吾輩は、逸見エリカですが、何か?   作:蒼騎亭

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一月ぶりの投稿です。

少し言葉使いや文章がおかしいところはあるとは思いますが、仕様なので気にせず読んでくださると、うれしいです。


第八話「今日は、休日です」

 世の中は、休日という羽を伸ばす日なのに、私達機甲科の面々は燦々と太陽光が照らす中、機甲科専用プールの掃除をブラシでタイル一枚一枚を丁寧に、汗を流しながら洗っていた。

「副隊長―、こっちおわりましたー」

「ごくろうさまー、少し休んで頂戴」

「はーい」

 ヘトヘトの顔で私に報告するピンク色の水着を着た一年生らに休憩をするように言うと一年生らは嬉しそうに日蔭に隠れるように座り、私があらかじめ用意していたドリンクを飲みながら休憩する。

「ねぇ、エリカ。あたしたちも…」

 私の横で少し落胆したような顔でブラシを杖代わりにしている水色の水着…私達二年生の学校指定水着が少し小さく見える歩が私に休憩を言ってきた。そんな歩に私は睨む。

「お前は、口を慎んでプールのタイルを一枚一枚丁寧に洗いなさい。―――しかしよりによって社会のテストだけ落とすなんて…」

「面目ない」

 しょんぼりし肩を落とす歩。

「私達が禄壱先生にお願いしてプール掃除で赤点免除してもらえるように配慮したのだから働きアリのごとく人の倍働きなさい」

「―――副隊長らには、ほんとうにお手数おかけしました」

 何故私達がプール掃除をしているのか。その原因を作ったのは何を隠そう歩である。中間テストで、見事赤点をとりその免除として…こうして歩のしわ寄せのためにいらん子中隊のメンバーが集められた。私のドスが効いた口調と呆れ顔をしながら言うと歩は頭を深々と下げた。

そんな私達の会話を少し眠そうな顔で床を掃除する小梅がニコリと笑う。

「ふたりともーほんとうになかよしだよねー」

「そーいう小梅は、今回の中間テストは学年トップじゃない。さすが学年一の優等生くん」

「エリカちゃんらの教えがよかっただけだよー。」と、苦笑いをみせながらバケツに入っている水を静かに自分が洗った場所を洗い流す。

 そんなプールに純白といえる三年指定水着を着た隊長が現れた。

「みんな頑張っている?」

 周りを見渡しながら言う。その言葉に…

「大分、疲労が溜まってはいますが、まだまだやれると思いますよ。そうだろう皆」

『はい! まだまだいけます!』

 声を揃えて元気な声で言う。それを聞いて隊長も少し安堵した顔する。

「それは安心したわ。そうそう、直下」

「は、はい!」

 隊長に名を呼ばれた歩は、緊張した顔で返事をする。

「禄壱先生より伝言だ。『直下君、プール掃除が終わったら放課後でもいいから再テストする』のことだ」

「え″?! エリカ、これはどういうこと!」

 それを聞いて私を睨むように見る。

「―――行けばわかるさ。何せ禄壱先生は…ウチの顧問だしな…」

 不敵な笑みを溢しながら直下のブラシを握り締めて皆に聞こえないように耳元で言う。

「心配ないわ。禄壱先生直々に解説をしながらテストをするのだから、楽なものだ。それにこれで満点とれば…学年二位になるわよ。」

「最初からそれが…狙いだったのね。―――そこまでして私達をツートップにしたわけ」

「もし私が居なくなった時に隊長と副隊長を育成しておけば、引き継ぎが楽じゃない」

 と落胆的な言葉に歩は、大きなため息をこぼした。

「はぁ…あんた以外黒森峰の隊長は務まらないわよ。っていうか、みほさんみたいに突然いなくなってみろ。地獄の底まで追いかけて連れ戻してやる」

「ふふふ、そんなことがないことを“太陽の近くで優雅に飛ぶ鷹”のように祈ってあげるわ」

 歩の言葉をあざ笑うように言いながら皆のブラシを集める。

「それじゃ皆休憩を取ってちょうだい」

 皆に聞こえるように叫びながら皆のブラシを両手で抱えて倉庫に片付けにいく。

 そしてプールの倉庫の扉を開けた途端、倉庫内には、迷彩柄の下着に安産型のお尻をこちらに向けた秋山優香里が黒森峰の制服に着替えている途中だった。そして突然現れた私の顔を見たまま秋山は固まっていた。

「…………?!」

そして現在自分が恥ずかしい姿を私に見られていることに覚え出した秋山は、声がない悲鳴をあげるよう顔を真っ赤にして制服で体を隠しながらその場に座り込む。

そんな秋山を見た私はここにきた本来の目的であるブラシを棚に片付けながら秋山に話し掛ける。

「……アンタ、前もって私に連絡してくれたら、こんな“手作りの黒森峰の制服”を着る面倒が省けて済んだのよ…。」

「それはどう意味でありますか?」

私の言葉の真意が読めない秋山は、涙目になりながら訊き返していた。私は、小さく深呼吸しながら秋山の方に顔を向ける。

「……いいわ、それじゃ教えてあげる。もし大洗が決勝戦までコマを進め私達黒森峰と対戦するとするわね。そして貴女たち大洗が黒森峰に負けて統廃合された場合、貴女を含む大洗戦車道のメンバーをウチ(黒森峰女学園)で引き取ることになっているのよ。もちろん文科省との話はついているわ」

