雁夜が直死の魔眼使いでそれなりに強かったら 作:ワカメの味噌汁
切嗣が声をかけられる数分前、ケイネスはアイリスフィールとの戦闘を開始していた。
アイリスフィールは針金を錬金して作った烏型の使い魔をケイネスに向けて放つと、更にもう一つの使い魔を錬金し始める。
そう、アイリスフィールは先日の時臣との戦いから学んだのだ。烏型の使い魔一匹では魔術師と満足に戦い、勝利するのには十分ではないということを。
「ほお...」
アイリスフィールが錬金術を連続で行使しているのを見たケイネスは感心する。
二体目の烏型使い魔を錬金し終えたアイリスフィールは、その二体目を使役し、一体目と同様にケイネスに向けて放った。
この時点でアイリスフィールは新たな使い魔の錬金をする事を選ばずに、使役に集中する。
実際、アイリスフィールが錬金しようと思えばまだ何体もの烏型使い魔を錬金する事は出来る。
だがしかし、「間桐」の様に使い魔の使役を得意としている家に生まれたわけではないアイリスフィールは二体以上の烏型使い魔を十分に使役しきる事が出来ないから、二体目で止めたのである。
「その錬金術。流石は魔術協会でもその名を馳せる錬金術の大家、アインツベルンの作り出したホムンクルスだ。実に素晴らしい。だが...それでは月霊髄液を突破する事は出来ないな。」
ケイネスはアイリスフィールにそう言って、攻撃に移る。
「scalp!」
ケイネスがそう詠唱すると、月霊髄液はダイアモンドさえも切り裂く水銀の刃に姿を変え、二体の烏型使い魔を瞬く間に切り裂いた。
「なッ⁉」
アイリスフィールは自身の使い魔が瞬時に破壊された事に驚き、声を出してしまうが、直ぐに気を取り直して新たな烏型使い魔を錬金する。しかし、一度通じなかった戦法が通じる筈もなく、アイリスフィールの作り出した使い魔達は、またしても月霊髄液に切り裂かれてしまう。
「そんな...!!」
アイリスフィールは、自身の持つ魔術ではケイネスを倒す事が出来ないという非情な事実にやっと気付き、絶望する。
だがしかし、ケイネスにしてみればアイリスフィールの絶望など関係はない。
「さて、そろそろ終わりにしようかね。」
ケイネスはそう言うと、月霊髄液に魔力を込める。
「captis」
ケイネスがそう詠唱すると、月霊髄液は、アイリスフィールを拘束した。そう、アイリスフィールは聖杯の器。今ここで殺す訳にはいかないのである。
拘束されたアイリスフィールはなお抵抗の意思を見せるが、ケイネスは冷静に魔術でアイリスフィールを眠らせた。
自身の闘いが終わったケイネスは、セイバーとランサーの闘いに目を移した。
まさに芸術の域に達している断言できる剣戟。その一撃一撃に、騎士でないケイネスですら見惚れてしまう。
そう、かの騎士の王、アーサー・ペンドラゴンとフィオナ騎士団の一番槍、ディルムッド・オディナが刃を交えているのだ。
二人の英雄達は、それぞれの尽くせる技術と力を出し尽くし、闘いを進めて行く。
セイバーが撃ち込んだ一撃をランサーがゲイ・ボウで捌き、ゲイ・ジャルグで一撃を入れようとするが、その一撃はセイバーのエクスカリバーによって防がれる。
一見、単純に見えるそんな闘いの一場面にすら、精細な力のバランスがなければ成り立ない物であり、いかに二人の剣戟が繊細な物だとわかる。
そんな至高の剣戟をケイネスは暫らく感動しながら観戦していたが、突然、二人の内の一人、セイバーがその場から消えた。
第六十話です。
ケイネスがアイリスフィール捕縛に成功し、一つの闘いに終止符が打たれました。
セイバーが消えた理由は予想できると思いますが、逢えて伏せておきます。(わからなくても明日わかります。)
明日は雁夜と切嗣の闘いとその後です。
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。