ジャミトフに転生してしまったので、予定を変えてみる【完】   作:ノイラーテム

51 / 52
外伝:未来へ続く架け橋

 火星戦役こそが最期の戦争だと人は言った。

しかし誰もがそんなことは無い事を知っている。少なくとも公式には宇宙世紀0099年まで戦争など起きていないのだ。ならば火星戦役は何だと言ってしまう事も出来る。

 

人は戦い無くして生きられないモノであるなどと言う者もいる。

だがニュータイプと呼ばれる若者たちは、もっと良い未来、もっと広い世界の為に戦いを後回しにできる賢さに至ると信じている者も居るだろう。

 

『閣下。完全無公害、再生可能な第三のエネルギー革命に成功したとの事ですが?』

「現状ではそこまで便利な物ではないな。無限に湧き出るコップか、短期間で補充されるバケツに過ぎん。廃棄ロスを考慮しないならばプールくらいにはなるかもしれんがね」

 火星戦役に関する公式発表は、気が付けばエネルギー論争にすり替わっていた。

ヘリウム3を取り返したという情報に加えて、保険プランである月面からの抽出に成功。さらに未知のエネルギーが開発されたとなれば当然だろう。

 

火星戦役の勃発でエネルギー問題と株価の乱高下が起きたが、当初は下がり続けた開拓株も今では天井知らずである。宇宙市民の所得倍増どころか、開拓長者が列をなしたとの噂もあった。

 

「ただ、そうだな……このエネルギーを蓄積・循環できるバッテリーも開発しておる。十年もすればマシンの小型化と遠隔地への旅行も簡単になるだろうよ」

『なるほど! 火星が近くなり、地球に里帰りするのが億劫だと言う日もそう遠くないかもしれませんね』

 この記者は宇宙移民を後押しする論壇の人間だった。

ジャミトフからこんな事を聞かされれば、持論に繋げて宇宙開拓を呼びかけたくなるだろう。

 

株価の乱高下と戦役推移の予想が外れたことで否定派の陣営は御通夜状態だ。相対的に味方し続けた開拓派は幅を利かせており、この記者のみならずともプレス筋は開拓推進派が多かった。

 

『しかし、それだけのエネルギーだけに危険性も指摘されていますが?』

「否定はせんよ。先ほども無理すればプールになると言った。だがマシンや艦船が小型化することでプールは消防車になり、私が火星へ赴任する頃には事故の話も聞かなくなるだろう」

 ジャミトフ・ハイマンは火星戦役に関して隠さず公表した。

ただ先ほどの例でサイコフレームから得られるエネルギーが、無限に湧き出し続ける再生可能だと併記しただけである。

 

その事だけでシロッコの野望が全て消え去った。

電池というものは直列と並列で生み出せるエネルギーに差があるというのを知っている者も多いだろう。サイコフレームを『並列』で使えば徐々に無限のエネルギーが湧き出るが、シロッコはモビルスーツのカタログスペックを上げるためだけに……『直列』以上の無茶をしたと言う事に収まったのである。

 

『っ!? 失礼ながら、閣下は良いお年だと思われますが?』

「自分ではまだまだ若いつもりだよ。残念ながら君と同じで年寄り扱いする者も増えてきたがね」

 記者は何重の意味で驚いた。

ジャミトフほどの権力者が火星に移動するというのは大事というだけではない。

 

危険性を承知で事故率を下げられるという予測が立っているという事。火星の開拓長官を『新しい植民地の総監』などという者も居るが、ジャミトフの様な人物が率先して移動すればそんな噂など消し飛ぶ。何人もの閣僚や上級将校が帯同するだろう。やがて火星が大型都市として扱われる日も来るとすら思えたのである。

 

景気の二番天井ならぬ開拓バブルという言葉が生まれたのはこの年の事であった。

 

 とはいえ老人であるジャミトフの移動許可が出るまで、それなりの月日が経過した。

 

「世界は狭くなりましたな」

「だがようやくだ。ようやく火星の地を踏むことができた。実用化して何年も経っておるのにな」

 火星にある宇宙港へ一人の老人が訪れていた。

どこかのご隠居と言った風情であるが、周囲に居並ぶ軍人や実業家たちがソレを感じさせない。

 

そして周囲には屈強のSPが何名も配置されているだけでなく、この日の為に火星方面軍の警戒シフトが変更されていすらした。

 

「当然です。閣下ほどの方を事故や海賊の危険にさらすわけには参りませぬ」

「海賊か。本当に出れば面白かろうが」

 冗談でも止めてくださいとは秘書も言わなかった。

老人が本気で言っているのが判るし、新鋭機を秘かに連れている事もあって海賊が出現した方が宇宙は平和になるだろう。

 

