ソラとシンエンの狭間で   作:環 円

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第四話 邂逅

 白の湯気が青く澄んだ空を写す窓辺に立ち上る。

 蒸篭から出てきた真白と景色に混ざりゆく白に駆逐組の少女達が歓声を上げた。

 三角巾を巻いた多くの頭が背比べの如くもこもこと上下を繰り返している。

 

 時は午前十一時。

 白の制服を脱ぎ杵を振り上げるのはこの泊地の提督である。

 場所は食堂の中央、テーブルを端に寄せぽっかりと開いた空間に臼が置かれていた。

 

 「武蔵ともち米が通るぞ!」

 

 割烹着を着、己の名と手に持つ麻の布の中身を持ち上げた戦艦が進み出る。

 その両側には花道を作る駆逐と軽巡組が黄色い声を響かせて在った。もちつきなど生まれて初めて見るのだ。しかもつきたての餅は格別であるという。

 大湊からの一行も加わり、その味を知る鳳翔からとろりとした甘さを伝えられたならば、甘味に目がないものたちがその色を変えぬはずがなかった。

 

 真夜中に戻ってきた皆もそうである。眠そうに首をかくり、かくりと前後させたり、瞼をこすりながらも参加していた。

 帰還後すぐに風呂への直行命令が下り、十時起きが厳命されたのである。無論傷を負ったものらにはバケツの使用が許可が出ていた。

 風呂場の前でバケツの使用報告書に名を書き、香りを選んで入る。しかし疑問に思った幾人が居た。

 本来ならば深海棲艦との戦闘に関わったものたちは二十四時間の休みが与えられるのが常であったのだ。

 それなのに今回ばかりは起きてくるように、提督に念を押してきた。艦娘たちが訳を尋ねるのも当たり前であった。

 どうしても起きられぬ場合は仕方が無いが、出来るだけ来るように。

 

 「出来立ては美味しいからね」

 

 人差し指を立て、小さな声で男が笑む。

 この言葉で気付かぬ艦娘は居なかった。即座に装備を工廠にある己のロッカーに入れ、要整備の札を掛けて風呂へと飛び込む多くがあった。いつもであればゆったりと一時間は湯に浸かる扶桑と山城も20分という速さで自室へと戻っていったくらいだ。

 で、あるため目覚ましをかけ遠方に置き、必死になって起きてきた多くがあった。まさしく艦娘の食欲は、睡眠欲にも勝るのだ。

 食べるだけ食べ、部屋まで引きずられていく姿もいくつか見えたが、それはそれで眼福である。ゆっくり休むよう、声をかけた。

 

 「せいや!」

 

 男が杵を振り下ろす。潰され、こねられて弾力を持ち始めた白がたぷんとたゆむ。

 二臼目までは早く早くとせかされ米の形が残った餅が取り上げられたが、なんとか三臼目からは滑らかな餅が供給され始めていた。

 見た目通りの柔らかさに、頬が落ちている多数の声を聞きながら男は杵を振り続けていた。

 

 重巡の多くは少し離れたテーブルにて白を丸く切り分け丸めている。卓は4つあり、薄力粉を広げたその上には手のひら大の白亜がいくつも並んでいた。

 

 「つまみ食いはひとつだけ、になさいませ」

 「ふぁい……」

 

 窘められているのは隼鷹であった。にこりと笑んでいるのは大和である。

 こちらも武蔵と同じく割烹着を着、古きよき時代の母という出で立ちをしていた。

 間宮から借りているのだ。鳳翔からも着用を勧められ袖を通してみれば案外、しっくりときていた。

 伸ばされる手には際限がない。なにせこの泊地には艦娘だけでも百を超えて居り、人間を含めれば130に少し足りないくらいの規模になっている。妖精さんを含めると優に200を突破する。ひとり分を五個と過程しても、凄まじい数となるだろう。

 

 白が多くを占めているが、中には緑と赤も幾つか伸ばされて在った。

 緑はよもぎであり、赤は桜海老を混ぜたものである。

 白は中に間宮印の餡をいれたものとそうでないもの、鏡餅ように大と中のものを。それぞれ役目を決め、食堂で集う多くが賑やかさに輪をかけて作っていた。

 

 「おいしそうでち!」

 「おひとついただいてもよいですかぁ」

 

 警邏から戻った潜水艦たちが食べて良いと言われたテーブルへと群がる。

 尋ねられたのはどの味にするか、であった。

 

 つき立ての温かい出来たてに掛けるきなこやごま、とろりとした大納言の甘煮、辛味が好みである者たちのために七味が入ったピリ辛しょうゆなど、多彩に味がそろえられている。

 

 「赤城さんが食べてるのって、なんですか」

 「みたらしよ。とても美味しいわ」

 

 伊168は差し出された箸の先をぱくりと口に含む。

 とろりとした醤油と絶妙な甘さがなんともいえぬ味をかもし出していた。餡は厨房の中にあるという。

  

 「あと7分で出るのね! 食べすぎに注意なの!」

 「ああん、待って、イクもー」

 

 てへへ、と笑む伊19の手にある皿には各種ひとつずつ載っていたからだ。

 水着の上からパーカーを羽織ったままの姿で駆け回っていた潜水艦たちが食堂から消えると、男が一息つくように間宮に視線を向けた。

 後方では鳳翔がなれた手つきで今ある材料を上手く使い、重箱をいくつも重ねている。中に入っているのは御節だ。全く以って鳳翔様様である。料理の腕はぴかいちであり、大湊では時折、鳳翔が食堂を借り切って居酒風を装うこともあるという。

 

 「鳳翔さんが居て下さって、本当に助かります」

 「……こちらこそ、ご相伴に預かれて嬉しい限りです」

 

 間宮と厨房に入る料理人達だけではきっと、御節を作ることができなかったであろう品々が並ぶ。現地で採れる材料には限りがあるため、種類は少ないが彩りは鮮やかだ。

 だがここショートランド泊地は熱帯である。作り置きできる量も知れていた。なので作られた食事はその日のうちに消費するのが基本であった。

 正月まであと二日あるが、タンカーが大湊に向け出向するのは明日の明朝である。そちらに載せる分を考えれば良い塩梅であろう。

 朝八時から始まった年の暮れを送り新たな年を祝う準備は終わる気配を見せない。だが誰もあせっていなかった。それぞれが最速で出来る事を着実に進めている。

 

 「あと何臼つけばいいかな」と、男の声が低く通れば、

 「残り一臼ですね。ご苦労様です」と、間宮が最期だという蒸し器を指差し笑む。

 

 ほのぼのとした雰囲気ではあるが、実際にはこのショートランド泊地は作戦行動真っ只中にある。

 あと三時間もすれば最終目的地、最深部へ向け艦隊が抜錨するのだ。

 選抜された三名が三つほどの餅が入る弁当箱に自分が作った、荒くついたもち米た使われている牡丹餅ときなこ、そして青海苔とくるみを混ぜた海苔もちを詰めてゆく。

 

 「我ながら、上手に出来ましたネー!」

 

 指先だけでなく、頬や眉の辺りを白く化粧した金剛が額を拭う。

 その横では早速、しょうゆをつけ焼き海苔を巻いて口に運ぶ榛名の姿があった。

 最深部へ行く三名の内二人だ。

 

 そしてピンク色のクマが、石臼の周囲を中心にうろうろと歩き回っていた。キリシマである。使い慣れた、とある人物が『ヨタロウ』と呼ぶ人形を模した姿だ。昨日、泊地への到着直後、分解されたタカオのナノマテリアルをキリシマが補った結果である。

 なにやら餅つきに興味があるらしい。聞いたことがない語彙を収集しているハルナの姿もあった。人間が永きに渡り継続し続けてきた文化が興味深いと耳を側だ立たせている。

 

 「正月、もちつき、かがみもち、縁起を担ぐ、餡子……多種多様な用途、複数に多重分類」

 

 その多くは食物系である。だが戦場にあっては収集できない言葉ばかりであった。

 アルペジオ勢も餅を消費する作業に加わっていた。

 メンタルモデルという人型を持つが、霧は基本的に食物を摂取しなくとも存在し続けることが出来る。だが食物を食べられない訳ではない。体感はもちろんのこと、甘みや辛味、苦味なども感じることが出来た。ただその感覚を使う頻度がつい最近まで限りなく少なかっただけである。

 が、人間の世界で生活したことのある、または人間と共に居を構えている一部は別であった。その中でも人に紛れ文化を享受し、うまみを知ったタカオは顕著だ。勧められるままにいくつもの塊を食しては頬を緩ませていた。特に気に入ったものを弁当箱に入れている。

  

 変わってキリクマは真っ白に燃え尽きていた。

 歩き回っていた数分前とはえらく違っていた。原因はわかっている。

 ピンク色のクマの姿に、艦娘の多くが刺激を受けたのだ。少女とは元来、可愛いものに目がないものである。

 オーストラリアに近いとはいえ、ここショートランド泊地は深海棲艦と戦う最前線の南海の小島だ。タンカーで多少、娯楽のひとつとして本土で流行っているグッズや漫画本などが運ばれてくるものの、その数は少ない。売店に並んだとしてもあっという間に売り切れる人気っぷりだ。よって少女たちは可愛いものに飢えていた。

 

 そんな彼女らの前に、ピンク色のクマがなめらかに動いていればどうなるか。想像に容易いであろう。

 

 いつの間にかキリシマは駆逐組に包囲され、いくつもの腕を渡りながらもみくちゃにされたのである。襲撃は一度では収まらなかった。任務帰りの駆逐組が食堂へ訪れるたび、キリクマは少女という生き物の恐ろしさを思い知ることとなった。艦娘は人間よりも力が強い。抜け出そうと体をひねっても圧迫される方が強く出られなかったのである。それにやわらかな頬が触れるたび、なんとも言えぬ気持ちになっていったのだ。

 ええいままよ、と諦め一通り愛でられた後、間宮の領域(テリトリー)である厨房手前の椅子の上で魂を口から吐き出しているクマがあった。そうなれば多くの艦娘たちも無体にはしない。頭を撫でるだけで無理矢理嫌がることはしなかった。

 

 「ご苦労さまでした」

 

 声をかけられ上を向けば、間宮がバニラアイスと餡子を餅で包んだ一品をキリシマの前に差し出した。

 それは間宮の裏メニューである。瞬間、キリクマに近い艦娘たちがピンクのクマを見た。

 キリクマはありがたく、餅を口の中に収める。

 餅の弾力が破れ、冷たいバニラアイスの味が舌にこぼれた。同時に餡子の甘みがバニラアイスと混ざり合う。たったひとつであったが。だからこその満足感がとろけた液体と共に体の中央へ流れてゆく。

 落胆の声とため息がキリクマの周囲に落ちた。間宮の裏メニューはそれほど貴重なのである。

 どんな味だったのかと再び囲まれることになるキリシマであったが、甘味の後ではそんな苦だとは思わないようになっていた。

 

 「ハルナさんもおひとついかがですか」

 「……貰おう、榛名」

 

 戦艦同士の挨拶もつつがなく終わり、霧島と榛名は同じ艦から派生した自分とは全く違う己に戸惑うことなく受け入れていた。

 それは艦娘として同じ艦が存在している事情に慣れているからでもあった。

 性格も話し方も違うそれぞれに、特に霧島は影響を受け武道派に再度、足を踏み入れそうな様子ではある。ただ駆逐組に囲まれるのだけは苦手であり、キリクマのようになるのは遠慮したいようではあった。

 

 「これで、最期だ!」

 

 振り下ろされた杵がゆっくりと持ち上がれば、返し手を行なっていた陸奥が両手で器用に白を丸めながら板の上に置き、こっちだと呼ぶ卓へと向かう。

 男は用意してもらっていた湯で臼と杵をたわしで洗い始めた。すぐ行なわねば固くなりこびり付いてしまうのだ。終われば長門がそれらを陰干しできる場所へと運んでゆく。男でも持ち上げられない重量物を容易く運び出すその姿に礼を述べつつ、流れてくる汗を拭う。

