逆行オイフェ   作:クワトロ体位

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第14話『縁結オイフェ』

  

「あの、レックス公子。個人的には、その……ベルトは良くお似合いですよ」

 

 オイフェが前回のブリアンについて思いを馳せていると、おずおずとではあるがレンスターの若き騎士、フィンがレックスのフォローをする。

 とりあえずのフォローではあったが、どこか場を和ませるフィンの空気に、オイフェは表情を和らげていた。

 フィンの服装はレンスター騎士のフォーマルな装いであり、尚武を国是とするレンスター王国らしい、単調でありながらどこか勇武を感じさせている。

 そういえばセリス様が王位についたときもこのような装いだったなと、オイフェは一層懐かしい気持ちに浸っていた。

 

 ちなみに、フィンがこの場にいる理由は至極単純なもので、『後学の為にシグルドの新郎っぷりを見てこい』とキュアンに言われたからに過ぎない。そのキュアンは、シグルドのベストマンとして諸々の介添えをする段取りとなっていたが、何かに付けて性急な性格ゆえか、すでに城内のチャペルにて待機していた。

 というより、シグルドへ指輪を渡す役目以外の殆どをフィンに押し付けたというのが本当の所であり。

 後にフィンへ仕事を押し付けたのがエスリンにばれてしまい、愛妻から長時間の説教を喰らったキュアンはやつれ果てた姿を晒す事となる。

 

「お、そうだなフィン。それじゃあ、しっかりベルトの穴を締めておかないとな」

「レックス……いちいち言い方がきもちわるいよ……」

「アハハ……」

 

 じっとりとした目で親友を見やるアゼルに、乾いた笑いを浮かべるフィン。いい男はいい笑顔を浮かべるのみである。

 その愉快な様子を見て、シグルドとオイフェはクスクスと忍び笑いを漏らしていた。

 

 

「なんだか楽しそうだな、シグルド」

「エルトシャン! 来てくれたのか!」

 

 和やかな空気に包まれる控室へ現れたのは、隣国ノディオン王国を治め、シグルドとキュアンの士官学校からの盟友、エルトシャンだ。

 エルトシャンの姿を見とどめたシグルドは、思わずその金獅子の風格を備える盟友の元へと駆け寄った。

 

「当たり前だろう。お前の晴れ姿を見なくてどうする」

「エルトシャン……」

「まあ、わざわざ招待状を届けてくれたのもあるしな。これで行かなかったら私の信義に反する」

「いや、それでも来てくれてうれしいよ。ありがとう、エルトシャン」

 

 お互いの肩を抱き合いながら笑顔を浮かべる両雄。

 それを見て、オイフェは安心したようにほっと一息をついた。

 

(エルトシャン王には前回以上にこちらに寄っていただかなければならない……やはり直接出向いた甲斐はあった……)

 

 オイフェは先日、シグルドの総督就任に伴いノディオンへ訪問した事を思い起こす。

 シグルドが総督としてノディオン王へ表敬訪問する事で、外交上の誠意を示す必要があったからだ。その時に、婚礼の招待状も携えていたのだ。

 

「エルトシャン、グラーニェはどうしたんだ?」

 

 ふと、シグルドはエルトシャンの伴侶であるグラーニェの姿が無いのを見留める。

 

「グラーニェはアレスと一緒にディアドラへ挨拶しに行った。あいつは随分ディアドラの事が気に入ったみたいだからな」

 

 そう応えるエルトシャン。

 ノディオンへ挨拶に出向いた際、シグルドに随伴したのはオイフェだけではなく。

 オイフェの進言により、ディアドラもまたノディオンに出向いていたのだ。

 その時、エルトシャンの妻であるグラーニェは、可憐なディアドラをひと目見た時から大層気に入っており。まるで実の妹のように可愛がるその姿に、オイフェは目論見が当たった事で密かに安堵していた。

 

 エルトシャンをシグルド陣営に引きずり込むべく画策するオイフェ。家族ぐるみでの付き合いを深めさせ、“しかるべき時”にはエルトシャンが堂々とシグルドの味方になるよう仕向けねばならない。

