逆行オイフェ   作:クワトロ体位

57 / 62
第57話『経済オイフェ』

 

 グランベル王国属州領

 エバンス城

 

 この日、ノディオン王国国王エルトシャン・ヘズ・ノディオンは、近々で問題となっているグランベル属州領との経済的課題──アグストリアの流通が麻痺せしめる程、エバンス通商業者による寡占問題を協議するべく、ここエバンス城へ訪れていた。

 加え、この訪問はアグストリア新王となったシャガールの内意を受けての事であり、会見が終わった後は王都アグスティへ事の次第を報告、更にその足でノディオンの飛び地であるシルベール城へ向かわなくてはならない。アグストリア北方に位置するオーガヒル海賊の活動が活発になったが故、治安維持にクロスナイツの出動を命じられたのであるが、それにしても性急な命令を乱発していたシャガール。

 エルトシャンは不審に思うも、先王イムカが崩御したばかりのアグストリア諸侯連合。いらぬ不協和音を他国に見せるわけにもいかず、こうしてハードスケジュールをこなす事となっていた。

 

「やあエルトシャン。よく来たね」

 

 城主の間を訪れたエルトシャンは、ユグドラル大陸南西部でもっとも力を持つ男の出迎えを受けた。

 

「シグルド、今日は親善訪問ではないぞ」

「ああ、分かっている」

 

 属州領総督シグルド・バルドス・シアルフィは、そう牽制するかのように言ったエルトシャンへ、口元を引き締めながらそう言った。

 

「エルトシャン。(まつりごと)の話をするにしても、我々の旧交を温めるのは悪くないと思うぞ。外交とは結局、個人の友誼の上で成り立つものだからな」

「キュアン、お前もいたのか」

 

 既に備え付けらてた長椅子に座りそう言ったのは、レンスター王太子キュアン・ファリス・クラウスだ。優雅に紅茶が入ったティーカップに口を付ける様子は洗練された貴公子そのもの。しかし、槍を取らせれば槍騎士ノヴァの末裔に恥じぬ、大陸一の実力を持っていた。

 

「エルトシャン、実はもう一人会見に同席してもらうのだが、いいだろうか」

「俺は構わないが……」

 

 すると、別室で待機していた一人の男が現れる。

 僧衣を纏ったその男は、脂で照り上がる額をエルトシャンへ向けた。

 

「エルトシャン王、お初にお目にかかる。拙僧はブラギの僧アウグストと申します」

「アウグスト殿にはオイフェがいない間私の個人的な相談役になって頂いているんだ。今日の会談も何か助言をもらえればと思って。もちろん、エルトシャンにとっても悪くないと思うが」

 

 エルトシャンはアウグストの頭部を見つつ、この会見の目的を思えば、知見のある人間の参加はむしろ望ましいとも思っていた。もっとも、アウグストがどれほどの者なのかは不明である。

 しかし、シグルドがオイフェの代わりとまで言ったのだ。少なくとも、あの少年と同等に頭が切れると断じていた。

 

「では、アグスティのシャガール殿下……陛下からの御内意を伝える。文章にしてきたからまずは目を通してくれ」

 

 挨拶もそこそこに、エルトシャンは書状を一通、シグルドへ渡した。

 いずれ正式な使者を派遣する前の事前協議であるのだが、内容が内容なだけに、エルトシャンは厳しい表情を浮かべていた。

 応じて、読み進めるシグルドの表情も険しくなっていった。

 

「……エルトシャン、確かなのか?」

「残念だが、陛下の意思は固いと思う」

「シグルド、俺にも読ませろ」

「失礼キュアン王子。拙僧も」

 

 書状をキュアンに渡すと、そのまま押し黙ってしまうシグルド。

 何事かと読み始めるキュアンは、書状を覗き込むアウグストの濃厚な加齢臭に若干表情を険しくさせるも、内容を読み進める内にやはり表情を険しくさせていった。というより、王侯貴族にも構わず常のスタンスで接し続けるアウグストに若干辟易しているのもあった。

 

「エルト、これは……」

 

