魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~   作:G-3X

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第33話 三番目の男【前編】

眩い光に照らされながら、俺達の目の前でホルダーが急激な変貌を遂げていく。

 

試練の光の力なのか、犬型の筈のホルダーの背中からは二対の大きな翼が生えて、両腕が異常なまでに伸びたのだ。

 

それはまるで先程倒した二体のホルダーの特徴を継承したかの様な風貌だった。

 

以前にミルファが言っていた話が正しければ、試練の光はその力を扱う者の能力を伸ばすといったものだったが、今のホルダーの姿から、その痕跡は窺い知れない。

 

強いて言うのであれば、あの三体のコンビネーションは厄介だったが……

 

「ははは!何だか向こうも面白くなってきたみたいだな!」

 

俺がある一つの考えに行き着く前に、先程まで俺と同様にホルダーの変化を見ていたアクセスが嬉しそうに声を上げた事により、俺の思考は其処で遮られてしまう。

 

『マスター!E2に加勢するんだ!』

 

「分かってる!」

 

続けて聞こえてきたメカ犬の指示に頷き、俺はE2とホルダーの下へと走り出そうとするが、その進路を遮る者が居た。

 

「おっと!何処に行く気だ?まだお楽しみは始まったばかりだぜ?」

 

俺とホルダーの間に立ち塞がったアクセスが、楽しそうに言うと、俺が返事を返す暇も無く再び拳を繰り出す。

 

「な、何を言ってるんですか!?今はこんな事をしている場合じゃないでしょ!?」

 

目の前でホルダーが異様な変貌を遂げたというのに、それを意にも介さないアクセスに俺は繰り出された拳を受け止めながら抗議の言葉を発する。

 

「ああ。確かにあっちも面白そうだが、俺は今あんたと戦いたい気分何でね。向こうはもう一人に任せてこっちはこっちで楽しもうぜ?」

 

話は其処までとばかりに、アクセスは、拳を受け止めていた俺の腕を振り解き、その回転を利用して死角となる位置から上段の回し蹴りを放ってきた。

 

その蹴圧を肌で感じた俺は、先程の拳と違い受け切る事は不可能と察知して、咄嗟にバックステップで距離を取る。

 

『マスター!早くしなければホルダーに逃げられるぞ!?』

 

メカ犬の声に反応して、俺がホルダーの居る方角に視線を向けると、ホルダーはE2の射撃をその身に受けながらも、その背中に生えた翼を羽ばたかせて、上空に逃れようとしていた。

 

E2もホルダーの急激な変化に、対応出来ていないのか、このままではメカ犬の言う通り、本当に逃げられてしまうかも知れない。

 

「それは分かってる!だけど……」

 

一刻の猶予も無いのは、俺だって分かっているのだ。

 

しかし現状として、俺の目の前にはアクセスが立ち塞がり、今もまだ好戦的な態度を崩す気配は微塵も見せては居ない。

 

先程のホルダーとの戦い振りからしても、このままホルダーの下へ楽に行けるとは、到底思えない……

 

覚悟を決めて、俺がアクセスに攻撃を仕掛けようとしたその時である。

 

近くから爆発音が連続で響いたかと思うと、次の瞬間に俺達の居る地点へと上空から幾多の炎弾が降り注ぐ。

 

「おいおい火の雨何て聞いた事が無いぞ?」

 

「これって!?」

 

アクセスが冗談めいた口調で喋りながら炎弾の雨を避け、俺もその隣で回避行動取りながら、上空に視線を移すと、その視線の先にホルダーの姿が映り込む。

 

半ば予想はしていた事だったが、この炎弾の雨はE2の攻撃を掻い潜り、上空へと舞い上がったホルダーが放った攻撃だったのである。

 

「あれは確か、さっき倒したホルダーの攻撃方法の筈なのに……どうしてあのホルダーが使えるんだ!?」

 

この炎弾は、間違い無く先程俺が倒したキジに似たホルダーが使った能力だ。

 

更に威力や一度に作り出す炎弾の数も段違いである。

 

偶然にも同じ能力を持っていたという可能性もあるが、ホルダーの変貌振りから考えてそれだけとは到底思えない。

 

『マスター!倒したホルダーの暴走プログラムを見てみろ!』

 

俺の疑問の声に対してベルトからメカ犬の声が響く。

 

「倒したホルダーの……どう言う事だ?」

 

