ジャミトフに転生してしまったので、予定を変えてみる【完】   作:ノイラーテム

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遥か未来に向けて

●far away

 月面より遥か彼方、火星方面に太陽路はある。

ソーラーシステムとソーラレイによる実験回廊だ。

 

そこまで接近した事で気が付いてくれたのだろうか?

コウとカレンは救助に来てくれたモビルアーマーと、随伴するモビルスーツを眩しそうに眺めた。

 

「大型のアッシマーは実験用のスダルシャナとして。このザクってなんか陸戦型ガンダムに似てるような……」

「コウったら、こんな時にまで!」

「ああ、そうだよ。エックス・ワンはRX-79Gをモデルにしているんだ」

 出合い頭に興味を優先するコウにカレンは頭を抱えた。

先ほどまで死に掛けたというのに、機密に首を突っ込むあたり良い度胸である。

 

出迎えてくれた士官はクスリと笑って、コウの疑問に答えてくれた。

 

「とはいっても経緯や装備だけで、コンセプトとしては真逆だけれどね。シロー・アマダ大尉です」

「地球連邦軍プロメテウス機関所属、コウ・ウラキ少尉であります!」

 シロー・アマダと名乗った男は、ザクに乗っている割りに連邦軍のノーマルスーツだった。

コウは背景がよく分からないことも含めて、ひとまず自分の所属を明らかにする。

 

判らないと言えばこのザクもだ。

全体としてMS-06FZに似てはいるが、どことなく陸戦型ガンダムの系譜を引いているような気がする。シロー曰くその通りだと言うのだが。

 

「ええと、私は軍属になった……」

「今の自分らも似たようなものなので合わせなくても良いですよ。ジャミトフ閣下の意向で、共同プロジェクトに派遣されているだけですから」

「火星進出計画のでありますか?」

 シローは難しそうに敬礼をするカレンを押し留め、コウには三十点と採点を告げた。

どうやら差し支えない範囲で答えてくれるようで、コウは計画のことを聞こうか、それともザクの事について聞こうか少しだけ悩む。

 

だが、その悩みは不要だったようだ。

シローの方から色々とまとめて話してくれた。

 

「正確には火星も含めた宇宙開拓時代の準備かな。ザクの方は、ジオンのモビルスーツ開発の監視を兼ねて、ここでやれという事になってるんだ」

「連邦の監視下であり、しかし、連邦の領土に無い。そういうことでありますか?」

 敗戦国であるジオンに、自由な開発の権利があるわけがない。

しかし、それを改めて口にしてしまうと色々と問題が出てしまう。

 

だからこそ監視の名目で、遥か彼方で実験をしているという訳だ。

もちろんジャミトフの意向であり、その技術進歩の経過はすべて『ジャミトフ』が接収することになるのだが……。そこも含めて妥協という事であろう。

 

「連邦が安心できるように、旧来の技術しか認めていない。だから表向きは肥大化したゲルググをサイズダウンしかしていない。君は違いが判るかい?」

「っ! 同じ性能でサイズダウンすれば、出力と推力が飛躍的に高まることに成ります! それと……」

 ジオンのモビルスーツは開発を間に合わせるために、恐竜的進化を始めつつあった。

ザクは17m強だが、ドムは18m、ゲルググは19mと来て……量産型などは簡便化もあり更に大型化している。

 

このまま新型を作った場合、ジオン側のマグネット・コーティングやら何やら積むだけで20mは越えそうなものだ。

事実、連邦が知らないだけでアクシズが試作しているリファイン型は、20mを越えることで達成している。

 

「それと?」

「陸戦型ガンダムに似ている部分……。それはつまり、様々なオプショナル兵装による強化ではないでしょうか!」

「あ……。そういえば背中……」

 この辺りにソーラレイもソーラーシステムもない。

守備範囲が遠いのに、出迎えが可能なほどの移動力。そして衰弱した二人のために用意した、空気や水に食糧。

 

それらを可能とする大型ブースターと、付属のコンテナこそがこのエックス・ワンと呼ばれるザクの本質なのだろう。

 

「正解。この第四種兵装は長距離進軍用のモデルでね。閣下から、君たちのことを聞いて急遽テストすることにしたんだ」

「確かに本体は旧型機の焼き直しとなれば上層部も批判しませんしね。でもまさか、閣下が俺たちのことを……」

 良く見ればモノコック構造のままで、インナーフレームを導入している様子もない。

本体はあくまで、大型化したゲルググ以降のマシーンを18m以下に戻すことが目的なのだと思われた。

 

