ソラとシンエンの狭間で   作:環 円

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第六話 はじまりの物語

 薄暗がりの部屋に女がひとり、座っていた。

 ここは自宅ではない。都内に幾つか持つ部屋のひとつであった。スタンドライトの光に当てているのは複数枚の紙束である。今日あった会議の議事録を女は読んでいた。

 

 女はこの国、日本で元帥と呼ばれる地位にある。

 世界が変わらざるを得なくなった、未知なる敵---深海棲艦との遭遇により劇的に変化を遂げた国のひとつが日本という国であった。細長い本土に触れるのは全て海である。四方を囲まれ、世界を広く見渡せば何をするにも船が、飛行機が必要な立地にある。

 かつて鎖国国家再び、と遠くはなれた国の幾つかでは面白おかしく伝聞されたが、元帥にとっては気になるものではない。

 鎖国上等、であったからだ。

 世界が日本に求める輸出品は少なく、その少ない品も代用品が存在する。

 だが入ってこねば困る品は多い。石油にしろ食料(小麦と大豆)これが使われぬ食べ物などほとんどないからだ。配給制にしたとて飽食の国と言われていた日本だ。国庫に備蓄されたいた量では餓死までのカウントダウンなど数えるまでもない。

 元帥を始めとする集団に、国が泣きついてきたのも当然であった。

 これは日本に限った話ではない。太平洋であればインドネシアやフィリピン、パプアニューにギア、オーストラリアやニュージーランドも含まれる。

 

 海洋大国日本は本土と同じく、海に囲まれた国に対し支援を名乗り出た。

 物質的な面で、ではない。軍事的な方面で、だ。

 

 かつて第二次世界大戦があった。世界の史実にも載る、大規模な対戦であった。

 その際にかつて日本が統治した地に再び基地や泊地を構える代わりに、その近辺の治安を保持するという条約である。

 必要であるならタンカーを使っての輸送にも協力する。

 

 海洋国はこの要請を快く受け入れた。

 反対に回ったのは、国連として未だに大きな顔するいくつかの国である。

 だがその声が通ることは無かった。なぜならば反対を口にする国はことごとく、広大な陸地を持っていたからである。国と国が両隣にあり、経済的にも安定していた。だから逼迫し、滅びすら眼前に突きつけられている海洋国の多くはその言を破り捨てたのである。

 

 だが広大な陸を持つ国々は危機感を抱いていた。

 かの屈強なる旧日本軍の再来に繋がる可能性を、だ。

 もしそうなれば世界の中で最も強い国であると自負する国の威信が脅かされるのではないか。そう考えたのだ。

 人類が持っていた核や生物兵器をもってしても太刀打ち出来なかった、深海棲艦に唯一立ち向かえる戦力をたったひとつの国だけに独占させておくわけにはいかない。そして、だからこそ有用な技術は世界に広く拡散するべきだと主張した。

 

 その実、日の本の国だけが海に船を出せる現状に、噛み付きたいだけなのである。一番の座を、明け渡すのが苦痛なだけなのである。二番目ではいけないのだろうか。日本という国はずっと事なかれ主義で、次点に甘んじてきた。

 ほんの少し機転を利かせただけなのである。

 以前、ゲートが開き、現状が訪れると世界に教えた人物を稀代のほら吹きと笑いものにし死へと追い込んだのは誰であったか。

 ちゃんちゃらおかしいのである。

 

 備えていたものとそうでないものの差が出ただけであった

 

 ならばお前達も独自で開発してみるがよかろう。成り代わり、奪うしか能がない猿が。

 言葉には出さないが、十二分に態度として表現されているのだろう。

 元帥には多くの敵があった。

 だがそれを元ともせぬほどの権力もまたその手にあった。

 

 元帥が今最も危惧しているのは、政府内に在する売国奴どもだ。

 政治家と政界人の中で確認されているのは五名の人物である。これらがテレビや国会で喚き、うるさいことこの上なかった。

 声を上げるのはまだいいとしよう。言論の自由がこの国では認められている。

 それらは国家機密である艦娘に関する技術を無償で大陸国へ譲渡せよと声高に主張しているのだ。

 

