ジャミトフに転生してしまったので、予定を変えてみる【完】 作:ノイラーテム
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アレキサンドリア級二番艦イスカンダルは火星への途上にあった。
最初にアルフレッド・イズルハが最新鋭のモビルスーツをチラリと見かけた時、ワクワクとした笑顔で日参したものだ。ローテーションの一人ながらパイロットに選ばれた時は眠れなかった。
だが今では、焦燥に満ちた目でその機体を見つめている。
思いつめた様子でコックピットを見上げては、頭を振って自室や食堂に戻る様子が幾たびも見受けられた。
「少年。無為に急ぐのは止めて置け。どのみち非武装のスターゲイザーではロクな戦力にならん」
何度目かのお参りで不意に声を掛ける者が居た。
その男は仮面を付けているがカンバックした傷病兵なのだろう。片腕は義手で髪の毛は恐ろしいものでも見たかのように色が抜け落ちていた。
「貴方には判りませんよ! 火星にはボクの大切な人たちが……」
「かく言う私も出撃したくてたまらぬのだがな。あそこには死に別れた戦友たちが居る。共に明日を作ろうと誓いあった仲間だ」
スターゲイザーと呼ばれる新型機を見つめるアルの脇で苦笑交えて話す。
思いは同じだと言いながら、懐から電子錠を取り出した。
言う事を聞かなければ捕まえる気かと身構えるアルを制して、自らの腕の上をトントンと叩いて見せた。
「察しているかもしれんが私はジオン軍人だった。先の戦役で死に後れて恥を晒し、出所してみればかつての仲間たちは目的をはき違えている。宇宙市民の独立は既に成ったのだ」
「っデラーズ戦役のせんぱ……」
「そう。戦犯の一人だ」
咄嗟に口ごもったアルの言葉を男は肯定した。
そしてこの船に乗ってからも、途中までは監視が付けられていたとすら言い切る。
「閣下の目指した道は成った。裁かれてなお尊敬してくれる連邦軍人も居る程に成功したと言えよう。だが……火星以降に去った仲間たちは、その理念を穢しているのだ。私はこれを止めたい」
「……そのためにせっかく拾った命を投げ捨てても?」
「無論だ。その為にこそ生き恥を晒した甲斐があったというもの」
アルは何となく悟った。この男は命を賭けて戦いを止めるために行くのだと。
その為にたった一つの命すら投げ捨てて、場合によっては犬死を覚悟して割って入るつもりなのだろう。
今も数多くの同胞が死んでいくのをただ待つ心境はいかばかりか。
強烈な感情を押さえつける理性。自分よりもよほどに飛び出したい歴戦の猛者が、自分を抑えてただ時節を待つ姿にアルは何も言えなくなっていた。
「イスカンダルは既に艦隊を離れて高速移動を開始している。到着すれば戦況は変わる。その時まで命の使い道を考えておくのだな」
その男は結局、アルに戦う覚悟があるかどうかを問わなかった。
男ならば命よりも大事なモノの為に戦うのは当然。そう思っているのか、それともアルが覚悟を決めていることを見抜いているのだろうか?
