逆行オイフェ   作:クワトロ体位

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第30話『告白オイフェ』

 

 エッダ城中庭。

 夜の帳が下り、人気のなくなったエッダ城中庭に、二人の少年の姿があった。

 

「オイフェ、とりあえずこの辺りには誰もいないみたいだよ」

「わかりました、デュー殿」

 

 周囲に誰もいない事を確認したデュー。

 如才ない盗賊少年のおかげで、誰に知られる事なく秘密の共有を行える準備が整う。

 オイフェはふうと深い息を吐くと、真っ直ぐにデューの瞳へ視線を向けた。

 

「デュー殿」

 

 これから話す内容は、絶対に他言無用。

 デューだからこそ打ち明ける、秘中の秘。

 信頼おける者だけに行う、一世一代の大告白。

 オイフェの真摯な眼差しを受け、デューは神妙な表情を浮かべ少年軍師の次の言葉を待った。

 

「これから話す内容は、デュー殿にとってとても信じられない事かと思います。それでも、最後まで聞いてくれますか」

「うん」

 

 短く言葉を返すデュー。そっけないとも思えるが、もはや少年達に長い会話は不要。

 オイフェとデューの間には確かな絆がある。詭弁を多用する少年軍師であるが、目の前の盗賊少年だけには嘘はつかないからだ。

 だが、それでもオイフェは不安を拭いきれない。

 これから先の未来の情報を、デューがどのように受け止めるか分からないから。

 

 僅かに躊躇するオイフェだったが、やがて意を決し、デューの瞳を覗きながらゆっくりと語り始めた。

 

「私は──」

 

 オイフェは語る。

 己の前世、そして悲劇の歴史を。

 

「私は数十年先までの未来を知っています」

「え──?」

 

 デューは短い驚きの声を上げる。

 それに構わず、オイフェは滔々とこれから起こる何もかもを、静かに語り始めた。

 

 

 

「──これが、これから起こるユグドラル大陸の──我々に起こる、全てです」

 

 持ち込んだ燭台の蝋燭が短くなり、辺りは少しばかり白み始めている。

 数刻程の時をかけて語られたオイフェの話を、デューはずっと黙って聞いていた。

 

「うーん……」

 

 聞き終えたデューは腕組をし、唸るような声をひとつ上げる。

 オイフェが唐突に語り始めた前世の記憶。

 人が人生をやり直す、逆行という現象は、夢見がちな盗賊少年にとってもにわかに信じられぬ事であり。

 だが、デューはオイフェが嘘を言っているとは到底思えなかったし、思いたくもなかった。

 

「ちょっとまっててね」

「……はい」

 

 デューはもみもみと自身のこめかみを揉む。

 深夜に長時間、それも驚愕の内容ともいえるオイフェの話を聞き続け、少しばかり疲れた表情を見せる。

 バイタリティ溢れるデューですら、腹落ちするにはしばらくの時間が必要だった。

 オイフェはデューにうなずき、静かに瞑目する。

 デューがこの話を受け、どのような反応を見せるのか。

 それは、少年軍師にも予想がつかないものであった。

 

 もしかしたら、己が発狂したと断じられ、デューに見限られてしまうかも。

 そのような恐れが、オイフェの内に沸き起こる。

 もし、もしここでデューが離脱してしまったら。

 オイフェが目指す、()()()()()()()()()()は、決して迎えられないだろう。

 

(でも──)

 

 話さずにはいられなかったのだ。

 嘘はつかねど、真実を伝えていないこの現状。唯一無二の頼れる味方に対し、それは決してしてはならない、“誠”から外れた不誠実な所業だった。

 愛する主君──誰よりも大切なシグルドより先に、デューに真実を伝えた事も、オイフェにとって懊悩すべき事実。だが、これは必要な事。

 真実を共有する()()がいなくては、この先の難事は到底成し遂げられないのだ。

 

 デューがオイフェの話を咀嚼しきるまで幾ばくかの時間が流れた。

 オイフェが語ったのは闇の皇子ユリウスが討伐され、世界に平和が訪れた所まで。細かい所──個々人の細かい顛末──は省いていたが、それでも膨大な情報量であった。

 だが、元々地頭は決して悪くはないデュー。それなりに時間がかかったとはいえ、自己の中で情報を整理する事が出来た。

 

