Fate / SAO CCC   作:YASUT

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二話に分けて投稿しようと思っていたが、面倒だったんで一話に纏めた。
言峰関連はまたそのうちに。


茶番尋問

 このSAOというゲームは、貧富の差が階層によって分けられているらしい。

 上の階層に進めばそれだけ豪華な食事、華美な寝床、巨大な建物が並び、逆に下の層に行けば行くほど食事は質素に、寝床は素朴に、建物は矮小になっていく。

 しかし例外はある。それがここ――ギルドホーム。

 ギルドの名前は《ドラゴンナイツ》というそうだ。

 騎士(ナイト)を名乗るだけあって、メンバーの殆どは重装備。ダメージディーラーよりもタンクの方が多いようだ。

 そういえば、騎士王として有名なアーサー王は龍の因子を継いでいるとか。ギルドホームの内装、そして《ドラゴンナイツ》というギルドネームは、もしかしたら彼らを意識して作られたのかもしれない。

 

 円卓を連想させる華美なテーブル。

 それを囲むように、四人のプレイヤー達が集結していた。

 

 まずは自分達、岸波白野と遠坂凛。言わずと知れた魔術師(ウィザード)

 ここにいる他の三人と違って、本来ゲームに備わっていない能力――チートと呼ぶべき力を持っている。

 

 次に黒の剣士・キリト。このゲームのベータテスト時に十層まで登ったらしく、その知識を駆使してトップを張るソロプレイヤー。

 攻略情報を公開せず独り占めしていることから「ゲームをクリアする気がない」「ただトップに立ちたいだけ」等の理由でプレイヤー勢から苛立ちを買っている。

 

 最後の一人はディアベル。彼こそがギルド《ドラゴンナイツ》のギルドマスター。

 誰もがゲームオーバーに怯える中、真っ先に剣を取り、皆の先陣に立ったプレイヤー。

 

 自分達が彼に呼ばれた理由はただ一つ。“サーヴァント”と“エクストラスキル”――即ち、圧倒的な強さだ。

 キリトは一時的とは言えバーサーカー相手に互角の戦いを見せ、自分達は魔術とサーヴァントを駆使してそれを倒してしまった。

 その説明を求められ、こうしてギルドホームに集められた。

 他のギルドメンバーがこの場にいないのは、話をややこしくしないための配慮だという。

 

「――こうしていても始まらない。いい加減話を進めよう」

 

 長い沈黙を打ち破ったのはディアベルだった。声音は普段より低く、少しばかり怒気を孕んでいる。

 キリトはきゅっと自分の膝を握り、遠坂はディアベルに向ける視線を強めた。

 自分はと言うと――

 

「まずはキリトさん。オレが見た限りでは、貴方は――」

『ちょっ、何勝手に入って来てるんですか! サーヴァントなら引っ込んでて下さいまし!』

『君もサーヴァントだろう。……それよりキャスター、これは紅茶か?』

『私はサーヴァントである前に妻ですから。……ええと、一応紅茶? ですけど』

『――――――はぁ』

「…………」

 

 ――自分はと言うと、マイペースな二人が気がかりで仕方なかった。

 わざとらしいアーチャーの溜息に、場が沈黙する。

 防音機能は無いらしい。

 

『……何なんですかその溜息は。問題でもあるっていうんですか』

『その自信は一体どこから来るのだ……。察するに、紅茶を淹れるのは初めてだな?』

『何事も挑戦です』

『練習は一人の時にしたまえ。紅茶は少しばかりコツがいる。このような色水を四人に飲ませる気か?』

『大丈夫ですよ。ホラ、もうほうじ茶を淹れましたから』

『何故そちらを持っていかない……』

『時間潰しですよ、時間潰し。シリアスムードを壊すワケにはいかないでしょう?』

『せっかくの茶が冷めたらどうする』

『温度維持くらいできます。これでもキャスターですので』

『……そうか。では、私も“時間潰し”をさせてもらおう』

「…………」

 

 扉一枚の向こうでは、全く異次元の戦いが繰り広げられていた。

 レベルが高すぎてついていけない。

 台所は女の戦場と聞くが、中々的を射てい――、る?

