魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
[「逃がしちゃ駄目よ長谷川君!!!」]
「はい!!!」
漆黒に染めた身体の背中に、同色のコウモリに似た翼を生やしたボマーは空へと飛び立つのを見て、E2が恵美の指示の下に、ESM01の銃口を、この場から飛び去ろうとするボマーに向ける。
しかしE2の攻撃は、この場から飛び去ろうとするボマーに、届く事は無かった。
「させないわよ!」
「ぐっ!?」
E2がボマーを攻撃するよりも早く、駆け寄って来たガンナーが繰り出した拳が、ESM01を握るE2の右腕に命中して、弾道を逸らせた為である。
「行くなら今よ大地!あのライダーはここから北に移動してる!空から行けばきっとすぐに追い着く筈よ!」
攻撃を命中させた直後、ガンナーが上空のボマーに叫んだ。
その声は確かにボマーに届いたのか、返事こそは返ってこなかったが、一度だけ首を縦に振り、その場から飛び去って行った。
[「長谷川君!大丈夫!?」]
「は、はい。僕は大丈夫ですけど、逃げられたしまったみたいです……」
[「それは残念だけど、今は目の前の敵に集中した方が良いわ……来るわよ!」]
恵美の声に反応して、E2が視線を飛び去ったボマーから、地上に視点を戻すとガンナーが追撃態勢を整えているのが分かった。
「そう何度も喰らうか!」
腕を弾かれただけなのに、かなりの衝撃を受けた事から、今のガンナーの攻撃を立て続けに何度も受ければ、危ないと感じたE2は、バックステップで後方に下がりつつ、牽制の意味も込めて、ESM01で弾幕を張る。
「あはははは!!!何その攻撃?そんなんじゃ全然効かないわよ!!!!!」
だがガンナーにはE2の攻撃が全く効いていないのか、ESM01によって張られた弾幕に、自ら飛び込み、笑いながらE2目掛けて突進して行く。
「効いてない!?」
[「落ち着いて長谷川君。距離を置いて戦ってもらちが明かないし、逆に相手には強力な遠距離武器がある……それなら接近戦を仕掛けた方が、こっちにチャンスがあるかも!」]
「やってみます!」
恵美の新たな指示の下に、E2はESM01をホルスターにしまい込み、此方に向かって突進して来るガンナーを、迎え撃つ為に構えを取った。
「あら。私と踊ってくれるのかしら?」
E2が接近戦を仕掛ける構えをする様を見て、ガンナーはわざとらしい台詞を言いながら、先程と同じ様に再び拳を繰り出す。
「ぐっ!?」
繰り出された拳は、確かに重い一撃であり、その拳を受け止めたE2も、その威力に肺の中の空気が声と共に押し出されるが、その攻撃自体は、素人の放った一撃に変わり無い。
一介の刑事として、格闘技の経験もある程度積んでいる長谷川としては、捌く事は不可能では無かった。
「はああああ!」
ガンナーの一撃を受けきったE2は、お返しとばかりに、受け止めたガンナーの腕を抑え付けながら、脇腹を蹴りつける。
その蹴りは、見事にガンナーの腹部に命中した。
しかし攻撃が命中したという事実と、それによるダメージが、必ずしも反映されるとは限らない。
「……そんなリードじゃ、楽しく踊れないじゃないのよ!!!」
[「今の一撃が効いてないっていうの!?」]
昨日の夜での戦いであれば、確実に悶絶していたであろう攻撃を受けながらも、ガンナーは恵美の言葉通り、その余裕を崩す事無く、E2に掴まれていた腕を振り解き、自身の脇腹に宛がわれていた足を掴み、力任せに砲丸投げの選手の要領でE2を振り回した上に、最後は投げ飛ばしてしまった。
「ぐああああああああ!?」
ガンナー自身の力と、回転させた事で加えられた凄まじい力も相まって、地面に叩き付けられたE2の全身に、かなりの衝撃が走る。
「……くっ……うう……」
[「長谷川君!?長谷川君!?しっかりして!?」]
全身に痛みを走らせながら、地面にのたうつE2に、恵美が何度も呼び掛ける。
「まだまだ……これくらいじゃ終わらせないわよ?」
先程の一撃で自らの勝利を確信したガンナーは、悠々と未だ恵美に答えを返す事すら出来ず、地面に倒れるE2に向かって歩みを進めて行く。
[「立って長谷川君!このままじゃ……」]
「……は、はい……」
悲痛なまでの恵美の声に応える為に、E2は全身に駆け巡る痛みに耐えながら、残る力を振り絞って立ち上がる。
「……ふふ。やっぱりこの位はやってくれないと、ゲームとして面白味が無いってものよね」