「?!」

自走砲の砲撃ごとく爆弾告白した私の言葉を聞いた秋山は、仰天と驚愕の事実に言葉を無くした。そして秋山はうつろな瞳で私を見つめ、真意を確かめるように小さな声で私に訊いてきた。

「―――…それは、まことのことですか…?」

「嘘だと思う?」

肩をすくめ真面目顔をしながら倉庫の入り口に歩く。そして入り口で立ち止まり顔半分だけ秋山に向ける。

「今、ウチの精鋭部隊があつまっているわ。早く制服に着替えなさい」

 その一言を残して倉庫を出る私。そんな私の言葉を聞いて秋山は慌てふためきながら半着替えのままだった制服を着て私の後をついてくる。

 

「皆! 少しこっちに注目してちょうだい!」

 手を叩きながら私は、大きな声で掛けると一斉にこちらを見る。それに少し後ずさりする秋山。

「今日一日、我が機甲科に見学にきた秋山優香里さんだ。皆、仲良くしてやってくれ。…秋山挨拶」

「は、はい! 秋山優花里であります! み、みなさんよろしくお願いであります!!」

 一歩前に出て敬礼する秋山。その姿に一年生らは、眼を輝かして日陰から出てきて秋山に歩み寄る。

「秋山さんは一年生ですか!」

「いいえ、二年生であります…」

「せんぱいだー!」

「先輩! どうして語尾に『であります』をつけるんですか?」

 幼いころから戦車道一筋であり、いろいろ周りと溶け込めない思いをしたウチの一年生らの質問詰めに秋山は、困惑した表情を浮かべながらも一年生らに説明をする秋山。

「実は、幼いころから戦車が好きでありまして…」

「お! それは私も同じです。可愛いですよねー戦車が動くときの履帯が~」

「お!! ですよね! ですよね!」と戦車話に盛り上がる秋山と一年生ら。

 そんな光景をプールサイドのビニールベットに寝転がる私。そこに少しぬるめのスポーツドリンクを持った小梅がそれを私に手渡す。

「はい、エリカちゃん」

「ありがとう。―――…小梅、今日一日あの子の傍にいてあげてくれるかしら」

 受け取り乾いた喉を潤したのち、小梅にお願いをした。

「秋山さんに? どうして。それに…ウチでは見ない顔だけど」

「―――秋山は、大洗の子よ。」

 突然の暴露に小梅は驚愕した顔をする。

「?! 西住さんが居るっていう大洗。……もしかしてスパイ?」

「スパイでしょうね。ご丁寧に自作でウチの制服を作るくらいだし。―――いらん子中隊のガレージを除く全ガレージと訓練風景を見せてあげて」

「いいの?」 

「―――構わないわ。秋山を通してみほに知ってもらう。黒森峰が本気だってところ」

 話している内に一年生らと仲良くなったのだろう、ロッカー室に駆け込む一年生ら。そして戻ってきたその手には携帯…端末が握られ、女子高校生らしい楽しい笑い声をしながらメールアドレス交換などする秋山達を見ながらそう言う。そんな私に小梅は意外だな、っていう面持ちで秋山の方を見る。

「王者の戦い方、か…。了解しました逸見副隊長。私赤星小梅が責任をもって秋山さんをご案内します」

「すまない、よろしく頼む。…あと、歩もつれていきなさい。もちろんテスト終わった後で」

「うん♪ わかった」

 嬉しそうに答えながら小梅も一年生らを混ざりながら秋山とメアド交換をしていた。

そんな普段は、規則規則と抑え込んでいる欲求を爆破…自由奔放になるいらん子中隊の面々を見守る中、隊長が私の背中に抱き着く。

「隊長である私を差し置いて、また勝手なことを…」

「いいじゃないですか。楽しいことはいいことです。」

「まったく、こういう時は自由主義なのだから」

 隊長は、私の頭にやさしく自分の頭をぶつけながら怒っていますオーラを漂わせる。そんな隊長にニコリと笑いながら誤魔化す仕草をする。

「すいません。これが私の自分らしさがあるので」

「あとで始末書120枚よ。覚悟しろ」

「はい、覚悟します」

隊長に始末書書きを命じられながら何気に隊長とふわふわしたトークを堪能する私だったりする。

 

 逸見とまほがプールサイドで百合オーラを展開している頃、それを一年生らと話をしながら見ている秋山と赤星の二人は苦笑い。

「逸見殿…女たらしであります」

「エリカちゃん、昔からあんな感じで何人、恋心を芽生えさせたことか…」

「赤星殿も、その一人でありますか?」

「私の場合は、頼れる友人であり少し乙女心を理解しきれていない姉を心配する妹かな」

「なるほど、言われてみれば…」

 まほが何気に乙女っぽい顔で逸見とじゃれ合う。そんな二人を見てそう答える秋山。

「―――だから、無理するエリカちゃんを見ているのはやっぱりつらいかなー。」

「わかります! 私も西住殿がつらそうにしている姿は見たくはありません!」

 赤星は、話題を変えるようにみほの事を聞く。

「―――みほさん、元気?」

「はい。戦車道を始まった頃は、少し元気はありませんでしたが、試合や練習をこなすにつれて…元気になっているであります」

「そーか。みほさん元気にしているんだね。安心した。―――事の発端は私たちのせいだから…」

「私、アレテレビでみていました!」

「―――情けない姿見せちゃってね。」

 秋山の言葉に表情を曇らせるよう苦笑いを浮かべながらビニールベンチに座る赤星。それにつられて秋山もビニールベンチに座った。

「あれはしょうがないと思います!」

「うん。だからエリカちゃんも無理して…あんな博打みたいな戦法をしたと思う。」

 当時のことを思い出しながら話す赤星。それを聞いて秋山も昨年の決勝戦を思い出すように、自分が見たままの感想を話す。

「パンター数両とフラッグ車であるティーガーⅠを残し、ありったけの砲弾を敵陣につき込みつつ、パンターの脚の速さを利用してプラウダの後方に回り込み、残り車輛を撃破した…戦法ですね」