 

『馬鹿な、コンロがない、だと……!』

『ここの人、料理とか全然しないみたいですよ。ほら』

『冷蔵庫のような物に、保存食がぎっしり……か。まあ、彼らの事情を考えれば仕方ないだろう。

 しかし、だとしたらキャスター、火はどうした? 熱湯は必要不可欠のはずだが』

『え? 普通にこれですけど?』

『……こんなことに一々呪術を使うのか、君は。待て、なら要らん。うっかり爆発されては堪らない』

『ちっ。……ならどうするんです? このままでは紅茶どころかお湯すら用意できませんねえ』

『フッ、それはどうかな。あまり私を舐めない方がいい』

『っ……ふん、口だけなら何とでも言えます。どうせ男特有の無駄な意地。後先考えず大口を叩いてしまって、引くに引けなくなってるだけでしょう?

 ですよね? バトルと家事、しかも両方貴方の方が上とか、マジ冗談で済まないんですけど』

『それは今に分かるさ。ではいくぞ、刮目して見るがいい――――投影(トレース)開始(オン)

『なん……だと……!』

 

「……ハクノさん。一つ聞きたいんだけど、いいかな?」

「どうぞ」

「あの二人は、一体何をやってるんですか?」

「聖戦」

「――――え?」

「聖戦」

「…………」

「聖せ」

「もういいです分かりました」

 

 口を閉ざすディアベル殿。何を言ってるのか分からない、と遠坂に助けを乞う。

 が、遠坂サンは既に台所に釘付けだった。

 無理もない。キャスターのような戦いとは程遠い人物ならともかく、歴戦の勇者たるサーヴァントが紅茶を淹れようというのだ。これで興味が湧かないわけがない。

 一方、キリトサンは完全に置いてきぼりだった。紅茶には興味がないらしく、ギルドホームの内装を値踏みしている。

 許せ少年。キャスターにとって、負けられない戦いがここにあるのだ。

 そして自分はキャスターのマスター。

 たとえ……たとえ勝敗が見えていたとしても、俺はキャスターに味方するッッッ!!

 

 

「アーチャーの勝ち」

「――――――――」

 

 

 ガタガタガタ! と崩れ落ちるキャスター。

 アーチャーは得意げに、当然だと言わんばかりに威張っている。

 彼女達が持ってきたのは紅茶とほうじ茶、プラスそれぞれに合わせた菓子類だった。

 

「……え、えっと、俺はキャスターの方が美味かった、ぞ?」

「――――――――」

 

 必死にキリトがフォローするが、彼女の心は微動だにしないようだ。

 OTZのまま完全に凍結している。

 

「……へえ。やるわねアンタ」

「お褒めに預かり光栄だ」

 

 遠坂はアーチャーを訝しげに観察しつつ紅茶を味わう。表情がコロコロ変わるので見てて面白い。

 険しい顔をしていたディアベルでさえ、紅茶の香りと旨みを満喫している。

 紅茶が思いのほか美味しかったのは事実だが、かと言ってキャスターが特別劣っていたわけではない。

 ベクトルは違うが、どちらのお茶も美味しかった。

 

 ――勝敗を分けたのはお菓子だ。

 

 勿論、一から作る時間も材料もない。出されたのはSAO内の店で売っている物。

 ここで一つ疑問が生まれる。

 

 “――おかしいな。アーチャーはいいとして、キャスターはどこからお菓子を持ってきたんだろう。お金は全てマスターたる自分が管理していたはずだが?”

 

 と。

 

「ただの私怨じゃないですか!」

「結構高そうだったのもマイナスです。確かに、今思い返せば、急に所持金がごっそり減っていた時期があった」

「何言ってるんですか。宝は女を美しくするのです!」

「消費しちゃったけど?」

「そ、それは……ご主人様を喜ばせようと……」

「……その気持ちは素直に嬉しいけど、使いどころを間違えたかな」

 

 せめてもの慰めに頭を撫でる。

 一瞬の緊張、垂れていた尻尾と耳がピンと張る。

 やがてキャスターの頬は紅潮し、蕩けるように自然な笑みを浮かべた。

 

「……これは、私の負けだな」

「いいえ勝ちよ、アーチャー。貴方の勝利は揺るがない」

「凛、目が笑ってないぞ」

「いつも思うんだけど、あれって狙ってやってるのかしら」

「いや、素だろう。それだけキャスターに気を許している、ということだ」

「……妙に実感が篭ってるわね。実体験?」

「どうかな。或いは、そんなことがあったかもしれないが」

 

 