メカ犬の言葉の真意が分らないままに、俺は倒したホルダーの爆発地点の付近に視線を向ける。

 

其処で俺は予想外の光景を目撃する事となった。

 

「……何で暴走プログラム元の状態に戻ってるんだ!?」

 

先程俺が口にした通り、確実に破壊した筈の二つの暴走プログラムの破損が完全に修復されているという状態になっている上に、何かに反応するかの様に赤い光を放って点滅を繰り返していたのだ。

 

更に二つの暴走プログラムは宙に舞い上がると、上空のホルダーの身体へと吸い込まれてしまう。

 

今まで複数のホルダーが同時に現れた事はあったが、こんな現象を見たのは初めてである。

 

『予測の域を出ないが、今回の暴走プログラムは最初から三つ一組で相互関係にあったのかもしれない』

 

「相互関係?」

 

メカ犬の見解に俺は首を傾げた。

 

だが其処でメカ犬が続きを話すより先に、上空のホルダーが新たな行動を起こす。

 

先程その身に納めた二つの暴走プログラムの影響なのか、その全身に今まで以上の数を誇る幾多の炎弾を生成して、その炎弾を沖縄のスコールの様に俺達が居る地面へと振り下ろしたのである。

 

……その瞬間俺達が居た地面一体は、激しい業火に飲み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一体どういうつもりなんですか!?森沢教授!!!」

 

海鳴大学の一室で、この場に不釣合いな格好をした白衣にセーラー服という出で立ちをした恵美が、怒りを露にして目の前の人物、森沢という彼女の恩師に説明を求めた。

 

「……どういうつもりも何も、リンクシステムの事は恵美君も元々知っていただろう?そのプロトタイプ、アクセスギアが完成したから実地テストを行っているまでだよ。君の作ったESシステムと同様にね」

 

恵美の怒りとは対照的に、森沢は朗らかな笑顔を崩す事無く当たり前の様に返事を返す。

 

「私が言いたいのはそういう事じゃありません!どうしてその被験者がシードに襲い掛かったりするんですか!?あんな事をしなければ街はあんな惨状にならなかったし、ホルダーに逃げられる事も無かった筈なのに!」

 

「君が言いたい事は分かる……だが、今は多くの実地テストが必要なのだよ。それに彼……仮面ライダーシードと言ったかな?彼に攻撃を行う事は、多くの出資をしてくれたこの日本から、正式な許可が出ているのだよ」

 

「なん……ですって?」

 

森沢の言葉に、恵美の表情が怒りから驚愕の顔へと変わっていく。

 

「考えてみたまえ?正体不明の超人が街の平和を守って戦う。物語の世界でならばただの美談で終わるかも知れないが、それはホルダーとどんな違いがあると言うのだね?誰もその彼の素性や目的を知らない以上、何時彼がその人を超えた力で人類に牙を向くか分ったものでは無いだろう?」

 

「確かに私もシードの素性は知りません……しかし彼が人類の敵になるというのは飛躍し過ぎでは無いですか!?実際にE2が現状ホルダーと戦えているのも、彼の技術提供があったからですし……あまり言いたくは無いですが、アクセスにもその技術を流用している様に私には見えましたよ」

 

驚愕する恵美に、森沢は更に言葉を投げ掛けるが、恵美も直ぐに元の表情に戻り、自身の見解と事実を語ると共に、一つの質問を森沢に投げ掛ける。

 

その質問に対して森沢は、静かに口の両端を上げて、微かな笑い声を零す。

 

「……流石は恵美君だ。良く見ているよ。確かにアクセスのデータには、元々の製作とは別に、君が作ったホルダーを人間に戻す機能を搭載してある……何せ君と私の出資者は同じだからね」

 

「ええ。私も薄々は気付いていましたが、森沢教授の言葉で確信しました……それを分った上で私は森沢教授に、自分の恩師に聞きます。まだこんな事を続けるおつもり何ですか?」

 

恵美の真剣な問い掛けに森沢は先程までの笑顔を止めて、何処か憂いを秘めた瞳と口調で告げる。

 

「続けるよ。それは恵美君……君が一番理解出来ているのではないかね?」

 

「……そうですね。確かに私の知っている森沢教授は一度言った事を曲げる人では無いです。でも……」

 

「ああ。分っているさ。そんな私の教え子である君もまた、自分の我を貫く信念を持っている事を、私は他の誰よりも知っているつもりだよ」

 