 世論でも少しくらい良いのではないか。そういう声が上がっているが、とんでもない。

 渡せばどうなるか、目に見えていた。

 それに闇取引と称した横流しも確認されている。現時点において艦娘を製造管理、維持できるのは技術大国でもある日の本の国だけである、そう自負したとしても過信ではない。

 

 真似出来るならばやってみるがいい。

 元帥は躍起になり艦娘の解析を急ぐ、幾つかの国を思い浮かべる。

 かの国々が使っているデータは全て流出させたものである。面白おかしく、数字を弄べばよい。

 

 「今だけを見、未来の展望を何一つ提示できない無能どもが」

 

 元帥は薄く笑み、議事録にある文言に侮蔑を放つ。

 どうしても大国に侍りたいのだ。それらの人物にお前の国籍はどこにあって今住む国はどこだ。そして誰の認によってその席に座っているのかと、その本心を聞いてみたい、とも思う。が、どうせ返答は決まりきった文言であろう。

 否定する、批判するならば、代案を指し示せというのだ。そもそも碌な質問もせぬのに、国会に呼び出し喚問を繰り返すのは愚の骨頂である。時間の無駄であった。有能な敵より、無能な味方が最も性質が悪いのである。

 議員である、それだけで何を威張っているのか。国民に選ばれなければ、票を入れてもらい、声高に叫んだ政策を実行に移す能力が無ければ、有害以外の何者でもない。

 必要であればその首を後ろから掻っ切っても許される罪を犯そうとしているのを、やんわりと制止してやっているというのに、何もわかっていないのだ。

 

 

 内閣とは何のためにあるのか。

 本来はこの国の籍を持ち国民としての義務を果たす多くの民のためにあってしかるべき組織である。だが長い年月をかけ考える能力を、思想を統制し徐々に奪われた結果がこれだ。腐敗の温床となっている。私利私欲を肥やすのはまだいい。国益中心に動くならば。

 だが国を根本からひっくり返そうとする勢力がある。日本が得るべき益をその他の国へ流そうとする不届き者が居るのである。

 何が友好だ、である。

 艦娘を友好の架け橋にし、輸出するなど出来ようはずも無い。

 しようと試みても、そのこと如くを失敗させる策と人員はすでに配置済みではあるものの、念には念を入れておかねばならない。

 失敗などあってはならぬ。

 

 やっと落ち着いたのである。

 この膠着が最も世界のバランスを保つ、現時点で最良であるからだ。

 無尽蔵に深海より湧き出てくる棲艦を根本的に排除する方法が未だに見つかってはいない。

 あるのだろう、とは想像出来た。現象として存在する限り、相反する物事は必ず存在るからだ。

 

 艦娘という戦闘人形を作るために構築された体系は問題なく稼動し続けている。

 それらを一から組み立てた本人がこの世界に居らぬだけで、問題なくすべてが組み立てられた筋書きのまま進んでいた。

 

 (真水の中に落とされた墨汁の一滴が、どう影響するか)

 

 人が集まり形成される組織である。

 問題が出ないわけが無い。

 ありとあらゆる場所からひとつ、ふたつと何かしらが浮上してくるものだ。

 それを調整し、あるときは叩きのめしこちらの要求を飲ませ、またあるときは折れた振りをしつつ、その通りにはしてやらずこちらの利になるよう動く。それを何度と繰り返してきた。そしてこれからも繰り返してゆくだろう。

 

 

 己が望む未来が手に入るまで。

 

 

 現在ショートランドの提督として在る人物が水面下でゆっくりと周囲を巻き込みながら起している渦を、元帥は面白く興味を持って静観していた。

 基地や泊地、鎮守府の連携は今までもしては、いる。ただそれぞれには野望があり、目的がありその地位についていた。最も分かりやすいのは金である。成果、戦果の分だけボーナスが出る仕組みとなっていた。

 競争が生まれているのである。

 その中で群を抜いているのははやり彼であろう。

 

 彼は元帥が拾った人間である。他の意図は無い。言葉の通りだ。

 だが拾った場所が場所であった。

 

