逆行オイフェ   作:クワトロ体位

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第37話『事後オイフェ』

 

 “結局、アタシ達に何をさせたいんだい?”

 

 “ある御方──やんごとなき御方を救う手助けをしてほしいのです”

 

 “それは、アタシ達にしか出来ないのかい?”

 

 “貴方達にしか出来ない……というよりは、貴方達しかいなかった”

 

 “そうかい……それで、救うべき御方っていうのは誰の事だい?”

 

 “……グランベル王太子、クルト殿下です”

 

 “そいつは大物だねぇ。それで、相手はイザークの連中かい?”

 

 “……”

 

 

 “獅子身中の虫──それと”

 

 

 “暗黒教団──”

 

 

 

 小さめの窓枠から、甘く白い光が漏れ入り、砂漠の寒冷がピークに達した頃。

 オイフェは消耗した肉体を休めるように、微睡みの中にいた。

 寝台の中で身体を丸め、衣服を何も纏わず、裸身で眠るオイフェ。屋内は氷点下近くまで気温が下がっていたが、オイフェの肉体は生暖かい()()で包まれており、少年軍師を心地よい眠りへと誘っていた。

 

(……)

 

 オイフェはぼんやりとした曖昧な状態で目が覚める。頭の中は未だ覚醒しきっておらず、ぬるま湯に浸かったかのような、無意識との狭間に揺れていた。

 

(……?)

 

 ふと、自身の頭を包む柔らかで、暖かいモノ──そして、頬に当たる豆粒のような固いモノに気づく。

 

(……)

 

 おもむろにそれを口に含む。

 唇で挟むと、その豆粒は少しばかり大きくなった。

 舌でころがすと、唾液とは別の液体で湿り気を帯びていく。

 

「んぅ……ッ」

 

 すると、何かを我慢するかのような、切なげな声が聞こえた。

 

(ははうえ……?)

 

 んくんくとそれを吸うオイフェ。まるで赤子が母親の乳を求めるかのように。母乳のほのかな甘さとは違う、野性味のある塩気が感じられた。

 そして、オイフェの柔らかい髪を、優しく梳くように撫でる、何者かの手。

 ゆっくりと、たどたどしくて、不器用な優しさ。

 

 オイフェは遥けき過去……前世での母の温もりを、朧げながら思い出していた。

 

「フフ……乳は出ないさね」

「ッ!?」

 

 気だるい空気が包む中、湿った声が響く。

 それを聞いたオイフェは、即座に脳髄を覚醒状態にまで引き上げた。

 

「こ、これは、その」

 

 一糸まとわぬ姿で、地獄のレイミアがオイフェへ厭らしい笑みを向けていた。筋張った肉体、張りのある乳房を隠そうともせず、ニヤニヤと少年を見つめる女傭兵。

 寝具の中、レイミアと裸身で抱き合う形で眠っていたオイフェ。

 己の無防備極まる姿を見られ、羞恥心と共に不覚を恥じる。

 

「フフフ。賢い賢い少年軍師殿は、未だ乳離れが出来ないと見える」

「う……」

 

 度し難い!

 己の油断も、目の前の女豹も。

 そう思ったオイフェ。少し不貞腐れるようにレイミアへ背を向けた。

 

「ま、年頃の男の子なんてそんなもんさね……ククク」

「……」

 

 背を向けるオイフェへ、片肘をつきながらニヤニヤと笑みを向けるレイミア。

 いじり甲斐のある少年の姿が堪らなく愉悦なり。そう言外に述べていた。

 

「ずいぶんと心地よさそうにしてたねぇ。必死になって、可愛い顔を見せてさ」

「……」

 

 確かに、数十年貞潔を守り続けていた身としては、初の情事は中々の心地よさ、得も言われぬ快楽があった。

 レイミアの嗜虐的な指摘により、耳の裏まで赤く染めるオイフェ。この手の羞恥、前世含め久しく経験しておらず。

 見た目相応の、初心な反応をするばかりである。

 

「その……」

 

 羞恥に悶えるオイフェだったが、ふと恐る恐る、といった声を上げる。

 少年の敏感な機微。

 察せぬほど鈍感なレイミアではない。

 

「アンタが心配するような事はないさね。女で傭兵をやっているんだ、()()()()はしっかり把握しているよ」

 