「任務中にお手数をおかけしました。でも、おかげで九死に一生を得て助かりましたわ。みなさんにも閣下にも、感謝の言葉以外ありません」

「それはまだ早いんじゃないかな? これから何度もいう事に成ると思うよ。なにしろ閣下はグリーン・ワイアット大将を動かしたんだからね」

「まさかそんな! 俺たち如きのために、ワイアット閥に借りを!?」

 コックピットの中でした会話を聞いていたか確認するとか、そんな気分は吹き飛んでしまった。

何しろジャミトフがやりそうな事とは大きく離れている上に、コリニー閥がワイアット閥に大きな借りを作ったという事なのだ。

 

シロー達に、もし見かけたら機体だけでも回収するようにというだけならまだ判る。

だが、一介の兵士に過ぎないコウ。正体を知っていたとしても、一秘密結社の工作員のためにすることとは思えなかったのだ……。

 

●スターシーカー

 遡ること数日、その話が持ち込まれた時。

当然のように反対意見が続出した。だがグリーン・ワイアット大将の発する鶴の一声が全てを黙らせた。

 

「どうして我々が本部の不況を買ってまで、一兵士の捜索をする必要があるのですか!?」

「誇りの一つも持てない繁栄など唾棄すべきだと思わんかね?」

 そう、全ては誇りの問題なのだ。

参謀が異論を言っているのも、バスクに遠慮したというよりは、目下に過ぎないジャミトフへの反発もあるだろう。

 

だがジャミトフが誇りを捨てて、頭を下げて来たのは都合が良い。

奴を介してコリニー閥に貸しが作れる上に……バスクやその背後に居る者を無視して、動く理由に成るからだ。

 

あるいはジャミトフの狙いは、そこにあるのかもしれない。

一介の兵士を救助するためというよりは、そちらの方がよほどあり得るではないか。

 

「君、バスクごときは道化だよ。そして紳士とは、誇りを相手によって出したり引っ込めたりする存在ではない」

「閣下の仰る通りです! 力を持つ者には義務というモノがあります!」

 その言葉を脇に居る軍属の青年が称賛した。

参謀は明らかに目下である彼を排除することもできず、言い難そうにハンカチで汗を拭きながら抗弁する。

 

「しかしですな。実際に苦労するのは御社の人員であり、同時にこのルナツーをガラ空きにすることになるのですが……」

「マイッツアー君のいう事も正論だと思うがね。それに、観艦式が本来の形で挙行されれば、どのみちガラ空きになる予定だったではないか」

 青年は軍属であり、以前は連邦軍の士官であった。

 

マイッツアー・ロナ。今では家業に戻り、少なからぬ人員を動かす企業人である。

父親であるシャルンホルストの興したブッホ・コンツエルンにおいて、辣腕を振っていた。

 

ジャミトフの行った移民への職業訓練と、デブリ回収作業の割り振りで、その地盤は失われたかに見える。

だが素早く連邦軍、それもワイアット閥に近づくことで、移民たちが始めたジャンク屋への指揮権を得たのだ。ここでジャミトフの歓心も買う事ができれば、もはや企業というよりは領地を持つ領主に近い存在となるだろう。

 

「ジャミトフ君の口利きで補正予算も出ることになった。ここは元の予定以上に観艦式を行うことにしよう。バスクやデラーズに見えるよう、盛大にね」

 そもそもグリーンが此処にいるのも観艦式の為だ。

予算の都合で中止になり、大規模閲兵式で済ませることになったが、それもバスクの話を無視する言い訳に過ぎない。彼が握っている艦隊を掌握するために、ワザワザ訪れていたのだ。

 

「具体的な場所についての立案は君に任せる。しかし漂流者の捜索を兼ねた観艦式だ。ロンゲストマーチと後世の人は言うかもしれないな」

「……なるほど。そういうことでしたら」

 ジャミトフの要請と観艦式にかこつけて、手持ちの戦力を好きな様に動かせる。

それだけの言い訳があればバスクが失敗したとしても、エゥーゴを『偶然近くに居た』ワイアット閥で討伐できるはずだ。

 

相手は疲弊しており確実に勝てる上に、地球を守る為の保険に成り得る。

つまりは功績は好きなように切り取り放題。そのためにならジャミトフ如きの意見で動くことなど、他愛ないことだと言えた。

 

「それにね、マイッツアー君。指導者とは状況に流されるものではなく、作り上げていくものだ。綺麗ごとの裏でジャミトフ君が何を考えているか、興味はないかい?」

 ワイアット閥が軍を動かす理由に漂流者の捜索を頼んだだけだろうか?

