魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~   作:G-3X

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仮面ライダーシード&仮面ライダークウガ 繋がる絆【第十七章】

白衣を着た一人の女性は、普段から自身の仕事で使っている資料室で、この場に呼び出したとある人物の到着を今か遅しと待っていた。

 

呼び出してから時間にして20分程が経過した頃に、資料室の扉を叩く音が聞こえて来た。

 

「どうぞ入って」

 

その音を聞いた女性が、入室を許可すると同時に、資料室の扉が開かれる。

 

「ビートチェイサーとゴウラムが消えたというのは、本当ですか榎田さん!?」

 

扉を開けて入ってきたのは、一人の男性だった。

 

端整の顔立ちに、きっちりと着こなしたスーツが、彼の元から備わっていた誠実なイメージを、より如実に強調している。

 

「早かったわね一条君」

 

「はい。桜子さんから、五代の話を聞いて、一度東京の方に来ていたんですが……」

 

榎田《えのきだ》ひかり。

 

一条薫《いちじょうかおる》。

 

榎田は以前に、通常兵器では殆ど効かなかった未確認生命体に対抗し得る武器の開発を行ったり、クウガやゴウラムを科学的な観点から研究していた、科学警察研究所の責任者である。

 

そして一条は榎田と同様に、警察に所属する、長野県警警備課の刑事なのだが、未確認生命体が現れた際に、警視庁に設置された未確認生命体合同捜査本部に参加していた一人だ。

 

二人とも五代雄介がクウガという事を知り、未確認生命体との戦いで深い関わりを持っていた人物である。

 

「私も彼が、長野県九郎ヶ岳の遺跡で新しく発見されたっていう、別の遺跡に向かってから、行方不明になって驚いたんだけど、その後に保管していた科警研で保管していた、ビートチェイサーとゴウラムが合体したって聞いて、もっと驚いたわよ」

 

「はい。私もその状態のゴウラムを見てきたんですが……まさかそれが消えるなんて」

 

「でも一条君は、何処かで予感してたんでしょ?彼が消えた後に、保管されてたゴウラムとビートチェイサーが突然合体したって聞いてから、急いで警視庁にあんな申請をしてたくらいだし」

 

「いえ……正直な話を言えば、こんな事になるとまでは想像もしていなかったんですけど、五代の消息を絶った事と、ゴウラムの話を聞いて、少しでも彼の力になればと思いまして……」

 

一条は榎田との会話から、当時の未確認生命体と繰り広げた、長い戦いを思い出し、共に戦い抜いた一人の冒険家に思いを馳せる。

 

「……大丈夫よ。一条君がした事はきっと彼の力になるわ。それに彼はクウガなんだしね」

 

榎田はそう言うと、一条が思い出している冒険家が普段からしていた仕草である、サムズアップをして見せた。

 

「そうですね。彼なら……あの五代雄介なら、どんな困難にも打ち克てますね」

 

五代雄介が居るべき世界で、彼を大切に思う人達は、笑顔で彼の帰還を待ち続けている……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「があっ!?」

 

『ぐっ!?』

 

俺とメカ犬は、呻き声を上げた。

 

急激な変貌を遂げたハンターの手により、首を絞められた状態で、宙吊り状態となっていた為である。

 

ハンターの行動は、迅速の一言に尽きた。

 

この状態以前にも相当な素早さを誇っていたのは、三度に渡り、直接戦ったからこそ分かっていたが、今のハンターの動きは、その比では無い。

 

予想外の事態を目の当たりにした事で、隙が生じていたとしても、その速さは脅威と言える程のレベルになっている。

 

それに加えて、ハンターの力自体も、急激な強化がされているのが、俺とメカ犬が操る分身体を締め上げる腕力から、充分に理解する事が出来た。

 

「……大地、沙耶。ここは俺だけで良い……お前達は逃げたライダーと白頭を追いかけろ……」

 

首を締め上げる力を更に強めながら、ハンターが後方に控える二人のライダーに言い放ち、ハンターの言葉に頷くと、この場所から駆け出して行く。

 

「……さ、させるか!」

 

このまま行かせる訳には行かないと感じた俺は、首を締め上げる手を、自らの両手で掴み、引き剥がしに掛かる。

 

このままあの二人を行かせてしまったら、俺がここに残った意味が希薄なものとなってしまう。

 

「……うをおおおおおおおおおおおお!」

 

ありったけの力を込める事で僅かではあるが、俺の首を絞めるハンターの手の拘束が徐々に、その効力を失っていく。

 