「二つだけ聞きたい事があるんだけど、いいかな?」

 

 ふと、デューはやや軽い調子でオイフェへ言葉をかける。

 オイフェは不安げな表情を隠す事は出来ず、思わずデューへ問い返した。

 

「私の話を信じてくれるのですか?」

 

 ここまで話しておいてこの弱気さは何だと、オイフェは心の中で自嘲する。

 そのようなオイフェの不安を感じたのか、デューはにっこりと笑顔をひとつ浮かべた。

 

「信じるよ」

 

 短い言葉。

 だけど、“誠”がこもった言葉。

 それを聞き、オイフェの眼尻は僅かに濡れる。

 安堵と、喜びの感情が、少年軍師の心に溢れた。

 

「ありがとう、ございます」

「いいって。実際マジか!? って話だけどさ、オイフェがディアドラさんの名前を知ってたのも、今の話で納得したし。それに──」

 

 そう言ってから、デューは真っ直ぐにオイフェを見つめた。

 

「おいらオイフェのこと好きだし、信じるよ」

「え?」

 

 唐突に告られたオイフェ。

 泣き面をやや赤く染める。

 

「あ、好きってそういう意味じゃないよ? そういうのはレックスの専売特許だし」

「は、はあ」

「オイフェってほんとおませさんだなあって思ったけど、中身おじいちゃんなら色々納得だね」

「否定はしませんけど……おじいちゃん……」

 

 ひらひらと手を振りながら、LOVEではなくLikeの意を伝えるデュー。

 あけすけな物言いに呆気にとられるオイフェ。重たい空気は少しばかり明るい空気に変わっていた。

 

(ありがたい──)

 

 思うに、これはデューなりの気遣いなのだろう。

 己の言葉を信じてくれた上に、不安を和らげるためにあえて調子の良い言葉をくれる。

 盗賊少年の優しい心遣いに、オイフェはただ感謝を捧げるのみだ。

 

「で、聞いてもいいかな?」

「はい。どうぞ」

 

 やや横道にそれたが、デューは表情を引き締めるとオイフェへ再度問いかける。

 真剣な表情のデューに、オイフェもまた真摯な表情でデューを見つめていた。

 

「おいらって、死んじゃうんだよね。ペルルークで」

「……はい」

「そっか……じゃあ」

 

 デューの行く末。

 天寿を全うすることなく、無惨な最期を迎えたデューの未来。

 それを確認したデューは、増々沈鬱げに表情を固くする。

 

「じゃあ……おいらは……」

「デュー殿……」

 

 人はいずれ死ぬ。とはいえ、死に方というのがある。

 子世代を密かに支援していたデューの、人生の幸福とは程遠い結末。

 それにショックを受けたのかと、オイフェは気遣うようにデューの肩に手を置いた。

 

「おいらは……!」

 

 デューはオイフェの手に、自身の手を重ねる。

 そして、心配そうに見つめるオイフェの目へ視線を返した。

 デューの泣きそうな表情に、オイフェの眼尻は再び水気を帯びていた。

 

 

「おいらはずっと童貞だったの!?」

「は?」

 

 

 いきなりのデューの悲痛な叫び。

 オイフェは素で真顔になる。

 

「だってオイフェの話だとおいらの子供の話が一切無かったじゃん! つまりおいらはこれからずっと独身でお嫁さんどころか彼女もいない生涯童貞(チェリーボーイ)って事じゃん!」

「いや、その」

「そんなの残酷すぎる! 死ぬより辛いよ!!」

「そんなに」

 

 前世では独り身を貫いたオイフェ。

 それは主に亡き主君の遺児、セリスを支えるという使命感によるものであり、伴侶を得ない苦しみというのは終ぞ経験しておらず。

 故に、デューの悲痛な叫びは、オイフェにとって少々理解がし難いものであった。

 

 とはいえ、前世のデューにまったく女っ気が無かったというわけではなく。

 オイフェは記憶の中にあるデューの色男っぷりを必死で思い出し、気遣うように口を開いた。

 

「あ、でもデュー殿はすごくモテてましたよ」

「マジで!? サジで!?」

「え、ええ……サジ?」

「具体的に!? どんな子にモテてたの!?」

 