 彼は艦娘という存在を作るプラントを作り上げた、元帥と並び立ち、現在の状況を作ったもうひとりの立役者である、『プロフェッサー』が姿を消した研究施設に突如、現れた存在であった。

 

 研究所は閉鎖されていた。閉鎖という名の監視だ。

 かの頭脳の置き土産とも言えるマスターコンピュータの本体が地下にあるその建物で、プロフェッサーが消えたその日と同じ現象が起き、駆けつけた元帥の目の前に倒れていた男が、現ショートランド提督であった。

 

 何らかの情報をもっている可能性もある。放置しておくわけにもどこかに監禁するわけにもいかず、急遽運びこまれたのは主に政府関係者が使う医療病院だ。

 極秘の入院にも対応してくれる個室に、男は運ばれる。

 簡単な体温や血圧等の検査が行なわれ、白を基調とする部屋に静寂が訪れた。

 

 元帥は立ち上がり、部屋を出る。

 ここで彼の呼吸を見続けていても事は何も動かず、時間だけが無為に過ぎてゆくだけだ。

 部下に目覚めたら知らせよと命じ、職務へと戻った。

 連絡が入ったのは三日後の早朝だった。

 仮眠を取り目覚めた瞬間に鳴った電話の機械音に手を伸ばし報告を聞く。一時間以内に向かうと伝え、その通り、女の姿が病室に現れたのは時間きっかりであった。

 

 先に聞き取られていたメモを見、思わず表情を動かした。

 

 彼の話は実に妄想虚言かと疑いたくなるさまざまが含まれていたからだ。

 なぜなら彼の生まれが1987年であり、年齢を聞けば26であるという。現時点の西暦で計算したとしても、彼の年齢はどうあがいたたとて一桁、記憶の曖昧さと理由付けても十代前半としかならない。そして確認した名前と住所には別人が住んでいた。さらに戸籍を調べさせたが、両親と兄、そして目の前にある男の名も番号も無かった。

 

 笑い話とするのは簡単だ。

 元帥はよくよく話を聞く。

 すれば彼が暮らしていた世界では今よりも科学が発達し、現在研究中である技術も形となっているようであった。

 未来から来たのか。そう考えるのが順当であった。

 しかし彼の世界では深海恐慌は起きていない、という。そしてその他、多種多様な情報を男はもたらした。

 

 その際たるはプロフェッサーが生きているらしい、ということだ。

 ありとあらゆる試みを試行錯誤しているのだろう。そう思える節々があった。

 意図してこちらから消えたのではなく、不測によって吸い込まれたのだ、と分かっただけでもここ数年、停滞していた問題がひとつ消え去ったのだ。そして元帥が考えていた最悪の事態のひとつは少なくとも回避されたことになる。

 

 プロフェッサーはゲームを作っていた、という。

 その名も『艦隊これくしょん』だ。

 艦娘という名称も、敵対する敵の名も、起きたイベントという名の海戦も全て過去と合致していた。

 開発会社の名前は覚えていなかったが、とある、発言が次々と連なって現れるツールを使った開発運営からの連絡には、プロフェッサー自身が書き込んだ投稿もあり、プレイヤーである男も見ていたと言った。

 なんとも面白い話である。

 こちらに戻ろうとしているのだろうか。もしそうであれば、僥倖である。

 マスターコンピューターから吐き出されている、何かの暗号がごとき数字の意味をそろそろ、まとめて解説してもらわねば困る高さにまで積み重なっていたからだ。

 

 艦娘となるモノを拘束する洗脳拘束具はプロフェッサーが打ち込んだプログラム通り作り続けられているが、これが止まってしまうと少なくとも日本という国は再度、成り立たなくなるだろう。

 元帥は海の奥底からやってくるものらがゼロとなるまで、その歩みを止めることは出来なかった。

 

 

 彼が生きていた世界では第二次世界大戦以後、日本は戦争を一度も行なうことなく平和を維持し続けているという。

 そして彼はパーソナルコンピューターの画面に、----驚くべき事に彼が暮らす世界ではパソコンが各家庭に一台以上あるらしく、携帯電話という手のひらサイズの端末により音楽を聴いたり、ネットワークシステムにアクセス、情報を知ることが簡単に出来るようになっているのだという。----吸い込まれたという。