其処で師と弟子の様な間柄である二人は、真剣な表情からうって変わりお互いに笑みを浮かべる。

 

「お話はここまでにしましょう?お互いに忙しい身ですしね」

 

恵美はそれだけを森沢に告げると返事を待つ事無く、踵を返して部屋を後にした。

 

そして一人部屋に残された森沢は、自身の愛弟子と言っても過言ではない少女が退室した扉を見詰めながら、静かに呟いた。

 

「……それで良い。もしも私が道を違えたならばその時は君が……」

 

森沢の呟きは更に小さくなり、この部屋の包む静寂の中へと飲み込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんた達……あの爆発の中で良く無事だったわね」

 

俺の鼓膜を半ば呆れと感心を含むミルファの声が震わせる。

 

『うむ。確かにあのホルダーの生成した火球の数には驚いたが、周囲に拡散させる為に一つ一つの威力が落ちていたのだろう。そうで無ければ、流石に無事という訳にはいかなかったかも知れないな』

 

そのミルファの言葉に、俺の横に鎮座していたメカ犬が冷静に返答した。

 

現状を簡潔に説明すると、今現在俺達は、ミルファの住んでいるアパートの一室に集まり、これからの指針を決める為の作戦会議を行おうとしていた。

 

あの戦いの際に放たれたホルダーの攻撃は、先程メカ犬が言った通り、派手な見た目ではあったがそれ程の威力は無く、その渦中に居た俺とメカ犬も無傷で生還する事が出来た。

 

俺が思うに、ホルダーの目的は俺達を倒す事では無かったのだろう。

 

それを証明するかの様に、攻撃が止んでから直ぐに辺りを見渡したがホルダーの姿は見当たらず、ホルダーの反応も消失していた。

 

つまりホルダーの放った攻撃は、逃げる為の隙を作り出す手段に過ぎなかったという事だ。

 

俺達はまんまとホルダーにしてやられたという訳である。

 

「こうなる前に止めたかったけど、結局今回も試練の光がホルダーに憑いた訳よね……」

 

顎を自らの指で挟み込み、思案顔を浮かべながら言ったミルファの言う通り、俺も試練の光は厄介だと思うがそれとは別に今回の件で俺には幾つか気になる事があった。

 

「なあ、メカ犬」

 

『うむ。どうしたマスター?』

 

「一つ聞きたいんだけど、さっきの戦いの最中に言っていた暴走プログラムの相互関係ってどういう意味だ?」

 

俺が気になっていた事の一つ。

 

それがメカ犬が戦いの最中に言っていた相互関係という言葉だった。

 

今まで多くのホルダーと戦ってきたが、一体のホルダーに複数の暴走プログラムが使われたというのは見たことが無い。

 

それに倒した筈のホルダーの破壊した、暴走プログラムが修復された事も気掛かりだ。

 

『そう言えば説明がまだ途中だったな』

 

俺の質問にメカ犬はそう言うと、思い出した様に中断していた話をミルファも交えて語り出した。

 

『マスターには先程の戦いで言ったと思うが、今回の三体のホルダーに使われた暴走プログラムは、最初から三つで一組だったのではないかという事だ』

 

確かにその様な説明をしていた事を思い出し、俺はメカ犬の言葉に頷いた。

 

「つまり今回のホルダーは、三体で其々の存在を補完してるって事かしら?」

 

『うむ。そう考えれば、理性が無い筈なのにまるで意思の疎通をしているかの様なコンビネーションと、試練の光を吸収した事によって、他のホルダーの能力を得た事にも説明が着くからな』

 

説明を聞いて導き出したミルファの解析に、メカ犬が同意の意見を述べながら補填する。

 

確かに其々を別々のものと考えるよりも、その考えの方が全ての現状に符合する点が多いと言えるかもしれない。

 

ただそれが分ったとしても厄介な事に変わりは無いだろう。

 

そして厄介な事はホルダーと試練の光だけでは無かった。

 

俺がその厄介事を頭で思い描いていると、ミルファの部屋の玄関先からインターフォンのチャイム音が鳴り響いた。

 

「来たのかな?」

 

呟いた俺の言葉に、メカ犬とミルファが頷くと、この部屋の主であるミルファがチャイムを鳴らした来客を出迎えるために、玄関へと向かう。

 