「ええっと……」と、食い気味なデューに圧されつつ、オイフェは前世のデューの周りにいる女性の姿を思い起こす。

 前世、厳寒の地、シレジア王国はセイレーンでのひととき。

 シグルドやオイフェにとって雌伏の時であり、一部の者にとっては辛い時間ではあったが、それ以外の者たちにとってセイレーンでの生活は比較的穏やかな時でもあった。

 そこで、デューの周りには複数の女性の姿があった。

 

「シレジアの天馬騎士団の方々で……」

「天馬騎士団?」

「はい。フュリーさんの部下の方々と良く遊んでいたのを覚えてますよ」

 

 シレジアの天馬騎士の乙女、フュリー。

 齢十八歳にして実姉と共にシレジア四天馬騎士にまで叙される程の女武者。

 しかし、心根は非常に穏やか……いや、若干の人見知りをするような、大人しい、もっといえば引っ込み思案な性格の乙女だった。

 

 そのフュリーであるが、紆余曲折を経てシグルドの元で戦う事となり、フュリーの配下である天馬騎士達もまたフュリーと共に轡を並べる事となる。

 当然、ペガサスは女性しか背に乗せないという種族特性がある為、フュリー隊の構成は全員女性であった。

 

「そっかあ。おいらにもちゃんと春が来てたんだねえ……えへへ」

「え、ええ……」

 

 にやけ顔を隠そうともせず、デューは己が寂しい独り者であったのを回避せしめていた“事実”にひとり喜ぶ。

 とはいえ、“実態”を知るオイフェは少々引きつった笑みを浮かべるしかなく。

 

 音に聞こえし天空の戦乙女達であるシレジア天馬騎士団。一方で、彼女らは未婚率が非常に高い騎士団としても有名であった。

 騎士を引退し、家庭に入る者も多少はいたが、現役の騎士で伴侶を得る者は皆無といっても過言ではなく。

 もちろん、天馬騎士団では厳しい訓練の日々が続く為、とてもではないが男漁りをする暇はない。しかし、意外な事に騎士団の規則では、特に色恋沙汰の禁止というのは制定されておらず。

 かといって男に興味が無い者ばかりというわけでもなく。

 

 要するに出会いが無かったのだ。彼女達には。

 共に王国を守る風魔道士達は、もっぱら市井のうら若き乙女達に人気であり、彼らの選択肢に天馬騎士団の乙女達は存在せず。

 唯一と言っていい身近な男衆からも見放されては、彼女らの満たされぬ欲望は募る一方。

 だが、このような鬱屈とした思いを訓練にぶつけていたがゆえに、シレジアの天馬騎士団は非常に高い練度を保っていたといえよう。

 

 そして、鬱屈し過ぎたがゆえに、一部の者達の性癖が歪んだそれへと変わっていく。

 フュリー隊を構成する天馬乙女達。

 

 恵体な乙女達は、皆金髪好きだった。

 そして、ショタコンだった。

 

 人懐っこいデューが、少しばかりの下心と共に、乙女達と微笑ましい交友を重ねる内。

 健全な友好の日々(おねショタ)爛れた肉欲の日々(おねショタ)へと変わり果つるのは、太陽が宵闇に飲まれるが如き自然の摂理といえよう。

 

「えへへ。ペガサスナイトのおねーさん達のハーレムかあ……うふふ」

「あはは……」

 

 嬉しそうなデューを見て、オイフェはそれ以上言葉を紡ぐ事が出来なかった。

 セイレーンでの、デューが過ごした過酷な日々。

 壮絶な飢えと渇きを覚えた雌狼共に貪られた、哀れな子羊の如き悲惨。

 

 あくる日の事。

 盗賊少年の無邪気な魅力に抗えきれず、辛抱堪らなくなった天馬乙女達(肉食獣の群れ)がデューを集団レイプ(おねショタ)した。

 まごうことなき強姦事件(おねショタ)ではあったが、とはいえデューと乙女達の間には親愛の感情(おねショタ)が育まれていた事は確か。

 多少の乱暴(おねショタ)は認められたものの、この件は健全な男女の恋愛(おねショタ)として天馬騎士団で処理される事となる。

 やや乱れた衣服を直しつつ頬を赤く染めながらバツが悪そうにしている天馬乙女達の傍らで、ヨレヨレとなった衣服を纒い全身を内出血(キスマーク)で赤く染めながら放心しているデューを、見て見ぬふりをする情けが天馬騎士団団長マーニャにも存在した。