 レイミアがそう言うと、オイフェは少しばかり安堵の表情を浮かべる。

 畜獣の内蔵や魚類の浮袋等で作られた避妊具は、王侯貴族ですら満足に持ち得ぬ超高級品。

 まして、一介の傭兵身分が持ち得る代物ではない。

 

 オイフェは祖父スサールの言を思い起こす。

 スサールの血──バルド傍系の血、決して絶やすことなかれ。

 シアルフィ本家の()()としての責務を全うせよ。

 

 しかし、それは何も今やるべき事ではないのだ。そもそも、下手にバルドの血をばら撒けば、将来の禍根にもなりかねない。

 そして、レイミアもまた妊娠のリスクを懸念しており。

 悪辣な戦ぶりをしてきた傭兵が、下手に貴人の子を孕むと、栄達よりも厄介事が増えかねないからだ。

 少なくとも、今はまだ。

 

「では、契約は結んでいただけるのでしょうか?」

 

 懸念案件がとりあえず解決した事で、改めて契約締結の是非を問う少年軍師。

 同衾し、己の初めてを捧げたのだ。ここまでさせておいて、今更契約を結ばないという選択肢は許さぬとも、言外で述べていた。

 

「さて……」

 

 考え込むように顎に手を当てる地獄の傭兵。

 目を細めながら、少年軍師の柔い後ろ髪を見つめた。

 

「暗黒教団云々の話は、眉唾めいた話だけど……そこは信じるよ」

「では」

「だけどね」

 

 期待するようなオイフェの声を、ぴしゃりと遮るレイミア。

 今更オイフェの言を疑うつもりは無い。文字通り、我が身を差し出してまで己の信を、誠を得ようとした少年だ。

 一度寝た程度で情が移るほど初心ではないが、この少年が見せた心意気を買わないほど薄情でもないのだ。

 故に、クルト王子暗殺の陰謀、そして背後に潜む暗黒教団の存在は信じる。

 

「正直、王太子殿下の暗殺云々なんて大陰謀(おおごと)に首を突っ込みたくは無いねぇ」

「……」

「二百人の若い衆、路頭に迷わせるつもりは無いよ。アタシ一人ならともかく」

 

 しかし、だからとて二つ返事で受けられる話ではない。

 悪名高い地獄のレイミアは、二百名の女傭兵達の命を背負う女頭目でもあるのだ。

 彼女らを路頭に迷わせるどころか、文字通り地獄へ導きかねない依頼は避けて当然。信憑性が疑わしき暗黒教団の脅威より、貴族の政治闘争に関わる方がリスクは高いと判断していた。

 

 己一人なら、オイフェに付き合うのも一興。刹那的な傭兵らしい生き方が出来るかもしれない。

 だが、それを配下の女傭兵達に付き合わせるのも忍びなし。

 大国の政治的陰謀に首を突っ込むような蛮勇は、根無し草の傭兵集団では避けてしかるべきであり。

 その危機察知能力めいた嗅覚があるからこそ、レイミア隊は今日まで生き永らえてこれたのだ。

 

「……条件を追加してもいいかい?」

 

 ふと、レイミアがそれまでの気だるい声色から、はっきりとした声を上げる。

 避けるべき依頼。

 しかし、少年の身を捧げてまでの覚悟。

 それは無下には出来ない。

 

「どうぞ」

 

 オイフェはレイミアへ身体を向ける。

 女傭兵は、真摯な眼差しで少年軍師を見つめていた。

 

「二つ。まず一つ目は、契約満了後にアタシらを正式に抱えてもらえないかね」

 

 打算と妥協が入り混じったこの提案。

 傭兵稼業をいつまでも続けるのは、レイミアにとっても本意ではない。

 いずれはどこぞの国、勢力に属し、その後ろ盾を得ようとする腹積りは、オイフェが来る前から常々考えていた事であり。

 まして、大貴族の陰謀に関与するからには、フリーランスのままでいるのは危うき事この上ない。

 

「それは……」

 

 傭兵部隊を正規軍に登用する例は一応ある。

 しかし、軍政を監督するオイフェではあるが、決裁権者はシグルドである。

 これについては確約は出来ず。

 

「善処します。最悪、私の私設部隊として雇用する事を誓います。それと、属州の領民としての身分も」

「それじゃあまり変わらない気がするけど……まあいいさね。それじゃ、あと一つ」

 

