逆行オイフェ   作:クワトロ体位

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第42話『鉄拳オイフェ』

 

「以上が、此度の遠征における諸侯の叛乱計画です」

 

 オイフェが王太子クルトと謁見してから、一刻以上の時が経過していた。

 少年軍師が滔々と語る、反クルト王子派の叛逆。それを黙って聞いていたバイロン、リング、そしてクルト。

 三者は三様にその内容を咀嚼していた。

 

 宰相レプトール、ドズル公爵ランゴバルドが中心となって策謀した此度の計画。

 まず、クルト王子らグリューンリッター、ヴァイスリッター両騎士団を矢面に立たせる事で、その兵力を漸減せしめる事が第一の段階。

 消耗した両騎士団に代わり、グラオリッターがリボー攻略の尖兵となる事が第ニ段階。

 後詰として進発したゲルプリッター、そしてフィノーラ方面を攻略中のバイゲリッターがリボーへ集結する事が第三段階。

 そして、グリューンリッター、ヴァイスリッターを、集結した叛逆軍が包囲殲滅する事が第四段階。

 

 その後はクルトを弑逆せしめた首謀者はバイロンとし、叛乱諸侯は何食わぬ顔で王宮に留まり続け。

 ゆくゆくはドズル家がイザークを、フリージ家がアグストリアを併呑し、それぞれ独立国家を打ち立てようとする事。

 最後に、それらを裏で操るアルヴィスが、グランベル王国の王位簒奪を成し遂げる事。

 それが叛逆計画の最終段階だった。

 

「……」

 

 アルヴィスの名前が出た瞬間、クルトはあくまで無表情を貫くが、その視線は厳しいものだった。

 政治的に中立だと思っていたアルヴィス。いや、心情的にはシギュンの件もあり、多分な忖度を施していた相手。

 それが、己を破滅させんと陰謀を巡らしているとは。考えたくもない。

 そもそもが、オイフェの話は非常に疑わしいものだった。

 

「オイフェ、お前は自分が何を言っているのか分かっておるのか?」

 

 クルトの意思を代弁するように、バイロンもまた厳しい声色でオイフェへ詰問する。

 乱心したとは思えず。しかし、にわかには信じ難い話だ。

 証拠も無しに諸侯の造反を疑う事は、国内の混乱を招く意味でも避けるべきであり。

 もっとも、バイロンはオイフェの弁を「戯け」と一蹴する事は出来ず。それほどまでに、クルト派と反クルト派の対立は、根深いものとなっていたのだ。

 

 とはいえ、見方を変えれば、オイフェの言はグランベル軍の相撃を狙うイザークの謀略とも受け取れる。

 オイフェがイザークの間諜となったのか。いや、それはない。しかし、何かしらの計略に引っ掛かった可能性があった。

 愛しいシアルフィの子、オイフェ。だからこそ、バイロンは厳しく詰問せんとする。

 

「事の真偽はともかく」

 

 しかし、バイロンが詰問を開始する前に、リングが顎に手をやりながらそう発言した。

 

「確かにグラオリッターの動きは怪しいと思っておった。何故あやつらはリボーの攻略をあそこまで急いでおったのだ? リボーを落城せしめた後も、周辺の鎮定をろくにせぬままイザーク本城攻略へ向かったのも不自然じゃ。兵は拙速を尊ぶとはいうが、奴らしくもない」

 

 元からグラオリッターの動きには疑念を覚えていたリング。

 ドズル公爵ランゴバルドは、その蛮勇な見た目に反し、堅実な(いくさ)運びを好む将だった。

 逆に言えば、ランゴバルドは迅速な浸透突破戦術は決して行わない。グラオリッターも主の性格を反映してか、重装備故に通常のソシアルナイトより鈍重なアクスナイト、グレートナイトが中心となって編成されている為、そもそもが電撃的な侵攻に向かない騎士団であった。

 

「当初は功を独占したいだけかと思っておったが、なるほど、儂らを野戦に誘い込んで挟撃しようと目論んでいるなら頷けるのう。外征時でも各騎士団へ自由裁量を与えているのが災いしたな」

 