 もっとも、グラーニェがシグルドをそっちのけにしてまでディアドラを気に入ったのは、オイフェにとってもやや誤算であったのだが。

 前回ではグラーニェとディアドラの交友は皆無であった為、ここまで仲が良く──今の所グラーニェが一方的に可愛がっているだけなのだが──なるとは、オイフェにも予想外だった。

 

「グラーニェの代わりといってはなんだが、今日は妹も連れてきた。ラケシス、入れ」

 

 そう言ったエルトシャンは、控室の扉へと目を向ける。

 数瞬してから、ノディオン王家の獅子の紋章が刺繍された若葉色の可愛らしいパーティドレスに身を包んだ、輝くような金髪の乙女が現れた。

 

「お久しぶりです。シグルド様」

「ラケシス、君も来てくれたのか。随分と綺麗になったね」

 

 ラケシスと呼ばれたうら若き乙女。

 咲いたばかりの白百合を思わせる上品で美しい乙女は、いきなりのシグルドのリップサービスにやや頬を染めながら言葉を返す。

 

「シグルド様、そういったお世辞はディアドラ様に言うべきでは?」

「お世辞じゃないさ。本当に綺麗になった」

 

 やや真顔でそう述べるシグルドに、ラケシスは増々照れたように赤らんだ顔を俯かせる。

 その様子を見て、オイフェは人知れず頭を抱えていた。

 

「シグルド……お前な……人の妹にまでな……」

「あ、あの、エルトシャン王。シグルド様に他意は無くて……」

「そのような事は十分理解している。だからこそだ。オイフェ、お前がシグルドの軍師であるならば、こういうところも正すよう直言出来ねばならぬのだぞ」

「は、はい……」

 

 なぜかオイフェがエルトシャンに説教めいた小言を受けてしまい、今度はアゼルやレックスがくすりと笑いを漏らす。

 オイフェはエルトシャンの小言を受けつつ、せめてブリギッドと出会うまでに、シグルドの女性に対して素直過ぎる性格を正さねばと決意を新たにしていた。

 とはいえ、これに関してはセリスの教育で十分に経験を積んでいる。セリスもまた、油断するとストレートな好意を余人にぶつけ、ややこしい勘違いを発生させていたからだ。

 

(血は争えないな……)

 

 シグルドの子、セリス。そしてエルトシャンの子、アレス。

 アレスもまた細かい事でオイフェに文句をつける事が多々あり、それを思い出したオイフェはエルトシャンの小言を受けつつもどこか嬉しそうに表情を緩めていた。

 

「んん! シグルド、ディアドラにも挨拶をしてくるから、私達はそろそろ行くぞ」

「そうか。エルトシャン、ラケシス。今日は来てくれてありがとう。大したもてなしは出来ないが、ゆっくりしていってくれ」

 

 半ば強制的に話を打ち切り、エルトシャンはラケシスを伴い控室から退出していった。

 

「エルトシャン王の妹君もなかなかの美人だったな。アゼル、お前はどう思う?」

「え? いやまあ普通に綺麗な人だったと思うよ」

「なんだお前、ほんとエーディン以外には興味ないんだな」

「な、なんだよ! バカ言うな!」

「ははは。可愛いやつめ。次はションベンだ」

「なんでさ!? なんで今の会話の流れでおしっこが出てくるのさ!?」

 

 アゼルを弄るレックス。微笑ましいその光景を他所に、オイフェは先程から陶然とした表情を浮かべるフィンに目を向けた。

 

「……」

「フィン殿?」

「……可憐だ」

 

 そう、ぼそりと声を漏らすフィン。

 オイフェはそういえば()()()()()フィン殿とラケシス様が出会うのは初めてだったな、と思い起こす。

 彼らが初めて出会ったのは、あのアグストリア動乱の初期だった。

 直接目にはしてなかったが、フィンがラケシスに一目惚れした事はオイフェは知っていた。

 

(今回もがんばってくださいね、フィン殿。前回以上にハードルは高いですが……)

 