 

「いや~まいっちゃうなあ。前? のおいらって、けっこうなプレイボーイだったんだねぇ」

「そうですね……」

 

 実際には行き遅れのアラサー女騎士共に貪り喰われた哀れな生贄である。

 そして、凌辱(おねショタ)されて以降、毎朝頬を痩けさせ、うつろな瞳を浮かべてセイレーン城に登城するデューのやつれ果てた姿が見られるようになる。

 太陽のような明るさを持つデューであったが、『太陽が黄色いや……』と、その明るさは見る影もなく。

 相反して、フュリー隊は毎日が意気軒昂、勇気凛々、お肌ツヤツヤであり。定期的に行われたシグルド軍の演習でも、彼女達の奮戦ぶりは凄まじいものであり、隊長であるフュリーですら若干引く程であった。

 

 シグルド軍の男衆は、毎晩女性を侍らせるデューへ羨望と嫉妬の眼差しを向け、毎朝無惨な姿で帰還するデューへ憐憫と同情の眼差しを向けていた。

 シグルド軍きっての色男、アレクをして曰く

 

『あいつはペガサスナイトのお姉さん方に精気を吸われ過ぎたから見た目が変わらなかったんだよな。ペガサスナイトじゃなくてサキュバスナイトかな? 夜だけに』

 

 と、外見の変化が著しいはずの少年の成長が阻害されていた事実を指摘していた。

 これは、オイフェもさもありなんと、納得するしかなかった。

 リューベックで別れる時分には、オイフェの身長はデューより数センチ高くなっており、裏を返せばデューは身体的な成長は全くしていなかったといえた。

 もちろん、その後にティルノナグで再会した時には、デューは年相応の成長を遂げてはいたのだが。

 

 そして、この壮絶な日々を糧に、デューは相手の生命力を吸収せしめる独自の秘剣“太陽剣”を開眼するに至るのだが、これはまごうこと無き余談である。

 

「……」

 

 ニコニコ顔のデュー。

 それを見ている内に、オイフェの心に少しばかりの影が差す。

 事故まがいの繋がりとはいえ、結局はフュリー隊と心と心を通わせていたデュー。

 しかし、デューの非業の最期と同様に、彼女たちもまた幸福とは程遠い結末を迎えていた。

 

 バーハラの悲劇の際。

 ロプトの大司祭、マンフロイと壮絶な一騎打ちを演じ、武運拙く瀕死の重傷を負ったシレジア王子レヴィンと、その伴侶となったフュリーを逃がす為。

 囮となったフュリー隊の半数が、バーハラで命を散らす事となる。

 そして、その後に行われた、グランベル帝国によるシレジア王国侵攻。

 バーハラを生き延びたフュリー隊の騎士達は、そこで全ての者がその儚い命を散らしていった。

 

 レヴィンやフュリー、僅かに生き残ったシレジア王国の者たちが、落ち延びた先であるトーヴェ城の郊外に建てた戦没者達の合祀墓。

 そこに、悲しみに塗れた表情で、花を手向ける金髪の青年の姿が見受けられていたという。

 

 フュリー隊の中には、妊娠した者もいた。

 だが、子を産む事は、出来なかった。

 

 

「おいら安心したよ。んじゃ、次の質問なんだけどさ」

 

 そう言ったデュー。

 気落ちしていたオイフェは、その気安い雰囲気により、柔らかい微笑を浮かべる。

 

「はい、どうぞ」

 

 笑顔で応えるオイフェへ、デューは真っ直ぐな視線を向けた。

 

 

「オイフェはシグルド総督とディアドラさんを救いたいの? それともアルヴィス卿へ復讐がしたいの?」

 

 

 瞬間、場の空気は張り詰めたものに変わる。

 じっとオイフェの瞳を覗く、盗賊少年デュー。その表情は、何もない所をじっと見つめる猫のような無表情。

 オイフェは変わらず穏やかな微笑みを浮かべる。だが、その目だけは。

 怜悧な光を宿し、デューの表情を見つめていた。

 

「なぜ、そう思うのですか?」

 

