とあるフリーの科学術式   作:ジャックフロスト

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……やっぱり禁書って面白い。ロシア編を読み返してみたけど、やっぱり面白い。

アズマくんはロシア編まで生き残れるか(笑)


交わらない線

 第六学区に新しく建設されたレジャースポット『ディストル・パーク』半径一キロ以上を巨大なドームで覆ったこの施設は一人の常盤台中学生によって作られた……といっても過言ではない。学園都市でも屈指のお嬢様学校『私立常盤台中学校』に所属する大能力者≪レベル4≫アイビス・エルフィン彼女が出資の大半を担っている。

 

 巷では今後チェーン展開するための一号店だとも噂されているが彼女がこの施設を建設した理由はたったの一つ、自分好みのレジャースポットがなかったから無いのなら自分で作ってしまおうというなんとも豪快かつ自己中心的な理由だった。

 

 利益無視で作られたこのテーマパークは随所にアイビスの嗜好が織り込まれている、お嬢様が金に物を言わせて買い上げた土地に建つこのドーム型のテーマパークは言ってしまえば巨大なドーム状のお化け屋敷なのだ。和洋関係なく世界各国から集めた神話民話を取り入れ作られたこの巨大なお化け屋敷はアイビスが幼少期熱心なクリスチャンである両親に育てられた記憶が関係している。本人の無自覚レベルではあるがそれに影響され作られたこのお化け屋敷は大の大人でも油断すれば失禁してしまうレベルの怖さに仕上がっている。

 学園都市の進んだ科学力はこんな所にも影響を及ぼしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな進んだ科学力によって作られた極めて現代的なお化け屋敷の中で夜霧灯夏は本日二度目となるため息を吐き出した。常盤台中学の冬服に茶色のローファー化粧をしなくとも通りを通れば十人中十人が振り返るほどのどこか知的な雰囲気を漂わせる整った顔立ちそして足元まで伸ばし茶色の髪の毛をツインテールにしているそれがただいま絶賛困惑中の夜霧灯夏の姿だ、そんな彼女の腰元にすがりつき顔をうずくめているのは灯夏の親友である御坂美琴だ。

 服装はほとんど灯夏と同じであ唯一違う点があるとすれば美少女と呼べるレベルに整った顔を涙でぐしゃぐしゃにしている一点だけだ、そしてこの一点が現在進行形で灯夏を困惑させる原因となっている。

 

 「……美琴。貴方がここに来たいと言い始めたのではありませんでいたか?」

 

 「だ、だって!!ここがお化け屋敷だなんて知らなかったんだもん!!」

 

 「何がだもん!ですか、驚きすぎて幼児退行してないでください。罵ろうともそんな泣き顔じゃいつものように罵れませんのよ」

 

 

 そう、この大の大人でも失禁するほどの完成度を誇るお化け屋敷へ行きたいと言い出した張本人が入口から数メートルで既にノックダウンしてしまっているのだ。灯夏は腰元にすがりついている美琴の頭を優しく撫でながら数メートル後ろの受付カウンターを見つめた。

 その受付にはよくホテルで使われているようなわずかに曲がった高そうな木のテーブルに車輪が付いた業務用のイスが設置されていた、さらにそこでは二人の受付嬢が業務用スマイルではない素の表情で苦笑いし灯夏に同情の視線を送っていた。

 

 数分前、この場所へたどり着いた灯夏はまず最初に違和感を覚えた。開店初日さらには開場して数時間たったはずのレジャースポットのはずなのに来場者の姿が少なすぎたのだ、しかもこのテーマパークは正面の入場ゲートから中の受付まで二十メートルほど歩かなければいけないのだがその間もまったく人の姿が見えなかった(もちろんその間にも来場者を驚かせるギミックが大量に用意されていた)その理由が中を歩き始めればよく分かった。

 

 明るい受付があるフロントから一歩奥へ進めばそこは本格的な闇が支配するお化け屋敷へと姿を変える、左右を壁で覆われその間は二メートル弱程度しかない上を見上げるとそこには何もないがそのせいで遠くから聞こえてくる無機質な金属音や来場者の悲鳴が聞こえてくる。左右を壁で覆われさらには頭上から絶え間なく甲高い女の悲鳴やノコギリで肉を叩き切るような生々しい音が聞こえる追い打ちに目の前は完全な闇であり受付で手渡された懐中電灯がなければ何も見えない。

 

 さらに灯夏と美琴が居る通路は本当に入口であり数メートル進むと大広間に出る、そこから来場者はいくつにも区分けされたブースへと入っていき出口を自力で見つけ出さなければならない。

