ソードアート・フェイト   作:おぐけい

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岸波白野は愛を語る

 有り得ない。この場でヨルコさんが消えてしまうなんて。デュエルだってしてないし、そもそも、ここは部屋の中だ。システムに守られているはずだ。それに中層にいるプレイヤーがあんな短剣で殺されるはずがない。

 外を見て見ると、屋根の上に立ってフードをかぶっている人物を見つけた。あいつがヨルコさんをやったのか?

「アスナ、後はお願い!!」

 そういい、自分は窓枠から飛び降り隣の屋根に飛び移ろうとする。まぁ、ギリギリで屋根の淵を掴み、何とか屋根の上に立ち後を追いかけようとする

「白野君!だめ!」

 アスナが言いたいこともわかるがこのまま、あのPKの犯人を逃すことはできない。自分は屋根に乗って走っている人物を追いかけるため屋根から屋根に飛んで追いかけるがフードの被った人物は転移結晶を取り出してこの場から転移しようとしている。

「転移……」

 この場からどの場所に転移するか聞き耳を立てるが、その瞬間教会の鐘が鳴り響きフードの人物がどこに転移したのか聞こえてこなかった。

「……」

 しかし何かがおかしい、カインズ、ヨルコさんが消えた時、そして屋根の上にいたフードの人物が転移した時……何か見落としている……

 そう考えながら、先ほどいた部屋に戻る前にヨルコさんが刺された短剣を拾ってみるが、別に変わったことは見つからない。この短剣で中層プレイヤーが死んでしまうのか?考えていても答えは出ない……

 とりあえずアスナの所に戻ろうと宿舎に戻り、二階に上がって部屋に入ると、アスナは持っていたレイピアを抜いて構えていた。自分を見ると安堵するとともに、怒ってもいる見たいだがそのどちらも押し殺して叫んだ。

「ばかじゃないの!?無茶しないでよ!」

 言いたいこともわかるが追わなくては手がかりを手に入れることはできない。

「それで、何かわかったことはあるの?」

 それを察したのかアスナはそう聞いてきた。いや、まぁ、ないんですけどね

「わからなかったよ、追ってすぐに転移結晶で別の所に転移された。転移した場所を聞こうとしたけど、鐘が鳴って聞こえて来なかった。それにフードも被っていたし男か女かもわからなかったし」

 シュミットに意見を聞こうとシュミットの方を向くと、シュミットは大きな体を震えながら小さく丸まり、震えて装備してある鎧がカチャカチャと音を立てていた。

「違う……」

 小さな声でそう言った。

「違うって?」

 アスナにも聞こえたのか、シュミットに尋ねた。

「お、俺も一瞬だけど見た……あれはグリムロックじゃねー……グリムはもっと背が高かった。それにあのローブはグリセルダの物だ」

 その言葉に自分とアスナは息を呑んだ。死人がヨルコさんやカインズを殺した。そのことが頭をよぎるが、確かに前例はあった。だが覚えてない。記憶にもない。なのに何故自分はそう思うのか?

「幽霊なら何でもありだ。圏内でPKをするのも楽勝のはずだ!だって死んでいるんだからな。はは、いっそSAOのラスボスも倒してもらえばいい。だって最初からHPが0なんだからな」

 まるで何かを怯えることを否定するようにシュミットは笑いだした。まるで自分が次の犠牲者になることが確定しているようだった。

 この事件は最初から可笑しい。例え幽霊でもHPを減らすことができない場所でHPを減らすことはできるのか?