 抑揚の無い、平坦な声でそう問い返すオイフェ。

 デューはオイフェの底しれぬ憎悪を感じているのか、それとも努めて無視しているのか。いつもと変わらず、呑気な空気を纏わせていた。

 

「なんとなく」

 

 そう言って、デューはオイフェの憎悪の根幹へ無遠慮に手を伸ばした。

 

「たださ。オイフェはアルヴィス卿を殺したいのかなって」

 

 その言葉を聞いた瞬間、オイフェは奥歯を軋ませる。

 絞り出すように、デューへ言葉を返した。

 

「……アルヴィスは、マイラの血を汲んでいます。奴が生き延びている限り、ロプトウス復活の可能性は──」

「でもさ、それだとディアドラさんも殺さなきゃならないじゃん」

 

 無邪気に、しかし容赦なく核心をつくデュー。

 暗黒神ロプトウスの血族──聖者マイラの血筋は、大団円に終わった前世ですら、未だに脈を打っている。

 セリスとユリアが生き延びている限り、暗黒神復活の芽は絶たれていないのだ。

 

「ディアドラ様はッ!」

「オイフェ!」

 

 声を荒げるオイフェを遮るように、デューは鋭い声を上げる。

 僅かに逡巡したオイフェへ、諭すように言葉を続けた。

 

「しっかりしてよ」

「ッ!」

 

 多感で、それでいて無垢なデュー。

 ゆえに、オイフェが内包する歪な矛盾に気付いたのだろう。

 そして、その矛盾を抱え続けている限り、オイフェが目指す幸せな結末を迎える事は、難しいだろうと。

 そう、言外に伝えていた。

 

「……」

 

 オイフェ自身も、どこかでこの事は気付いていた。

 果たして、今のアルヴィスを殺す必要は、本当にあるのかと。

 いかなロプト、聖者マイラの血を引くとはいえ。

 ファラの系譜を継ぐ聖戦士を、己の私怨の為に、殺していいのかと。

 想定したアウグストの言の通り、マイラの血を不問にする代わりに、ロプト打倒の同志へ引き入れる方が良いのだろうかと。

 

 以前計画した全てを救うための方策。

 しかし、同時に、オイフェは己の怨恨を晴らすべく、憎悪の限りにそれを策定していた。

 果たして、己とマンフロイは、何が違うのかと。

 恨みを持って謀略を練る己は、あのマンフロイと同じなのではと。

 

「私は……」

 

 懊悩するオイフェ。

 救いたいシグルド。幸せになってほしいディアドラ。人生を全うして欲しい勇者達。

 そして、殺したい、アルヴィス。

 決して許せぬ、赤き宿敵。

 

「……両方、です」

 

 今世でディアドラと邂逅した時と、同じ言葉を述べるオイフェ。

 しかし、その言葉は、重くて暗い。

 粘ついた怨恨、大切な情愛。

 その狭間に揺れる少年軍師は、そのどちらも成し遂げる覚悟を、デューへ吐き出していた。

 

「そっか」

 

 オイフェの悲痛な覚悟を受けたデュー。

 少しばかり瞑目すると、さばさばとした調子で言葉を返した。

 

「わかった。じゃあ、両方やろう」

「え──」

 

 ひどく簡潔にオイフェへ共闘を誓うデュー。

 オイフェは驚きと共にデューを見た。

 

「おいらがどこまでやれるか分からないけど、おいらはオイフェに従うよ。だって──」

 

 オイフェはデューの意図をつかめなかった。

 だが、デューの気持ちだけは、終始一貫していた。

 

「おいら、オイフェが好きだし」

 

 はにかんだ笑みを浮かべるデュー。

 オイフェは、申し訳無さと、頼もしさで、眼尻を再び湿らせていた。

 

「ありがとう、ございます……」

「いいってことよー。それより早くロプトとアルヴィスを倒して、おいらのお嫁さんを見つけたいしね! あ、今回の場合はおいらがシレジアに行かなきゃだめなのかな? そのへんの予定くわしく!」

「……ふ、ふふふ」

 

「何笑ってんのさ!」と、デューはぐりぐりとオイフェの頭へ腕を絡ませる。

 その痛みは、今のオイフェには不思議と心地良い痛みとなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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