 

 一仕事を終えた男に冷たい麦茶を差し出したのは、金剛であった。

 いつもより一層、賑やかしい食堂を見回せば自然に笑みが浮かんできた。

 艦娘として在る間は、人間として扱われる。だがそれがもどかしさをも生んでいた。

 己が人間ではないと知っているが故のジレンマである。

 

 「提督、本当に良かったのデスか」

 「ん? ああ、やっぱり季節ごとの節目は大切だと思うし」

 

 数秒の空白のあと、金剛の問いに男は答える。提督の声に、金剛をほんの少し眉を寄せ目尻を下げた。

 聞きたい質問の意図とは方向性が違っていたがしかし、金剛は言葉を挟まない。

 

 「作戦中であったとしてもさ、」

 

 男は言葉を切る。

 日本軍として在ったころの海軍も節目を大切にしていた。

 雑煮と屠蘇(とそ)だけはどんな時であろうと用意していたのだという。

 

 だからというわけではない。

 いつまでこの状況が保てるのか、男に未来は読めなかった。

 なにがどうくるのかは知っている。だが起こるまで、なにがどうなっているのかは分からなかった。

 ある日突然、かのラバウルのように深海棲艦がこの泊地に攻め込んで来ないとは限らないのだ。

 今出来る事の最善を。今出来るだろう多くを。明日に持ち越すことなく行ないたいのである。

 

 「はっきり言って俺のわがままなんだ」

 

 その言に苦笑を漏らした人物がふたり、居た。

 割烹着姿の戦艦である。

 提督のわがままが艦娘たちの心をどれだけ守っているか。日の本の国の象徴として作られた大和と武蔵には強く感じられていた。

 両者はここ、と隣接するブイン基地以外の提督を知らないが、いくつかの鎮守府に在する者たちの話を耳にしていた。

 一見は百聞にしかずという。だが百聞では一見に届かないとしても、二百、三百と数があれば一見に近づく。

 直接の感想ではない。だがこの泊地ほど優遇された場所もないように思えた。この泊地では、少なくとも兵器として扱われることは無い。

 

 「貴殿の尽力により、この泊地には笑顔が溢れているのです」

 

 と、いう事実を否定までし、ここで告げるのも野暮であろう。

 傲慢に、艦娘を運用するかの地と比べるまでもないが、自己評価の低い上官もこれはこれで困ったものだ。

 折角、餅をつき終えるという大儀が終了したのである。もうしばらくゆっくりと過ごす時間を得たとして、誰からも苦情など来ないはずだ。

 

 大和は髪を束ねていた白を解く。

 今日の作戦も強行軍である。旗艦は提督の横に寄り添い立つ高速戦艦だ。

 胸の奥に感じる一刺しの痛みに苦笑しながら、大和は伏せていたまつげを上げる。

 提督が願う未来に指先が届くように。ただただ大和は希(こいねが)う。幸多かれと。

 

 

△▽△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

 ピアノの音が青に奏でられていた。澄み渡る上下には曇りひとつ無い。

 

 両手の指が軽快に鍵盤を叩き続ける。楽曲は行進曲であった。連なる音は花のワルツへと変わる。

 ピアノの前に座る影はふたつ在った。

 ひとりは重巡マヤである。そしてもうひとりは戦艦コンゴウであった。

 なぜ二人並んでピアノの前にあるのか、と言えば単独で引き続けても面白くないと腕を引かれ座らされたからである。確かに連弾は退屈を紛らわした。白と黒の音階を叩くための楽譜を覚えるのに面倒臭さを覚えたが、コアの処理速度を落とすまで容量が大きいわけでもない。

 

 たまさかに、かつて失った友を再び得られたのだ。

 煩わしい、などと口に出し、夢幻の如くかき消してしまうのも癪であった。

 ただ愚直に、アドミラレティ・コードにある事柄に従い続けていた頃と比べれば、なんと不品行であることか。

 だがそれが良かった。頑なに変化を否定せず、周囲に目を向け見回せば偶にではあるが、面白いと思えることにも出会える。

 現状のように、未知なる遭遇にも、だ。

 

 

 謎に包まれた似て否なる海へ出て早3日、経とうとしていた。

 だが、と思い返せばまだ3日しか経っていないとも言える。

 人間は往々として生き急ぐ生き物であった。今回の件も核さえ失わなければ永遠に在り続けることのできる霧の一隻、コンゴウにとってみれば瞬きひとつする間の出来事であろう。

 友となったイオナとその核に大きな変化をもたらした千早群像との交わりであればまだ意義を見出せるが、その他の人間に関わるなど面倒以外のなにものでもない。

 

 「ねえねえ、コンゴウ。楽しみだねぇ。みんながマヤたちを迎えに来てくれるまで、あと8時間だよ!」

 

 伊402と伊403に作られた擬似人格を基に組み上げられていたかつてと同じく、姿を取り戻した重巡マヤが席を降りピアノの、そしてコンゴウの周りをくるくると回り飛び跳ねながら言葉する。

  

 「ああ、そうだな」

 

 そっけない返事だ。しかし頬を膨らませるマヤの様子を眺めるその目には以前には無かった感情が宿っている。

 白亜のあずまやでは今から出発するという定期連絡をタカオがしにやってきたばかりだ。

 珍しくイオナは顔を出してはいない。それが無性に寂しい、と感じた己にため息を付く。アドミラリティ・コードの命ずるまま淡々と命令をこなしていた頃には無かった思考である。

 

 周囲には有象無象の異形がひしめいていた。それらは一定時間ごとに水音をたて水面に顔を覗かせたと思えば、またすぐに青の下へと戻ってゆく。見張りのつもりであるのだろうが、動く気の無いコンゴウにとっては邪魔以外の何者でもなかった。

 こちらの人間がゲートと呼ぶ現象は他と違い収まってはいない。

 世界が違ったとしても霧は霧である。その存在と理由が消えるわけではない。

 

 「でもでも~、やっぱり自分が生まれた場所って大切だよねぇ」

 

 不意にマヤが言葉した内容に、コンゴウは表情を変えず続きを促す。

 

 「ん~、別に難しい話じゃないよ。ここって同じじゃないもん。同じように見えるけれど、でも違うでしょ」

 

 その違いがなんであるのか。マヤにもわかってはいなかった。漠然としたなにかを意味ある言葉に置き換えようとしても、良い語彙が思いつかなかったのだ。

 ハルナ辞典であれば適切な単語が出てくるであろうが、わざわざ東屋に呼び出し尋ねるまでもない。

 思い出した時にでも聞けばよいのだ。霧が霧としてある世界ではこれから、様々な変化が起こるだろう。と、マヤは密かにそれを楽しみにしていた。なぜなら自身が得られたからである。イオナの姉妹艦に作られた単純作業を繰り返していた時には無かった、未来を予想する想像力を手に入れたからだ。現在で終わっていた事柄が、全て現在進行形となった。今が一秒経つごとに過去に変わり、一秒先の未来が現在になるこの繰り返しが新鮮でたまらないのだ。

 

 「なんていうのかな。頭がすっきりしてるの。だからいっぱい、いーっぱいこれからは自分で考えられるってことだよね。マヤはこれから知らなきゃいけないことが、山のようにあるんだよ。だから早く戻りたいなー、って」

 それにお留守番ばっかりだったもん、マヤもいっぱいお出かけしたいの! これからはコンゴウといろんな場所に行けるよね!

 と、続いた言葉にコンゴウは薄く笑む。

 

 音符の中に混ざる過去からの伝言がマヤを未来へ突き進む事を急かすかのように聞こえてくる。その調べに、流れに出来るだけ早急に身を任せたかったのだ。

 マヤの中にあるはずの無い、マヤではないマヤが得たかもしれない、アドミラリティ・コードの残滓が呼んでいる。

 

 「居残る選択肢などありえない。皆無だ。私は霧としての役目を放棄したつもりはない。戻ることは最優先の決定事項だ」

 

 指を止め、コンゴウは立ち上がる。

 唯一の気がかりであるのは、数日前に霧の、東洋方面の霧だけが接続できる戦術ネットワークに紛れ込んできた存在だ。

 あれ以来この東屋に訪れてはいないが、コンゴウと名を同じくする艦であるという。同一艦、という存在に心が揺れる。

 コンゴウたち霧の艦隊は母体となるユニオンコアを有する戦艦がまずあり、メンタルモデルは人類との戦いがある程度収束した際に必要となって取得したものだ。

 基本的にコンゴウは人間を模すなど必要がない、と今でも考えている。追い詰められた人類が持てる能力を発揮し、攻勢を強めてきた事で、人類を地上に押し込めておく為の手段が必要となった。それは人類が使う戦略である。その概念を理解するためにこんなにも扱いにくい感情を内包した肉体をわざわざ構成したのだ。

 だが聞けば、艦娘という存在の金剛は心と体が先にあったという。彼女の成り立ちは霧に良く似ていた。

 第二次世界大戦、あの戦いと称される戦争の記憶をコンゴウは持ちえてはいない。どちらかといえば霧として存在する意義の方が強かった。

 艦娘はかつての記憶があるという。艦として沈んだ、過去を持っている。

 

 船にとって沈むということは死と同義だ。

 コンゴウに当てはめればユニオンコアが破壊され、存在そのものが消えると同じである。

 再びの生を受け、戦う艦娘は興味深かった。どこが、と問われれば第一に挙げるのが意志力であろうか。霧の突然変異ともいえる伊401と同じ精神構造を、否、それよりも人間に近く在りながらもユニオンコアに頼らない演算能力の高さが目を見張った。イオナにメンタルを直接触れられた、心震わせたかつてを思い出せば薄く唇が下弦の月のように形を変える。

 

 戦ってみたいとも考えるようになっていた。

 その経験はコンゴウがあるべき場所に戻った時に、大いに役に立つであろうと予感めいていたからだ。

 そしてその後に語りあうのはどうであろうか。同名艦であれば世界を違えていたとしても、この感情という不確定要素を上手く使いこなす落としどころの切っ掛けとなる可能性もある。

 

 「コンゴウ、なんだか楽しそうだねえ」

 

 マヤが笑む。笑んで椅子を降り踊り始める。カーニバルがもうすぐ始まると手を空に向けた。

 

 「マヤも楽しみなんだよ。いつかの借りを、タカオに返せるんだから」

 あとそれと、麻耶にも会いたいんだよ。早く泊地に連れて行ってくれないかなあ。

 

 心の底から楽しそうに、マヤは笑う。

 その様子を見ていたコンゴウも自然と目尻を下げた。

 

 だが、とコンゴウは首を振る。

 この海域を離れることがコンゴウには出来なかった。

 浮いているだけなら可能だ。戦闘も出来るであろう。だが船体を動かし移動を行なうとなれば、確実に今以上の戒めが食い込んでくる。

 お前など必要ない、さっさと出てゆけと言われているかのようである。何様であるのだろう。まさしくそうだ。

 コンゴウたちの意志や都合など全く考慮せず呼んだにもかかわらず、世界を跨がせた後すぐにやはり必要のないものであった、帰れといわれているようなものだろう。

 

 (忌々しい)

 

 コンゴウはかつて伊401に抱いていた感情と向きを同じくする苛立ちに目を細める。

 元の世界に戻ること、は決定事項であった。が、それを邪魔する存在がある。深海棲艦と呼ばれている存在だ。それらはこの世界における海の制定者である。海から人間を追い出す行為だけを見れば、霧のようである。