 

 恐るべき技術革新の証である。

 だがもし、あのプロフェッサーがこの男と同様、あちらの世界に降り立ったならば、考えられない話ではない。

 プロフェッサーは深海棲艦が出現するゲートの研究に着手していた。どういう原理で開くのか、それさえ分かればその反対を行なえるのである。開閉の仕組みさえ分かってしまえば、永遠に封じることも可能と試算が出ていた。

 

 だろう、という憶測は使わない。する、と結実させるために動く。

 そうしてこの国を今、支えている柱がふと彼の使い道を思いつく。

 

 まさかとは思うが、プロフェッサーもそのような考えであったのだろうか。

 目の前の人物はいたって普通の、国民の一人として多くある若者である。一見での判断になるが突出したカリスマを持つわけでも、知識に、戦略に詳しい専門家というわけでもない。国内の一企業に勤める、その他大勢がひとりである。

 だがゲームとして現状をシミュレーションさせ、何らかの素質を持つ個体をこちらの世界へ送り込んできたとするならば、どうだろう。

 

 そんな甘い話があるわけが無い。思考に否定が入る。

 だが、プロフェッサーは技術狂人であった。

 人間の論理など皆無に等しい。

 例えるならば、科学の発展のためならば実験動物に人間を投入してもよしとする人物だ。進歩のために多少の犠牲は已む無く、その後の多くが恩恵を享受できるならば、それを犠牲とは呼ばなくなる。失敗すれば犠牲だ。成功すれば最初のひとりとして英雄視されるだろう。そう嬉々として語る。

 

 『嘆き悲しみ否定する感情』がそもそも理解不能である、という。

 なぜ感謝しない。その始めとなる光栄が与えられるのだ。喜び勇んで諸手を上げ、強力すると涙するのが本来であろう。そう考える人物であり、実際にその思考原理で動いていた。

 

 プロフェッサーに置き換えこの人物を送り込んだ、否、利用したとするならば、だ。

 もしかしなくともゲートの向こう側に繋がっていた世界で、何らかの実験をしていたと考えるが妥当であろう。

 ゲームを作っていた、と彼は言った。

 ゲームという隠れ蓑を使い、その裏側でゲートを利用した人体実験をしていたとするならどうだ。

 

 ゲームをプレイしている多くの人員が実験体となるならば、250万以上のアカウントがあり、その半分が実際のプレイ人口だとしても125万人がプロフェッサーの実験に参加していることになる。

 さらにその中からプロフェッサーが捜し求める金の珠、実験の肝となるモルモットを見出していたとするならば。

 行なっている実験にぴたりと符合し、条件に対応出来る人物に対し、ゲートを発露させるだろう。

 

 彼が言った画面に吸い込まれた、という現象がまさしくそれ、と確信できた。

 

 まさしく生贄である。

 

 (だって楽しいじゃない! 有意義じゃない! この世に不可能なんてないのよ。まだ至れていないだけ。諦めるなんて勿体無いわ。壁なんて壊してしまえばいいのよ。必要であればあたしは、やるわ。行き着くところまで、それがたとえ地獄だろうと閻魔様が待ち構えていようとも、この知的探究心はとめられないのよ、やってやるわ!)

 

 嬉々として行ったのだと簡単に想像出来る。

 彼は人の身でありながら、程よく調教され送れて来た戦士というわけだ。

 ならば、ならばこそだ。

 自身の役にも立ってもらおうか。手駒はあればあるほどいいのだ。多少身元が不確定ではあるがかまわない。彼女が送り出してきたならば有効利用するべきである。

 どこかで見ているのだろう、プロフェッサー。

 使うぞ、お前が送り込んできたこの戦士を。

 

 元帥は彼に笑む。

 かつて夢と希望を胸に、未来を熱く語っていたかつてを演じながら彼に話しかけた。

 

 「苦境にある我らの一翼となってはくれまいか」

 

