魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
「大丈夫か……お嬢ちゃん?」
力なく道路脇に横たわる俺を、小さな女の子が両目に溢れんばかりの涙を溜めながら何か必死に呼びかけている。
俺には目の前の女の子が何を言っているのか聞こえなかったが、心配させているんだろうなと当たりをつけて少しでも安心させようと先ほどの言葉を搾り出した。
そもそも俺とこの女の子は知り合いでも何でもない。
じゃあ何で俺はこんな状況に陥っているのか、疑問に思うがどうにも頭の回転が鈍くなっているのか思い出せない。
仕方ないので俺は全く動かない体と霧が掛かった様に記憶が曖昧な頭を無理矢理使って思い出すことにした。
まず俺の名前は板橋純《イタバシジュン》しがない地方の大学生で二十歳だ。
特徴と言えば特撮番組である仮面ライダーファンという事ぐらいだろうか。
周りからは良くオタクだと称される。
確かに俺はアニメ等も嗜む程度には観賞するが基本仮面ライダーをリアルタイムで見るために朝方人間なので夜の大きなお友達が見る様なアニメは見ない。
同じくアニメ好きな友人達が言うには、
『それはエゴだよ』
とネタ的な台詞を返されるが、俺はあくまでこの件に関してはライトユーザーであると言い貫いている。
自分自身の実体を把握した所で、俺は今日この日に何があったのかをゆっくりと思い出してみる事にした。
今日は日曜日で俺は朝からハイテンションだった。
それも致し方無いだろう。
日曜は俺の大好きな仮面ライダーの放送日な上に、何と今日から新しい仮面ライダーが始まるのだ。
これで興奮しないライダーファンは潜りもいいとこだと正座させて三時間に及ぶ説教を行なう覚悟が俺にはあるぞ。
朝の番組を一通り見た後、俺は朝と昼の間所謂ブランチと言う名の食事を済ませ外出する事にした。
今日は大学の講義もバイトも友人との約束も無く完全なオフの日だった。
このままボケッとしているのも偶には良いかとも思ったのだが俺は朝からのテンションを未だ引きずっており無性に身体を動かしたい気分だったのだ。
それなら映画でも見るかなと、俺は財布と携帯をズボンのポケットにねじ込んで某DVDレンタルショップにライダー映画を借りに行くことに決定した。
家を出て暫く歩いて住宅街を抜けると十字路に差し掛かった。
この十字路を越えて五分程歩けば俺の目的地であるレンタルショップである。
俺は信号機の前で立ち止まり、早く歩行者ランプが青にならんものかと赤く点滅するランプを見つめていた。
すると何時からだろうか。
先ほどまでは俺の隣はおろか周りに人っ子一人すら居なかった筈なのに、いつの間にか俺の隣に一人の女の子が立っていた。
その女の子はまるで絵本から抜き出てきた様な不思議な雰囲気を纏っていた。
歳は小学生になったばかりといったところだろうか、腰の辺りまで伸ばされた髪は輝く様な金色、瞳は宝石の様に透き通った水色で明らかに日本人ではない。
顔の全てのパーツがまるで西洋の人形みたいに完成されており俺の様な年齢=彼女居ない暦な奴でも将来美人になるだろうなと容易に想像できる程の美少女だった。
白いゴスロリ調の服を着た女の子はジッと前の信号機を見つめていた。
俺も何時までも女の子を見続けるのは失礼だし下手したら謂れ無き容疑を掛けられる可能性があるので、隣の女の子と同じく視線を前方に向けた。
暫くすると赤いランプが某光の巨人宜しく点滅し始めた。
これで信号の色が赤から青に変われば此処で立ち止まる必要も無くなり、目的地に向けて再び歩き出す事が出来る。
俺と女の子がその信号機が示すランプの表示が変わっていく様を見ていたが此処で俺達にとって予想外の出来事が起きた。
子猫が突然車道に飛び出してきたのだ。
信号が変わる間際とはいえ危ない事に変わりはない。
突然の出来事に俺は驚愕したが事はそれで終わらなかった。
先程まで俺の横に居たはずの女の子が猫に向かって駆け出していた。
俺は咄嗟に危ないぞと叫ぶが女の子にはそれが聞こえていないのか、そもそも日本語が通じるのかも分からない。
女の子は俺の制止の言葉を振り切って子猫の元に駆け寄っていく。
子猫は道路の真ん中で大人しくしており女の子は容易に子猫を抱きとめて安堵の溜息を吐いた。
だがこの話しはこれで終わりではなかった。
子猫を抱えた女の子に一台のトラックが迫っていた。
