魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~   作:G-3X

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第六話 高町さん家の小さなパティシエール【前編】

俺は今…

 

ある意味命の危機に瀕している。

 

俺は現在高町宅のリビングの椅子に座っている。

 

そして向かいには恭也君が座っている。

 

いつもなら俺が高町宅に居て目の前に恭也君がいらっしゃる=俺の命の危機という図式が完成するのだが今日はいつもと様子が違った。

 

今から三十分程前に時間が遡るのだが、恭也君が俺の家に訪ねて来たのだ。

 

なのはちゃん絡み以外で恭也君がやって来るなんて殆ど無いので何事だろうと俺は玄関前まで出迎えに行った。

 

玄関先まで行くと、恭也君はいきなり俺に頭を下げて黙って俺について来てくれないかと言われた。

 

そのいきなりの行為に驚いた俺は、このままでは意味が分からなかったので、取り合えず顔を上げてくださいと恭也君の顔を上げさせたのだが、俺は顔を上げた際の恭也君の表情を見てまたしても驚いた。

 

前世の頃観た戦争映画で死地に向かう兵士がしていた表情と同じ顔を恭也君がしていたからである。

 

あの恭也君がこんな顔をするなんてただ事じゃ無いと思った俺は、恭也君の指示に素直に従う事にした。

 

導かれるままに案内されたのはお隣の高町宅。

 

何で自分の家に行くのにそんな顔をしているのかと疑問に思っていたのだが、玄関で迎えてくれた人物をみて俺はその意味を問答無用で理解する事となった。

 

恭也君と俺を出迎えてくれたのは、高町家長女で、恭也君の妹であり、なのはちゃんの姉でもある美由希さんだった。

 

ただ単に出迎えてくれただけなのなら何も問題は無かったのだが、問題はその美由希さんの格好だった。

 

エプロンをしていたのだ。

 

肩紐部分にフリルをあしらった淡いピンクのシンプルなエプロン。

 

更に右手には泡だて器を持ち、左手にはステンレス製のボウルを持っている。

 

泡だて器の先っぽに付いている白い半液状のものは恐らく生クリームか何かだろう。

 

言葉にせずともその姿は私今お菓子作りしていますと体言していた。

 

それが意味する事は…

 

美由希さんが料理をしているという揺ぎ無い事実だ。

 

俺は恭也君にどういう事なのかと目だけで合図すると恭也君も言葉を使わず目ですまないと合図を送ってから目を逸らしてしまった。

 

俺と恭也君がこの時アイコンタクト等というプロサッカー選手顔負けの高等技術を使えたのはお互いに共通認識を持っていたからだ。

 

美由希さんの作る料理。

 

それは高町家の惨劇と言っても過言ではないだろう。

 

俺がその惨劇を始めて目にしたのはまだ二足歩行を始めて間もない頃だった。

 

普通ならそんな昔の事覚えていられる筈も無いと思うが俺は生まれた時点で中身は大学生だったので良く覚えている。

 

その日の俺は珍しく高町宅で預けられていた。

 

俺は隣で軽くなのはちゃんをあやしながら時間を潰していたのだが、面倒を見てくれていた桃子さんが急な用事で二時間程家を空けなくてはならなくなったのだ。

 

そこで俺達のお世話を命じられたのが、当時小学生だった恭也君と美由希さんだった。

 

忘れもしない惨劇はここから始まったのだ。

 

桃子さんの用事は予想よりも時間が掛かってしまい、出掛けてから二時間程経った後電話が掛かってきて更に一時間は掛かると連絡が入ったのだ。

 

その時は既に日も傾いており、夕飯には間に合いそうに無いから出前を取る様にとも言っていた。

 

恭也君は最初それに従い出前を取ろうとしたのだが美由希さんがそれを制した。

 

美由希さんは何を思ったか、材料はあるんだから私が作ってあげるよと進言したのである。

 

その言葉に恭也君はあっさりと賛成の意を示した。

 

今にしてみればそれが後に続く惨劇の幕開けだったのだ。

 

美由希さんは意気揚々と台所に向かって行った。

 

暫くすると食欲をそそる良い匂いが台所から漂って来た。

 

テーブルに出されたのはオーソドックスな野菜炒めだった。

 

俺となのはちゃんは桃子さんが哺乳瓶にミルクを入れてから出掛けて行ってくれたので、用意されたのは恭也君と美由希さんの二人分だ。

 

いただきますと言って二人は食べ始めた。

 

異変はすぐに恭也君を襲った。

 

野菜炒めを食べた恭也君の顔色はみるみる内に紫色に染まり口から泡を吹いて倒れたのだ。

 