「……シュミットさん。私は幽霊じゃないと思います。だってアインクラフトで幽霊がでるなら今まで死んでいった3,500人だって出るはずです。そのグリセルダさんだけってのは可笑しいと思います」

 アスナは穏やかな声で震えているシュミットに声をかけた。だがシュミットはまだ震えている。

「あんたらは知らないんだ……あの人は強くて毅然としてた……だけどあの人は不正や横着には……アスナさん以上に厳しかった。もし自分を罠にかけた人がいたら絶対に許さない……幽霊になってでもそいつらに裁きをくだすはずだ……」

 それからはシュミットは自分を聖竜連合の本部まで送ってくれと言われたので送っていった。シュミットを臆病者とは自分もアスナも言うことができなかった。

「ヨルコさんのこと……残念だったね」

 シュミットを送った帰りにアスナがそう話かけてきた。だが自分が考えていたのは違うことだった。

「ねぇ……アスナは目の前で人が死ぬのは初めて?」

「……いえ、違うけどどうして」

「カインズにヨルコさんが死んだ時……何かが違ったんだ」

 そう何かがおかしい。自分が見たことのあるのとは全く同じな様で違った。

「でもカインズさんは死んでいたわ。それは昨日二人で確認したじゃない?」

 そう昨日確認したカインズの死は確認した……だけど、ヨルコさんはまだしていない?

「アスナ!アスナはヨルコさんとフレンド登録していたよね!?」

 そうだ。カインズの死は確認したが、まだヨルコさんの死は確認してない。アスナもそれに気づいたのかウインドウを開いた。

「……信じられない……ヨルコさんが生きている……」

 やっぱりか……あれは死んで消えたのではない……転移しただけだった。やはり自分が感じていた違和感はこれだったのか。確かに転移と死んで消えるのは似ている。だが似ているだけで全く同じと言うわけではない。

「だからあの二人は転移したんだ。多分だけど自分で刺していたんじゃないのかな?鎧や服の耐久値が切れる瞬間で転移すれば、圏内PKを演出することができる。それにヨルコさんはずっと後ろを見せなかったのは短剣が刺さっていたからじゃないのかな?」

「白野君。それじゃあカインズさんはどうなるの?確かに死んでいたのは昨日だし」

「……」

 あーそこは考えていなかった……

「だって昨日ってことは同じ日に……共犯者が誰かを殺したのかしら?」

「んー……でも、そんなにうまくいくかな?」

 自分たちがそう考えているとアスナは閃いたのか

「……そうよ!わかったわ!昨日は二回きているのよ!」

 え?

「わかってないみたいな顔しないで……だからこの世界に来てもう一年はたっているでしょう?」

 ああ、なるほどー、つまり二人で見に行って確認したのは別のカインズってことか……

「でも、そしたら二人の目的は?」

「多分だけど……グリセルダさんを誰が殺したか探しているんじゃ?」

 なるほど……それじゃあ、この事件は二人に任せるか……

「何ほっとした顔をしているんだか……それにもしかしたら、シュミットさんを殺すんじゃ?」

「それはないと思うよ……ヨルコさんは多分自分たちを信頼してアスナとフレンド登録したんじゃないかな?」

 多分殺しはしないと思う。それに……あの人は殺してないと思う。

「……それに全てが終わったら、話すつもりじゃないのかな?」

 きっと彼は軽い気持ちで何かをやってしまったのだろう。

「それでこれからどうするの?」

「どうするって言われても……もう自分たちにやれることもうないし……二人で隠れて見ているとか?」

「それは……シュミ悪いんじゃないかな?」

 そうして二人で話して二人で隠れて見るのではなく、アスナのウインドウでヨルコさんがどうなっているのかだけ確認することになり、近くの宿に入り二人で客室を借りた。

 そうやってアスナから大した動きはないと言われぼーっとしていたが、やはり夜になってお腹が空いてきた。確かに今日は色々あって朝から何も食べていなかった。アスナもお腹空いているのではないか?ならば自分が買ってくるか。そう思い立ち上がるとアスナは何かいい匂いをした物を手にしていた。