「到着すれば勝てるんですよね? ならボクはボクの大切な人たちに言ってあげたいんです。……もう戦わなくていいんだって」
今から戦おうとする前にこんなことを言うのは滑稽かもしれない。
もしこの男が管理官の直属であればスターゲイザーのパイロット候補から外されてしまうかもしれない。
だがこの男ならば決して笑うまい。
笑うとしても覚悟を褒める為にこそ笑うだろうと、喉を嗄らすようにして声を絞り出したのだ。
「もし君がパイロットに選ばれたのであれば、私と『ゴルディアス・ホイール』がそこへ連れて行ってやろう。どれほどの佳境であろうとも、その事だけは約束するとしよう」
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最新鋭の機体と強化人間を投入しておきながら、同じ場所へ戦力を追加した。
戦力の逐次投入は悪手であるし、そこを支えているアムロ・レイがそれだけ強力と言う事であろう。
パイロットの技量と機動性、そして対ニュータイプを想定されたフォーマットの三つが徐々に優位をもぎ取りつつあったのだ。しかし……。
「チャンス? ……違う、これは罠だ!」
アムロはTHE・Oの動きが単調になったとみて仕掛けようと思った。
だが脳裏に掠める殺気に違和感を感じた。キャラ・スーンの殺気はむしろ抑え気味だというのにヒリ付く感じが拭えないのだ。
もしこれが初見であったのならば、あるいはララァ・スンがオペレーターでなければ撃墜されてしまったかもしれない。
「アムロ。いけないわ。そこには……」
「罠だというのか!? このっ!」
一瞬感じたララァの発する警告。
それを感じ取ったアムロは、念のために誘いに乗ったフリをして攻撃タイミングの手前で行動を起こした。
ビームライフルをノン・チャージで射撃しつつ、その射線に隠れるようにTHE・Oから距離をとったのである。
『合わせろ! 一番機!』
『当たれ! 当たっちまいなよ!』
「遠距離狙撃でのコンビネーションか!」
複数の殺気に反応を連続させる。
急カーブを描く軌道をした後、あえて円を描いて一回転するという無駄な動きで仕切り直した。
その間はオートで制御しつつ、片手で望遠を行うがジュピトリスの下方側に降下した機体があるとしか判らなかった。それも複数いればこそで、もし一機であれば判断に困っただろう。
「ニュー・アレックスでも探知外だぞ? そういえば……前にも追い回されたことがあったが、『システム』は嫌な相手だった」
ティターンズの精鋭部隊と特訓をした時の事だ。
彼らは母艦やドローンが得た情報を演算コンピューターで処理して、専属のオペレーターが数機毎に管制していたのだ。
地域ごとの地形データも含めてオペレートする高度な戦術プログラムで、神の視点という意味合いの名前を持つシステムを用意していた。
「アレに比べたら組み立てが甘いが……監視されているだけならまだしも、ちょっかい掛けられるのは厄介だな」
戦闘を監視する視線には気が付いていたが……。
まさか遠距離狙撃で介入するとは思っても見なかった。タイミングがまだまだ甘いがあの位置から届くのは恐ろしい。もし何も警戒していなかったと思うとゾっとする。
やがてアムロとキャラの双方が動きをシャープにさせて牽制を再開し始めた所で更なる変化が訪れた。
『ダカラン隊かい!?』
『援護します!』
『スペースウルフ隊とでも呼んでくださいや!』
青いダイオウイカが二機、高速で突っ込んできた。
突入と同時にプロペラントタンクを切り離し、身軽になってから四方を囲もうとする。
これに対してアムロはタンクの残り残量、そして相手の動きを眺めてまだまだ使えると判断した。
『プロペラントタンクを切り離さないだと? 舐めるな!』
「こいつら腕はいいが素人か? ……そうか、新鋭機を受領したばかりか。ならばやりようがある」
『速い!? 動きだけじゃない、なんて判断速度だ!』
ハンブラビが高速で突撃を掛けて駆け抜けていく。
測定と同時に放たれるメガ粒子砲をアムロは難なく避けるが、それでも視線はTHE・Oを捉えたままだ。どうやらキャラも味方の動きに馴れていないらしく、ペースを積むまでは牽制攻撃のつもりであるらしい。