 また、グランベル王国に従属する各公爵家は、半独立国家として様々な権限を保証されている。

 当然軍権も然り。外征時には王家に従い兵力を供出する義務を負っていたが、戦地での指揮権は各公爵家に委ねられていた。

 此度の遠征に於いても、クルトが直接指揮権を持つのはヴァイスリッターのみであり、親クルト派筆頭であるグリューンリッターですら、クルトが直接指揮を執るのは憚られる。

 大まかな方針を下す事はあれど、実際の戦争指揮は各公爵家に一任されているグランベルの軍制。他国から見れば付け入る隙がありそうな仕組みだが、各公爵家がそれぞれ一国に匹敵する程の軍事力を保持している為、王家に忠誠を誓っている限りそれは問題とはならなかった。

 

「そもそもが、イザーク征伐は殿下とバイロンと儂の手勢だけで十分だったのに、宰相らがしゃしゃり出てきたのも妙な話よ。初めから殿下を弑い奉るつもりだったのならば色々と辻褄が合う」

 

 更に付け加えるなら、此度のイザーク遠征は過剰なまでに兵力が投入されており、イザークとグランベルの国力差を鑑みても、五つの騎士団が投入されるのは戦力過多(オーバーキル)と言っても過言ではない。

 考えてみれば、初めから不審な外征計画だったのは否めなかった。

 

「バカ息子がそれに乗っかってしまったのは残念極まりないが」

 

 そう言って、リングは普段の朗らかな表情に、暗い影を差した。

 

「リング、まだオイフェの話が真なのか分からぬのだぞ。そもそも、アンドレイ公子がお主を裏切るなぞ──」

「いやバイロン。アンドレイは儂を疎ましく思っておるよ。儂が生きている限り、あ奴はユングヴィを継ぐ事が出来ぬのだからな」

「リング……そこまで分かっていながら、何故アンドレイ公子に家督を譲らぬのだ」

 

 リングとアンドレイの確執は、領地を隣とするバイロンも既知であり。

 普段から抱えていた想いを、思わず口にしたバイロンに、リングはある種の諦観が混じった表情を浮かべていた。

 

「お主も分かるじゃろバイロン。聖戦士の家を継ぐという事は、神器も継ぐ事になるのだと」

 

 十二聖戦士が残した血統による神器継承。

 暗黒神を打ち倒すべく、竜族が人に与えた対抗手段は、いつしか政治的な権威として扱われるようになった。

 無論、強力な神器の力が政治利用されているのもあるが、それ以上に神器を抱く家への求心力は、ユグドラル大陸に於いて絶対的なものなっていた。

 

「神器をまともに扱えぬ当主なんぞに、家臣や民が忠を尽くすと思うか? いくら善政を敷いても、いずれ人心は離れる。アグストリアを見てみい。アグスティ王家へ忠誠を誓っているのは、もはやノディオンだけじゃぞ。それもエルトシャン王が騎士道精神溢れる御仁だからであって、今後はどうなるかわからん」

 

 そう言って、隣国アグストリアを例に出すリング。

 今や神器を継承せずにアグストリアの盟主となったアグスティ王家は、今代のイムカ王の善政があっても、アグストリア諸侯からの求心力を失いつつあった。イムカ王が代替わりをすれば、それはより顕著になるだろう。

 全ては神器を持たぬがゆえに。

 

 それほどまでに、この大陸では神器が権威の象徴となっており。

 それほどまでに、ロプト帝国の暗黒時代は、人心へ深い闇をもたらしており。

 そして、それほどまでに、十二聖戦士が、人々の眩い光となって世界を照らしていたのだ。

 

 アンドレイが聖弓イチイバルを継承せずにユングヴィを継げば、同様の事態に陥るのは疑いようもなく。

 恐らく、アンドレイの子、スコピオにもウルの聖痕が輝く事は無い。

 リングは現実的な政治家だ。

 神器が人々の求心力となり続ける限り、アンドレイへ家督を譲る事は決して許さなかった。

 

「それにな、バイロン」

 

 さらに、リングには家督を譲らない、もうひとつ理由があった。

 

「ウルの血が……イチイバルが教えてくれるのじゃよ。ブリギッドは、まだ生きておると」

「リング……」

 

