魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
俺は今、まさかという気持ちを己の胸の内に抱きつつ、ある一点を見詰め続けていた。
デンライナーで出発して行き着いた時代は、近代日本の都内。
まだメアというイマジンもこの世界で何か行動を起こしている様子も無く、見慣れた日常の風景が広がっていた。
取り敢えずこの世界に居るであろう皆を探す為に、俺とメカ犬、良太郎君とコハナさん、そしてアリシアちゃんで、都内を散策する事になったのだが……俺はその道中である店を見つけて立ち止まってしまったのである。
その店は言ってみれば所々混じり気が見られるが、全体的に和風と呼べる見た目で、入り口の扉の上には木製の看板に【恐竜や】と書かれていた。
更にその店内から店先に居る俺まで届く鼻腔を擽るカレーの香り……
それらの視覚と嗅覚という刺激が、俺の記憶の中にあるあの人達を思い出してしまう。
『どうしたのだマスター?』
何時までも俺が店の軒先で立ち止まっていた為、メカ犬が声を掛けてくる。
「何だか良い匂い……」
続いてメカ犬の後ろからやってきたアリシアちゃんが、この周囲に漂うカレーの香りに素直な感想を述べた。
良太郎君とコハナさんも、何かあったのかと近づいて来たその時、お店の内側から声が聞えてくる。
「何や、まだ開店時間とちゃうのにもう客が来たんか?」
「少し時間には早いけど、もう準備は出来てるんだし、常連さんかもしれないから、中に入ってもらっても良いんじゃないかな」
「せやな」
どうやら会話の内容から察するに、俺達がお店の前で話しているのが、中に居る店員さん達に聞えていたらしい。
店内から聞える店員さん達らしき声の言う通り、お店の扉の前には木製で出来た小さな看板に準備中の文字が書かれていた。
でもそれ以上に俺が気になるのは、さっきの店員さん達の声だ……
「……あの声、何だか凄く聞き覚えがあるんだけど」
俺と同じ事を考えていたのか、良太郎君が苦笑いを浮かべながら呟き、その隣ではしきりにコハナさんが、先程の良太郎君の呟きに対して、何度も首を縦に振って頷き、肯定の意思を示していた。
「「「まさか……」」」
良太郎君とコハナさんに俺の三人が、同じ答えに行き着き同時に声を発した矢先に、お店の扉が開かれる。
「「あ!」」
店の前に佇む俺達を視界に捉えた二名は、同時に声を上げる。
その扉の向こうに居た人物二名は、やはり俺達の想像通りの人物だったのは最早言うまでも無いだろう……
「それにしても久しぶりだね」
「なんや、少し見ない間に背が伸びたんやないか?」
恐竜の化石等が装飾された恐竜やの店内に案内されて座席に座った俺は、彼等との久しぶりの再会に心を躍らせていた。
「俺も良太郎君達から、事情を聞いたときは心配しましたけど、無事だった様で安心しました。ウラさんにキンさん」
この恐竜やで出会った二人とは、俺達が探しているメンバーでもあるウラタロスとキンタロスその人だった。
軒先で無事に再会を果たした俺達は、店内に案内された後、こうして座席で対面しながら会話に華を咲かせている訳だ。
「でも、どうして二人はこんなところに?」
再会の挨拶も程々に、良太郎君が本題を切り出す。
それは勿論の事ながら、俺も気になっていた。
しかもウラさんとキンさんの現在の格好……
亀と熊を模した今では既に馴染み深いイマジンの姿の上に、更にエプロンを装着したという状態。
様々な問題はさて置き、どう見てもこのお店の店員である。
「それは私がご説明しましょう」
其処に一人の店員姿をした老人が、黒い漆塗りのお盆に四人分のカレーライスを乗せて俺達の会話へと混ざってきた。
その老人の姿を見て、俺はまたしても先程店先で感じた事と近い感覚を覚える。
俺は間違いなく俺達の前に持ってきたカレーライスを置いていく老人とは初対面ではあるが、恐竜やというお店と同様に以前から……つまり前世の頃から激しく見覚えがあったのだ。