幸いにも恭也君は命を取り留めたのだが…この先は恭也君の名誉を守るために描写は控えさせてもらおう。

 

ちなみに一緒にこの野菜炒めを食べていた美由希さんは、何とも無かった所か美味しそうに食していた。

 

それから美由希さんは料理に目覚めてしまい被害は拡大していった。

 

恭也君の次の被害者は士郎さんだった。

 

あの人なら大丈夫なんじゃないかと思っていたのだが、美由紀さんの料理は士郎さんをも一撃の元に撃破してしまった。

 

このままでは不味いと桃子さんと俺の母が美由希さんに料理を教えたのだがその効果は全く実らず味見の際に二人も新たな犠牲者となってしまった。

 

俺はそんなに凄い物なのかと無謀な好奇心を抱いてしまい、美由希さんの料理をほんの少しだけ舌の上に乗せてみた。

 

次に気づいた時は病院のベッドの上で三日が経過していた。

 

好奇心とは時として己の身を滅ぼす事になるという事を俺はその身体で実感した。

 

そして被害者一同の総意により美由希さんに料理禁止令が言い渡された。

 

美由希さんはこれに猛反発してきた。

 

もはや料理は美由希さんの趣味と言えるレベルに達していたし、何故か作った美由希さん本人だけはこの特殊兵器とも言える料理を美味しいと平気で食べてしまうのだ。

 

自分の作る料理が美味しいという事を微塵も疑っていない。

 

だが被害者連合である俺達も此処で退く訳には行かないのだ。

 

人数差に物を言わせ半ば無理矢理に、美由希さんが料理を作らないように承諾させた。

 

これにより被害は殆ど無くなった。

 

そう…

 

殆どとは言うものの、全く無くなる事は無かったのだ。

 

美由希さんは俺達の隙を突き偶に料理をする様になってしまった。

 

出来れば完全に止めさせたいのだが、本当に偶にしか作らないのと、主な犠牲者は恭也君だけだったので被害者一同は恭也君を除き暗黙の了承をする事に決まった。

 

それからは主な被害は恭也君だけになり一同は胸を撫で下ろしたのだが、これを面白く思わない者が居た。

 

唯一被害を被り続ける事になった恭也君だ。

 

それから恭也君は死なば諸共の精神で美由希さんの手料理を食べる時は道連れを誘い込む様になったのだ。

 

つまり今回の生贄は俺だったわけだ。

 

完全に油断していた。

 

恭也君の決死の顔で気付くべきだったのだ。

 

俺が今此処に居るということは既に士郎さん達は避難している頃だろう。

 

恭也君がターゲットにするのは既に美由希さんの手料理の洗礼を受けた者のみだ。

 

高町家と板橋家でこの洗礼を未だに受けてないのは、なのはちゃんと俺の父だけだ。

 

父は元々美由希さんとの接点が少ないので食べる機会其の物が余り無い。

 

なのはちゃんの場合は流石に命が危なくなる可能性が高いため俺を含め周りが全力で守り通した。

 

さて、そんな事を考えている間に美由希さんは料理を完成させた様で、俺と恭也君の目の前にショートケーキを持ってきた。

 

今回はお菓子作りに挑戦しているのだろうなと、玄関で見た泡だて器で予想をしていたが、中々にオーソドックスなお菓子がやって来たものだ。

 

見た目はとても美味しそうなのだ。

 

匂いだってこれは美味しいですよと強く自己主張をしている。

 

しかしそれを真に受けて食べれば一瞬で意識を刈り取られる事を俺は経験から知っている。

 

美由希さんは俺と恭也君に早く食べるように催促してくる。

 

出来る事なら一秒でも早くこの場を立ち去りたい。

 

だがそれは無理な話だ。

 

俺の身体能力では逃げた所で剣術少女である美由希さんから逃れる事は出来ない。

 

仮に上手く隙を突いて美由希さんを振り切れたとしても、人外な強さを誇る恭也君が俺の逃亡を阻止するだろう。

 

なのはちゃん絡み程では無いにしろ、美由希さんに対してもシスコンパワーは適用されるのだ。

 

まあ、そのシスコンパワーのせいで恭也君は美由希さんの料理を拒みきれず食べる羽目に陥ってもいるのだが…

 

そんな事を考えている場合じゃない。

 

何とかこの場から逃れる手段を模索しなければと、己の生存本能をフル回転させ作戦を考えていたその時、緊急事態が発生した。

 

「良い匂いがするけどどうしたの?」

 

なのはちゃんが俺達の居るリビングに姿を現したのだ。

 

そのなのはちゃんに美由希さんはあろう事かなのはも食べると聞いたのだ。

 