 そう言って、キュアンはエルトシャンの目を見る。同期の桜の瞳は、無常観を漂わせていた。

 

「ふむ。属州領内の馬借商家に対する重課税、並びにいくつかの商家を認可取り消しによる締め出し、交易品に対する関税の大幅引き上げ。そして、アグストリア商家に対する賠償金の請求……なんとも身勝手な言い分ですな」

「アウグスト殿、流石にその言い方は……」

「しかし理解は出来る。拙僧から見てもあれはちとやりすぎではありますからな。いやはや、間に立つエルトシャン王も大変ですな、これは」

「アウグスト殿……」

 

 アウグストの不躾な物言いを嗜めるシグルドであるが、これは第三者の見地から的確とも言えた。

 オイフェが画策した対アグストリアの経済戦争。アグストリアの流通業を疲弊させ、属州領の経済圏に強引に組み込む事で経済的な依存度を上げる。

 付随して、属州領で生産された物品を過剰なまでに輸出し、アグストリア国内の商家も疲弊させる。属州領への支払いでアグストリア国内の正貨は不足し、産業の停滞や物価の上昇をも引き起こしていた。

 アグストリア先王イムカはあくまで市場原理主義を貫いていた為、これを特に問題としていなかったが、新王となったシャガールは、即位してから性急な政策を実行し、これに対抗していた。

 

「俺も反対した。だが、陛下は聞き入れてくださらなかった」

 

 そう言って力なく表情を暗くさせるエルトシャンだったが、アウグストはそれを鼻で笑うかのように口角を吊り上げていた。

 

「シャガール王は治世の才能が皆無ですな」

「アウグスト殿!」

 

 いきなりの不遜な物言い。

 嗜めるシグルドだが、忠君の士と謳われたエルトシャンは、これを見過ごすわけにはいかなかった。

 

「アウグスト殿。不敬がすぎるぞ」

 

 エルトシャンはそう言いながら殺気立った視線を向けるも、アウグストは異にも介さない。

 

「よいですか御三方。それぞれが国家を治める為政者となるなら、この問題の本質をよく理解する必要がある。確かに属州領商人による商いは、アグストリアを疲弊させているが、しかしこれは長期的に見れば全く問題にはなりませぬ」

 

 唐突にアウグストの授業が始まったのを受け、シグルド達は困惑を露わにするも、不思議とアウグストの言葉を遮る事は出来なかった。

 そして、アウグストは以下の事を滔々と説明し始めた。

 

 確かにアグストリアの馬借業は、属州領(オイフェ)の資金援助を受けたエバンス馬借による価格競争についていけず、一時的にではあるが数を減らすだろう。しかし、それは永遠に続くものではない。

 いずれは適正価格による取引が復活するだろうし、その頃にはアグストリアにも拠点を置く属州領の馬借業は、もはや帰属意識が希薄となり、国際商家として自身の利益追求のみにひた走るだろう。これら強力な商家による流通インフラの構築は、アグストリアにとっても悪い話ではない。

 加え、貿易摩擦による短期的な不均衡は、結果的に輸入の減少、そして輸出の増大を引き起こすので、つまりは自然に均衡が取れるものである。

 事実として、短期間の属州領の猛烈な経済成長に比例して、伸び率こそは低いものの、アグストリア全体での経済は確実に成長を果たしていた。

 

「しかしシャガール王は少々短気な御方なようですな。先に行った正貨増産は、悪手中の悪手だった」

 

 だが、新王となったシャガールは、短絡的な解決手段を求めていた。

 即位してから手始めに行った正貨の増産。これは、悪貨の蔓延を招くこととなり、アグストリアにおけるゴールドの価値を下げ、物価上昇は加速度的に高まる結果となっていた。付け加えて、アグストリア諸侯連合という国家形態が、問題を更に深刻化させていた。

 

 ゆるやかな国家連合ともいえるアグストリア。構成する諸国家は、アグスティ王家に対しての軍役義務を負っている以外、内政は完全自治を委ねれられていた。というより、中央集権を完全に確立している国家は、実はユグドラル大陸ではトラキア王国とシレジア王国しか存在しておらず。

