Fate / SAO CCC   作:YASUT

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“狂戦士”・決着

 

「アーチャー!」

 

 立ち位置を調整するアーチャーに呼び掛ける。

 それを横目で確認した後、アーチャーは再び空中のバーサーカーを見る。

 構えているのは宝具・軍神五兵(ゴッドフォース)。六形態に変化するマルチプルウェポン。

 そのうちの一つ――『射』の型。

 

「っ――今更何をしに来た。尻尾を巻いて逃げたのではなかったか」

「流石に、あれを見たら放っておけない」

 

 ここがダンジョンや草原だったら、あるいは逃げていたかもしれない。

 けれどここは橋。上からあれだけの宝具を撃たれたら、この橋も無事では済まない。

 

「チッ――遅いか。もういい、下がっていろ」

 

 アーチャーは左手に魔力を集中させる。

 その影響か、彼が持つ幾重もの魔術回路が色を伴って視覚化される。

 あの線に沿って魔力が流れているのだろう。

 この英霊は投影魔術で宝具を再現する。

 所詮は再現だ。幾ら宝具の構造を頭に叩き込んでも、オリジナルをそのまま作ることはできない。

 

 ――しかし、真に迫ることならばできる。

 

 水天日光天照八野鎮石(キャスターの宝具)によって、今のアーチャーには無限の魔力がある。

 今のアーチャーは自滅を心配する必要がなく、より精度の高い宝具を投影可能なのだ。

 

 

「――――――――」

 

 

 二騎の視線が交わる。

 それが合図。

 限界にまで引き絞られた矢は――大量の魔力を引き金に発射された。

 数十メートルの距離が一瞬にして詰まる。

 砲弾は空気を捩じ切り、貫きながら直進する。

 

 

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)――!!!」

 

 

 ――だが。ここに、それを塞ぐ花弁が出現した。

 花弁は七枚。その一つ一つが城砦の壁。

 

 熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)。トロイア戦争にて英雄アイアスが使用した盾の名前だ。

 勿論これは贋作。本物に比べれば何もかも劣っている。

 しかしその弱点は、キャスターの宝具によって補われる。

 以前までと比べれば圧倒的な精度。投擲武器、飛び道具に無敵を誇る最硬の盾。

 

「ぬぅ――……っ!!!」

 

 ――その一枚に亀裂が入る。

 人中に呂布ありと言われた最強の武将と、最高傑作とまで言われた最強の武器。

 その一撃は、城砦の一つや二つ軽々と消し去る。

 

「ぐっ……!」

 

 衝撃波で橋が揺れ、表面のコンクリートが剥がれていく。

 触れてすらいないのにこの影響。やはり、破壊力はずば抜けている。

 

「っ――――!」

 

 足場が崩れた瞬間、一気に二枚の花弁が割れた。

 ……まずい。足場が悪い。

 今アーチャーが投影した宝具なら、バーサーカーの宝具もなんとか凌げるだろう。

 しかしそれは、ここが普通の平地だったらの話。

 階層が低いせいか、この橋の耐久値は高くないようだ。

 時には隆起し、時には陥没し、乱れに乱れる。

 自ずと踏み込みも甘くなり、踏ん張れるものも踏ん張れない。

 

「キャスター!」

「お任せ下さい! コンなの、朝ご飯前ですっ」

 

 そう言って、キャスターは呪言を唱え始める。

 ――《呪層・黒天洞》

 自分達が持ちうる最強の防御手段。

 

「む……キャスターか!」

ご主人様(マスター)の命令で助太刀に参りました。ですがアーチャーさん、最後までどうか、油断無きよう」

「――は。言われるまでもない――!」

 

 ドーム状の障壁が貼られ、アーチャーの盾と重なった。

 それを確認した後、耳につけた礼装(ピアス)を起動する。

 ――純銀のピアス。

 刻まれたプログラムは“ gain_mgi(16); ”

 キャスターの魔力を上昇させ、黒天洞を補強する。

 五枚の花弁と一枚の障壁。

 アイアスを突破しても、その下には黒天洞。

 これらを一気に敗れる宝具などそうそう無い。

 

 ――ピシリ、と割れる音。

 発生源は壁ではなく矢。

 

 矢に篭められた魔力が底を尽き、衝撃に耐え切れず自壊する。

 

 これで終わりではない。

 《呪層・黒天洞》は、防御と吸収を兼ね備えた呪術。

 行き場に迷う魔力は全て、彼女の鏡に吸い寄せられる。

 

 ――耐え切った。

 バーサーカーの宝具、軍神五兵(ゴッドフォース)を。

 

「……ふぅ、どんなもんですか! 如何な宝具とて、二人掛りなら楽勝――」

「言ってる場合か! まだだ!」

 

 跳躍したバーサーカーが着地する。

 脆くなった橋に更なる亀裂が奔り――

 

「■■■■■■――――!!!」

「!」

 

 驚異的な脚力でこちらに迫る。

 地形がガタガタになろうとお構いなしか……!

