ソードアート・フェイト   作:おぐけい

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岸波白野はパーティを組む

第50層・アルゲード

「さぁ、こいつをどう料理してやろうか?」

 エギルの店の中で自分はエギルと先ほど手に入れたアイテムとにらめっこをしていた。

「だがよぉ、白野…そいつをうまく調理できるほどのスキルを持った奴なんて俺でもしらねーぞ」

 そう、問題はそこなのだ。先ほど迷宮区の帰りにラグーラビットと言う、S級の食材を手に入れた。まず、久しぶりに赤原礼装を使いラグーラビットの周りに剣を刺して逃げ道を塞ぎ、そしてラグーラビットを倒して、今に至る。

「丸焼きって言うのもなー……何なら売るってのはどうだ?このS級食材だったら結構いい値で売れるぞ」

「ん、お金は別に困ってないからなー」

溜息をしながら、このラグーラビットをどうするか悩んでいたら肩を突かれたような感触があり後ろを振り向くと。

「白野君!」

 そこには笑顔で手を振っているアスナと隣にむっとしている人がいた。むっとした人物は、服装から血盟騎士団の団員の一人だと思う。

「珍しいね、アスナが下の層に来るなんて」

 そう言うとアスナも少しむっとしだしたように見えた。

「もうすぐ次のボス攻略だから、生きているか確認しにきたの!」

 そ……確か前の事件でアスナとフレンドリストに登録したからこういう風に来なくても確認はできるはずだが……素直にアスナに会えたことは嬉しいし、アスナみたい人に気にかけてもらえていたとは思いもしなかった。

「そうか……うん、アスナありがとう。俺もアスナが無事で嬉しいよ」

「な、誰も嬉しいなんて言ってないんだからねっ!」

 自分たちが話していると後ろの血盟騎士団の団員は咳払いをして自分を牽制しているかのように見えた。そう言えば前の事件で確か食べた、あの美味しいバゲットサンドはアスナが作った物。

「シェフ発見。アスナ今料理スキルどれくらい?」

「私ね、実は……料理スキルがコンプリートしたのだけど」

「へぇ、すごいね!」

 このソードアート・オンラインに置いて色々なスキルがあるがそのうちの一つを極めるとは、アスナはすごいな。しかも、アスナは攻略組最強のギルドに入りながらそんな時間がどこにあったかは不思議だが。いやまて、それは、それは……つまり前食べたバゲットサンドは、あの味で料理スキルコンプリートしていなかっただと!?

 

「アスナ、S級食材があるのだけど、これで料理作ってくれないか?アスナにも好きなだけ分けるから。」

「それなら半分!ってこれラグーラビット!?こんなS級食材見たことない!すごいじゃない白野君!!」

 半分か……まぁ、でもアスナがいないとこのラグーラビットは食えないし、最近はアスナにお世話になっていたし

「うん、それくらいでいいならお願いするよ」

「やったー!」

 アスナは嬉しそうに言うと、後ろにいたエギルがこちらを見ていた。

「お、おい、白野。俺たちダチだよな!?一口くらい……」

 ああ、そうだな、エギル。でもこのお肉、二人用なんだ。

「おーい!白野、そりゃあねーだろ!!」

 まだ、エギルの声がするが、これ以上いたらもっとエギルに小言を言われる前にこの店から出よう。

「それで、料理どこでするの?」

「それは……」

 考えてみると自分の住んでいる所にはロクな調理器具はないし、流石にアスナの家ではダメであろうし。

「はぁ、しょうがないなー。どうせ、白野君の所にはロクな道具ないでしょう?私もどうせなら美味しく食べたいし、今回だけ食材に、免じて私の部屋を提供してあげなくもないけど?」

 それは嬉しいな。それならば、もっと美味しい料理が期待できそうだ。

「今日はここまででいいです。お疲れ様」

 そうやって話していると、アスナは後ろを振り向き一緒にいた血盟騎士団の団員の一人にそう言った。

「しかし、アスナ様その様な得体も知らないような者をご自宅に伴うなど」

「この人の素性も腕も私が保障します。貴方よりも10もレベルが上よ。副団長として命令します。貴方はここで帰りなさい」

 そうアスナは護衛の男に言い、俺の着ている制服のベルトを掴んで引っ張っていった。

「早く行かないと日が暮れちゃうから!」

 アスナはそう言うと、自分を引きづってこの場を離れていった。

 