ミルファの部屋は一人で暮らすには十分な広さを誇る2LDKの作りとなっていて、現在まで俺達が居た場所は、リビングとして使われているキッチンに近い方の部屋であり、俺は前面がフローリングとなっていて四人掛けのテーブルの座席の一つに座って、その隣のテーブルの上にメカ犬が下にクッションを敷いて鎮座していた。

 

ちなみにもう一部屋はミルファが寝室として使っていらしい。

 

一般家庭の十七歳の少女が一人で住むには高すぎる家賃なのではと思えるが、ミルファの話によると、彼女の属している組織から、長期任務の資金の一部として、この部屋に関する全ての金額が賄われているそうだ。

 

ミルファが言うには、人手は万年不足がちだが、こういった設備投資は例外はあるが潤沢してるらしい。

 

その例外というのが少し気にはなったが、ミルファも現状ではこれ以上俺には教えてくれはしないだろう。

 

一人と一匹で残されたこの部屋でそんな事を考えていると、玄関まで来客を迎えに行っていた部屋の主が帰還を果たす。

 

「さあ。遠慮せずに入って良いわよ」

 

ミルファに促されながら、一人の人物がリビングへと足を踏み入れる。

 

「失礼します」

 

「待ってたよヤス」

 

俺は一礼しながら入って来た人物、ヤスに声を掛けた。

 

『うむ。ヤスには色々と聞きたい事がある。長い話になるだろうから適当に座ってくれ』

 

「はい。それで……俺に聞きたい事って言うのは?」

 

メカ犬に返事をしながら、言われた通り空いている席に座ったヤスが、間を置く事無く、俺達に質問を投げ掛ける。

 

それも当然の事だろう。

 

何せヤスには、メカ海に聞きたい事があるから急いでこの場所に来てくれという伝言と、この場所の地図を持たせてメッセンジャーをやってもらっただけなのだから、ヤス自身は今何が起こっているのか、俺達がヤスから何を聞こうとしているのか全く分っていないのだ。

 

「……俺が聞きたい事は一つ。ヤスの先輩だっていう鳥羽さんについて詳しく教えて欲しい」

 

俺はそう言葉を切り出してから、翠屋を出てから何があったのか、ヤスに詳しく事情を説明した。

 

「そうですか……驚きはしましたけど、鳥羽さんなら何か納得してしまいますね」

 

全ての事情を話し終えた後、ヤスは苦笑いを浮かべつつ何度も頷いた。

 

「ヤス……お前に其処まで言わせるなんて、本当に鳥羽さんはどんな人なんだよ?」

 

直接会話をして、拳を交えた身としては確かに色々と破天荒な人物だという印象が強く残るが……だからこそ気になる事が俺にはあった。

 

「どんな人……純の旦那も翠屋での一件で分ってくれたと思いますけど、兎に角自分に正直でハチャメチャな人ですよ。鳥羽さんは」

 

「何だかあんた達の会話を聞いてると、その鳥羽って人が本当に人類に属する生命体なのか分らなくなってくるわね」

 

俺とヤスの会話を黙って聞いていたミルファが、本音をオブラートに包む事無く正直に吐露する。

 

その意見には俺も同意を示すが、正直に言えば最近になってこの海鳴市で魔法少女宣言をした人に言われるのもどうなのだろうかという疑問が俺の脳裏を駆け抜けていく。

 

「……でも鳥羽さんは、決して悪い人では無いですよ。それだけは自信を持って言えます!」

 

フォローでも何でも無い。

 

真っ直ぐな眼差しで、ヤスは俺にそれが己の知る鳥羽さんだという事を宣言した。

 

「……そうだな。俺は鳥羽さんとは会ったばかりで分らない事が多いけど、それでもヤスの言う事は信頼してる」

 

ヤスの言葉に俺は笑顔で返事を返す。

 

恐らく今回のホルダーがもう一度姿を現した時、鳥羽さんも現場に現れるのは確実だろう。

 

きっと戦う事を避ける事は出来ないと、俺は確信めいた予感を感じる。

 

先程ヤスに返事をした通り、俺は鳥羽さんの事をあまり知らない……だけど、だからこそ……

 

『キンキュウケイホウキンキュウケイホウキンキュウケイホウ……』

 

俺が一人心の中で一つの決意を固めた時、タッチノートから警報音が鳴り響く。

 

『マスター!』

 

「ああ、分ってる!」

 

「勿論よ!」

 