 ◆

 

 

「――さてと。まずは先日のお礼を言いたいと思う。ありがとう。貴方達のおかげで、誰一人死なせずに勝てた」

 

 茶番が一段落した後、ディアベルはそう切り出した。

 アーチャー特製の紅茶が効いたのか、声は落ち着きを取り戻している。

 サーヴァント二騎は席を外している。どうやらまた、台所で異次元の戦いを繰り広げているようだ。

 

 ――そっとしておこう。

 

 今はこちらに集中集中。

 

「それで、三人を呼んだのは他でもない。先日のボス――バーサーカーの件だ。攻略組を代表して、オレが三人に色々質問することになった」

「あー……まあ、そうよね。いつか呼び出されると思ってたわ」

「はは。でも、本当に来てくれるとは思わなかったよ。オレはてっきり、無視されると思ってたから」

 

 ディアベルは爽やかに微笑んだ後、キリトの方に向きを変えた。

 彼には紅茶があまり効かなかったらしく、顔には緊張の色が見える。

 

「まずはキリトさん。バーサーカーと戦った時に見せたアレ(・・)について、説明してもらいたい」

 

 ディアベルはじっとキリトを見つめて問う。

 彼が訪ねているのは、おそらくは二刀流のことだろう。

 あの時……ほんの僅かな間だったが、彼はバーサーカーと互角に戦った。両手に片手剣を一本ずつ、装備した状態で。

 

「これはただの推測だけど……貴方が使ったアレは、ソードスキルか何かだと思うんだ。それも両手に装備すると、単純にそれだけ強くなる滅茶苦茶なスキル。

 ……そうでも考えないと、タンクでもないのにあれだけ大立ち回りができた説明がつかない」

「大立ち回りって……そこまで大げさじゃないと思うけど」

「いや、大げさだ。攻撃役(ダメージディーラー)の貴方が、防御役(オレたち)と同じことをやってのけた。これは、“ソードアート・オンライン”のゲームバランスを根本からひっくり返しかねない」

「……今更、だけどさ。スキルの詮索は、本来ならマナー違反じゃないか?」

「……かもしれないね。だとしても、オレは敢えて破る。君がキャスターさん、アーチャーさんのようなNPCだったならいい。プレイヤー達は全員、貴方を“そういうキャラクター”として認識するからね。でもそうはいかない。貴方は一層の最後に、自分のことを“ビーター”と言った。この時点で貴方はプレイヤーだ。嘘かどうかはともかく、全員がそう考えると思う。今更誤魔化しは通用しない。

 そして、これが何より重要なんだけど――あのスキルの習得は、オレ達にも可能(・・・・・・・)であることを示している。どんなに特殊なスキルでも、既にキリトというプレイヤーが持っているんだからね」

「それは――そうだな」

 

 キリトは顎に手を添え、しばし黙考する。

 ……ディアベルの思いは本物だ。

 皆を現実に返したい。現実に帰りたい。

 彼の態度から、そのことがありありと感じ取れた。

 

「……分かった、情報を提供するよ」

「! ああ、ありがとう」

「けどその代わり、俺を追い回すのはいい加減止めてくれよな。いつ刺されるか心配で、こっちの気が持たない」

「ん? 追い回す……?」

「……ああ。最近、誰かにつけられてるんだよ。俺は基本最前線にいるから、ここかキバオウの所の誰かだと思うんだけど……」

「うーん……分からないけど、分かった。オレから皆に注意しとくよ」

「サンキュ――じゃあ、説明するぞ。

 俺があの時使ったのは、《二刀流》ってスキルだ。両手に片手剣を装備すると使えるスキルで、専用のソードスキルなんかもある」

「……なるほど」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 ……ん?

 この沈黙は、一体……?

