魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
あの戦いから一夜が明けて時間が昼に差し掛かる頃、俺はメカ犬と、そして自由を手に入れた空と一緒に、例の地下水道の入り口で、ある人物を待っていた。
「遅いな……もうすぐ約束してた時間だけど、まだ結構時間が掛かってるのかも……」
『うむ』
「まあ、しょうがないよ。これでお別れなんだし、ちゃんと話したい事だってあるだろうしね」
首を傾げながら呟いた俺の言葉に、メカ犬が相変わらずな態度を示し、それに続いて空が爽やかな笑みを浮かべながら、フォローを入れる。
それから暫く待って、予定の待ち合わせ時間が少し過ぎたところで、俺達の待ち人が目の前にその姿を現した。
「ごめん!待たせたかな?」
やって来た待ち人……五代さんは手を振りながら俺達の近くまで来ると、待ち合わせの時間に遅れた事を謝罪する。
「少し心配はしましたけど、大丈夫ですよ」
『うむ。確かにマスターは心配していたな』
「そうだね」
俺が五代さんにフォローを入れている横から、メカ犬と空がからかい混じりの発言をして来るが、俺は敢えて突っ込みを入れずに、話を進める事にした。
ここで突っ込みを入れたところで、二対一という現状では、話題を長引かせれば更にからかわれる危険性すらある。
分かっていながら、態々そんな事をしても、俺の精神衛生上喜ばしい事ではない。
「あの、はやてちゃんとはもう……」
なので俺は話題を変えて見る事にした。
五代さんが待ち合わせに遅れた理由は、十中八九はやてちゃんと話していた為だろう。
空がこの世界に来るのと同時にこの世界に来た五代さんは、はやてちゃんと少しの間とは言え、まるで本当の家族の様に過ごしていたらしい。
きっとお互いに話しておきたい事も、多かった筈だ。
「ああ、はやてちゃんとは、ちゃんと話し合ってきたよ。それで最後は【行ってらっしゃい】って見送ってもらって来た」
『なるほど……行ってらっしゃいか。はやて嬢らしいな』
五代さんの言葉にメカ犬が共感を示す。
確かに別れの言葉にそんな言葉を使うのは、はやてちゃんらしいと言えるかもしれないな、と俺も思った。
「さあ、正直名残惜しいけど、五代さんも来たし、そろそろ出発しよう」
俺が新たに振った話題が一段落したところで、空が俺達に呼び掛ける。
その言葉は……俺達の別れを意味していた。
「本当に行くんだな……もう少しだけでも、この世界に居れば良いのに」
「そうだね。出来る事なら僕もそうしたいけど、五代さんを少しでも早く元の世界に送り届けたいし、正直な話をすれば、【闇】が消滅した事で、僕の持っていた力も薄れつつある。世界を繋ぐ事が出来るのも、後一回が限度なんだ」
俺の言葉に対して、空は昨日と同じ説明を俺に話してくれた。
五代さんがこの場に居るのも、海鳴病院でビートチェイサーを呼び出したのも、空の【器】としての意思と力なのだそうだ。
ただし前者の五代さんを呼び出した際には記憶を失っていて、無意識に行ったらしい。
話を元に戻すが【器】の使命から開放された今の空は、今まであった【闇】との繋がりが絶たれた事で、その力も失いつつある。
この地下水道に俺達が来ているのも、ここがこの世界で今も唯一【闇】のエネルギーが微量ながら残留している場所であり、そのエネルギーで空の失いつつある力を多少でも補う為だ。
「そうだったな……それに五代さんの居る世界は……空が居るべき世界でもあるんだもんな」
「うん!」
「……空。また……会えるかな?」
「……会えるよ。僕達はどんなに離れていても、例え遠く離れた別の世界に居たって大切な友達に変わり無いんだからさ」
俺は空と笑顔で握手を交わし、何時の日か必ず再開する事を誓う。
そして俺と空が握手を終えると、それまで隣で見守る様に俺達を見ていた五代さんが話しかけて来た。
「純。これからも戦い続けるなら、これからも多くの困難とむきあわなくちゃいけなくなると思う。だけど忘れないで欲しいんだ。何時だって純の周りには助けてくれる人達が居る事を……純が自分の笑顔を忘れずに頑張ったなら、きっと皆の笑顔も守れるから」
五代さんは俺にそう告げると、右手を前に出しその親指を突き出して、サムズアップをする。
「……はい!」
俺は多くの言葉を憧れの人に貰いながら、何も気の利いた言葉を返す事なんて出来なかった……
だから俺は、五代さんに精一杯の笑顔で返事を返して、その教えを貫く覚悟を、サムズアップで示す。
そして別れの言葉を交わし終えた空と五代さんは、ゆっくりと俺に背を向けながら、地下水道の入り口へと歩き出して行く。
世界を超える為の力を今の空が使うには、【闇】の残留エネルギーが僅かに残っている、昨日のあの場所まで行かなければならない。
その上何処まで制御出来るのかも分からない為、俺が見送る事が出来るのはここまでだ。
だから俺は……二人の姿が見える内に、最後にこの言葉を送る。
「行ってらっしゃい!!!」
何時かまた出会える時が来る事を信じて……その願いを込めた言葉が二人に届いたのか。
俺の耳には確かに大切な友達と、憧れの人物の【行って来ます】という声が聞こえた……
『行ってしまったな』
その後、程無くして地下水道に二人の姿が消えた頃に、メカ犬が静かに言葉を紡ぐ。
「……そうだな」
俺はメカ犬の言葉に頷きながら、地下水道の入り口から視線を上へと向ける。
其処には……何処までも澄み渡る青空が広がっていた。
完