 現実的な政治家であるリング。

 神器が持つ神秘性もまた、リングは現実として捉えていた。

 イチイバルが、ウルの血脈が、リングへ愛娘がまだ生存している事を明確に伝えていた。

 

(……)

 

 一連のやり取りをじっと聞いていたオイフェ。

 概ねリングの言は正しく、アンドレイが造反に走った理由も理解出来ており。

 そして、神器の重要性は、オイフェの前世に於いても根深い問題として顕在化していたのは、ユングヴィとヴェルダンのイチイバル継承問題を見ても明らかだった。

 

(だからこそ──)

 

 此度はそのような問題を起こさないようにする。

 無論、前世と同様に──もはや前世と同様の出会い方をする事はないだろうが──ジャムカとブリギッドには結ばれてほしい。ミデェールとエーディンにも。それぞれが、愛する人と結ばれてほしい。

 そして、オイフェは彼らが結ばれる前提で動いていた。彼らが政治的な厄介な問題を抱えず、幸せな人生を送ってもらう為に。

 ()()()()()()()なのだから。

 

 

「ま、それはそれとして、オイフェの話は到底信じられぬ事だがな」

「えっ」

 

 虚を突かれる少年軍師。

 急にはしごを外された形となったオイフェは、今まで自身を肯定していたリングへ驚愕の眼差しを向けていた。

 それに構わず、リングは淡々と指摘を続ける。

 

「宰相やドズルのクソ親父の思惑はまあ納得できる。あ奴らは特に領土欲が強いからのう。アグストリアとイザークを滅ぼし、自身がそれらの王となる野望があってもおかしくはない。そして、陛下や殿下が御存命である内は、その野望は決して果たせぬのもな」

 

 反クルト派がここまで強硬にクルト王子に反目する理由。

 バーハラ王家が断絶しかねない程の凶行を決断せしめたのは、既にバーハラ王家との決別を覚悟し、己の野望に生きる事を決断したからだろうか。

 

「そして、その野望は、アルヴィス卿が積極的に関わっておらんと果たせないのもな」

 

 付け加えて、これらの陰謀は、アルヴィスの協力が無ければ実現は非常に難しい。

 というより、アルヴィスが王家へ忠誠を誓っている場合、反クルト派は炎の紋章も敵に回す事になるのだ。

 近衛を預かるアルヴィスは、国体の護持、王家の存続が本来の使命だ。故に、宰相レプトールらが企む叛逆は看過出来るわけもなく。

 

 更に言えば、アルヴィスは宮廷政治の監察官としての役割も担っており、ロートリッターの諜報力を用い常に不穏分子の監視任務も行っている。このような陰謀がもしあれば、真っ先にアルヴィスが察知し、秘密裏に処刑するか表舞台へ引きずり出して大いに追求せしめるだろう。

 

「だからこそ、アルヴィス卿が宰相らの陰謀に加担しているとは思えぬ」

 

 故に、アルヴィスの存在は、バイロンとリングにとって、一種の政治的なセーフティーでもあり。

 かの炎戦士が睨みを効かせている限り、レプトールらは直接的な叛逆行為が行えないのだ。

 

 そして、バイロンとリングは、アルヴィスがバーハラ王家を裏切る理由が無いのも理解していた。

 

「オイフェ。仮にアルヴィス卿が陰謀に加担しているとして──」

 

 リングの言葉を引き継ぐように、バイロンはオイフェへ疑問を向けた。

 

「アルヴィス卿が何を得るというのだ? バーハラ王家に代わり王権を簒奪する? それが不可能なのは彼が一番良く知っているぞ」

 

 神器、そして聖戦士の血統が権力の象徴であるのは、当然グランベル王国も同じであり。バーハラ王家に対する民心の信は、十二聖戦士の中でも特に強いものがあった。

 聖者ヘイム──神聖魔法ナーガにより、このユグドラルは救われた。

 言い換えれば、救世の英雄の血が無ければ、この大陸の中心を統べる事は不可能という事。

 

 もしアルヴィスがヘイムの血統を無視する形で王権の簒奪を行えば、恐らくオイフェの前世における、シャガール王統治下のアグストリア以上の混乱が生まれるのは必至であり。

 その混乱に乗じ、レプトールやランゴバルドが、さらなる領土拡大を狙ってくるのは想像に難くなかった。

 まともな政治感を持っていれば、ヘイムの血が無いグランベル王国は、決して成り立たぬのは理解できるはずだ。

 