第61層・セルムブルグ

「大丈夫なの?あんなことして」

 アスナの家に向かっている最中、自分の先を歩くアスナに先ほどの行為について聞いてみた。流石にあの人が可哀そうとは思わないが、それでもギルドの方針だったとしたらアスナにも何か罰則があるではないかと思ったからだ。

「いらないって言ったんだけど、幹部には護衛をつける方針にしたからって。昔は団長が一人一人声をかけて作った小規模ギルドだったの。でも人数が増えていつの間にか最強ギルドって呼ばれ出したあたりから、なんだかおかしくなっちゃった。」

 アスナはそう言い終わった後、自分の方を振り向いた。

「まぁ、大したことじゃないから気にしなくてよし!」

 

 記憶を失っているが、これは確信をもって言える。そう、同年代の女の子の家に、しかも一人暮らしをしている所にこの岸波白野は来たことがないと。

「おじゃまします」

 アスナの部屋はとてもおしゃれでかなり広かった。

「これどれくらいかかっているの?」

「んー部屋と内装で400万コルくらいかな」

 あれ可笑しいな、自分もそれと同じくらいか、それ以上稼いでいるはずなのに。えっと確か稼いでいる殆んどは麻婆ラーメンに使っているからかな?

「それじゃあ、着替えてくるから、待っててね」

 そういってアスナは別室に行ってしまった。その間自分はアスナの部屋を見ていると、すぐにアスナは私服姿になり戻ってきた。

「お待たせー。それで白野君はいつまでその制服着ているの?」

「いや、これは他の衣装よりはましかなと思って」

「ふーん、変なの」

 そう言ってアスナと自分は台所に向かった。

「これがS級食材かー、それでどんな料理にする?」

 アスナはラグーラビットを出せば自分に今日の夕飯を決めていいのなら

「麻婆ラ「ああ、それ却下で。てかそれお肉殆んど使ってないじゃない?」

「それじゃあ、シェフのお任せで」

「りょーかいです。それじゃあビーフシチューにしましょう!」

 そう言うとアスナは料理器具を出して料理を始めた。このSAOの中でも料理をする際実際と同じように切ったり、煮込んだりしなくてはならない。ゲームの中だからと言って、包丁で切った振りをしただけでは料理が出来ないらしい。すごい高性能である。

「本当はもう少し手順があるんだけどね、SAOの料理でも人によって多少の個性が出るみたいなの。だからこそやりがいがあるけどね。それじゃあ、シチューができるまで他に付け合わせ作るからね」

 アスナはオーブンに鍋を入れると、野菜などを出してサラダなどを作っていった。そうしてシチューが出来上がれば、なんと名状しがたい匂いがしてきて、それはとても食欲を刺激し、お腹が空いたのを感じた。

 そうして、アスナの料理の腕もありシチューはもちろんのこと付け合わせで作ったサラダも美味しかった。

「ふぅう、2年も過ごしているのにS級食材なんて初めてだわ。今まで頑張っていて生き抜いていて本当に良かった」

 食べ終われば、アスナはしみじみとそう言っていた。

「……なんだかこの世界で生まれ今までずっと暮らしてきたみたいなそんな気がする。」

「……」

 それは確かに二年もここにいたらそう思ってしまうのはしょうがないだろう。でも自分はその感覚がわからない。記憶を失っている自分は、自分の故郷、家族、自分がどういう人物で、何が好きなものだったのか。今の自分は帰るべき外の世界がどんな所だったのか、思いだせない

「……みんな馴染んできている。でも私は帰りたい。だってあっちでやり残したことがたくさんあるから」

 やり残したことか。きっと記憶が戻れば自分もやり残したことを思い出せる気がする。

「……ああ、やめて。今までそんな顔した人から何度か結婚を申し込まれたわ」

 け、結婚ですとー!!いやいやそんなこと思ってはいなかったですよ!!