「―――あれで何とかその場は乗り越えたけど、一歩間違えれば全滅していたかもしれない。うんうん、黒森峰全体に大きな被害があったかもしれない」

 切なくもあの時の苦悩を吐き出す赤星の言葉に秋山は無言になる。

「だから、私達はエリカちゃんが作った黒森峰いらん子中隊で、エリカちゃんがこれ以上身を削るようなことがないように頑張れたと思う」

 赤星は、改めて秋山を見て言う。

「だからね、秋山さん。今年の決勝戦は勝たせてもらうからね。逸見ちゃんの描く“今は遠き理想郷”を作るために」

「望むところです! こちらも負けません!」

 それに対抗するように満面の笑みで言い返す秋山。

 そんな二人の会話を物陰から聞き盗んでいた一年生らは、決意を改めにする。

「私達も、大洗に負けられないよ!」

「うん! 絶対に勝って…秋山先輩を黒森峰に来てもらんだ!」

「そして―――私達だけのお姉さまになってもらおう!」

『目指せ! 聖グロリアーナ女学院のリゼさん!!』

 準決勝の聖グロリアーナ女学院との戦いでリゼを憧れる一年生たち。そんな一年生らは、自分らの話に真剣に接してくれる秋山に意気投合し、そして自分達のお姉さまになってもらうために、決勝戦で大洗に完全勝利を飾って秋山を黒森峰につれてこようと一致団結するのであった。

 そしてプール掃除を終えたいらん子中隊のメンバーは、少し早いプール開きというご褒美を貰うことに。

「ヤッホーー♪」と、さっそくプールを堪能するように次々と水を張ったプールに飛び込むいらん子中隊たち。

そんな光景を管理する椅子に座った逸見が危険行為する一年生たちに怒鳴りつける。

「こら! そこ! もう一度やったらプール開きがなくなると思いなさい!」

「は、はーい」

 人を巻き込んでプールに入る行為を見た逸見が一年生ら叱った。叱られた一年生らは、しょんぼりしながら安全に遊ぶ始める。

そんな光景の中に一緒に遊ぼうと一年生らに水着を着せられた秋山もいた。秋山は、思わず周りのつられてはしゃいでしまった自分に恥ずかしがるように顔を赤くしている。しかし、その光景は元気溌剌の一年生の光景に揉み消されているのであった。

 プールを堪能した面々は、その足で各女子寮や練習に向かう。そんな中、赤星は秋山を連れ、学内の中庭を歩いていた。

「はい! よろしくお願いしますであります!!」

 赤星に嬉しそうに敬礼をする秋山。その姿にほんとうに他校の生徒なのか、と疑いたくなるくらい黒森峰に溶け込んでいる。

「(エリカちゃんが秋山さんを欲しがっているのが分かるかも。こんなに他校に溶け込める力って、いろいろ便利そうだもんね)」と、内心で思いながら最初に案内した場所に向かう。

校舎から少し歩くこと数分後、

「ここです」と、飛行場にありそうなアーチ型ガレージの中に入る。秋山もそれにつられながらガレージに入った。

「これが我が黒森峰が誇るパンター達です。それと奥にあるコンテナはパンターのパーツやそれに関係する部品など保管する保管庫になっています。」

 黒森峰の主力戦車であり重戦車の支援車両の役目を果たしている中戦車のパンターが収納されているガレージを紹介する。

「おぉ! これは1943年に―――」自分の前に停車するパンターの塗装を見て秋山は興奮した口調でそのパンターにあったエピソードを機銃のごとくぶちまける。

 次に赤星が秋山に見せたのは、プール掃除に不参加であった二年生らが中心となり第二グランドを使ってフォーメーションなど戦車運用方法を確かめながら自分らの技術向上を高めている練習風景がそこにあった。

そんな風景を見学した秋山は、目を輝かしていた。

「すごい!」

 圧倒される物量と統一された隊列の動きをしながら正確に的を射抜く黒森峰の戦車たち。それを見てさらに興奮する秋山。

そんな秋山にもっと驚いてもらおうと赤星は、ライト点灯によるモール信号で指示を出す。その指令を受けニヤリと笑うように縦一列に並び始める。

そして…

「目標は、七の台手前!」

 赤星の掛け声で一斉に動き始める。そして左右に体を揺らすスラローム走行しながら全車両が砲塔を回頭し、一斉に七の台手前の的を見た途端、88mmの砲門が火花を上げて砲撃を始める。そしてそれがすべて的に当たる。