「そうじゃな。聖者ヘイムの血統はバーハラ王家だけに紡がれておる。眉唾じゃが、トラキア半島にヘイムの傍系が流れた話もあるが、仮にその血族を引っ張ってきたとしても、ナーガを継承出来ぬのであれば結果は変わらんじゃろう」

 

 神器による権威。ユグドラル大陸における、人の世の絶対的な理にして、いびつな統治の戒め。

 そして、それが覆る事は決して無い。

 

 ひとつだけ、除いて。

 

(やはり一筋縄では行かぬな)

 

 これまでのバイロンとリングの弁を聞き、オイフェはそう思考する。

 簡単に事が運ぶとは思ってもいなかったが、それにつけてもバイロン達の指摘は真っ当なものだ。

 

(だが、話は聞いてくれた)

 

 とはいえ、バイロン達のこのような反応は、オイフェにとって予想済でもあり。

 むしろ途中で乱心したと判断され、問答無用で天幕から叩き出される可能性も考慮していた。

 

「……」

 

 少し、思いつめたように表情を固くさせるオイフェ。

 早々にジョーカーを切る必要があった。

 小手先の弁で弄せるほど、この人達は甘くない。

 とっておきの切り札。

 

 

「アルヴィス卿──アルヴィスには、ロプト教団との繋がりがあります」

 

 

 瞬間、場の空気が凍る。

 禁忌とされた暗黒教団の名が、可憐な少年軍師の口から発せられた。

 

「馬鹿な──」

 

 今まで黙っていたクルトが、そう声を発した。

 諸侯の叛逆以上に信じられぬ、その存在。

 炎戦士ファラの末裔が、ロプト教団と結託しているなど。

 そのような事、信じられぬ。

 

「この──!」

 

 ふと、バイロンが立ち上がり、オイフェの前へ進む。

 そして。

 

「愚か者ッ!!」

「ッ!」

 

 鈍く、肉を打つ音が、天幕内に響く。

 バイロンは、愛息子同然に可愛がるオイフェへ、容赦の無い鉄拳を喰らわせていた。

 打たれた頬を赤く染め、床に倒れるオイフェ。一筋の血が少年の唇から流れる。

 前世を含め、バイロンに暴力を振るわれたのは、これが初めてだった。

 

「申し訳ありません、殿下。オイフェはやはり狂を発していたようです」

 

 バイロンはそのままクルトへ跪き、そう弁解した。

 それほどまでに、オイフェの言は衝撃的であり。

 荒唐無稽な陰謀論に加え、まさか暗黒教団の名を口にするとは。

 

「直ぐにシグルドの元へ、いや、シアルフィへ帰します。この子はどうやら悪い夢を見ているようだ」

 

 故に、完全にオイフェを狂人扱いし、シアルフィへ強制送還せんとするバイロン。

 リングもまた同様の思いを抱いていたのか、それを止めるような事はせず。

 クルトも同様であり、バイロンの言に頷くのみであった。

 

「殿下ッ!」

 

 しかし、オイフェはバイロンの気圧を跳ね除け、凛とした声を響かせた。

 少年軍師の得体のしれぬ、怨念にも似た執念。

 それを感じ取り、バイロン達は僅かに気圧される。

 

「これを」

 

 そして、懐から二通の書状を取り出し、クルトへ差し出すオイフェ。

 クルトは訝しみつつもそれを受け取る。

 

「これは……」

 

 二通の書状を読み進めるクルト。

 みるみる、その表情を蒼白とさせる。

 

「殿下、それは一体」

「……」

 

 そう聞くリングへ、クルトは無言で書状を渡す。

 読み進めるリング。

 その表情が険しくなる。

 

「確かに、これは……」

「リング、儂にも見せろ」

 

 リングから書状を奪い取るようにして、バイロンもまた書状を読む。

 そして。

 

「……エッダの印章だ」

 