 己の身のままならぬ状態にコンゴウは息をつく。焼き払えるものならばとうにしていた。出来る能力があるのに、出来ぬ今が気に入らなかった。

 だがナノマテリアルの補給もこの海では出来ない。無駄に消費しては今後の行動にも支障が出てしまう。もどかしさを内包しつつ、現状を維持するほか手は無かった。

 

 「ええ! コンゴウはピクニックに行かないの?!」

 『行くもなにも、ここから動けないのだ。出来れば早急に、ゲートなるものを通り抜け元へと戻ったほうが建設的ではある』

 

 そう概念伝達にも流せば、盛大に立ち上がったのがピンクのクマであった。人形であるが表情は豊かだ。

 ブピッ、という音を鳴らし、耳を尖らせ、両手で額の辺りを押さえている。

 

 『待ってくれ! まだ泊地にいるんだ! 置いてかないでくれ!』

 

 キリシマの動揺は大きかった。

 なぜなら今回の編成は金剛を旗艦に、榛名、イオナ、ハルナ、タカオ、そして大鳳であったのだ。

 データを取るために今回はヒュウガも同行していた。キリシマは皆が一度この泊地に集合するなら待っているとしたのだ。

 

 『……再計算の結果、プラス73分。作戦時間の開始には間に合わない』

 

 キリシマを拾い再度、作戦海域まで至る時間を計ったイオナが表情を崩さず首だけを傾げる。

 コンゴウが逗留する海域では今もなお、深海棲艦が湧き出てきていた。既に艦娘たちの長である男が情報開示した群れ、の拡大による分裂も始まっている。

 予定時間を越えてしまえば集団の一部が離反し、回遊型に移行してしまうだろう。明日には鬼が率いる大隊が結実してしまう。もしその大隊が動き出してしまうと、攻め落とし空白地となっているラバウルに居を据え、または他の泊地、基地へ襲来する可能性もある。そうなれば人類は手痛い損害をこうむることになりかねない。

 

 引き返すには時間的、道程的にも無理があった。なぜならば既に行程の半分ほどの距離を進んでいたからだ。時間は午後六時である。

 艦内では夕食が振舞われ、皆でビーフシチューに舌鼓をしていた頃であった。

 それはキリシマも同じである。噛まなくとも舌の上でほろりと崩れるほど柔らかく煮込まれた牛肉がたっぷり入ったそれをお替りしてきたばかりだ。

 

 『キリシマ、ゲートは海の中だ。送ってもらうには潜水艦がいいだろう』

 冷静な物言いでハルナがそう分析する。

 夜は特にそうだ。イオナも音響ソナーを使い、深海棲艦の群れと遭遇せぬようその隙間を縫って進んでいる。

 『分かってる! だがこの体では海に入ると思うように動けなくなるんだ!』

 

 主に素材である綿の関係で。

 すったもんだの後、キリクマは伊168を始めとする潜水艦部隊に抱かれ、後を追うこととなった。

 

 「ダメ! このクマちゃんは、しまかぜと今日寝るんだから!」

 

 と、泊地内を最速である島風が逃亡者となり、キリクマ争奪戦があった事は余談である。

 ただ潜水艦娘たちは伊401、イオナとは違い低速であった。

 どんなに頑張って急いだとて到着が翌日の九時になってしまう。

 

 そればかりは仕方が無いと第一艦隊は予定変更無く、海路を進み始める。

 海の中を往くキリクマを抱いた潜水艦たちもいつものゆったりした旅路ではなく、今までに無い真剣な表情で青の中を泳いでいた。

 キリクマを届け、帰ったならば提督からご褒美が出るからだ。それは潜水艦であれば誰もが欲しているものであった。酸素ボンベである。おつかいにはお駄賃が発生するものだ。だから潜水艦たちは首にぶら下げることの出来る小型酸素ボンベをねだり、勝ち取った。

 潜水艦たちが最も畏れているのは、海底に沈み浮かび上がって来れない事、に尽きる。潜水組たちは自分達が海の中で呼吸出来るのは艤装のおかげであると認識していた。

 もし艤装が損傷し、沈んでしまったら。

 好奇心の強い伊58がやってみたことがあるのだ。艤装をつけず海に入り、いつものように呼吸すればおぼれたのである。故に潜水艦たちは必ず艤装を付け、海へと潜るのだ。

 潜水艦たちはお守りが欲しかった。海の中は上と違い多くの危険が潜んでいる。だがこのおつかいを無事、終えることが出来たなら手に出来る。これでどんな状態の海であろうと、怖がらずに進めた。

 

 「お前達、帰りはほんっとうに気をつけて帰れよ。行きは私がソナーになってやつらを回避しつづけられるが、帰りは居ないんだからな」

 

 海流の流れを計算し、効率の良い潮の中を猛スピードで進む中、キリクマが自身を抱く伊168に話しかける。

 

 「うん、ありがとう」

 「キリクマさんはやさしいでち」

 「ありがとうなのね」

 「……この潮の路、乗り方教えて欲しいの」

 

 突然であった。誰もが首をひねり、どうしたのかと皆が発言した仲間を見た。

 伊19は真剣なまなざしでキリクマを注視する。伊19は今まで考えたことも無かった。流れに乗り、早く泳ぐという事を、だ。

 伊19は大湊の出身である。今まで命じられるまま、命じられた行動をただ取っているだけだった。本来ならばそれでいいはずであった。潜水艦は足が遅く、どの作戦でも別枠とされ、決戦には使ってもらえない役どころである。そう思い込んでいたのだ。しかしイオナと触れあい、知った。潜水艦だからと卑下することはないのだと。そして潜水艦でも早く泳げるのだと。

 

 提督は昨日の作戦会議の際、駆逐艦が作戦の要であると言っていた。はっきり言って羨ましかった。戦闘の要である戦艦を盾にし、駆逐艦が攻撃を行なうなどだれが思いつくだろう。否、思いついたとしてもそれを実行に移すことの出来る指揮官など、ショートランド提督くらいなものだ。

 再び同じ言葉を発した、伊19の静かな声にクマが黒く笑む。

 「いいぜ?」

 

 海上では見えない、緩やかに波打つその下にある本当の姿を視認するキリシマがにたり、と口を歪ませる。地上のざわめきなど囁きにしか聞こえないほど、海中に轟く音と海流の視覚は雑多で煩わしものなのだ。それを知りたいというならば、知れば良い。その後、落胆するも能力を伸ばすもそれぞれ次第である。

 「到着するまでしごいてやろう」

 「はーい、なの!」

 海の中でクマのぬいぐるみがしゃべるという不思議を全く気にせず、潜水艦たちは激流の中を進みゆく。キリクマの海流スパルタ実地訓練が始まった。

 

 

 △▽△▽△▽△▽△▽△▽

 

 十二月二十九日 フタフタマルマル。

 第一艦隊は時間通り作戦海域へ突入、戦果を着実に上げながら最深部へ到達した。

 コンゴウを守るように在していたナガラを旗艦に群れていた7つの固まりも、イオナを始めとするナノマテリアルで作られた装備に身を固めた艦隊の敵ではなかった。

 人間側で戦う三艦はクラインフィールドを展開するまでも無く、泊地で供給された鋼鉄や火薬を元に構成したミサイルをこれでもかと言わんばかりに放出したのだ。また艦娘の活躍にも目を見張るものがあった。

 その様子をもし、長門や陸奥が見ていたならば目を丸くしたであろう。金剛、榛名、そして大鳳の戦力が今までの倍以上に嵩上げされていたのである。

 金剛はもともと速さのために防御を削られた艦だ。攻撃力もその分、弱くなっていた。

 だが長門は艦尾を延長するという方法を取り、速力を保持しながらも防御力、攻撃力共に高い水準を持ち続けていた。

 艦娘となってからは艤装の大きさや形状により、低速か高速かに分類されているものの、純粋な攻撃力としては両者を比べるとどうしても金剛級のほうが劣っていたのだ。

 

 それほどナノマテリアルという物質がもたらす効果は絶大であった。

 今までならば互角の戦いをしつつも、必ず損害を受けていた戦艦タ級flagship に対し、赤子の手をひねるかのような感覚しかなかったのである。

 砲を撃ち出した時の命中が、今までとは比にならないほど高かった。かすっただけでは与えられなかった損害も、弾の周りに見えない棘があるかのように深海棲艦を抉ったのだ。また大鳳が飛ばす艦載機もいつもとは違っていた。昨夜も夜間飛行を行なった零式水上観察機により放たれた光の中、大鳳の手を離れた艦上戦闘機、烈風が破竹の勢いで敵艦載機を屠っていたのだ。牽制にしか使えなかった機銃攻撃でも敵機を難なく貫通し、まるで相手が紙飛行機の如くひらひらと落ちていくのである。

 それに関し、ヒュウガは胸を張り長々と説明を講じたが、半分辺りまでしか金剛も理解できず、榛名にいたっては耳を塞いでいた。大鳳も聞いていたようで何用でしょうか、とにこやかに笑んでいるだけだ。理解の範疇を超えたところで思考をとめたのであろう。

 

 周囲があらかた片付けば、この海域を中心に妨害電波を発信し続けている戦艦より紫の光が立ち上り円が描かれる。

 

 「……大戦艦コンゴウだ。さあ、行なおう。兵器の宴を」

 

 対峙する距離は近くない。むしろ声が届く範囲外である。

 コンゴウは待っていた。金剛がこちらにやってくると聞いたときから模擬思考を繰り返していた。

 同一艦という不思議な出会いがもたらすであろう、己が中に芽生えた問いに対する答えを得るための行動をだ。

 

 「っ、」

 

 だが金剛にはその声が聞こえた。

 脳の中心辺りに響く痛みと共に周囲の風景が揺らめき、緑の直線が黒の空間上に幾つも引かれた不思議な視野が広がってゆく。

 それはとても摩訶不思議であった。水面上にあるはずの足元が揺れていないのだ。横に居たはずの榛名の姿も消えている。

 動揺を表情に出してはいなかったものの、内心は嵐だ。雷が鳴り響く、時化であった。

 

 『全く、感情の発露の仕方、下手なんだから』

 

 金剛の後方から聞こえてきたのは、イオナの船内に居るはずのヒュウガである。思わず振り返り、あんぐりと口が開いてしまった。

 なぜならヒュウガが歩いて来ていたからだ。海の上ではない。緑の空間を白衣を揺らしつかつかと進んできたのだ。思わず目をこする。

 『心配しないで、金剛。本体はイオナ姉さまの中にあるから。それにしても酷い顔よ。でもまあ、こっちのコンゴウが迷惑をかけてるし、見なかったことにしてあげる』

 

 ため息をついているものの、その行為を批判する気はないようである。金剛は両手で頬をほぐし、表情を元に戻した。

 『簡潔に説明するわね。コンゴウは貴方と早く話がしたいようなの。出来れば紅茶を飲みながらゆっくりと、ね』

 

 金剛は目をぱちくりと瞬かせた。霧のコンゴウとは、紫のドレスを着たあの美人であろう。

 『いま広がっているこの空間は、私たち霧が概念伝達を行なう戦略ネットワークの中よ。この先に初めてあなたと出会った東屋がある。意識しなさい、ここと海と、二重に視野を持てるはずよ』

 

 猫口のまま笑みを浮かべるヒュウガの言に従い、金剛は海を思い浮かべる。

 すれば黒の空間が透明なパネルに変わり、風景がいつものそれに変わった。

 

 『It's……、Amazing』(すごい)

 『なかなかやるじゃない』

 

 金剛は目の前の視野に目を見開いた。世界が一瞬にして塗り変わったからだ。

 砲を構えればどこに着弾するのか。その確率までもが数字として表示されていたからだ。

 

 『これが貴方たちの、』

 

 そうだ、と答えたのはハルナである。

 ビーム砲というこの世界に存在し得ない技術の最先端をゆく兵器で飛行場姫を一撃で落とし、振り返った。

 

 『異なる世界において進化の瞬間に立ち会えるとは幸運だ』

 

 聞けばハルナたち霧の艦隊はこの空間にそれぞれの艦の位置が表示されているという。

 認識信号を知って居ればこその表示であるため、全くの初顔であればこの限りではない。

 

 大きすぎる力である。

 だが使い方を間違わなければ金剛の目的が、容易く叶えられる力となるだろう。

 

 『私は貴様と紅茶を嗜みたいのだ。早く来い』

 『……それ、言葉の用法、間違ってるわよ』

 

 希望に添えられたのはタカオの鋭い突込みであった。金剛は笑う。

 『コンゴウ、もう少し、wait してくだサイね? すぐに行きマース』

 金剛は視野を二重に持つ、という意味を理解し、早速使い始める。慣れの問題だろうが、人が言う船酔いのような気持ち悪さを目の奥に感じた。

 だが悪いことばかりではない。

 

 耳を澄ませば遠くから、キリシマの声も聞こえてきている。その位置は遥か東南東にあった。

 会話の内容からして潜水艦たちに潮の流れを教えているようだ。

 (YESの前と後ろにsirを付けろ!)