 まるで昨年度から配備された日本陸上自衛隊の新鋭車輛一〇式戦車のスラローム射撃。それを見た秋山は、隣にいる赤星を見て訊ねる。

「赤星殿、もしかして…」

「驚きました? あの時代でもそして今の時代でも鍛錬と経験が必要と言われた、動きながらの砲撃」

「すごいです! これが黒森峰の」はかり切れない力、と言いそうになる秋山。だが、その言葉を察した赤星が苦笑いをしながら秋山に言う。

「というよりも伊藤さんたちの悪趣味ですね。」

「え? それはどういう」

「昨年の総合火力演習で陸上自衛隊の最新鋭の一〇式がお披露目された時《一〇式にできるんだ! 私達だってできる!!》とたった数カ月でスラローム射撃をマスターしたお暇二軍チームです。」

「え? 黒森峰にも二軍があるのですか?」

「人数も人数なので。例えば、逸見エリカちゃんが率いるいらん子中隊は《先鋭の勉強会》で、西住まほ隊長が直々に率いる一軍は《真面目な優等生》、そして伊藤さんらお暇二軍は《極めたオタク集団》と、わかれているんです。もちろん、今はすべて統一され、皆さん真面目さんですよ。

ですけど、こうして時々、オタクさん達が休み返上で自分の才能とスキルを磨いているんです。

おかけで整備班と伊藤さんたちの本来の部活である自動車部から〝練習のために″摩耗して部品交換をした請求書などがエリカちゃん達のところに山のように届いて、いつもお二人の頭を悩ましているんです」

 赤星は黒森峰の台所事情を苦笑の表情を浮かべながら話す。

「ウチに大洗とそう変わらないでありますね」

「はい。エリカちゃんから大洗の生徒会の事情は聞かされているから…大洗の生徒会さん達に同情してしまいます。

ウチも廃部など部員不足などって部活編成でいろいろ大変なのですよ。ちなみに私は生徒会の副会長です。」

 ポケットから副会長と書かれた腕章を取り出し、それを秋山に見せながらニコリと暴露する。

「え!?」

「そして我が黒森峰女学園の表の生徒会会長は、今から迎えに行く直下歩ちゃんなんです」

「それでは裏は…?」

「もちろんエリカちゃんです♪ あー見えて、戦車道と生徒会で忙しい人なんだ。でも副隊長に就任した頃から歩ちゃんにすべて任せて今は戦車道一筋かな。時々、重要な書類などは目を通してもらっているけどね」

「本当、逸見殿は大変そうであります」

「だから、私達生徒会と料理部や情報部で構成された《いらん子中隊》が全面的に支えているんです。さあ、次に行きますよ」

「は、はい!」

 次の見学場所に向かう。

 ―――…何カ所か歩いたところで、秋山は赤星に少し恥ずかしそうに言う。

「赤星殿、少しお手洗い…」

「そこを右に曲がってください。というか、案内しますね」

 赤星にトイレに案内された秋山。

 そして赤星が廊下で待つ中、トイレ内に入った途端、秋山は小さな窓から可憐に抜け出した。

「早く見つけないと…」

 秋山は、あらかじめ…みほより聞かされていた誰にも気づかれず各ガレージに向かえるルートを使い、黒森峰が決勝戦で使用するのであろう車輛らの捜索をはじめる。

 そんな矢先、物憂げな顔で、屋上のフェンスに寄り掛かるパンツァースーツを着て右腕に緑色の盾の紋章が描かれた腕章をつけた黒森峰の生徒が、校舎からいらん子中隊のハンガーに向かう秋山を目撃する。

「―――こちら風紀委員。不審な奴がいらん子中隊のハンガーに向かっているが…?」

《本当です!? すぐにその人を確保してください》

 携帯電話で赤星に連絡する。その連絡を受けた赤星は、秋山だと悟り急いで秋山確保を要請する。

「了解した。」

 電話を切る。そのまま屋上から飛び降りるようにフェンスを乗り越え、隣接する普通科の棟へ走り始める。そして走り幅跳びのように勢いよく飛び上がるのと同時にまるでスパイダーマンのように手首の袖からワイヤーが現れ、それが隣の棟の壁に設置されたワイヤーリングにひっかけて飛び移る。

それを繰り返しながら秋山よりも先にハンガーへ向かう。

 彼女こそ、昨年の決勝戦の一二号車の車長であり、みほとともに水没する三号戦車の中から赤星らを救助した一人。

「ーーー…まったく…退屈しないわね、この学校は…」

 一日一日が違う事件や騒動が起きる黒森峰女学園の日々。それを想い浮かべた途端、風紀委員は不器用な微笑みがこぼれる。

「さあ、副会長のご依頼だ。急がないとな…」飛び移る速度をさらにあげて秋山が向かう先にあるガレージへ急ぐ。

 

 