 そう呟くバイロン。もはや、オイフェへ鉄拳制裁せしめた形相は鳴りを潜め、ただ驚愕を露わにしていた。

 オイフェの取り出した書状。

 先のエッダ訪問に於いてオイフェが奪取した、ロダン司祭がマンフロイとアルヴィスへ送った密書だった。

 

「にわかには信じられぬと思いますが、エッダ教団が用いる印章を偽造する事が難しいのは、殿下らもよく存じているはずです」

 

 各国の行政を肩代わりするエッダ教団。

 当然、公文書の責任や権威を証明する為、そして偽造を防ぐ手段として、文章には必ず押印を施していた。

 そして、司教以上は、それぞれ専用の印章が用意され、指輪に拵えられた印章を常に携帯している。

 門外不出の特殊な製法で拵えられたエッダの印章を、エッダの者以外が偽造する事は不可能だった。

 

「加えて、これがロダン司祭の印章であるのは、殿下もご存知のはず。そして、この内容が正しいのも」

 

 ロダンが記した書状は、これまでのオイフェの言を裏付ける、明白な証拠であり。

 各公爵家の有力者の印章は頭に入っているクルト。ロダン司祭とも文章を交わした事は何度もある。

 

 アルヴィスに王家への忠は無し。

 ファラの末裔は、ロプトの手先なり。

 もう、オイフェの言葉を疑う者は、この場にはいなかった。

 

「バイロン、リング。どうやらこの少年は嘘を言っていないようだ」

「……」

「……」

 

 しばしの沈黙の後、クルトはそう言った。

 気付けば、王族としての姿を取り繕うのを止めており。

 常の言葉を、オイフェにも向ける。

 

「で、オイフェ。私は何をすれば良い? 我々はどのような対処をすれば良いのだ?」

 

 グランベルを継ぐものとして、相応の胆力を見せるクルト。

 少年軍師へ、その可憐な瞳が秘める策を開陳するよう促す。

 

「最初に申し上げた通りです。殿下は我々と共に落ち延びて頂く。そして、バイロン様とリング様には」

 

 そう言って、オイフェは確りと両公爵を見つめた。

 

「リボーで籠城し、叛逆者共を引き付ける囮となって頂きます」

「なに?」

 

 オイフェの献策。

 戸惑うバイロン達であったが、リングがかろうじて疑問を返した。

 

「オイフェ。殿下に落ち延びて頂く意図はとりあえず置いておくとして、リボーで籠城するのは厳しいぞ。ゲルプリッターとグラオリッターだけならもう少し粘れるかもしれんが、バカ息子があちらに付いているのならバイゲリッターも相手にせにゃならん。いいとこ一ヶ月が限界じゃ」

 

 グリューンリッターが半壊した事に加え、ヴァイスリッターが戦慣れしていない現状では、落城したばかりのリボーで籠城するのは、戦上手のバイロン達でも厳しいものであり。ましてや、戦力を保持した三騎士団が相手となれば尚更である。

 しかし、そのような疑問に、オイフェは端的に応えた。

 

「バイゲリッターは当分フィノーラから動けません。仮にリボーへ到着したとしても、ほぼ使いものにならぬかと」

 

 オイフェがフィノーラで行った、バイゲリッターへの破壊工作。

 馬糧を喪失し、フィノーラでの調達も断った以上、バイゲリッターがまともな状態で着陣するのは不可能だった。

 

「それに、一月もあれば、ゲルプリッターとグラオリッターは必ず兵を引きます。その後、バイロン様達はイザークとの和平工作を進めて頂ければ」

「なんだと?」

 

 今度はバイロンが疑問の声を上げる。

 精強で知られるフリージとドズルの騎士団が、後に引けぬ戦いを始めた後、早々に撤退するとは考えられず。

 

「オイフェ……まさか、お主……」

 

 しかし、リングはオイフェの思惑に気付いた。

 気付いてしまった。

 少年軍師の、秘めたる計略と、凄まじい覚悟を。

 

 

「領国を脅かされてまで、遠征を続ける軍勢はおりません」

 

 

 オイフェによる、暗黒の謀略に対抗した、全てを救う計略。

 徐々に、それが芽吹き始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最初から密書を見せれば話が早かったしぶたれずに済んだんじゃ……(小学生並みの感想)

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