 グランベル王国では中央政界に各公爵家が入り込んでいるので、擬似的には中央集権体制が敷かれていたが、それでも内政は基本、各公国の自治体制が敷かれていた。

 後の国家は有力豪族、大領主の寄り合い所帯なのが実情であった。

 

 アグストリアは五つの王国による連合王国であり、盟主であるアグスティ王家は各王家の経済政策を統制出来ず、無法が蔓延る結果となった。

 増産したゴールドを不正に蓄財するアンフォニー王国などはまだ良い方で、貿易品の大量流入により保有資産が目減りしたマッキリー王国などは、商家を巻き込んで領内の穀物価格の釣り上げも行っていた。ハイライン王国はここぞとばかり軍備増強を図り、領内の民生を圧迫していた。

 結果として、アグストリアの民草は短期間で強烈な貧困に苛まれる事となり、発生した暴動件数は従来の五倍にも達しようとしていた。

 

 シャガールは失政の挽回を図るべく、属州領に対する苛烈な搾取を決断していた。

 既にアグスティへ支店を構えていた商家は、いきなり徴税官が法外な税を課し、半ば強制的に徴収していた事をシグルドへ陳情している。

 抗議の使者をアグスティへ送る前に、こうしてエルトシャンが現れた次第であった。

 

「よいですかな。政とはすなわち、世を治め民の苦しみを救う事が肝要なのです。これを蔑ろにしては、いずれは民心は離れ、国家の崩壊を招く事となる。肝に銘じておきなされ」

 

 経世済民こそが、健全な国家運営なのだから。そう言って、講釈を終わらせたアウグスト。心なしかどこか達成感のある、満足気な様子を見せていた。

 そのようなアウグストに、感心しながら聞き入るシグルド、どこか物憂げな様子でそれを聞いていたエルトシャン、そして無表情で聞いていたキュアンと、三者三様な反応であった。

 

「御高説は良いが、目の前の問題に対処するのが先決ではないのか。何か案はあるのか、御坊」

 

 常に戦いに身を置いているレンスター騎士らしく、即物的な一面を持つキュアンがそう言うと、アウグストはニヤリと厭らしい笑みを浮かべた。

 

「今更抗議しても意味は無いでしょうな」

「では、どうすればよい」

「その前に、エルトシャン王」

 

 そして、アウグストは改めてエルトシャンへ言った。

 

「アグストリアと属州領……グランベルが戦になった場合、ノディオンは、エルトシャン王はどうされるおつもりか」

「なに?」

 

 アウグストの言葉に場は凍りつく。

 怪僧は構わず続ける。

 

「これは実質的な宣戦布告と同義なのはエルトシャン王もおわかりでしょう。正式な使者がバーハラに送られる前に王が来てくれたのは助かりますが、それでも開戦の先送りにしかなりませぬ。シグルド殿がこれを承知しても、宰相府が許すとは思えませぬからな」

「しかし、シャガール陛下はそのような……」

「エルトシャン王。現実を見なされ。クロスナイツをシルベールへ送るよう命じたのも、親グランベルのノディオンの戦力を分散させ、侵攻を滞りなく進める為としか拙僧には思えませぬ」

「し、しかし……」

 

 惑うエルトシャンだったが、その可能性は頭の片隅にあった。

 だからこそ、交渉により開戦を回避するつもりでもあった。

 だが、アウグストは既に分水嶺は過ぎたと冷酷に伝える。

 

「国内の経済問題を属州領討伐にすり替えただけですが、それでも戦を起こすには十分な大義名分。それに、今のグランベルはイザークとの戦が長期化し国内は手薄。属州領さえなんとかすれば、あとは切り取り放題という、十分すぎる程の好機ですからな」

「……」

 

 エルトシャンは気鬱げに俯いた。

 忠義と友義、義と忠に挟まれ懊悩する。

 若き獅子王に課せられた重荷。

 シグルドとキュアンは、親友の言葉をじっと待っていた。

 

「俺は……」

 