「ふぅ…やっと始末書を書き終えたー」

 秋山の無断見学で隊長に言われた反省文を届け終えた私は、自分の自室といえる副隊長室に向かう途中だった。

廊下の角を曲がりかかった時、突然前から秋山の顔が現れた。

秋山は私の顔を見た途端、逃げようとする。だが、日ごろから鍛えている反射力で秋山の左腕を掴む。

「ハイ、ストーープ。……アンタ、今どこに向かおうとしていたのかしら?」

「そ、それは…」

 腕を掴まれ、逃げられないと観念したのか、おとなしくなる。そして私の問いかけに秋山は目を泳がせる。

「おおむね、まだ見ていないガレージでも潜るつもりだったでしょう? 甘いわ。ウチはサンダースのようにフレンドリーじゃないわよ。」

 秋山の行動力にため息をこぼす私。それを聞いて秋山は顔を逸らす。

「―――来なさい」と、秋山の腕を引っ張りながら副隊長室に連れていく私。そして秋山は黙って私に引かれてついてくる。その途中、風紀委員の黒江と出くわす。

「どうしたの?」

「……副会長より逸見の後ろにいる子を捕獲せよ。の命を受けた」

「もういいわよ。この子は私が預かります」

「了解」

 そういった途端に忍者のように私たちの前から姿を消す。…さすが黒森峰の情報部《くノ一》だ。

 ここで彼女のことを紹介しょう。彼女こそ、昔より九州地方を守ってきた忍一族の一人、篠野 楓(しのの・かえで)。 身長は170㎝、ロングの黒髪で、赤色フレームのメガネを普段かけている。しかし、夜間になるとそのメガネを外し、漆黒の世界に身を投じるのである。

 篠野さんの紹介をしている内に副隊長室に来た私達。

「ソファーに座りなさい」と、秋山に言いながら本棚から三冊のアルバムを取り出しテーブルの上に置きながら自分の副隊長席に座る。秋山は無言でソファーに座る。しかし、秋山の目は私に説明を欲していた。 

「―――…気になる?」

「……はい」

「特別よ。―――…篠野は、我が黒森峰の情報部(隠密部隊)の部長をしている。だから、易々と逃げられないってわけよ」

「…つまり、私はどこに行こうともすぐに包囲されている、と」

「そういうこと。まあ、今回は大目に見てあげる。もちろん本来であれば、情報操作、記憶改ざんするのだから今から覚えておきなさい」

「―――…その言い方、少し頭にきます」

「そーいうアンタの手にあるのは何かしら~♪」

「こ、これは! 逸見殿が私に自慢そうに置いているからじゃないですか!」

 秋山の手には、先ほどテーブルの上に置いた幼いころみほと私達、クローバーズのアルバムを見入るように見ていた。それに指摘され顔を真っ赤にして次のアルバムを手に取る秋山。そんな秋山の姿を見ながら椅子に寄り掛かるように深々と座る。

「―――で、どこに行こうとしていたわけ?」

「そ、それは…」

 再び顔を私から逸らす秋山。その反応に私は秋山が内心で考えていることを言い当てるように言う。

「第四ガレージ。あそこに…決勝戦の秘密がある、と考えている。そうでしょう?」

「?! 逸見殿は超能力者ですか、私の心を…」

言い当てられた秋山は驚愕した顔で言う。だが、その秋山の言葉に私は思わず顔を歪める。

「私が超能力者? ―――よして、あんな自己中で、我儘で、傲慢で、自分の最強しか興味がねぇ奴らと一緒にしてほしくねーぜ」

「逸見殿? 口調が…」

 不機嫌に秋山に話している内に自分の本性が出てしまった、…俺の男口調に眼を点にして驚く秋山。それを見てあざ笑うように頬を吊り上げた。

「気にするな、秋山。こっちがオレの素だ。……長い間、俺様口調を封じているとなー。今みてぇに感情が高まるとポロッと出てしまうんだ。まあ、この姿で話すと違和感あるかもしれんが我慢しろ」

 バレてしまったこともう隠すことないので、俺は机の上に両足を上げて脚を組む。

「それとさっきのネタバレをするとな。お前の性格上、言いたい言葉が顔に出る。」

「そんなに私顔に出でています?」

俺にそういわれ、自分の顔を手で隠すように恥ずかしがる秋山をさらにひやかす。

「あぁ、かわいい顔に【私は、西住殿のために…この身を投じる覚悟であります!】って書いてあるぜ♪」

「か、かわいい」

 俺の言葉に秋山は真っ赤にして俯いてしまう。…やっぱり男知らねー乙女は可愛いぜ♪

「―――ごほん! 少しいいだろうか?」

「?!」

「―――これは本当に珍しいですね、禄壱先生」

 咳払いとともに我が戦車道の顧問禄壱誠一先生が立っていた。それに驚く秋山と禄壱先生の登場に私も眼を点にしていた。

「逸見君、君に一つ頼みがあるのだけど…」

「なんでしょうか?」

「今度、蝶野さんとデートをできるように…おねがいできないだろうか」

「蝶野教官とデートでありますか?!」突然自分が顔知りの名前が出たことに秋山が驚きのあまりソファーから立ち上がり先生を見る。一方の私は、禄壱先生の突然すぎるお願いにテーブルに両肘をつき、サングラスとひげを伸ばした指令風味に尋ねる。