 (Sir, yes, sir!!)

 というなんとも楽しそうな声が聞こえてくる。

 確かに潜水艦組が通過している周辺は潮目が変わりやすい場所だ。だが、だからこそその潮流が見えやすくもある。

 

 戦いの展開は速かった。少しよそ見しているだけであっという間に戦況が変わっしまう。

 「カーニバルだよ! みんな手加減なしでふっ飛ばしちゃうよ~!」

 「うるさい、このカーニバル女!」

 「うおっと! 今のは危なかったかも~ タカオなんかの弾に当ったらないよーだ!」

 「クラインフィールド、作動率3%、まだいける。左舷は任せてもらおう」

 「火器管制、オンライン。追尾システム、標的をロックオン!」

 「面倒くさい。マヤ、まとわり付くこれらを蹴散らすぞ」

 「コンゴウ、りょ~かい! ミサイルい~っぱい撃っちゃお~っと」

 

 この間、わずか18秒の出来事である。

 しかもこの間、概念伝達の中でも会話が成されていた。金剛は会話と情報量の多さについていけず、小さな苦笑が口元に浮かんだ。

 外で話し、内側でも打ち合わせする。霧の艦隊たちはなんと器用であることか。

 アスロックミサイルの発射口を全て開き標的を固定する。コンゴウを囲むようにして浮遊する深海棲艦に合わせれば、瞬く間にそれらを海の藻くずと化した。高火力も良いところである。

 

 『頃合だな』

 

 コンゴウは雪の結晶を巨大化した刃をナノマテリアルで構成した。

 来るはずの無い方向からの攻撃に、戸惑っているのだろうか。否、生まれたばかりである深海棲艦に戸惑う、など高度な思考が出来ようはずも無い。事実、かろうじて生き残った戦艦棲姫も虚ろな目を上空に向け惚けていた。

 

 コンゴウは止めを刺す。

 人型のほうではない。深海棲艦の本体である異形を切り刻んだ。

 そして形成していた幾本かの刃を細分化し、周囲に向けて放つ。

 行動中枢を失い、群れの頭となるものの元へと集まってきていた深海棲艦をことごとく串刺しにしてゆく。

 

 それらはイオナたちが道程にて撃ち漏らしたものたちであった。

 ……言い方を変えよう。道程にて遭遇できなかったものたち、である。

 数は少ない。だがその少数も集まれば群れとなる。コンゴウとマヤに付き従うナガラに群がってきていたそれらを、コンゴウはいとも簡単に薙いだ。そして小さく舌打ちし、その瞳を向けるのは海中である。

 コンゴウには4重の光の輪が囲っていた。それぞれが処理する情報が違う。

 一番太い輪ではゲートを二十四時間、監視しつづけていた。変化が無かったそれが、イオナたちの到着と同時に膨れ始めたのである。しかし膨張速度は遅い。最大にまで広がるには13時間ほどが必要となるだろう。やはりキリシマの不在が原因か。

 

 紫の女性は目を細め、ゲートから吐き出されたばかりの存在に向けアスロックを惜しげもなく放出する。

 そこから出てきた新たな敵を、コンゴウは実弾で以って殲滅した。金剛との接触をこれ以上邪魔されてはたまらない。ストレスを溜める一方になってしまう。

 今という時まで待ったのだ。深海棲艦とそれが出現するゲートを監視しながら生態系を探った。かつて霧が人間とはどういう生き物であるのか、理解するために行なった方法である。

 

 深海棲艦は中途半端な存在であった。

 本能だけで動く動物と変わりない。人間が恐れる姫や鬼と呼称する個体も、細かい雑多に比べ力が2から5倍程度の強化版に過ぎず、個を持っていなかった。

 コンゴウは嘲笑した。まるでかつての霧であったからだ。アドミラリティ・コードの命ずるまま、盲目的に実行し続ける。

 道具としては正しい。だが人間を殲滅する、という目的を叶えるには足りないのである。だから霧は取得したのだ。

 それがコンゴウを崩壊一歩手前にまで追い込む原因となった訳だが、格という人間が持つ不可思議な精神構造を取得するために必要な過程であったのだろう。

 とはいえここ数日、観察し続けてきた深海棲艦では建設的な思考を持ち、戦略を立てるなどほぼ、出来ないと結論に達している。偶然が重なったとしても、確率は1%に満ちはしないと断言できた。

 ただ、金剛のような異端分子は別である。

 

 コンゴウが分析した深海棲艦のデータに金剛を始めとする艦娘が符合していた。

 両者は間違いなく根本を同じくする生命体である。違いを挙げるならば記憶を持っている、という一点であろう。

 だが金剛は、艦娘と呼ばれるものたちは持っていた。霧が取得するまでに紆余曲折した、疑問を持ち、推論し調べ、結論付ける一連の知的活動を最初から行なっていたのである。なにが違うのか。コンゴウが至った結論は人間であった。やはりここでも人間が作用していたのである。

 霧が変わらざるを得なかった起こりであった。艦娘たちは良運に恵まれている。幸運と言わず、なんと表現するのだろうか。

 

 演算処理を超えた衝動がコンゴウの中にあった。

 これを高揚というのであろう。

 

 深海棲艦と金剛が呼ぶ存在は己の能力を上げるという思考を持ち合わせては居なかった。

 生物は進化する。外的要因だけでなく内部で起きた変化により、世代を重ね、または突然、不利となっている因子を変化させる。

 イオナは霧の艦隊の中で生まれた異端だ。人間の肉体の中で言う、ガン細胞と同じである。と、ある時に至るまでは思っていた。

 進化とは肉体持つ生物だけに現れる症状ではないらしい。そうコンゴウに考え直せたのは、イオナであった。そして今、目の前に居る金剛がその推論を確定のものとした。

 金剛は人間の形をしているが、深海棲艦と同じものである。そしてその精神構成は霧の艦隊に近しい存在である。心という不安定な思考が、今までそれを持ち得なかったものに対し大きな変化をもたらすのだ。

 そう考えれば、最初から持ち得ている人間の、なんと無駄の多いことか。

 

 「僥倖とはそれらの現象か」

 

 コンゴウは出会いという名の好運に頷く。

 今回の件もコンゴウと金剛が出会うために必要な過程であったのだとするならば。

 この場に、この地に不必要である霧が呼ばれ、繋がれたのはコンゴウと金剛を出会わせるためであったのだとするならば。巻き込まれて良かったのだと初めて認識できた。

 戦いは同じ名の響を持つ同士の対決に移行する。

 

 コンゴウは欲していた。

 心の意味を。それを持ち続ける疑問を。

 

 その思いを受け取り、金剛は走り出す。

 捜し求めていたからだ。かつての自分に重なる。

 金剛には提督が居た。提督が金剛に多くを教えてくれた。ならば彼から受け取ったこの思いを、心がもたらす感情という、揺れ動くからこそ尊い答えをコンゴウに伝えたかった。

 

 「霧の皆さんは、なんでもありデスねー!」

 

 金剛は水面を走りながら、コンゴウの側に航行してきたピンクの艦に苦言を呈する。

 なぜならマヤがその船体をナノマテリアルと化し、コンゴウへ譲渡したからである。その姿は雄雄しく、また凶悪なまでに美しかった。

 イオナとタカオが融合出来たのだ。同じ霧であるコンゴウとマヤに出来ぬはずはない。

 

 放たれるのはアスロックミサイルである。

 その数は100を超えていた。金剛を目標に、全てが誘導に沿って向かってくる。

 ミサイルの雨であった。一発でも受ければ、最低でも中破は免れないであろう。

 

 金剛は海面を走りながら向かってくるミサイルのうち、ひとつに的を絞り速度を上げる。そして跳躍した。

 二重視野だから出来る芸当である。どこにどのミサイルが軌道を描いて着弾するのか。分かるからこそ跳べた。

 ミサイルの上を走り、さらに跳ぶ。後方で爆発が起きた。体が巻き起こる爆風の煽りを受け吹き飛ぶ。

 

 だが金剛は即、次の目標へと体をひねり着地し走り出す。止まってはいられない。なぜならミサイルは金剛に着弾すべく飛んでいるからだ。

 男がこのミサイルの嵐を見ていたならば、とある戦闘機アニメにある、弾道軌跡遊戯のようだと目を輝かせていただろう。

 

 金剛は笑っていた。

 誰がなんと言おうが、金剛は戦闘狂いではない。それだけは断固として否定する。

 とはいえ今後、こういう対峙が出来るかと言えば否、であろう。

 戦略ネットワークの中で交わされている会話を拾えば、かなり科学が進んだ未来からの来訪者であると聞き取れたからである。

 

 コンゴウからの挑戦を受けたのも、やって出来なくはない、と思ったからだ。それにやる前からダメだ、出来ないと諦めるのが性で無かったのもある。

 確かに全身がナノマテリアルではない。当たれば損傷し、血も流れ、当たり所が悪ければ腕や足が吹き飛ぶであろう。

 だが金剛はコンゴウと違い極小の的である。二重視野のお陰で命中率だけではなく、回避率も格段に上がっていた。

 

 『基本的にコンゴウは難しく考えすぎなのデスよ』

 

 心に関しては、金剛も一時はこんなまがい物は要らない、とまで考えたこともある。

 素体には思考能力はない。ただ命令を遂行するだけだ。なぜならば手足は考えるもの、ではないからだ。命じられたとおりに動く、記憶能力だけがあればいい。

 艦娘の思考能力は艤装によって後付けられた付属である。記憶を持っている前提であるからだ。

 ではなぜ記憶を、心を与えられたのか。ただ命令に従うものとして作らなかった理由も考えたことがある。

 

 もし深海棲艦と同じ形態で作られたとしたならば、もっと機械的に物事が淡々と進むであろう。が、途中で乗っ取りも生まれていたはずだ。

 ……言葉は悪いが、艦娘がそうなのである。深海棲艦の一部であった彼女らを形作る素体を切り離し、艤装という拘束具により艦娘と成さしめているのだ。

 人間が深海棲艦を捕らえるには多くの犠牲を必要とする。だが深海棲艦は無限に湧いてきた。人が対峙すればするほど、人の消耗が激しくなる。だから敵を利用したのである。そうすれば損害を低く抑えられるからだ。

 

 話を元に戻そう。艦娘として構築する際に必要となる記憶、についてだ。

 例えば単純に深海棲艦を敵として排除する思考を植えつけたとしよう。

 深海棲艦も人類を殺害せよという思考を持っている。なにがどう違うのか。

 殺す相手が異なるだけである。元々は同じ存在である。命令を書き換える……本体が素体にとりつくだけで、あっという間に人間側から深海棲艦に逆戻りとなる。

 

