また次の日も、茂吉は私の元へと訪ねてきた。
「やぁ、萃香。今日も来たよ。今日こそ遊ぼうよ。なんだかんだで、萃香とは喋ってばっかりだったし、そろそろ普通に遊びたいしさ」
毎度の如く瓢箪を抱えて気持ち良く眠っている私を揺り起こして、茂吉は私に面と向かってそう言った。
このなんでもないように馴れ馴れしく話しかけてくる茂吉の姿は、やはり私にとって、とても違和感を感じさせるものであった。
いくら姿形が人と似通っている童女の姿であるとはいえ、私は一匹の鬼なのだ。
人間同士と同じような距離を抱いて接して来ていたのなら、すぐさまその場で殺しているところなのだが、茂吉からはどうにも、そのような想いを感じない。
むしろ、私を、鬼であるこの私を眩しげに、そして、尊敬のようなものが入り混じったような視線を向けている節まである。
その尊敬や憧れからは、多少の過小評価を感じていないでもないが、悪いものではないし、なにより、対等のように見られることよりは遥かにいいものだ。
最低と比べて良い、などとは些か馬鹿げた話ではあるが、今の私にはそういうものが必要であった。
また、人である彼が、鬼の私を眩しく思うなどとは、正直、かなりおかしな話ではあるのだが、私は特にそれを気にすることも無く、なにかを問おうとも思わなかった。
そのような心の歩み寄りや、弱さの共有は、同じ人同士の間でやればいいのである。
鬼の私には関係ない。
私は、これまた昨日と同じように洞窟の前で向かい合って立っている茂吉に言った。
「で、結局、なにするってのさ?」
この問いに、茂吉は昨日のような捻くれた答えを返すこともなく、ほぼ間を空けずに私へと問い返してきた。
「それは萃香が決めておくれよ。俺は鬼のする遊びを知りたいんだ」
目を好奇心に少し光らせながら、茂吉はそう言う。
少々げんなりとしつつも、私は
「……あぁ、そうかい……」
と返事を返した。
遊ぼうと誘って、いざどうするかは、相手に任せる。
目的だけを立てて計画を別の者へと投げるのは無責任なものであるが、まぁ、相手は子供なのだ。
たかが子供相手に責任云々などと言ったところで無駄であるし、このような小さなことでなにか言おうものなら、また話があさっての方向へと拗れていく。
では、とりあえず、この戯れに付き合ってやろうと、思考を巡らせた。
しかし、私はこの簡単な問題に、少々答えを窮することとなった。
鬼と人で出来る遊びを考えて、そもそも、遊びというもの自体を、もはやそれほど覚えていやしないことに気付いたからだ。
私にとっての遊びとは闘いであり、喧嘩であり、酒盛りであり、宴会だった。
腹の底から声を出して笑いながら相手を壊し、心の底から楽しんで酒を片手に持って宴を開く。
鬼の生は言わば、その一生を本気で遊んでいるようだから、自由で楽しくいられるのだ。
さて、ではやはり、ここは便利な、薄れて、おぼろげとなってはいるが、人であった頃の記憶から抜き出して考えていった。
遊び、遊び、遊び、と思い浮かべ、一鬼と一人でもできるようなものを思い出そうと頭を捻る。
そして、薄靄のようなその情報の海から、やっと一つ、見つけて掬い上げ、何者かへと、問いかけるようにして、声に出した。
「鬼ごっこ?」
或は、その遊戯を思い出したのは、私にとっての必然だったのかもしれない。
「いや、でも、本物の鬼と人でっていうのは……」
しかし、即座に私が、思いついた遊びにある問題をいくつか考えてそう呟いていると、始めの声が聞こえていたのか、茂吉が急に大声を上げた。
「鬼ごっこ! なにそれ? なにそれ!? どういう遊び? どんな遊びなの?」
どうやら興味津々であるようだ。
しかし、この時代はいまだ鬼ごっこと言うような遊びは存在していないらしい。
いや、それともこの少年がものを知らないだけか。