 

誰にだって誇りはある、そして誇りとはプライド。

即ち、悪徳の一つたる傲慢と同様の意味を持つのだ。ジャミトフほどの男が持つプライドであれば山の様に高いであろう。

 

「はっ! 今から御両所の大所高所を知ることが楽しみでなりません!」

 より高みの目的を叶えるために、ジャミトフもグリーンもあえて泥を被った。

理想と現実を同時に叶えるその姿に、マイッツアーは新しき貴族たちの姿を見たのである。

 

 二人が無事に救出されたのは、そんな背景があったからだ。

地道な捜索を行い、残る可能性を一つずつ潰していったからこそ火星方面で見つかった。

 

彼らはあずかり知らぬことではあるが……。

一介の兵士にすら全力を割く連邦軍に対し、移民者たちは改めて宇宙開拓に本気なのだと肌で理解したという。

 

「えっと、これを向こうの研究区画に持ってけばいいんですね?」

「でも良いんですか? 機密エリアとか……」

「その辺りはIDで分けてますから大丈夫ですよ。それに、ここは公開施設ですから」

 迎えを待つ間、二人はアイナやシローの作業を手伝うことになった。

バスクからの要請や接収を断る為、理由として色々なミッションを同時並行で始めてしまい、人手が足りなかったからだ。

 

竜骨の段階から宇宙で組み上げられる大戦艦にして外宇宙探査船。

ユリシーズの姿をシリンダーの向こうに見ながら、二人はソーラレイ……かつてはマハルと呼ばれたコロニーの中を飛び回る。

 

「威圧って理由もあるんでしょうけど、本当に大きいわね」

「本気で外宇宙まで行こうと思ったら、これでもまだ足りないそうだけどな」

 どちらかといえば穿った見方の多いカレンに対し、コウは基本的に楽観的だ。

ふとした拍子に意見がぶつかることもあるが、漂流している間に歩み寄ることを覚えた。良く言えば互いの個性は尊重し合うということであり、悪く言えば妥協なのだろう。

 

「寒っ!? どうしてここからこんなに寒いんだ?」

「研究区画って自分で言ったでしょ。それに宇宙は寒いのが当り前よ。さっきまでが異常なんだから」

 ソーラーシステムが送ってくる光を受けて、日常区画ではふんだんに暖房が使える。

この研究区画ではソレをしていないどころか、むしろ逆だ。

 

「でも、この寒さは尋常じゃないよ。まるで何かを冷やしているような……。スーパーコンピューターかな?」

『……その通りだ』

「マシンボイス? でもAIじゃないわよね」

 コウの言葉は独り言に近かったが、部屋全体から響いてくるような音がそれを肯定した。

驚いたカレンが見渡すが、どこかに監視装置の類でもあったのだろうか?

 

それとも奥に居る研究者が、ワザワザこんな距離でスピーカーでも使ったのだろうか? 普通はそんなことなどありえまいが。

 

『……驚かせてすまない。もう自力では声を出すのも億劫なんだ』

「研究者の方ですか? どこかお体でも……」

「馬鹿っ。声が出せないんだから、そこは察しなさいよ」

 しかし事実は奇妙なり、だ。

本当に奥に居る研究者が、スピーカーを使って語り掛けて来たらしい。

 

『アイナから荷物を預かったのだろう? 私宛で間違いないよ』

 そこに居たのは大きな椅子に腰かける……というよりは、眠るようにして座っている男だった。

目の周囲に隈があるくらいは序の口だ、ゲッソリと痩せて青白く、体中にアカギレめいた傷やら、栄養補給のためのチューブなどが付いている。

 

いまどきの薬は強力で、下手な点滴など必要ないはずだ。

つまり古い方法に頼らざるを得ないほど、体の方が限界に来ているのだろう。

 

「お、お休みにならなくて良いのですか?」

『そうしたいところなのだがね。いま、スムーズに行って良いところなんだ。それと……もう幾らも保たない。眠るよりは研究を見届けてから逝きたいものだ』

(どこかアイナさんに似てるな……。性格は違ってそうだけど……お兄さんか叔父さん?)