 簡単に言えば、取り合い合戦だ。しかしこうなった場合、困るのは人間側であろう。

 

 だから艦娘という仕組みを作った人物は、艦娘となったものが簡単に深海棲艦側へ戻らぬようにした。

 それが記憶であり、心だ。

 己が何者であるのか。明確に示され固定されるのである。

 人間と共に在るのが当たり前となっている艦娘に、いくら深海棲艦が彼女らの言語で戻って来いと語りかけたとて、通じるわけもない。

 全く上手く作られた仕組みであろう。

 

 忌々しさを金剛は忘れたわけではない。

 金剛という名を与えられ、同士討ちに向かわされる日々をむなしいと感じていたこともある。

 この心がまがい物だと教えられたあの日の事はよく覚えていた。ぐちゃぐちゃにかき回し、唯一の体をも蹂躙しようと手を伸ばしてきた人物が教えてくれたのだ。

 金剛は絶望をそのとき、知った。

 元帥という人物が艦娘を統率していると知ったのもその人物からである。

 

 無論、制裁はさせてもらった。

 人間ごときが束になっても敵わぬ、元深海棲艦を欲望で塗りつぶそうとするなどおこがましいのである。

 

 だがそれも、現ショートランド提督との出会いにより、全てが意味のある日々であったと思えるようになっていた。

 艦娘という存在にされたことも、多少は、これでよかったのだろう、と納得しつつある。深海棲艦として心無く無為に時を過ごすよりも、たとえ苦しくとも、悲しみや辛い軋みを体の奥底で感じることがあったとしても、今がいいと思えていた。

 

 全く心とはいい加減なものなのだ。

 

 『はっきり言って、適当なのデス。大切なのはコンゴウは今、どうありたいと思っているかデスね』

 『……わから、ない』

 

 長い沈黙の後、ゆっくりと唇が意味を紡ぎ出す。

 ただ。

 長い沈黙の後につぶやかれた言葉に金剛は笑む。そして走る。

 コンゴウの甲板はもうすぐであった。

 その手を握り、直接、声で伝えたい言葉が出来たのだ。

 

 『それでいいと思いマスよ。だって、好きという感情はsuperb(すばらしい)なのデスから』

 

 

 そんな両者を手持ち無沙汰で見つめる瞳があった。月が出ているとはいえ昼間のように遠くまで見通せるほどの視野はない。

 榛名と大鳳は伊401の船体に立ち、金剛の姿を追っていた。

 霧たちはコンゴウから引き継いだゲートの膨張監視とそこから出てくる深海棲艦の排除を行なっていたが、海に潜れぬ両名、榛名と大鳳はやることがなかったのである。

 しかも金剛とコンゴウの戦いに関し、手出し無用だとお願いされたためこうしてイオナの上で月光浴をしているのだ。

 

 星が輝く闇の中に焔が生まれていた。

 榛名は紅がはじける度に鼓膜を震わせる振動を防ぐべくそっと手を当てる。

 姉の姿はとうに見えなくなっていた。だいたいあそこくらいだろう、という予想は爆発の度に付けられたが、それだけである。

 

 「……お姉さま、榛名はしょんぼりです」

 

 戦場に赴く際、榛名は比叡と組むことが多い。姉はオールラウンドであるため、さまざまな艦娘と任務に赴く。

 今回の選抜で姉と共に選ばれたことを、榛名は心の底から喜んだ。比叡には悪いが内心、ガッツポーズを組んだほどである。

 姉とのお出かけは、例えそれが戦場であったとしても心踊ったからだ。いつもよりやる気も倍増である。

 だが蓋を開ければ姉の横に立っていられたのはものの数時間であった。その代わりと言ってはなんだが、余り会話をしたことが無い、大鳳とこうして親交を深められているのだ。悪いことばかりではないがしかし、榛名は肩を落としていた。

 そもそも姉にお願いされては妹として、断ることなど出来はしないのだ。だが久々に見た、大鳳を間宮特製あんこの生クリーム添えアイスクリンによって買収するという暗黒面を間近で眺められたのは良かった。

 ……艦娘に断れるはずがないのである。間宮の甘味はそれほどまでに威力が高い代物であった。公私を分け、建設的な考えを持つ大鳳ですら悪魔の囁きに白旗を上げ、傍観を承諾したくらいだ。しかし姉はどうやって間宮特製あんこの生クリーム添えアイスクリンを手に入れるつもりなのだろうか。榛名は首を傾げる。特別券は確か、つい先日使い切ったはずだ。

 

 両者は戦っている。

 しかしただ戦っているわけではなかった。

 戦闘とはどちらかを殺すまで続く行為である。コンゴウと金剛の戦いは、まさしく生死をかけた戦であった。

 だが。

 

 (お姉さま、なんだか楽しそう)

 

 まるで対話しているかのように榛名には感じていた。姉妹揃ってのおしゃべりの如く、戦いの中で姉は姉と同じ名を持つ存在と会話している。

 (ただ少し榛名は切ないです、お姉さま)

 姉と姉と名を同じくする両者の間には特別ななにかがある。そのため、いつもならば手を伸ばせば必ず届く距離にある姉が遠くに感じていた。

 もしこの場に居たのが己ではなく、比叡や霧島であればもっと違った感じ方をしているかもしれない。

 (……拗ねてなんか、)

 榛名は気付く。そして赤面した。

 

 (本当に可愛い妹デスね)

 姉はそんな妹をくすぐったく思いながら空を駆けていた。遠くに離れていても手に取るように妹の状態が分かる。それは榛名がイオナの上にあるからだ。

 霧の艦隊と離れてしまうとこの力も失ってしまうであろう。イオナを始めとする異世界からの来訪者が在るからこその力である。

 だから、というわけではないが今この時を楽しんでいる己を金剛は素直に認めた。

 

 金剛はコンゴウの問いに答え続ける。

 答えに窮するものもあった。そういう時はあえて、問いを問いで返した。

 お互いに得、進み続けるために、必要な対話であった。

 ふたつの弧が笑みを形作る。戦いはまだ、始まったばかりであった。

 雌雄を決する戦いではない。だが共に高みへと登る共闘である。その方法が、両者の選択が戦闘という行為であっただけだ。

 

 金剛はコンゴウとマヤが立つ甲板へと到着する。マヤが金剛を出迎えた。

 マヤは摩耶と話し方も仕草も全く違っていた。当たり前である。同一艦とはいえ、成り立ちが違うのだ。全く同じであったなら、おかしいといえるだろう。だがマヤも摩耶と同じく、瞳に強い意志を宿らせていた。摩耶とマヤが同一である事実を感じとれるであろう。

 

 「はじめまして! 金剛は、コンゴウとそっくりだね」

 「そうなのデスか? 同じ金剛ですカラ、同じ部分もあって然りデース」

 

 それもそうだと納得したようにマヤが笑む。

 また後でいっぱいお話しようね、と約束を交わしマヤは艦橋へと戻っていった。

 甲板に残されたのは金剛とコンゴウの両名だけである。

 

 「……続きを」

 「ああ、続きを……」

 

 紫と金が交わる。

 

 両者は遠隔兵器を使わず、演算能力と思考を全て肉弾戦へ特化、傾向させた。戦いは続く。イオナが映し出した映像に汗を握って見ていた榛名と大鳳はすでに、艦内で寝息を立てて眠っている。他の霧も同様だ。タカオは自室にて艦長の抱き枕を抱き戦況の分析とデフラグを行い、イオナは両者の戦いを見守り続けていた。

 周囲を警戒しているのはハルナである。キリシマと声を交わしながら、回遊型の深海棲艦をやり過ごす航路の検索を数十秒ごとに再計算していた。そもそもはキリシマが行なっていた演算である。だが行なえない事態が起こっていた。

 艦娘は本当に、多彩に満ちている。霧のメンタルモデルにもそれぞれ個性という他と己を区別する色彩や造形を形成しているが、少なくとも美醜を競うものではない。

 人間とは真逆の存在であるはずのものが、周り巡って最も近しくなっている。

 

 ハルナは順調に予定航路を進んでいる彼女らを伺い見る。

 夕食後の強行軍である。潜水艦娘たちが眠気に負け、海流に流されそうになるのをキリクマが必死に繋ぎとめていたのだ。

 

 「上の目と下の目が、……くっついちゃうの」

 『開ければ大丈夫だ、開けろ!』

 「本が無いと、なんか、こう……」

 『流されるな! 本が無いなら歌えば……いいんじゃない、か?』

 

 ハルナは聞こえてくる会話に目を細める。

 海流を乗り継ぐ術を取得した彼女達は到着時刻をじわりと縮めてきていた。元から面倒見の良いキリシマである。案外、引率が向いているのかもしれない。そんなことをふと思った。

 霧には、東洋方面巡航艦隊には潜水艦が少ない。具現しているのは伊401を始めとする、402、403の三隻だけだ。しかも感情の起伏が乏しく、淡々とした語り口調は事務的以外のなにものでもない。だが艦娘である潜水艦たちは表情豊かでありかつ、感情も多岐に富んでいた。

 ハルナが大切に思う友人に良く似ている思考パターンである。観察していて飽きなかった。これを『好意』という感情であるのだと、キリシマを通して再確認していた。

 これらのやり取りはハルナにとって、心を理解する上で重要な要因となった。

 

 

 そして日が昇れば闇に沈んでいた青が光を受け透明さを取り戻す。コンゴウの甲板の上では戦いが一段落していた。となれば嗜むのは琥珀色の揺らめきである。

 

 「楽しかったデスねー」

 「まだまだ戦い方に改良の余地があるが、互いに洗い出せたのは良かった」

 

 両者は大戦艦コンゴウの甲板上で英国指揮の紅茶を楽しんでいた。運動後の紅茶は格別である。

 食器の多くはコンゴウのナノマテリアルによって形成されたものであるが、茶葉だけは本物だ。イオナの船内に積みいれた葉は、はるばるリンガ泊地から演習のためにやって来た艦娘が土産に持ってきてくれたアールグレイという品種の茶葉である。

 三段に重なったティスタンドには餅系が並んでいるのが珍妙であったが、サンドイッチもケーキも積んでいなかったため急ごしらえである。

 だがコンゴウは全く気にする様子無く、紅茶に口をつけ、程よい温かさと立ちのぶる香りを確かめていた。

 東屋で飲み続けてきたそれは、形骸化した真似であった。美味と感じたこれを再現する考えは全く無い。あの時もそうだ。硫黄島で紅茶というものが熱い飲み物だと知った。しかしこれからは紅茶に口をつけるたびに金剛を思い出すだろう。心と体を交わらせた、金剛と共に茶を楽しんだ時間があったのだ、ということを。

 

 会話の内容は日常の些細な事柄ばかりだ。途中でマヤが加わったが、勧められるままに口にした餅が大層気に入ったらしい。

 「本土では今、たれたれパンダが人気なのデス。黒と白の模様はそのままなのデスが、のっぺりとしてしっとりとした質感が良いとか」

 専ら金剛が話すほうで、聞き役に回っているのはコンゴウであるが、それでもどことなく、表情が柔らかい。餅を頬張るマヤが最もその変化を喜んで見ていた。

 時はあっという間に七時を回る。

 数十分前に到着した潜水艦四隻の娘達は、イオナの艦内にて振舞われている食事に食いつき、しばしの睡眠をとらせてもらっていた。

 水中を進んできたキリクマも水分と塩分を例の如くねじりながら排除され、ハルナの艦橋にて干されている。

 

 別れが近づいて来ていた。

 「名残惜しいデスね」

 「……そうだな。勝負も引き分けに終わっている」

 

