魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~   作:G-3X

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仮面ライダーシード&仮面ライダークウガ 繋がる絆【第十八章】

クウガ達が上空からの襲撃を受けた時間から数刻ほど遡る。

 

海鳴病院の一室で起こった大きな爆発と、その事態を引き起こしたであろう異形の存在の情報は、すぐに海鳴警察署へと届いていた。

 

そして今、その通報を受けて、海鳴警察署から一台のバイクが出動したのである。

 

[「長谷川君。そろそろ病院に着くわ」]

 

「はい」

 

海鳴病院へ向かう一台のバイク、マシンドレッサーを駆る、メタルイエローのボディーを持つ仮面ライダーE2に搭載された通信機から、このE2の開発者であり、その装着者である長谷川啓太の直属の上司である、風間恵美の声が聞こえて来る。

 

病院で大きな爆発が起こったとなれば、本来ならば爆発による火災を消す為の消防車や、その爆発及び火災などで、身動きが出来なくなっている人達を救助する為の、レスキュー隊に御呼びが掛かるのが世の常だ。

 

勿論病院にはその両者に加えて、他の病院へ患者を搬送する為の、救急車も向かっているが、E2が先だって出動しているのには意味がある。

 

病院で確認された爆発を起こしたと思われる、異形の存在……

 

通報者から聞いた情報からすると、それは昨日の夜に戦った謎の仮面ライダー達で間違い無かった。

 

[「注意してね長谷川君。奴らは明らかに今までのホルダーとは違う、異質な存在よ」]

 

「それは僕も分かってます」

 

[「まあ、昨日の戦闘のデータを解析して、E2で勝てない相手じゃ無いとは思うけど、厄介な相手な事に変わり無いわ。それに相手は同質の戦闘力を有した存在が二人以上居る上に、今回の情報では更に一人増えてるって話だから、なるべく相手を引き離して、一対一に持ち込んだ方が無難ね……どうしたの長谷川君?」]

 

海鳴病院についてからの行動指針を話す恵美に対して、E2からの返答が帰ってこない事に気付いた恵美はE2に呼び掛けた。

 

「……昨日の夜に一緒に戦ったシードとは違うあの仮面ライダー。彼も海鳴病院に居るんでしょうか?」

 

恵美の呼び掛けから、暫くの間を置き、E2が一つの疑問を口にする。

 

[「そうね……結局昨日は、あいつ等が逃走した後に、別々に追いかけて行ってそのままになったけれど、あの仮面ライダーも気になる存在ではある事に変わり無いのは確かね」]

 

「はい。敵対意識があるとは思えませんけど、シードと同様に謎が多い事には……あれは!?」

 

そこまで言い掛けたE2は、マシンドレッサーを急停止させた。

 

[「どうしたの!?何が……あれって!?」]

 

E2がマシンドレッサーを急停止させた事により驚いた恵美だったが、通信機と同様にE2に内臓されたカメラを通して、E2と同じ光景を目の当たりにした恵美は更に驚愕する。

 

目の前に居たのは此方に向かって走って来た、二人の異形の存在。

 

全体的にブラウンのボディーと、上半身を覆う銀色のプロテクターと腹部の黒いベルトに嵌め込まれた、其々の赤と青の玉に、同色の複眼と燃え盛る炎を模した様な角飾り。

 

間違い無く昨日戦った相手である、仮面ライダー達である。

 

反対方向からマシンドレッサーで走って来たE2を目撃した彼らも、走る足を止めて、その場に立ち止まった。

 

「こんな急いでる時に、面倒な奴と会っちゃったわね」

 

マシンドレッサーから降りるE2を見て、赤い複眼を持つ方のライダー、ガンナーが仮面の下で苦笑いを浮かべながら、隣に並ぶガンナーと似た風貌をしている青い複眼を持つボマーに話し掛けた。

 

「……確かに厄介だね。僕と沙耶さんで組んで戦えば勝てない事は無いかも知れないけど、確実に追いつけなくなると思うし」

 

ガンナーに話し掛けられたボマーは、冷静に現状を分析して、今の自分達が何を優先して行動するべきか、脳内でシュミレートしていく。

 

「大地は先に行って。ここは私が戦うから……」

 

「……沙耶さん?」

 

ボマーの脳内シュミレートが終わる前に、ガンナーがそう言うと、一歩前に足を踏み出す。

 

「折角さ。雄太の奴が私達を先に行かせてくれたんだし、このまま二人して足止めされちゃったら、申し訳ないじゃない」

 

「それなら僕が残るから、沙耶さんが先に行けば良いよ」

 