 そう、心の中で呟くオイフェ。

 彼らが男女の仲になったのは、シレジアへ落ち延びてから。それまでは、あくまでシグルド軍の同輩でしかなく。

 いや、仮にもノディオン王家の姫君であるラケシスに、フィンはどこか遠慮していたのだろう。

 故に、シグルド軍が“賊軍”となったタイミングでしか、フィンはラケシスにアプローチが出来なかったのだろう。

 もっとも、そのような事情がなくとも、フィンはいずれはラケシスに想いを告白していたのだろうが。

 

(今回はシグルド様がシレジアへ行くような事は、絶対にありえないですからね……)

 

 そして。

 オイフェの大計略では、此度のシグルドがシレジアへ落ち延びるという事態は想定しておらず。

 前回のようにフィンがラケシスと結ばれるには、前回以上に身分の差を乗り越える必要があった。

 

(……いや、やはり少しばかり助ける必要があるな。うん)

 

 オイフェは思う。

 フィンがラケシスと結ばれるよう、それとなく助けてやろうかと。

 フィンの恋の障害は、身分の差だけではない。

 あの風のような自由騎士が、フィンの前に立ちはだかっているのだ。

 

 それは複雑で、苦い感情を滲ませた、男女の情愛の形。

 少年軍師は、その切ない恋の行方に頭を巡らせていた。

 

(でも、どうすればいいのか……うーん……)

 

 とはいえ、男女の情愛に疎いオイフェが出来る事は限られていたのだった。

 

 

 

「やれやれ。シグルドには参るな」

「はい……」

 

 控室を出たエルトシャンとラケシス。

 ディアドラの控室へ繋がる通路を歩くエルトシャンに、後に続くラケシスは未だ婚礼が始まっていないにもかかわらずやや疲れた表情を見せていた。

 

「相変わらずでしたか、シグルド様は」

 

 ノディオン王家の兄妹の後に続くのは、クロスナイツの三つ子騎士の長男、イーヴだ。

 エルトシャンの腹心でもあるイーヴは、弟達であるエヴァ、アルヴァと共にラケシスの守役としての顔も持つ。

 流石に三兄弟全員で同行はしていなかったが、こうしてイーヴがノディオン兄妹の護衛として同行していたのだ。

 

「まあな。あの天然気質がなければシグルドはもっと良い騎士になれるのに……とはいえ、親友の喜ばしい婚礼だ。ラケシス、お前もそろそろ相手を見つける時じゃないのか?」

「え?」

 

 イーヴに応えつつ、やや浮ついた表情でラケシスへそう述べるエルトシャン。

 ラケシスは兄の言葉に、さも心外といった表情を浮かべていた。

 妹の微妙な表情に構わず、兄のおせっかい焼きは続く。

 

「オイフェはともかくとして、ヴェルトマーのアゼル公子やドズルのレックス公子もなかなかの美丈夫だったではないか。どうだ? ここらで婿探しなんて」

「エ、エルト兄様! 確かにレックス公子はいい男でしたけど、私はまだ誰の妻にもなりません!」

「わかったわかった。だが、お前もいずれはノディオン王家の王女として誰かに嫁ぐ日が来るのだ。いつまでも独り身でいようとは思うな」

「……はい」

 

 兄妹の情を超えつつあるラケシスに気付いているのか、エルトシャンはやや厳しく妹へ言葉をかける。

 ラケシスはエルトシャンの言葉に、不承不承といった体で頷いていた。

 

「……私は、エルト兄様のような人でなければ好きになれないわ」

 

 そう、小声で呟くラケシス。

 兄に聞こえぬよう、か細い声を漏らしていた。

 

「……」

 

 しかし。

 ラケシスの胸の中に、シグルドの控室にいた青髪の青年の姿が浮かぶ。

 

「……?」

 

 ちくりと、胸を刺すような痛み。

 生まれて初めて味合う、焦げるような痛み。

 僅かな痛みであるが、ラケシスはその痛みに戸惑いの表情を浮かべていた。

 

「……私は、エルト兄様のような人でなければ、好きになれないわ」

 