メカ犬の声の示す意味に、素早く察知した俺とミルファは、示し合わせた様に椅子から立ち上がり玄関へと駆けていく。

 

「純の旦那!」

 

メカ犬とミルファに続き、俺が部屋を出ようとしたその時、ヤスが俺を呼んだので急いで後ろを振り返ると、ヤスが深く頭を下げている姿が視界の中に飛び込んできた。

 

「……ヤス?」

 

「純の旦那!鳥羽さんはあんな人ですが……それでも俺や道場の奴らにとっては……」

 

ヤスの言葉がそれより先に進む事は無かった。

 

何故ならばヤスが頭を下げた事で、小学生低学年でも簡単に触れる距離にまで下がっていた肩を軽く叩き、元の姿勢にしてから、それ以上は言わなくても良いという意味を持って首を横に振って見せた為だ。

 

「……俺は鳥羽さんの事をちゃんと知りたい。こんなに真剣に慕ってくれる後輩が居る人だからな……だから行って来る!留守番頼むぞヤス!」

 

「……は、はい!」

 

俺はヤスから久し振りに聞いた気合の入った声を背に、再び駆け足で先に行ったメカ犬とミルファを追って玄関へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……鳥羽直己ですか?」

 

[「ええ、そうよ。私の先生が作ったリンクシステムを搭載したアクセスギアを持つ人物。本人は自分も仮面ライダーだって名乗ってたみたいどけどね」]

 

マシンドレッサーで市街地の巡回中だった長谷川は、携帯電話から直属の上司である恵美から着信が入った事に気付き、近くの駐輪可能な場所についてから、其処で恵美から長谷川自身も気になっていた話題の一つを耳にして驚きの声を上げた。

 

「その鳥羽って人も気になりますが、恵美さんの先生って、先日言っていたあの……どうして恵美さんの先生がそんな事を?」

 

[「森沢教授にどんな意図があるのかまでは、私にも分らないわ……ただ一つ分かっている事は、またホルダーが現れたら、きっとシードとアクセスは再び戦う事になる筈よ……」]

 

「あの……アクセスもE2と同じで国から資金援助を得て製作されたんですよね?なのにどうして彼はシードさんと戦おうとするんでしょうか……今回も一緒に協力して戦ってくれていればホルダーをみすみす取り逃がす事も無かったかも知れないのに……」

 

[「……そうね。確かに長谷川君の言う通りだわ」]

 

恵美は長谷川の言葉で、数刻前に交わした森沢教授との会話を思い出すが、その言葉を長谷川に伝える事は無かった。

 

長谷川はこの海鳴市で、多くの戦いをシードと共に戦い抜いて来たのである。

 

その素性を知らなくても、共に苦難を乗り越えてきた戦友が、守るべき国の側から言われ無き恐怖の対象とされている事など、恵美は自身の口から伝える事は出来なかった。

 

恵美がどの様な言葉を長谷川に掛けるべきか思案していたその時である。

 

長谷川の携帯電話に海鳴署から緊急の連絡が届けられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

阿鼻叫喚が渦巻き、市民が逃げ惑うそんな中で、一人の青年がアタッシュケースを片手に、悠々と逃げ惑う人々とは逆方向に歩みを進めていく。

 

「どうやら俺が一番乗りみたいだな」

 

辺りを見渡しながら、その青年、鳥羽は少し残念そうな声を零す。

 

「折角また会えると思って楽しみにしてたんだがな……まあ、待ってるついでに、一仕事しておくとしますかね」

 

だが鳥羽は、素早く意識を切り替えて、この現状を作り出した元凶……ホルダーへと視線を向けてアタッシュケースから一本のベルトを取り出して自身の腹部へと巻きつけた。

 

「さっきは俺の楽しみを邪魔してくれたんだ。責任持って、少しは楽しませてくれよ?」

 

言葉が通じていないのではないかという事を理解しつつも、ベルトに続き緑色のカードケースを取り出しながら、鳥羽は冗談めいた口調で目の前のホルダーへと語り掛けた。

 

目の前で戦う意思を見せる鳥羽に触発されたのか、勢い良く飛び掛ってきたホルダーに対して、鳥羽は力強く言葉を紡ぐ。

 

「変身!」

 

その言葉と同時にベルトの中央へと、緑のカードケースを差し込む事で、鳥羽の姿は一人の戦士へと変化を遂げた。


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