茂吉は目を年相応にキラキラと光らせ、私へ鬼ごっこの説明をねだってくる。
やはり娯楽に乏しいこの時代では、人は遊びというものに餓えているのかもしれない。
面倒であるが、一度付き合ってやろうと決めたことを覆すのもどうかと思い、そもそも、それほど複雑なルールなどないので、簡単に茂吉へと説明してやった。
しかし、鬼『ごっこ』の説明を、本物の鬼の私が人相手にするとは、なんともおかしな状況である。
茂吉はその説明を聞くとますます興奮し、馬鹿げた質問をしてきた。
「へぇー、へぇー! そんな遊びがあるんだね! でも、鬼に捕まったらその人は鬼になるって、本当のことなの?」
その言葉を聞いた瞬間、即座に私は切って捨てた。
「そんなことで簡単に鬼になられてたまるか! もしそんなことで成れても鬼に似てるだけのただの人だよ、そいつは。そんなのすぐに他の妖怪に殺されるか、私がさっぱり殺してやるさ」
鬼に触れられた人がそれだけで鬼となるなど、そんなことは有り得ないし有り得てはいけない、ましてや、この私が有り得させてやりはしない。
しかしながら、このような疑問が当の人の口から出るあたり、鬼と見た目が似ている妖怪はとにかく邪魔であると改めて思い直した。
鬼という、妖怪の中でもかなり高位の存在者を騙り、さも自らが本物の鬼のように振る舞いながら、人間に恐怖を与えて立ち回る。
その実、人から本気で鬼退治を決行されれば、簡単にやられてしまう程度の力しかないのだ。
そのような輩のせいで、本物の鬼の格を過剰に下げて見られるのだろう。
まぁ、そういう奴らはいずれ私が直々に訂正して回るから良いのだが。
過去、初めてそういう存在を直接見た時は、たいした問答もせず、目に映った瞬間に殺してしまった。
角が生えているだけで鬼を騙って、自身の力で奪い取ることもせず、その鬼と言う格の名だけで他の妖怪相手に威張り散らして、人を襲わせていたのだ。
実際の実力は、本当に見かけ倒しで、威張っていた妖怪たちよりも、僅かに強い程度であったのだから、もう少しすれば簡単に人の手で退治されてしまっていたであろう。
一瞬でも同胞かと期待した分、私から湧き上がるその嫌悪感は半端なものではなかった。
あのような奴がいるからこそ、人でも簡単に鬼に敵うと勘違いを起こさせ、ましてや鬼になれるかもしれない、などと思わせてしまうのであろう。
確かに、言ってしまえば強者を騙る、というのは、それも一つの弱者としての生き方なのかもしれないが、出来れば私の目には触れぬところでやってもらいたい。
少なくとも、目の前で鬼でもないただの格下の妖怪から、さも同格のように振る舞われていることに耐えられる程に温厚な精神を、私は持ち合わせていないのだから。
過去の嫌な記憶を思い出して少し不機嫌となった私とは反対に、茂吉はただ鬼ごっこという遊びへと興味を向け、ご機嫌のようである。
「とりあえず、それ、鬼ごっこをやろうよ。面白そうだ!」
喜色満面なその意見へ、私は渋って反論する。
「いや、私とあんたじゃ話にならないよ。人が鬼相手に足の速さで勝てると思ってるの?」
十秒待って開始された時点で、どこにいようが即座に捕まえることが可能であるのだ。
そもそも、比べる土台が違いすぎて、勝負や遊びではなく、ただの笑い話にしかならない。
「うーん、でも萃香、現時点でふらふらじゃないか。なんかおれでも逃げられそうな気がしないでもないんだけど……」
自然と馬鹿にしたことを言うこの阿呆に、私は必死で自分の気を沈めつつ、馬鹿らしいと笑い飛ばして言ってやった。
「あっはっは、無理だよ、無理無理。私がふらついてるのはつまり、酔っ払ってて絶好調ってことだからね。まぁ、私は多分、鬼の中でもそんなに足が速いほうでもないと思うけど、人程度にはどうやったって負けっこないさ」
