよ」
俺以外の声が……隣から聞えると同時に、大きな手がまだ小さな子供の姿である俺の頭へとそっと触れる。
その優しさに満ちた声は凌駕さんだった。
「当たり前たい!」
続いてらんるさんが、普段の標準語ではなく、博多弁で同意の意思を示す。
「ふん。そんな事は当然だろ?」
更に三条さんが、モモさんの腰に指を捻り入れながら呟く。
その直後モモさんが、……あれ?直った!直った!!!と飛び起きながらはしゃぐ姿から、腰の治療が完了したのだろう。
治療を終えた三条さんは、モモさんへの興味を無くしたらしく、真っ直ぐに此方へ歩き出す。
俺は前世の映像からでは無く、実際に肌で感じたからこそ気付く。
この人達は本物の世界を救ったヒーローなのだという事に……
「それじゃあお二人はもうメアに会っているんですね?」
コハナさんの質問に三条さんとらんるさんが、其々に首を縦に振った。
俺や良太郎君達から大体の経緯を聞いた後、二人は驚くべき事実を口にしたのである。
それが二人は既にメアと遭遇していたというものだったのだ。
何でも二人の話によると、俺達がデンライナーでこの時間帯へとやって来る数日前に、海外でイマジン達が暴れていたらしく、その場に居合わせた二人が戦った際に出会ったのだと言う。
更にメアはその際に彼等に衝撃的な発言をしていったというのだ。
「あのメアとか言う奴は確かに言っていた。デズモゾーリャを復活させるってな」
「その計画を日本で決行する予定だから止められるものなら止めてみろって言った後、逃げられたのよ。だから私達は日本に戻ってきたのよ」
三条さんとらんるさんが順番に言った発言に、俺は戦慄を覚える。
デズモゾーリャとは、かつてアバレンジャーが戦ったエヴォリアンという侵略者達を率いていたボスの名前だ。
最後はアバレンジャーの活躍で、完全に倒された筈のデズモゾーリャの復活を、イマジンであるメアが狙っている……
何を考えてそんな事をしようとしているのか、奴の行動指針が何処へ向かっているのか、全く検討も付かないが、もしもそれが実行可能だとしたら、そんな事は絶対に許してはいけないだろう。
「……でもそれって少し変じゃ無いかな?」
二人の説明を一通り聞き終えたウラさんが、眉間に指を軽く押し当てながら疑問を示す。
「ウラタロス、何が変なの?」
その疑問に対して、良太郎君が詳細を求めると、ウラさんはこの場に居る俺達が自身の話を聞いている事を、視線を巡らして確認しながら、ゆっくりと説明を開始する。
「だって考えてもみなよ。さっきの赤いスーツと同等の力をこの二人が使えると知っていたら、態々自分の計画を進んで喋りに進んで海外にまで来るなんて危ない事を、僕だったら絶対にしないよ」
ウラさんの疑問は実際に起きた出来事に対しての捉え方の違いだった。
話の流れを順番に整理するのであれば、メアは自身の立てた計画。
つまりデズモゾーリャの復活の為に、海外で何らかの行動をしていて、その現場を三条さん達に押さえられたと認識するのが最も早い理由ではあるが、それがウラさんの言う通り前提から違っていたとしたら?
