魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
面ライダーシード&仮面ライダークウガ 繋がる絆【第二十章】
海鳴市の公道で、連鎖的に大きな爆発が何度も巻き起こる。
その爆発地点の上空からは、コウモリを模した翼で宙を舞う、一人の漆黒の身体を持つ仮面ライダー、ボマーが次々と自らの能力で生成した爆弾を投下していた。
そしてその爆発音に混じり、一台のバイクのエンジン音が唸りを上げる。
「飛ばすから、しっかり掴まってて!!!」
「うん!」
赤い鎧を纏う古代から蘇った戦士クウガが、後ろから自身にしがみ付く白髪の青年、空に注意を促しながら、ビートチェイサーを巧みに操り、次々と巻き起こる爆発を掻い潜って行く。
「中々当たりませんね……ん?あれは」
投下する爆弾を尽く避け続けるクウガに、ボマーが苛立ちを言葉にしながら、進行方向を見やると、前方に山間を掘って作られた、全長20メートル程のトンネルが見えた。
「……良い事を思い付きました」
そのトンネルを見たボマーは仮面の下で笑いながら、一旦爆弾の生成を止めて、飛ぶ事に専念する。
ボマーが向かう先は、トンネルの出口だった。
「ここは一本道で、他にバイクで通れる道は無い……つまりここを壊せば彼らはこれ以上進めなくなる筈……」
ボマーの予想通り、少し遅れて地上の道を、クウガ達がビートチェイサーで疾走しながら、トンネル内部へと突入して行く。
「……今だ!」
クウガ達がトンネル内部に突入したのを確認したボマーは、新たに爆弾を生成すると、もう暫くすれば、クウガ達が出て来るであろうトンネルの出口へと爆弾を投げ込んで、今度はクウガ達が突入した入り口の前に飛んで行った。
その直後、大きな爆発が、トンネルの出口付近で発生する。
これに最も驚いたのが、そのトンネル内部を走っていたクウガと空だったという事は、あえて言うまでも無い。
ボマーの起こした爆発は、トンネル全体を崩壊させる程の威力ではなかったが、その爆発地点の周囲の壁などを破壊するには充分だったのだ。
爆発によりトンネルの出口付近の壁は壊されて、クウガと空が入ってくるのに使用した入り口を除けば、唯一のトンネルを抜けられる筈だった道は完全に瓦礫に埋もれてしまい、通り抜ける事が不可能となってしまったのである。
「……これじゃあ先には進めないか」
瓦礫に埋もれたを前方を視界に映しながら、ビートチェイサーを停車させて、クウガは呟く。
「そうだね。遠回りになるかも知れないけど、一旦戻って別の道を……ん、今何か聞こえなかった?」
クウガの呟きに対して、空が返答を返すその途中で、トンネルの外から声が聞こえて来た為に、話を其処で中断した空は、その声に耳を傾ける。
「君達に要求する!【器】についての情報を大人しく渡してもらいたい!この要求が呑めない場合は、容赦無くこちら側のトンネルのも破壊させて貰う!五分だけ待ってあげるよ!それまでに答えを決めて欲しい!!!」
トンネル内にボマーの声が響き渡った。
そしてこの言葉で、クウガと空は確信する。
自分達がボマーの策略によって、劣勢に追い込まれたという事に……
「……これは思った以上に不味い状況かもしれないね……それにあの力。微かだけど、【闇】の力を感じる……事態は僕が思っている事とは違う方向に向かい始めてるのか?」
逸早く現状を認識した空は、苦虫を噛んだ様な顔をしながら口を開く。
「相手は空を飛んでるって事は……要求を無視して外に出ても、先手を打たれる可能性が高すぎるか……」
クウガも自分達に不利な状況である事に、頭を悩ませる。
「……そうだね。空を飛ぶ相手なら、五代さんが邪悪を射抜く戦士に成れれば、どうにかなるかも知れないけど」
空は現状を打開する為の一つの提案を出すが、同時にそれを実行するには、大きな問題がある事も理解していた。
「緑のクウガなら成れるけど……肝心の武器が無いんだよな」
邪悪なる者あらば その姿を彼方より知りて 疾風の如く邪悪を射抜く戦士あり。
古代リントが残した文字から解読された言葉であり、この状態、ペガサスフォームとなったクウガは、視覚、聴覚といった感覚神経が極限まで研ぎ澄まされ、遠くに居る相手の正確な場所を特定する事が出来る。