「実はウラタロス君とキンタロス君が、街中で倒れているところを偶然見つけましてね。私がここに連れて来て介抱したんですよ」
朗らかに老人が事の経緯を語るが、行き倒れているところを助けるなんて相手が人間ならまだしろ、明らかに人間とは異なる姿の二人を前に通常であれば中々出来る事では無いだろう。
「そんで俺とウラの字はここでスケさんに恩返しする為に、バイトしてたっちゅう訳や」
最後にキンさんがそう付け加えた。
「スケさん?」
キンタロスの言葉に、コハナさんが老人の方へと視線を送る。
「そう言えば、自己紹介がまだでしたな。私はこの喫茶店で店長でしています。杉下竜之介《すぎした りゅうのすけ》と申します」
老人、名前の頭と最後の文字を取ってスケさんと呼ぶのであろう。
スケさんは丁寧に自己紹介をすると、明らかに見た目からしてもかなりの年下と分かる俺達に対して、深々とお辞儀をする。
「あ、えと此方こそ二人がお世話になったみたいで、本当にありがとうございます」
予想外に礼儀の行き届いた自己紹介に、コハナさんも慌てながらお辞儀をしつつ御礼の言葉を返す。
その様子を見ながら、俺の中で益々この世界に彼等が居るという可能性が高まっていく。
「あの、このカレー食べても良いんですか?」
俺がそんな事に想いを馳せていた傍らで、アリシアちゃんが目の前に置かれたカレーを凝視しながらスケさんに遠慮がちに質問をする。
どうやらこの食欲中枢を刺激するカレーライスの香りに、最早アリシアちゃんの胃袋の我慢の限界が近いらしい。
確かにこのカレーライスは見るからに美味しそうである。
空腹時に目の前でこんな美味しそうな料理を前にすれば、誰だって我慢をする事は難しいだろう。
「ははは。遠慮する事は無いよ金髪のお嬢さん。たんとお食べ」
スケさんはそんなアリシアちゃんのいじらしい質問に、気さくな笑いと共に遠慮無く食べて良いと促す。
その言葉にアリシアちゃんは、嬉しそうに頷くといただきますと言ってからスプーンでカレーライスを掬い取って、最初の一口を口の中へと放り込む。
「……美味しい!!!」
数瞬の間を置き、アリシアちゃんが歓喜の声を上げる。
「そうやろ。そうやろ。スケさんのカレーは絶品やで」
「まあ、僕もこのカレーの味は好きな方だけどね」
キンさんとウラさんがアリシアちゃんの歓喜の声を当然とばかりに、このカレーライスに賞賛の言葉を贈る。
それを皮切りに本格的に食べ始めたアリシアちゃんを見て、俺達もいただきますと言ってからカレーライスに口をつけていく。
アリシアちゃん達が絶賛した通り、俺が今まで食べたカレーの中でも、この味は最高の部類に入る程に絶品だった。
「何だかこうして見ていると、あの頃を思い出しますね」
皆がカレーライスに舌鼓を打つ中、スケさんがアリシアちゃんを見ながら懐かしそうに呟く。
「あの頃?」
スケさんの呟きを耳にした良太郎君が、オウム返しに聞き返す。
「もう一年以上前になりますが、この恐竜やには私以外にも住み込みの住人が何人か居たんですよ。その中に居た女の子も今みたいにこのカレーを何時も美味しそうに食べてくれてね。いやあ、あの頃は大変だったが本当に楽しかった……」
スケさんは瞼を閉じて、その当時の出来事をまるで昨日の事の様に語る。
どうやらアリシアちゃんのカレーライスを食べる姿がその当時の女の子と、スケさんの記憶の中で重なった様だ。
そして俺の考えが間違っていないとしたら、その女の子は多分……
「そう言えばあんた達、モモタロスとリュウタロスはどうしたのよ。一緒に居たんじゃないの?」
良太郎君がスケさんの思い出話に耳を傾ける傍らで、コハナさんがウラさんとキンさんにまだこの場に居ない二人について質問を試みる。
その質問にウラさんとキンさんは一度お互いの顔を見合わせて、肩を竦めると首を横に振った。
「いや、俺達が目を覚ました時はこの店の中やったんやけどな」