「はい」

 それを手渡ししてきた。つまりくれるってことだろう……

「ん、ありがとう」

 いい匂いのする物の包み紙を取ると、なんと大ぶりのバゲットサンドだった。

「うまそう……」

 そう呟くとアスナは多少嬉しそうにしているように見えた。

「そろそろ耐久値切れちゃうから早めに食べたほうがいいよ」

 そう言われて一かじりすると何というかうまい。ここに来てこんなにも美味しいものは食べたことがなかった。

「美味しいよ、アスナ!これどこで売っているの?」

 モグモグと食べながらアスナに尋ねてみた。

「売ってない」

「え?」

「お店のじゃない。私だって料理くらいするもん」

 ……な、なんだと‼?これが手作りだと!?お弁当以外の手作りは何故か自分の中でマズイという潜在意識があったが……まさか、こんなにも美味しく作れる人物がいたとは……

「って白野君何泣いているの!?」

 だって、だってこんなにおいしいのはお弁当以来だ……まぁ記憶はないけれど……

「美味しいよ、アスナこれだったら毎日食べていたいなー」

「……ってなに馬鹿なこと言っているのよ!?馬鹿じゃないの!!」

 ん?自分は何か変なこと言ってしまったのか?それはマズイ。もうアスナの料理が食べられなくなってしまうかもしれない!!

 

 

 

 

数10分後 第19層 十字の丘

 何だ、この状況は!?シュミットやカインズ、ヨルコさんはともかくとして、何でオレンジプレイヤーが三人!?あのオレンジギルドは……殺人ギルドの≪ラフェイン・コワイン≫

「ああん、誰かと思えば攻略組ソロプレイヤー最強と呼ばれている黒制服の剣士・岸波様じゃないですかい」

「お頭―……三体一だ……やっちまおうよー」

「まさか……アスナの言った通りとは思わなかったなー……うん、取りあえずそこのシュミットは聖竜連合の幹部だ……このことはディアベルにも伝えてある……今引けば見逃す……それに大体10分で来るし……君たちとは何回やっても負ける気はしない」

 まぁ、このゲームの中のみ話だが……自分は前にこのギルドと闘ったことはあるし、アスナに言われて、解毒ポーションを飲んで、回復結晶も持ってきた。

「……黒制服の剣士。いつかお前を地べたに這わせてやる」

 そう言い、ラフェイン・コワインのメンバーたちは帰って行った。

 

 約30分前

「まさか、シュミットさんがグリセルダさんを殺していたなんて……」

 アスナがふと言ったことがきっかけだった。

「え!?……多分だけどシュミットは誰も殺してないよ」

「え!?」

 アスナとの共通認識があってはいなかった。アスナはシュミットがグリセルダさんを殺したと思っていた。自分はシュミットの言ったこと「もし自分を罠にかけた人がいたら絶対に許さない」と聞いてシュミットは実行犯ではないと感じていた。

「……私はてっきりシュミットさんが何かしらの罠にかけてグリセルダさんを殺したと思っていたけど……つまりそれじゃあ、一番得した人って……」

「ねぇ、アスナ結婚した場合……もし相手が殺されたらどうなるの?」

 アスナが言いたいことも大体わかってきた。この事件はもっと根が深かかった。

「……それは……多分だけど、生き残っている人、つまりグリムロックさんの物になるか……足許でオブジェクトされるはずよ……つまり指輪は盗まれていなかったのね!」

 つまりこの事件の元になった指輪事件の主犯はグリムロックだった。

 

「全部終わったら、きちんとお詫びに行くつもりだったんです。と言っても信じてもらえなでしょうけど」

 オレンジギルドの連中がいなくなればヨルコさんは安心したのか自分を見ながら言って来た。

「うん、信じるよ。それよりヨルコさんはこの計画をどうやって立ててあの武器はどうやって入手したの」

 そう、これがこの事件の一番の手掛かりになるはず。ヨルコさんはその質問を聞いてカインズと目を合わせた。

「グリムロックに作ってもらいました。彼は最初気が進まないようでしたが」

「でも僕らが一生懸命頼んだら武器を作ってくれたのです」

 やっぱりこの事件の真相は、だがそれを彼らに話していいのか?でもそれは自分が決めていいことではない。彼等には知る権利がある。

「残念だけど……それは彼の計画の一つだったんだ……」

 自分はこの事件の真相について話した。まぁ、殆んどアスナが解決したようなものだったが。

 