それは遥か上空も例外ではない。
そしてペガサスフォームの専用武器である、ペガサスボウガンの強力な一撃により、敵を射抜く事が出来るのだが、それをする為にはある重要なプロセスを踏まねばならないのである。
他のフォームの武器も同様なのだが、武器を生み出すには、その武器と類似した物質を変換しなければならないのである。
タイタンソードならば、同じ用途に使われる剣や、多少でも切れる部位の存在している角材など、ドラゴンロッドならば、形状の近い棒状の物体が代表に上げられ、それはペガサスボウガンにおいても例外では無い。
つまりペガサスボウガンを手に入れる為には、同じ用途で使われるボウガンやそれに類似した道具が必要になるのだが、このトンネルの中には、先程のボマーの爆弾によって辺りに散らばった瓦礫位しか見当たらないのだ。
勿論こんな瓦礫では、ペガサスボウガンを生み出す事が出来ないのは、当然の話である。
しかし他にこの場所にある物と言えば、クウガと空が乗っているビートチェイサー位しかない。
「確かにこの場所には……あれ?何かこの部分変じゃないかな」
周囲を見ても特に何も見当たらない事から、古代の時代には存在せず、病院で本を読んで得た知識としてしか知らなかったバイクである、ビートチェイサーを観察していた空が、ある一点を指で示す。
その部分は、ビートチェイサーのハンドル下部分に設けられたボックス状の物体だった。
バイクを実際に見るのは初めてであった空だが、そのボックスだけが、妙に違和感を感じさせる為に目に入ったのだ。
「え?……こんなのビートチェイサーに無かった筈だけど……」
運転していた為に、丁度死角となっていた位置にあったボックスを身を屈めて覗き込む事で、初めて視界に捉えたクウガは、驚きの声を上げる。
空が見つけて疑問を持ったのは、先程のクウガの発言が示す通り、そのボックス状の物体が後から設置された急造品だった為だ。
慎重にそのボックスにクウガが手を触れて、上下左右に動かしてみると僅かにボックスの上部がスライドした。
「……中に何か入ってる?」
動かした事で、そのボックスが何かの収納スペースである事に気付いたクウガは、僅かに動いた上部を一気に上に押し上げて、中を確認する。
「それって……手紙?」
その様子を後ろから見ていた空が、ボックスの中に入っていた物体を言葉にした。
空の言った通り、ボックスの中には白い無地の手紙が一通とその下にボックスよりも小振りな、収納ケースが入っていた。
「何で手紙が……」
クウガはボックスの中に入っていた手紙を拾い上げて、封を開けて書かれている手紙の文面に目を通す。
五代 雄介へ
君が長野の遺跡に向かってから消息を絶ったと聞いた時は、驚いたがもしかしたら君はまた、未確認生命体との戦いの渦中に飛び込んだのではないかと私は考えた。
出来れば君には戦うよりも冒険をして欲しい。
それが無理ならばせめて、私もまた君と共に戦いたいが、君の居場所が分からない現状では、それすらも難しいだろう。
だから私は、もしかしたら君の手元に届くかもしれない可能性を信じて、出来るだけの準備をする事にした。
もしもこの手紙が君に届いていたとしたならば、この手紙の下に置いてある筈の箱を開けて、必要であれば遠慮無く使ってくれ。
こんな物が必要な状況になっていて欲しくは無いが、これが君の力となる事を切に願いながら、君の無事と帰りを祈っている。
一条 薫
「……一条さん」
手紙の送り主は、五代の元居た世界に居る一条薫が、五代雄介に宛てたものだった。
手紙を読み終えたクウガは、手紙の送り主の名前を呟きながら、手の中の手紙を強く握り締める。
「……あっ!もしかしてこの箱の中身って!?」
予期せぬ手紙に想いを寄せるのも程々に、一条の手紙に書かれていた内容から、ある考えに至ったクウガは、急いで手紙と共に入っていた箱を拾い上げて、その中に納められた物体の正体を確認した。
「やっぱり……そうだ。ありがとうございます一条さん!」
箱を開けて、中身を確認したクウガは、予想通りのものが入っていた事に、感歎の声を上げて、別の世界に居ながらも、それを送り届けてくれた一条に感謝の言葉を述べる。
それは警察で一般的に使用される拳銃だった。