「―――理由を聞かせてもらえますか」

「―――…そろそろ私も過去との決着を付けたいんだ」

「お言葉ですが、禄壱誠一〝二等陸佐″殿。元富士学校富士教導団戦車教導隊所属であった貴方の方が連絡つきやすいのでは?」

 私の言葉に先生は険しい表情して答える。

「―――だからこそ、君の力を借りたいんだ。あのお二人に気に入られている君しかできないことだろう」

「……わかりました。何とかしましょう。但し、デートコースは自分で決めてください。」

「ありがとう。それじゃ…。あ、秋山君」

「は、はい!」

 私の言葉を聞いて喜ぶ先生。そして部屋を出る寸前の先生に自分の名前を呼ばれる秋山。

「君らがウチに来るのを首をなーがーくしているよ、グデーリアン」

 その言葉を残して先生は部屋を退室した。

「秋山さん、モテモテね」

「うわぁ!? 赤星殿!!」

 湧き出てきたように突如現れた小梅に顔を青ざめて驚く秋山。そんな秋山を見て小梅は嬉しそうにテーブルの上にあるアルバムを手に取りながら話す。

「益々、秋山達を…みほを連れ帰してこないといけないわね。」

「ど、どうして…」

「その答えは…22年前の大洗戦車道が無くなったきっかけにあるわ。―――すべてはあの瞬間から始まっているからな」

「―――? 逸見殿それはいったい…」

「あとで、アンタのお母さん辺りに聞きなさい。―――最後の隠し場所知っているかもしれないわよ」

秋山をからかうように言いつつ、振り返りざまに溢すように言った最後の言葉は二人に聞き取れないくらいの小声だった。

その声をかき消すように三時間目の終わりを知らせる鐘が鳴る。

「鐘もなったことだし…昼食にしましょうか。小梅、学内にいる面々に『鷹が登る』と知らせてあげなさい。…秋山は私と一緒にきなさい」

「了解です♪」

「了解であります」

 その鐘を合図に立ち上がりながら秋山を連れて機甲科棟の家庭科室(厨房)に向かう。

そして…

「さあ! お腹いっぱい食べやがれ!!」

『《《いただきま―――――――♪》》』

 食堂室が満席になるほど意外と学内に残っていた機甲科の戦車道の隊員たちが一斉に挨拶し、お祭り騒ぎ。

「まったく、そんなに焦らなくても…」と餌付けされたようにごはんを頬張る一年生らの姿にあざ笑うように言いながら厨房に戻る。

 そしてその一年生らの囲まれた秋山はモテモテだった。…沙織がいうモテ期到来か、と思うくらい秋山の周りにはいらん子中隊の一年生から聞きつけた他の一年生らが秋山を一目見ようと群がっていた。

「せんぱい、あーん♪」

「ずるいー! 先輩、次は私のを!」

「ははは…恐縮であります」

 次々と自分の口に食事を入れようとするウサギさんチーム以上のハイテンションな黒森峰の一年生チームに圧倒される秋山だった。

 

「…うぅ…」

 結局一年生のあーんで普段食べないお腹が満腹となり、その少しボテ腹を抱える秋山の背中を摩る小梅。

「大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫で…」

「もう少しヘルシーにしようかしらね」

 普段の黒森峰は激しい練習が基本で、失った体力を回復するためにと少しカロリーが高めに作っているのが痣となったみたいね、と秋山の姿を見てメニュー変更を考える私。

「少し体を休める場所に行くわよ」と誰にも見つからない場所として秋山を案内したのは…我が生徒会しか入れない秘密のカレージ。

「入って」

 専用のカードをカードリーダーに通してパスワードを入力してガレージの中に入る私達。そこにあった廃棄されたように置かれた戦車を見て秋山は少し目を細める。しかしよくみるとその戦車らには見覚えあるマークが施されていることに気づき驚愕した表情をしていた。

「こ、これは?!」

「どう? 驚いた」

「驚いたところじゃありません! どうして《大洗》のマークを付けた戦車があるのです?!」

 私たちの前にある三両、あの時代履帯なしの車体まで開発されたE100がマウスと同砲塔を搭載した形で一番部屋の奥に置かれている。

「これこそアンタたちがウチに来て欲しい理由の一つよ」

 と、一番近く…私の一番のお気に入りである設計図上は、車体はヤークトティーガーで砲塔はティーガーⅡの砲塔を搭載したE75(仮)を優しく撫でながら答える。

「本当にどういう意味なのですか?」

「それは私達が勝った後に教えます」

 疑うように私を見つめる秋山に短砲身の88㎜を搭載したラングに腰を下ろすように座った小梅が秋山にそう話した。それを聞いて秋山は、困惑した表情を浮かべながらE100に近づく。

「これが…幻超重戦車E100。その全面装甲はマウスに優る厚さ250㎜で…」

 E100に触れる内に和んだように秋山は頬をスリスリして嬉しそうに話しかけはじめる。それを横で見ている小梅も少し怖がった顔で私のところにやってくる。

「秋山さんって、弩戦車オタクなんですね。歩ちゃんと同じ反応を」

「同じ虫の穴は同じ行動をとるのでしょう。まあ、やりたいだけやらせてあげるわよ」と、E75の車内に作った寛ぎの場(個人ルーム)でネットゲームを楽しむ。

その横に眠そうに座る小梅が舟を漕いでいていた。

 ―――数十分後、E100の上で正座して反省をする秋山。

「…申し上げないであります。己を見失っていました」

「いいわよ。まあそろそろ大洗に帰る時間じゃないの?」

「そ、そうですね。でも…」

「送っていくわよ」と、秋山をドラッヘで大洗まで送り届けた私。

 

 ―――……ドラッヘ飛行中……―――

 