そしてこの流れこそがアムロにとって落ち着く為に必要な時間であった。
ティターンズの精鋭部隊……特にヤザン・ゲーブルの部隊はどいつもこいつも気が抜けなかった。それに比べたら大したことはないし、変形マシンを扱うのに、ワザワザ射程外まで逃れてから変形を繰り返している。
「倒すのは何時でもできるが。倒すべきはこいつらじゃない。今のうちにあいつを叩くべきだ」
敵は三機に増えたが一番厄介だったTHE・Oが単調になった。
加えて遠距離狙撃も回数が減り、変形やターンの援護に切り替えたようだ。要するに急場で乗った新型マシンと急増部隊という構成の弊害と言うやつだろう。
そこでアムロは第一に倒すべき相手を考えたが、倒し易いハンブラビではなかった。
あくまで生半可な攻撃では落とせないTHE・Oであるべきだし、隙が多くこの後の行動も読み易いキャラの思考であった。
「連携に馴れたころにワザと隙を見せて当てに来る。狙うならそこだ。その前に仕込んでおくか」
ヤザンたちとは練習戦闘で戦ったが、それでも簡単には倒させてはくれなかった。
それどころか何度となく連携によって追い詰められ、倒されてきたのだ。
正史と違い能力の覚醒が中途半端で終わったことや、戦闘経験の差もあるだろう。
だがその記憶がアムロに『直接狙っても倒せない』『偶然訪れたチャンスでは倒しきれない』と言う事を学ばせたのだ。
「ここだ! 連携の齟齬を突く!」
『うお!? 当ててきやがった!』
『だがこの程度なら問題ねえ!』
アムロはあえてハンブラビを落とせないと判っているタイミングを狙った。
彼らの稚拙さが罠だとは思わない。大外から接近して来る敵が急速に馴れるとも思わない。それらに関しては観測に徹しているララァの役目だ。アムロは自らの道を切り開く為に、わずか数分だけ邪魔者を追い払う事にした。
やはり掠り傷に終わったがそれで構わない。
狙いはハンブラビが損傷状態の動きに馴れるまでの数分。あるいはこの程度ならば問題ないと大回りで牽制だけを行おうとする数分だけで良いのだ。
「やはりチャージしないとライフルでも無理か。全力で当てに行く!」
『さっきから全力だったろう! できるもんならやってみなよ!』
実のところ、これまでアムロは何度かビームライフルを当てていた。
だがTHE・Oはその厚い装甲とサイコフレームからもたらされるエネルギーによって減殺。致命打とは成りえないレベルにダメージを抑えていた。推進力なら負けておらず、嵐の様な火力を前に攻めきれない。
だからこそアムロは、何枚かある切り札の一つを早速切ることにしたのだ。
ここまでの仕込みは通常時の攻めでは倒しきれない。そして邪魔者を遠ざける為の組み立てである。
「そうさせてもらう。……君だけを相手して居られない。悪く思うなよ」
アムロは先ほどまで『フライングアーマー形態での全力』で戦っていた。
宇宙空間ゆえにモビルスーツ形態が必ずしも『戦況』に有利ではないからだ。キャラ達の相手をしながらジオンの艦隊を牽制するには移動力と長距離狙撃力こそが重要だったのである。
しかしこれ以上、目の前の敵を放置できなかった。
ゆえに緊急操作レバーの一つを回転させて、『巡行』→回送→『変形』と書かれているうち中間へと合わせたのだ。
『ハン? そんな中途半端な変形がどうしたって!』
「もしそう思うならば、君の敗因は油断だよ」
ニュー・アレックスの大型プロペラントタンクと脚部が下を向いた。
マント型装甲が羽のように横へ広がり固定されていた腕が解放。まるで鷹が荒ぶるようなポーズを取ったが所詮はそれだけ、大したことではないとキャラが見たのも無理はない。
しかしこれが無意味ならばアムロがハーフ・トランスフォームを行う訳がない。
意味があり時として有意義だからこそ、ジャミトフは隠しモードで設定しておいたのだ。移動力に関しては先ほどよりも下がっているのだが……。
『アハハハ! 正面からだって!? 無駄だよ、その機体の特性は……』