 とはいえ、最悪オイフェ──スサールの名の元で登用される事は、無頼の輩であり続けるのとはわけが違う。

 公的な身分保障が得られれば、多少の()()()()をした後でも、罪に問われる可能性は少なくなる。

 もっとも、レイミア隊の売りである暴虐性も制限される事となるが、それについては元々示威行為として行ってきた事だ。制限されてもさほど問題にはならず。

 配下の嗜虐性癖は、他の()()で発散させればいい。

 肝心なのは、配下達の安全なのだ。

 

「あと一つは──」

 

 ひとまずの約束を得たレイミア。

 そして、何よりも譲れない条件を、少年軍師へ言った。

 

「アタシらを使い捨てるようなマネだけはするんじゃないよ」

 

 真剣な眼差しでそう言ったレイミア。

 オイフェは僅かに目を細める。

 

「……分かりました。貴女達()()を使い捨てるような真似はしません」

 

 重たく、冷たい声色でそう言ったオイフェ。

 大切な人を救い、大切な人達を守る。

 そして、怨みの元を断つ。

 幸せな結末を“彼ら”が迎える為の生贄。

 それは、己も含む。

 

 自ら退路を断つ姿勢、そしてデューとはまた違った意味で運命共同体を宣言したオイフェ。

 目的の為の、手段は選ばない。

 

「そうかい……」

 

 レイミアはほんの少し、憐憫の眼差しでオイフェを見つめる。

 僅かの間で悟った少年の秘めたる覚悟。そして、滲み出た怨念。

 己の全てを投げ出すその生き様は、刹那的な生き方を強いる傭兵にとって、ある種の共感を生んでいた。

 同時に、この少年をここまでさせる貴族社会の歪さを見て、憐れみを覚える。

 

「契約は成立だよ」

 

 短く、そう応えたレイミア。

 諸々の思惑があるにせよ、ここまで言わせたのだ。契約を断る理由は無く。

 同衾までして断れば、何かしらの報復もありえる。

 実のところ、逃げ道が無いのはレイミアも同じだった。

 

「これで、アタシらとアンタ──オイフェ殿は、運命共同体さね」

 

 オイフェの柔い頬をひと撫でし、妖艶な笑みを浮かべるレイミア。

 少年軍師は無表情でそれを見つめていた。

 

「はい。宜しくお願いします」

 

 レイミア傭兵団との契約が無事成立した事で、オイフェはふうと息をひとつ。

 そして、レイミアが言い放った“運命共同体”という言葉を反芻する。

 

 遥けき未来(かこ)

 オイフェが運命共同体とまで思った、ただ一人の少女にして、この世の闇を打ち払うヘイムの血を引く聖女。

 目の前の女傭兵と比べるべくもないが、それでもあの聖女の姿が思い起こされる。

 

 大切な人と結ばれぬ運命(さだめ)を悟り、身を引いた聖女。

 大切な人に捧げる使命(さだめ)を背負い、身を尽くした軍師。

 

 共に壮絶な覚悟、葛藤を抱えた同志。

 果たして、目の前の女傭兵レイミアと、同じ想いが抱けるのだろうか。

 

 こればかりは、オイフェにも分からない。

 分かろうとも、思わなかった。

 

 

「それじゃあ、景気づけにもう一回アタシの乳でも吸うかい?」

「遠慮しておきます」

 

 乳房を見せつけるよう、扇状的な仕草で誘惑する女傭兵。

 それを、少年軍師はそっぽを向きながら、冷静に拒んでいた。

 

 レイミアが少しだけ残念そうに、切なげな表情を浮かべていたのを、オイフェが気付くことは無かった。

 

 

 


 

「お前達! よく聞きな!」

 

 レイミア隊が根城にしている館。その中庭の広いスペースに、レイミア隊所属の二百名の女武者達が集まる。

 居並ぶ女達に、頭目であるレイミアが凛とした表情を向けていた。受ける女達も、真剣な眼差しで己の頭領を見つめる。

 

「オイフェ……だいじょぶだった……?」

「はい、私はだいじょ……デュー殿は大丈夫なのですか?」

「おいらはだいじょーぶだよ……ふへへへへへ」

 

 レイミアの傍らでは、オイフェ一行の姿があり。

 己を気遣うデューの姿を改めて見たオイフェは、その壊れた玩具の如き有様に驚きを隠せずにいた。

 見ると、頬や首筋や腕に内出血の痕が滲んでおり、実に痛ましい様子を見せている。

 居並ぶレイミア傭兵団の最前列では、レイミアの腹心と思わしき六名の女傭兵達が並んでいるが、皆一様に肌ツヤが良く、時折デューへ舌なめずりをしながら野獣の如き眼光を向けていた。