 次、対峙することがあれば勝つのは己だと不適に笑い合えるところが、同名艦同士であろう繋がりか。

 ゲートの膨張が最大値となれば、次々と戦艦が海中へと潜ってゆく。

 艦娘旗艦、金剛は異世界の艦隊を見送る。全ての霧が集ったことによって膨張した光熱反応を起すゲートの広がりが確認されたのだ。

 榛名と大鳳の両者が海上に、金剛は途中までコンゴウに随行し、大きく広がった赤の渦巻きのなかに消えてゆく仲間の背に敬礼する。

 その横には潜水艦娘たちが居た。戦艦であるのに水中に潜れる、稀有な存在に黄色い声音で質問が矢継早に飛ぶ。

 金剛はそれを無碍にはしなかった。揺れ動く娘達の髪を撫で、帰りしなにじっくりと聞く準備があると伝える。

 

 『また会おう、友よ』

 

 ゲートが消える際、金剛に最期の言葉が残された。

 また、という別れは、いつかは分からないが次も必ずあるという意味だ。

 

 『See you again、コンゴウ。そして皆さん』

 

 見送り、確かにゲートが消失したと確認後、水面に戻ろうとした金剛の視界に、何かが引っかかる。

 それに反応したのは伊58と伊168だ。

 魚雷をいつでも撃ち出せるように構え、金剛が見据えたその先にあるものに目を凝らす。

 

 ごぼ、と水泡が金剛の口から吐き出される。

 水中であることを忘れ、叫んだのだ。潜水艦たちのように、水の中で上手く会話が出来ないのである。

 

 「あれ、しおちゃんなの!」

 

 伊9が指をさす方向に漂っていたのは、艦娘であった。否、艦娘となりかけている素体と言ったほうが適切であろう。艤装も無く、ただ漂っているだけの存在だった。

 本来であれば深海棲艦に寄生されている素体を成長させ艤装を取り付けねば、艦娘とはならないはずである。

 どこかで実験されていたのか、はたまたどこかのゲートから霧の艦隊の如く、送り出されてきたものか。判断するには情報が足りない。

 艦娘としての体をとっているならば、救助しなければならないだろう。泳ぎはさすがに潜水艦たちの方が上手かった。

 工廠内に果たして、伊401、シオイの艤装があるかどうかは不明だが、成長しきってはいない幼子の体を抱き金剛は水面へと上がる。宝石のように煌く水面の先には中と同じくきれいな青が広がっていた。

 

 「早く、金剛! 帰らなきゃ!」

 「シオイちゃんが、死んじゃう!」

 

 イオナが帰り、シオイが訪れた。これをただの偶然と片付けるにはいささか、状況が整いすぎてはいないか。

 金剛は腕の中でぐったりとしている潜水艦娘となる幼生に視線を落とす。

 

 (もしも、の場合はダーリンに何とかして貰いまショウか)

 

 戦艦が不安な顔をしていれば、慕ってくれている潜水艦娘たちの気持ちも揺らぐ。だから金剛は満面に笑みを浮かべた。

 艦娘が所属地に持ち込んだ問題の全ては、その地の最高責任者が持つ。どんな困難をも下してきた男だ。これくらい何とかしてくれるだろう。そうでなければ男が廃るというものだ。

 

 「さあ。 let's all go home デース!」

 金剛は旗艦として全員の点呼をとり、泊地に向かい進み始める。

 

 金剛はコンゴウからありがたくも譲り受けた、概念伝達の東屋と空間をヘクス上に広げ見る技能を駆使し、帰途を検索する。羅針盤に頼らない道程を進めるのだ。なんと便利なのだろう。使わない手はない。

 ただ艦娘の数が規定の数を超えていた。ならばきっと出遭うであろう。だが出来るだけ避ける算段はついていた。キリシマが潜水艦娘たちと最深部へ至る際、ことごとく深海棲艦を回避していたのだ。キリクマ曰く海流を計算し敵との遭遇をせぬように、分刻みで速度を変えていた、という。金剛にはそこまでの索敵能力は無いが、この空間把握を使えば何とかなるような気がしていた。しかも海流を探し、それに乗り続けてきた潜水艦たちもいる。やって出来なくはないだろう。

 低速であるはずの彼女達ではあるが、キリクマとの訓練により海流をたくみに使い高速艦とほぼ同じ速度を叩きだすことが出来るようになっていた。

 これに金剛の、概念伝達空間を重ねれば、遭遇をかなり減らすことが出来るであろう。

 

 金剛が最も避けたい状況は、回遊型の深海棲艦を引き連れて泊地に戻ること、である。たとえ逃げ入ったとしても、大和や長門、陸奥がパラソルを片手に待ち構えて居、46センチ砲で容易く殲滅してくれるだろう。だが、出来れば胸を張り、意気揚々と凱旋したいのである。見栄といわれてしまえばその通りだ。しかし大好きな人に褒めてもらいたいこの心の内に生まれた欲求も捨てがたいのである。

 

 (もうすぐ帰ります。待っていてくだサイね)

 

 提督はきっと、安堵するに違いない。

 霧の艦隊が無事帰途についたことを、そして金剛が得た能力を、喜んでくれるだろうか。

 そんなことを考えながら、水中から聞こえてくる声に耳を澄ませ、青の波を切り始める。

 

 △▽△▽△▽△▽△▽△▽

 

       

      

     

 

 時は二十九日、泊地を舞台にした大捕り物、対雪風、キリクマ争奪戦が終わった後まで遡る。

 潜水艦娘たちとキリシマを送り出すという大仕事を終えた男は、執務室で制服を脱ぎ卓上のレポート用紙に筆を走らせていた。

 無線封鎖を行なっているのは霧である。

 作戦が順当に進めば、いずれ電波状態も戻る。なぜなら妨害を発しているコンゴウがゲートの向こう側に帰るからである。

 そうなれば通常通りとなった電波を使い、本土本営から問い合わせがくるだろう。

 なぜなら男が大湊に連絡出来なかったからである。大湊の指令との付き合いはまだ半年にも満ちていない。仕事上だけの関係だ。いつも男が掛け続けている連絡も、待ちわびてくれているとは思ってはいない。……うざったいと邪険にされていないと信じている。もし仮に煩さがられていたとしても、連絡できない状態になっていること、くらいは予想してくれていると思いたかった。

 

 願いが90%近く入っているが、少なくとも最前線と連絡が付かなくなっている時点で、本土は何らかの行動を起しているに違いない。

 

 (横須賀からは出るだろうな。本土は基本防衛を主にしている。戦力を出せる基地が、その他ひとつふたつあればいいほうか)

 

 男は脳内で状況を組み立ててみる。

 以前と比べ多少落ち着いているとはいえ、ショートランド周辺にはかなりの頻度で深海棲艦の戦艦や空母が出現していた。他の基地や泊地に比べ、担当海域に出現するゲートが多いのである。何かしらの原因が疑われているが、そもそもゲートの開閉に関しては謎だらけだ。調べようとしても、謎が謎を呼ぶだけであった。解析出来るのは、男をこの地へ招いたプロフェッサーのみである。雲を掴むような話だ。全くもって分からないが、もしかすると男の存在が原因のひとつである可能性は高い。

 

 (生コンゴウとマヤを見れなかったのが残念ていや、残念だったな)

 

 男は嘘偽り無く、霧の艦隊という存在を除外した詳細なレポートを記しながら、思う。一体何があったか、それを伝える資料作りだ。既にあらかた形を成していた。

 ヒュウガとイオナ、ハルナとキリクマが訪れた記載はある。なぜならこの泊地に在する多くが彼女らを見ているからだ。矛盾が在ってはならぬ。ただ彼女達が何者か、男を除いた全員が知らない。だから男が尻尾を出さなければ、どうにでもなる案件であった。知らぬ存ぜぬを貫けば、疑いの目は向けられるだろうが、そもそも鉄の船が艦娘の護衛も無しに浮いていられたなど誰が信じるのだろう。本来であればそれが普通の状態であるが、深海棲艦が跋扈する現在では笑い話にしかならない。

 無論、ヒュウガが仕込んでくれた資料はありがたく使わせて貰う事にしている。男がなぜヒュウガを知っていたのか。それは以前のタンカーで運ばれてきた資料の中にあったからである。だから知っていても不思議は無い、とするのだ。

 資料は精密に出来ていた。ヒュウガはやるならば徹底的とばかりに、同日に送られてきた書類に残されていた指紋をも複製し、張り付けてある。身代わりとなる誰かに、男はそっと手を合わせた。

 

 (……青葉、泣かなきゃいいが)

 

 立つ鳥後を濁さず、とばかりにヒュウガは霧の存在が露になる物品の全てを回収していたからだ。

 青葉が撮った写真もそうである。見た、聞いた、話した、という記憶があっても、物的証拠がひとつも無くなっているのだ。

 たぬきかきつねに化かされたか。はっきり言ってしまえばそういう状況である。

 

 とはいえ元帥直下の情報部組織が真っ先にこの泊地にやってくるのは必然であろう。

 もしくはこちらの方に向け、艦娘の艦隊を幾つか差し向けている可能性が考えられた。

 ラバウル基地を発した最高指揮官が乗る船もトラックに到着していていい頃合だ。どんなに遅くとも今日、二十九日までには着いているだろう。タンカーが低速航行であるのは、船体いっぱいにまで物資を積んでいるからだ。空であり、目的地まで着けばいいとなれば、早くて一日半、どんなに時間が掛かったとしても三日あれば港についている。

 

 トラックは拠点である。もっと分かりやすく言うならば、海路の要である。飛行機が健在であれば、こういう言い方も出来るだろう。ハブ空港だ、と。

 竹島と夏島の両島は風光明美な小島が連なる海域である。大きなサンゴ礁に囲まれ大きな波が進入しにくい天然の要塞となっていた。

 そのためトラック諸島は艦娘たちにとっても、絶好の訓練地となっている。

 水深が深く、大きな船も悠々と入り込むことが出来る。巨大戦艦であった大和と武蔵が軽々と入ることが出来たくらいだ。

 使われている主な島は夏島である。

 ショートランドから演習のために艦隊を派遣したことがあるが、行って帰ってきた者達曰く、ちょっとした小旅行であったと言っていたくらいだ。

 同じ熱帯にある泊地であるが、所変われば品変わると言ったところだろう。

 

 トラックは位置的にも、霧の艦隊によって電波妨害を受けていないはずである。

 本土本営との連絡を密にとっていると予想された。

 

 「……ふう、」

 

 男はヒュウガと行なった打ち合わせどおり、この基地以外に配布する『おおよそ同じ内容』のまとめをクリップで留め机の端に置いた。

 視線が捉えたのは卓上型のカレンダーである。今年も残り、今日を含めて三日となった。イオナとヒュウガがこの泊地にやってきたのはクリスマスの翌日だったか。

 

 「まだ3日しか、経ってないな」

 

 男の中では優に一週間ばかりの時が流れているような感覚であった。それほどまでに濃密な日々であるのだろう。

 それも今日で終わりだ。さすがに完全徹夜も四日目に入るときつかった。若い頃は一週間程度、寝る間も惜しんで遊びまわっていたものだが、そろそろ下り坂が見えてくる年頃なのだろう。

 休みが取れるわけではない。男が就く職名に休みという贅沢は付随してはいないが、時間のやりくりは出来る。次のイベントの詳細を思いだせばうんざりとした気だるさが押し寄せてくるが、仕方が無い。

 これはゲームではなく現実だ。しかもこの泊地を中心とした海域の平定を任された最高責任者である。

 何もかもがとんとん拍子に運ぶのは、全てゲームから得た知識と経験があるからだ。男の場合、最も簡単な難易度、EASYであろう。大湊の指令などは、HARDを通り越したHELLモードのような気もする。ならば元帥は……と考えたところで耳につく音が鳴る。

 

 コンコン。

 

 とドアを遠慮がちに叩き、「失礼します」と声して入ってくる艦娘の姿があった。

 時計を見れば、19時を回っている。

 男は苦笑した。まだ日が高く、夕方だという感覚が伴なわない不慣れへの感覚に、だ。

 