現在のパワーフォルムだからこそ、成し得る事が出来た、力押しの解決策である。

 

「……つまんねえ事しようとしてんじゃねえよ!」

 

「がはっ!?」

 

もう少しでハンターの拘束が解けようとしたその時、ハンターの怒気の篭った声が聞こえるのと同時に、俺の腹部に重い衝撃が走る。

 

その衝撃によって肺の空気が、強制的に排出される苦しみに耐えながら、俺は自分の腹部に視線を送り、突如として襲い掛かった謎の衝撃が何であるのかを知った。

 

正体は俺の首を拘束する腕とは逆方向の腕から繰り出された拳による一撃だったのだ。

 

予想すらしていなかったハンターの一撃により、拘束からの脱出には失敗してしまったが、ハンターがその一撃を繰り出した事によって、新たなチャンスが生まれる。

 

『だあああああああああ!!!』

 

分身体を操るメカ犬が渾身の踵落としを、真横からハンターが俺を拘束している腕へと喰らわせた。

 

俺に対してもう片方の腕を使って攻撃を仕掛けた時点で、メカ犬の拘束は解かれていたのである。

 

先程からのハンターが繰り返す言動から、どういった経緯のせいなのか、俺に対して妙な敵対心と嫌悪感を持っているのは気付いていた。

 

だからこそハンターは、俺への攻撃を優先させた様だ。

 

そしてその結果が、メカ犬の繰り出した一撃を、現実のものとしたのである。

 

「ぐうう!?」

 

メカ犬の放った踵落としを、腕に喰らったハンターが、その痛みにより苦痛の声を漏らす。

 

その一撃によって、若干だが緩んだハンターの腕を、俺は再び掴み一気に引き剥がして、その拘束から逃れる事に成功し、更に追撃として痛みにもがくハンターを、俺と分身体が蹴り飛ばした。

 

『大丈夫かマスター!?』

 

「ああ、俺は大丈夫だけど……」

 

メカ犬の言葉に頷きながら、俺は二人のライダーが駆け出した先に視線を向けるが、既にその姿は何処にも無かった。

 

『マスター。奴らを足止め出来なかったのは残念だが、今は目の前の相手に集中した方が良いぞ!』

 

「……そうみたいだな」

 

メカ犬の言う通り、今はあの二人のライダーを行かせてしまった事を悔やむよりも、ハンターをどうにかする事に集中しなければならないのは明白だ。

 

それにハンターのあの姿……

 

俺はメカ犬の言葉に対して視線を、前方へと向ける。

 

其処には悠然と立ち上がる、漆黒の鎧を身に纏ったハンターの姿があった。

 

見れば見るほど、クウガのアルティメットフォームに……いや、それよりはアメイジングマイティーに近いだろうか?

 

どちらにしても、クウガの力と近い何かが、ハンターにも施されているとしか思えない。

 

「やってくれたじゃねえかよおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

 

立ち上がったハンターは、然したるダメージを負っている様子も無く、怒りの咆哮を上げながら、此方へと凄まじい勢いで駆けてくる。

 

『来るぞマスター!』

 

「ああ!」

 

メカ犬の注意を促す声に、応えながら俺は、目の前に迫り来るハンターに対して身構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シードが時間を稼いでいる間に、海鳴病院を後にしたクウガは、空を乗せてビートチェイサーを走らせていた。

 

ビートゴウラムはパワー、スピード共に優れてはいるのだが、その形状から、クウガ以外に人を乗せて道を走る際の機動性に、少々不都合があるので、ゴウラムとの合体を解除したのである。

 

「これから五代君に、向かって欲しい場所があるんだ」

 

海鳴病院から、数キロ程離れたところで、クウガの後ろにしがみ付いた状態の空が、口を開いた。

 

「向かって欲しい場所?」

 

空の言葉に対して、クウガはビートチェイサーを走らせながら、オウム返しに聞き返す。

 

「ここから距離にして約20km、北に進んだ先の地下に……そこにはやてちゃんが捕まってると思う」

 

「はやてちゃんの場所が分かるのか!?」

 

更に続く空の発言にクウガは驚きの声を上げる。

 

「正確には僕の母と似ている力が其処から感じ取れるんだ。もしかしたら奴らは、はやてちゃんの中に眠ってる力を無理矢理引き出そうとしてるのかもしれない」

 

「何だって!?それは本当の話なのか!?」

 