ここに残ると言うガンナーに対して、ボマーが代わりに残る事を主張するが、ガンナーは首を横に振りながら言葉を紡ぐ。

 

「正直に言うとね。私があの仮面ライダーに追い着いても、勝てる自信が無いのよね。だから美味しいところは、大地に譲って上げるわ」

 

朗らかとした口調で言葉を紡いだガンナーは、海鳴病院でハンターがしたのと同様に、黒いベルトに嵌った赤い玉に手を翳して意識を集中させる。

 

彼女が求めていたものは、今の自分を包む日常では決して得られないであろう、生きていると実感させてくれる適度な刺激だった。

 

彼女は別に誰かを傷付けたいと願っている訳では無かったし、今ここに居るのも、偶然と気まぐれとただの付き合いの結果でしか無かったのは、本人も認めている。

 

そんな薄い理由で他者を虐げる事が許されるのだろうかと、心の片隅で感じる事もあったが、沙耶はそれでもガンナーとして闘う事を止めることは出来なかった。

 

……楽しかったのである。

 

歪んではいたかもしれないが、友達と他の人には出来ない何かを共有しながら、同じ目標を達成させる事が何よりも沙耶にとって楽しかったのだ。

 

自分が今やろうとしている事は、誰かを不幸にするかも知れないが、そんな事情は今の沙耶には小さな事だった。

 

沙耶にとって、今のこの状況すらも、友達と本気で取り組むゲームに過ぎない。

 

そしてゲームと認識しているからこそ、沙耶はこの難しいゲームを、本気でクリアしたいと考えていた。

 

自分には大局を動かす実力は無い。

 

だからこそこの場は、自分よりも頭の切れるもう一人の仲間を先に行かせる方が、より多くの可能性を見出せる筈だと確信して、自分からこの場に残る事を告げたのである。

 

「沙耶さん。君は……」

 

「早く行きなさいよ大地。私にここまでお膳立てさせて置いて、簡単にやられたりしたら、承知しないんだからね!」

 

ボマーの呟く様な言葉に、ガンナーは楽しそうに笑いながら答える。

 

[「何かしようとしてるみたいだけど、待ってやる謂れは無いわ!長谷川君!相手が何かを仕掛けて来る前に、こっちから仕掛けるわよ!!!」]

 

「了解しました!」

 

ガンナーとボマーの動向を探る様に観察していたE2が、通信機越しから届いた恵美の指示に応えて、右腰のホルスターから、E2専用銃であるESM01を抜き放ち、ガンナーとボマーに其々白い光を纏った弾丸を放つ。

 

しかしその攻撃は二人に届く事は叶わなかった。

 

ESM01から放たれた二発の弾丸は、目標に到達する事無く、反対側から放たれた黒い光弾によって、撃ち落されていたのである。

 

その光弾を放ったのは、一人の漆黒の身体を持つ、仮面ライダーだった。

 

漆黒のライダーはその両腕にも、同色の黒い手甲を装備して、それを前方に突き出し、その先端から小さな経口の穴が開いており、穴の中からは白色の煙が風に流され宙に舞っている。

 

「……沙耶さんも……変わったんだね」

 

漆黒のライダーの後ろに控えていたボマーが、感歎の声で呼び掛ける。

 

ハンターと同様の姿をした漆黒のライダーの正体は、ガンナーの変化した姿だったのだ。

 

「姿が変わった!?」

 

攻撃を防がれた事よりも、急激な変化を果たしたガンナーに対して、E2が驚愕の声を上げる。

 

「……正義の味方が不意打ちするなんて、ちょっとルール違反なんじゃないかしら?」

 

漆黒と共に、大きな力をその身に宿したガンナーは、E2に対して余裕の笑みを零しながら、銀から黒へとその色を変えた、手甲の先端に設けられた銃口を、自身の戦うべき相手であるE2へと向けた。

 

[「避けて長谷川君!!!」]

 

その動作に逸早く声を上げたのは、その光景を別の場所からカメラ越しに、客観的に観察していた恵美だった。

 

「は、はい!?」

 

その声に反応して、E2は訳も分からないままに、その場から転がる様にして退避行動を取る。

 

E2が恵美の声に反応して回避行動を取ったその直後、ガンナーの手甲から放たれた黒い光弾が、先程までE2の立っていた場所に着弾して、その大地に大きな風穴を開けた。

 

[「明らかに昨日よりも、威力が上がっているわね……」]

 

「あれを正面から受けたら、流石に……」

 

ガンナーの光弾が抉った大地を目の前にして、E2と恵美はその威力の高さに戦々恐々となる。

 