 

「すまないオイフェ……俺達がついていながら」

「正直羨ましかった。俺も無理やり混ざればよかった」

 

 悔恨の念を浮かべるホリンに、後悔の念を浮かべるベオウルフ。

 だいたい何があったか察したオイフェは、とりあえずデューから視線を逸した。

 この程度の消耗、太陽の如きバイタリティを持つデューにとって物の数ではないと、前世情報からそう判断していた。たった六名如きなんだ。前は十人以上もいたじゃないかとも。

 

「つーかオイフェ。お前もヨロシクやってたんじゃねえの?」

「え、えっと、それは……」

「あーあーあーどいつもこいつも羨ましい身分でございますねえ。クソが」

 

 ぶーたれるベオウルフ。

 デューへの拷問が、ある意味拷問じゃなかったのが堪らなく羨ましく。

 その不満を雇用主にぶつけようにも、雇用主まで乱痴気二毛作(ずっこんばっこん)していたとなれば、文句のひとつも言いたくなるだろう。

 

「オイフェまで……くそ……俺はなんて無力なんだ……」

「あ、いえ、ホリン殿は別に……」

「オイフェ。次はこのような事はさせない。遠慮せず俺に頼ってくれ」

 

 一方で忸怩たる思いを堪えきれないといった様子のホリン。

 この剣闘士は、オイフェもデューも望まぬ性交を強要されたのだろうと、明後日の方向に義憤を燃やしていた。望む望まないは、オイフェもデューも正しくもあり正しくもなかったのではあるが。

 

「そこ、うるさいよ!」

「へいへい」

「くっ……」

 

 無頼の金髪共に一喝し、ふんと鼻息ひとつ吐く黒髪の女傭兵。

 そのままオホンと咳払いし、配下の傭兵団へ目を向けた。

 

「アタシらの新しい仕事が決まったよ! シレジア行きは無しだ!」

 

 ざわりと傭兵達がざわめく。

 フィノーラでの仕事が終わり、その次はシレジアはザクソンへ向かうと聞かされていただけに、急な予定変更に不安と期待をないまぜにした感情を見せる。

 

「アタシらの新しい雇い主はこの属州総督補佐官オイフェ殿だ! 粗相したら承知しないからね!」

 

 そう言うと、レイミアはオイフェの肩を抱き、己の身へ寄せる。

 抱き寄せられたオイフェは戸惑いつつも、傭兵達へ向かい頭を下げた。

 

「音に聞くレイミア傭兵団の力、大いに期待しています。宜しくお願いしますね」

 

 オイフェの慇懃なその態度。

 今までの貴族の雇い主は、往々にして傲岸不遜な態度で接しており。そも、自分達のような末端にまで頭を下げるなど、初めて目にする事であり。それは、レイミア隊全員へ、新鮮な驚きを与えていた。

 同時に、どこか得意げな表情のレイミアを見て

 

「あ、ヤッたな」

「お頭も手が早い……」

「あの子も可愛いわね~……食べちゃっていい?」

「お頭のお手つきだから止めたほうがいいですよ」

「あたしらはデューくんだけで満足っス」

「みんなでショタ喰いするから尊いんだ。絆が深まるんだ」

 

 などと、良き雇い主と契約したレイミアを称賛するような視線を向けていた。

 

「準備ができ次第リボーへ向かう! 次の仕事は今までの温い仕事とはワケが違うよ! 気合入れていきな!!」

「「「おおーっ!!」」」

 

 レイミアの短い方針演説が終わり、気勢を上げる女傭兵達。

 グランベルの御曹司との契約。さしずめ、相手はイザークの軍勢か。

 そう当たりを付け、気合十分で頭目に応えていた。

 

「カーガ、テラ、ナリー、コヤ、ユカ、ヨーコ。あんたらは残りな」

 

 出立の準備を行うべく、散会した傭兵団。

 しかし、レイミアは腹心らへ待ったをかける。

 頭目の呼び止めを受け、残る六名の女傭兵。

 

 ソードファイターのカーガ。

 同じくソードファイターのテラ。

 シスターのナリー。

 サンダーマージのコヤ。

 ソードファイターのユカ。

 ボウファイターのヨーコ。

 