「はぁ、そんな様子だと他に仲のいい子とかいないでしょ」

 な、何だ。アスナにからかわれただけか

「白野君はギルドに入る気はないの?私もよくは知らないけど、昔ギルドに入らないって言ったらしいじゃない。もういいんじゃなの?70層超えたあたりからモンスターのアリゴリズムにイレギュラー性が増しているような気がするの……」

 確かにこの70層を超えてからというものモンスターのイレギュラー性はアスナの言う通り見える。最初は苦労したが今では何となくだが読める気がする

「それにソロだと、想定外のことに対処できないし、いつでも緊急脱出出来るわけではないじゃない」

「安全マージンはしっかり取っているよ」

「……私が言いたいのは、もしもの話しよ?それに白野君は攻略組最強のソロプレイヤーって呼ばれているのはそのレベルだけじゃあないんですからね。聖竜連合のディアベルさんもうちの団長だって白野君のことは一目置いているんだから、その目には」

「別に対したことはしていないような気がするけど?それに最強って言ってもアスナのとこの団長さんには勝てる気はしないよ」

「それでも負ける気もしないでしょう?」

「……それは」

「それに信じられないのは、ボスでもたった一度観ただけで行動パターンを読めるなんてありえないわ!!」

 それは別に特別ではないと思う。それにボスだってよく見れば行動パターンは何となくだがわかるような気がするが……

「……ここ最近のボス攻略で死者が出ないのは、白野君の咄嗟の指示や力が大きいのだからそこは自覚を持つように!白野君が死んじゃったら、その……全体の士気も下がっちゃうのだから勝手に死んじゃ駄目なんだからね!」

「……うん、そうだね。アスナの言う通りかもしれないな。アスナ心配してくれてありがとう」

 自分はアスナが心配してくれて嬉しいと思う。そうだ、記憶がないことはしょうがないのだから、今をまず大切にしよう。確かに記憶がないが、それも大体二年前の話しだ。もう二年もここにいるのだから、この世界に来たばっかりみたいに記憶がないと嘆くのではなく。この世界で過去ができた。それは自分一人では出来なかった。きっとアスナがいて、クラインがいて、エギルがいて、サチがいて、シリカがいたからできた。喜びも、悲しみも、憐れみも、後悔も、全てそれが自分の過去なのだから。

「……ま、まあわかればよーし!!あ、そうだ久しぶりに私とコンビ組まない?」

 ん?

「今週のラッキーカラー黒だし」

「それは……うん。そうだね。ここに来たばっかりの時みたいに久しぶりに組むのはいいかもね」

 自分はそう言うとアスナはメニューを開き、自分をパーティに誘ってきた。自分は一つ返事で〇を押した。

 

 そして夜が深くなる前に帰るため、アスナの家から出た。

「今日はお礼を言っておくわ。ごちそうさま」

「それはこっちのセリフだよ、アスナ。アスナがいなかったら、こんなに美味しいシチューは食べられなかったよ。また食べたいな、アスナの手料理」

「……それなら、また作ってあげてもいい……かなー」

 そうやってアスナは言うと空を見上げた。そして今日はここでアスナと別れた。明日が楽しみに思ってしまう自分は可笑しいかな?

 

第74層・カ―ムデット

 ここでアスナと待ち合わせしているが中々アスナが来ない。っと思っていると後ろから転移してくる人物が来たため後ろを振り向くと

「きゃー!避けて!!」

 と言う声と共に人一人がこちらに突っ込んで来た。咄嗟のことだったので反応出来ないでいると、そのまま倒れてしまい。先ほど転移してきた人物の下敷きになってしまった。そして手には何やら柔らかい感触があった。触っているとさらに

「きゃー!!!!」

 と声がしたと思ったら左頬に刺激が来て、そのまま飛んでしまった。

「いてて」

 そうして立ち上がれば目の前にいたのはアスナだった。何故か胸のあたりを両手で押さえながら此方を睨んでいる。

「アスナーおはよ」

 そう言うとアスナはこちらに走ってきて後ろに隠れるとさらに転移してくるひとが現れた。それは昨日アスナの後ろにいた護衛の人だった。

 