「ほら大地。行くなら今の内よ?」

 

「……分かった。この場は頼むよ。沙耶さん」

 

先を急ぐ様に急かすガンナーの声に、ボマーは頷きながら、意識をハンターとガンナーが、先に実践していたのと、同じ様に意識を集中させていく。

 

ボマー……黒谷大地もまた、ハンターやガンナーとは別に、今までの自分を取り巻いていた環境に大きな不満を抱えていた。

 

なまじ勉強が出来ていた為に、親や教師……それに世間での肩書きを重要視する親しくも無い同年代から寄せられる過度な期待。

 

彼は毎日楽しくも無い勉強を続けて、周囲の期待に応え続けてきた。

 

楽しくは無いが、勉強を苦痛だとは思わなかったが、その勉強の向き合い方に、自身と周囲に生じているギャップの大きさが、大地は何よりも苦痛だったのである。

 

決して気の強い性質では無かった大地は、その苦痛に耐えながらも、勉強を続けてた。

 

その行為が自分の心を、更に苦しく締め付けると知っていながらもだ。

 

だから大地は、雄太と沙耶に出会いを、友達となれた事を、何よりも感謝している。

 

それまで周囲と見えない壁で阻まれた様なな世界で生きて来た大地に対して、雄太と沙耶はその壁の内側へと入り込んで来た。

 

三人の出会いは、寧ろその性格の違いから、良好とは言い難いものではあったが、それでも大地にとっては、周囲から期待をされないというだけで、今まで心の中に重荷となっていた何かが、少しだけ軽くなった様に感じられたのだ。

 

その感動を教えてくれた一人が、今自分に一つの期待を寄せている。

 

大地にとって、今まではあんなにも苦痛だと感じていた筈の他者からの期待だというのに、何故か大地の心は晴れ晴れとしていた。

 

これまでの大地が生きて来た人生において、ここまで他者の期待に応えたいと思えたのは初めてだった。

 

イメージするのは、何者にも縛られない自由。

 

大地のイメージは漆黒に染まる身体と共に、誰にも邪魔されない世界へと飛び立つ大きな漆黒の翼を、その背中に現出させて大空へと舞い上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの三人がメルトの精製した、例の力を使ったみたいだね」

 

「……それを私に言う為だけに、ここまで来たのかオーバー?」

 

海鳴市の地下に広がる旧地下水道の一部を改造した場所で、藍色の怪人オーバーと、灰色の怪人メルトが、互いに言葉を交わす。

 

今も意識を失っている一人の少女が、閉じ込められた黒い卵型のカプセルに繋がったコンソールを操作する手を止めないまま、メルトは再びこの場所へと赴いたオーバーの言葉に対して、抑揚の無い声で答える。

 

「あの力ってさ……あの【闇】を技術的に転用して作ったんだよね?そんな事して何も影響が出ないで済むのかなって思ってさ……」

 

「少し前にも言った筈だが?あの力は所詮は試作段階……使えても二回が限界だ。まあ、精々一回も使えれば上出来な事に変わり無いがな」

 

「僕が言いたい事はそういうことじゃ無いんだけどね」

 

「……どういう事だ?」

 

オーバーの言い方に対して、メルトはほんの一瞬だけ、コンソールを動かす手を止めるが、再び操作を再開させて、相変わらずの抑揚の無い声で、オーバーの言葉の真意を問い質す。

 

「あれが試作品だって事は分かるし、何か不具合が起こってもそれはしょうがないと思うんだけどさ……」

 

「言いたい事があるのならば、はっきり言えばどうだ?」

 

「メルトの言う通り、あの子達はただの使い捨ての駒だけど、僕は結構気に言ってるんだよ。だから率直に聞く。何であんな余計なものまで取り付けたんだい?」

 

オーバーの問い掛けに、数瞬の間を置いて、メルトが小さく肩を震わせながら、小さな笑い声を零す。

 

「……奴らは使い捨ての駒であり、私の大切な実験のサンプルだ。しかしそれだけでは芸が無いだろ?だから面白いサプライズを準備させて貰った」

 

「サプライズねえ……僕が言えた義理じゃないけど、そんなプレゼントを渡されたら僕は堪ったものじゃないね」

 

メルトの返答に対して、オーバーは両肩を竦めながら、聞きたい事はそれで全てとばかりに、踵を返して歩き出してこの場を後にする。

 

「もう、あのおもちゃで遊ぶのは無理っぽいね……」

 

去り際に零したオーバーの言葉に返事を返す者は、この場には誰も居なかった。


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