「グリムロックが?あいつがあのメモの差出人!?そしてグリセルダを殺したのか?」

「きっとオレンジギルドかレッドに依頼して自分の手を汚さないようにはしただろうけど」

 そしてこの計画をしたグリムロックは、この計画を利用して自分を知る人物を全員殺しこの事件を闇に葬ろうとした。

 

「居たわよ……」

 しばらくするとアスナの声が聞こえてきた。振り返りアスナの方を見るとそこにはアスナ以外にも人がいた。それこそグリムロックなのだろう

「やぁ、久しぶりだね…みんな」

 アスナに連れられてやってきたグリムロックはことの真相を話し始めた。

 

 グリムロックとグリセルダは元の世界でも夫婦だった。それはもう仲のいい夫婦だったらしい。そして夫婦でこのデスゲームに巻き込まれたが、グリムロックはこのデスゲームに怯えたが妻であったグリセルダは生き生きし充実したようにみえていたらしい。自分が愛したユウコを愛したまま殺した。

 自分は絶句してしまった。信じられない。それに気づいたのかグリムロックは自分の方を向いた

「君にもわかるさ、探偵くん……愛情を手に入れそれを失われようとした時にはね……」

 違う。それは愛ではない……自分の中にそう感じるものがあった。愛とは何かはわからないでも。それは違う!

「いいえ、間違っているのはあなたよ

貴方がグリセルダさんに抱いていたのはただの支配欲だわ!!」

 アスナグリムロックに力強く言った。

 

 アスナの言う通りだ。グリムロックは愛してなどいなかった。

 

それに愛とは理由を語ってはいけないものだ

 

「グリムロック……自分は確かに愛情を手に入れてないけど……でも愛はわかる

多分愛とは

 

君が

貴方が

好きだから

 

触れていたい

 

これだけの理由でいい。」

自分はアスナの手を握った。そしてグリムロックを見つめ、自分なりにゆっくりと、そして強く言った。ただ好き。それだけでいいのだから。ただ好きというだけで愛は肯定される

 

そうしてグリムロックは膝から倒れた。多分自分がやったことの大きさに気づいたのではないか?

 

そうしてグリムロックは元ギルドのメンバーに連れられていった。

「それで……白野君いつまで手を握っているの?」

「あ、ごめん」

 アスナに言われ自分は慌てて手を離した。

「それで……何で私の手を握りながら愛を語ったのかしら?」

 怒っているのかアスナはそう聞いてきた。確かに自分はアスナの手を握り、自分なりの愛を語ったが、それはうまくは言えないが、アスナの手を握ろうと思ったのは自然にそう思えたからだ。それを説明しようとしたらアスナは少し笑顔になった。

「ねぇ、白野君はさ……もし自分が愛して結婚して自分の知らない、隠れた一面が出た時……君ならどう思う?」

 そんなの決まっている

「何も変わらない……それも愛することができる気がするよ」

 自分がそう感じているし、そんな人物でありたいと思っている。だからそれも愛したい。

「……そう……」

 どことなくアスナは嬉しそうな顔に見えた。

「そんなことより私お腹すいたー」 

 確かに結局朝日がでてしまい一日中忙しかったような気がする

「二日も前線から離れちゃったし、明日から頑張らないと」

 アスナがそう言っていると、ふい後ろを見ると女の人がこちらを見ながら微笑んでいた。ああ、この人がグリセルダさんなんだ……。自分はアスナの肩を叩きアスナに後ろを向いて貰った。

 そしてふと気づくとグリセルダさんは消えてしまった。

 


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