 「ラバウル基地所属、吹雪参りました」

 「良く来てくれた。呼び出してすまないね」

 「いいえ! とんでもありません」

 

 吹雪が司令官の部屋に入れば、椅子に座し笑んだ姿が映る。しかも上着を着ていないシャツ姿だ。

 吹雪の提督はいつもしかめっ面をしていた。笑っている顔など見たことも無い。

 くらりとめまいを感じた。

 差が激しかった。どこにいてもそうだ。ここは自分の居場所ではないと、肩身が狭く感じてしまうことが多かった。

 

 男は立ち上がり佇まいを整え、付いてくるように吹雪へ伝える。吹雪は表情を動かさず、黙々と提督の指示に従った。

 男は程よい距離を置いてついて来る吹雪に思いを巡らせていた。

 吹雪を筆頭にラバウルから脱出出来た総勢、十六名が現在、ショートランド預かりとして滞在している。

 ラバウルから逃げてきた艦娘たちは一様に疲弊していた。言葉に表せば、まさに消耗、がぴったりである。

 ここまで疲れ切った艦娘たちの姿を、男は久し振りに見た。初見であったのはこの泊地に着任したその時である。タンカー船に乗りやって来たこの泊地には半端無い終末感が漂っていたのだ。なにをどう行なっても行き着く先は死である。諦めきった多くが訪れるだろうその瞬間をただ待っている状態であった。

 

 建物も掘っ立て小屋、所属している艦娘を始め、士官も投げやり、何という場所に放り出されたのかと頭を抱えたほどである。

 そこから考えれば、今はなんと落ち着いた環境であるだろうか。

 

 ラバウル基地はいわゆる、ブラック基地であった。

 そう思い至った過程は省くが、ラバウルからやって来た艦娘のことごとくが提督という肩書きを持つ男に、身を引き構えたのである。

 男は人間だ。そして彼女達は艦娘である。艦娘は人間に危害を加えない存在として男は説明を受けていた。

 

 はっきり言おう。人間は艦娘には及ばない。見た目は可愛く美人で器量良し、性格もかなり良質な女性達だ。が、腕力、知力とひとつとってみても、到底敵わないのである。

 艦娘をひとりの意志を持った個人として見ず、兵器として扱っている基地や泊地が多いため比べるべくもないが、戦略を座学として取り入れ、教育を施しているここ、ショートランド泊地では艦娘たちの多くが海に出た際、どうすればよいのかそれぞれが考えるようになっている。

 軍隊ではありえてはならぬ事、であった。

 本来であれば命令されたそのままに、任務を遂行することが兵に求められる。

 とあるゲーム風に言えば、随時『命令させろ』である。だがショートランドにおける艦娘たちの作戦は『みんながんばれ』であった。

 

 提督から提示されるのは目的だけである。

 その目的を達成するために、艦娘たちに思考させてから行動に移らせる。

 そうしていると目的を達成するために艦娘たちは己を研磨し、高める努力を始めた。

 

 中には戦略を練るのが得意とする艦娘たちも居る。

 男でも迷う事柄に対し、判断材料を与えれば打てば響く妙案を出してくることもあるのだ。この泊地でその傾向が強いのが、大和と高雄、大鳳、そして長門である。

 

 男は執務室を出、廊下を歩き階段を下って外へ出た。

 いくつもの声が男を呼ぶ。それぞれに手を上げ答え向かうのは宿舎方面だ。

 その先には工廠がある。

 

 ゲームとしてならばあり、であった。

 艦娘を置いておける数が初期値で100しかないのである。課金して増やしたとて上限には限りがあり、資材も節約して使いたい為どうしても捨て艦というものが発生していた。だがそれは、それが許されていたのはゲームだったから、である。現実に生きている艦娘にそれを行なえば、虐待だと言っても過言ではない。

 

 だが仕組みは現実となっても変わってはいなかった。近代化改装を行なうには艦娘を使って強化せねばならなかった。

 ここは最前線である。近代化改修を行なわない、という選択は出来なかった。なぜなら改修しなければ多くが死ぬからである。ふたり出し、両方失うよりもひとりを犠牲にし、もうひとりを強化して海に出すほうが帰還率も上がった。

 

 男の信念は、男の下に集まってきた艦娘たちを一人残らず存在させ続けること、である。

 

 そして改造はそのまま新たなプログラムを艤装と艦娘本人に流し、認識させて終わるらしい。が、その行程は男の権限の外にあり、実際はどういう風に行なわれているか全く知らなかった。改造に向かった艦娘たちが工廠に入る所までは見ることが出来る。その許可を押すことも可能だ。しかし工廠の、改造が行なわれる一角は男子禁制の、秘密の花園であった。女提督であれば入れたかもしれないが、残念、男はれっきとした、生まれも育ちも男である。よって見学も不可であった。

 

 「一体、私をどうする……」

 

 男は聡い吹雪に苦笑した。

 ブイン基地では奥まった場所にひっそりとたたずむ建物であるが、ここショートランドでは艦娘たちが暮らす宿舎の隣にそれはある。

 連れて来られた場所が工廠であると認識すれば、己にいったい何が施されるのか気づいたのであろう。

 そして言葉を詰まらせたのは工廠の入り口に立っていたのが、吹雪の親友である睦月だったからに他ならない。

 

 「えへへ。待ってたよ、吹雪」

 

 首をほんの少し傾げ、満面に笑む。

 

 「嫌です! 私、まだ!」

 「……まずは話を聞いてくれ、吹雪」

 

 男は先走りする吹雪をなだめる。走り寄ってきた睦月が提督にウインクすれば、後は任せたとばかりに男は即、身を引いた。

 「そうだよぉ。人の話は最期まで聞かないと、間違えちゃうんだよ?」

 女の子らしい笑い方をし、睦月が吹雪の手を取る。

 「とりあえず、話しながら行こっか」

 

 睦月がちらりと男を見た。

 男も小さく睦月へと頷く。ここまで来れば男の役目はほぼ完遂されたとしても良い。

 提案された当初、考え直すように提案したのだ。説得もした。しかし睦月の決意は揺るがなかった。

 

 「だって、こんなことを頼めるのは、頼めるんだって思ったのは、提督だからなんですよ」

 

 強い意志を秘めた睦月にそう言われてしまっては、男としても承認せざるを得なかったのである。

 睦月と吹雪はどんどん奥へと進んでゆく。その背を男はゆっくりとした歩調で付いて行った。

 会話はラバウル基地での日々である。

 

 「うん、それで吹雪が言ったんだよね。絶対に私が最期まで、覚えてるから。貴方達の事は、忘れたりなんかしないから、って」

 「……あの、それ聞かれてたんですか」

 

 誰にも言っていないと思っていたはずのことが、親友の口から出るとこそばゆく、恥ずかしい。

 「ふふん、睦月様の情報網、甘く見るでないぞ?」

 

 笑顔が咲く。無理矢理作ったものではない。自然に浮かぶ、それぞれの心だ。

 「だからね、吹雪には覚えておいて欲しいの。私のことも」

 

 歩みが止まる。

 吹雪の表情が強張り始めていた。

 

 「凍結処分を受けることにしたの」

 

 嫌だ、聞きたくない!

 吹雪の声が細切れに響く。言葉の流れは作られなかった。

 

 

 凍結。

 その言葉を親友から聞いた吹雪は瞬間、呼吸すら忘れた。親友はただじっと、吹雪を見ているだけだ。いつもの笑顔のまま、じ、と吹雪を見ている。

 

 「っ、そ……」

 「ううん、もう決めたの」

 

 一方的な宣言だった。

 目に映る光が暗転する。目に映る光景は変わらない。照明が落ちたわけでも、日が落ちたわけでもない。

 あまりの精神的損害に対し、目の前が真っ暗になっただけだ。

 

 吹雪は近代化改装ならびに改造を受けたことは無い。

 ……というのは語弊がある。受けさせてもらえる立場に無かった、というのが適切か。

 ラバウルの司令官は駆逐艦を材料に軽巡洋艦の近代化改装に力を入れていた。ラバウル近海にはよく、潜水カ級がやって来ていたからだ。

 深海棲艦はある一定数以上の群れになると地上を侵食しにやってくる。

 幾度となく、吹雪は島民を襲う深海棲艦を打ち倒してきた。遠征の行き帰りに悲鳴を聞けば、旗艦の裁量にて討伐に向かうかの判断がなされる場合があった。

 無線が基地と繋がる場合は司令官の指示を仰ぐ。だが司令官が下す判断の多くは、無視して帰ってくるように、であった。

 艦娘とは人型の兵器だ。しかし艦には無い感情が艦娘には備わっている。

 彼、が着任した当初はそうでもなかった、と記憶している。だが何時ごろからか命令を無視し、合いの手を差し伸べる多くが増え始めた。だがその多くは例外無く、処分された。従わぬものはいらぬとばかりに、司令官はさまざまを切り捨てた。

 

 ラバウル所属の艦娘の多くは精神を病んでいる。

 吹雪はこのショートランドへやって来、それを実感した。

 異常であると認識すればなんのことはない。正常な判断をしていた艦娘から殺されていたのだ。

 独裁である。私物として扱われていた。礎(いしずえ)にされていた。何の、と疑問符をつけなくとも分かる。提督の名誉のためだ。

 司令官の姿を最後に見たあの日、早く深海棲艦を殲滅してくるようにと叫んでいた人物の、私利私欲のために多くが散っていった。

 

 艦娘には艦であったころの記憶が根強く残っている。

 鮮明さはさまざまだ。なんとなく、という艦娘もいた。

 吹雪には明確な記憶があった。だから己に嘘をつき続ける必要があった。

 だがそれも、終わりだ。もう、抑えきれなかった。

 

 「好き勝手に! 眠る睦月はいいわ! 残される私は? この気持ちを、どこにぶつけたらいいの?!」

 

 心を、感情そのままに言葉を並べる。

 ここでは自由に発言しても許されると知っていたからだ。

 

 吹雪にも分かっていた。

 これは、艦娘に与えられた最期の選択だ。それを否定する権利など持ち合わせてはいない、など分かっている。

 

 艦娘には戸籍が無い。軍籍はあっても、日本人としての籍は存在していなかった。

 それはそうであろう。吹雪を始めとする艦娘は『艦船』であるからだ。人の形となった今もそれは変わらない。

 人間と同系の感情を持っているが故に同類として扱われているが、現れては消える泡沫と同じ消耗品なのである。特に駆逐艦であれば、なおさらだ。

 ここにあった、という記録は残る。だがそれだけだ。人間のように血が、世代がつながってゆくわけではない。

 

 睦月が眠れば、また新たな睦月が生まれるであろう。

 名も、その容姿も、船としての記憶も同じだ。

 だが。

 

 「睦月は、私にとっての貴方は、ひとりだけなのよ!」

 

 置いていかないで。

 吹雪は睦月の腕にすがりつき膝を付く。

 睦月はその体を支え、正座した。

 感情の波が穏やかになるまで待つ。その表情は静かであった。

 

 「ふむう。まぁた吹雪は難しく考えてるんだね」

 

 眉を寄せ、睦月が苦笑する。

 「私は、吹雪になるんだよ。こうして別の体で手を繋ぐのもいいけど、一緒になったほうがもっと、ずっと同じになれると思わないかなぁ」

 

 「同じものには、同じになんてなれるわけがない!」

 「やってもいないのに、否定するのはよくないかなー、って睦月は思うのですよ」

 

 言葉に詰まった吹雪は、顔を覗き込んでくる赤の瞳に唇を真一文字に結ぶ。

 近代化改装は艤装を渡す側と受け取る側が、基本同意して行なわれるものだ。しかし立場的には前者のほうが強い。なぜなら日本国軍規では、艦娘たちは最低の位、一平卒であるからだ。いくつもの勲章を持ち、階級も上から数えたほうが早い提督に「行ないなさい」と言われてしまえば拒否など出来なかった。

 

 だが。この泊地の提督であれば、言わないだろう。

 吹雪を助けてくれるだろう。

 そう思っていた。

 

 「吹雪、睦月の気持ちを……受け取ってやってほしい」

 

 その声と言葉に吹雪は愕然とした。

 なぜそんな恐ろしいことを言うのか。思わず吹雪は男に掴みかかった。

 みしり、と骨が軋む感覚が手のひらに伝わってくる。しかし男は静かに笑んでいるだけだ。

 

 (分かったって、吹雪の言うとおりにするって言いなさい!)