そもそもメア達は三条さん達が在住していた海外で、何をしようとしていたというのだろうか……
俺達がその理由を知らないというだけで、秘密裏にそれを達成して日本にやってきたとも考えられるが、三条さんとらんるさんの話からメアは二人に対して、自身の目的を語った上に挑発めいた発言をしていたという。
「これは罠なんや無いかってウラの字は言いたいんか?」
キンさんが両腕を組みながら首を斜めに捻りつつ、俺が思っていたのと同じ事を口にする。
「しかし罠だとしても、一体何を企んでいるというんでしょうかね……」
その言葉に逸早くスケさんが新たな疑問を呈した。
確かにウラさんの言う通り、メアの一連の行動には不審な点が見受けられる。
それは先程の戦いにおいても同じ事が言えたのでは無いだろうか。
突如としてイマジン達を率いて、この近くに現れて暴れ始めたと思いきや、俺達が来るとあまりにもあっさりと退却したのだ。
何かしらの目的を持って現れたするのであれば、自ら引くには潔すぎる気もする。
これではまるで自らの姿を見せに来たのか、あるいは俺達が揃う様に仕向けたとしか……
推測は幾らでも出来るが、それを証明する為の物的な根拠か、確信が無ければどれも机上の空論に過ぎない。
気泡の様に生まれては消えていく思案を繰り返していたその時だ。
「でも、このまま奴を放っておく訳にはいかない……ですよね?皆さん」
俺達が頭を悩ませる中、凌駕さんが立ち上がり俺達に真剣な眼差しで訴えかけた後、一転して底抜けに明るい笑顔を浮かべる。
その笑顔を見ていると、先程まであれこれ考えて頭を悩ませていた馬鹿らしく思えてきた。
悩む事は決して悪い事では無いだろう。
でも悩んだその先に、何時までも前に進もうとしないでいては、悩んだ意味が無い。
今俺達がしなければならない事は、何を置いてもメアの企みを阻止する事だ。
その為に情報が不足しているというのであれば、その足りない部分を行動する事によって補わなければならない。
「ちまちま考えてんのは、俺の性に合わねえからな。俺は凌駕の言ってる事に賛成だぜ!」
モモさんはそう言うと、凌駕さんの肩を叩きながら先程の発言に同意の意思を示した。
「それは良いが……具体的に何か当てはあるのか?」
其処へ三条さんが呆れたと言わんばかりに溜息を吐き出しながら、凌駕さんに問い掛ける。
三条さんの言う通り、現状ではメアの居場所すら分からない。
そうとなれば、後はイマジンの匂いを敏感に感じ取れるモモさんに付いて、街中を虱潰しに散策する位しか手は無いと思うが……
「べ~ルベルベルベル!やっぱり皆ここに居たあああああああああああ!!!」
やけに聞き覚えのある特徴的な声と共に、何の前触れも無く恐竜やの扉が開かれた。
突然の出来事に、全員の視線がその開け放たれた扉へと一直線に注がれる。
その視線に先に映るのは、俺の想像した通りの姿だった。
ワニそのものの顔と頭部に収まる巨大な受話器が特徴的なその姿……
何でもやつで、ワニ、電話を融合する事によって生み出されたらしい、12番目のトリノイド。
その名も……
「「「ヤツデンワニ!?」」」
アバレンジャーの三名が驚愕の声と共に、彼の名前を呼んだ。
「は~い!そうで~す私がヤツデンワニでっす!!!そして久しぶりならんるちゃんに涎だらだらぱっくンちょ!!!!」
ヤツデンワニは、やけに低姿勢に自己紹介をしたと思いきや、らんるさんに狙いを定めて、そのまんまワニの口から多量の涎を垂らしながら突進していく。
「嫌ああああああああああああああああ!!!」
「ぐえっぷ!?」
しかしそんなおぞましい物体が接近すれば、当然としての感性を持ち合わせている人間は大抵生理的な嫌悪を覚えるだろう。
らんるさんも勿論その部類に当て嵌まる訳で、猛進してくるヤツデンワニに対して、鋭い拳を叩き込んで吹き飛ばす。
「い、痛い……痛いけど、何だか久しぶりなこの感覚が、ちょっと嬉しいかも……」
カウンター気味に右の頬へと命中した事によって倒れたヤツデンワニは、そのままの状態でぐったりとしながらも、何だか小声で気持ち悪い発言をしていた。
「どうしたんですか社長?態々社長がこんな場所まで出向いてくるなんて……」
暫くして立ち上がる程度にまで回復したヤツデンワニへと、スケさんが疑問の言葉を投げ掛ける。
これも前世の頃から知っていた話ではあるのだが、アバレンジャーの最終回の後には続きがあったのだ。
戦隊ヒーローでは恒例となっているのだが、前年に放映された戦隊と次の戦隊が競演するVSシリーズという作品があり、アバレンジャーがその次の戦隊であるデカレンジャーと競演を果たした際に、このヤツデンワニが、何と外食産業で大きくなり一大企業へと成長した恐竜やを乗っ取って、社長となってしまったのである。
会社を乗っ取られたスケさんも、暫くは社長司書として働いていたそうなのだが、やはり自分の性には合っていないと考えたそうで、ヤツデンワニに頼んで、今俺達が居るこの恐竜やを特別店舗として採用してもらい、その店長という形にしてもらったそうだ。
「それで……何しに来たんだよ?」
凌駕さんはウンザリとしながらも、ヤツデンワニがここに来訪した理由を尋ねた。
するとその言葉を待ってましたと言わんばかりに、ヤツデンワニの瞳が輝き始める。
「ベ~ルベル!実は皆さんにお願いがあるんです!はい!」
そういうとヤツデンワニがある物を俺達に見せて来た。
「これって……」
俺はそれを見て、思わず声を漏らしてしまう。
その存在が何であるかを知る人達も、驚愕の表情を浮かべた……