無邪気に食べると返事を返すなのはちゃん。

 

その瞬間俺と恭也君の視線が交差する。

 

言葉等という無粋な物は俺達の間に必要無い。

 

互いの役割を即座に決めて実行に移す。

 

俺と恭也君の顔はどちらも命懸けのミッションに挑むエージェントさながらの表情をしている事だろう。

 

恭也君は瞬間移動とも言える素早さで台所に向かった。

 

俺は目の前に恭也君に差し出されたケーキを引き寄せ、俺のケーキと共に素手で鷲掴みにすると、俺は鷲掴みにしたそれを躊躇う事無く自分自身の口に放り込んだ。

 

それと同時に台所の方向から人一人が崩れ落ちる様な音が聞こえてきた。

 

どうやら恭也君も無事にミッションを遂行した様だ。

 

そう、俺達の目の前に置かれたのはショートケーキだった。

 

つまり今回の特殊兵器は1ホール分作成されており、目の前に出されたこれを俺達が食べたとしてもオカワリという名の魔の手がなのはちゃんに迫るのだ。

 

なので俺と恭也君は役割を分担する事にしたのだ。

 

まず恭也君が自分の分を此処で食べればそこで戦闘不能になってしまう。

 

そこで俺が恭也君の分も引き受けて、特殊兵器の総本山である台所に恭也君に向かってもらったのだ。

 

俺はその場に出されたケーキを命懸けで処分する。

 

同じく恭也君は残りのオカワリという名の悪魔達を根絶やしにする。

 

俺達の大切な者を守るための命懸けのミッションは無事成功した。

 

遠くなる意識の中で俺は目の前にいるなのはちゃんと美由希さんに最高の笑顔を見せながら崩れ落ちてその意識を完全に手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回は被害が少なくて済んだ方なのだろう。

 

今までの料理と違いお菓子作りという事で食材が限定された事で威力が抑えられたのかもしれない。

 

何せその日の内に意識を取り戻す事が出来たのだからこれは奇跡と言える事だ。

 

俺は恭也君の部屋で眠っていたようだ。

 

部屋の主である恭也君は俺の隣で死んだ様に眠り続けていた。

 

恭也君はまだ意識を取り戻すに至っていなかったみたいだ。

 

俺よりも多くの量を摂取したのだからそれは致し方無い事かもしれない。

 

まあ、二切れ食べた俺がその日の内に回復したのだから、命の危険は無いだろう。

 

今はただ一人の勇者に安息の時を過ごして欲しいと心から願う。

 

「あ!起きたんだね純君」

 

俺が恭也君の部屋から出るとなのはちゃんが廊下を歩いて話しかけてきた。

 

「ビックリしたよ。ケーキを凄い勢いで食べたと思ったら笑顔で気絶しちゃうんだもん」

 

俺は乾いた笑いで返す事しか出来なかった。

 

「気絶するくらいに美味しかったんだね。お兄ちゃんなんて台所にあるケーキまで全部食べちゃって、やっぱり純君と同じように笑顔で気絶してたんだよ」

 

なのはちゃんは私も食べたかったな~と暢気な事を言っている。

 

これは後で被害者連合を招集して緊急会議を行う必要があるな…

 

「でも私知らなかったな。純君ってそんなにお菓子が好きだったんだね」

 

別に特別好きという訳では無いが、それを言うのは今を守り通した勇者に面目が立たないと思って俺は、

 

「うん。まあね」

 

と答えておいた。

 

嫌いな訳ではないし嘘をついてる訳でもない。

 

実際に桃子さんが作るお菓子全般は俺にとってかなり好きな部類に入る。

 

「そっか…」

 

俺の返事を聞いたなのはちゃんは暫く考えるそぶりを見せていたがやがて良しと気合を入れた掛け声を言ってから俺に話しかけてきた。

 

「じ、じゃあね。私がお菓子を作ったら純君は食べてくれる?」

 

なのはちゃんが俺の事を上目遣いに見ながらそんな事を聞いてきた。

 

どうやら今回美由希さんがお菓子作りをして俺や恭也君が食べていたのを見てお菓子作りに興味を示した様だ。

 

なのはちゃんのお母さんである桃子さんは、プロのパティシエだしお姉さんの美由希さんも味は如何あれお菓子作りをするのだ。

 

お年頃なのも相まって周りがそんな状況なら一人の女の子がお菓子作りに興味を持つ事は当たり前の事なのかもしれない。

 

「うん。なのはちゃんの作ったお菓子俺も食べてみたいな」

 

「うん!私頑張るね」

 

「ただし!!!」

 