確かに、人の目からすれば、普通に立っている今でさえ安定せずに若干ふらついてる私は、それほど速く走れそうには見えないのかもしれない。
酔った人ならば、一歩目で転倒することもありえるだろうことだ。
しかし、酔っ払っているということは、最近ではもはや私の一つの特徴のようになっている。
今や酔っ払っている状態こそが正常であり、覚めている状態が異常であると言えるほどには、私はずっと、色々なものに酔っていた。
そんな私の言うことを聞いて、しばらく唸って何やら考えていた茂吉は、何かを思いついたのか口を再び開く。
「んー、じゃあ、こうしよう。萃香はずっと後ろ向きで前を見ずに走ってよ。それなら少しは分が良くなるし、これでも駄目そうなら、また違うのをおれが考えるから」
成る程、私に不利な条件を付けて、千鳥足の状態での後ろ走り。
それならば、まぁ、まだなんとかまともなものになるかもしれない。
前を見ないというのなら、追う相手も見えないということなのだから、目隠しされているようなものであるし。
それに、勝てない相手に工夫して有利に運ぶ、というのが、なんとも人らしくて、とても良い。
そう思った私は、「いいよ」という、了承の返事を返し、瓢箪へと口を付ける。
そして、始める前に酒を吞もうとして、
「よし、それじゃあ、俺が鬼役ね! はい、開始!」
「は? っげほっ!? えっ? けふっ!?」
唐突な開始が告げられて、盛大に咽てしまった。
吞む時の焼ける感じとは、また違ったものが、喉を焼く。
そんな状態の私に関わらず、隙有りとばかりに茂吉は、身体を前にして、こちらに向かって突っ込んでくる。
その伸ばした手の先が私の身体に触れるか触れないかのところで、その場をほとんど動くことなくひらり、と体を動かして躱してやった。
「う、わ、っとと!」
私の後ろに回ってしまった茂吉は、前のめりになって重心を崩しかけたが、なんとか倒れることなく、立ったままで姿勢を保つことに成功したようだ。
内心、見事と褒めてやる。
私は未だに少し咽ていたが、それをなんとか治めて言った。
「げっほ、けほ……。私じゃなくて、あんたが鬼の役をやるの? どうしてさ?」
私は、てっきり疑うことなく私が鬼をやるものだとばかり思っていたので、つい意表を突かれてしまった。
茂吉はもう一度私の方を向き直して、ばっとまたこちらに向かって飛び出しながら、答える。
「おりゃっ! っと……ほっ! 当たり、前、だよっ、とぉ! だって、っ! 萃香が鬼で! 俺が逃げる、なら、たぁりゃ!! 鬼『ごっこ』じゃ、ない、じゃんか! うわっ!」
確かにその通りかもしれないが。
ひらひらと、私はその場からほとんど動くこともなく、何度も触れようと手を伸ばしてくる茂吉の手を寸前で躱し続けて、最後にちょいと足を引っかけ、地に転ばしてやった。
技でもなんでもない、ただの鬼の視力の賜物である。
「どう? 敢えて動きまわって逃げる必要すらないでしょう? 私が鬼の方が、もう少し緊張感みたいなのは出ると思うけど?」
私が意地悪気にそう言ってやると、地に座り込みながら、茂吉は頬を膨らませて拗ねたように文句を垂れる。
「それ、説明されてた鬼ごっこじゃないよ。鬼役の俺からは、逃げないと駄目だってば……」
まぁ、確かにそうは言っていたが、要は触れられさえしなければいいのだから、別に駄目なわけではない。
ただ、このようなことが出来る『人』が少ないから、簡単に、逃げればよいと言ったのだ。
しかし、そう言った後に、再度、懲りずにこちらへと向かってくる茂吉。
何の策もなく愚直に向かってくることには鬼役としては感心しないでもないので、一応私も逃げ役を演じてやることにした。
だが、しかしこの場合、私は茂吉の言った条件通りに、後ろ向き、つまり、茂吉の方を見ながら後ろに進むのだが、これはあまり不利なものになっていない。