 

「……あの、他には?」

「他? ええっと……装備する片手剣は、何でもいいみたいだ」

「うんうん、それで?」

「それで……ええと――」

「――うん分かった。こうしよう」

 

 沈黙に耐え兼ねたのか、ディアベルは懐から一枚の紙を取り出した。

 目を細めて見ると、何やら文字が書かれている。メモだろうか。

 

「これはあらかじめメンバーに書いてもらった質問メモだ。これに書いてあることに答えてもらいたい。二人もそれでいいかな?」

 

 あのメモには自分達サーヴァントに関するメモも含まれているらしい。

 遠坂と共に首肯する。

 

「ありがとう。じゃあ、まずはキリトさん。えっと、スキル名は《二刀流》で……そうだ。装備する武器は両方片手剣じゃないと駄目なのか? 例えば右が片手剣、左が短剣といった組み合わせは出来ないのか?」

「それは前に試したけど駄目だった。《二刀流》は片手剣じゃないと発動しない」

「え……そうだったのか。うーん……」

 

 途端、ディアベルは難しそうな顔で腕を組んだ。

 元来“二刀流”とは、防御に特化した戦闘スタイルを指す。それはアーチャーを見ていても分かる。

 ――夫婦剣“干将・莫耶”

 そのうちの一本の刃渡りは、SAO製の片手剣より若干短い。短いということは、それだけ軽いということ。軽いということは小回りが効くということ。実際、盾の代わりにも使える短剣、左手用短剣(マン・ゴーシュ)と呼ばれる剣も存在する。

 だが、両方に片手剣を装備する、なんて事例は聞き覚えがない。仮にあったとしても、おそらくそれは一般的ではないだろう。

 

「ということは、ロマン武器――いや、スキル……なのかなぁ。宮本武蔵も片方は小太刀使ってたらしいし」

「ま、それは仕方ないんじゃないか? きっと茅場昌彦は、剣道とかに詳しくないんだろ?」

「いや、一人でゲームを作るのは無理だ。茅場昌彦本人じゃなくて、ソードスキルのシステムやモーションを担当した人が詳しくないんだと――っと、今は置いとこう。今後のアップロードに期待かな。えっと、《二刀流》は片手剣だけ、と……」

 

 ディアベルは手元の質問用紙にメモする。字がすこぶる綺麗だ。

 

「次。“その《二刀流》スキルは、どうやって会得したか?”」

「どうやって、か……正直、自分でも分かってないんだよな」

「うん? 分かってないって、どういうことだ?」

「いや、文字通り本当に分かってないんだ。ある日起きたら突然増えてた、というか」

「起きたら増えていた……と。ちなみに、それに気づいたのはいつ頃かな」

「二層を突破する前……中盤あたりかな。武器強化詐欺の頃……あ」

 

 しまった、とキリトは口を抑えた。

 武器強化詐欺というと、遠坂がインファイターに転職した頃か。

 正直に言うと今のステゴロ遠坂の方が頼りになるので、結果オーライではある。

 

「ああ、そんなこともあったね。良くも悪くも、いい刺激にはなったかな。そういう人達もいるって分かったから」

「あれ……怒って、ないのか?」

「怒ってるさ。それで死者が出たことも知ってる。けど、なんていうのかな。騙されたのは腹が立つけど、かといって弱い装備のまま最上階を歩いたのは自業自得だと思う。危機管理能力がなかった、としか言い様がない」

「……随分冷たいんだな。《ドラゴンナイツ》のリーダーさんは」

「ごめん、気を悪くさせたかな。ウチのギルドやキバオウさんの所からも死者が出てないから、対岸の火事としか感じないんだよ。

 それで……えっと、気づいたのは二層だね?」

「……ああ」

「けど条件は不明、と。実質《二刀流》は、キリトさんしか持ち得ないエクストラスキル――“ユニークスキル”、とでも言うべきものなのかな」

 

 残念そうにため息をつく。

 攻撃役(ダメージディーラー)が一時とはいえ防御役(タンク)をこなしたのだ。攻略組を全員《二刀流》にしてしまえば、それだけでも戦力はグンと上がる。低レベル層を《二刀流》特化型に教育すれば尚良し。

 ――といったことを考えていたのだろう。

 

 

 ◆

 

 

「――これでキリトさんの《二刀流》に関しては終わりかな。次は……」

 

 ディアベルは台所――キャスターとアーチャーの戦場(?)を一度見たあと、自分達の方を向く。

 

「単刀直入に行こう。ハクノさん、リンさん。貴方達も、何か特殊なスキルを持ってるんじゃないか?」

「――――」

 

 ――やっぱりそう来るか。

 仕方ない。コードキャストや魔術(ガンド)をあれだけ多用したのだ。問われない方がおかしい。

 

「……その顔からすると、やっぱり持ってるんだね。遠距離攻撃用のスキルを」

「ええ、持ってるわよ。皆があっと驚くようなスキルをね」

「遠坂?」

「いいでしょ別に。というか、あそこまで派手にやっちゃったら隠しきれないわよ。

 私たちが使ったのは《魔術》。《二刀流》と同じ、エクストラスキルよ」

「え――」

 

