雁夜が直死の魔眼使いでそれなりに強かったら 作:ワカメの味噌汁
雁夜とケイネスがアサシンと戦った数時間後、遂にキャスター討伐に向けて幾つかの陣営が動き出した。
キャスターとそのマスター殲滅のための暫定的ルール変更の知らせを教会からの報告を受けたセイバー陣営は、戦略会議を行っていた。
「切嗣、他のマスターも全員がキャスターを狙うと見ていいかしら?」
その女、アイリスフィールは確認する。
「まあ間違いないだろうね。」
尋ねられた切嗣は答え、続ける。
「だがキャスターに関しては、僕らに揺るぎないアドバンテージがある。何を血迷ったか、奴はセイバーをジャンヌダルクと勘違いしてつけ狙っているんだから。こいつは好都合だ。」
「僕らは待ち構えているだけで良い。」
「マスター、それでは足りない。奴の悪行は容認しがたい。これ以上被害が広がる前に、此方から打って出るべきです。」
切嗣の考えに賛同しないセイバーは、素直に提案した。
「…」
しかし切嗣はそれを無視する。まるでセイバーがそこに存在しなかったように。
切嗣のその態度に、セイバーは不快感を露わにするが、切嗣は構わず続ける。
「アイリ、この森の術式の結界は、もう把握出来たかい?」
「ええ、それは大丈夫。それよりも問題は、セイバーの左手の呪いよ。」
アイリスフィールは答え、更に重大な問題を提起する。
「貴方がケイネスを仕留めて十八時間経つけれど、セイバーの腕は、完治しないままよ。」
「ランサーはまだ健在なんだわ。キャスターを万全の体制で迎撃する為にも、まずはランサーを倒すべきじゃないのかしら?」
アイリスフィールは提案した。しかし切嗣は否定する。
「それには及ばないし、ランサーとそのマスターが何処を新たな拠点にしたのかが分からない時点で、まずそれはできない。それにたとえ潜伏先を発見出来たとしてもランサー陣営は強敵だ。十分な対策なしで槍の呪いを受けたままで対峙すれば、更に治癒不可能の怪我を負わされる可能性もある。」
「だから君には地の利を最大限に活かして、セイバーを逃げ回らせ、敵を撹乱して貰う。」
切嗣のその作戦を聞いたセイバーは、怒りを少しでも静めるたもに拳を強く握る。
「キャスターと、戦わせないの⁉」
アイリスフィールは理解できない様子だ。
「キャスターは放っておいても誰かが始末してくれるさ。なんせ令呪一角がかかっているのだからね。むしろキャスターを仕留めようと血眼になっている連中こそ、格好の獲物なんだよ。」
「僕はそいつらを側面から襲って叩く。」
切嗣の卑怯な戦略を自身に対する侮辱と感じ怒りを隠しきれなくなったセイバーは、声を上げる。
「マスター、貴方という人は、一体どこまで卑劣に成り果てる気だ!貴方は英霊を侮辱している!何故戦いを私に委ねてくれない!貴方は、自身のサーヴァントである私を信用出来ないと言うのか!」
「キャスター以外とは休戦の筈でしょ?」
アイリスフィールも切嗣の作戦に異を唱える。
「構わないよ。先刻バーサーカーのマスター、間桐雁夜が証明した様に、今回の監督役は平気で不正を冒す様な奴だ。遠坂ともグルかも知れない。」
「信用する必要などないだろう。キャスターとそのマスターの討伐が終わったら、真っ先に狙われるのも奴とアサシン陣営だろうしね。」
切嗣の意見に反論出来ず、アイリスフィールは黙り込んでしまう。
更に、無視されたセイバーは遣る瀬無さで唇を噛みしめる。
「解散としよう。」
切嗣のその言葉と共に、戦略会議は終わった。
一方雁夜は、キャスター討伐の為に動くか動かないか決めかねていた。
「余剰令呪一角か…」
雁夜は呟く。
そう、雁夜は令呪を一角使ってしまっているため、出来ることなら補充したい。
「でもこれ以上バーサーカーについての情報を漏らすのもな…」
そう、現時点でバーサーカーに関する情報はほぼ完全に伏せられたままだ。
セイバー陣営は黒い霧に包まれてステータスが見えなく、拳銃の様な宝具を使うサーヴァントとしか認識出来なかっただろうし、アサシン陣営は黒い霧に包まれた強力なサーヴァント程度の情報しか持っていない筈だ。
それ以外の陣営はバーサーカーについて何も知らないといっても過言ではないだろう。
しかしそれがキャスターと戦闘するとなれば、バーサーカーについての情報はどんどん漏れていくだろう。
いかにバーサーカーが強力なサーヴァントとはいえ、情報さえ手に入れば対策の仕様など幾らでもある。
「どうしようか。」
雁夜はそう呟くのだった。
第三十一話です。
原作でもセイバーは不憫ですがマスターとの相性が最悪なので仕方が無いですよね。
しかもこの二次創作では原作で同じ不憫組だったランサーも報われているという…
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。