ジャミトフに転生してしまったので、予定を変えてみる【完】   作:ノイラーテム

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外伝:火星の先行者

 表示されるデータ画面には異様な数字が並んでいた。

これまでのモビルスーツ史を塗り替える数値と、相反するように規定値を満たさない数値が並んでいる。

 

これが示すのは試作機はまだまだ未完成だが、非常に有望な機体であるという事だ。

 

「申し訳ありません、閣下。御覧の様にマイクロウェーブの受信並びに、火器系の切り替えが全く伴っておりませぬ」

「いや。ローレン・ナカモト、君は偉大な研究者だよ」

 渋面を浮かべるローレン・ナカモトに対し、ジャミトフ・ハイマンは笑顔で応じた。

そもそもニュータイプ研究を行うローレンにエネルギー管理系も熟せと言う方が無茶だ。あえていうならば火器系の切り替えは、専門分野に片足を突っ込んでいるサイコフレームから得られるエネルギーを扱いかねているからというべきか。

 

とはいえサイコフレームは既にローレンの手を離れており、素材工学にもう半分の足を突っ込んでいる。やはり彼は自分にできることだけならば、十分に役割を果たしたと言えるだろう。この場にギニアス・サハリンでも居れば余裕で完成させただろうが、二度目の人生では彼を助けて居ないので仕方あるまい。

 

「この試作機から火器系を省いてしまえ。余剰エネルギーは全て慣性制御と衝撃吸収に振り分けろ。出来るな?」

「はっ! それだけならば造作もありません。しかし……」

 ローレンはジャミトフの命令に即座に頷いた。

しかし頭の中ではどう計算しても折り合いが合わない。最初にサイコミュによるビット操作を提案した彼ですら、サイコフレームで得られるエネルギーの前に変節したのだ。

 

これほどのエネルギーを火器系に使わないのか?

これほどのエネルギーを全て機体制御のフォローに回して何をしようというのか?

 

「手持ちの火器だけでは既存のモビルスーツと差がありません。バックパックで補正できる能力にも限りはありますが?」

「認識の違いの差だな。この機体で戦おうとするから未完成に見えるのだ」

 ローレンの指摘をジャミトフは肯定した上で、この試作機では戦わないとアッサリと宣言した。

軍の予算で開発した機体で戦わないなどとは信じられないし、掛けた予算を考えるのであれば偵察機に収めてはならぬ状態であった。

 

だがジャミトフはニヤリと笑って続きを説明する。

 

「表向きは火星探査用として投入する。仕掛けて来るかも判らん火星ジオンに対するならば、手持ちもバックパックも探索系で揃えてしまった方が楽だ。何より非武装に見えるのは格好の宣伝にもなるしな」

「宣伝……囮に使われる気ですか? 最新鋭機を得られるチャンスを与えて誘き出すと」

 非武装に『見える』ということは、手持ち火器による奇襲攻撃が可能ということだ。

別に選択武装の一環として、ガン・カメラとビームライフルを入れ替えても良いのである。ビームサーベルを持たせずとも、これほどの機体がクローで殴りつければザクなど一撃でスクラップだ。

 

そしていつまでも完成させずに時間を経過させるよりも、いったん完成させて次の機体を本命にする手もあるのは確かだった。掛けた予算が膨大過ぎて見落としがちだが、V作戦辺りと比べれば雀の涙でしかない。あくまで新鋭の機体の開発費としては高額なだけなのだ。

 

「そういう事だ。非武装機に護衛を付けて悪い道理はあるまい? それに部署が違うから忘れているかもしれんがGP03の例もある」

「ああ! デンドロビウムの方式でしたら確かに!」

 仮に三機で一編成として、残り二機でジムキャノンⅡの様な火砲型でも備えれば問題ない。

本格的に火星探査が始まるころには、それらの機体も新型機に置き換わっているだろう。何よりもこの試作機を『本体』として捉え直すことで、武装に関してはフライング・ユニット側に持たせてしまう事も出来るのだ。

 

GP03デンドロビウムは本体であるステイメンと、武装コンテナ集合体であるオーキスに分かれて設計されていた。その観点から見れば、この機体を本当の意味で完成させるのは難しくないだろう。

 