俺はなのはちゃんの両肩を掴み引き寄せる。

 

「え!?」

 

俺はなのはちゃんを真っ直ぐに視界に捕らえる。

 

お互いの距離が零に限りない程になりながら俺はなのはちゃんに話しかけた。

 

「なのはちゃん…」

 

「純君…」

 

「お願いが有るんだけど良いかな?」

 

「お、お願いって?」

 

「お菓子作りを習うときは必ず桃子さんに習って欲しいんだ!!!大事な事だからもう一回言うよ!美由希さんではなくプロである桃子さんに絶対に頼むんだよ分かったね!!!」

 

「は、はい!」

 

なのはちゃんの了承を得て安心した俺はなのはちゃんの両肩から手を離した。

 

取り合えずの予防線を張る事には成功した。

 

万が一にもなのはちゃんが美由希さんに師事を仰ぎ第二の美由希さんとなれば惨劇は更なる拡大を辿る事になるだろう。

 

少なくとも恭也君の命が最も危険に晒される事は間違い無い。

 

そんな事が有り、なのはちゃんのパティシエ修行が開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『最近この海鳴市で不思議な事件が起こっているそうだぞマスター』

 

「不思議な事件?」

 

メカ犬が突然俺の部屋にやって来たと思ったらそんな事を言ってきた。

 

俺は唐突なメカ犬の発言に思わずオウム返しで答えてしまった。

 

『うむ。ジャックからの情報なのだが、海鳴市内の甘味が突如紛失する怪現象が多数発生しているそうなのだ』

 

「何だよそれ?」

 

『言葉の通りだ。一般家庭や飲食店、デパートに限らず、海鳴市の至る所で所謂甘い味の食べ物が消えている』

 

メカ犬はそう言ってから俺にタッチノートを出す様に指示してきたので、メカ犬の目の前に置いてやる。

 

メカ犬がタッチノートを操作を始めると海鳴の全体地図が表示されて、其処から一定の区間が色別で区別されていた。

 

「この色別になっているのは何なんだ?」

 

『うむ。それはその日被害のあった場所を色分けして表示しているのだ』

 

色分けされた地図はエリア内を一直線に進んでいる。

 

『そして今までの被害から計算すると恐らく此処が明日狙われる筈だ』

 

メカ犬がタッチノートを操作して映し出したのは駅前だ。

 

「確かここには美味いって評判のケーキ屋が在ったな」

 

『その通りだ。次に襲われる可能性が最も高いのは計算上この場所で間違いない』

 

「なあ、メカ犬。こんな話を俺にするって事はもしかしてこの事件の犯人はホルダーって事なのか?」

 

『うむ。確証が在る訳ではないが犯人がホルダーという確立はかなり高い。普段なら後手に回ってしまうが、今回は偶然にもそれらしい前情報を掴んだので、待ち伏せをしたいと思うのだ』

 

「何でホルダーの確率が高いなんて思うんだよ?」

 

確かに変な事件だと俺も思うが、それがホルダーの仕業だというのは、幾らなんでも強引過ぎやしないだろうか。

 

『消え方がかなり特殊なのだそうだ。何でも消えた甘味はどれも突然宙に浮いて何処かへ飛んでいってしまうらしい』

 

ああ…確かにそんな事、普通の人間には無理っぽいな。

 

「…分かった。丁度明日は日曜日で学校も無いし、その駅前に行ってみるとしますか」

 

『すまないなマスター』

 

メカ犬はそう言って頭を下げた。

 

それにしてもお菓子が突然宙に浮いて消えるなんて変な事も起きる物である。

 

お菓子といえば、なのはちゃんが先週からお菓子作りを桃子さんから習っているけど、何時頃俺にも食べさせてくれるんだろうか?

 

作り始めて三日程経ってから聞いてみたら、もう少し練習して上手くなってからと言っていたけど、そんな事を言われると何気に食べるのが本当に楽しみになってきた。

 

『嬉しそうだなマスター。何か良い事でもあったのか?』

 

メカ犬にそんな事を聞かれた。

 

俺は自分が思っている以上に、なのはちゃんの作ったお菓子を食べるのが、顔に出る程に楽しみにしていた様だ。

 

素直に言うとメカ犬にからかわれそうなので俺は何でも無いと軽く流し、メカ犬と明日の張り込みについて話し合う事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここで間違い無いんだな?」

 

『うむ。他にめぼしい所は余り無いし、甘味の質から言ってもこのケーキ屋で間違いないだろう』

 

俺とメカ犬は現在、昨日話していたケーキ屋に居る。

 

幸いな事にこのケーキ屋には軽食を食べられる様に幾つかのテーブルと椅子が備え付けられており、俺はケーキ屋でチョコレートケーキを買ってから隅っこの席に陣取って一般客に混じっていた。

 

ちなみにメカ犬はそのままだとかなり目立つので、俺のお気に入りのショルダーバッグから頭だけ出した状態で店内を監視していた。

 

何時事件が起こるか分からないし、長期戦も覚悟していたのだが異変は案外早くに訪れた。

 

店内の誰かが突然叫び声を上げたのだ。

 

その叫び声を皮切りに他の声も店内に響き始める。

 

ケーキが空を飛んでいる!