 彼は一瞬驚き、説明を求めてきた。

 元帥は嘘偽り無く語る。国の状況を。世界の姿を。そして深海棲艦がもたらした悲惨な現状を。

 

 

 △▽△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

 

 「もう二ヵ月となるのか。早いものだ」

 

 今やこの日の本の国だけではない。多くが艦娘の動向に注視していた。

 特に鉄底海峡を抜けての作戦にはメディアも高く評価を下し、ショートランドの英雄を持ち上げていたくらいだ。

 その後始末が未だに残っているが、指揮を失った残党である。

 近づけば交戦になるが、観察しているだけであれば身動きひとつしないという。

 

 功を焦ったのか。

 ラバウル提督の采配ミスか、最前線にある3つの方面のうち、かの地の戦力だけが落とされている。

 なぜか。

 これに関しては早急に調査を向かわせるべきであると総帥は判断する。

 

 国内外にある鎮守府、基地、泊地にはショートランド提督が采配した戦果の詳細を参考にするように、と送っている。

 着実に、疑いを持たずそのまま実行している方面からは今のところ、感謝の声は上がっていても苦情は無い。

 

 貴重な戦力を無駄に使っていては、前ショートランド提督と同じ結末になるだろう。

 元帥はふと思い出した某の名前に唇を弧にする。

 

 口だけが達者な男であった。

 あるものを上手く使えば良いものを、私利私欲をかいたがために命を天秤にかける結果となったのだ。

 どこにいるかも定かではないが、生きていれば死ぬよりも苦しい状態になっているだろう。

 大陸のどこかに匿われているか、それともかつての部下に弑(しい)されたか。それもまたありえる話だ。

 

 艦娘らを形作る技術は解明しようとしても出来ない。

 なぜならばあのプロフェッサーですら永遠の課題だと喜んでいたくらいだ。

 何事も簡単に出来てしまうが故に、更なる次を欲する。なまじさまざまが簡単に出来たが故の狂気である。

 

 出世頭となったショートランド提督に対し、追いつけ追い越せとその他の地区も切磋琢磨し始めている。

 良い傾向だ。

 大湊からきな臭いにおいはしているが、尻尾を出さず成果だけを積み上げる人物のお陰で手が出せないでいる。がしかし、有能な男である。処分するより使ったほうがこの国のためになるだろう。

 

 報告書の一枚をめくれば、ショートランドから運び出されたリンゲル液内に確認された素体の数があった。それを見、思わず失笑する。

 

 深海棲艦は規則正しい縦割り社会を形成していた。

 思考回路はあるものの、感情という心が存在していない。

 システムとして種の形は完成されていた。ある意味美しいとさえ思える体系だ。

 進化の過程において生き残れない個体は滅び、生命力溢れる力強い種だけが残ってゆく。

 深海棲艦は成長しない。生まれたままの姿を保持する。進化するとすれば次生まれる新たな個から、らしい。

 新たな個は親であったものを食し養分とする。なぜならいらないからだ。古い型は必要とされない。

 そうして積み重なっていき生まれた固体に姫と名が付き、群れを率いる旗艦となる。

 ただそうした旗艦が生まれるのは稀だ。

 

 別紙を見ればショートランドにある戦力が記されている。

 大和、武蔵、長門、陸奥。大鳳、翔鶴、瑞鶴、蒼龍、飛龍と名立たる艦名が連なっていた。しかもその錬度は全ての拠点を含めた中であっても五位につけている。ついぞ前までは最下位であったのに、だ。

 最強の泊地、そう称してもおかしくは無い。

 

 「あっという間に追いつかれそうだ」

 

 男が泊地に赴任するまでは元帥がある横浜鎮守府の戦力が最も過大であった。

 

 深海棲艦は人間が持つ兵器で弱体化させることは出来ても、その活動を止めることは出来ない。

 艦娘たちが装備する、深海棲艦専用の兵器でなければ致命傷を与えられないのだ。

 

 「あやつはどれだけの棲艦を屠っておるのだ」

 

 それだけ日常的に戦闘が起こっている場所であると暗に示す数であった。

 各鎮守府にある素体の数は各々、基本、艦娘立ちの所属上限数入っている。

 羅針盤娘らが拾ってきた残骸から、解体した際にも素体がミキサーの中に入り、小さく収縮するのだ。

 