 

 方天画戟は元の形状に戻っている。

 切断、刺突、打撃、薙ぎ、払い。

 大型両手武器の特徴を全て備えた万能兵器。

 

「――十秒、といったところか」

「アーチャー?」

「時間を稼げ、岸波白野。出来るか?」

「…………」

 

 十秒……十秒、か。

 何をする気か見当もつかないが――

 

「……分かった。任せる」

「ああ、任された。気を楽にな。あの戦いを勝ち抜いたお前なら、安い注文だろう」

「――え?」

 

 今……なんて――

 

「ご主人様!」

「!」

 

 考えるのは後だ。

 今はバーサーカーに集中する。

 

 ――とは言っても、どうするべきか。

 

 右腕は動かない。

 使えるのは左手と礼装くらいか――

 

「――――いいや、なんてことはない。キャスター!」

「ラジャーですご主人様(マスター)!」

 

 キャスターが飛び出す。

 バーサーカーに、ではない。

 悪い足場を巧みに駆け抜け、バーサーカーの側面を位置取る。

 

「――魔術回路(サーキット)点火(イグニッション)

 

 アーチャーが呟く。

 やはり何かを投影す(つく)る気らしい。

 ――それがこれまでと明らかに違うものだと、すぐに分かった。

 光。

 星のように眩い光が、アーチャーの手から発せられている。

 これを危険と判断したのか、バーサーカーはキャスターに目も暮れずアーチャーを狙う。

 

「炎天よ、はしれ!」

 

 死角から《呪相・炎天》を放つ。

 キャスターの呪術は範囲が広く、威力も申し分無い。

 

「■■■■■■――――!!!!」

 

 攻撃を受け、バーサーカーはキャスターへと方向転換する。

 ――やはり速い。

 彼の敏捷値はキャスターと大差ないが、狂化の影響で本来よりも速くなっている。

 筋力値、耐久値は言うまでもない。接近戦になればキャスターは五秒と持たないだろう。

 

 だが侮るなかれ。この程度、危機でも何でもない。

 

 キャスターは脆い。非常に脆い。一度のミスで簡単に死にかける。

 しかし、そんな綱渡りだったからこそ得られた経験がある。

 

 ――ここで勝負を決める。

 とっておきの礼装《アトラスの悪魔》を起動する。

 

「っ……! ぁ――、」

 

 一気に体が脱力し、膝をつく。

 効果が強力な分、消費量も激しいようだ。

 残り少ない岸波白野の魔力が、キャスターへと流れていく。

 

「ではでは、ここらでバシっと決めてやります!」

 

 こちらの意図を理解したのか、彼女は動きを止め、ある構えをとった。

 

 ――《呪層界・怨天祝祭》

 

 キャスターの魔力を瞬間的、かつ爆発的に引き上げる呪術。

 大気が呪力で満ち溢れ、蒼い着物は躍りだす。

 この間、キャスターは気を集中するため、完全に無防備となる。

 

 

「■■■■■■――――!!!!」

 

 

 襲い来る薙ぎ。

 その凶悪な攻撃は、彼女を紙をように破り捨てるだろう。

 

「おや? 何かしましたか、貴方」

 

 だがキャスター本人は、一切動じていなかった。

 バーサーカーが手加減したわけではない。

 原因は先程の礼装《アトラスの悪魔》に刻まれたコードキャスト―― add_invalid();

 一撃のみ、あらゆる攻撃からキャスターを守る。

 

「気密よ、うなれ!」

「――――――――!!」

 

 強化された呪術がバーサーカーに直撃する。

 撃たれたのは風の呪術。

 中華の鎧を砕き、四肢を切り刻み、狂戦士の巨体を軽々と跳ね除けた。

 

 

「■■■■■■――――、■■■!!!」

 

 

 まだ、倒れない。

 ことタフさにおいて、このクラスのサーヴァントは他の追随を許さない。

 だとしても、呂布奉先に無敵の逸話はない。どれだけ耐えようと、いずれは力尽きるのだ。

 そして――

 

「いい仕事だ。後は任せてもらおう」

 

 最後には、彼の締めが待っている。

 

「禁じ手の中の禁じ手だ。バーサーカー……いや、呂布奉先。貴様にこの投影を受けきれるか――!」

「■■■■■――!!」

 

 バーサーカーは方天画戟を持ち直し、槍投げの要領で投擲(・・)した。

 軍神五兵(ゴッドフォース)では間に合わない。無意識にそう直感したのだろう。

 

「――――――」

 

 ふと、有り得ない幻を見た。

 聖剣を構える赤い英霊。

 それに重なるように――青いドレスを纏った、誇り高き騎士王の姿を。

 

 

永久に遥か黄金の剣(エクスカリバー・イマージュ)――!!!!」

 

 

 アーチャーは高らかに()の名を告げる。

 勝利を約束する聖剣。それを模倣した偽物の名。

 その名に込められた意味は、赤の他人に過ぎない自分には分からない。

 

 巨大な光の斬撃。

 転輪する勝利の剣(ガラティーン)に匹敵する破壊力を前に、バーサーカーは為すすべもなく呑み込まれた。

 

 


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