「アスナ様勝手なことされては困ります。ギルド本部まで戻りましょう!」

「いやよ!大体あんた!朝から家の前に張り込んでいるのよ!」

 え、えええー!それは流石に引いてしまう。

「こんな事もあろうかと一ヵ月前からずっとアスナ様の監視の任務についておりました」

「それは団長の指示じゃないわよね!」

「私の任務はアスナ様の護衛です。つまりアスナ様のご自宅も」「含まれないわよ!馬鹿」

 それは素直にセクハラではないのか?いあやー彼の目には何やらけがれた物があるような気がしていたがもしかしてそれか?

「聞き分けがないことを仰らないでください!」

 その瞬間護衛がアスナに手を伸ばしたがその前にその腕を掴んだ。

「えっと、アスナが嫌がっているんだから、やめて貰えないかな?アスナの安全はしっかりと護るから」

 そう言うとその護衛は納得しなかったのか、自分を睨んでいる

「ふざけるな!貴様のような雑魚プレイヤーにアスナ様の護衛が務まるか!私は栄光ある血盟騎士団の」

「貴方より、白野君の方が強いわ。レベルなんて関係ない」

 自分が雑魚扱いされて一番むかついていたのは何故かアスナの様だった。アスナの方を見ると少しイラッと来ているのがわかった。

「アスナ様!そこまで言うのなら証明してくださいますよね!!」

 そう言うとその護衛は自分にデュエルを申し込んできた。アスナの方を見ると少し申し訳なさそうにしていた。アスナは自分が言えばこの護衛も簡単に引き下がると思ったのだろう。

「わかった。構わない」

 そうして自分は初撃決着モードを選ぶと相手は剣を構えた。

「見ていてくださいアスナ様。私以外に護衛が務まらないことを証明してみせます」

 自分も剣を構える。構えるよりも相手を観察した。そして時が少しずつ過ぎていく。まだ開始まで40秒以上はある。そうしていると周りのやじうまたちも集まってきた。中には賭けをする人たちもいた。護衛は両手剣、自分は片手剣を構えた。そしてあと数秒でデェエルが始まる。大体同時に動いた。相手はソードスキルを使おうとしていたが、そのスキルを自分が持っているソードスキルを相殺させた。相手は少し笑みを浮かべていた。あんなにアスナが言っていたのにたったこれ程の腕しかないのかと思われたかもしれない。これが自分の実力だ。

自分はすぐに態勢を整え次の手を考える。自分はアスナのように神速とも呼ばれていないし、そもそも最強のソロプレイヤーと呼んでいるのはごく一部の人たちだけだ。それに自分がやっていることなんて種を明かせば簡単なことだ。ただ相手の動きを見て覚えてそれに対処する。ただ、それだけだ。そして相手を追い詰め、相手の攻撃を躱し、相殺し、相手の手を塞いでいった。地味かもしれないがこれが自分の闘いかただ。そして自分は相手の隙を見て相手に一撃与えた。

「もういいわね。貴方の負けよ、白野君がどうして団長や他のギルドから最強のソロプレイヤーと呼ばれているわけもわかったわね。クラディール。副団長として命令します。本日をもって護衛役を解任、別名があるまでギルド本部で待機していなさい」

 クラディールはこちらをみて睨んでいたがすぐにあきらめて帰って行った。

「ごめんなさい……こっちの問題なのに巻き込んじゃって」

「いや、別に大丈夫だよ」

「今のギルドの息苦しさは攻略だけを最優先して規律をメンバーに押し付けたことが原因だと思うし」

「それは違うと思うよ」 

 少し落ち込んでいるアスナに向かって行った。自分は慰めでもなく本心からそう言った。

「アスナのように自分にも厳しく出来る人がいたから、攻略だって進んだし、自分の力なんて微々だけど、アスナがギルドの副団長としてやって来たことは全体の力になってたと思うよ。自分にはできなかったことだから」

 そう言うとアスナは少し笑顔になっていたような気がした

「まぁ、ありがとうと言ってあげる!」

 そうして自分たちは迷宮区に向かった。

 


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