トラックの運転手も女の子の存在に気づき急ブレーキを掛けるが明らかに間に合わない。
その光景を目の前にした俺は何も考えず走り出していた。
そして女の子を道路から突き出すと同時に鈍い衝撃と音が俺に襲い掛かった。
……そうだ。
俺は女の子を庇ってトラックに突き飛ばされたんだった。
何で忘れていたんだろう。
身体の痛みが全く感じられなかったのでそのせいかもしれない。
思い出したら何だか頭がすごくスッキリした。
そんでもって気付いた事がある。
俺このまま死ぬんだな。
思春期の頃なんかに死って何なんだろうって考えた事もあったけれど実際に体験してみると意外とあっさりしているもんだ。
今までの人生で後悔が無いと言えば嘘になるがそれでも俺の人生は幸せだったと思う。
その上最後は子供とはいえこんな美少女に看取られて逝けるのだからモテナイヘタレとしては上出来だ。
女の子の泣き顔を見ながら俺はそんなどうでもいい様な事を考えていたが、それすらも出来なくなってきた。
目の前の景色が目を閉じても居ないのに暗くなってきた。
意識もまるでゆったりとした睡魔に導かれるように遠のいていく。
俺は少しずつ薄れていく意識の中昔の夢を何故か思い出した。
微笑ましい程に大それた夢だ。
男の子なら誰でも一度は願ったかもしれない。
大人になれば皆忘れていく儚い夢。
俺は思う。
もしかしたら声に出していたかもしれない。
でもそれも分からないくらいに俺は眠い。
最後に俺はもう一度……。
「仮面ライダーになりたかった」
「……で……す……」
「……あ……こ……よ……」
声が聞こえる。
ここは何処だ。
俺はどうなった。
分からない。
確か俺は女の子を庇って…
もしかして助かったのだろうか?
自身の両目を開けて確かめたいが上手く開く事が出来ない。
本当に訳が分からん。
とりあえずさっきから聞こえてくるこの声を聞いてみよう。
何か情報が得られるかもしれない。
「おめでとうございます。元気な男の子ですよ」
は?
「有難うございます先生」
え?
「名前はもう決めてらっしゃるんですか?」
「はい。主人と二人で男の子でも女の子でもこの名前にしようって考えた名前があるんですよ」
何だこの会話は? いよいよ意味が分からなくなってきた。
こうなったら意地でも目を開けてやる。
頑張れ俺の目!
ファイトだ俺の目!
明日は必ず勝つと書いてトンカツだ!!!
うおおおおおおおおおどらっしゃああああああああ!!!!!!!
明らかに俺のキャラじゃないがそんな細かい事は言ってられないので、俺は現状を打破するため全力全開で目を開けることに集中した。
そのかいあってか程なくして俺の両目は無事開かれた。
血管がぶちきれる前に開いて本当に良かった。
さてと安心した所で現状を確認しなくては。
俺が目を開けて最初に見た物は一人の女性の顔だった。
歳は二十代前半といった所だろうか?
人懐っこそうな笑顔を浮かべながら俺に微笑みかけている。
何だこの状況?
男として嬉恥ずかしいシチュエーションではあるがますます持って意味が分からなくなってきた。
しかもこの女性と俺の位置関係から計算すると俺は今この女性に抱きかかえられている形になっているはずだ。
だが女性は成人男性である筈の俺を抱え上げているにも拘らず顔色一つ変えていない。
何だか怖くなってきた俺はこの女性に降ろしてくれるように紳士的に頼もうとしたのだが上手く声が出ない。
其処で俺は更なる矛盾と違和感に気づいてしまった。
縮尺がおかしいのだ。
明らかに俺と女性の大きさの比例が変なのだ。
最初俺は死んで巨人の国に迷い込んでしまったと思ったがその考えが間違いである事がこの後の女性の一言で理解した。
「私があなたのお母さんですよ」
どうやら俺の周りがでかくなったのではなく俺が縮んだだけらしい。
しかも俺はこの人からつい今しがた生まれたとの事だ。
つまり俺は赤ん坊になってしまったらしい。
さっきから淡々として冷静すぎじゃないかと思われるがそれは誤解だ。
余りにも超展開が連続して起こった為頭がオーバーヒートして逆にクールダウンしているだけだ。
暫くして落ち着いたらあらためてパニック状態になるのであしからず。
ここで最後言っておかなければいけない事がある。
正確には今現在喋ることが出来ないので心の中で思うだけなのだがそこら辺は容赦していただきたい。
え~どうやら俺は転生者になってしまった模様です……。