 健康を損なう前は美男子であると思わせる土台があった。

品の良さと相反する、ギラギラとした視線はモニターに注がれている。

 

そして彼が視線を動かすと、隣の部屋の扉が開き……この部屋よりも寒いのか、温度差で空気が少しだけ白くなった。

 

『すまないが、こちらに運んでくれ。私のIDで開けたが、他言無用に願うよ』

「はっ、はい。……プロメテウス所属なんですが、あの大型機に使ってるのと同じ、視線ポインタですよね……」

「……」

 こんな時に何を言っているのかとカレンは呆れそうになったが、研究者は心底楽しそうだった。

誰が作ったのだと思う? と聞かれたら、貴方が設計したのですかと二人でやり取りしていた。男の子の会話だなあとか思いつつ眺めていると、目的の部屋には奇妙なものが並んでいる。

 

「……棺? お墓なんですか?」

『いや。コールドスリープの実験室だよ。ここには現時点で治療できない病を持つ者と、……司法取引に応じた何人かの犯罪者が眠っている』

(だから他言無用と言ったのね。……奥に空いてる場所がある。この人のかしら)

 今は脳天気に質問できるコウがありがたかった。

空いているのは三番目で、一人目と二人目が実験を兼ねているとしたら、まさしくこの科学者が新しい薬を待つための場所だったのだろう。

 

『繰り返して言うが他言無用だ。しかし……矛盾するようだが、君たちに頼みがある。万が一を考えて、ここに通しておいたという訳だ』

「りょっ……了解しました。小官の力が及ぶ限り、ジャミトフ閣下の勅命と同義に考えて対処いたします」

 驚きかけたコウであるが、それでも声を荒げない配慮位はあったようだ。

遺言かと思ったが、それなら親族らしきアイナに頼めばよいだろう。つまりはプロジェクトに関わる大きな問題なのだ。

 

『月で奪われていたコロニーの片側が、こちらに流れてくる可能性がある。万が一を想定して解凍処理に入っているが、その時は42番を閣下に届けて欲しい』

「了解しました」

(これだけ名前がない? どういうことかしら。名前による管理すら問題のある相手なの?)

 コールドスリープしている相手にも、様々な身分の者がいるようだ。

空いている三番目はアマモト教授と書かれ、やはりこの男の物だと推測で来た。

 

45番目のアサクラという男など、ジオンの軍人で虐殺犯とまで書かれている。

それなのに、42番だけ何も書かれてはいない。

 

秘密なのか、それとも中身を見たら一目で判るほどなのだろうか?

あるいは、それすらもアマモトとジャミトフによる策略なのかもしれない。




という訳で、宇宙を漂流している間に状況が動きました。

ジャミトフの依頼でワイアットさんが艦隊を動かし、捜索を兼ねて大規模な観艦式を敢行。
どうみてもデラーズとバスクの戦いを牽制している感じですが、気にしてはいけません。
重要なのはコロニーが予定通りに月に落下したり、間違って地球に向かっても良いように構えています。

●マイッツアー・ロナ
 ブッホ・コンツエルンの重役で、原作では後の戦役を引き起こす予定であった。
しかしデブリ処理をジャミトフが移民のための事業にしてしまったので、代わりのその監督権を得るためにワイアットに接近した。
(なお、微妙に年齢が判らないので、その辺りはボカしています。もしかしたら、父親のシャルンホルストだったり、息子の方が良いかもしれませんが)

●今週のメカ
MS-106X1『エックス・ワン』 → プロメテウスでは『ゼク・アイン』
 潔く新しい技術開発を諦め、旧来の技術を洗練している。
おかげで内部構造だけなら17mで達成し、動力パイプや外装込みで18m。
旧式の延長で弱いように見えるので、一応連邦の許可が出ている。
これを嘲る者と、重量比で強力かもしれない者で見識が判れる。

なお本体はオプションの方であり、内部構造はジャミトフに丸投げ。
代わりに彼の依頼で、様々なオプションパックをテストしている。
高機動の第一種兵装、大型武装の第二種兵装、継戦闘・大規模戦の第三種兵装。
そして今回出てきた、長距離進軍・突撃用の第四種兵装である。

『冷凍施設』
 今は語る時ではない。

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