 重たい空気に包まれる中、言葉を振り絞ろうとしたエルトシャン

 主命に従い対グランベルの尖兵となるか。

 それとも、一命を賭して主君を諌めるべきか。

 

「シ、シグルド様!」

 

 しかし、エルトシャンが答えを出す前に。

 一人の騎士が、慌てた様子で執務室に現れた。

 

「ノイッシュ、今は会談中だ。一体どうしたんだ」

 

 シアルフィの若き騎士ノイッシュが息を切らせて入室するのを見留めたシグルドは、ただならぬその様子に訝しげな表情を浮かべていた。

 

「そ、それが……」

 

 無作法な入室をしたのにも関わらず、ノイッシュは無礼を詫びる前に報告を続けた。

 

「オ、オイフェが帰ってきました。それと、もう一人──」

 

 ノイッシュの報告により、場の空気はそれまでとはまた別の、異様な緊張感に包まれた。

 一人アウグストだけが、恍惚げに口角を引き攣らせていた。

 

 

 


 

「お久しぶりですね、ラケシス様。お変わりありませんか?」

 

 同刻、エバンス城の客室。

 歓待するシグルドの妻ディアドラへ、金髪の美姫──ノディオン王女であるラケシスは、はにかんだ笑みを返してた。

 

「はい。お気遣いありがとうございます、ディアドラ様」

 

 エルトシャンのエバンス訪問に同行していたラケシス。

 件の誘拐未遂事件以降、エルトシャンにより半ば軟禁に近い形でノディオンに留められていたラケシスだったが、この時は強引に兄王に同行していた。

 己を救ってくれた者達へ、直接感謝を伝えたい。妹姫のこの申し出に、義に厚い獅子王は首を縦に振らざるを得なかった。

 

「でも、ディアドラ様もあまり無理はしないほうが……」

 

 そう言ったラケシスの視線の先は、少し膨らんだディアドラの下腹部へ向けられていた。

 

「大丈夫よラケシス様。この時期は少しくらい運動した方がいいんだから。ね、ディアドラ義姉様」

 

 代わりに答えたのは、レンスター王太子妃であるエスリン。経産婦である彼女は、ディアドラの現在の状態を誰よりも理解していた。

 

「ごめんなさい、本来はこのような身体でおもてなしをするのは失礼だと思ったのですが……」

「いいえ、そんなことはありませんわ。ディアドラ様のお気遣い、とてもうれしく思います。それと、遅れましたが、ご懐妊おめでとうございます」

「ありがとうございます、ラケシス様」

 

 目出度くシグルドの子を妊娠していたディアドラに、ラケシスはそのような純粋な祝意を向けていた。

 

「ラケシス様もそろそろじゃないの~。誰かいいお相手いたりするんじゃない?」

 

 気さくげにそう言ったエスリンであるが、ある程度親しんだ者へそのような距離感を見せるのは、彼女の人間的な美徳でもある。実際、ラケシスは軽い調子で話しかけてくるエスリンを好ましく思っていた。

 

「そうですね……」

 

 しかし、少々鬱げに声を落とすラケシス。

 想い人はいる。だが、結ばれてはならぬ禁断の相手であることは、己の心の奥底に封印しなければならなかった。

 

「ラケシス様なら、きっと素敵な殿方に出会えますよ」

「ありがとうございます、ディアドラ様」

 

 夫達とは違い、客室は暖かみのある空気に包まれていた。

 ディアドラやエスリンと接していると、ラケシスは不思議と気持ちが落ち着くのを感じる。

 

「まあいい相手なら一人いるんだけどね……一人いるんだけどね!」

「エスリン様……?」

 

 急に挙動不審になるエスリンに困惑するラケシス。

 しかし、義妹がこうしてたまにこわれるのは、ディアドラには見慣れた光景ではあるので、微笑ましげに目元をほころばせるだけであった。

 

「例えば~……ウチのフィンとか!」

「えっ」

 

 可愛がっている弟分を推すエスリンに、更に戸惑うラケシス。

 唐突にフィンの名を聞くと、少々頬を赤らめた。

 

「まあそれとはあんまし関係ないけど、フィンね。ずっと悩んでいるの。だから、ラケシス様からも何か言ってあげてほしくて」

 