「ほらほらどうした? ちゃんと言われた通りにやってるよ」
たったったっと、私が前も見ずに上を向いて酒を呑みつつちょっと走ってそう言うと、茂吉は悔しげな表情を浮かべながらも、こちらを追って走ってきた。
それはやはり、人にしてはなかなかに速いのだが、いかんせん、人の中での括りなど、鬼の私には全く関係ない。
後ろ向きに、はた目からはふらふらと危なっかしそうに、茂吉から逃げていってやる。
しばらくその場をぐるぐると回っているが、茂吉は一向に私の保っている一定の距離から近付いてこれない。
そも、私はずっと後ろ、つまり茂吉の方を見て走ることになっているので、フェイントなどを交えようとすれば見てわかるし、意表を突く、ということがなくなる。
これならば目隠しをして、という条件を付けた方がまだいいだろうとも思うが、茂吉がそう言い出そうとする気配は無く、このままでやってみるようだ。
茂吉は山登りに慣れていて体力があるのか、ずっと必死で私を追って走っている。
はぁはぁと少し荒い息をつきながら、速度を緩めず必死で私を追う茂吉のその姿は、鬼役と言うには、どこか健気で弱いものであった。
※ ※
三十分もすれば、いくら体力があろうとも、所詮は人である茂吉は辛そうな顔になっていく。
常に全力で走りまわっているのだ、無理もない。
むしろ、よくここまで辛そうな顔もせずに追いかけているものだとも思う。
終わりの見えない目標を前にしていても、しかし中々どうして、諦めようとすることはない。
茂吉がさっさと鬼役を交代してくれと言えば即座に小ばかにしつつ変わってやるつもりであったのだが、なんとも負けず嫌いなものである。
しかし、逆に私がそろそろ飽きてきていた。
ずっと後ろを向いて、必死な顔で私を追う茂吉と距離を取り、ぐるぐるぐるぐると、自分の尻尾にじゃれ付く犬のように、同じ場所を移動しているだけなのだ。
洞窟の目の前の場所は、少し開けている、木々のあまり無い場所で、これといった大した障害物すらもない。
意味なくジグザグと動いてみたり、脚の動かし方を変えて、千鳥足の後ろ走り以上に走り方をしてみたりもしたが、そもそもの見えている風景自体に飽きてきた。
そこで、私は大粒の汗を掻きながら、今も飽きることなく真っ直ぐ私を追い続ける茂吉に声をかけることにする。
「ねぇ、ちょっといい?」
しかし、茂吉はそれに答える余裕もやはりないのか
「はぁ、っげほ……。はぁ、ひゅっ、はぁ、はぁ……?」
息切れして、声にならない状態で、なに? という視線だけを送ってきた。
ここまでこの少年を駆り立てる魅力が、この絶対に勝つことの出来ないであろう鬼ごっこにあるのかどうかは、甚だ疑問ではあるのだが、それを押し殺して、思ったことを言ってみる。
「ここだけじゃなくて、山の中も入っていっていい?」
つまるところ、同じ風景が飽きたから、別の場所に行ければいいと思って言ったのだが、よくよく考えるとそれは、私の逃げる範囲を広げることを意味していた。
後から気付いて、やっぱりいいやと訂正しようと口を開いたところで
「いい……よ……」
掠れた声で、茂吉はそう言ったのだ。
「へぇ……」
意図せず言ってしまった、私に有利な条件。
わかっていないはずもないだろうに、それを茂吉は簡単に認めた。
馬鹿にしているのかと思えば、そうではないようだ。
何処にもそんな余裕はなく、ただ、全力で私を追いかけているだけ。
おそらく、私が何処へどう行こうが、どれほど行動範囲が広くなろうが、私は今のこの付かず離れずな距離を保つだろうという信頼と、自分はそれを追いかけるだけだという、決意によって、簡単に答えたのだろう。
もっと言えば、茂吉は、意識をそのような勝負の有利不利の条件とは別の所へ割いているようにも見えた。
「なら、場所を変えていこうかな……」