「それじゃね」と大洗から飛び去る逸見達を見送った優香里は、その足で家路につく。

「ただいまー」

「おかえりなさい、今日一日どこに行っていたの?」

 一日大洗に居なかった優香里を心配そうに出迎える母芳子。そんな母の姿を見て逸見の言葉を覚え出した優香里は母に尋ねる。

「…少々黒森峰に…あの…お母さん。黒森峰女学園の逸見エリカ殿が母さんに戦車の在処を聞けって言われたのですが、知っていますか?」

 半信半疑で母に話すとその話を聞いて母芳子は苦笑いする。

「……エリカちゃんがそんなことを…」

「お母さん、何か知っているのですか?」

「……ついてきて…」と、決意した顔をした母とともに店を出る。

 そして数分歩いた場所、そこは大洗の自動車部の特別顧問をしている…春上厳十朗、秋山の祖父が経営している自動車整備工場だった。

「ここって…」

 自分の知っている場所に戸惑う優香里。

「親父―いるかー」

 工場入り口前で普段とは想像できない口調で、祖父を呼ぶ母親。そこに油とオイルで汚れツナギを着た祖父が現れた。

「めずらしーな、芳子が行事以外でウチにくるとは…」

 お正月やお盆など恒例行事以外実家に帰ってこない娘に驚いていた。

「〝アレ″取りに来たわよ。」

「?! やっとか。20年も整備していた甲斐があったってもんだ!!」娘の言葉に祖父は嬉しそうに工場の奥に姿を消す。

そして工場の奥から普段聞き慣れているエンジン音が鳴り響く。

「―――これが答えよ」

 工場の倉庫の奥から黒森峰で見てきた、それもパンターⅡの試作車輛と言えるパンターG型後期が優香里の前に現れた。さらに横側面は【十五】と車体前後左右に大洗のマークが描かれていた。それを見て優香里は母の方を見て驚愕した顔で見つめる。

「おかあさんって…」

「優香里に黙っていたけど、お母さん元大洗戦車道の副隊長…だったの。そして…西住みほさんのお母さん西住しほちゃんは私の後輩で、逸見エリカのお母さん逸見マリカが隊長をしていた…わ」

 過去の大洗戦車道の受講者だった頃のことを覚え出しながら寂しげに答える。

「そ、それじゃ! 他に…も」

「残念だけどもうこの一両しか大洗には残っていないわ。残りはすべて黒森峰に…20年前の敗北条件としてマリカ隊長としほちゃんとともに没収されたから。ただ、辛うじてこの子と四号、三突だけはしほちゃんの西住流の力で残してもらえた」

 パンターGを触れながら優香里にそう答える。

「その後、進学した大学で知り合った淳五郎さんと結婚して、大洗で理髪店を経営しながら優香里を生み、淳五郎さんのヘア―をマネした優香里に少し戸惑っちゃったけど…、私と同じ趣味…戦車に興味を持ってくれて…母さんね、すごくうれしかった。優香里の中にまだ私の【戦車道への愛】が受け継がれているって…ほんとうにありがとうね、由香里」

 嬉しそうに優香里を抱きしめる母に優香里は少し涙目で小さく頷く。

「そして…いつか、孫が大洗の先生やワシの稼業を継いで戦車道を復活してくれると願って自動車部の特別顧問をしておったのじゃよ」

 パンターGの操縦席ハッチを開きながらそう言う祖父の言葉に優香里は笑うように言う。

「その前に生徒会が復活…したのであります」

「―――星野たちから聞いたが…まあ、最高の状態に整備はしておいておる。持っていけ」

「はい! さっそく…」

 元気良く返事をしながら優香里は電話をする。

 

 秋山が黒森峰から帰ってきた翌日。

 大洗の戦車の車庫前に自動車部らの運転で春上自動車整備工場からパンターGが運ばれてきた。それを見てみほらは驚いた顔で秋山を見つめる。

「マジ、ゆかりんってすごいよねー!」

「秋山さんは戦車の見つけるのが達人のようですね」

「……本当、お前の能力は図り切れない可能性を持っているんだな」

「―――本当、優香里さんってすごい人だよね」

「そーですか?」

 パンターの発見の連絡した後、母よりみほと自分達らとの関係を黙っているように言われた優香里は、誤魔化すように笑う。

「でかしたぞ、秋山! これで黒森峰…決勝戦…勝てるぞ!」

「今日、レストア完了したポルシェティーガー。そしてパンターG、勝てますね……!」

「秋山ちゃん―よくやったよー」

 生徒会の三人からも褒められる秋山。

「さて、パンターGには…」と、パンターGに搭乗する人を考えた時だった。そこに歴女チームのカバさんチームの車長エルヴィンとともに五人組の集団が現れる。

「隊長、戦車道を受講したいっていう子らを連れてきたぞー」

 エルヴィンが五人を紹介する。

「はじめまして…」

「あの、受講したい、ですけど…」

「この前のプラウダ戦見せて、やりたくなって…」

「……遅いかもしれないけど、戦車を動かしたです!」

「―――…エルヴァンを見て、同じ第二次のオタクとしては…悔しくてねー」

 ツインテールの赤毛の髪をした少女が恥ずかしそうに挨拶をし、それにつられるようにショートカット…そど子風味のブラウン色の髪をした小柄の女の子が顔を真っ赤にして受講したという。

そしてその二人の左横に立つ灰色の髪をし、どこかエリカに似た雰囲気をもつ少女が少し照れくさそうに言う。そしてその三人の後ろに立つピョンピョンと飛びながら答える少女。