 

 手のひらに加わる圧が強まってゆく。

 痛いだろう。我慢せずとも良いのだ。さっさと吹雪の希望を叶えればいい。ただそれだけのことをなぜ良しと頷かないのか。

 

 「っ」

 

 短い息が吐かれる。だがそれは提督ではなかった。

 かさついた手がそっと吹雪の頬に触れたのだ。横に寄り添うように、目尻を下げ、口元に柔らかな笑みを浮かべた睦月が立っている。

 

 「……私、なに…を」

 

 男の体から吹雪の手が離れた。

 艦娘が提督に掴みかかるなど、ありはしない。あってはならなかった。人間にその力を行使しないよう、定義付けられていただからだ。

 もし行なってしまった艦があったなら、即時、解体される。どんなに経験を積み戦場においてなくてはならぬ存在だったとしてもだ。

 

 どさり、と重量のあるものが床へと落ちる。男が尻餅をついたのだ。足に力が入らない。大きく息を吐いてから首元に手をやり、襟のホックを外す。次いで握られていた腕をくるくると回し痛みを確かめた。

 ……骨は折れていないようである。ただ小さなひびは入っていそうだった。

 医務室に居る看護士になんと言い訳をしようかと男は考える。正直に言えば吹雪を処分せねばならなくなる。それだけは避けたかった。

 そして男の怪我を艦娘たちに知られないようにもしなければならなない。なぜならばベッドにくくりつけられるからである。

 男の背にぞわりとした悪寒が走った。

 

 「吹雪。ほら、見て?」

 

 名を呼ばれた吹雪の視線がゆっくりと上がる。親友が指差す位置には、セーラーの首元にはきれいな鎖骨がふたつ、揃っていた。

 吹雪は目をぱちくりとさせ、首を傾げる。睦月がなにを言いたいのか、さっぱり分からなかった。

 

 「吹雪、自分の首、触ってみて?」

 言われたままに吹雪は触れる。かつり、と何かが指先に触れた。

 「それねぇ。所属の証なんだって。貴方はこの基地の所属なんですよ、っていうしるしなんだよ。私、この泊地に来て初めて知ったんだぁ」

 

 小さな手鏡を手渡され、見る。そこにはネックレスが掛かっていた。ダイヤ型の青い石に指先が触れる。

 「私、…こんなもの、知ら…ないわ」

 

 吹雪も今、初めて目にし、触れた。

 こんなものが首に掛かっているとは全く気づかなかったのだ。

 おかしかった。まるで物の怪の類に化かされたかのようである。

 

 ちょこん、と吹雪の肩に座るものが居た。それは吹雪が装備するペンダントに宿る妖精さんだ。

 両手を合わせ涙目になり、ぺこりぺこりと頭を下げている。

 

 「この泊地の提督に聞いたの。妖精さんたちが隠してたんだって。そうするように、アイテム屋さんに頼んで、作ってたん…だ、って」

 酷いよね。見えなければこれはなあに、って聞かれることもないだろうからって。

 

 鼻の奥につん、としたものを感じながらも睦月は笑む。

 「私は、外されちゃってたの。ううん、最初から無かったんだろう、って思う。私ね、あの日、遠征の後、処分されることになってたんだよ」

 

 ごわごわになっている制服のスカートを持ち上げ、睦月が眉を下げた。

 艦娘たちが着る制服は月に数度、最長でも三ヶ月には一度必ず支給される消耗品である。

 深海棲艦との戦いは激しい。小破であればまだ繕えば着られるが、中破や大破となった場合は目も当てられないほどの破け方をする。

 替えを数枚、支給されているとはいえ無くなるときは一気に消費されるのだ。

 

 睦月が制服を貰えなくなって、そろそろ四ヵ月が経とうとしていた。

 資材を運ぶ遠征任務が多いとはいえ、塩害によって生地も痛んでくる。洗濯のたびに解れを直しアイロンを掛けたとて、それでも限界はやってきた。

 

 「吹雪は、提督の一番艦だから」

 「特別なんかじゃない、違うわ!」

 

 否定したとしても、周囲から一目置かれていたのは紛れもない事実だ。

 島風のように提督の執務室へ自由に入る事は出来なくなっていたが、重要な任務の際には必ず、吹雪の名が示されていた。

 艦同士の会議もそうだ。進行に行き詰まりが発生したとき、必ず吹雪に振られていた。なぜなら吹雪は場を丸く収めるのが誰よりも上手かったからに他ならない。

 ラバウルの吹雪は優等生だった。もし学校に通う少女であったならば、学級委員長に抜擢されていただろう。

 

 「……どうにも、ならないの?」

 「うん。もう決めちゃった」

 

 

 男にとってもこの、『近代化改装』という名の合成は苦辛する職務のひとつであった。

 ゲームの時はただ余った艦を、何も考えず良く使うレベルを上げたい艦の強化のために使っていただけである。

 どういう仕組みなのか。考えたことなどない。強くなれば詰まっていた海域すら、羅針盤が狂わなければ一回でボスに辿りつくことすらできたからだ。

 

 だがこの泊地にやって来、実際に行なう立場となったとき男は唖然とした。

 受け継がれるのは艤装であったのだ。女の子の部分がどうなるのか。これは依然として不明瞭であった。

 艦娘らは合成に対し、負の感情を持ってはいない。経験が受け継がれ仲間がより強くなるならば喜んでその身を捧げ、そして受ける側も受け入れた。自分が近代化改装を受け艤装を継げば、より多くの深海棲艦を倒すことが出来る。なぜ怖いのか。なぜ男が嫌がっているのか。全く分からない。多くの艦娘が、そう言う。人の形をしているが、艦娘たちは自らを艦であると認識している。これに男は愕然とした。今でもそうである。ゲームと現実の差に、動揺してしまう。

 

 死ぬわけではない、と聞いている。人間の技師も詳しくは知らなかった。聞きまわった先は妖精さんたちだ。

 そもそも妖精さんとは一体なんであるのか。男は知らない。本人達に聞いても教えてはくれないし、全ての責任者である元帥にしてもそうであろう。『知らぬが仏』だと一笑に伏されるがオチだ。推理するにしても材料が足りなかった。

 基本、妖精さんたちは人間には見えぬ存在である。男が目視出来るのは世界を跨いだからであろう。跨ぐ前の世界で妖精さんが武器を作る、艦娘を作るどの過程にも存在していた。なので妖精さんがいるのが当たり前となっていたからだ。

  

 艦娘に関し分かっている唯一は、人間ではない、ということだ。

 身寄りの無い孤児を艦娘にしたて上げているわけではない。そしてホムンクルス、複製であるかといえばそうでもない。

 なぜなら技師達曰く、科学的に人間の体を、艦娘たちのように成人まで即、それも20分やそこらで作るなど出来はしないと笑い飛ばされている。

 ならば何であるのか。大湊の指令なら知っていそうであるが、そうやすやすと情報を渡して貰えるとは考えられない。

 彼は実に敵が多い。鳳翔との会話の中にもちらほらと顔をみせていた。指令には世話になっている。男の不用意な発言で彼に要らぬ隙を作りたく無かった。

 

 艦娘とは一体なにか、という疑問をさておいても指令は一体なにと戦っているのだろうか。

 そう思うことが次第に増えてきていた。彼は男が知らぬ多くの経験を積み得ている。その繋がりは海を隔てた向こう側にもあるらしい。いくつもの言語を流暢に操る様を嬉しそうに語る鳳翔から聞いていた。

 男は視線を遠くに投げる。が、その先に答えなど載ってはいない。

 考えるしかなかった。

 

 思考を艦娘に戻す。

 ただ妖精さんたちが言うには、死ではない、と言った。

 元の状態に戻るだけである。なので痛みも無い、らしい。

 死の概念が無い妖精さんに死なないから、と言われても戸惑ってしまう。

 

 男に理解できたのは、痛み無く眠りの状態になる、ということだけだった。

 工廠の目隠しされた向こう側に答えがあるのだろう。漠然としてはいるが、そうであるだろうという確信があった。だが見てしまえば後戻りできない一線を越えるだろう予感も同時にしていた。

 

 男は口元を片手で覆う。

 脳裏にはひとりの姿があった。

 

 艦娘の体には金属が埋め込まれている。これは艤装をはじめとする、艦船としての装備を固定するためのコネクターだ。

 

 艦娘たちの裸など、男に見る機会など無い。

 風呂場を覗けば見られる可能性もあるが、男の何十倍もの身体能力を誇る彼女達に敵として認識されるのだけは避けねばならなかった。

 したとして逃げられるわけが無い。視覚も聴力も動物並みなのだ。

 

 見知っている理由はただひとつである。

 クリスマスの夜、初めて夜ばいを受けたのだ。鍵を掛け忘れていた男にも非はあるだろう。が、己がそういう対象になるとは全く考えていなかったのだ。

 男のような、平々凡々な人物など言葉は悪いが掃いて捨てるほどどこにでも居る、のである。唯一のアドバンテージといえば、『艦隊これくしょん』をプレイしていた経験があるだけだ。家の格や学歴などを持ち出してこられると、男は他の基地、泊地に在する提督たちに比べ、見事に見劣りするのである。

 しかも、だ。決定的であったのは実体験の差であった。

 ブイン提督が変わっているのだと信じたい気持ちの方が強くはあるが、総じてそうなのだ、と言われると反論の余地が見出せなかった。彼の一族内では、ある一定の年齢になると筆おろし等々されるのが一般的である、と言われたのだ。

 少なくとも彼と彼のご友人方はそうであるのだろう。が、男にそれが通用するか否かはまた違う話である。

 体の欲求はあった。解消もしていた。

 だが女性の生まれたままの姿など、平面でしか見たことの無い男にとって刺激が強かった。故に頭部へ血が上りすぎ、出血したのである。

 

 結果、身はなんとか守れたが、男として大切な何かを失った気分であるのは間違いではないだろう。

 彼女とは友人から始める事となった。手を繋ぐところから、である。

 へたれと言われたとしても構わない。女性と触れ合う機会の無い人生だったのだ。

 目で愛でていただけの対象が、まさに温かみをもって迫ってきたならば紅を噴いても仕方が無いだろう。

 

 

 

 (艦娘とは何だ? 深海棲艦とは?)

 

 男は改めてその存在を疑問視し、考える。

 そもそも考えて分かるものではない。

 だが艦娘も深海棲艦も現に存在している。

 

 すでにあるのだ。どうして存在しているのか、原因を探るなど意味は無い。

 

 深海棲艦とはなにか。そして艦娘とはなにか。

 最も基本的な問いであろう。

 だがそれを知る者はごく小数であるはずだ。

 なぜなら情報として開示されていないからである。

 

 いよいよもって男は、工廠の最奥を覗くか否か、選択する瀬戸際に立つ。

 後は跨ぐ勇気を振り絞るだけである。

 

 痛いほどの沈黙が破れ、嗚咽が聞こえてきた。

 男は白の帽子を浅く被る。

 選択を行なったひとりの少女をその瞼の奥に焼き付けるために、彼女達を見続けた。

 


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