「惑星間航行を手助けする為だけのユニットをソルと仮称し、太陽光を受け取る為のセイルでも付けて置け。武装面での本命は判るな?」

「もう一対存在する、ルナ・ユニットですな? 早速取り掛からせていただきます」

 ジャミトフは3Dホロを起動すると、手早く空中に巨大な円……いや翼を描いた。

これがソル・ユニットであり、イカロスの翼にならぬよう堅固に作れと記載していく。二枚のセイルで太陽光を吸収し、サイコフレームで発生するエネルギーも合わせて本当に火星まで飛んでいけそうな姿に仕上がるだろう。

 

対してSFSを巨大にした様な小舟型がルナ・ユニットだ。

こちらは様々な武装を展開し、マイクロ・ウェーブ受信機の他に様々な火砲を備えて必要に合わせて切り替えることができるだろう。デンドロビウムのオーキスが持つ70mには及ばずとも、コムサイ並の40mもあれば十分に火力を活かしきれる。何しろ当時と違ってサイコフレームが素材として完成しているのだから。

 

「本体名を『スターゲイザー』と銘名する。ソルとルナの方は適当に間に合わせろ。遅れたら無人で放り出せばいい」

「承知いたしました!」

 こうして新しい機体が実戦投入されることになった。

完成と同時にソル・ユニットの製作と宣伝に入り、火星探査に地球連邦が本格的に動くという姿を見せる。

 

そしてルナ・ユニットの方はジオンに場所を間借りすることで、新型ムサイを地球連邦が監視しながら設計するという、両者にとって互いの得となる名目を得たのである。

 

 未来に向けた機体が着々と仕上がっていく中、一足先に完成した機体がある。

その機体は木星公社が動き出す前から改良が始められていたこともあり、骨格を入れ替え装備の追加を施すことで、短期間に新型と言っても良い性能を叩き出したのである。

 

黒い重装甲を花弁の様に何枚もまとった機体は研究中のスターゲイザーには及ばずとも、従来機を改良しただけであるのに、軍の新型であるガンダムMk-Ⅱをすら上回るポテンシャルを秘めていた。

 

「オクトーバーさん! これ反応が敏感過ぎますよ! 私じゃ制御できません!」

「すみませんねクリス。この機体は我が軍でも凄腕のパイロットを前提に用意されたんです。シューフィッターとはいえ合わせるのが難しいのは当然というべきか」

 クリスチーナ・マッケンジーの悲鳴を聞いてオクトーバー・サランは苦笑いを浮かべた。

完成した機体の慣らし運転を行うのに、ベテランのシューフィッターを呼んだのだがそれでも不足だったらしい。

 

追加装甲としてまとった重装甲がそれほど意味をなさないほどの高反応。

漆黒の装甲の下に眠る、白い機体はいかほどの性能を秘めているのか。秘密の花園に眠る花はさぞや怖ろしかろう。

 

「アレックスのは前にも乗ったことがありますけど、あの当時ですら凄い反応だったのに……。一体誰が乗るんですか?」

「聞いたことはないですか? 一年戦争時にサイド7を守った少年兵のことを。アムロ・レイ。彼がメイン・パイロットとして乗ることになってるんですよ」

 クリスが呼ばれたのは他でもない。

一年戦争時にこの機体の元になったRX-78NT-1の慣らし運転を担当したのである。その当時は戦争が早期に終結したこともあり、時間をかけて何とか制御したそうだ。

 

その時に培われたのが、段階的に解除できるリミッターなのだから笑うしかなかった。

しかしソレが無ければ今回も危うかったかもしれない。何しろベテランのクリスをして無理だと悲鳴を上げる程なのだ。もしかしたらアムロですら難しいだろう。

 

「当時は存在し居なかったインナーフレームを導入し、そいつにはサイコフレームを利用。従来の素材よりも軽く済ませられるから何とかなった面もあるんですが」

「サイコフレームって事はこれ以上性能が上がるの? そんなの無理に決まってるじゃないですか。その方、ニュータイプの才能があるから大丈夫みたいですけど」

 機体の反応を上げても誰もが対応できるわけでもないし、実のところ意味はない。

しかし意味を持たせられる存在が、一般機では遅いと評するニュータイプ素養者たちだ。彼らは思考を読んだ上に先読みを掛けるので、このくらいの反応速度が丁度良いのだろう。