五代がこの世界に来るのと時を同じくして、科警研で保管されていた筈のゴウラムが、同じく保管されていたビートチェイサーと合体した事を知り、何かが起こっているのではないかという考えに至った一条は、もしかしたらゴウラムが五代の元に辿り着くかもしれない可能性に賭けて、警視庁と掛け合い、今クウガの手元にある拳銃を、ビートチェイサーに設置する許可を申請したのだ。
その申請が一条の手腕によって見事に通り、実際に設置されたのが、元居た世界での昨日の話だったのだが、その事実を知る術は、誰にも無かった。
「もしかしてそれがあれば!?」
「ああ!これがあれば緑のクウガになって、攻撃も出来る!」
バイクに続いて、本物の拳銃を初めて見た空に、クウガは肯定の返事を返す。
「それじゃあ早速……超変し……」
「はっ!?この力ってまさか!?」
拳銃を手にした状態で、クウガがマイティーフォームから、ペガサスフォームへ変わろうとしたその時、空がトンネルの外で待ち伏せているボマーに異変が起こった事に気付く。
そしてそれと同時に、連続的に大きな爆発音が、トンネル内に響き渡り、その爆発の衝撃がクウガと空の居る足元どころか、全体を何度も揺さぶる。
「な!?まだ五分は経ってない筈なのに、攻撃を始めた!?」
連鎖的に起こる爆発によって、途中で超変身を中断したクウガは、驚愕の声を上げた。
正確に時間を計った訳では無いが、明らかに三分も経っていない事を理解していた為である。
「多分だけど……彼は【闇】の力に呑まれたんだ」
爆発の衝撃が全体を揺さぶる中で、空が確信を持って口を開く。
「【闇】の力に呑まれた?」
「うん。さっきからずっと感じていたんだけれど、それは微かなものだったし、もしかしたら僕の勘違いかもしれないと思っていたんだけどね。その力が今はどんどん強くなってるんだ……そしてその力を外に居る彼から強く感じる!」
「……もしかして、空を【器】にするのを諦めて、あの表の奴が選ばれたんじゃ!?」
空の言葉からクウガが一つの仮説を口にするが、空はそれを首を横に振って否定する。
「それは違うと思うんだ。確かに【闇】の力を彼から感じはするし、大きくなっている様だけど、【闇】の本体はこんな程度じゃない。どうやったのか分からないけど、多分【闇】の力の一部を移植した装飾品みたいなものを身に付けてるせいだと思う」
「じゃああれは、【闇】の本体じゃないって事か?」
「うん。きっと彼は利用されてるだけなんじゃないかな?この様子を見る限りじゃ、もう【闇】を制御しきれなくなって、身体の支配権も奪われてるみたいだし……」
爆発音に混じって殆ど聞こえてこないが、耳を澄ませば僅かに、先程トンネルの外から聞こえて来た声と同一人物の声が聞こえた。
「な、何で急に身体が勝手に動くんだ!?止まって!!!お願いだから止まってよ!!!!」
それはボマーの発する、悲痛な懇願する叫びだった。
「五代さん!お願いします。彼を救ってくれませんか?」
その声を聞いて、空はクウガに頭を下げる。
「彼が悪くないなんて事は決してないと思います。だけど僕がこの世界で復活したばかりに、彼は苦しんでる。この力は僕がどんな事があっても封印し続けなきゃならなかった筈なのに……」
一時とはいえ、自分自身の存在すらも忘れ去ってしまう程に長い間【闇】と共にあったからこそ、今のボマーの苦しみを空は痛い程に理解していた。
例えそれが自分を狙う敵だったとしても、その力によって目の前で苦しんでいる姿を、空は見続けたくは無かったのである。
「大丈夫だよ」
頭を下げて一気に己の想いを吐露した空に、クウガの声が降り注いだ。
その声を聞き、空が下げていた頭を上げて、視線を前に向けると、クウガが右手の親指を立てた状態、サムズアップをしている姿が飛び込んで来た。
「……五代さん」
「俺も同じだから。助けられるなら助けたい。それは理屈じゃないんだって……」
ただ考え方を変えれば、それだけで良い筈なのに、それが出来ずに戦う事しか出来なかった。
それがあまりにも辛い事を、空の目の前に居る戦士は誰よりも知っている。
だからこそ喜んで、クウガは空の願いを迷わず承諾した。
戦う相手を救う事が出来る戦い。
それは互いに傷つけ合うしか出来ない戦いとは違い、誰もが笑顔になれる可能性を秘めているのだから……