そして老人はロビーの中で待つ、一人の少女と出逢うのだ。

 

「やれやれ。掌中の珠であるお前が先に到着するとはな。奴もよく手放したものだ」

「勝負は私の勝ちですね。……実のところ、お見合いを幾つか受けるという約束で参ったのです」

 少女は艶のある栗毛をしていた。

SPを連れているのは老人と同じで、何処かのお嬢様……というには少々物騒な護衛を連れている。社交界のワンシーンと言うべき光景であるが、二人が出会ったことが知られれば何が起きるかと騒ぎ立てる者も居るだろう。

 

後の世で活躍する歴史家の中には、この瞬間に立ち会いたかったという者もいるかもしれない。

 

「ジャミトフのおじい様。勝負に勝ったらなんでもお聞きいただけるとの言葉。よもや嘘ではありませんね?」

「そうさな。何でも言ってみるがいい」

 少女はジャミトフという名の権力者の癖を良く知っていた。

幾つかのゲームの中から好きな物を選ばせ勝負する。もし勝てば願い事を叶えてくれる……と言う事ではない。

 

面白い内容ならば勝利しなくても話は聞いてくれるし、つまらないならば叶えるだけで忠告も何もしない。

 

……より重要なのは、どんな話でも笑わずに聞いてくれること。

どんな無茶振りであろうとも、面白ければ可能な限り助言をくれる事だ。

 

「わたくしには自由がありません。あれをしろ、これをしろ。勉強も政治や思想の事ばかり。さもなければお見合いを兼ねたパーティしか行ったことが無いのです」

 少女は権力者の娘にありがちな環境で育った。

しかしながら決してそれに甘えていたわけでも、心底嫌になったわけでもない。それこそ『貴女の立場では仕方のない事です』などと言う同情は何度も聞いてきたのだ。

 

だからそんなお為ごかしを聞きたいわけでは無い。

責任から逃れる為だけに妖怪と言われた老人の力を頼りたいわけでは無いのだ。

 

「お前が自由になったとして、暫くすれば誘拐して義父君にいう事を聞かせようという者が出るだろう。それを理解しているのかね?」

「っ!」

 もっともジャミトフは当たり前の事など考えてなどいない。

少女の立場を判った上で、養子に迎えた有名政治家をも抑えて自由にすることが出来る……という前提で話をしていた。

 

老人が口にした懸念は、言われてみればもっともな事だ。

コロニーの混乱を抑えるために、養子になって事なきを得ている。もし自由の身になって歩き出せば、即日は言わずとも誘拐されれば父親のみならずコロニーが脅されることになるだろう。あるいは反乱の旗印だろうか?

 

「一介の身分無き市民として放置というのは難しいでしょうか?」

「お前が優れた研究者や芸術家であればありえたかもしれんな。まあそれら以上に権力も財力も要らぬということであれば、方法がないでもないが」

 彼女が町を出歩かないというならば何とでもなる。

実際にはそうもいかないので、誘拐する方法も幾らでもあった。そういった意味で研究者や芸術家であればと前提条件を付けたのだ。

 

その上で面白そうに笑う。どうみても好々爺とは程遠い妖怪爺の顔で。

 

「お聞かせください。今の状況を打破するにはソレしかないのです」

 少女は生まれ持った責任というモノを自覚していた。

だからこそ今までの生活に耐えてきたし努力もしてきた。それこそ政略結婚であろうが我慢しただろう。コロニーに住まう人々の生活を考えれば、飢えることも凍えることもない生活を送らせてくれる養父に応えるには仕方のない事だ。

 

しかしそうもいかない事情が出てきた。

笑えないことに、少女がコロニーへ留まる事で混乱が生じようしているのだ。

 

「ここにな……使わなかった特務部隊用の市民証がある。これをお前にやろう。そして数日後には死亡告知が世間を賑やかせる事だろうよ」

「わたくしに死ねと!?」

 これまで老人の前で胆力を保っていた少女が絶句する。

思わず口元を押さえるがこれこそ仕方のない事だ。まさか死んだことにして世間の追及をかわそうなどとは思いもすまい。

 

だが、同時にストンと落ちるモノがあった。

 

「……いえ、失礼しました。確かにそれしかないのであれば、お手を取りたいと思います」

 戸籍的に死亡し別人となる。

確かにこの方法であれば公の問題には片が付く。気が付いて誘拐しようとする者も現れるかもしれないが、少なくともスキャンダルによって公的な問題だけは回避できるのだ。

 