「その時に一緒に居たのはキンちゃんだけで、先輩とリュウタは何処にも居なかったよ」
キンさんに続きウラさんが説明に補足を付けて答える。
どうやらモモさんとリュウ君は一緒ではなかったらしい。
ただ単に別の場所へ飛ばされただけで、この世界の何処かに居るのであればまだ探しようもあるが、もしも別の世界に飛ばされていたとしたら、ここに来る為のチケットしか現状的に手掛かりの無い俺達には困難となるだろう。
こればかりは最早、そんな事になっていない様にと祈る他ない。
「ああ、その事なんですがね」
モモさん達の捜索への足掛かりすら掴めないで居たその時、良太郎君と思い出話に華を咲かせていたスケさんが思い出した様に告げる。
「実はですね。久しぶりに連絡をしましたら私の知り合いが、ウラタロス君とキンタロス君のお仲間らしき人と海外で出会ったそうで、此方に連れて来てくれるそうなんですよ」
「本当ですか!?」
スケさんの予想外な朗報に、コハナさんが思わず身を乗り出しながら驚きの声を上げた。
「ええ。すぐに行くと行っていましたし、早ければ今日中にも来るとは思うんですが……」
そこまでスケさんが言い掛けたところで、外から大きな爆発音が店内まで響き渡った。
「な、何だ!?」
『何やら外が騒がしい様だが……』
周囲の皆が驚くのと同様に、俺が先程の爆発音に対して驚愕の声を上げる中で、メカ犬が冷静に外の様子を聞えてくる音から推測する。
確かに爆発音の後、恐らく先程まで近くの通りを歩いていたであろう通行人の人達らしき悲鳴が、絶え間無く俺の耳にも届く。
「行こう!キンタロス!ウラタロス!」
「OK!」
「任しとき!」
それに逸早く反応した良太郎君が、ウラさんとキンさんを連れて一目散に駆け出した。
「コハナさん!アリシアちゃんの事をお願いします!」
「分かったわ」
俺の頼みにコハナさんが即答する。
『ワタシ達も急ぐぞマスター!』
「分かってる!」
メカ犬の催促する声に答えてから、俺も急いで良太郎君達の後を追って、恐竜やの外へと飛び出した。
幸いにも爆発が起こった地点が恐竜やのすぐ近くだったという事もあり、先に向かった良太郎君達に程なくして追い着いた俺とメカ犬だったが、その眼下に広がる光景に思わず絶句してしまう。
路上では数体のモールイマジンが、無差別な攻撃を当たり構わず撒き散らしていたのである。
至る場所がら上がる黒煙と逃げ惑う人達の悲鳴。
俺と良太郎君はその光景を前にして、沸々と怒りの感情が湧き上がっていく。
「行くよウラタロス!」
最初に動いたのは良太郎君だった。
パスを取り出して、ベルトを自身の腹部へ巻き付けるとその中央付近に縦一列に並ぶ内の青いボタンを押してすぐ脇に居たウラさんに声を掛ける。
「了解!」
ウラさんは良太郎君の呼び掛けに答えると、その身体が良太郎君の中に溶け込む様に吸収されていく。
「変身」
その直後良太郎君は手にしていたパスをベルトの中央に向けてセタッチする。
『ロッドフォーム』
ベルトから流れる音声と共に、瞬時にして良太郎君の姿が電王のプラットフォームに変わると、更にその周囲を幾つもの装甲が展開されて装着されていく。
最後に頭部のパーツが、レールの上を走る電車の様に上から流れる様に装着される事で、その変身は完了する。
「お前達。僕に釣られてみる?」
全体的に青いボディーと亀の甲羅を模した六角形の複眼をしたロッドフォームへと変貌を遂げた電王が、ウラさん特有の台詞を言いながら腰に下げたデンガッシャーを取り出して、一つの形へと組み上げていく。
それはこのロッドフォームの真価をもっとも発揮する事が出来るロッドモードであり、デンガッシャーを無事に組み上げた電王は脱兎の如く、暴れまわるイマジン達に駆け出した。
「俺達も行くぞ!」
『うむ!』
その後を追って俺もタッチノートを取り出しながらメカ犬に声を掛けて急いでシードへの変身を完了させて参戦する。
……そして戦いが始まって数分が過ぎた頃であろうか。
俺達の前に一人の赤い戦士が舞い降りた。