 ふと、エスリンはそう言って慈愛の表情を浮かべた。

 ラケシス誘拐事件は、かの世界的傭兵(ひろし)の活躍により未遂に終わっている。しかし、フィンは己の未熟さを恥じ、そして自責の念に苛まれていた。

 もしあそこで(ひろし)が現れていなかったら──。

 そのように自分を責め続けるフィンに、エスリンが気に病まないわけがなかった。

 

「そうですか。フィンが……」

 

 そう返すも、乙女の心の内は、ある種の葛藤に苛まれていた。

 愛する人は、実の兄であるエルトシャン。それは、ずっと前から変わらない。

 しかし、最近は一人の青年が、その心の隙間に現れていた。

 

 フィン。

 あの時、私を助けようとして、必死になって戦ってくれた。

 何故、あなたはそこまでしてくれたの?

 

 そのような疑問は、結局今だ聞けずにいた。

 当然だ。あれから、ノディオンから一歩も出ることは叶わなかったのだから。

 だからこそ、こうしてエバンスに来た。

 フィンに会えば、己の心の葛藤に、僅かながら答えが見いだせるとも思っていた。

 

 そして。

 

「失礼します──」

 

 ドアをノックする音、聞いたことのある声が響いた。

 そして、開かれたドアから、青髪の見習い騎士の姿が現れた。

 ラケシスは、己の鼓動が早鐘を打つのを自覚していた。

 

「噂をすれば来てるやんけ~!」

「エスリン様、落ち着きましょうね」

 

 突然興奮するエスリンを宥めるディアドラ。

 それを見て、ラケシスは幾分か落ち着きを取り戻していた。

 

「フィン……」

「……」

 

 一瞬、目が合う。

 しかし、フィンはラケシスへ一礼するのみだった。

 

「なんでそこで何も言わないんじゃヘタレが~!」

「エスリン様、落ち着きましょうね」

 

 もはや外野の声は聞こえず。

 ラケシスは、フィンの姿を見て、何かが溢れそうなのを、必死でこらえていた。

 

 どうして何も言わないの?

 あの時、助けられなかったのは、あなたのせいじゃないのに。

 どうして、そんな顔をするの?

 

 ラケシスを見て、フィンは何かを後悔するように、そして罪悪感に塗れた沈鬱な表情を浮かべていた。

 己を責め、黙するフィンに、ラケシスもまた何も言えなかった。

 

「……ディアドラ様、エスリン様。それから……ラケシス様。至急、城門の方までお越しください」

「へ? なんでよ?」

 

 絞り出すように出た言葉は、事務的な伝達事項だけだった。

 代表してそう疑問を上げるエスリンへ、フィンは粛々と言葉を続ける。

 もう、ラケシスは見ていなかった。

 ラケシスは、フィンを見続けていた。

 

「それが、オイフェが帰ってきたのですが」

「まあ、オイフェが」

「オイフェくん、やっと帰ってきたのね。なんか二年くらい会ってない気がするわ」

「そうですね。随分と久しぶりに感じます」

 

 実際はオイフェ不在期間は四ヶ月ほどではあるのだが、エスリンのその言葉に、ディアドラはうんうんと同意を示していた。

 とはいえ、可愛がっている弟分であり、師事している政経学の師匠に久しぶりに会えるとなると、ディアドラの声も弾む。

 

「でもわたしがオイフェくんの出迎えに行くのは良いんだけど、義姉様は身重なんだから、このまま待ってもらっても良いんじゃない? ていうかオイフェくんが会いに来いや!」

「エスリン様、わたしは大丈夫ですから……」

 

 だが、妊婦に、それも主君の妻にわざわざ出迎えさせるとはいかなる了見か。

 そう憤るエスリンの言い分はもっとも。

 しかし、神妙な顔つきにて次の言葉を言ったフィンに、エスリンとディアドラ、そしてラケシスは、驚嘆に塗れた表情を浮かべた。

 

「オイフェと一緒に、グランベルの──クルト王子がいらしています」

「は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。