それならば乗らない手はない。

養父は驚くだろうが、彼を追い詰めずコロニーの人々を守るにはこれしかなかったのだ。

 

「よろしい。では一度、火星のサイド2に向かうと良い。そうさな、途中か現地で海賊に会う。どうにかしてサイド7に辿り着けば良いだろう」

「フロンティアからインダストリアへですか? アナハイムの工場で何が……」

 火星に作られた生活圏は地表が連邦所属だが、コロニーであれば自治区が許されている。

これまでの統治よりも緩やかな制度であり、ブッホ・コンツエルンがサイド2へフロンティア王国を。アナハイムは第三社屋としてインダストリアを建造していた。

 

「そこでお前は運命と出逢う。ミネバ・ラオ・ザビが死んでもおかしくないだけの事件に、だ」

「承知いたしました。その任務をお引き受けします。この生命に賭けても!」

 ジャミトフの命令ならばミネバが動いてもおかしくはない。

養父であるガルマ・ザビも受け入れるであろうし、死んだことになっても力関係から言って文句を言えまい。

 

いや、ミネバの周囲でザビ家の権力派閥が動こうとしているのだ。

喜ぶに喜べないであろうが、受け入れるほかは無かった。

 

「目的を履き違えるでないぞ? お前の役目は隠された物事が茶番であることを証明することだ。ミネバが死ぬのは結果でしかない」

「判っております。何が『目的』で何をすべきなのかは自分の眼で確かめたいかと」

 ジャミトフは笑って懐から一枚のデータ・クリスタルを取り出した。

ミネバとここで面会すると判った時点で、以前に用意した特務部隊用の身分証を移しておいたのだ。

 

もっともシーマ艦隊用に用意した物であり、統合型コンピューターによって生き死にの仮想データを繰り返して、膨大な数に及んでいるはずなのだが。

 

「では今日からお前はセシリー・フェアチャイルドだ。お供の爺やには事欠かんだろうが、恋人が出来たら紹介してくれ」

「事件が起きる前から気が早いですわ。……行ってきます」

 ミネバはクリスタルを受け取ると大切そうに仕舞った。

SPの中から何人かが動いていく。おそらくはガルマへの報告であったり、隠れて付いてきているコマンドへの通達だろう。

 

そしてジャミトフの護衛の中からも動き出す者が居た。

 

「行くか、ガトーよ?」

「問われるまでも無い」

 止まりもせずに歩き出す義手の男へジャミトフは餞別を贈ることにした。

退職金代わりには大き過ぎるが、彼が操るには面白かろうというマン・マシーンである。

 

声だけかけて、懐から取り出した鍵を放り投げる。

 

「二号機を持って行け。あれもガンダムには違いあるまい」

「感謝はせんが役には立てよう」

 それはフル・サイコフレームを使った新鋭機であった。

アナハイムが少数生産を行いその内の一機を手元に、そしてジャミトフに一機回している。

 

それらは技術検証機であるスターゲイザーとは違い、短時間集中型の戦闘重視タイプであった。ブラスター・モードと呼ばれる戦闘スタイルに変形すると、精神を消耗する代わりに強大な力を得ると言われている。

 

「ジャミトフ。さきほどのやり取り……まさかアレを掘り起こす気か? マーセナスの奴が禿げるぞ」

「フン。私を地球に縛り付けた罰だよ」

 様子を伺っていた別の老人が話しかけて来る。

現役の政治家ではなく引退した企業家ゆえメディアへの露出は減ったが、それでもなお泰然たる影響力を持つ男である。

 

政府首脳であるローナン・マーセナスをあいつ呼ばわりできる数少ない老人だ。

 

「ところでメラニー。ナイトガンダムは何番機まで用意しておるのだ? 三番機までは知っておるのだが」

「完成しているのはそれだけだな。ロールアウト予定の機体を予備パーツで組上げれば話が変わって来るが」

 その男はメラニー・ヒュー・カーバイン。今ではただの工場長だ。

製作中の新鋭機はナイトガンダムと呼ばれており、それぞれモチーフとなる幻想生物と専用武装でコードネームがついている。

 

現時点でユニコーンとブレードの一号機、悪魔とハンマーの二号機、ピクシーとダガーの三号機という風にだ。そのうちランス・アックス・拳・弓といった武装に、相応しい幻想生物をモチーフして完成するだろう。

 

「そうか。最低でも年内に七号機までの目途を付けろ。死ぬまでに面白い物語が見たいところだ」

「酔狂だな。世界の命運をたった七人の手に委ねようとは」

 二人の老人は肩をすくめて笑った。

この新型機で駄目ならば何を派遣しても駄目だろう。数を増やすだけならスターゲイザーを呼び戻しても良いが、戦闘力の面では不安が残る。

 