満身創痍になりながらも立ち上がったE2に対して、ガンナーは余裕の態度を崩す事無く、その場で立ち止まり両腕に装備した手甲の先端をE2に向けた。
「はあ……はあ……はあ……」
[「良く立ったわ……と言いたいけど、大丈夫なの?長谷川君」]
立ち上がった後も、荒い呼吸を続けるE2に、恵美は心配そうに声を掛ける。
「……ええ。まだまだ……大丈夫です!」
荒くなった呼吸を整えながら、気丈に返事を返すE2だが、自身の限界が近い事は、他の誰でもない、E2自身が最も自覚していた。
[「……長谷川君」]
それは恵美にも良く分かっている、周知の事実であった。
本来ならばここで撤退を指示する事が、恵美が出来る最良の判断だと分かってはいるが、今現場で実際に戦っているE2の闘志は、少しも衰えていない事も理解している……
[「……本当に大丈夫なのね?」]
恵美は悩み、迷いながら、E2に問い掛ける。
「E2は恵美さんが製作したんですよね……そのE2がこんなところで負けると思ってるんですか?」
その問いにE2は、逆に問いで返す。
[「……そんなの……そんなの私の作ったE2が勝つに決まってるじゃない!!!」]
返された問いに、恵美は大きな声で答えた。
最初から言うべき事は、決まっていたのだ。
ここでE2が身を引けば、装着者の長谷川の安全は取り敢えず確保出来るかもしれない。
だがそれは、目の前の脅威を野放しにする事と、同意なのである。
強敵を目の前にして、弱気になっていたのは、実際に戦っているE2ではなく、E2を勝利に導く指示を出さなくてはならない筈の恵美の方だった。
しかし今の恵美には、何の迷いも無い。
製作者である彼女以上に、自身の心血を注いで作り上げたシステムを、信じてくれている人が居る。
半ば強引に装着者に仕立て上げたにも関わらず、その本当の理由すらもろくに話していない筈なのに、全てを掛けて傷付きながら、必死に立ち上がろうとしている青年がその力を信じているのだ。
そのシステムは、大切な人々を幸せにする為に生まれた、希望の力である。
人々の幸せを守る為に生まれ、行使しようとする力が、誰かを傷つける為に振るおうとする力に屈する訳が無い。
負けて良い筈が無いのだ。
「やっぱり恵美さんは、そうやっていつでも偉そうに自信満々に指示を出している方が、似合ってますよ!」
[「何よそれ!?それじゃあ私がいつもわがまま言ってる暴君みたいじゃないのよ!!!」]
何時もの調子を取り戻した恵美に、E2は軽口を叩く。
恵美もそんな軽口に対して、憤慨している状況では無いと分かっていながら、心から最高の笑顔を浮かべながら、軽いやり取りを返す。
「話てる場合じゃないと思うわよ!!!」
E2と恵美の会話に割り込む様に、ガンナーが叫ぶと、手甲に設けられた銃口から、黒い光弾が連続で射出されて、E2に対して猛威を振るう。
「くっ!!!」
攻撃される前にガンナーが、叫んだ事が功を奏したのか、E2は素早い反応で、その場から飛び退いて難を逃れる。
[「今のは良い判断よ!長谷川君!!!」]
「任せておいてください!それと恵美さん!!!」
[「どうしたの?」]
「今までも……そしてこれからも一緒に戦って、必ず勝ちましょう!!!」
[「長谷川君……そんな事……当たり前でしょ!!!」]
二人は互いを鼓舞する様に、言葉を交わす。
「さっきまで私に歯が立たなかったくせに、余裕ぶってるんじゃないわよ!!!!」
ガンナーはE2と恵美のやりとりが気に食わないのか、更に光弾を連続で射出し続けその攻撃をE2が、見事なフットワークで避け続ける。
[「このまま避け続けていても、らちが明かないわね。何か突破口を見つけなくちゃ……え!?」]
E2が全力で光弾を避け続ける間に、恵美が打開策を見つけ出そうと模索する中で、自体は急変する。
「な、何よこれ!?身体が自由に動かない!?」
ガンナーの動きが、突如として変わったのだ。
先程までは、E2のみに狙いを絞っていたガンナーの攻撃が、周囲を破壊する無差別攻撃となったのである。
「これは一体……」
[「もしかして力を制御出来なくて、暴走してるっていうの?」]
ガンナーの狙いが外れた事により、立ち止まってE2と恵美は、ガンナーの動向を観察する。
「何よ!何よ!何よ!何なのよ!!!どうなってるのよこれ!?止まりなさいよ!!!!!!」