 確認するかのように、再びそう呟く。

 その痛みは、乙女の心の奥底に微かな傷をつけていた。

 

 

「それはよろしいのですが、二回も言わなくていいかと」

「聞いてたのっていうか雑に流さないでよイーヴ!!」

 

 乙女の可憐な抗議に、三つ子の騎士は淡白な表情を浮かべていた。

 

 

 


 

「まあまあまあまあまあ! 素敵! 素敵すぎるわディアドラ!!」

「は、はい……ありがとうございます、グラーニェ様……」

 

 所変わって花嫁であるディアドラの控室。

 エルトシャンの妻であり、ノディオン王国の王后であるグラーニェは、ディアドラの控室に入った瞬間から挨拶もそこそこに全開だった。

 

「本当に素敵だわ! 可愛いくて綺麗で美しくて! ああもう! ほんとにもう!」

「あ、あの、グラーニェ様、苦しいです……」

 

 飾り気の無い、純白のウェディングドレスに身を包んだディアドラを、大きく胸元が開いたセクシーなドレスを纏ったグラーニェが力の限り抱きしめており。

 グラーニェの豊かなバストに顔を埋めたディアドラは苦しそうに身を捩らせるも、グラーニェの愛情表現だと思うとそれ以上の抵抗が出来ずにいた。

 

「あー! あーもう! あーもう! ディアドラ! こうなったらシグルド様じゃなくて私のところにお嫁に来なさい! ええ! ぜひそうしましょう! そうするべきだわ! エスリン! ディアドラをこのままノディオンへ持って帰るわ! いいわね!?」

「いやいいわけないでしょ。何言ってんのよアンタは……」

 

 ヒートアップするグラーニェへそう呆れた口調で述べるのは、シグルドの実妹でありレンスターの王太子妃であるエスリン。

 レンスターの王太子妃であるとはいえ、一国の王后に対しやや無礼な口調なのは理由があり。

 グラーニェの実家はレンスターの大貴族の家であり、政略婚でノディオンへ嫁いでいたという事情があった。その縁で、同じく政略婚でレンスターへ嫁いでいたエスリンは、度々レンスターへ里帰りしていたグラーニェとも顔を合わせる機会が多く。

 政略婚とはいえ、夫への愛は本物である二人。同じような立場、心境からか、二人が親しい友人になるのはそれほど時間がかからなかった。

 故に、このようなプライベートな場ではあけすけな物言いが許されていたのだ。

 

「エーディン、ディアドラが可愛いすぎるのよ、わかっているの、ねぇ!」

「はあ……」

 

 エスリンと同じく、ディアドラの付添いとして控えるエーディンにも息を巻くグラーニェ。ユングウィの公女はノディオンの王后に若干引きつつ生返事をするしかなかった。

 ちなみに、グラーニェが里帰りする時はルート上にあるユングウィへ立ち寄る機会も多く、グラーニェはエスリンを介してエーディンとも仲を深めていた。

 元々エーディンはエスリンとも幼馴染であり、グラーニェと親睦を深める機会は多かったのだ。

 

「なんだか……凄い御方だな……」

 

 少し離れたところでそう呟くのは、簡素なドレスを纏ったイザークの王女、アイラ。初対面のノディオン王后に、少々……いや、ドン引きしていた。

 此度の婚礼ではとりたててやるべき事がなかったアイラであったが、ある意味居候ともいえる己の立場を鑑みて、少しでも手伝えないかとエスリンに申し出ており。

 こうして、諸々の雑務を手伝っていた。

 

「ごめんなさい。ははうえは好きな人がキレイだといつもこうなんです……」

「そうなんだ……大変だねアレス王子は……」

 

 その隣では、エルトシャンとグラーニェの一人息子、ノディオンの王子であるアレスが、幼いながらも申し訳無さそうな表情を浮かべている。

 それに同情めいた視線を向けるのは、イザークの王子、シャナン。

 アイラとシャナンは共にイザークから落ち延びてきた身の上。その立場は、食客の武将としての身分だ。

 そして、アイラの弟として身分を偽っているシャナンは、シグルド陣営では最年少というのもあり、こうして賓客の子息であるアレスの面倒を見ていた。

 もっとも、現在進行系で面倒をかけているのは母であるグラーニェなので、アレスは齢三歳にして不始末を詫びる官公吏の如き哀愁を漂わせていた。

 