第一、太陽系外縁の探索中であるために、呼び戻すのも惜しい気がするのだ。

 

「あの……。何が起きているのでしょうか?」

「君。ご老公方の会話に……」

「良い。大した胆力の褒美に応えてやろう」

 側仕えなのか、片目で金色の髪の少年がおずおずと尋ねて来る。

どうでも良い相手の筈だが、ジャミトフは不思議と見覚えがあった。白い眼帯を黒く染めたらと想像すると思い当たる人物は一人だ。

 

その少年は事故で遭難している所をアナハイムに救助され、そのまま特待生として工業科に進んでいるという。おそらくはザビーネ・シャルであろう。

 

「ただの自動機械の反乱だ。仕組んだ人物はとっくに死んでいるがな」

「木星公社の連中は大型化と自動化による効率で生産性を上げているという話は知っているな? そこの一つをハッキングされておったとのことだ」

 老人たちは顔を見合わせて笑いあった。

そしてこの事件もまた懐かしい名前の人物が引き起こしたなれの果てだ。

 

「火星開拓の波に乗り遅れたシロッコという男が起こしたツマラナイ事件だ。迷惑な話だ」

「だがドゥガチが折れるキッカケになったと思えば協力するのもやぶさかではない、物は考えようというやつだな」

 嫌そうなメラニーに対してジャミトフの方は笑う余地があった。

そして幾つかの疑問を解決する為、残り少ない人生の中で面白さを求める事にした。

 

「少年。せっかくだからお前も動いてみるか? ミネバにもガトー以外の援護が必要だろう」

「ジャミトフ。悪ふざけが過ぎるぞ」

 普通ならば確かにこれは悪ふざけだ。

才能が有ろうと一介の少年が戦力となるはずもないのだ。

 

しかしジャミトフからみればここで出逢った事、そしてザビーネらしき少年が余計な口を開いたこともまた運命であろう。

 

「役に立つなら候補に加えるだけだ。道中で才能を見せなければ乗せもしない。……だが、やる気と自信はあるようだな」

「はいっ! やらせてください!」

 そしてザビーネが向上心と野心を兼ね備えている事も良く知っている。

チャンスに我を抑えられるか試すならば今の内だろう。

 

そして……もし自分のように逆行する者がザビーネに憑依しているのだとしたら、やはり対処の一つも考えねばならないのだ。

 

「しかし何年経とうとも知った顔が居る。面白い人生ではあったな」

 ジャミトフは船の手配をしながら笑っていた。

最近では感情が動くような面白いこともなくなり、今日はミネバに続いてザビーネにまで出逢うとは久々に楽しい日である。

 

いつまでも賑やかな宇宙世紀であることを祈ろう。




 これで外伝の最終回となります。
この後の話はユニコーン + 無双物でしかないので特に描写しません。
書いたとしても、外伝メカニカルガイドくらいでしょうか?

●事後譚
 サイコフレームの危険性に関して弁護するのではなく、端的に説明。
弱いけど無限に発生するエネルギーであり、バッテリーとか搭載すると凄い。
これからMSは10mになり、巡洋艦とかでもかなり搭載できるようになる。
エネルギー問題も解決するとなると、外宇宙が見えてくるという感じです。
シロッコの野望と危険性はその話題に隠れて消滅。
無制限のリサイクル可能な再生エネルギーを、一瞬で使い切ろうとした奴が居た扱い。

●ミネバがセシリー
 F91やクロスボーンの事件が無くなったのと、ミネバ回りが面倒なので
バッサリと解決する為に死んだことにしています。
きっとキンケドウ・ナウと名乗る少年や、ジムを一瞬で六機倒した爺さんとか居る筈。
(なお面倒事はガルマ・シャア・アルテイシア・グレミーの問題)

●今週のマシン『ナイトガンダム』
 スターゲイザーで技術検証したフル・サイコフレームの完成系。
サイズが14mになっており、スターゲイザーが長期プラン向けとは逆に短期決戦用。
原作でいうユニコーン・ガンダムに当たる機体である。
幻想生物をモチーフとしており、専用武装を組み合わせてコードネーム化している。

一号機:ユニコーン x ブレード(騎士ユニコーンガンダム)
二号機:悪魔 x ハンマー(バルバトス)
三号機:ピクシー x ダガー(ガンダムピクシー)
四号機:フェニックス x 槍(ビギナ・ギナ)
五号機:神 x 拳(ゴッドガンダム)
六号機:斧?
七号機:爪?

と言う感じですね。
なおモデルは騎士ユニコーンとテッカマンブレード。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。