 エクストラスキル《魔術》。

 ディアベルは質問用紙にメモをとる。

 一方キリトは、キャスターだけでなくプレイヤーまで使えるとまで思ってなかったのか、呆気にとられていた。

 

「同じということは、やっぱり貴方達しか持っていないのか?」

「今確認できる限りではね。この際だから説明しておくと、キャスターはそれに特化した使い魔よ」

「成程……じゃあハクノさん、あの時のはもしかして……」

「ああ。《魔術》スキルの奥義……みたいなものだ」

 

 あの時の、とはキャスターの宝具・“水天日光天照八野鎮石”のことだろう。

 この説明でも一応間違いではない……はずだ。

 

「そうか。纏めると、キャスターさんは攻撃・防御・補助の全部をこなせる《魔術》のエキスパート。リンさんは攻撃と補助、そしてハクノさんは補助専門……ということか。

 アーチャーさんの剣に関しては本人に訊くしかないか」

 

 ……ああ、そうか。アーチャーと遠坂が繋がっていることは知られていないのか。

 とはいえ今訊かれたとしても、ディアベルが納得する説明を出来る自信はない。

 バーサーカーを倒した後もアーチャーを問い詰めたが、

 

 “キャスターのサポートがあったから”

 

 という答えしか貰ってない。

 

 バーサーカーを消し去った光の剣。

 真名から推測するに、おそらくはかの騎士王――アーサー王の聖剣を模した偽物(フェイク)

 あれについて言及しても、適当にはぐらかされるだけだった。

 

 その後もディアベルの質問はしつこく続いた。

 例えば、キャスターが使える呪術について。炎・氷・風の属性や特性など。

 自分のサーヴァントの手の内を明かすのは自殺行為。無論、隣から真っ赤な視線をザクザク刺された。

 しかし、彼らは敵ではなく味方だ。隠す意味はそう大きくだろう。寧ろ、彼女の情報を元にいい作戦を考えてくれるのなら、教えたほうがいい。

 そうしてディアベルの質問に一通り答えたあと、彼はメモ用紙を懐に仕舞い――。

 

「なあ、ちょっといいか?」

「ん?」

 

 そのタイミングを見計らっていたのか、キリトが小さく挙手した。

 

「ああ、構わないよ。何かな」

「さっきの……《魔術》スキルについてのことなんだけど。俺、この二人以外でも使ってる人、前に見たぞ」

「え――?」

「! 本当か!?」

 

 バッとディアベルは身を乗り出し、懐に仕舞ったメモ用紙を再び取り出した。

 自分と遠坂は発言者たる黒の剣士に注目する。

 先程確かに《魔術》スキルとは言ったが、所詮はただのかこつけだ。コードキャストや宝石魔術。そういったイレギュラーを誤魔化すために用意させた都合の良い言い訳に過ぎない。

 

 ――それを使う者がいた、ということか。

 魔術師(ウィザード)の魔術ではなく、《魔術》という名称のスキルを使う者が。

 

 だが、本当にそんなものが実装されていれば、攻略組の何人かが知っているはずだ。ましてディアベルはリーダー。彼が知らないのはあまりにも不自然。

 

「――――」

 

 ――考えろ。

 手掛かりは既にある。

 一つ一つ整理すれば、答えは自ずと見えてくる。

 

 ――エクストラスキル・《魔術》

 使えるのは“ハクノ”と“リン”だけ。

 キリトの目撃情報からして、実装はされたが一般化していない。

 教会の神父――は、除外していいだろう。彼はNPCとして認識されている。キャスター、アーチャー、それからランサーと同列と見ていい。

 よって、最も可能性のある人物とは――

 

「……そうか。つまり、その人は――」

 

 あの男(・・・)だ。

 断定は出来ないが、思い当たる節は一つしかない。

 

「キリトさん、その人の名前は?」

「ああ。確か――ヒースクリフ(・・・・・・)、だったかな」

 

 




大賢者ヒースクリフ爆誕。なんてこったい。
そして申し訳程度の推理要素。

「ヒースクリフ……一体何場昌彦なんだ……」

最後の一言のためにこれだけ書いたと言っても過言ではない。

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