「ふー……中々のディアドラ味だったわ……」

「──」

「ディ、ディアドラ様、大丈夫ですか?」

「ちょっとグラーニェ! ディアドラ様がどっか行っちゃったじゃない! どうすんのよ!」

「大丈夫よ。しばらくしたら元に戻るわ……多分」

 

 散々ディアドラへ頬ずりし、全身をもみくちゃに愛撫しきって満足したグラーニェ。

 ディアドラは激しいスキンシップに消耗したのか、魂を抜かれたように虚空に視線を漂わせており、エーディンの声掛けを受けても放心状態であった。

 

「あら、貴方は……」

「えっ」

 

 達成感のある表情を浮かべるグラーニェは、ふと部屋の隅に控えるアイラへと視線を向けた。

 

「まあ、貴方も素敵ねえ……ディアドラの侍女?」

「い、いや、私は……」

 

 いきなり矛先を向けられ困惑するアイラ。そのアイラににじり寄るグラーニェは、雌豹の如き眼光を浮かべていた。

 

「なーんて。貴方達の事はエルトシャンから聞いているわ」

「ッ!?」

 

 直後、グラーニェは悪戯っ子のような笑みを浮かべる。

 アイラはやや剣呑な表情を浮かべるも、グラーニェが見せる慈愛の空気を感じ、増々困惑とした表情を浮かべた。

 

「イザークとグランベルの事は私も憂いているわ」

「……貴方には、関係ない」

 

 少しだけ表情を暗くさせるグラーニェ。

 それに、アイラは反発するように言葉を返す。

 

「ええ。関係ないわ。でも、こうして出会えたのだから、これからは関係ないなんて言わせないわ」

「……」

「私が出来る事は限られているけど……でも、貴方が、貴方達がいつかきっとイザークへ帰れるように……私も力を貸すわ」

 

 イザークとグランベルの戦争は、ノディオンには関係なき事。

 従属しているアグストリアが非介入を貫くならば、ノディオンがそれに従うのは道理。

 非公式な場とはいえ、グラーニェの言葉はアイラにとって軽薄な言葉に聞こえた。

 

「……それは、ノディオン王家としての言葉ですか?」

 

 値踏みするようにグラーニェの目を真っ直ぐ見据えるアイラ。

 一流の剣士が放つその圧に、グラーニェは全く怯むことはなく。

 

「いいえ。ノディオン王家の意見ではありません」

「……」

「ですが」

 

 ふっと、グラーニェは優しげに表情を緩ませる。

 そのまま、そっとアイラの肩を抱いていた。

 

「貴方の友人としての言葉ではダメかしら。アイラ」

「……いや、ダメじゃない。グラーニェ、ありがとう……」

 

 グラーニェの手を取り、儚げな笑みを浮かべるアイラ。

 おかしなところもあるグラーニェだったが、根は慈愛に溢れた、優しい人。

 そう心で感じたアイラ。

 得難い友人を得た今日の婚礼に立ち会えた事を、父祖である剣聖オードへ静かに感謝を捧げていた。

 

「はぁー……一時はどうなることかと」

「ええ、本当に」

 

 ともすれば一触即発の事態をはらはらと見守っていたエスリンとエーディン。

 結局、和やかな空気を纏わせる二人を見て一安心といった表情を見せていた。

 オイフェが意図しなかった、一つの縁。

 それが、身を結んだ瞬間であった。

 

 

「く、苦しいです……グラーニェ様……」

「あ、戻ってきた」

「え、これ、ちゃんと戻っているのですか……?」

 

 直後にうめき声を上げるディアドラを見て、エスリンとエーディンはなんとも言えない表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 




「はまだ ディアドラが可愛いのだ わかってるのか おい!」
「はあ・・・」

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