 レイミアが傭兵団を発足させてからの古参の六名だ。

 乗り越えて来た、浴びてきた血は他の傭兵達とは比べるまでもなく。

 文字通り様々な地獄を見てきた者達だ。面構えが違う。

 

「あんたらはフィノーラを発つ前にちょっとした仕事があるんだ。いいかい?」

 

 不敵な面で腹心らを見やるレイミア。

 何か面倒な事でも申し付けられるのか。しかし、その笑みは自分達ならば任せられると、信頼している笑みであるのも、六名は承知していた。

 

「補佐官殿。任務のご説明をして頂いても宜しいかねぇ?」

 

 慇懃無礼な態度でオイフェへ発言を促すレイミア。

 相変わらず少年軍師の肩を抱いており、その手はやや湿ったものとなっており。

 レイミアの気まぐれな少年弄りはいつまで続くのやらと、オイフェは嘆息混じりに六名の女傭兵へと顔を向けた。

 

「とある軍勢……その物資集積所の破壊工作をお願いしたい」

 

 勘の良い者は、それだけでどの軍勢への工作をするのか、察する事ができた。

 傍から聞いていたベオウルフ、ホリンも怪訝な表情を浮かべる。

 事前に聞かされていたであろうレイミア、そして六名の女傭兵を微妙に警戒するように距離を保つデューだけが、オイフェの目的を十全に察していた。

 

「詳細はこちらのデュー殿へ。彼も工作に同行します」

「え」

 

 だが、問答無用で同行を命じられるデュー。

 もっとも、これはレイミアとの交渉前から打ち合わせていた通りの流れであるのだが、任務中にまたあんな事やこんな事をされると想像した盗賊少年は、顔を青ざめさせ身体の一部を赤くさせた。

 

「マジ?」

「これはげに楽しみ……」

「あら~。楽しそうな任務ね~」

「まあ流石に任務中は手を出さないから、そんなに怯えなくていいですよ」

「その代わり終わった後は分かってるっスよね?」

「結局は手を出すんやけどなブヘヘヘヘ」

 

 ギラつかせた眼光を浮かべる女武者共。

 危険が予測される任務でも、彼女達の戦意は微塵も揺らがない。

 

「オイフェ……やっぱおいらじゃなくてホリンかベオっちゃんに……」

「気持ちは分かりますけど、すいません」

「そんな……わかったよ、やればいいんでしょやれば……」

 

 逡巡するデューであったが、オイフェの真摯なお願いを受け、渋々とではあるが同意を示す。

 元より断るつもりはなかったのだが、それでも目の前の女狼共とはあまり同じ時を過ごしたくないのもあり。

 

「ほら、行くよ!」

「私が守護らねば……」

「怪我してもすぐに治してあげるからね~……昨日みたいに」

「性欲……じゃなくて闘争心漲ってきた」

「こういうのは終わった後の事考えると楽しいっスよ?」

「わたし達六人がデューくんを支える……ある意味“最強”だ」

「あ、ちょっ、そんなとこ引っ張らないで」

 

 デューは屠殺場に連行される畜獣が如き哀愁を漂わせながら、昂ぶる六名の女傭兵達に連れられていった。

 

「デューに何をさせるつもりだ?」

「この辺りのイザーク軍はもう蹴散らされた後だぜ。一体どこを襲うってんだ?」

 

 すると、ホリンが怪訝な顔つきでオイフェを見やる。

 今までオイフェに付き従っていたベオウルフも、少年軍師の思惑が読めず。珍しくホリンへ同調していた。

 二人の疑問に、オイフェは短く応える。

 

「ユングヴィ騎士団……バイゲリッターの物資集積所です」

「なっ!?」

「……そうかい。あー、めんどくせえ所紹介してくれたよなエルトの奴もよ」

 

 驚愕を露わにするホリンに、長年の経験からある程度背景を読み取り、どこか得心するベオウルフ。

 オイフェ一行の様子に、レイミアは変わらずシニカルな笑みを浮かべていた。

 

「勝算はあるのかい? 補佐官殿」

 

 そのままオイフェの柔い頬をもみながら、挑発するような声をかけるレイミア。

 オイフェは、変わらず短く応えた。

 

「デュー殿と、彼女達ならやれると信じています」

 

 頼もしき盗賊少年と、逞しき女傭兵達の後ろ姿を見つめながら、オイフェはそう言い切っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あんましオリキャラ出したくなかったのですが、名無しキャラはそれはそれで不便だと思い仕方なく出した次第。

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