「先ほどまでとは機動力の意味合いが違うんだよ。……小回りのね」
下方へのスラスターは申し訳程度。火星の重力を相殺する程度の出力だ。
これにより重力の頸木から解き放たれた機体は、マント型装甲による微細なノズル噴射で先ほどとは比べ物にならない旋回力を見せていた。
アムロを狙ったはずのメガ粒子砲の猛射。
それを小さな動きでかわすと、一度大きくメイン・スラスターを吹かせてから再び舞い戻ったのだ。その手にビームサーベルを握って。
『後ろに回るなんざ見え見え……馬鹿な。速過ぎる……』
「まずは一つ!!」
即座に振り向いて追撃を掛けようとするのは悪手だった。
既に再突入を開始しているニュー・アレックスはビームサーベルをTHE・Oに突き立てる。
キャラの敗因は『ガウォーク形態』という概念が巴戦に置いて非常に優位にある事を知らなかった事だ。そして旋回半径の差を先ほどまでのフライングア-マー形態と同列視してしまった事だろう。
『ま、……まだまだ!』
「見える!」
キャラはTHE・Oの腕で握り込むようにビームサーベルを抑えた。
本来ならば意味はないが、サイコフレームによってI・フィールドのように干渉出来ていた。隠し腕を使って下段からの斬撃を行おうとしたのだ。
だがそれも先読みされていては意味がない。
躊躇なくサーベルの発振を解除。反動が無くなって抑え込もうとしたTHE・Oの腕が鉄拳に変わるのも構わずにフル・スロットルをかけた。本来のパイロットではないクリスチーナ・マッケンジーでは不可能だったリミッター全解除の荒業だ!
「そこ!」
『馬鹿な。あたしは……キャラ・スーンなんだよ!』
脚部スラスターの噴射によって天頂側に抜けると同時に腕部から発射!
パイルシューターの零距離射撃は、まるでパイルバンカーの様な衝撃を持って鉄拳ごとTHE・Oの腕を砕き、次弾がそのまま損傷している胸部へ追撃を与えた! もしニュー・アレックスのサイコフレームが衝撃を緩和しなければ使った方も危険だったろう。
ガンダリュウム合金製の鉄杭攻撃。その威力の前にTHE・Oは沈黙した。
火星に向けて落下し始めるその姿を見ることなく、アムロは次なる敵に向かう事にしたのである。
「参ったな。切り札は一枚だけのつもりだったのに。存外やる」
中間形態だけを見せて勝つつもりであった。
だが重装甲とサイコフレームの組み合わせはモビルスーツにタフネスさを与えていた。
精神力に異常な波のあるキャラゆえだが、そんなことを知らないアムロは戦いが厳しくなっていくのを感じ取ったのである。
再びフライングアーマー形態に戻しながら、ハンブラビが居ない方向に飛び抜けることで状況の把握に掛かった。戦いはまだまだ序盤を過ぎたばかりである。
と言う訳でキャラを撃破。
スパロボで言うと『デデデデーン、デデデーン! ポコポコポコ♪』
と出てきた量産型ラスボス機体を、ようやく一体倒した感じです。
●アルと仮面の男
アル:cv浪川
仮面:cv大塚
●今週のメカ
『ガウォーク形態』
最も運動性が上がるのは中間形態。
まあこの辺の理論は突き詰めると変な方向に議論が進むので、
移動力重視の飛行形態に馴れてたのに、小回り重視の機体になったから防御できなかった。
中間形態は腕も使えるので、火力がいきなり上がったので負けた。と言う事にします。
『パイルシューター』
所謂パイルバンカーの射撃版。
腕にグレネードやガトリングではなく、バズーカ並みの火力があるような物。
普通ならばこんな装備を付けたら腕が吹っ飛ぶのだが、この機体のサイフレームは
管制制御系特化していてバリアとかパワーとかはオマケなので、こういう事も出来る。
『ゴルディアス・ホイール』
火星用探査マシン『スターゲイザー』専用のコムサイくらい大きな大型SFS。
様々な武装を搭載しているこちから、デンドロビウムのオーキスを小さくしたという方が早い。
『イスカンダル』
アレキサンドリア級二番艦。その特徴は円形の集光セイルを後方側面に二つ備え
どちらを向いてもエネルギーを吸収しながら進むことができる。
ペガサス級とムサイを参考にして建造され、空母機能を持つ巡洋艦と化している。