そしてドイツ空軍の軍服を着た…鼻の上に一本の傷を持つ凛とした上級生らしい雰囲気を漂わせる少女がエルヴィン歴女らを見つめながら答える。

「これでいけるか?」

 少し心配そうにみほに訊くエルヴィンにみほは頷きながら答える。

「…大丈夫だと思います。パンターって意外と乗りやすいので…ただ操縦手が一番苦労すると思います…」と、黒森峰のパンター隊の訓練風景を見ていたみほが苦笑いを浮かべながら答え、それを同意するように秋山も顔をしかめる。

「今私達が持っているマニアルじゃ…」

「……あ、パンター系のマニアルだったら…」と、カバンより黒森峰から拝借してきた教本を取り出す。

「あ、秋山さん!?」

 それを見てなぜか顔を赤くして奪おうとするみほ。その反応に秋山は不思議がる。

「ん? どうしたのでありますか?」

「ど、どうして! 私が黒森峰に置いてきた教本を秋山さんが持っているの!?」

「え?!」

 みほの告白に秋山は驚愕した表情を浮かべながら戸惑う。そう秋山はまだみほに黒森峰に行ってきたことを話していなかった。

「じ、じつは昨日…黒森峰に…スパイに行ってきたのであります。」

「だ、大丈夫だったの!?」

 みほは黒森峰の厳重なセキュリティを知る者として秋山が怪我、または記憶改ざんされていないかと心配する。

「大丈夫です。小梅殿に、改ざん免除してもらいましたから…」

「ほ、ほんと…よかった…」

 秋山の言葉を聞いて胸をなでおろすみほ。

「でも、どうして私の教本を?」

「そ、それは…(まさか、逸見殿がワザと…)」

 黒森峰から帰る際、テーブルの上に置かれていたアルバムと一緒に置かれていた教本。それを…貰った。だが、それが逸見の策略だと勘づいた秋山は教本を開く。するとそこには一通の手紙が入っていた。

 それを読み始める。

「【拝啓、大洗の諸君。首の洗浄は済んだかしら? 四週間後の決勝戦の地であなた達を叩きのめしてあげるわ。それまで精々、負けないように足掻くことね。敬具

 逸見エリカほか黒森峰生徒会一同より】…」

「エリカちゃんらしい手紙。あ、裏にも何か書いてある」

「PS【少し早いかも知れないけど。優香里、全員の制服の寸法をメールで知らせなさい。もちろんみほお嬢様もです♪】―――…」

「全員の制服の寸法…?」

 それを読み終えた秋山は、角谷の方に顔を向けて訊ねる。

「―――…会長」

「ん? 何かな、秋山ちゃん?」

「文科省から《決勝戦に負けた際、戦車道の部員全員は『黒森峰』に編入する》という通達がありましたでしょうか?」

「?! 河嶋!」

「いいえ! 文科省から何も…」

 秋山の言葉を聞いて角谷は河嶋に聞くも河嶋は首を横に振る。

「今すぐ確認!」

「り、りょうかいです!」

 角谷にそう言われた河嶋は急ぎ生徒会室に走る。

「―――今のところは聞いていないよー」

 冷静を取り戻したような口調で秋山に答える角谷。それを聞き少しエリカの言葉を疑い始める秋山。

「……逸見殿のハッタリでしょうか」

「―――…幼馴染としては…それはしないと思う。多分…」

 小さい頃から一緒にいるエリカの性格を把握しているみほは考え込む。そしてある事を覚え出す。

「お嬢様? 優香里さん! その手紙貸して!」

「は、はい」

 秋山はみほに手紙を渡す。そして手紙を太陽に向けて透かすとそこには別の文字が書かれていた。

『もちろん、文科省は大洗が復活した年に優勝すると思っているわよ。だからこそ、私達の提案を易々と受理したと思うわ。だからこそ、全力でかかってきなさい。あと、アンタのラグガキした教本は秋山に渡しておいたから、よろしく♪』と書かれていた。

「もうエリカちゃんの意地悪!!」

 エリカの真意を知ってトラフグのように頬を膨らませて怒るみほ。その姿に周りの面々は少し微笑みをこぼす。

「隊長もまだまだ子供だな」

「みほさん、かわいいです」

「みぽりん、落ち着いて、ね」

「そうだ。幼馴染のすることだ…」

「西住殿、お、おちついてください。逸見殿も…」

 みほの顔を見て笑うエルヴィン、みほの普段見せない表情に和む五十鈴とそのみほを見て同じ幼なじみに苦労する武部とその苦労を掛ける冷泉。そして自分のせいでご機嫌ななめにした責任を感じる秋山。

そんな不機嫌顔をするみほを皆で宥める。

「というか、その逸見というやつ、やけにこちらの戦車の規模を知りすぎじゃないか?」

「まさか、我が学園にスパイが!?」

「それはないと思うが…」

 不思議そうに言うカエサルの言葉にエルヴァンは驚いた声でそう言う。そんな二人の言葉に難しそうな顔で鼻の上に傷を持つ少女がそう否定をする言葉を言う。

 そして新しく加わったメンバーとともに決勝戦に向けて練習がさらに熱が入った。

 




秋山殿および大洗のメンバーを欲しがる逸見。その真意は…


みたいに書いてみましたが、難しいですねー。

あと、大洗仕様のパンターGは、ヤークトティーガーの装甲など使われているので、とっても遅いですよ♪

的な?

―――では、次回に向かってパンツァーカイル!!

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