 

 受付でなぜか契約書にサインさせられたことを思い出すとその内容が灯夏の頭の中に浮かび上がった、その内容とは『入場し、この中でいかなる対応をされようとそれを法的証拠とし起訴あるいは損害賠償を求めることは出来ない』というものだった。

 

 アメリカでは割とポピュラーなことだが日本でこれを行わせることはそうそうない。なるほど設計者が気合を入れすぎたわけかしら、灯夏は極めて冷静に考えながら足元の泣きじゃくる少女へと視線を落とした。

 目と目が合い僅かに黙り込んだ二人だったが、

 

 

 「ごめん灯夏…………腰、抜けちゃった」

 

 

 親友のうめき声に対してため息で返事をすると灯夏は美琴の体を肩で押し上げるように持ち上げ奥へと視線を向けた。

 契約書にはこうとも書いてあった『途中退場は体調に支障があった場合のみ認められる、それ以外の場合どのような状態であっても途中退場は認められない』なるほどこんな場所に来る物好きはそうそういませんわ灯夏は一人心の内で笑いながら物好きな親友の体を支え奥へと進んでいった。

 

「ま、まだ進むの灯夏?……わ、私これ以上耐えられる自信ないんだけど」

 

 「貴方が行きたいと蒔いた種ですわ、きちんと美琴が回収しなさい。それにここを抜けるには出口を探す以外にありませんのよ、途中退場は不可……そう契約書にサインしたじゃありませんか?」

 

 「あ、あれ、サインなんかしたっけ……」

 

 「昔から熱くなると周りが見えなくなりますからね美琴は、そのおかげでどれだけ私が苦労したものか。小学生の頃はファンシーなパジャマをお泊まり会の時に持ってきて周りから鋭い視線で見られた時や常盤台の寮で荷物を運び入れる際にファンシーな下着が見られて食蜂の女王モドキにいじられた時も苦労したんですよ」

 

 「そ、それとこれとは話が違うじゃない!!しかもなんで私の下着の話ばっかりなのよ!?」

 

 「ふふ…………意外と元気ですね美琴、これなら出口まで頑張れるかしら?」

 

 

 灯夏の励ましもあって美琴はゲコ太シリーズが販売中止になったような表情のままだがなんとか入口の通路を抜け、各ブースへと続いている大広間へとたどり着くことができた。ここへつくまでの間も学園都市の優れた科学力が容赦なく美琴を襲い掛かっていた。ホログラフィティを使用した頭に刺さった矢やこびりついた返り血がリアルな(小学生が気絶するくらいに)落ち武者に始まり、四方向から立体効果を狙った女性の怨念ボイスや謎の文字が書いてあり近づいただけでなぜか美琴の能力が暴走した血文字ゾーン(美琴命名)などなど常盤台の超電磁砲を恐怖のどん底へ叩き落とす仕掛けが満載だった。

 

 二人がたどり着いた大広間は西洋の不気味な洋館を思わせる場所だった大きさはちょっとした体育館くらいあり広さはで縦横二百メートル程度ある、全体的に薄暗いがさっきまで灯夏達が通っていた通路に比べると何倍も明るかった非常灯風にデザインされた明かりが大広間を照らしており受付で渡された懐中電灯を使わなくても十分に歩ける。どうやら休憩室の役割もあるようでいろんな所に木製のベンチが置かれおり飲料の自動販売機が五、六台まとまって設置されている。

 

 一見来場者への配慮があるように思えるが壁には人間の腕のレプリカがランダムに埋め込まれているし、世界中で起きた怪事件や猟奇事件が解説されたプレートが設置されておりどうやって調達したか知らないがその事件で使われたらしい凶器が展示されれいる。さらに大広間の奥にある各ブースへ続く通路にはそれぞれ両開きの木製ドアが設置されている、さっきの通路とは違いどこからか聞こえてくる悲鳴や機械音が聞こえないあたり完全防音のようだ。 

 

 

 「…………はぁ、まったく。こんなところに持前の科学力を使うのではなくてもっと役立つことに有効活用して欲しいものですわ」

 

 ぼやきながら近くにあった木製のベンチに腰掛けると、肩に何かが倒れ込んできた。たいして驚かずにすぐ隣へチラリと流し目を送ってみると、少年マンガの熱血ボクサーに比類するような燃え尽きた美琴の姿があった―――どうやらここで一旦休憩のようだ。

 