破壊活動を続けながら、ガンナーは必死に声を荒げながら自身の動きを静止させようとするが、ガンナーの動きはその声に反比例するかの様に、激しさを増していく。
[「……どうやらあの様子だと、自分で止める事は出来そうに無いわね」]
「そんな!?それじゃあ、あれを止めるには……」
[「私達が止めるしか手は無いわね」]
「でも恵美さん。どうやって止めるって言うんですか?ただでさえ生半可な攻撃が効かない以上、あんなに無茶苦茶な攻撃を続けられたら、近付く事すら難しいですよ」
[「……あの無差別攻撃を突破して……相手を一撃で倒す強力な一撃を叩き込めば……」]
恵美は全ての情報を整理して、脳内でパズルのピースを嵌め込んでいく。
そしてそれが一つの形を成した時、恵美の中に勝利の方程式が、鮮明にイメージとして浮かび上がった。
[「そっか!この方法ならきっと!!!」]
「恵美さん?」
[「長谷川君!マシンドレッサーからESM05を持って来て!それとマシンドレッサーもカタパルトモードにして!!!」]
「え?ちょっと!?」
[「急いで長谷川君!!!」]
「は、はい!」
口早に指示を出す恵美に、戸惑いながらもE2は、Eブレスを操作して、マシンドレッサーを呼び寄せる。
「これで一体何をする気なんですか?」
[「ふふふ。良くぞ聞いてくれたわ!」]
指示通りマシンドレッサーを呼び出して、格納場所からESM05を取り出しながら、E2が投げ掛けた疑問に、恵美は悪戯が成功した子供の様な無邪気な笑みを浮かべながら、作戦の内容を話した。
「……相変わらず凄い事を考え付きますね」
作戦の概要を聞いたE2は、尊敬と呆れを半々で混ぜた言い方をしながら、カタパルトモードとなったマシンドレッサーの発射台へと足を乗せる。
[「当然よ!なんたって私は、天才美少女なんだから」]
「……本当に……その通りですね」
[「そうよ。だから……絶対に成功させようね……長谷川君!!!」
「はい!!!」
どちらも失敗する事は考えていなかった。
互いを信じて行動すれば、必ず結果がついてくる。
本気でそう思えるからこそ、何の躊躇いも無く、どんな無茶な事でも出来るのだ。
『スリー・ツー・ワン・スタート』
マシンドレッサーから機械的な音声がカウントを開始され、スタートという言葉が聞こえると同時に、マシンドレッサーの上に乗ったE2が凄まじい勢いで、弾丸の如く射出されて、暴走し続けるガンナー目掛けて飛んで行く。
[「来るわよ長谷川君!!!」]
「了解です!!!」
恵美の指示に従い、E2はESM05の棒状の部分を展開させて、盾を形作る。
それと間を置く事無く、乱雑にガンナーが発射する黒い光弾が、E2を容赦なく襲う。
「くううううう!!!!」
[「頑張って長谷川君!もう少しよ!!!」]
ESM05を弾除けにして、強引に飛び込んで行くE2に、恵美がエールを送る。
恵美の考えた作戦は、至ってシンプルなものだった。
ガンナーにE2の最大の攻撃を当てる。
ただそれだけの事だったのだ。
弾幕を盾状のESM05で防御しつつ、カタパルトモードのマシンドレッサーで射出して、一気に接近する。
危険な方法ではあるが成功すれば、これ以上に強力な一撃は無い。
そしてこの作戦は、最高の形で実を結ぶ。
「今だ!!!」
光弾の弾幕を潜り抜けたE2は、全力の叫びと共に、その役目を終えたESM05を投げ捨てて、右腰のホルスターからESM01を引き抜き、同時に左腰からはマガジンを取って、そのままマガジンを、ESM01に装填する。
『ブレイクチャージ』
マガジンを装填した瞬間に、ESM01から機械的な音声が鳴り響く。
E2はすぐに引き金を引き、銃口から黄色いネット状の光弾が射出されて、ガンナーの動きを阻害する様に覆い被さる。
それを確認しなながら、E2はESM01を右腰のホルスターに収めるとESM01から黄色い光が、E2の右足へと流れて行き、集約されていった。
「たああああああああああああああああああ!!!」
E2は黄色い光が集約された右足を突き出して、ガンナーへと最大の一撃を放つ。
「……これで……ゲームオーバーか。クリアは出来なかったけど、面白いゲームだった……かな?」
目前に迫るE2を見て、ガンナーは唯一自由に動かす事が出来た口を動かし、言葉を紡いだ。
その直後、黄色い閃光が全ての視界を覆い、辺りに大きな爆発を巻き起こした。
……そして仮面ライダーガンナーは、この世界から消えて、一人の少女、桐崎沙耶となった……