 

「これはもう再誕(リボーン)アレックスというより新式(ニュー)アレックスじゃないですか、完全に別物です。パイロットはともかく、オペレートする方も大変ですよ? ニュータイプを援護するのは並の人間じゃ苦労しそう……」

「そいつは問題ないですよ……詳しくは言えないけれどクドリャフカがやってくれますから」

 呆れるクリスに対してオクトーバーは奥の間をチラリと眺めた。

機密保持のためにクリスには見せていないが、そこにはイルカが専用のオペレートマシンを見ている筈であった。クドリャフカと名前を付けられたイルカは、苦労するクリスと共にこの機体をずっと管制していたのである。

 

「クドリャフカさんです? その方は戦艦からオペレートされるんですか?」

「パープルトンさんの研究が上手くいかなきゃそうなるね。もっとも今ですら追加装甲を付けてかさばってるのに、複座にするのは難しいんじゃないかと思うんだが。何とか小型化しようと頑張ってます」

 この機体はモビルスーツとしては単独で完成しているが、オプションパーツは別だった。

別の研究所でニナ・パープルトンがGP05として設計を担当しており、そちらは本体をデータのみに留めて、デンドロビウムのオーキスを小型化する方向で調整を進めていた。

 

小型できれば原作で言うGディフェンサーとアルパ・アジールの中間の様な形状。

無理ならば諦めて駆逐艦として製造する手はずが整っていたのだ。

 

ジャミトフが即座にローレンに提案できたのは、実のところ、こちらの計画があったからに過ぎない。原作で裏切りを行った経歴のあるローレンとニナは単独で自分の研究のみを行っており、全てを知るのはオクトーバーのみだった。……いや本当の意味で知っているのは、転生者であるジャミトフだけであっただろう。

 

「なるほど。いつになるか判りませんが頑張ってくださいとしか言えません。ところで名前はアレックスのままで良いのですか?」

「閣下はその辺りを気にされる方ではないし、そうなるんじゃないかな? 小型化したらパープルトンさんのところの形式で花の名前を通して、船だったら『rugged leveled(でこぼこ 均等)』が第一案に挙げられていたよ。提案すればアレックスで通ると思う」

 どうやらジャミトフにネーミングセンスは無いようだ。

黒い追加装甲を幾重にもまとっているから、花の名前を採用するのはまだエレガントであると言うべきなのだろうか。

 

いずれせよ投入される機体は完成した。

今も舞台裏では、火星に向けて先行して送り込まれる準備が着々と進められているのだろう。




 という訳で、今回は新型機が製造されているだけの話です。
木星よりも先に動いて製造している分だけ、十分に検証された新型機が投入されます。
もし木星軍の用意する戦力がガザ・シリーズだったら無双していた事でしょう。

●機体の話
『スターゲイザー』
 これまでに開発された様々な技術を惜しげもなく使ったが、当然ながら完成しなかった。
そこで攻撃面をすべて捨てて、『平和的な観測用』と銘打って無理やり完成させた。

仏像の光背みたな翼状集光セイルを持つソル・ユニットだけならまだしも……。
コムサイにマイクロ・ウェーブ受信機能と豊富な火器を載せたルナ・ユニットが存在。
この二つを持って完全な姿になるというか、平和的利用は何処に行ったとか言う詐欺である。
専用のメガランチャーはフルマックスでチャージすると凄まじい火力を有したという。

『ニュー・アレックス』
 RX-78NT-01を換骨奪胎し、サイコフレーム製のインナーフレームを施している。
幾重にもまとった追加装甲、マント状・脚部プロペラントユニットで構成される装備もまた
サイコフレームで構成されており、スターゲイザーに先行して火星に送られることになった。

『rugged leveled』
 でこぼこ・均等。という意味を繋げた駆逐艦。
慣性制御システムやらサイコフレームやら観測システムを個別に試作し、船に載せている。
スターゲイザーよりも先行して実験が始まり、そのデータをフィードバックしているとか。
ちなみにニナの開発していたGO-05は小型化に失敗したそうな。
イルカを載せないといけないから仕方ないね。
とはいえ幾重にもまとったアレックスの追加装甲は、黒百合の様であったという。

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