 誰もいない大広間の中で灯夏は小さく息を吐き出し制服の紺系の柄色チェックスカートのポケットから携帯電話を取り出した、画面に表示された時刻は午後一時三十分。レジャースポットにとってはかきいれ時のはずのこの時間帯、あまりに少ない来場者の数に灯夏はどこかで疑問を感じつつもそれを振り払った。

 

 

 

 まずは目の前の障害≪美琴≫をどうにかする、話はそれからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は遡り、時刻は午後零時ジャスト。土御門元春と夜霧アズマを乗せたバンは次の仕事場である『ディストル・パーク』へと近づいていた、改造されたバンの後部座席では土御門と夜霧の二人が着々と準備を進めていた。今回のターゲットはフリー……というよりはどこの宗派にも属していない流れ者の魔術師、それくらいならばどうということもないただの駆除作業だが今回は事情がやや特殊だ。

 

 土御門がアレイスターから受けた説明によると相手の数は三人、元々同じ宗派でもない魔術師が団体行動を取るのはめずらしく今まで過激な行動を控えていたせいなのか三人に対する情報は少ない。夜霧に言わせれば度胸も無いモグリの魔術師としか言いようがないが、その中の一人は以前夜霧が倒した魔術師だ。その為、行動目的が不明でなぜ『ディストル・パーク』を襲うのか分からなったが夜霧は土御門へある情報を言い渡した。

 

 

 「何?……妹が学園都市に居る、だと」

 

 「ああ、名前はアイビスと言うらしい。飛行機の中で俺に襲い掛かってきたアイツの姿は一言で言えば盲信あるいは執拗だな、科学の世界を根本から見下しているザ・魔術師っていう奴だったよ。……乗客の中に居た超能力者の御嬢さんを使ってその妹を取り返そうとしていたようだ」

 

 夜霧は半袖の白色のシャツに拳銃用のホルスターを装着しそれを隠すために灰色のジャケットを羽織った、紺色のダメージジーンズと白色のスニーカーを履いておりスニーカーはナイフが飛び出るように二足とも改造されている。土御門は青色のハーフパンツを履いていて地肌に直接唐草模様のTシャツを着ている、金色に染めた頭髪と同じ色のチェーンネックレスを首に下げている。土御門も他人には見えないように銃で武装しておりポケットには雑貨店に置かれていそうな折り紙が入っている。

 

 

 「アイビス…………つまり魔術師共は常盤台のお嬢様をさらうという訳か、こりゃぁ傑作だな」

 

 「美女に野獣は付き物さ、この前手合わせた時はまったく歯ごたえがなかったが……学園都市に入り込むってことは霊装を一新している可能性があるな」

 

 「夜霧、俺達は現場に着いたら別行動だ。こっちは頭数が向こうよりも少ない、ここは分散して効率良く叩こう。俺は客として正面から行く、その前に人払いをしておくが間に合わず何人か入るかもしれん。注意しておけ」

 

 「分かった、それじゃ……俺は職員用の出入り口から中に入る。出入り口はIDでロックされているようだが……まぁ、なんとかする。それから警備室に侵入する、それで監視カメラから顔認証システムを使って三人を探してみるよ」

 

 

 夜霧は土御門から手渡された電子辞書のような端末をジャケットのポケットへと入れるとバンのテーブルの上で組み立てていたハンドガンをホルスターへと仕舞う、反対側にもう一丁いつも夜霧が携帯している術式用のハンドガンも仕舞い込んだ。

 スプリングフィールドXD―――数多の戦場を切り抜けてきた愛銃であり夜霧は妹の次に大切にしている戦友である、術式用に改造されているが通常の弾丸も難なく発射できる。もう一丁もXDであるがこちらは術式用ではなく通常のハンドガンだが術式用のXDと弾倉数を合わせるために弾倉が十六発のタイプを使用している。

 

夜霧がバンの窓から外へと視線を向けると、今回の仕事場はもうすぐそこにあった。

 

 

 二人を乗せたバンはゆっくりと減速し『ディストル・パーク』の正面ゲート前に停車した。

 時刻は午後一時。夜霧と土御門は軽く視線を合わせ無言でそれぞれの戦場へと向かって行く、夜霧はホルスターから術式用のハンドガンを抜くとスライドを手前へ引いた。

 

 

 

 「さぁって…………と。シスコン姉さんの人生修正にでも向かうか」

 

 

 

 

 

 意図する訳でもなく、意識する訳でもなく、兄弟の運命は絡み合っていく。

 

 本人達が気付かぬまま―――

 

 

 

 

 




次回、シスコンお姉ちゃん襲来。その時、シスコンお兄ちゃんはどう動く(笑)


……夏休みの課題終わってない。

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