雁夜が直死の魔眼使いでそれなりに強かったら   作:ワカメの味噌汁

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第三十二話

セイバー陣営が会議を終えてから少し経った時、アイリスフィールは自身の夫、切嗣が一人悲しげに佇んでいるのを見つけた。

「切嗣…」

そんな夫をアイリスフィールは放っておけない。

 

そんな妻の優しさに、切嗣も弱音を吐いてしまう。

「もし…もし僕が、僕が今ここで何もかも放うり投げて逃げ出すときめたら…アイリ、君は一緒に来てくれるか?」

 

「イリヤは、城にいるあの子はどうするの⁉」

アイリスフィールは、切嗣を引き止める為に言う。

 

そんなアイリスフィールの問いかけに、切嗣は答える。

「戻って連れ出す。邪魔する奴は殺す。それから先は…!」

「僕は僕の全てを、君とイリヤのためだけに費やす!」

 

「逃げられるの?私達」

切嗣の言葉を聞いたアイリスフィールは、冷静に尋ねる。

 

「逃げられる‼今ならばまだ‼」

切嗣は溜まっていた感情を爆発させて、声を荒げてしまう。

アイリスフィールはそんな切嗣を抱きしめ、優しく言う。

「嘘…それは嘘よ。」

「貴方は決して逃げられない。聖杯を捨てた自分を,世界を救えなかった自分を…貴方は決して許せない。」

「きっと貴方自身が、最初で最後の断罪者として衛宮切嗣を殺してしまう。」

アイリスフィールはその瞳に涙を浮かべながら終えた。

 

そんな妻の愛情に、切嗣は心の底にある恐怖を語りだす。

「怖いんだ。奴が、言峰綺礼が僕を狙っている。」

「倉庫街の戦いの時、アサシンを使って射撃ポイントから戦局を監視していた舞弥を襲わせて持っていた武器を全て奪ったんだ。」

「奴は何時でも攻撃出来ると僕を揶揄しているんだ…!」

「君を犠牲にして戦うのに!イリヤを残したままなのに!一番危険な奴がもう僕に狙いを定めている!決して会いたくなかったあいつが‼」

切嗣は言峰綺礼に対する恐怖から再び声を荒げてしまう。

 

「貴方一人を戦わせはしない。私が守る。セイバーが守る。それに、舞弥さんもいる。」

 

「…⁉切嗣」

「敵襲か。舞弥が経つ前で良かった。今なら総出で迎撃出来る。」

「アイリ、遠見の水晶玉を用意してくれ」

敵襲に、切嗣は戦う覚悟をしたようだ。

 

同刻、ケイネスはランサーとキャスター討伐について議論していた。

「キャスター討伐の件について、ランサー、お前はどう見る?」

ケイネスは尋ねる。英霊として、一人の武人としてのランサーを尊敬するケイネスは、その意見を出来る限り尊重しようと思っているからだ。

 

その問いにランサーは自分の意見を素直に述べる。

「キャスターとそのマスターの所業は到底許せる物ではありませぬ。今すぐ狩るのが良いかと。」

 

「ふむ…そうだな。お前の言う通りキャスターの所業は許せる物ではない。」

ケイネスはランサーに同意し、続ける。

「それにお前のゲイ・ジャルグは魔術を扱うキャスターとの相性が抜群だ。」

そう、ランサーは対キャスター戦においては魔力の流れを断ち切る槍というアドバンテージがある。

 

「使い魔に調べさせてわかったことだが、キャスターはアインツベルンの森に襲撃を掛けている様だ。早速、討伐に出向くと良いだろう。」

 

「ケイネス殿はここに残られるのですか?」

ランサーは問う。

 

「ああ。本来なら私も出向きたいが、アインツベルンの森はあの衛宮切嗣率いるセイバー陣営の本拠地だ。ビルごと爆発などと言った非常識な戦い方をする奴はキャスター討伐中の休戦など気にしないだろう。恐らく奴はまだ何か隠している奴と現時点での戦闘は控えたい。」

ケイネスは直感していた。切嗣がまだ何か隠している事を。

 

ケイネスの説明に納得したランサーは言う。

「そうですか。では、ディルムッド・オディナ、出陣します。」

 

「ランサー、お前はとても忠義深いサーヴァントだ。私はそこまで令呪を必要としていない。危険を感じたら直ぐに戻ってこい。」

ケイネスは言う。

 

「ありがたきお気づかい」

ランサーはそう言って、アインツベルンの森に向かった。

 

ランサーが出発する数時間前、冬木市内のある民家で、小柄な男が二メートルははあろうかという巨漢に声を荒げていた。

「お前、二階から出るなって言っただろ!」

 

「家主も外出中、貴様も使い魔にかまけているとなれば、余が代わりに出るしかあるまい?」

小柄な男に比べ巨漢、ライダーは冷静だ。

 

「仕方が無いだろ。聖堂教会からの呼び出しなんて異例なんだから。」

小柄な男、ウェイバー・ベルベットは言う。

 

「まあ良いではないか。昨夜のセイバーを見てな、余も当代風の衣装を着れば実体化したまま街を出歩けると確信したのだ。」

ライダーは言う。

 

「おい、待て!外に出る前にズボンぐらい履け!」

ズボンを履かずに外に出ようとするライダーを見てウェイバーは言う。

 

「うん?ああ、脚絆か。そういえばこの国では皆が履いておったな。ありゃ必須か?」

ライダーは聞く。

 

「必要不可欠だ!先に断っておくが、僕はお前のために街まで出向いて特大ズボンを買ってくるなんてことは、絶対しないからな。」

ウェイバーは言う。

 

「なんだと⁉坊主、貴様余の覇道に異を唱えると申すか!」

ライダーは少し慌てる。

 

「覇道とお前のズボンとは一切合切関係ない!外を遊び歩く算段なんかする前に、キャスターを討ち取れ!」

ウェイバーはいう。

 

「つまりキャスターを討ち取れば、余にズボンを履かすと誓う訳だな⁉」

ライダーは真剣に言った。

 

 




第三十二話です。

次は遂にキャスターが登場します。
戦いの内容も原作とは異なりますので、楽しみにしてくれると嬉しいです。

今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。

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