 

シュークリームが箱から飛び出てきた!

 

私のシナモンロールがああ!!!

 

等とそこかしこから聞こえてくる。

 

そして目の前にあったチョコケーキも他の例に漏れず浮き出した。

 

店内の甘味が残らず浮き出すとそれらは勢い良く店内を次々と飛び出して行った。

 

『追うぞマスター!』

 

「ああ!分かってる!」

 

俺はメカ犬の呼びかけに頷き、未だパニックとなっているケーキ屋を後にして飛び去ったケーキ達の追跡を開始した。

 

追跡を開始してから十分程走るとビル街に入っていた。

 

『マスター!あのビルの屋上だ!』

 

メカ犬の言う方向を見てみると飛んで行ったお菓子達が一棟の商業ビルの屋上に集まってきている。

 

『キンキュウケイホウキンキュウ…』

 

「タッチノートが反応し始めたって事は、これはホルダーの仕業で間違い無いって事か!?」

 

『うむ。あのビルに急ぐぞマスター』

 

たどり着いた商業ビルには外側に非常階段が設置されており、ビルの中に入らなくてもこの階段で屋上まで行ける構造になっていた。

 

俺達は非常階段を上り屋上に向かう。

 

屋上にたどり着いた俺の視界に入ったのは異形の姿をしたホルダーだった。

 

その姿はかなり太っているというのが第一印象だった。

 

体中に様々なお菓子類の様なオブジェが付けられており、腹の部分には大きな口があって、そこから飛んできたお菓子を次々と食べている。

 

「見つけたぞホルダー!」

 

『観念しろ!』

 

俺とメカ犬の声に反応したホルダーはお菓子を食べるのを一時中断して、此方に振り返った。

 

「何だお前ら?」

 

「どうしてこんな事をするんだ?色んな人に迷惑だろうが!」

 

ホルダーは何処か間の抜けた感じで頭をボリボリと掻くとめんどくさそうに俺の質問に答えた。

 

「何でかってオイラは甘いもんが好きだから腹一杯食いたいだけなんだけどなあ」

 

答えまで間の抜けた物だった。

 

思わず脱力してしまいそうだ。

 

『マスター、奴に何を言っても無駄だろう。既に本能のままに行動している様だ』

 

「はあ~。仕方ない…やるぞメカ犬!」

 

『了解だマスター!』

 

俺はタッチノートを取り出してボタンを押す。

 

『バックルモード』

 

タッチノートから流れる音声がすると共にメカ犬が銀色のベルトに変形して俺の腹部に巻きつく。

 

俺はタッチノートをホルダーの眼前に向けて音声キーワードを口にする。

 

「変身」

 

俺はキーワードを口にすると手に持っていたタッチノートをバックルの中央の溝にはめ込んだ。

 

『アップロード』

 

音声が流れるとバックルを中心に俺を白銀の光が包み込む。

 

その光が飛散して現れるのは一人の戦士だ。

 

「何だお前は?」

 

俺の変身を見たホルダーが驚きながら聞いてくる。

 

「俺は仮面ライダーシードだ!」

 

「か、か、可変ライターシール?何じゃそりゃ?」

 

ホルダーはあり得ない様な間違い方で俺の名前を呼んでくれやがった。

 

本当に脱力しそうになるホルダーだ。

 

「仮面ライダーシードだ!人の名前を間違えるな!」

 

ホルダーはああそうなんかと言いながら頭をボリボリと掻いている。

 

『マスター。余り気にしない方が良いと思うぞ』

 

メカ犬が慰めてくる。

 

「…そうだな。さっさとあいつを止めた方が良いもんな」

 

俺は溜息を吐きながらホルダーに向き直り臨戦態勢をとる。

 

「何か良くわかんねえけどオイラの食事を邪魔すんならゆるさねえかんな!」

 

ホルダーから見ても俺達は自分の食事を妨害する邪魔者と認識されたらしく、襲い掛かってきた。

 

『来るぞマスター!」

 

「ああ!」

 

俺は正面から走ってくるホルダーに迎撃態勢を取り迎え撃った。


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