 元帥は知らなかった。

 ショートランドにはすでに客間を合わせ二百五十という大規模な宿舎が建造されている、ということを。

 宿舎の建造には許可を出したが、そんなに大きなものだとは想像していなかったのだ。そして入渠ドックについてもそうである。

 まさか南海の島で温泉を掘り当てたなど、知るわけもない。

 

 工廠において建造の活発化により素体数が少なくなっている。佐世保などは諸手を挙げて喜ぶだろう。数が足りぬ多くに移送したとて、それでも100以上余る計算となる。

 戦力拡充のために少数しか下ろせなかった、国内にある研究所も涙するに違いない。少数を殺さぬよう保持させるのも維持費がかかるのである。全くもって役に立ってくれる男だ。

 情にほだされやすいのが多少気になるところではあるが、それが今は上手く回っているのだろう。

 

 所詮、艦娘として代替的に日本という国を守っている、そう宣伝している実は、元深海棲艦である。

 無尽蔵に湧いてくるのだ。使い捨てにすればよいのである。

 誰も気にとめなどしない。ゴミを焼却処分することに、誰が反対する。ゴミは焼却炉で焼かれ続けねば、己の生活が保てない。あっという間にゴミ屋敷となってしまうと理解しているからだ。

 

 ショートランドにしても、戦果を上げ続けるならば艦娘たちをどう扱おうが構わなかった。

 

 元帥として口出しする必要は無い。

 海外にある基地や泊地にしても、よくやっている。

 男のような神がかり的な勝利ばかりではないが、着実に戦果が上向いてきていた。たった一箇所を除いては。

 

 元帥としての仕事を行なうならば、かの地、ラバウルが自滅せぬよう、せいぜい見守るくらいだろう。そして国内のきな臭い案件をいくつか処理すれば頭数は揃う。

 

 「代えは用意しておいてやろう。せいぜい足掻くが良い」

 

 元帥は立ち上がりカーテンを開ける。

 朝日が昇ってきていた。

 

 暁の地平線に、光が溢れ始める。

 

 時は十二月二十六日。

 ショートランド泊地で新たな戦いが始まっていたことを、元帥が知るのは後の二十八日、ラバウル基地沈黙の報を大湊経由で受けたときであった。

 




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 あとがき

 これにて全6話終了となります。
 ページを開いていただだいた皆様方、ありがとうございます。
 投稿させていただいているアルカディア、ハーメルン、双方の管理者様、場所をお貸し頂き感謝しております。
 
 後に続く幕引けであるのは十二月二十四日から行なわれたアルペジオイベントへの布石です。
 時間を見つけ2万文字くらいでまとめられたら、と思っています。
 プロット作り楽しいです。色々な場所で色々が同時進行で進むので、脳内が凄いことになっています。メモ書きが意味不明な殴り書きで埋められており、本人でも解読が大変です。

 お気づきだとは思われますが、この作品には3名の主人公がいます。
 複雑に思惑と真実が絡みながら時が進みます。
 
 イベントが進んでからになりますが、ミッドウェーも予定しています。書きあがりはイベントクリア後となりますので、期待せずに気長にお待ちくださいませ。というか、前振りの潜水艦ミッションから来そうで、喧々諤々としております。30分の空白が怖い。
 
 ああそうそう。これだけは書いておきませんと。
 表の主人公である提督と金剛(ヒロイン)とのイチャコラ系は相方がAAで描いてくれるらしいですヨ。
 胸熱ですよね! ひゃっほい!
 R18含めキンクリさん無しでいけるところまで! と申しましたら、変態紳士はお前か! といわれました。
 失礼な。

 多くの反応があれば重い腰が上がる、と信じています。読みたいんだよ! 相方の物語面白いんだよ!

 お読み頂きありがとうございました!
 重ねて御礼申し上げます。
 
 区切りの良いここで、一度、幕を下ろし完結とさせていただきます。

 ご質問等ございましたらお気軽に書き込みお願い致します。
 

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