そう言って、今までとは別の場へと向かうため、私は後ろを向いたままで適度に加減しつつ走る。
そして少しすれば、がさっと音がして、背中に葉の感触が伝わってきた。
そのまま方向を変えずに、葉、草薮の中を後ろを向いたままで突き抜けていく。
私が抜けた草薮を、少しして茂吉も同じように、私の現在進行で造り出している小さな跡道を辿って抜けていく。
葉の匂いが鼻につき、視界が今までとは別の緑に変わる。
それだけで、先程まで感じていた飽きが少し遠のいた。
「そう言えば、まだこの山の中を見て回ったりしてなかったね……」
後から必死で付いてきている茂吉を思考の片隅へと追いやり、山を適当に見て回ろうと決めた。
途中、前を向いていないために、何度も木々にぶつかっては少し位置をずらして走って行く。
その様子を見て、初めのうちは木で進行を邪魔された私に、隙をついて触れてやろうと一々気力を絞っていた茂吉だが、何度もひらりと躱してやると、ただ私を追うことだけに意識を集中させたようだった。
それでも、山の中は当然のようにまともな道にはなっておらず、私は特になんの問題ともしていないが、人にとっては随分と走りにくいものだろうに、どうしてか、茂吉は本当に辛そうな息を吐きつつも、必死でずっと私に喰らい付いてきていた。
そんなにこの遊びに勝ちたいのだろうか。
じっと、後ろを付いてくる茂吉を改めて観察してみる。
息をするのも辛いだろうに、もはやそれを意識することすら忘れ、虚ろではあるが僅かに残っている瞳の中の光で前にある私の姿を捉えて、汗にまみれた重い身体を動かし続けている。
人であるその身で、遊びとはいえ、鬼の私に勝ちたいと願うその姿の愚直さには素直に感心する。
そう考えると、私は、そのような人の妄念は、鬼たるものとして打ち砕いてやらねばなるまい、と改めて思い直した。
そして、後ろ走りに人の付き追い人を引き連れて、私はこの山の中を走りつつ、さて、何処に行こうかと、思いを馳せるのだった。
※ ※
山の中にある、綺麗な水の流れる沢や大樹を見て回る。
自然がどこか妖しく溢れるこの山を、視覚だけでない、全体の感覚で楽しみながら、適当に走っていると、しばらくして、元の洞窟のあった場所にまで戻ってきていた。
空を見ると、そろそろ茂吉の帰るであろう時間であった。
見れば、今まで弱音一つ吐くこともなく、ただ私を追い続けていた茂吉は、その場へと仰向けで倒れて空を見上げ、ぜぇ、はぁ、と荒い息を吐き出している。
私は少し近付いて、茂吉の視界に入ってやった。
「それで、このぐらいでそろそろいいかい?」
この遊びはもう私の勝ちだろう?
言外にそのような意味を含ませて、そう言ってやると
「そ、うだね……。うん、そろそろ時間だし、また明日。続きから、俺が鬼の状態からやろうね」
どうやら、日付を継続してやるらしい。
それほど鬼ごっこという遊びが気に入ったのであろうか。
今の方法を続ける限り、私に勝つなど不可能であるというのに。
そういって、茂吉はやがて一息入れて少し体調を整えると、またね、と手を振り、去っていく。
私はその小さな背を、酒を呑みつつ見送ってやった。
「変な人間……」
自然と口から言葉が漏れる。
それは、別に悪いわけではない。
しかし、かといって、良いわけでもない。
言ってしまえば、どうでも良いことであり、あくまで些末なことでもある。
「人と鬼で真剣に『鬼ごっこ』って……」
しかしながら、
「……っく、ははっ! あははっ! あっはは! あはははは!!」
愉快なものではあった。
私の額から流れてきた、たった一筋の汗は、指で弾くと、きらりと光ってどこかへ消えた。
感想での茂吉のうざがられっぷりに思わず笑ってしまいました。
誤字誤用、表現上のおかしな部分があれば、ご指摘お願いします
それと、全然関係ないですけど、もう12月ですね……(絶望