「うん。僕が捕まらなければ、今すぐ病院で話していた【闇】が復活する事は無いと思うけど、それは時間稼ぎにしかならないし……だから五代さんには、奴らに捕まっているはやてちゃんを助け出して欲しいだよ」

 

「はやてちゃんを助けたいのは、俺も同じだけど……はやてちゃんを助けた後に、何をするつもりなんだ?それに【闇】の復活って一体……」

 

五代は空の出した提案に、肯定の意思を示しつつ、疑問を覚えた。

 

捕らわれているはやてを一刻も早く救い出す事は、五代は勿論、この場には居ない純にとっても、最上級の目的である。

 

しかしこの状況で助け出したとしても、再び狙われる可能性が高いし、実行に移すにしても、作戦を練ってからの方が良いのではないか?

 

他にも五代が思いつく問題点は幾つかあるのだが、一番気になるのはこの一点に尽きた。

 

空は何かを焦っている様に見える。

 

はやてが何かしらの、危害を加えられているかもしれないという以上、五代としても一刻も早く助け出さなければという焦燥感に襲われるが、空の言動から僅かに洩れる焦りは、それとはまた別の意味を含めた焦りに見えたのだ。

 

何か根拠がある訳ではなかったが、五代は感じた直感をそのままに問質していた。

 

「……多分だけど、はやてちゃんを攫った奴らは、僕達……リントが闇に対して行った封印を、逆に利用しようとしてるんだと思う」

 

僅かばかり沈黙の後、空は一度だけ深呼吸をして、静かに語りだす。

 

「封印を逆に?それは……」

 

「病院でも言ったと思うけど、僕はリントでありグロンギでもある。だからこそグロンギの思念の集合体と言える、闇の存在を受け入れる器になりながら、その支配を受けずに済んでいるんだ。そして制御し切れない、不完全な部分を母の力で補っていた。でもそれは……言葉を返せば、僕の意思をその力で押さえ込んで、闇を完全復活させる為の依り代にする事も出来るという事なんだ」

 

「奴らがはやてちゃんを攫ったのは、【闇】を復活させる為の鍵だったからって事か……分かった。はやてちゃんは俺が必ず助け出すから、空はその間、何処か安全な場所に隠れててくれないか?」

 

「ううん。僕も一緒に行くよ。行かなきゃ意味が無いんだ」

 

空の話を聞き、はやてを助ける事を誓ったクウガは、その間何処かに身を隠れている様に、空に対して進言するが、その当人である空は首を横に振りながら、自ら危険な場所に赴く事を宣言する。

 

「意味が無い?」

 

クウガの疑問の声に、空は再び頷きながら口を開く。

 

「相手が封印と逆の事をして、【闇】の復活を目論んでいるのなら、それを逆手に取って、再封印を行うんだ。実体の存在しない【闇】を完全に消滅させる方法は存在しない。だから完全に無力化する為には、もう一度誰かが封印しなくちゃ駄目だ……そしてそれが可能なのは僕だけだからね」

 

「空……もしかして君は……」

 

「皮肉な事だけど、奴らがはやてちゃんの中に眠っている力を無理矢理引き出そうとしている今なら、それを正しい方向に利用する事で、【闇】を完全に封じ込める事が出来る」

 

「……そんな事をしたら、空はどうなるんだ?」

 

【闇】を完全に封印するという事が、何を意味するのか……

 

クウガは、五代雄介は理解した。

 

しかし、それを事実として認める事は、あまりにも残酷だと、心が訴え続けている。

 

「僕がこの世界に来た時……自分が誰なのかという事すら忘れていた。僕自身の使命を思い出したのだって昨日の出来事だけど……僕はこの世界が好きなんだ。だから僕は、この世界を……大切な友達が居るこの世界を守る為に、自分の出来る事をしたい!」

 

「空……」

 

空は微笑みながら、自身の想いを吐露した。

 

それが自分に課せられた使命だという部分もあるが、彼は心からこの世界を守りたいと願っていた。

 

大切な友達が、小さな身体で傷つきながら、誰かを守ろうと戦い続ける少年が生きる、この世界を……

 

「……そんな事はさせないよ!」

 

その時である。

 

ビートチェイサーで走り続けるクウガと空の上に、影が掛かると同時に、クウガにとって聞き覚えのある声が上空から降り注いだ。

 

「あれは!?」

 

上空を見上げて、自分達を影に包んだ正体を眼にした空は、驚愕の声を上げた。

 

其処には、コウモリの様な黒い翼を羽ばたかせて宙を舞う、一人の漆黒の仮面ライダーが存在していたのである。


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